ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№70 『レオナールのコンサートダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌①


 

「わっ…!」

 

思わず、息を呑んでしまう。今しがたまで日に晒されているかのように明るく騒がしかったこの場が一転した様子に。星無き夜のように暗く、微かな呼吸すらも憚られるほどに静まり返った様に。

 

 

始まる――。手探りな闇の中、隣にいる社長と目配せを。きっと、私達だけじゃない。ここに集う人魔問わない皆の心の内は、そのたった一言で埋まっていることだろう。

 

 

もうか、まだか、すぐか。数秒が永久に感じる中、その期待に応えるように――今!

 

 

「「「みんなーぁ! 『waRos(ウォーソ),feat.N』のライブに来てくれてありがとーうっ♪」」」

 

 

来た! 突如として眩く照らされたステージ上に、彼女達は姿を現す! 刹那、降り注ぐ灯りは巨鳥の虹翼の如く羽ばたき全てを眺望し、煌びやかに色彩豊かに私達の、皆の、彼女達の集中を端から搔き集めて再度一点に! 

 

 

「早速、いってみよーっ★」

 

「ついてきなさいよっ!」

 

「一曲目はこれよ。『Swordy Hearty,Bravely』!」

 

 

高らかなる宣言と共に、地を空を揺らすは重低音! 一瞬、その全身に叩きつけられる勢いに押し倒されそうになってしまうが……それを許さず、手を取り引っ張り上げてくれるのは――!

 

 

「さあ♪ 剣を抜け♪ 君だけの♪伝説の(つるぎ)を♪」

 

「心に刺さる♪ 願いと想いを♪ 勇気の証にーーッ♪」

 

 

彼女達の軽やかながら、響く歌声っ! 更に激しくもテンポの良いリズムが、つい口ずさみたくなるメロディラインが、衣装を見目よく揺らすダンスが、私達の心を湧き立たせる!!

 

 

ふふっ、これは私だけじゃない。ここに集う全員がそう! 僅か数十秒足らずで場は熱狂の渦、色とりどりのライト…サイリウムが満開の光の花畑のように輝いているのだから!

 

 

けれど、ステージの煌めきはそれを容易く凌ぐ! 薄く撒かれたスモークを、幾筋もの光線が上下より包み込む! 時には幾多の細い光線が柱を形成する神殿の如く、時には光線で形成された結晶に閉じ込めるように!

 

 

更に放たれているシャボン玉は未だ暗き隙間を虹で染め上げ、曲の盛り上がりに合わせ刹那的に明滅するライトはこちらの鼓動を跳ね上げさせてくるのである!!

 

 

そのせいだろうか私、おかしなことに椅子からほぼ動いていない……つい立ってしまってはいるけど、それだけだというのに汗が……! 肌がゾクゾクと震える度に……!

 

 

そう不意に気づくとなんだか恥ずかしくなり、ちょっと目をステージから離してしまう――けれど、逃げ場なんてなかった! だってそこには、ステージ奥や上部には、超巨大な魔導画面が!

 

 

それに映し出されているのは勿論、今私が視線を外したはずの、ステージ上で歌い踊る彼女達! その表情は歌に全霊を注ぎ込んでいるのがわかるぐらい真剣そのもので、誰よりも迸る汗は輝きと共に弾けていて……! 

 

 

その光景に見惚れながら、自らの小胆さを内省していると――彼女達はふとこちらに気づいたように、誇らしげで勇ましく、謳歌を共にしようと誘う笑みで、私の胸を射抜くウインクを――っ!

 

 

「Aa-h! 混乱毒麻痺眩暈呪い♪ Temptation斬り払え♪」

「未踏未知を相手取り♪ 怖気ず握り直すんだ♪」

 

「「剣を♪心を♪ 勇気を掲げろッ♪ Swordy Hearty,Bravely♪♪」

 

 

 

もう…っ! そんなことをされてしまったら…僅かに冷えかけた熱が、一気に沸騰してしまうに決まっている!! さっきまでの尻込みは、気にしていた汗と共に霧散しちゃう!

 

 

あぁ、なんだろうこの感覚…! これだけ歌声が響き渡っているのに、音楽が轟いているのに、胸の中に生まれたこの変わった感じは……! まるで無音のような――。

 

 

ううん、その表現はそれこそ私の胸の、心の外側を撫でているだけ。無音なんかじゃない。開幕の暗闇とは全く違うのだから。これは……言うなれば――『一体化』していく感覚!

 

 

そう! 一体化してしまっているのだ! この場を包む興奮と、リズムとメロディとダンスと、彼女達の熱い吐息と! それらは肌へ肉へ、骨へ血へと吹き込まれ、染み入り、溶かし蕩かし、泡立つほどに攪拌し、私を新しく作り替えた!

 

 

これは過言なんかじゃない。まさにこの瞬間こそが、私自身を構成する全てとなってしまっている! 私が、この場の大切なパーツとなってしまっている! だからこそ一瞬無音と感じるほどに、()()()()()()()()()()んだ!

 

 

まるでこれこそが自分自身、生き様なのだと揺さぶるように! この絶景が理想でありながら、これが普通であると豪語するように! この一時が特別でありながら、未来永劫変わらないと思えてしまうように!

 

 

凄い……凄い凄い! これが、『アイドル』っ! 誰も彼も虜にしていく、誰もが目を奪われていく偶像たる存在…っ!

 

 

 

これが…これが、『コンサートダンジョン』の、アイドル達なんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

「ふうっ! 良いわね良いわね皆! でも、ここまでアッツアツ続きだったし、ここいらでクールダウンが必要じゃない? ねえ?」

 

「うふふ、そうね。なら、次はあの曲を少しレイジー気味に歌いましょうか。『ワタシの愛は迷宮(ダンジョン)モヨウ』」

 

 

演出を、演奏を、踊りを、衣装を目まぐるしく変え、早くも幾曲目。次の曲は少し落ち着いた雰囲気の……わっ!? こ、これ一件静かな感じに見えて…なんというか、その、遅効の毒が含まれているような……! ジワジワと蝕んで、虜にさせてくるような…!

 

 

これもできれば集中して聞いていたい……! けれど、昂っているこの感情をお伝えしたい! そう思い立ち、マナー違反は承知で、声を潜めつつ斜め後ろに座っている方へと。

 

 

「彼女達、とっても素敵ですね! 可愛くて、綺麗で、格好良くて、まるで宝石…ううん、それ以上で! ファンになっちゃいました!」

 

「フフッ、なんとも嬉しいお言葉を有難うございます。プロデューサー冥利に尽きます」

 

 

そう想いを伝えると、彼は実に嬉しそうに深い一礼を。と、触手で大量のサイリウムを振っていた社長も私に続いて。

 

 

「あそこまで彼女達を磨き上げられるなんて、さっすがプロデューサーさんですね~!」

 

「いえ。私のプロデュースなぞ彼女達の努力や、あの方の前には。…なんて謙遜しすぎるのは、またあの子達に叱られてしまいそうですね」

 

 

首を掻いて照れ隠しをしつつ、ステージ上のアイドル二人を誇らしげに見やる彼。『プロデューサー』という役職名で、アイドル達のマネージャーをしている方である。このコンサートダンジョンではそう呼ぶのが通例らしい。まあ私も秘書の名で経理等やってるし。

 

 

そしてこのコンサートダンジョンだが、ヴァルキリーの競技場ダンジョンやグリモア様の図書館ダンジョンとかのような招客型のダンジョンなのだ。だから、敷地内の各所には色んな会場がある。

 

 

勿論それらはコンサートに最適な会場ばかり。室内野外狭い広いも多種多様で、ステージを見つめられるように沢山の席が並んでいる。私達がいるここのように、階上から見下ろせる形の関係者席すらも。

 

 

あ、そういえばプロデューサーさんの名前聞いていなかった。私としたことが。他にもプロデューサーさんは何人もいるらしいし、今のうちに……。

 

 

……終わってからでいいか! 今はこの曲を、ううん、このコンサートを堪能させていただこう!

 

 

 

 

 

 

「そんじゃクールダウンできたとこで、今日のライブメンバー紹介といくわよ! まずはギターの――」

 

 

うーん、これも良い曲だった…! まだ胸の奥がズクズクいう毒感がとても効く…! 今日の曲全部、後で物販で買おう!

 

 

あ、でもこのコンサート後からがお仕事なんだった。並んでいる暇は間違いなく無い。でも欲しい……。むむ……そうだ!

 

 

ちょっとズルいけど、あの子に頼めば! このダンジョンの主…エグゼクティブプロデューサーと呼ぶらしい…を務めているから、お願いすればきっと! 本当、ズルい気はするんだけど…!

 

 

へ? あの子とは、って? ううん、勿論プロデューサーさんではない。彼らはアイドルの担当をしている方々、ダンジョン主ではないのだ。

 

 

というか、ステージ上にいる子である。ううん、あのアイドルの子達じゃない。今日初めて見て魅了されたんだもの。……いや、アイドルの一人と言うべき? 少なくともライブメンバーには違いない。

 

 

ほら、最初を思い出してほしい。あのアイドル二人と共に、もう一人飛び出してきたことを。演奏やダンスやパフォーマンスを中心に動いていたあの子。アイドルを盛り立て、時に挟まれ、時にメインで歓声を浴びていた彼女は私の親友で……ってあれ!?

 

 

いない!? ステージ上にいない!! もしかして休憩中? いや、ライブメンバー紹介しているのにいないなんて――。

 

 

「あーしをお探しかな♪ あ★っ★す★ん★」

 

 

「わあっ!? ね、ネルサ!!!?」

 

 

 

 

 

ビックリしたぁ!? 突然に後ろからハグされた! つい叫んじゃったけど……よかった、ステージや下のお客さん達は誰も気づいていないみたい。いやそれより! 

 

 

「なんでここにネルサが!? さっきまでステージに居たでしょ!?」

 

「にっひっひ~★ あっすん達に会いたくなって来ちった★」

 

 

そうウインクを決め、私の隣の席へくるりと飛び越え着席してみせる彼女。いつも通りシュシュで可愛く髪を纏め、キラキラメイクやアクセサリー、そしてデコレーションで輝かせた伝統装束ドレス……ではなく、今日初めて見るライブ衣装を纏う彼女こそ!

 

 

『ネルサ・グリモワルス・レオナール』――。ここのダンジョン主にして、私と同じグリモワルス(魔界大公爵)令嬢な、大親友の一人。そう、あの子なのだ!

 

 

 

のは、良いんだけど……。いやまあここのダンジョン主だって知って驚きだったのだけど、今はそうじゃなくて!

 

 

「エグゼクティブプロデューサー、何故こちらに…!? 次の曲は…!」

 

 

プロデューサーさんまで目を白黒させている通り、そこ! 会いに来てくれたのは嬉しいけど、コンサート中なのに出演者なのに、良いの!?

 

 

「ダイジョブダイジョブ♪ ちょっち面白いこと考えてっから★ いや~あの子達超キラッキラ! 今日一緒にやれて良かったし★」

 

「いえ、お礼を申し上げるのは私の方です…! 二人の勝手を聞いてくださり、エグゼクティブ――」

 

「ちょ~ちょっちょ! も~固いこと言いっこなし★ その肩書長いんだし、あの子達やあっすんみたいに気楽に呼んでっての★」

 

 

ま、それがPちゃん達のいいとこだよね★ とピースと共に笑みを弾けさせるネルサ。今度はこちらへ。

 

 

「そんでどうどうあっすん~? 初のライブなんでしょ? クラシックとか演劇とかと違うでしょ~? 気に入ってくれた?」

 

「えぇ! とっっっっても! もう興奮しちゃって! ほら私も汗だく!」

 

「わおそんなに!? にひひっ★ヤバ超嬉しい! ミミンしゃちょ~も楽しんでくれてる~?」

 

「もっちろ~ん! サイリウム振りまくり~っ!!!」

 

「ノリノリじゃ~ん! しっかり見えてたよ~★ いえいっ♪」 

 

 

社長が軽く振ってみせるサイリウムに合わせ、軽くポーズをとって魅せるネルサ。身体を捻り足を組み、自らを額縁に、社長をフレームに入れるかのように指を象って。服装も相まって格好いい…!

 

 

「そういえばその衣装って、次の曲の? なんだか魔女みたい」

 

 

「お! さすあっす(流石あっすん)~お目が高~い! どうこの服? 魔女服をモチーフに、あーしの羽とか尾とかを目立たせたの! 大人びたセクシー感がメインとみせかけて、ガーリッシュさが案外キテるっしょ★」

 

 

うん、確かに! これは次の曲も楽しみで……ん? うーん……。

 

 

「ネルサ、お水飲まない? なんだか少し顔が。体調が悪いとかじゃないんだけど、ちょっとだけ喉乾いてそう」

 

 

ふと気づき、魔法で瓶と水を生成し彼女へ……わっ!? ネルサ目を輝かせて!?

 

 

「マ!? あっすんすごっ! なんでわかったの!?」

 

「えっ、なんとなく……?」

 

「いやマジぶっ刺さり! あーし、ここに来る前に水分補給してきたんだけどさ。なんかもうちょっと飲みたいな~って感じだったの! うわマジ感謝なんだけど★」

 

 

さんきゅ★ と受け取った水をごくごくと飲み干し、ぷはぁっ!と気持ち良く息吐くネルサ。そしてにんまし微笑んで。

 

 

「もっかい言わせて、凄いわあっすん★ まるで神級のスゴ腕アシスタント…あそっか! あっすん今秘書じゃん!」

 

「ふふっ! あっすんにはいつも世話して貰っちゃってるわ!」

 

「おお~! しゃちょ~もそう言うなんて、あっすん秘書役板についてる~う♪」

 

 

両側からウリウリと小突かれて…! もう……! ――って、ネルサはこうしている場合じゃ……へっ!?

 

 

「じゃあそんなあっすんに、そして実はスゴいしゃちょ~に! あーしはスゴでラブなライブで応えなきゃ!」

 

 

ネルサが急に椅子から離れ、欄干へと飛び乗った?! そして器用に立ってみせ、こちらを向いて決めポーズを! 何を……ちょいちょいとステージを示して?

 

 

「――てかさぁ。さっきの、しっとりさせすぎでしょうよ! 思ったより冷えちゃってるじゃない!」

 

「あら、でもあの曲はそういうものでしょう? お気に召さなかった?」

 

「~~好きだけどぉ! そうじゃなくて、もうちょっと手加減なさいっての! アンタ強すぎなのよ!」

 

 

どうやらメンバー紹介は終わり、今はトークタイムな模様。客席からは笑い声が聞こえてくる。と、アイドルの1人が肩を竦めて。

 

 

「はあ、まあいいわ。次の曲は()()()のだし? バイブス一気に上がるわよ!」

 

「ふふっ、――ついてきなさいよ?」

 

「ちょおっ!? それ私の台詞ぅ!?」

 

 

気合を入れつつ絡むアイドル達にまたも客席からは笑い声。しかし今回はそれに加え、期待と興奮を帯びた歓声と、誰かを探すようなざわつきも。それを背に受け――。

 

 

「そんじゃ、行ってくんね★」

 

 

不意に会場全体にパチンッと響き渡るは、ネルサの軽やかな指弾きの音。それを合図としたように、幾つものスポットライトが彼女を照らし、胸躍るような前奏が!

 

 

「あーしの曲、やっちゃうよ~! とりゃっ!」

 

 

って、ええっ!? ネルサ、足場の欄干を蹴り、軽やかに後転しつつダイブを!!? 当然真下には沢山の客席があり、突然のことにお客さん達も慌てた声を上げて――!

 

 

「いっつ★しょ~たいむ♪」

 

 

あっ! 瞬間、ネルサの周囲にビビットな星形ハート形魔法陣が! そこから飛び出してきたのは、カラフルでキュートな猫やカラス、フクロウやネズミなどなど! そして最後に出てきたのは、箒!

 

 

「ひゃっほ~う!」

 

 

ネルサはそれにくるんと跨り、召喚獣たちと共に客席上空を翔ける! 皆の沸き立つ声援を受け、箒はステージへ。箒や召喚獣達を消し華麗に着地し、待っていたアイドル二人とハイタッチ! って、わ!

 

 

アイドル二人の衣装も見る間に変わっていく! 今着ている服に被さるように、魔法の服が! ネルサが着ているような衣装が! 魔女風になった二人は、ネルサの両側でそれぞれポーズを!

 

 

そう、つまりセンターはネルサ! 彼女は更に角を目立たせる魔女帽を生成しふわりと被り、ウインクと共に――チュッと投げキッスを!

 

 

「にひひっ★ 二人共いくよぉ~!」

 

「「はーいっ! ネルっさん♪」」

 

 

「「「『サバサバ★Sabbath(サバト)』ぅ!」」」

 

 

 

 

わぁああ!! 凄い凄い凄い凄い! 超超超凄い! 得意魔法を活かして、あんな風に輝いて! まるで一番星のよう! アイドルだ……アイドルなんだ!

 

 

 

ネルサって、私の親友って、完璧で究極なアイドルなんだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――はぁ、残念ながら何事もいずれは終わってしまうもの。特に楽しい時間はあっという間に。永遠に続いてほしいと酔いしれた感動のコンサートは幕引きとなり、それから少し後。

 

 

「わぁっ! 有難うございます! すみません、我儘を聞いてくださって…!」

 

「いえ、これぐらい。彼女達をここまで気に入ってくださるなんて、担当する者として感無量です」

 

 

ステージの裏、舞台袖より更に奥、関係者が行き来する通路の一角にて。結局私はコンサート中並みの驚喜の声をあげてしまっていた! 物販に並ばずにプロデューサーさんから頂いてしまったのだ、ライブの全曲入りのを!

 

 

勿論代金はお支払いしましたとも! ふふっ、帰ってから聞くのが楽しみ! けれど、今はそれよりも。

 

 

「それじゃアスト、お仕事に戻りましょうか!」

 

「はい!」

 

 

なにせここからが本題。私達がここに来たのはコンサートに招待されたからではない。いつも通り、ミミック派遣のための事前調査に訪れたのだ! 

 

 

「裏も客席並みに人いっぱいいますね~。あ、こんにちは~!」

 

 

ちょっとした打ち合わせ用に置かれているラウンドテーブルの上に収まりつつ、通りすがる方々に挨拶をする社長。そう、確かにここ、人が多い。

 

 

あれだけのコンサートをダンジョン内各所で開催するには、やはり人手が大量に必要なのだろう。聞くところによるとアイドルライブだけではなく、それこそクラシックコンサートやら演劇なども行われるらしいし。

 

 

だからこそ様々なスタッフや役者やミュージシャンや出入り業者の方々が、こちらもまた人魔問わずひっきりなし。勿論、アイドル達も! それに付き添うプロデューサーさんも……。

 

 

……多分プロデューサーさん達だとは思うんだけど…。変な方々が……。顔がPのマークになっていたり、Pと描かれた袋を被っていたり、それこそ頭全体が大きなPになっていたりする人達が……。アイドル達が親し気に話しているし、間違いない……はず……。

 

 

コホン、それは置いといて。そんなここへのミミック派遣理由は、常駐警備役。なにせこのダンジョンはあくまで施設であり、深夜帯にはほとんど誰もいなくなる。だから侵入者対策にミミックはもってこい。

 

 

と、言う話なのだが、どうやら他にも色々とやって欲しいことがあるご様子。警備の延長ではあるらしいが――あ!

 

 

「お待たせ~い★ あっすん★うぇ~いっ!」

 

「ネルサ! えっ、う、うぇ~いっ!」

 

 

スキップ交じりで戻ってきたネルサと、ハイタッチを! 実は彼女達、コンサート後の諸々…撮影会やインタビュー等のために席を外していたのだ。その間私達はこうしてプロデューサーさんからダンジョン案内を受け、我儘を聞いて頂いていた訳で――わわっ!

 

 

今私、彼女『達』と言った…! そう、それは当然、ネルサと一緒にいた今回のコンサートの主役達! ライブも諸々も終わった今、彼女達も――!

 

 

「わっ…! 本当にすっごい美人さん…!」

 

「あらお聞きしていた通り、可愛らしいミミックさん♡」

 

 

「改めて紹介すんね、あっすん、しゃちょ~★ この子達が~?」

 

 

「初めましてね! 『waRos(ウォーソ)』のリアよ!」

 

「同じく『waRos』のサラと申します」

 

「そんであーしがfeat.Nのネルサ! なんちって★」

 

 

揃った! 私の前に! ステージの上だった、あんなに遠かった三人が、目の前に揃ってしまった!!! わわ、わわわあ……っ!

 

 

「おおっ、あっすん超感動してくれてるじゃん★」

 

「えっそんなに!? えへへ……マズにやけちゃってっかも…!」

 

「ふふっ。此度は私共のライブへ足を運んでくださり有難うございます」

 

「えっ、い、いえ! こちらこそあんな素敵なライブを見せてくださって…初めてが皆さんで良かったというか……!」

 

「丁度良いじゃないアスト、今日の想い全部ぶつけなさいな♪」

 

 

しゃ、社長!? そ、そう言われても……! えぇと、えぇと……! 

 

 

「宜しければ、是非。ファンからの感想は何よりの励みとなりますので」

 

 

プロデューサーさんまで! え、え、え、じゃ、じゃあ……! で、でもその前に深呼吸を。できるだけ冷静に、心を落ち着けてから――よし!

 

 

「では、どうか拙話をお許しください。今日初めてお二人のことを、そしてネルサのアイドル姿を知り、このようなコンサート…ライブも初体験の身でした。ですが、リアさんの勝ち気でどこか愛くるしさを感じる性格、サラさんの冷静で大人びた包容力の性格が織りなす、文字通りハーモニーに私は一瞬で魅了されてしまい――」

 

 

 

 

 

「――それで、皆さんとっても光輝いていて! 何も知らなかった私でも『これぞアイドル』と見惚れてしまうほどで!! そう、いうなればアイドルをマスターしていると言っても過言ではなく――!! あっ……」

 

 

しまった、やっちゃった…! 今日のコンサートで感じたあれやこれやを口にしていたら、つい気持ちが昂っちゃって……! 鼻息荒く早口に、気持ち悪い感じになってしまった……! 

 

 

「す、すみません。聞くに堪えないことを延々と……!」

 

「いえ、アストさん。どうか彼女達をご覧ください」

 

 

慌てて口を噤み謝罪をすると、プロデューサーさんからそう促されて? わわわっ…!

 

 

「えへへへ……! そんな、そんなぁ…!」

 

「リア、顔蕩けているわよ?」

 

「んなっ!? サラだってそうじゃないの! 手で顔隠しちゃってさぁ!」

 

「うふふ…これほど褒め殺しにされちゃったら、ね」

 

 

「にっひっひ★ あっすんたら褒め上手~う♪」

 

 

三人共、身を捩るほどに喜んでくれている…! 伝えて良かったけど伝えられて良かったけど、なんだか恥ずかしくなってきちゃった……!

 

 

「ほらほら、次は握手とサインをおねだりしてみたら~? アイドルと言えばそれでしょ!」

 

 

えっ!? いや社長、そんな勝手な……ひゃっ!? お二人が私の両手をとって……!?

 

 

「「有難う、アストさん♡」」

 

 

ふわああああああっ……! 今日、手洗えないかもぉ……!

 

 

 

 

 

 

 

ふふふっ、ふふふふっ! サインまで貰っちゃった! さっきのレコードに! プレミア版になっちゃった! ……これ保存用にして、観賞用にもう一枚買おうかな…。いややっぱり更にもう一枚、布教用に……。

 

 

「アストったら恍惚としちゃって! お仕事できる~? 私、持てる~?」

 

「へっ!? え、ええ。それは……勿論!」

 

「ちょっと葛藤したわねぇ。良いのよたまには? 私別に歩けるもの」

 

「いえいえいえ! 持ちますから! あ、でもこれの保管はお願いします…!」

 

 

危なかった…! お仕事で来ているのをまた忘れるところだった。この後はネルサがプロデューサーさんとバトンタッチして案内の続きをしてくれる予定なのだ。寂しいけれど、ここでwaRosとはお別れ――。

 

 

「ねえネルっさん! アタシ達も一緒についてって良い?」

 

「ここの案内であれば私達も御力になれるはずですし」

 

 

「ん~! あーし的にはオールオッケー★」

 

 

えっ!? アイドル二人が同行を!? そしてネルサが承諾を! あれでもネルサ、ちらっとプロデューサーさんを見て…。

 

 

「私としてはライブ後ですのでゆっくり休養をとって頂きたいところですが……」

 

「それな★ Pちゃんの言葉も一理ありまくり★」

 

 

確かに。あれだけ激しいライブをして、その後に色々催し事をこなしてきたのだもの。少し残念だけど、彼女達のことを思えばそちらの方が――。

 

 

「だから~~♪ あっすんにかる~く診てもらお★」

 

 

 

 

 

 

「んっ!? えっ!? ええっ!? ネルサ!?」

 

「ほらさっきあっすん、あーしのちょっとした喉の渇きに気づいたじゃん★ だからあっすんに判断して貰えば、Pちゃんも納得するっしょ?」

 

 

ネルサが私へ絡みつつプロデューサーさんに問うと、彼はそれならばと承服の首肯を。その顛末を見てくださっていたとはいえ、信を置き過ぎでは…!?

 

 

「まあまあ、あっすん★ そんな気ぃ張らずにおね~★」

 

「いつも私達相手にやってるようにで良いのよ」

 

 

ネルサに続き社長も背を押してくるし、waRosの二人はいつでもどうぞとポーズを取って受け入れ態勢…! 要はこれ、私に選択権をくれているのだろうけど……! うぅ……でも、ズルはしない!

 

 

――えぇと、ふむふむ。多分……体力的にはまだ問題なさそうかな。発汗や呼吸からして喉も乾いてなさそうだし、他も……うん、恐らく大丈夫そう? あ、でも。

 

 

「リアさん、ちょっと触れますね」

 

「ふにゃんっ!? そこ脇っ……うえっ!?」

 

「サラさんも。胸の谷間に失礼します」

 

「はゃぁんっ…!? あら!? 嘘でしょ…!?」

 

 

「「痛みがなくなってる!?」」

 

 

「おおっ!? マジ!? あっすん魔法使ったん?」

 

「えぇ、治癒魔法を。治せて良かった」

 

「いやいやいや! そっちちゃうくて! 見つけたんは!?」

 

「それは別に、気にしているようだったから?」

 

「でもアタシの、ほんのちょっとピチッて吊ってただけよ!?」

 

「私のなんて、汗かぶれなのだけど……。同じく軽い程度の……」

 

 

「これがアストの実力ですとも! いっつも私達の訓練を補佐してくれてるんですから!」

 

 

目を丸くする一同に、えっへんと胸を張る社長。ふふっ、その通りである。なんて……わっ!? ネルサ、すっごい目を輝かせてる!?

 

 

「あっすんガチ神なんだけど! うわ~あっすんPちゃんになってほしい~~っ!」

 

「駄目~! あっすんは私の秘書~! ネルサちゃんでもダメぇ~!!」

 

 

ネルサと社長で私の取り合いを。あはは……えぇと、アイドルの二人に引かれてなければいいのだけど――。

 

 

「なんかさっきのアストさん、雰囲気ガラッと変わったんだけど……! 優しいんだけど、ピリッとキリッとしてて、格好良くて……! あれって仕事の目つきってやつ……?」

 

「それもあるでしょうけど……なんだか、それ以上よ。慈愛の中に威厳を、気品を備えているというか……」

 

「そうそれ! マジでそんな感じ! ヤバ…ゾクゾクさせられちゃったわ…! ねえサラ」

 

「えぇ。無理にでも同行させて頂いて、立ち振る舞いを参考にしましょう」

 

 

こっちはこっちでハングリー精神に満ち溢れてる!? ゾクゾクさせてくれたアイドルにそう言われるのはなんとも畏れ多い……。

 

 

って、私そんなんだった!? うぅ……恥ずかしい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ全員一緒でけって~い★ 旅は道連れ~い★ うぇ~い♪」

 

 

なにはともあれ、waRosのお二人とそのプロデューサーさんにも同行して頂けることに。お仕事の続きを……あ、そうだその前に。社長と目配せし、コホン。

 

 

「では改めまして。此度は弊社に、ミミック派遣会社にご依頼を頂き誠に有難うございます。遅ればせながら、自己紹介をさせてください」

 

 

これから案内を、仕事の付き添いをしてくださるのだ。しっかりと名乗らなければ。最もネルサには要らないしプロデューサーさんへはコンサート前に済ませてあるので、これはwaRosのお二人に向けたものである。

 

 

なにせ今の私、おかしなファンそのものだもの。汚名返上しないと。気を引き締めて、いつもより丁寧に……!

 

 

(わたくし)、社長秘書を務めております、アスト・グリモワルス・アスタロトと申します。そしてこちらが、弊社の社長であるミミンで――」

 

 

「「「えっ!?!?」」」

 

 

「へっ? え、ど、どうなさいました!?」

 

 

急にwaRosのお二人と、プロデューサーさんが驚いたような声を!? 何か変な事を言ってしまった…!? でもただ名乗っただけで――。

 

 

「あ、ご、ごめんなさい…! でも、でもアストさん今…!」

 

「グリモワルス、と…!?」

 

「アスタロト、と!?」

 

 

えっ。……あっ。しまった!? つい、しっかり全部、名乗り過ぎてしまった!!?

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと…! グリモワルスって、あれよね…! ネルっさんと同じ……!」

 

「えぇ……『魔界大公爵』…。魔王の最側近たる大貴族の方々を示す……!」

 

「それも『大主計』として名高い、あのアスタロトの……方、でしたか…!?」

 

 

あからさまに動揺する彼女達。やってしまった…。私の出身については特段隠す気はないのだが、こうして驚かせてしまうと仕事にならないから普段はただアストとだけ名乗っているのだ。

 

 

けれど、今回はなんというか……冷めやらぬ熱で正気を失っていたというか、アイドルを魅せてくれた彼女達には敬意を持って名乗らなければいけないと思っていた節があるというか、そもそもてっきり。

 

 

「ネルサ、伝えてなかったの?」

 

「うん★ あーしのずっしょなマブダチってだけ★ あとは依頼のコトぐらい?」

 

 

そうだったんだ。もしかしたらネルサが話しているかもと考えていたけれど、彼女だもの。端からそんな事を言ってぎくしゃくさせることはしないか。

 

 

「そうじゃん、ネルっさんの幼馴染で大親友なんだから全然ある話じゃん…!」

 

「道理で……。色々と納得がいきました……」

 

「…………っ。」

 

 

まあその心配りを台無しにしてしまったのだけど! うわぁ……明らかに畏れられてる……。どうしよ――。

 

 

「因みにこちらの御方は魔王様の大親友にございま~★」

 

「ぶいっ☆」

 

 

うっ!? ちょっとネルサ!? 社長!? 毒を食らわばと言わんばかりに!? 絶対社長から煽ったでしょあの感じ! あぁほら! 三人共完全に恐縮モード!

 

 

「そんなにすごい方々だったなんて……」

 

「手を洗っちゃいけないのは私達の方かしら…」

 

「アスト様、数々の非礼、大変申し訳――」

 

 

「ちょちょちょちょっ! 待ってください! 待ってくださいって!」

 

 

頭を下げだすプロデューサーさん達をなんとか抑え、とりあえず一呼吸。えっと、もう…!

 

 

「確かに私はそういう出の者ですが、今暫くはミミック派遣会社の秘書の身。ですのでどうかそのように……いいえ、どうか、一人のファンとして扱ってください!」

 

 

寧ろこちらから頭下げる勢いで頼み込んじゃえ! と、それに続く形で社長達が。

 

 

「そうよ三人共。アイドルなら分け隔てなく、じゃない?」

 

「おっ! しゃちょ~良~いこと言う~★」

 

 

軽く拍手したネルサは、私の肩を抱くようにハグを。そして私と自身の顔を繋ぐように指でハートを作り、未だ困惑気味な三人へと。

 

 

「さっきのあっすんの顔、見たっしょ~? ワクワクでホカホカで、ルンルンな顔! あーし達を見て、あーし達を映したみたいに…ううんそれ以上にキラキラだったじゃん★」

 

 

肯く三人。それを受けネルサは満面の微笑みを携え彼女達へと近づき、それぞれの頬をテンポよく、まるで笑顔の魔法をかけるように、ちょんちょんちょんっと触れていき――。

 

 

「だからアイドルなリアちんサラちんが、それを支えるPちゃんがどんより顔しちゃってたら、あっすんだってどんよりになっちゃう~ってね★ つーことは~???」

 

 

最後にくるりんと回りつつ、自らの口角を上げるように頬を軽く押し上げ、更にウインクとペロッと舌だしまで! お手本のようなネルサスマイルの元、waRosの二人はまるで日光浴をするように息を吸い――。

 

 

「――アストさん! ごめん、アタシ達びっくりしちゃって。でも、もう心配いらないわ!」

 

「ファンに気を遣わせてしまうなんて、ね。どうか先程のリアの珍しめなビビり顔でお許しくださいな?」

 

「は!? ちょっとサラ!? こんな時すらっ…ならアタシも言ってやる! 治してくれた時のサラの面白悲鳴で……ハズくて睨んでくるぐらいならアタシをダシに使うなっての!」

 

 

コンサートの時のような、先程までのようなアイドルな二人へと元通り! プロデューサーさんもまた、物腰柔らかな詫びの一言で済ませてくださった。ふふ、それでこそ――。

 

 

「にっひっひ♪ うんうん、それでこそアイドルだね★」

 

 

あ、ネルサが代弁してくれた! さんきゅあっすん★とアイドル達へのとは違うウインクを隠れて私へ飛ばしながら。うーんさすねる(流石ネルサ)、エグゼクティブプロデューサーしてる!

 

 

 

 

「てか皆、あーしと初めましての時みたいにで良かったんに★ すぐ打ち解けてくれたじゃんさ★」

 

 

ふとかつてを思い出したのか、そう口にするネルサ。確かに彼女もグリモワルスなのだが、それを畏れられることは全くない。その理由は言うまでもないけど。

 

 

「それはネルサの社交性の賜物でしょう。私、あなたのその性格羨ましいもの」 

 

 

肩を竦め彼女へそう返す。その持ち前の天真爛漫さに私も何度やられたことか…あれ? ネルサ、軽く首をかしげて?

 

 

「そお? あっすんだって最近コミュ力MAXじゃ~ん★ だってガーキー様(笑いの神様)のあの企画で――」

 

 

「わーーわーーわーーわーー!!?」

 

 

何を言い出すかと思ったら! それは、それはダメ! いや、あの企画に無理言って出させて貰ったぐらいなら良いけど、その……お尻を叩かれたことは…! アイドル達の前では!

 

 

って、もう! ネルサったら悪戯っ子な笑みを浮かべて! それ以上言う気は無かったのね、もう!! まあこれぐらいで止めてくれるなら、良い感じに空気も変えられて……――。

 

 

「ね。面白かったわ~。あの時のアストのお尻――びゃふんっ!」

 

 

せ、セーフ…! セーフなはず…! 社長の蓋を思いっきり閉めて、黙らせたから……! こ、転びそうになりながら……! だからセーフ…であって、お願い!

 

 

「くふっ…あははっ! アストさんったら顔真っ赤~!」

 

「うふふっ、私達がファンにされちゃいそう♪」

 

 

ば、バレてはなさそうだけど、これじゃ汚名返上は……! ……まあ、良いかな?

 

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