ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
何はともあれ、お仕事再開といこう! ネルサとプロデューサーさんと、
――コホンッ! しかし、今になってひとつ気づいたことがある。それは、ネルサのコミュニケーション能力について。彼女、普通に歩いているだけなのに結構な頻度で呼び止められるのだ。
その内容はただの挨拶だったり、先程までのコンサートの絶賛だったり、ちょっとした相談事だったり様々。一方のネルサもその相手の名前を必ず呼び、フランクながらも丁寧に返しているのである。
「やっぱ案内役手伝って正解かも」
「ネルっさん人気者だものね」
それはwaRosのお二人がそう呟くほど。成程、彼女グリモワルス女子会にはよく軽く遅刻して現れるのだが…あれは恐らく、こうして誰かしらとの交流に引き留められた結果なのだろう。流石『全大使』レオナール家の娘、私の親友ネルサ。
ならば私も
細めの廊下に楽屋や打ち合わせ室といった小さな部屋空間が繋がる形のここは、先程の輝く虹の如きコンサート会場とは打って変わり無機質気味。やはりここはダンジョンだというのがよくわかる。
最も、一般的なダンジョンよりもかなり迷いにくい構成にはなっているし、ところどころの壁へ貼り紙やら掲示板やらサインやら写真やらが道しるべのように彩を加えているのだけど。わ、これって…!
「waRosの……お二人のサイン!」
「あ、ここに書いてたっけ! なっつかし~!」
「結成当初、サインを決めた日のやつね。もう、忘れていたの?」
つい興奮してしまう私と、しみじみ唸るリアさんと、ちょっと悪戯をしかけるサラさん。それを受けリアさんはちょっと慌てたように言い返した。
「わ、忘れてないっての! ただここ迷路みたいだから、書いた場所は覚えてなかっただけ!」
「あら。ならこれ、どう決めたか覚えているかしら?」
「トーゼン! アタシもアンタも自分デザインのを譲らなかったから、喧嘩になったでしょ?」
「ふんふん★それでそれで~?」
「ネルっさんまで! ネルっさんが二人の良いトコどりをしてくれたから決定したの、一生の思い出ですう~!」
リアさんにそう返されると、ネルサはにひひ★と退散するように、さらっと隠していた写真を明らかに。確かにそこには、waRosのお二人がサインを書き込みつつ満面の笑みを浮かべている様子が。そしてそのサインの前でネルサと一緒にポーズを取っている写真まで。
いやというより……他の周囲のサイン、その傍に貼ってある写真のほとんどにネルサが共に写っている! どれもこれも仲睦まじく、ネルサは皆を立てるように、皆はネルサへ感謝や尊敬を向けているのが手に取るようにわかる。
「この辺りにはエグゼクティブ……ネルサPがスカウトしてくださったアイドル達のサインが並んでおりますね。waRosもそうなのです」
それらを眺めていると、プロデューサーさんが補足を。ネルサが彼女達をスカウトしたの!? って、そうそう、まずはそこが気になっていたんだった!
「今更になるんだけど、ネルサ。私、あなたがエグゼクティブプロデューサーを…もといダンジョン主を務めているの知らなくて。てっきり各地を遊学しているものかと」
彼女とは長い付き合いとなるが、そんな話は一度も聞いたことがなかったのだ。この間のグリモワルス女子会でも勿論。だからこそ彼女がダンジョン主として依頼を入れて来た時には心底仰天した訳で。
だってこのダンジョンの主を務めるには、普通のダンジョン以上の手腕が必要となるだろう。言うなれば、会社を経営している社長、ダンジョンを運営している
それだけでもとんでもないことなのに、加えてスカウトなんて。ネルサ、凄すぎ……――。
「ん~★ そだよ★ あーしいっつも色んなとこ遊びいってる~★ そんで時たまここでライブやってる感じ★」
……んっ? なんだか思っていたのと違う返答が? でもダンジョン主なんじゃ? その疑問をそのままぶつけてみると、彼女はなんちゅ~か★と当時を思い返すように説明を。
「えっとね、ここの管理ってあーしがやってるわけじゃないんよ★ 皆と盛り上がってたらダンジョン作ろって話になってさ★ なんか流れであーしがダンジョン主の名前になっちった★」
「そうなの? じゃあ、経理とか事務とか他諸々は他の方が?」
「そそ★ 『アイドルみたいに皆で育てるダンジョン』て色んな人言ってくれてっかな★ だからぶっちゃけちゃうと、あーしは顔だけ?的な★」
あぁそういうこと! 要は業務分担、役職分けがしっかりされているのだろう。社長が社長をして、私が秘書をして、ミミックが動いてくれて成り立っている我が社と同じように。
だからネルサはほぼ自由。ダンジョン主の肩書はあれど運営は気にせずあちらこちらに行けるし、アイドルと一緒にコンサートもできちゃうということらしい。
とはいえあのネルサのこと、名前を貸しているだけなんかでは、お飾りなんかではないに決まっている!
「ネルサPはその御力を存分に活かしてくださっております。スカウトに始まり、様々なアーティストの招請、名だたるヒットメーカーとの橋渡し役、各所への売り込み等々。ネルサPがおられなければこのダンジョンは成り立っていない、そう断言できます」
「そーよ! ネルっさんはカリスマアイドルでカリスマインフルエンサーでカリスマプロデューサーなんだから!」
「いつもその煌めく御顔で私達を導いてくださり、感謝いたしますわ」
「いやいや~。あーしは『ちょっとうちで演ってみな~い?』とか言って回ってるだけっしょ~。そんな褒めても~キューブしか出ないし?なんて★ にひひ…★」
プロデューサーさん達三人からそう讃えられ、謎にカラフルなキューブを生成してみせつつ照れくさそうに身を捻るネルサ。――と、おや? waRosのお二人が頷き合って? 代表してリアさんが私達へ小声で。
「あの…社長さん――」
「えぇ、勿論良いわよ。絶好のタイミングじゃないかしら☆」
「えっ!? まだアタシ何も…!?」
「社長はよく心を読んでくるんですよ。是非どうぞ」
私にはなにがなんだかだけれど、社長が許可を出したならば問題ないだろう。アイドル二人は目を丸くしつつも、安堵した様子で『少しお時間頂きます』と残し、ネルサへと向かい合った。
「ネルっさん…! この場を借りて、今日のお礼を言わせてください! アタシ達の我儘を…一緒にライブしてくれて有難うございました!」
「こっちこそサンキュ★ あーしもちょ~う楽しかった★ 二人ともバリバリアイドルなんだもん★」
リアさんの言葉に、ピースとウインクで返すネルサ。そしてやはり、彼女達がへりくだるのを止めようと……。
「でもお礼なんて★そんなの――」
「いえ、実は少々思惑がございまして。私達の勝手で申し訳ありませんが……裏を明かせばこの度の我儘、ネルっさんに私達の成長を見て頂きたかったからなんです」
「ほえっ!?」
わっ!? サラさんの激白に、ネルサったら素っ頓狂な声を! そして再度アイドル二人は顔を合わせ、その想いをネルサへと!
「ずっと、考えてたんです。アタシ達を見出してくれたネルっさんへ何か恩返しをしたいって。でも、生半可なモンじゃダメだって。それで、思いついたんです!」
「ネルっさんと一緒にライブをやるのが一番の恩返し。私達の成長ぶりをすぐ傍で見て頂くことが何よりの報いる方法だと。重ねて勝手の謝罪を。そしてどうか、心ばかりの甚謝を受け取ってください」
「ネルっさんにスカウトされていなかったら、アタシ達はかけだし冒険者として……戦士見習いと魔法使い見習いとして今も過ごしてました。こんな楽しい世界を知らないまま!」
「私達をここに連れて来てくださって、プロデューサーさんと引き合わせてくださって、アイドルにしてくださって、有難うございます。そして――」
「「これからもどうか、見ていてくださいね! ネルっさん♪」」
先程私へしたような…ううん、それ以上の愛をネルサへと伝えたwaRos! それを受けた彼女、プルプルと震え出して……ふふっ!
「ふっったりっともぉ~っっ!!」
「「きゃっ…!」」
「もう最高★大好き! BIGLOVE! あーし二人をスカウトしてマジ良かったし~いいい!!」
ネルサったら、二人を抱きしめ、顔をうりうりと擦り付けて! 一方の二人もそれを嬉しそうに受け入れて! かつてのサインの前で、貼ってあるかつての写真のように!
こんな光景、ファンとしては垂涎もの! なんでだろう、なんだか後ろの方で腕組みでもしつつ見守りたくなっちゃう!
「――そっか、ネルサの遊学ってスカウトの旅でもあるんだ」
「あ、マジじゃん★ な~んか良い子見るとつい声かけたくなっちって★ 『アイドルに興味ない?』つって★」
その後も廊下を皆で進みつつ、談笑を。ふふっ、親友たる彼女の近況を知るのは楽しいもの。そこへ更にwaRosのお二人が加わってくれるのだから猶更! ほら今もリアさんが、壁の至る所に貼られている様々なポスターを順に指し示して鼻高々に。
「それでネルっさんは凄いユニット結成させちゃうんだから! 48人組のとか、脚自慢のケンタウロスの子達でとか、嵐みたいな性格のシルフィード達とか、カウガールの女の娘達とか、ゾンビの地方っ子達とか、苺の男アルラウネの王子様ユニットとか、ゴーレムのボーカルロイドユニットとか! 今やみーんな人気アイドルよ!」
「企画を通す腕もお見事ですわ。例えば48人のユニットではじゃんけん勝負、ケンタウロスのユニットではレース着順で都度センターを決めるなんて、斬新でしたもの」
「や~や~★それは
「でもそれが次々とヒットしているのでしょう? 見る目がある証拠ね!」
「えへへ…★ あっすん褒めすぎだってば~★」
私達の称賛を受け、またまた身を捩るネルサ。と、そこへプロデューサーさんが。
「そういえば。ヴァルキリンピックの開会式を彩ったヴァルキリーによる音楽ユニットをご存知でしょうか。あの方々もネルサPに指導を仰いでいたのですよ」
「え、そうなんですか!? なんだネルサ、女子会の時
「そんなそんな★ あっすん達の方がスゴじゃ――」
「ううん! そっちの方が凄いでしょ! あれ感動したもの!」
「そ、そーお? にひひ……★」
ふふっ、笑みが取り繕えなくなってきちゃって! おや? 周りを見渡していた社長が何かに気づいて?
「あら、このポスターの方って。アスト、これ御覧なさいな。ゴーレムのユニットの」
「えっ!? これアミミクさん!? ゴーレムの基地ダンジョンの!?」
「えへっ、スカウトしちった★ あっすんから話聞いて、良いな~って★ ヤバいよミクっち、どんな音程高い曲でも速すぎて消失しそうな曲でも歌いこなせるんだもん! まさにワールドイズマインで、溶けてしまいそうな感じっていうか――」
「顧客情報もあるからほんのちょっとの印象しか話せなかったのに、そこから…!? ネルサやっぱり凄すぎ!」
「も~~っ! なんであっすん、そんなあーしをべた褒めすんのさ~★ なら、あーしもあっすんを…!」
あ、こそばゆさに限界が来たみたい。ちょっと頬を赤くして、攻めに転じようとしてる。けれどそうはさせないから! もうさっきのあわや暴露で懲りたもの、変な事を言われる前に~?
「そうだリアさんサラさん、スカウトされた時のことを…ネルサについても、お聞きしても?」
「ええもっちろん! あの時『キャンピングダンジョン』で野営練してて、つい二人で歌っていたの。そしたらそこに突然、歌声聞きつけたってネルっさんが!」
「私達あわや武器をとりかけてしまって。けれどそれより先に、ネルっさんの焚火よりも明るい瞳が輝いて、あの一言が――」
「ちょ~っちょっちょっお~!? あーしくすぐったすぎて倒れそうなんだけどぉ!」
ふふふっごめんね! 親友の格好いい活躍を知ることのできる機会なんて滅多にないんだから! それにwaRosのお二人も――。
「ね、今日のネルっさん、普段よりダンチで……!」
「アストさんだからでしょうね。ああも照れてしまって♪」
普段のカリスマネルサとは違う照れ悶えが見られるためか、ノリノリなんだもの! あぁ、ご安心を! ちゃんとお仕事をしながらですから☆
と、ネルサを褒め殺しながら暫し。それでも尽きないアイドル達の足跡、そしてそれに必ずといっていいほど仲良く写っている彼女を見て、ふと気になってしまった。
「それにしてもネルサ、大変じゃない? 幾らプロデューサーさん達がいるとはいえ、これだけのアイドルを、こんな立派に育て上げるなんて。……色々ぶつかり合いとかあるでしょうに」
こういったことに疎い私と言えど、鎬を削るアイドル達は時折、その、闇を抱くということは噂程度だが聞いている。そういうことは人数が集まれば当然の如く起きるものだとはいえ……。
しかもほとんどミミックだけ且つ社長のカリスマ&特訓でアットホーム…というよりもホームとなっている我が社とは違い、アイドル達は種族も年齢も出身も方向性も何もかも違う。それを纏め上げるのはかなり――。
「そうそう! ネルっさんを語るなら、絶対欠かしちゃいけないことがあるじゃん!」
「アストさんはご存知でしょうけど、ふふふっ♪」
ふと、waRosのお二人が突如笑顔で顔を見合わせて? そしてネルサをセンターに、今度はサラさんから……!
「このダンジョンが、そして私達アイドルがこうも楽しく活動できているのは――」
「ネルっさんの魔眼の、『親睦眼』のおかげなのよ!」
「いぇっす★ ぴっか~んっ!!」
わっ! ネルサが瞳をキラキラに光らせた! 舌をペロッと出し、上からのピースで際立たせて! そうだ、彼女にはそれがあった! 『全大使』レオナール一族の魔眼が!
彼女の魔眼『親睦眼』の能力、それは――『対象人物が、自分や指定の相手や物をどれだけ好いているかわかる』というもの。…女子会の時はそれに苦しめられたけど、味方であればこれ以上ないほど心強い!
「これがあっから、いざこざも起きる前から解決できるのだ~★」
「ホント! ネルっさんのおかげでここ、ドロドロギスギスなんてないもの!」
「えぇ、所謂『アイドルの闇』とは全くの無縁。ネルっさんの人徳の為せる業ですわ」
おお~っ! そう、間違えてはならないのが、その魔眼はあくまで補助の能力ということ。それをどう活かすかはネルサ自身の手腕に違いない! 私だったらそれぞれの関係性が見えたとて、睦まじく繋げられる自信はないもの!
いや、それが出来る者なんて……これだけの他種族多様なアイドル達、スタッフ達を纏められるなんて、彼女の他にはいないだろう! まさに、
「にっひっひ…ふう★ さてさ、どうどうあっすん~? あーしのことも推しの子にしてくれた~?」
「へ?」
「アイドル力はリアちんとサラちんに負けっかもだけど、あーしもピッカピカに輝いてるっしょ~? ね? ね~??」
ネルサ、さっきのポーズのままにそんなことを。推し、って……。ほら、waRosのお二人も『何を今更?』と肩を竦めているぐらいなのに。
もしかしてちょっとwaRosに嫉妬を? いや、彼女の性格的にそれは考えにくい気がする。仮にそうだとしたら珍しい上に随分可愛い妬き具合だけれど、残念ながら表情的にもそうではなさそうで……ん?
というより彼女の顔、なんだか上気してない? ともすれば、コンサート中よりも。でも動いている故の火照りというよりかは……あ。
「それは勿ろ……――っと」
「ちょぉうっ!? な、なんでお口チャックしちゃうん!?」
つい反射的に答えかけていたのを、急ぎ噤む。そして、今のネルサの反応で完全にわかった! 突然変な事を言い出したと思ったら、灯した魔眼を消さないでいるのは、そういうことね!
ふふっ、流石カリスマ、上手く取り繕ったこと。でも、もう見破ったから。その赤くなった顔の魔眼の奥に、グルグルな目を…うら恥ずかしさでパニック気味の色を隠していることは!
恐らくだけど、私達に褒めちぎられてキャパシティーオーバーになってしまったのだろう。だから話を一区切りさせるために、そう切り出したに違いない!
その証拠に、ふふっ。ネルサったらあうあうと宙ぶらりんになっちゃって。まあ答えは当たり前に決まっているからそのまま口にしてもよかったのだけど、なんというかそれをそのまま発するのは勿体ない気がしてしまって。
だってさっき、waRosのお二人による感動的なシーンを目の前で見たのだもの。私もそれぐらいやってあげたいところ。 だから、ここは――アイドルに倣って、普段からの想いを告白しよう! こほんっ――。
「――ずっとだよ」
「……ふえ? あ、あっすん?」
「ずっと昔から、初めて顔を合わせた時から、私はネルサを推しているよ」
「…ひょわあッ!?!? へ、ちょっ、あ、あっすん!? ちょ、ちょマ…なんて!?」
「良い機会だし、言っておこうと思って。ネルサ、貴女は私にとって、昔からアイドルだったの」
私の告白に、ネルサはたまらずポーズを解いてしまう。けれど気にせず、一つ歩み寄る。…あれ、腕の中から社長が消えてる。どうやら空気を読んでくれたらしい。なら、有難く活かして…!
「昔からピカピカでキラキラだった貴女は、私の理想の一人。その常に天真爛漫な輝きは、私の背を押してくれたものの一つ」
「ちょっ……ちょっ……ちょっ……! タンマ、タンマ……ひゃっ…!」
やぶれかぶれに手をわたわたさせる彼女の手を取り、交互に指を重ねさせ、ぎゅっと握って。これで貴女も私も逃げられないでしょう? …あっ。waRosのお二人が目元や口元を抑え、はわわ状態に。でも、今更退かないから。
「まあ最初はグリモアお爺様のところに、家庭教師から逃げ出す形でだったけどね。それでも私が深窓を飛び出すきっかけを、一番最初のきっかけをくれたのはネルサなの。貴女の輝きが羨ましくて、導かれて、追いかけて――今の私があるの」
更にひとつ、ネルサに近づいて。もはやくっつかんばかりに近づいた彼女の顔は殊更に燃え、それとは対照的にとうとう魔眼の輝きが消えて。残されたのはアワアワと震える、ぐるぐるな瞳。さあ、トドメ♪
「だから、ふふっ。――ネルサ、私はずっと貴女のファン。貴女は今までも、これからも、私の推しなんだよ」
「「おおおおお~っ……!!!!」」
……っと! リアさんサラさんの歓声、及び音無しの拍手で我に返れた。言っちゃった、言っちゃった…! 女子会の時みたいに、オルエさんのフェロモンがなくともやれてしまった……!
う……あの時の比じゃないせよ、急に恥ずかしくなってきてしまった……! どうかネルサ、さっきwaRosにやったみたいに、ハグで締めてくれると嬉……えっ!?
「ふひゃぁぁ……」
「ちょっ、ネルサ!?」
握っていた手を弛めた瞬間、ネルサが床に崩れ落ちたのだけど!? もしかして顔赤いの、体調不良だったとか……わ!? そのまま床にコテンと倒れ、手で顔覆って小っちゃくなっちゃった!?
「タンマっつったのにぃ……。もう……もう……マジもう、ホントもう、もう、あっすぅん! ダメだって、それぇ!」
「え、ご、ごめん……?」
「エグすぎっしょぉ…! ただでさえキャパいとこに、急にやってくんのガチめの反則ぅ…! ダメ、しんど…ハートぐちょどろにされちゃって立てないしぃ……!」
怒っているのか喜んでいるのか蕩けているのか判別つかない声を手の隙間から漏らしつつ、床に寝転がったままゴロゴロ悶えるネルサ。そして、その奇行に驚き様子伺いに来たwaRosのお二人をも巻き込んだ。
「はぁマジヤバぁ……。あーし、リアちんサラちんに続いてあっすんにもキュン死にさせられる……エモ殺されちゃう…! こんなんマジ昇天するって……復活魔法陣行きなるっつのぉっ…♡」
えぇと、少なくとも想いは伝わったみたい? ……ここまでの反応をされると、思わずこっちも悶えたくなっちゃう。恥ずかしくてwaRosのお二人の顔、見れないし……。なのに何故か彼女達から感服の視線を感じるしぃ…!
さりとて同じようにするもいかず首搔きでぐっと堪えていると、ネルサは『はふぅ~…★』と興奮と喜悦と羞恥が籠ったような息を吐き、上半身を起こして胡座の姿勢に。そして顔の赤みを振り飛ばすように顔をブルブルさせ、ちょっと頬をぷくっとさせて。
「てかほんとあっすん、ズルいっしょ……! 最近イケイケすぎん? この間の女子会もさ、あーしに王子様キスしようとしてきてさぁ★」
「んッ!?」
「「王子様キスぅ!?」」
ちょっとネルサ!? タンマ、タンマ!! それはその……あれこそ、一時の過ちというか、ピンチとフェロモンに浮かされたせいで……! 大体、王子様キスってのじゃないし! waRosのお二人もドン引き――。
「ど、ど、どういう流れで、どういう感じでネルっさん!!!?」
「その……詳しく、お伺いしてしまっても…!?」
してない!! それどころか、私がネルサ秘話を聞いた時よりも乗り気では!? あの……その……できれば聞かないで……!
「それがさ、あっすんマジで綺麗なんよ~! これ女子会の皆ので、これがそのイケイケあっすん直後の★」
ネルサぁ!? 速攻で立ち上がって写真取り出さないでよ!? えっと……良かった、あの副隊長衣装は写ってない。写ってないけど……!
「あっすんカッコ可愛くして遊んでたんだけど、良過ぎてべぜたんみたいにキスしたい~ってつい言ったんよ。そしたらさ……やりたい放題させてくれてたあっすんが、急に覚醒しちゃってさぁ★」
「か、覚醒…!」
「やはり先程のような、ゾクゾクさせられるような…!?」
「いやもうマジそう! ガチ惚れしちゃったもん! なんか服直して持ってた
「「おおおっ……!」」
「も、もうその辺に……」
「もうそこであーし、何も喋れなくなっちゃって! そしたらあっすん、頬をしゅるっと撫でてきて、顎クイしてきてさ? 固まっちゃってたあーしにふっと微笑んで、ちょっとペロッて唇濡らして、『じゃあ…………する?』って★」
「はわわわ……!」
「きゃーっ♡♡♡」
「ぅぅ……!」
「絶対あーしの奪われちゃうかと思ったもん! 心臓爆鳴りで破裂しちったもん! ちょっとエッチになっちゃうけど、触手で縛り上げられてお仕置きされてた感じでさ★ や~、あっすんが解放してくれた瞬間、悲鳴上げながら自分の席に逃げちったわ★」
絶対必要以上に私のイメージが変な方向行っている気がする! ネルサもwaRosのお二人も止まらないし! もう、もう……やっぱり私も床で悶えたい!!!!
「皆可愛いわねぇ♪」
「えぇ」
って、社長! プロデューサーさんに抱えられ、後方腕組みしないでくださいっっ!!!
――コ、コッホン! もう今度こそ本当に、仕事に戻ろう! いやだから、今まで仕事していなかったわけじゃないんだけど。ほら、その……えと……。
……ここから先は、アイドルのポスターとかも減るスタッフゾーンだし…? 違う、これだと私がなんだか職務に不真面目みたい…! じゃ、じゃあ、姦しさで他の方々の作業を邪魔しないようにということで……。
なんで私、言い訳探してるんだろ…! それはさっきのが今になって恥ずか……もう! ともかく、仕事仕事! ダンジョン調査!
少し言い訳の種に用いてしまったが…ここから先はスタッフのためのエリア。先程までの場所と比べ地味度は増し、道の端には道具類が詰まった箱が殺風景に置かれていることも。そして掲示物は伝達文書やらが占めている。
ただしその中にも、時たまにアイドルアーティスト達のお礼サインやスタッフ達の笑顔な集合写真が飾られてたりするのだけど。それらには当然のように、ふふっ! ネルサが必ず入っている! さすねる、ここでも本領発揮!
っと、いけないいけない。またそっちの方向に話が行ってしまうところだった。後ろ髪は引かれるけれど、今はぐっと堪えなければ。じゃないと、絶対楽しい方に流されてしまうもの! 集中してと――。
「アスト、左ルートがチェック8。右ルートはチェック5」
「はい。危険度は如何ですか?」
「んーそうね。どちらも普段は3、最高でも39程度かしら」
「承知しました。では繁忙期には多少巡警を増やす形で」
「そうしましょうか。あぁ、でも一応――」
「確認しますね。リアさん、サラさん、少しお話を伺っても?」
「「…………」」
「あれ? リアさん、サラさん?」
「……へっ!?」
「あ…ごめんなさい。なんでしょう?」
なんだかお二人上の空だった? でも私達を見つめていたような……まあそれは置いといてと。
「この辺りの人通りはご存知でしょうか?」
「えっわかんないかも…。ヤバ…案内役買って出てんのに…」
「私達はこの辺りには顔を出さないもので……」
「ふふっ、いえいえ。寧ろその回答は有り難いです。この辺りの警戒レベルを設定するのに役立ちますから。――とのことです、社長」
「なら調整。危険度最高値を15ぐらいにしといて」
「承知しました」
社長を抱えたまま、魔法で空中に浮かべている、事前に頂いていたダンジョンマップにこれまた魔法で書き込みを。こういうダンジョンは完成されたマップがあるのがとても有難…あれ、ネルサが小首を傾げて。
「あーしには聞かなくていいん?」
「えぇ。今のは『管轄外の人がどれほどこの辺りを訪れるか』を確認するための質問なの。ほら、その場に慣れている人ほど異常を把握できるでしょう? 置いてある箱が無くなっているとか、顔の知らない人がいる、とか」
「あーね★ あ、そーいう!」
「ふふ、えぇ。逆の場合…管轄外の人の場合、その異常を把握できないために襲われる可能性が高くなるの。だからこそ、その頻度を確認したという訳。お二人にはコンサートエリアの代表として、ね」
「はえ~★」
「最も、あくまで概算尺度だけれどね。それでも精度は高めだから安心して。なにせ社長、道の先がどうなっているかに始まって、その場の平均往来人数や設置物潜伏場所の有無すらも感覚だけで精確にわかっちゃうんだから!」
「えっへん!」
「おおお~っ★ さすしゃちょ~!」
胸を張る社長と、パチパチ拍手するネルサ。と、waRosのお二人のヒソヒソ声が。
「アストさんカッコよ…! 見惚れちゃってたんだけど…! 魔法使いこなしてるし、社長さんとツーカーじゃん…!」
「仕事の時の集中されている顔と、私達へ話しかける優しい顔、ネルっさんへ説明する友人の顔。全て違って、全て素敵ね…!」
「あらあら、完全にアストにやられちゃったわね~? いいでしょ、私の秘書!」
ちょっと社長、お二人に変に絡まないでくださいよ! …まあおかげでにやける顔を誤魔化せるのだけど。平常心、平常心で凛々しく続きを…!
「ネルサ。今の段階での推算になるけれど、派遣総数はこれぐらいで、費用はこれぐらいになるかな。代金は普通に金銭支払いで良かったんだよね?」
「いえーす★ どれどれふんふん★ オッケー全然よゆー!」
「良かった! それでこのエリアごとの配置数予定についてなんだけど、この後回る場所を重点的に、の方が良いよね?」
「おおっ! そ~そ~! それお願いしたかったんよ! 何も言ってないのにスゴ~っ!」
「ふふっ、有難う。それを加味したのがこの図なんだけど、今の内に聞いておきたいことが…プロデューサーさんも是非ご意見をお聞かせください」
社長がwaRosのお二人で遊んでいる間に、こちらも三人で簡単に運用確認を。成程成程――。
「――では、そのように。エリアの状況によりますが、その方向性で考えさせて頂きます」
「お願いいたします。まさかそこまで気を回してくださるとは……」
「や~★ やっぱりあっすん、
「駄目って言ったでしょネルサちゃんっ!!」
わっ!?社長が急に。なんか少し語気強い気が。そこまで焦らなくとも…。
「にっひっひ★ じょ~だんじょ~だん! あっすんはしゃちょ~とのコンビが最強だもん★」
ごめんごめん★と謝り笑うネルサ。その通りですとも、いくらネルサに乞われようが、転職はしませんから! …あ、でも。
「なら事務や経理ができるミミックも在籍しているけれど、どう? その分ちょっと契約内容変わるけど」
「ウソそんな子までいるん!? あっすんのとこ、しごでき多~! 超アリ★」
「――それでは次のエリアへと向かう前に少し休憩を挟ませて頂きますね」
「「「は~い!」」」
このエリアでの調査を終え、一旦小休止を。私達にとっては簡単なダンジョンなためにサクサクだったのだけど、付き合ってくれているネルサ達はそうはいかないだろうから。
それに、この休憩時間で色々とお喋…こほん、お話を伺いたいところだし! ふふっ、何から――おや、社長が袖を引いて?
「ね、アスト」
「はい、何で――…っ」
この感じ……。
それも、waRosやプロデューサーさんをここに残して。なら――。
「すみませんが、少々お手洗いに。皆さんはここでお待ちください」
適当に誤魔化してと。では社長を連れて、この場を離れると……ん、どうやらネルサにはついて来て欲しいみたい? じゃあ、他の方々にバレないよう、目配せを……。
「――! …んじゃ、あーしもあっすん達と一緒に行こ~★ グリモワルス★お化粧直し~! あ、折角だしあの王子様ヘアにしてあげよっか?」
「あら良いじゃない! 久しぶりにあれ、見たいわ!」
「もう、揃いも揃って…! ……ふふ」
「にひひ…★」
さすねる、ここに極まれり。パチリとウインクで応え、一緒に来てくれた。さらりと三人だけになりやすい台詞まで残して。お見事。
――さて、社長は一体何を? ともかく、信じてついていくとしよう!