ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№69 『エンジェルの天界ダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌


 

 

ふわぁ……気持ちいい……。まさかこんな夢が叶うなんて……!

 

 

地上から見えたあの高い高い空は、今や目の前。ううん、ここはその空の中。空飛ぶ種族や魔物ですらほとんどは辿り着けない、まさしく天界の領域。

 

 

ここまで来るのはかなーーーり大変だった! 前日から色々準備して、体調とかも整えて万全の状態で、羽と魔法を組み合わせて挑んだのだから!

 

 

それでも依頼主の方が遣わしてくださった案内役の子達が手助けしてくれてなかったら、多分途中で力尽きて落下していたかもしれない。ダンジョンでもないところでそんなことになったら……想像しただけでも恐ろしい……!

 

 

一応このダンジョン及び依頼主の方々の加護によってそうなっても無事に復活できるみたいだが、幸いそんな危機には陥らずにこうして辿り着くことが出来た。そして、休憩させて頂いているのだけどいるのだけど……ふふふ……!

 

 

頬が緩んでしまうに決まっている! なにせ私が今こうして身を委ねているのは、()()なのだから! 誰もが一度は妄想したことがある、高い高い空に浮かび、きっと寝転んだら気持ちいいだろうなぁ、と思うアレ!

 

 

そう、雲!! 今、私と社長が寝転んでいるのは雲の上なのである! まるで大きな大きな大きなとっても大きなクッションのよう! ふわふわで、もちもちで、沈み込むようで、跳ね返るようで、あったかくて、冷たくて、心地よくて……あふぅ……。

 

 

雲を突き抜けることはないのか……って? それもまた、ここのダンジョンの方々の加護があるから……ぁふぁ……ちょっと、マズいかも……。

 

 

「アストおねむ? ふふ、これ気持ちいいものね。ここまで来るの疲れたろうし、ちょっとお昼寝させて貰いましょうか」

 

 

私の横で、社長もそんなことを……。けど、依頼で来ているのに……。でも……朗らかに降り注ぐ太陽の輝きと、ふわりと抜けていく清風と、身を包む癒しの波動と、どこからか聞こえてくる優しき音楽の前では……。

 

 

「大丈夫よ。だってあの方から誘って来てくださったんだもの。久しぶりに雲で寝てみないか、って。私ももう少し味わってたいし、お言葉に甘えちゃいましょ」

 

 

しゃ、社長がそう仰るなら……。まあ確かに、あの御方が慈愛に満ちた微笑みで私達をここに寝かせてくれたのだけど……。というかそもそも、あの御方と社長が旧知の仲なのはびっくりしたのだけど……。

 

 

「なんだか、とても眠いんです……」

 

 

それよりも、もう瞼が……。社長へまともな返答が出来ないぐらいに眠気が……。

 

 

「――あ。ね、アスト。寝るのは良いんだけど、ちょっと気を付けたほうが良いかもね」

 

 

へ……? どういう……ことですか……? あぁ……言葉が……でない……。なんだか……身体がふわりと浮いている気分に……。

 

 

「アスト~? 連れてかれてる、連れてかれてるってば」

 

 

連れて……かれてる……? よく……意味が……?

 

 

「もう、私は良いわよ。パトラッシュじゃないんだし。あーあーアスト、絵画みたいになっちゃって!」

 

 

パト……? 絵画……? あ、あの……? もしかして、寝ている場合じゃない……? が、頑張って目を開けて……。

 

 

「ふふ、相変わらず悪戯っ子ばかりねぇ。あ、アスト起きた? もう手遅れだけど☆」

 

 

え……へ!? ちょっ!? 私今、どうなって!? さっきまで雲に包まれていたのに!? ふわふわな雲に身を委ねていたのに!!?

 

 

今私、()使()の皆に引っ張り上げられている!!? しかも寝ていた雲が結構下遠くに!! ちょっ……待っ……何を……!? 一斉に手を離し――っ!? 

 

 

「ひゃああああああああっっ!!?!?!?  もぷぅゃあっ!!!?」

 

 

「ふふふっ! エンジェル悪戯名物、昇天雲トランポリンよ。はいはい、皆そこまで。アストを寝かせてあげてって、あら――」

 

 

 

 

 

 

「――おはよ。ぐっすり眠れたかしら?」

 

「ふえ……? え、あ、私寝てしまってました!?」

 

「えぇ。トランポリンで弄ばれた直後、そのまま雲の気持ち良さに負けて即寝してたわ」

 

「嘘ぉ……! 別に叩き起こしてくださっても……」

 

「ふふ、私も寝てたもの。顔から埋まって、宝箱をひっくり返した形でね! 久方ぶりにやったわ、この寝方」

 

 

言うが早いか顔面から雲へもふんと突っ込む社長。宝箱のお尻だけが見えるポーズのそれ、なんだか隠し宝箱みたい。あ、そのままずぶずぶと雲の中へと沈み隠れて……私を挟んだ反対側にぼふんっと出てきた!

 

 

「さ、元気になったところで、お話を伺いに行きましょか!」

 

 

そして背中の()()()()使()()()をぱたぱたさせ、私の腕の中へと。頭の天使の輪っかを輝かせながら。

 

 

と、さっき私に悪戯をしたエンジェルたちも同じ雲の上からふわふわと! どうやら一緒になって寝ていたみたい。さっきの悪戯を謝るようにしながらこっちこっちって。案内してくれるらしい!

 

 

なら私も、自前の羽と天使の羽の()()を羽ばたかせ、角に挟まれる形となっている天使の輪っかを輝かせて! お仕事を始めるとしよう!

 

 

 

 

……へ? いやいやいや、死んでません死んでません。私も社長もしっかり生きてますとも。ここまで飛んできたのは派遣依頼を受けたからだし、さっきの昇天はただの悪戯。

 

 

この小翼と光輪は、この『天界ダンジョン』に棲むエンジェル――天使、キューピッドとも呼ばれる彼らから授かった加護なのである。まず小翼は速度こそ出せないけれどふわふわと飛ぶことができ、このおかげで自前の羽を休めながらここへ来ることが出来たのだ。

 

 

そして光輪には、雲へ触れられるようになり、ある程度自在に操れるようになる力が! さっきまで雲で眠れていたのもこのおかげなのである! 因みに力を籠めることで光らせることもできる。

 

 

ふふっ、それらを身に着けた社長はまさに天使! 可愛らしいという意味で! いや、いつもの白ワンピも相まって本当に天使に見えてしまうかも!

 

 

 

――コホン。説明の続きを。ここ天界ダンジョンは高き空、流れゆく雲の狭間にある特殊なダンジョン。エンジェルたちの聖なる力、癒しの波動に満ちていて、穏やかな陽光に満ち満ちている。

 

 

一面の純白の雲と、天に広がる青空。それを彩るのは、ところどころに自然にかかる虹の橋、清雨の泉や色とりどりの光の花。更にここに棲むエンジェル達手製の、雲を捏ねて作られた無邪気な像。

 

 

まさに楽園、理想郷、平和なるダンジョン。更にこれまた加護で、お腹も喉も満たされたままなのだ。出来ることならこのままここにずっと居て、あちこち飛び回って楽しみたいくらいで――!

 

 

「アスト、ちょっとストップストップ。ほら、皆置いてけぼりよ。もっとゆっくりじゃないと」

 

「え、あっ! すみません、うっかりしてました…!」

 

 

社長に指摘され、慌てて自分の羽を止める。天使の羽だけで浮きながら振り返ってみると、頑張って羽ばたき、こちらに飛んできてくれているエンジェル達が。つい景色に夢中になって、案内役を追い抜かしてしまってた…!

 

 

実はさっきちょっと述べた通り、天使の羽は浮くことこそできれど、スピードは全く出せないのである。まさに『ふわふわ』という言葉が似合うぐらいにしか。羽の枚数が増えれば多少は速くなるようだけど、それでもそこまでは。

 

 

そして――その羽が巡り巡って今回の依頼に深く関係しているのだ。そう、冒険者達の被害に遭ってしまっているのである。

 

 

 

はぁ…もはや呆れるしかないのだが……私ですら訪れるのが一苦労なここへ、冒険者達はあの手この手で侵入。荒らし回っているらしい。なにせ普通であれば到達すらできないダンジョンの素材、どれもこれも取引価格はかなりの高値。

 

 

例えばほら、あそこのエンジェル達が触れてボールにしている雲。あれ、上手く持って帰れば同じサイズの黄金にはなる。そっちの意味でも冒険者達にとって楽園となってしまっている訳で。

 

 

最も心優しいエンジェル達のこと、そういう物であれば寧ろここまでやってきた勇気と努力を称賛し、要らないと言うまでくれるだろう。何分雲は勝手に流れてゆくものだし、他の物も愛ではすれども幾らでも湧き出るものなのだから。

 

 

しかし、冒険者の欲深さはここでも留まることを知らない。雲を始めとする諸々の素材は、価値を維持して持って帰るのが大変。だからそれよりも手軽で確実で高値がつく――『エンジェルの羽根』が毟られてしまっているのである。

 

 

勿論、羽根を毟られたエンジェルは生えそろうまで飛ぶことはできない。その間に今度は頭の輪っかまで割られてしまったら……加護で復活こそできるものの、雲の上から地面へと真っ逆さまに堕天してしまうしかないのだ! 酷すぎる!

 

 

だからこの依頼が舞い込んでくるや否や、私たちは憤慨と共にやってきたのである。しかしどうやら社長はそれだけではないようで…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――着いたわ! ふふ、そう変わってないのね」

 

「おぉ~! 雲の神殿ですか!」

 

 

エンジェル達に連れられ、ふわりふわりとやってきた先。そこにあったのは白い雲で作られた神殿! どうやらダンジョンの中心部のようで、流れゆく雲の中で荘厳に佇んでいる!

 

 

早速中へと入り、あの御方を探して……いや、その必要はなさそう。既に風に乗り、透き通るかのような音楽が。

 

 

その美しき歌に誘われ、神殿の最奥へ。すると檀上には、沢山の天使たちに囲まれ、グランドハープを奏でる大天使が。暖かき後光溢れるその御方は心和らぐ余韻と共に、私達へと慈愛溢るる微笑みを。

 

 

「ぐっすりと眠れましたか、ミミンちゃん、アストちゃん。改めて、今日は来てくださって有難うございます。私共一同、心よりの感謝をお二方へ」

 

 

「いえ、滅相もございませんガブリエラ様! 久しぶりの雲のベッド、気持ち良かったです!」

 

「はい! 至上の幸福、というような心持ちでした! 申し訳ございません、依頼を受けた身でありながら……」

 

 

「ふふ、そう固くならず。どうか、もっと愛する隣人と接するように。あの時のミミンちゃんのように。でなければ私、なんだか寂しいのですよ?」

 

 

自らの身より大きな、雲よりも滑らかで柔らかな六枚羽をふわりと羽ばたかせ、そよ風と共に私達の前へ。そして私達の額に祝福の軽い口づけを…!

 

 

彼女こそ、『ガブリエラ』様。今回の依頼主にしてダンジョンの主、そして社長のお知り合いなのである!

 

 

 

 

 

 

「あぁ、ふふふっ。なんだか懐かしい思い出ばかりが口を衝いて出てしまいそうです。私の願いを聞き届けて来てくださったというのに、面目ありませんね」

 

 

揃って礼を向けるエンジェル達を自由にさせ、殊更に顔を綻ばせるガブリエラ様。社長は私の腕からぱたぱた飛び立ち、彼女の前で胸を張ってみせた。

 

 

「私もですよガブリエラ様! 色々と御世話になりました! ですが思い出の中でじっとはしていませんとも。大分大きくなりましたよ、会社も、身体も! なんて☆」

 

 

「あらあら。えぇ、大きくなっていますとも。私が頼りたくなる会社に、頼り甲斐のある立派な背中にに。なのに、可愛さは変わらないのですから。うふふっ」

 

 

まるで長年の付き合いがある隣人のお姉さんのように、ガブリエラ様は社長の頭を良い子良い子と撫でて。と、次には私の方へ。

 

 

「アストちゃん。その魔力、アスタロト一族の方ですね。ふふ、ミミンちゃんと同じぐらい可愛く、凛々しく、聡明な子。とても素敵なコンビだというのがよくわかりますよ」

 

 

「ガブリエラ様からそのようなお褒めの言葉を授かれるなんて…! 光栄で――ひゃんっ!?」

 

 

「うふふっ、もう貴女と私は友人同士。悪戯して砕けさせちゃいます」

 

 

は、羽で!? ガブリエラ様の大きな天使羽の二枚をふわりと曲げ、私の悪魔羽をくすぐってきた!? ガブリエラ様も悪戯好きなの!?

 

 

「あ! ガブリエラ様ずる~い! 私も私も~!」

 

 

いやなんで社長まで混じって来て――きゃふふふふっ! ふふふふふっちょ、ちょっとっ!

 

 

「えへへ、こうしていると皆してマオを弄っていたことを思い出しますね!」

 

「うふふ、そうですね。マオちゃんもアストちゃんと同じ、いえ、もっとくすぐったがりでした」

 

「あの子、今も変わってませんよ~。あ、因みに大体何年前のことだか覚えてます?」

 

「あれは確か……36万、いえ、1万4000年前のことでしたか。あら? 339年前? 85年前…? いえもしかして明日の出来事……?」

 

「も~全然違いますってば~! 相変わらずですね~」

 

「うぅん、お恥ずかしい。長く生きていますと正確な年月があやふやになってしまいまして。けれど、全て覚えていますとも。くすぐり過ぎてマオちゃんが怒り、この雲神殿を雷で真っ黒にしたことも」

 

「あははっ! ありましたありました! その節は大変なご迷惑を!」

 

「ふふっ、いいえ。雲のように流れゆく歳月の中の、陽光のように朗らかなる思い出ですとも。実はその痕跡、まだ少しだけ残してあるのですよ」

 

「え! ほんとですか! 見たいです!」

 

 

いつの間にか私をくすぐることを止め、盛り上がるガブリエラ様と社長。旧知の仲なのは聞いていたけど、成程。

 

 

「『最強トリオ』時からの御関係でしたか!」

 

「そうなの! このダンジョンを遊び場にさせて頂いててね。ほら、やっぱり雲の上でふわふわぴょんぴょんすやすやできるなんて最高じゃない?」

 

 

それに私でも飛べちゃうし~。と浮いたままの身をふわりと翻してみせる社長。どうやら社長もサキュバスのオルエさんも魔王様も、雲の魅力にはつい惹かれてしまうみたい。なんだか親近感。

 

 

「あ、そうそう。最強トリオのエピソードの中に、ここと関係する話があるわね。わかるかしら?」

 

「え、そうなんですか?」

 

 

私の腕の中へと戻ってきながら、社長はそんなクイズを。えぇと、正直色々ありすぎるから絞るのは難しくて……うーん……。

 

 

「では私から手助けを少しばかり。このダンジョンが何処にあるかを考えて頂ければ、アストちゃんならばきっとわかりますよ」

 

 

悩んでいると、ガブリエラ様がヒントを。この天界ダンジョンが何処にあるのか? それは勿論、雲に包まれた空中に……あ!

 

 

「ひょっとして、『数日のみ顕現せし存在し得ぬ空中浮遊庭園』ですか?」

 

「せいか~いっ! えいっ!」

 

 

わっ社長、天使の輪をピカッと光らせて! まる、ってことっぽい。ということはもしかして……!

 

 

「その浮遊庭園って、もしかしてガブリエラ様方が雲でお作りになった……!」

 

「んー惜しいっ! そっちはちょっとハズレ! えいえいえいっ!」

 

 

ちょっ眩し!? 輪を点滅させて惜しい感ださなくて良いですって! あれでも、良い線いったと思ったのに。存在し得ぬ、だし……。

 

 

「だってそれだと私達のエピソードにはならないじゃない。そもそもその話の庭園、雲製じゃなかったでしょう?」

 

 

あ、確かに。この伝説を簡単に語ると、『突然何処からともなく現れた浮遊する巨大庭園が空へと昇り、降りて来てを数日繰り返した後に忽然と消え去った』というもの。それが雲で出来ていたという話なんて聞いたことが無い。

 

 

魔王様方との酒席では、社長達がそれをやったという話ぐらいしか聞けなかったし。ならば、一体?

 

 

「あの庭園は私達のために用意してくださったのですよ。ふふ、その節はお手間を取らせてしまいましたね」

 

「もうガブリエラ様ったら! 庇っちゃやですよ~。あれは私達のおふざけなんですから! 優しく諭してくださったのに言う事を聞かない悪ガキたちの!」

 

 

やはり懐かしむように笑うお二人。首を捻るしかない私へ、社長はちょっと恥ずかしそうに小さな羽を可愛く動かし、てへっと語り出した。

 

 

「あの話の裏事情を話すとね。空中浮遊庭園って実は――魔王城の一角なの」

 

「……へ!?」

 

「ううん、それだけじゃないわ。グリモワルス(魔界大公爵)の皆さんの庭園、その一部を引っこ抜いて合体させて、ここまで飛ばしたの☆」

 

「えっ!? ええっ!!?」

 

「うんうん、あの時の皆さんみたいな顔してるわね~!」

 

 

そりゃそんな顔にもなりましょう!? 意味が分からないのですけれど!? どういう!?

 

 

 

 

「私が話をしましょう。事の発端は私達の我が儘なのです。アストちゃん、ここに来るまでに雲の像はご覧になられましたか?」

 

 

ガブリエラ様の言葉に、私は目を白黒させながらも頷いてみせる…。幾つも見てきましたとも。それを受け、彼女はちらりと横へ視線をやりながら続きを。

 

 

「私達エンジェルの――特に小さい子達の遊びとして不動の人気なのが、雲で何かを象ることでして。あぁ、丁度あの子達も遊んでおりますね」

 

 

促されガブリエラ様の視線を追うと、神殿の外には雲を捏ねて像を作っているエンジェル達が。宝箱っぽいのを作っているみたい? 社長の事をちらちらと見ながら一生懸命形成している。

 

 

そして、更にその奥では……わっ!?  沢山のエンジェル達がこの神殿に匹敵するサイズの雲で、人っぽいの作ってる! 正直人型ってことぐらいしかわからないけど、二人が向かい合っているような……ん!?

 

 

片方の人?の背には、六枚の天使羽みたいなのが。そして向かい合う方の背には、悪魔羽!? 悪魔羽の方には角や尾みたいなのもあるし、四角い何かを抱えているし……あれもしかして…私達が作られている!?

 

 

「お~大作大作! さあ今回はどこまで――あっ」

 

「ああっ!?」

 

「あらあら」

 

 

直後、三人揃って声を上げてしまった! だってその製作途中な雲像、風に吹かれたようで、一部がもふぁんと崩れてしまったのだもの! 

 

 

ああぁ、天使羽の部分だけ千切れて飛んでってく! わ、今度は私の方の首がもげて! 遠くへと流されて……――。

 

 

「ほらアスト、たまに空を見上げると、何かに妙に似た形の雲が空を流れてたりするでしょ? あれ、エンジェル達の仕業よ」

 

「えっ!? 本当ですか!?」

 

「ふふ、はい。全てが全てではありませんが、エンジェル達があのように大きいものを作ろうとして失敗したり、流されていった結果なのですよ」

 

 

そうだったんだ……! 似ているのに理由があったとは! …流れていった私の顔、何処かの誰かが悪魔族っぽいって思ってくれるかな。なんて。

 

 

それはともかく。あの巨大像で改めて認識したけれど、この神殿も雲製。ならばここも、エンジェル達により作られたものなはずである。

 

 

頑張ればここまでの美麗で荘厳な建物を作り出せるのだ。そして、あれだけ大きなものにも挑むチャレンジ精神。つまり、事の真相、エンジェル達の我が儘とは――!

 

 

一つ推察にたどり着きガブリエラ様の顔を窺うと、彼女微笑みと共に答え合わせをしてくださった!

 

 

「当時、ミミンちゃん達から地上のお話を聞いた皆は、ここにも綺麗な庭園を造って見ようと考えたのです。しかし、それほどの規模となるとやはりお手本がないと難しいものでして」

 

 

「ということで、私達がお手本をここまで運んできたの! 色んな庭園から綺麗どこを集めて、合体させた『存在し得ぬ空中浮遊庭園』にしてね!」

 

 

 

 

 

 

「……色々ツッコミたいので、順番にいきますね。お手本の規模がおかしくないですか!?」

 

「だって~。生半可なものじゃ面白くないじゃない? 折角みんなで作るんだもの!」

 

 

……まあそれは…確かにあるけれど。雲で大きなものを作ることが出来るなら、そして実際に出来るなんて楽しいに決まっているし! …いや、落ち着いて私。次は――。

 

 

「どうやって持ってきたんですか!?」

 

「そりゃ三人で協力して、よ! まあでも、ほぼマオの力ね。集めた庭園をくっつけて、飛ばして、終わったら分解して元に戻して。そも、マオがいなかったらここに遊びにすら来れなかったわねぇ」

 

 

私は飛べないしオルエもそっちには長けてないから、と語る社長。最近は皆忙しくなっちゃったからここにも滅多に来れなくてね~、としみじみとも。それならば今後は私が……いやいや、だからそうじゃなくて!

 

 

「どうやって色んなとこから…! グリモワルスの庭園を…!?」

 

「それの実行犯はほとんど私とオルエね! ほら、マオは怖がり、もとい良い子だもの。だからオルエが衛兵とか召使の人達を幻惑して、その間に私が庭園をくり抜いて、箱に頑張って仕舞いこんで逃げたわね~」

 

 

えっ、さらっととんでもない事言わなかった!? 庭園を、箱に!? そ、それも気になるけれど個人的には……!

 

 

「じゃあ、もしかしてうちにも……!?」

 

「えぇ、当時からアスタロト様の庭園は綺麗だったもの! 本当は全部そこで済ませても良かったのだけど、流石にね。良いトコだけ借りちゃった☆」

 

「ど、どこを……!?」

 

「うーん、それはわからないわ。この間アストに案内してもらって初めて知ったのだけど、あの庭園、全く別物になっているのよ。少なくともあの時に見たとこには無かったわね」

 

 

そうなんだ……。でも……少し、ほっとした。だってこの間の庭園紹介、無駄骨だったのかもって不安になってしまったのだもの。私一人で盛り上がってたのかもしれない、って……。

 

 

「もう、アストったら! あの時間、とーーっても楽しかったわよ! 人形に隠れて抱かれながら、懐かしくも新鮮な庭園を、大好きなアストの思い出と共に巡る――。最高の時間だったに決まってるじゃない!」

 

 

……ふふ。また、そうやって。コホン! 話を戻してと。

 

 

「空中浮遊庭園の顕現、なんで数日だけだったんですか?」

 

「いや、流石に先代様方に怒られちゃって。目立ち過ぎだし、完璧に直せるとはいえ勝手に庭園盗んだし。だからその後は私の箱の中に隠して持ってったりオルエの幻覚魔法で代用してで、雲庭園を完成させたわ!」

 

 

うぅん、超シンプルな理由。蓋を開けてみればとてつもなく単純で、やはりスケールが桁違いな伝説の真相だった。しかし――。

 

 

「アストちゃん、どうか笑ってくださると幸いです。これらは懐かしき良き思い出なのですから」

 

 

ガブリエラ様。えぇ、勿論! 私の生まれる前の話だし、先代魔王様方がお叱りになられたのであれば私から言えることなんてない。ただ、ちょっと残念なのである。

 

 

「その雲庭園について、社長が今の今まで何も言及をなされていなかったということは――」

 

「えぇ。壊しちゃったのよ。すんごいのを作り上げたんだけど、それで皆興奮しちゃってね。ここ(雲神殿)みたいな保存ができる前に遊びに使って、バラバラにね」

 

 

作る過程が一番の目的だったとはいえ、今となってはちょっと勿体ない事したわ。と肩を竦めてみせる社長。私に一目見せてあげたかったというように――。

 

 

「うふふっ。ミミンちゃん、アストちゃん。実はその雲庭園、新しく作り直してあるのですよ」

 

 

 

 

 

 

 

「えええっ!? 本当ですか!?」

 

「嘘ぉっ!? ガブリエラ様いつの間に!?」

 

 

突然のガブリエラ様の一言に、私、それ以上に社長が驚愕の叫びを! 一方のガブリエラ様はまるで悪戯っ子のような微笑みで!

 

 

「本当ですよ。嘘なんて申しませんとも。あの時作り上げましたものに比肩する出来栄えと、胸を張って言えましょう」

 

「で、ですがどうやって!? いえ、エンジェルの皆の腕を疑っている訳じゃないんですけど、もうかなり昔の話なのに!」

 

 

困惑する社長。それをガブリエラ様は楽しそうに眺めながら、種明かしを。

 

 

「私は細部まで覚えておりますから。しかしそれを他の子達に伝えることはできませんので、一人で懐かしむしかありませんでした。――しかし、不意に遊びにいらしたあの子が面白い提案をしてくださいまして」

 

「あの子?」

「提案ですか?」

 

「ええ。ふふっ。私の思い浮かべた記憶の景色を読み取り、幻覚魔法として皆へ付与するというあの子の得意技を」

 

 

「「っッ!!!」」

 

「そ、それってまさかもしかして!?」

「もしかしないわよ! 絶対それ――」

 

 

「オルエ(さん)!!?」

 

 

「ご明察ですよ、お二人とも。ふふふっ!」

 

 

 

 

 

「あれは今から――えぇと、少し前のこととなります。久しぶりにオルエちゃんが、しかもお一人でここを訪ねて来てくださったのですよ。マオちゃんから力をお借りしてきたみたいでして」

 

 

成程、魔王様から強化して貰って来たようで。そこで昔話に花を咲かし、流れでそんな提案、実行をしたのだろう。けど、気になるのが――。

 

 

「オルエに変な事されてませんよね!?」

 

 

ちょっ、社長!? 長年の友人なのに! そんな心配しなくても、オルエさんだから……うん……まあ……。サキュバスだから……その……――。

 

 

「堕天を唆されたりされてませんか!?」

 

 

つい私も社長と同じく迫り寄ってしまう! けれどガブリエラ様はまるでかつての最強トリオの掛け合いを見たかのような表情を。

 

 

「あらあらまあまあ。ふふ、えぇ。あの子が案外分別を弁えていることはご存知の通りですとも。どうか今回も信頼してあげてくださいね」

 

 

なら良いけど……オルエさんはそういう方だし間違いないだろうけど……。まあそれはいいとして、やはり気になるのが彼女の来訪理由である。ただ歓談しにきたとか?

 

 

「うふふっ。優しい子ですもの、そうだと仰ってくださいました。それと、私達の羽根を差し上げると喜んでくださいましたね」

 

 

成程、そういう目的もあったらしい。けど、オルエさんのこと。売り捌く訳ないだろうし、何故エンジェルの羽根を――。

 

 

「ガブリエラ様の羽根でなんてことしてんのよあいつ…!!!」

 

 

へ? 社長が険しい顔を……あ。い、いやいや……何もそういう用途に使うとは限らないし……オルエさんとはいえ……サキュバスクイーンとはいえ……淫間ダンジョンの主とはいえ……えと……。

 

 

「ふふ、羽根の使い道は彼女の自由にしていただきまして。雲庭園、ご覧になりませんか?」

 

 

「「是非!!」」

 

 

 

 

 

 

 

「わー!! 本当に雲の庭園が!!」

 

「おー!! 本当に再現されてる!!」

 

 

ということで雲神殿から、少し離れたところにある雲の庭園に! 凄い凄い! 石畳の道やアーチ、階段やコテージが煉瓦のように固められた雲で作り上げられている!

 

 

でもそれでいてどこか柔らかく見え、ううん、実際に触れてみると本当に柔らかいんだから不思議な感覚! 転んでもぶつかっても怪我する心配なんてなし!

 

 

そして木々もまた、雲! あの遠くから見た時のモサモサ感を見事雲のモフモフ感で見事再現しているのだ! 丸いのも尖っているのも実が成っているようなのも!

 

 

でも葉の色は白? ふふ、ご安心あれ! 虹の欠片や聖なる光が仕込まれているのだろう、緑や赤の単色ではないが、美しく優しく輝いている!

 

 

そしてやはり、至る所に色とりどりの光の花が咲き誇って! 地上の花畑よりも美しいかも! 更には清雨の噴水や虹の風、雲の彫像に小さな羽を揺らし揺蕩うエンジェル達などなど!

 

 

こんな素晴らしい庭園を社長達は昔に作っていたなんて! ふふっ、確かに壊してしまったのは勿体なかったと思う!

 

 

「なっっつかしいわね~! あっちはレオナール様のとこのでしょ? そんで向こうのは確かエスモデウス様のとこの! その奥のとこのは魔王城のね!」

 

 

社長も一か所一か所指さしながら、まるで子供のようにはしゃいで! あ、そうだ!

 

 

「社長、ということは何処かに私の家の庭園が……!」

 

「えぇ! この感じならきっとあるわ! えっと、ここがそこだから、確か…あっち!」

 

 

やった! 早速示された方向へと飛んで! ふふ、私の知らない、かつての我が家の庭園。一体どんな――えっ…!

 

 

「うん! ここよここ! 間違いないわこの泉! あら? アストどしたの?」

 

 

「ここ……今もあります…! というより……私が小さい頃、よく遊んでいたとこです!」

 

 

雲だから色は違うけど、絶対にそう! この見た目、この泉、そしてかかっているハンモック! 以前社長に口だけで説明した、私のお気に入りの場所の一つである!

 

 

「あぁ、妖精と一緒に読書してたって場所! へ~! まだ残ってたのね! ね、今度アスタロト家にお邪魔する時は……」

 

「えぇ! ご案内します!」

 

 

まさか私のお気に入りの場所が、社長も『良いトコ』と気に入ってくれた場所だったなんて! ちょっと感動してしまっていると、少し遅れて到着なされたガブリエラ様が。

 

 

「ふふふっ。ここはゆっくりと羽を休めるのに最適な場所ですし、丁度良いかもしれませんね。ここで少しばかりお話でも如何ですか?」

 

 

是非とも! 子供の頃の社長の話とかを……っと、コホン。違う違う。危うく目的を忘れる所だった。依頼の話をしなければ! じゃあ、早速――。

 

 

 

 

 

 

 

「――えぇ、丁度その時でした。ミミンちゃんが雲を沢山箱に吸い込んで来てくださったのです。おかげで巨竜の像作りは一気に進む……と思いきや、想定外の出来事が起きてしまったのですよ」

 

「そ、それは一体!?」

 

「うふふっ。宜しいですか、ミミンちゃん?」

 

「いや~あの時はやらかしましたね~! ほら、この頭の輪っかのおかげで触れた雲の質感とかちょっと操れるじゃない? それで、箱から出す時によかれと思って硬めにしたのよ。そしたら……」

 

「そしたら……!?」

 

「そんな固めた雲をぼぼぼぼぼっ!って一気に噴き出させ過ぎちゃって! マオやオルエ、エンジェルの皆だけじゃなく、折角完成間近だった巨竜像までを巻き込んでえらい勢いで押し流しちゃったのよ!」

 

「あー!」

 

「そんで私は私で反対方向に吹っ飛んじゃってね。ガブリエラ様が助けてくださらなかったらどこまでいってたことやら!」

 

「ふふ、あの光景はびっくりしてしまいました。でも、そのおかげで巨竜の像が一層楽しいものになったのですよ」

 

「と言いますと?」

 

「皆、私のそれが竜が火を噴くみたいに見えたんだって。だから巨竜像の口に私が入って、雲をばーっと吐き出して皆を押し流すアトラクションになったのよ。像が切れ切れになるまで遊んだわねぇ」

 

「お~! 面白そうですね! 雲に包まれ流されるなんて…!」

 

「なら後でやってあげるわ! エンジェル達も呼んでね」

 

「ふふ、有難うございますミミンちゃん。皆喜んでくれることでしょう」

 

「いえいえ! そうだ、もし今の子達も気に入ってくれるなら派遣する子達にもやって貰いま……あ。」

 

「あっ!?」

 

 

し、しまった…! 結局、思い出話に夢中になっちゃっていた! 喉もお腹も常に満たされる聖なる輝きの中だからか、つい……。社長も頬を掻きながら、ようやく依頼の話へ。

 

 

「あはは。まだまだ話し足りませんし、すべきことを先に済ませてしまいましょう! ガブリエラ様、依頼の仔細をお伺いしても?」

 

 

「あらあらそうでした。御足労頂いた理由を失念しておりましたね。えぇ、お伝えいたしました通り、冒険者への対処なのですが――おや?」

 

 

 

改めて事情を語ってくださろうとするガブリエラ様……だったのだが、急に六枚の羽を全てピクリと。あれ、凄く遠くから何か聞こえた気が?

 

 

「今の、天使のラッパの音ですよね。緊急を伝える。もしや――」

 

 

社長は音の正体をしっかり聞きわけたらしい。険しい顔でガブリエラ様にそう問うと、彼女はこくりと頷いた。

 

 

「えぇ。きっと冒険者の方々でしょう。ごめんなさい、少し席を外しますね」

 

「いえ、同行させてください! いくわよ、アスト!」

 

「はい! ガブリエラ様、お任せください!」

 

 

私も立ち上がり、悪魔羽と天使羽を羽ばたかせて! もしそうであれば私達がのんびり待っている訳にはいかないのだから! 社長を抱え、音の方向へ全速力でっ!

 

 

 

 

 

 

 

「――見えました!」

 

 

やっぱり戦いになっているみたい! 元々そこにいた、あるいはラッパの音で駆け付けたエンジェル達が沢山浮き、光から弓矢や杖を生成し、戦闘態勢を!

 

 

しかし肝心の冒険者達の姿がよく……わっ!? 雲の中から勢いよく飛び出して来て、自由自在に空を翔けている!? その素早さはかなりのもので、エンジェル達の矢や魔法の攻撃が当たっていない!

 

 

いやというより……エンジェル達の攻撃はそんな強くないというか…。争いをする種族じゃないからだろう、矢も山なりな感じで、光弾も雷撃も的外れ気味。加えて、その飛ぶ遅さ。

 

 

繰り返してしまうが、天使の羽は速度を出せない。だからこそ、空を飛ぶ装備や魔法を身に着け縦横無尽に動く冒険者には手も足も出ないのだ。そうこうしているうちに冒険者達は近くの雲に隠れて姿を消してしまった。隙を突いて再攻撃を仕掛けてくる気だろう。

 

 

「アスト! やって!」

「はい! えいっ!」

 

 

そうはさせない! 私は急ブレーキをかけつつ、作戦通りに社長を撃ちだす! 強弓から放たれた矢の如く飛び出した社長は雲へと乗り――!

 

 

「さー! 『ヤラレチャッタ!』にしてあげるわッ!」

 

 

そのまま雲の上をスキーのようにサーフィンのように滑りつつ、中に潜んでいたらしい冒険者をスポンッと引き抜き捕えて! かと思えば間髪入れず跳ね上がり、空中を蹴る技と天使羽を駆使し高機動、丁度飛び出してきた冒険者をバクッと!

 

 

子供の頃から遊び場にしていたからなのだろう、とんでもなく手慣れている! 空飛ぶ宝箱がギュンギュン暴れ回るシュール極まりない状況に、冒険者サイドは総崩れ。私も急いで参戦を――。

 

 

「アストはそこでガブリエラ様達を守ってて~っ! こっちは全部任せて頂戴な~っ!」

 

 

と思ったら、遠くで駆け回る社長からそんな指示が。丁度ガブリエラ様も到着なされたし、彼女やエンジェル達を守るように分身体を召喚。警護や避難誘導を。

 

 

「とーう! 剛腕ダッシュアッパー!」

 

「「「ぐへあっ!!?」」」

 

 

まあもうそんな必要もなさそう。逃げ惑う冒険者達が実に軽快に吹き飛ばされ、そのままダンジョンから勢いよく落下させられている。復活の加護があるから死なないだろうけど。

 

 

「お~いっ! アスト~っ!」

 

「へ、あれ、いつの間に?」

 

 

ダンジョンから消えてゆく冒険者達を眺めていたら、いつの間にか社長が少し離れた雲の上にちょこんと。そして妙なお願いを。

 

 

「私に雷の魔法付与できる~っ?」

 

「雷ですか? はーい!」

 

 

頼まれるままに付与すると、社長はニンマリ笑い、雲の中へと。そして……えっ、社長入り雲が風に逆らって動いてる!? そして――。

 

 

「見せてあげましょう! ミミックの(いかづち)を!」

 

「「「ぎゃあああああっ!!?!?!?」」」

 

 

雷を落としたっ!! それによって落下地点に潜んでいた冒険者達が一網打尽に! あぁ、真っ黒になって落ちていく。

 

 

「まあ、懐かしい技ですね。マオちゃんと協力してよく放ってくださってました」

 

 

驚いていると、ガブリエラ様がそんなことを。あれ、昔から使っている技だったんだ。そして、雲も箱判定になるんだ……。あっとそうだ、えぇと、うん!

 

 

「索敵をしてみましたが、今ので最後だったようですガブリエラ様!」

 

「3分クッキング完了でーす!」

 

 

社長も雲入りのまま、私達の元へ。ガブリエラ様は手を合わせてお喜びに。

 

 

「あぁ、お二人とも有難うございます! 最近、あのように素早く動かれる方々が多く訪れるようになりまして、私達では対処が難しいのです……」

 

 

恐らく、ここへの侵入方法や戦法がある程度確立してしまったのだろう。加えて、一獲千金を狙えるとはいえこのダンジョンを選ぶという冒険者は皆それだけの自信や腕を持つ手練ればかり。

 

 

そんな相手と平穏に暮らすエンジェル達では結果は明白。えぇ、ならばミミックが退治を請け負いましょう! ……ただ、ちょっとだけ問題がある気が。

 

 

「社長、雲を活用できるのはかなりのアドバンテージとなりますが、移動に関してが少々…?」

 

「お、流石アストよく気づいたわね。そうなの、そこがネックなのよね」

 

 

肯く社長。やっぱり。雲に隠れエンジェル達を翻弄する冒険者相手に、ミミックも雲に隠れて対抗するのはとても有用な戦法。上手く誘導すれば罠になるし、これだけ雲があればそれに紛れ近づくことだってできる。

 

 

ただし……空中を移動するにはエンジェルの羽に頼るしかない。けれど、冒険者達はエンジェルの羽ではおいそれと追えない速度を誇っているのだ。もし変に気づかれてしまえば普通のダンジョンでのようなリカバリーは効かないだろう。

 

 

勿論社長みたいな空中機動が出来れば別だけど、あれが可能なミミックは極少数。それに、ずっと雲に隠れている訳にもいかない。ダンジョン外まで流されてしまうもの。状況を見て雲を移る必要がある。

 

 

というかそもそも狙われやすいのはエンジェル達自身。雲に隠れるよりも傍で警護する方が、欲を言えばそのどちらにでも転べる形でミミックを配置したいところなのだが……。うーん。あ。

 

 

「そういえば社長、さっきのお話。雲を沢山持ってきたお話ですけれど」

 

「えぇ、巨竜像作りのね。お、何か名案が思い浮かんだのかしら?」

 

「名案かどうかはわかりませんが、えっと。雲を一気に集めてくるのって、エンジェルの皆さんは出来るんですか?」

 

「ううん。私の知っている限りじゃ難しいみたいだけど。ガブリエラ様はご存知ですか?」

 

「いえ、ミミンちゃんの仰る通りです。大きな雲は皆で運んでおりますね。重さはありませんが、千切れてしまいますから。ですので、ミミンちゃんの力は皆羨ましがっておりましたよ」

 

 

クスクスと笑うガブリエラ様。やった、なら!

 

 

「ちょっとエンジェルの負担となってしまいますが、身を守ることができて、且つ喜ばれる方法を思いつきました。えっとですね――」

 

 

 

 

「――という方法なのですが」

 

「お~良いわね! 如何ですかガブリエラ様?」

 

「えぇ、とても素敵です! 寧ろ取り合いになってしまうかもしれませんね、ふふっ」

 

 

ガブリエラ様に続き、近くで聞いていたエンジェルの子達も目を輝かせて! よかった、気に入ってくださった!

 

 

これでエンジェルの身辺警護に関してはとりあえず良いとして。あとは隠れる雲への移動方法も。何か……。

 

 

「それなら私にちょっと考えがあるわ! 今のアストの策に、さっきの戦闘開始の時のことを組み合わせて!」

 

 

へ? 戦闘開始の? 私が社長を魔法で撃ちだした、あれ? 首を捻っていると、社長は近くのエンジェルへ手招きをしながら。

 

 

「確か皆なら出来たはずだけど、試してもらいましょう! まず、ね――それで私が――」

 

 

 

 

 

「――うん! 良い感じじゃない!」

 

「ですね! 挟撃にぴったりです!」

 

「あらあらまあまあ、こんなことまでできてしまうなんて! びっくりが止まりませんね、うふふっ」

 

 

少し離れた雲から顔を出した社長に、私もガブリエラ様方も賛同を。これで策の幅は大きく広がった! そこへ更に色々と案を加えて――。

 

 

「これで契約完了となりますガブリエラ様! すぐに私達が手塩にかけて育て上げたミミック達を派遣させていただきますね!」

 

 

サインを頂き、契約書は完成! ……なのだけど、その。

 

 

「社長、本当に宜しいのですか? 派遣料金が無料で――何も頂かなくて?」

 

「えぇ、そうよ! 前からそう決めてたの!」

 

 

なんと社長、何故かお代を頂かないと断言したのだ。今回は専用の箱の制作もあるし、派遣人数を普通よりも多くするとも言っていたのに。社長の意向であれば私は従うまでだけど、何でなのだろう?

 

 

「私達の羽根でしたら幾らでも良いのですよ? 前のように」

 

 

ガブリエラ様も心配そうに……ん? 前のように? それは――。

 

 

「…実はね、アスト。うちの会社があるのは、ガブリエラ様のおかげなの」

 

 

 

 

「えっ、どういうことですか?」

 

「前に話したかもしれないけど、私は会社を興すにあたってマオ達やグリモワルスの方々に手伝いや教育を受けたとはいえ、大きくは頼らなかったの。迷惑はかけられないからって」

 

 

確かに社長、そう仰っていた。けど、それとガブリエラ様との御関係とは…?

 

 

「当たり前だけど、そういうことをするには元手が必須。特に派遣業という皮を被りミミックのためのダンジョン仲介役という責を果たすためには猶の事大金が必要でね。だから最初の頃なんて常に火の車だったわ」

 

 

成程確かに。我が社の本当の目的のため、ミミック達の棲み処探しのためには客を選ばなければならない。そうなるとやはり、会社としては立ちいかなくなることもある訳で。

 

 

今でこそ安定しているものの、知名度も何もない最初期なんてそうなって当然。かといってその初志を曲げるわけにはいかず、苦労なされたのであろう。と、社長はそこで――。

 

 

「けど、そこに救いの手を、いえ羽根を差し出してくださったのがガブリエラ様なのよ!」

 

 

ガブリエラ様を湛えるように。羽根を差し出す……ということはもしかして!

 

 

「あの時、気晴らしにとオルエ達に誘われてガブリエラ様の元を訪れたの。そこで私、つい苦しい経営状況を愚痴っちゃったのよ。そしたらね……」

 

 

その社長の回想でガブリエラ様もお気づきになったのだろう。少し照れくさそうに六枚羽を揺らしてしまっている。そして社長はその羽を指し示し――。

 

 

「ガブリエラ様は自らの六枚の翼の羽根を一枚残らず引き抜いて、全て私にくださったの! 売って資金の足しにしてって! まさに『エンジェル投資家』になってくださったのよ!」

 

 

そんなことがあったとは…! 大天使ガブリエラの羽根なんて一枚で目玉の飛び出る価格になる。それを全部って、何年分の…いや何十年分の予算になったことやら。

 

 

「だから私は、そのお礼をしなければならない。投資の見返りを支払わなければいけない。――ううん、そうしたいんです。大恩あるガブリエラ様に恩返しさせて頂きたいんです!」

 

 

これぐらいしかできませんが、どうか受け取ってください! そう改めてガブリエラ様に向き直り、深く頭を下げる社長。そして彼女が口を開く前に――。

 

 

「さて! 一難去ったことだし、契約を結べたことだし! 遊びまくりましょう! 皆、ついて来て! でっかい竜の像作りましょー!」

 

 

有無を言わせないためか、照れ隠しのためか、社長はエンジェル達と共に遠くの大きな雲へと走っていってしまった。後に残ったのはガブリエラ様と私だけ。と、ガブリエラ様はほうと息を吐いて。

 

 

「気にされなくても構いませんのに。私はミミンちゃんがあの可愛らしい笑顔でいてくれるだけで」

 

 

「ガブリエラ様、私からもどうか。社長の想いを受け取ってくださると幸いです。派遣予定の皆は、社長選りすぐりの腕の良く優しい子達。絶対にご期待に沿う働きをしてみせます!」

 

 

「アストちゃんまでそう仰るのであれば、えぇ、ふふっ。有難くお力をお借りいたしましょう。あぁ、私は幸せ者ですね」

 

 

感極まってくださるガブリエラ様。いいえ、幸せ者にしてくださったのはガブリエラ様ですとも。社長を。そして私を。あの会社が無ければ、私は社長とは――。

 

 

「…ですがやはり、何もお返しできないのは寂しいものです。何か受け取ってくださいませんか?」

 

「え。いえいえ! そのお気持ちだけで充分です!」

 

「まあそう仰らず。受け取りにくいのであれば、そうですね。オルエちゃん経由で届けて頂くというのは如何でしょう?」

 

「いやそれは……!」

 

 

急なご提案にちょっとたじろいでしまう…! とりあえず、オルエさん経由なのはなんだか色々マズい気がする! 上手く誤魔化して有耶無耶にしたいところだけど……。

 

 

「ほらアスト~っ! こっちきて手伝って~っ!」

 

 

焦っていたら遠くから社長の声が。あぁ、そうだ!

 

 

「ではガブリエラ様、遊ぶ私達を見守ってくださいませんか? きっと、お聞きした思い出のようにやらかしてしまうかもしれませんから」

 

 

「まあ! うふふっ! アストちゃんたら、優しい子なのですから。 えぇ、引き受けましょう。さあ、お手を。共にミミンちゃんの元へ!」

 

 

ガブリエラ様に手を引かれ、雲の上をふわりと。遠くで呼ぶ、社長とエンジェル達の元へ。ふふっ、まるで私達、絵画みたい!

 

 

 

 

 

 

 

…………因みに、後日談になるのだが…。残念ながら私の誤魔化しでは有耶無耶にならなかったようで、ガブリエラ様は我が社にエンジェルの羽根の詰め合わせを届けてくださった。それが、その……オルエさん経由で。

 

 

それで……まあうん……嫌な予感はしていたのだけど…オルエさん、その一部を改造してきたのだ。羽根を組み合わせて、エンジェルのブラ、とかにして……。他にも、その……色々。

 

 

無論オルエさん、思いっきし社長に詰められる羽目に。ただ……折角だからと言いくるめられて、私、羽根製ブラを一度つけることになって……それが、この世のものじゃないぐらい柔らかく心地よく包んでくれる、誇張無しでの最高級品で……。

 

 

……なんか、ガブリエラ様に顔向けできない気がするぅ……。

 

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