ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
「…一応お聞きしますが、本当にお手洗いではないですよね?」
「そうっしょ~★ だってこっちの道だと~…★」
浮かべたままのダンジョンマップを覗き込みながら、私とネルサは確信の頷き合いを。それもそのはず、今進んでいる道は化粧室とは
「んま、見てからのお楽しみ……って言っちゃいけないわね。良い事ではないから」
そして社長の返答も、何処か真剣なもの。少なくともこの休憩時間を使ってコンサートの大道具やアーティストの方々を見に行く…といった物見遊山ではなさそうである。
「さ、あまり皆を待たせる訳にもいかないし、ちょっと急ぎましょうか」
少し早歩きを指示され、更に化粧室のある方角から、
「ここは……」
「はれ? さっきも通ったトコじゃん?」
ネルサが小首を傾げた通り、この通路はつい先ほど皆で歩いた場所の一つ。けれど……。
「ん? あっすんどしたん? うえっ!? ここの警戒レベル、ヤバめじゃん!?」
そう。実はここの警戒レベルは85。かなり気をつけなければいけない場所なのだ。下手に口にして怖がらせてはいけないと思い、社長とのアイコンタクトで済ませていたのである。とはいえ。
「でもあーし、ドコがヤバいかわかんないかも……」
ネルサが困惑するのも致し方の無い事。確かにこの通路は閑散とこそしているけれど、灯りが切れかけで暗闇気味、とか、何処か不気味で何か隠れていそう、とか、貴重な物が置かれている、といった見て取れそうな異質さはないのだ。
掲示物や小部屋等の差異はあれど、他の場所とほぼ同じ。それどころか、他の通路よりもなんだか明るめで寧ろ通りやすい感じがするほど。警戒という言葉は的外れにも見えるが…事実そうなのである。ミミック以外にとっては。
「さっき説明しそびれちゃったけど、この尺度はあくまで派遣するミミックが見張るべき場所の…それも、ダンジョンの傾向に慣れるまでの参考とする程度のものなの。だからミミック以外にはあまり意味をなさなくて」
「この道がどう接続してどこへ向かうか、周辺との雰囲気及び環境の比較、狙われている物の存在や距離などなど、全てを加味したのがその警戒レベルなのよ。言ってしまえば、『部外者が選びやすい道』ということね」
私の説明に続き、社長も。…やっぱり。薄々感づいていたけど、やはり
「それで、ここで一体何を?」
「迷ってたから放っておいてたけど、場所移る前に処理しとかないとねぇ」
成程。道理でwaRosの方々を置いて来た訳で。そして、依頼主たるネルサを連れてきた理由も納得である。当の彼女は未だ首を傾げ気味だが、まあ見てもらったほうが早――……。
「正面、来たわよ」
っと。社長の言葉に私達は前を向く。すると丁度、向こう側の角から曲がってきた人影が。私のように、社長の入っている宝箱より大きな木箱を抱えながら。
しかしその姿は何処かおっかなびっくり。箱が重いというよりは、迷ってしまって不安になっている様子。そしてその推測は正しいのだろうが……それだけではないのもわかる。
抱えている木箱のせいで分かりにくいが、その目は背後や周囲を警戒するように忙しなく、されど訝しまれない程度に動いているのだ。加えて、急ぎ足になりたいのにそれを無理やり抑え込んでいるのも見て取れる。
恐らく今まで幾度か他のスタッフとすれ違い、
ただしそれでほっとしたせいか、人がいないと目していたせいか、正面を見るのが疎かになってしまったようで。こちらには全く気付いていない。
なら、まずは気づかせてしまおう! 私の背にネルサを隠し、今は何も喋らないように指立てウインクで合図してから――。
「あ、こんにちは~!」
「こんにちは」
社長の手指示で、ゆっくり進みつつ挨拶を。すると相手はそれに一瞬身を竦め、目を白黒させながらも返してきた。
「っあっ…!? こ、こ、こんにちは…!」
そして一礼をし、早足となりすれ違わんとする相手。ははぁ、ちょっと人見知り気味の方で……な訳ないでしょう!
「はれ? キミ~?」
「っっっ!? ね、ネルサさま…げほッ、ネルサ、エグゼクティブプロデューサー!!?」
私達の横をすり抜けようとした瞬間、私の背からひょっこり顔を出したネルサ。それに一気にむせ返り、その相手は足を怯ませる。畳みかけるなら今!
「丁度良かった! スタッフの方ですよね? すみません、トイレどこかわかります~?」
「私達今日からここへ来たのですけど、迷ってしまって……。ちょっと限界が……」
「え……あ…ぅ…! え、えっと……!」
社長と私のコンボを無視するわけにもいかず、しどろもどろになる相手。そこへ更に追撃を。
「あら? もしかしてスタッフの方じゃなかったかしら???」
「でも首からスタッフ証をかけてますよ???」
「っそ…うっ…そ、そう! た、確かあっちの道に! あると……あり…ます!」
今来た道側の別方向を慌てて指すその相手。そしてこの場を離れようと足に力を入れ――させはしない!
「おっっかしいわねぇ。あっちにはトイレないわよねぇ?」
「ですね~。というよりこの辺りにはありませんでしたね~」
「っ!?!?!?」
もはやあからさまに挙動不審となる相手。混乱の渦中からわき目もふらず逃げ出そうと、顔を伏せて――。
「ちょ、ちょっと忙しいので…。ネルサさ……ネルサエグゼクティブプロデューサーに聞いて……! その…ごめんなさ……――」
「そりゃあ、無理な相談ね☆」
瞬間、社長の声色が変わった。能天気を演じていたそれは、いつもの可愛いながらも研ぎ澄まされたそれに。最も相手がそっちに気づく余裕はないだろう。なにせ伏せた顔の先、身体に絡みついているのは社長の――。
「ひッ!? しょ、触手ッ!?」
「アイドルは~~トイレ行かないのよっ!」
「びゃああああああっ!?」
はい、台詞の真偽はさておき。社長は相手を空中半回転させるほどの勢いで引き抜き、そのままバクッと宝箱の中へと! 処理完了である!
残されたのは、抱えられていた木箱とかけられていたスタッフ証のみ。場には最初の静けさが舞い戻ってと。
「ま、こんな感じねネルサちゃん。ちょっと遊び過ぎたけど、見つけ次第こうして片付けるわ」
私の腕からぴょんと飛び降り、床に落ちた木箱を開けて見せる社長。一連の出来事に目を丸くしていたネルサは、それを覗き込んで更にびっくりした顔に。
「わっ!! これ、物販のグッズじゃん! こっちは衣装だし、こっちのはライブの小道具! 今日使ったのもあるし! ケータリングのお弁当とか飲み物とかも……誰食べた後っぽいのまで幾つかあるんだけど…!」
出るわ出るわ、木箱の中からは色んな物が。しかしどれもがアイドル関係のものであるのは火を見るより明らか。そしてこっちは。
「このスタッフ証も偽物ね。使われている紙やインクが違うもの」
落ちていたそれを拾い上げ、魔眼で確認しつつ肩を竦めてみせる。それでネルサは理解したのだろう、腑に落ちたように手をポンと。
「そっか、あの人がその『部外者』! ど~りでスタッフにしては見覚え無いな~って思ってたんよね★」
そう。あれこそが部外者――もとい、このダンジョンへの侵入者だったのだ! 冒険者な格好ではないものの、盗賊紛いのことをしていたのはお分かりの通り。
だからこそ社長はwaRosの方々に仔細を伏せ、依頼主であるネルサだけを連れて片付けに来たのだろう。ふふっ、
「はぁヤバ~…マズいトコだったんだ…! さんきゅ★しゃちょ~!」
「これが私達のお仕事だもの。寧ろ腕を見せられる良い機会だったわ!」
窮地であったことに息吐きお礼を述べるネルサへ、気にしないでと告げる社長。確かに見事なデモンストレーションとなった。ネルサ、感激しっぱなしだし。
「うわでも色々スゴだったわ~★ 2人共マジ息合いすぎっしょ★ やっぱ最強コンビしか勝たん★」
……なんかちょっとポイントがズレてるような? と、そこでネルサは何かをハタと思い出したようで。
「てかしゃちょ~、つ~ことは気づいてたん? さっきの人が色々やってたコト」
まあそういうことであろう、なにせ社長だもの! 当然、本人もしっかりと肯いてみせた。
「えぇ。ずっとダンジョン内をあっちこっちにウロウロしてたわ。勿論、こっちに気づかないよう近づかないよう、もしもの時に逃がさないように捕捉していたから安心して頂戴ね」
「そんなんもできるん!? すっごッ~!!」
またも感嘆の声を上げるネルサ。……が、直後になんだか言い出しにくそうに?
「…因みにさ★ その人って、まだ生きてたりする?」
「今のとこ気絶させただけよ。ほら」
先程捕まえた侵入者をペッと吐き出してみせる社長。床に転がったその侵入者は確かに気を失っている。恐怖と悔恨で顔が歪んでいるけど。ネルサはそれをしげしげと眺めながら、またも言葉を選ぶように。
「えーと…★ この後ってさ、どうするん?」
「基本は復活魔法陣送りだけど、勿論依頼主の意向に従うわ。ここはダンジョンとはいえ、血生臭いのはお断りでしょうしね」
社長の答えを聞き、何処か安堵した様子を見せるネルサ。そしてバツが悪そうに頭を軽く搔いた。
「いや~★ せっかくバクッてくれたのに、我儘言っちゃうんだけどさ~……多分この人、ファンの1人なんよね。な~んか顔見たことがあって」
おお…! ネルサ、一人一人覚えてるんだ。あれだけ沢山のファンがいるのに。
「そうね。さっきのライブにも居たもの。M1の39番席だったかしら」
んッ!? 社長も!? あれだけの人数が集っている暗闇の中で、そこまで!? いや社長ならやろうと思えば容易く出来るだろうけど……もしかして?
「社長、ちょっと張り切ってます?」
「ん? ん~、ネルサちゃんに良いトコ見せたいというのもなくはないけど、結構普段通りなのよね。ライブ終わるまで仕事忘れるぐらい楽しんでちゃってたし」
つい私が口を挟んでしまうと、社長は先程までを振り返ってみせる。が、そこで『けれど』と付け加えた。
「ただ、あれね。なんだかこのダンジョンでは他のとこより感覚が鋭敏になっている感じはあるわね。それこそ常に箱の中にいる気分、かしら。ミミックの感覚だから分かりにくいでしょうけど」
何ででしょうね? と頭を捻る社長。もしや社長もアイドルの熱に当てられてテンションが上がっていたとか――。
「あ! あーしわかったかも!」
おや? ネルサがはいは~い★と手を挙げた。何かわかったみたい。
「あれじゃん? ライブ会場のこと、よく『ハコ』っつ~し! それだったり★」
いやいや……。そんな訳無――。
「あ~!! それなら納得できるわね! そっか、それも派遣する子に説明しとくべきね☆」
ええええっ!? そんな訳あるの!? 双方冗談言ってる様子はないし! え、えっと……ミミックってまだまだ奥が深い……。――あっと、そうだった。
「ネルサごめんね、話の腰を折っちゃって。この人をどうするか、だっけ?」
「あ、そ~そ~あっすん! ちょっち待ってね……」
いうが早いか、ネルサは気を失ったままの侵入者の傍へしゃがみ込み、軽く魔眼発動を。そして確信めいた小さい頷きと共に、お仕置きを与えるように侵入者へデコピンをピシリ。そのまま社長へ頼み込むように手を合わせた。
「えっとねしゃちょ~。だからさ、ちょっ~とだけ、復活魔法陣送りは可哀そうかも~……かなって★」
「出禁でも良いでしょうに、優しいわねぇ」
「すっごく悪かったらそれでもいっかなって思ったけど…。やっぱ割と罪悪感つ~か、後ろめたさあるっぽくてさ★ まあ、今回だけは~的な?」
親睦眼で自身に向けられた好感度を見て判断を下したのだろう。そうお願いするネルサに対し社長はクスッと笑い、ポンと胸を叩いた。
「大丈夫よネルサちゃん。しっかりファンのマナーを叩きこんでから解放してきたげる☆」
「お! それ最高なんだけど★ さすしゃちょ~話が分かるぅ~♪」
……社長のスパルタを知る身としては、その叩きこむ発言の方が恐ろしいけれど…ここは黙っておこうっと。ファンの1人としては、それぐらいの灸は受けて貰わないと!
だって、アイドルのデコピンはお仕置きにはならないだろうし!
「――ね、わかる! は~…! やっぱグリモワルスの方々ってどの人もあんな可愛いのかなぁ」
「うふふっ。リアったら、その発言は畏れ多いんじゃないかしら?」
「なによ! サラだって今の今まで熱弁してたくせにっけほ! あ、やば。ちょっと喋りすぎたかも?」
「お二人ともこちらをどうぞ。どうか水分補給はしっかりと」
「ありがとプロデューサー! …そういえばライブ前に失くしたお茶、何処行ったんだろ?」
「あれ無くなりかけだったでしょう? 気にしなくても良いんじゃない?」
「ま、ね。 あれ、そう言えばネルっさん達まだ?」
「そう言えば皆さん遅いわね。迷ってしまった…ことはないでしょうけど――」
「お待たせ~い★ ごめごめ、ちょっち遅くなっちった★」
休憩中のwaRosの方々の元へ、片手を振って戻っていくネルサ。そしてもう片手で……。
「じゃ~ん! やってきちゃいました★あっすんカッコよモ~ドぅ★」
「ど、どうも…………」
「「「おおお~っ!!!」」」
結局髪型を変えられた私を引っ張りながら…! その場誤魔化しの発言だと思ってたのにぃ…! そ、そんな歓声挙げられても…!
「ほ~らあっすん★カッコよくカッコよく★」
「ちょっと待って……もう一回深呼吸させて…! こ、こんな感じ?」
「アストさんヤバ! スーツと似合っててすっごく良い!」
「まるでプロデューサーが増えたみたいね♪」
「お! サラちんナイスアイデア! あっすんPちゃん、並んで~! 互いの肩を斜めに合わせて~それ持って…はい★決めポ~ズ★」
「「おおおおお~ッ!!!」」
「これ良いわ~★ プロデューサーユニットとかアリかも!」
暫しの間弄ばれる私と、藪から棒に巻き込まれてしまったプロデューサーさん…! と、そこへ――。
「あらあら。随分と素敵な秘書がいるわね」
救いの手、もとい社長が合流。例の侵入者を(マナー叩きこんでから)解放して来てくれたのである。因みにあの木箱はネルサの召喚獣が運んでいってくれた。ともかく、これでようやく私もプロデューサーさんも解放された…!
「そういえばネルサちゃん、さっきお手洗いで聞きたかった続きなんだけど……ファンにも悪い人がいるんでしょう?」
私の腕に収まりつつ、話を変え…というより仕事の話に戻してくれる社長。ネルサにウインクして、万事上手くいったことを伝えながら。そしてその切り出しはさすしゃちょ~である!
それがさっきの一件と繋がっていることは明白だが、実はその問題こそが、前に述べた『ミミック警備の延長の、他にも色々とやって欲しいことがある』内容の原因にして、聞くタイミングをずっと窺っていたことなのだ!
「あ~ね。ん~まあ、ぶっちゃけちゃうと、ね~。悪いっつ~か、ちょい大変…つ~か?」
…が、ネルサの歯切れが悪さ先程以上。ただし、社長のウインクに気づいていない訳でも、隠し事がある訳でもない。これまた理由はあの侵入者の時と同じだろう。優しいからこそ、万人を慮る彼女だからこその。
「巷では『厄介ファン』、あるいは『厄介オタク』って呼ばれてるらしいじゃない。丁度最たる被害者もいるし、少しお話を伺っていいかしら?」
安心して、声の聞こえる範囲には誰もいないわ。と指立て微笑みでwaRosの方々へ目配せをする社長。するとリアさんサラさんもまた、言葉を選ぶように。
「被害者…ってのもアレだけどさぁ…。まあ……ぶっちゃけた話、ホント厄介かもだけど……」
「極少数ですし、ファンの方々を貶めるようで気が向かないのですが……事実ではありますわ」
そのどんなファンも守ろうとする姿勢、見事なまでにアイドルだが……どうか私達には打ち明けて欲しいところ。幸いな事にプロデューサーさんが後を引き継いでくださった。
「確かにそのような方々は常に存在いたします。ファン同士の諍いに始まり、握手会、撮影会、ライブでの妨害行為等。行き過ぎたアイドルへの熱意好意が空回りした結果と言えるかもしれません」
彼は少々オブラートに包みつつも的確でわかりやすい解説を。そして珍しく苦々しい表情を浮かべ、溜息交じりに続けた。
「例をあげるとするならば、『ライブ中に不必要に暴れ、ともすればステージへの侵入を試みる』、『アイドルと触れ合えるイベントで制限時間以上に粘り、セクハラを行う』『ストーキングや窃盗等の犯罪行為を起こす』――上げればキリがないもので…」
本当にキリがないのだろう、なにせその一部は私も今しがた見てきたぐらいだから。全く、それらが悪意から来る行動でないとはいえ、どう迷惑がかかるかを考えて欲しいものである!
「あー思い出したら腹立ってきた! もーいいや、アストさん社長さんの前だし! そういう人って当然
「私はさっきのライブで客席に降りた時、お尻触られかけたわね。躱したし、ちょっと睨んであげたら慌ててひっこんだけれど。本当、面倒なのよねぇ」
あ、話の流れに押され、リアさんサラさんもとうとう鬱憤を暴露してしてくれた! ふふっ、お二人の性格上、そう言ってくれた方が似合っている! なら私達も応えないと!
「ご安心を! 派遣するミミックは、そういう方からも皆さんをお守りします!」
「とっても優秀な警備員と思って頂戴ね☆」
「おお~! 楽しみかも!」
「期待しちゃっていいかしら♪」
私と社長の堂々とした返答に、waRosは心弾ませてくれる! ええ、その期待は絶対に裏切りませんとも! ――あ、でも…。
「ネルサ、ひとつ聞きたいのだけど」
「ん★ どしたんどしたん~?」
「このダンジョンの形式的に、アイドルの方々って夜には帰宅…ダンジョンを離れるのでしょう? それだと一部の対応は出来なくて。ほら、ストーカーとか」
実は、今しがたのプロデューサーさんの発言が少し気にかかっていたのだ。それがそのストーキング行為。無論ダンジョン内であればミミックが素早く対処するだろうけど……ダンジョンを離れられてしまうとそうはいかない。
何分ミミックはダンジョン内をメイン生息域とする魔物。多少ならいざ知らず、長時間だと守り切ることは出来なくなってしまうのだ。その点だけはどうしようもないのである。
「そこなんよね~★ ミミックに100パー守ってもらうにはダンジョンに居なきゃだもんね~。ん~~…」
悩む様子のネルサ。けれど私、即興で対策案を考えてみたのだ! waRosの前でちょっと格好良く決めたくて…! 最もこれ、私達ではなくネルサ達側を変えてもらう方法だけど……――。
「ならダンジョンらしく、ここへ住み込んで貰うというのはどう?」
「良いわねそれ! それならどんな時もミミックが近づけさせないわよ?」
良かった、まずは社長からは賛成が頂けた! そう、元よりダンジョンというのは棲み処として形成される代物。それを下地としているのだから活かさない手はないのだ!
「あ~っ!! そっか、寮的な★ それ、超アリかも! 結構行き来メンドがってる子多いんよね~★」
続いてネルサからも、ナイスアイデア★と! 後は肝心のwaRosの方々だが……。
「ど~う? リアちんサラちん?」
「是非! アタシも家から割と遠いし、ここは街近だから困ることなさそう!」
「レッスン室やボイトレ施設も完備してますもの、こちらからお願いしたいぐらいで♪」
やった! 通った!! うんうん、それも利となるかなって思っていたのだ! これから赴くラストエリアが、そのアイドル達が利用するための設備が揃っている場所で――。
「イイねイイね~★ なら丁度他の子達いるし、皆に聞いてみよっか★」
――ふふっ、では休憩を切り上げ向かうとしよう!
「おっじゃま~★ 皆、レッスンおつかれ~い★」
「――3、4…あんらネルサPちゃん! お疲れ様~!」
扉を潜った先に、軽やかに挨拶をするネルサ。それに返したのは、レッスントレーナーと思しき方。そして更に――。
「あ、ネルっさんだ~!」
「おおう、ホントやん!」
「先程のライブ、カッコよかったっす!」
「あ、やっぱアナタ隠れて見に行ってたのね!」
ネルサに気づくや否や、一斉に声を輝かせたのは幾人ものアイドル達!! わ、凄い! さっきのポスターで見た子達も沢山!
「アタシ達もいるわよ!」
「ふふ、結構な人数、舞台袖から見てたでしょう?」
「リア、サラ! あはは、バレてたか~♪」
「ヘヘッ、それでどうした? 揃って居残り練かぁ?」
「ハッ、バカ言わないでよ。ネルっさんにハグ貰ったぐらいよ!」
「完璧、って言っても良いんじゃないかしら?」
「きひひ~。ま、あれは文句無しだわな~」
「お前達も見に…!? くっ、私らも見に行けばよかったな…」
更にwaRosも加わり、場は和気藹々と! 十人十色多種多様なアイドルながら、仲の悪い様子の子は全く見受けられない。これこそネルサの魔眼と腕前の成果なのだろう。
そして一時中断となってしまったが…ふふ、アイドル達が華美な衣装ではなく動きやすいスポーティーなレッスン服とタオルを纏い、ステージ上と変わらぬ眩しい汗を散らしているレッスン光景はコンサートの輝きに勝るとも劣らない!!!
…こほんっ。先程述べた通り、このエリアこそが今日最後の調査場所。言ってしまえばレッスンエリアで、アイドル達が日々練習に励んでいるゾーンなのだ。ミミック警備が重要な理由も一目瞭然で――。
「ちゅうも~く! あーし、新しい警備員さんに来てもらう話、したっしょ? あーしのずっしょが居るとこからさ★ そんで今日、事前調査に来てもらっちゃいました~★」
ちょっとネルサ! またそうやって……あぁもう腕引っ張ってきて…! 仕方ない、今度こそやらかさずにっと。
「こっちがね、ずっしょのあっすん! そんで抱っこされてるのが、ミミンしゃちょ~★」
「初めまして、アストと申します。ミミック派遣会社より参りました」
「ミミンで~す☆ ミミック警備員をいつでも頼ってちょうだいね☆」
「ほわわ…! 素敵な御方ですぅ…!」
「オー! まるで貴族のイケメン御令嬢様デスネ!」
「いや……勘だけどマジモンじゃ……?」
ううん…今回は名乗りきらないようにしたけれど、ちょっと危なかったみたい。髪型のせいだろうか。まあもう気にしすぎは良くないか!
「わわぁ…! わたし、ミミックってはじめて~…!」
「ちっちゃ~い! かわいい~! ね、抱っこしていいですか?」
「随分と明るいミミックの方で…。あぁ、失礼を…!」
そして社長も可愛がられている様子。うんうん、ミミックへの抵抗が無いのは何より。警備の仕事も上手くいきそう! 後は――。
「そんでさ★そんでさ★ あっすん達から良~いアイデア貰っちって★ このダンジョンに寮的なの作って、皆で住むの、ど~う?」
それならどんな時もミミックが警備できちゃうし★ と、ここに来た本題を皆へ披露するネルサ。わざわざ私からなんて言わなくても良いのだけど……反応は?
「「「「「えっ! やった!」」」」」
「「「「「それは、うんっ!」」」」」
「「「「「さんせ~いっ!」」」」」
わわっ!? まさかの全員即決賛同!? ここまでとは……! 盛り上がるアイドル達に聞き耳を立てると、色々な声が。やはり家とこことの行き来が面倒だったというのも多いし――。
「ここを出るとすぐ張ってる人いるもんね~。ファンも記者も」
「ね。プロデューサーさんとか居てもお構いなしなの酷いわ」
「以前、家の近くまで追いかけられたことがありまして。怖かったです…」
「「「私も私も!」」」
そういった嘆きも。やはり悩みの種だったらしい。今の提案のおかげでそれが安堵交じりとなっているのが救いである。それをにこにこ楽しそうに聞き、ネルサは胸をパンと叩いてみせた。
「よっしゃ★話、通してみんね★ 期待しててよ~♪」
「ネルサPがああ仰る際は絶対に通ります。ミミックの方々には長くお世話になりそうですね」
よろしくお願いしますと頭を下げるプロデューサーさん。ふふっ、はい! お任せください!
このダンジョンの『お宝』は、ミミックが守ってみせますとも!
――とはいえ、それは派遣する子達の役目。このレッスン室に来るまでに調査は終えてしまったし、私の出来ることはこれにて完了となってしまった。
だからもう後は帰社するだけ。本当名残惜しいけど、waRosやアイドルの方々に別れを告げ去らねばならない。これ以上レッスンの邪魔する訳にもいかないもの。
「ネルサ、じゃあ私達はそろそろ……」
「あ、ね~ね~★あっす~ん★ もうちょい時間ある~?」
が、その旨を伝えようとしたところ、逆にネルサにそう聞かれてしまった。後ろ髪を引かれているぐらいだもの、直ぐに頷いてみせると――。
「折角だしさ★あーし達もレッスン参加していかな~い?」
「えっ!?!?」