ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 とある陰キャっ娘と偶像①

 

その、ここは……『コンサートダンジョン』…なんですが…! その名前の通り、色んな方々が…アイドルの皆さんが、コンサートを…ライブをやる、あの有名な…!

 

 

そ、それでその中の一つ…とある会場に私はいるんですけど……ライブ前だから、お客さんはいっぱいで……。特に一番前のファンの方々の楽しそうな会話が良く聞こえて来てて……えと…。

 

 

「――今回も最前列取れてよかったなぁ! しかもあの『waRos(ウォーソ)』の!」

 

「いつもの如くエグい倍率でしたしねぇ。ほんと、良く勝ち抜けましたよ」

 

「なのにこの面子で揃えたなんて、奇跡というしかありませんな!」

 

「いーや、あたしらの日頃の行いよ! 品行方正なファンしてるからってね!」

 

 

あんな感じで…。あの方々、色んなアイドルを推してて…よく姿を拝見してて…! いつもテンション高くライブを盛り上げてくれるから応援隊長'sとか呼ばれてもいて…!

 

 

「――ね、そういえばさ。waRosのライブ前にあれだけど、噂の『M&A』知ってる?」

 

「勿論ですとも。デュフフ、あのお二人とwaRosは仲良し。問題ございませんぞ」

 

「…ん? もしかしてここ、どっかに買収されるのか?」

 

「違いますよ! って…ご存知、無いのですか!? 彼女達のことを!」

 

 

あ……! その話は…私も……したい……! け、けど私…話しかけられる位置にいないし…そもそもあの方達と話したことは…ほぼ……。

 

 

「あぁ『ミミン&アスト』か! あれほどチケット取れなくて悔やまれるデビューライブはないな!」

 

「あたしも。アーカイブ見たら度肝抜かれちゃったわ! あれヤバすぎない!?」

 

「うむ。小生、目が肥えている自信はありましたが…あのコンビは完成されておりましたぞ!」

 

「セクシーなアストちゃん、キュートなミミンちゃん、でも中身は逆なのがまたギャップ萌えでした…!」

 

 

そ、そう……! そうなんです…っ!! あのお二人の掛け合いはとても見事で、歌もダンスもパフォーマンスも何もかも素敵で、でもそれだけじゃなくて……っ!

 

 

「そして、初のミミックアイドルですよ! 色んな種族のアイドルがいますけど、初の!」

 

「ミミックって臆病が多いって聞くのにね。あんな快活な子もいるなんてビックリよ」

 

「そもそも存在自体がミステリアスな魔物だよな。そうだ、この間の『週刊モンスター』でも!」

 

「えぇ、『M&A』の特集が! あの雑誌、最近アイドル情報誌になりかけておりますからな」

 

 

うん…! あれ、私も買いました……! けど、その内容は……!

 

 

「いやぁあの特集笑いましたぞ。『M&A』を取り上げたは良いものの、取材は失敗続きのようで!」

 

「な! 少し目を離したら忽然といなくなってたらしく、記事のほとんどが憶測ばっかでさ!」

 

「それで穴埋め的にミミックの紹介をしてましたけど、それも謎まみれだからもうぐだぐだで!」

 

「あははっ! ネルサ様曰く、ミステリアスなアイドルで売っていくみたいね。ミミックらしいというかなんというか!」

 

 

ふふ…! そうみたいなんです…! なにせM&A、次のライブすら未定なんです……! けれど、きっとそれでも人気は高いままだと思います…! だって、あの初ライブで心を掴まれた人は大勢いますから! 私もそうだから…!

 

 

「なんでもアストちゃんはどこかのお姫様で、ミミンちゃんはその上司だって怪しいゴシップを聞いたが?」

 

「少なくともアストちゃんの方は、ネルサ様の幼馴染のようですよ。あのライブで仰ってました」

 

「そうそう、あのライブで変な光景があったってのも噂なんだけど、見た? 関係者席が…」

 

「ミミック、もとい宝箱まみれになっていた件ですな! あれこそまさに『ボックス席』で、デュフォッw」

 

 

楽しそうにお喋りする応援隊長の方々…。ぁぅ……私も交じりたい……。アイドルのお喋りしたい…! けどやっぱり私に話しかけられる勇気はずっとなくて……。いつもこうして、離れた位置から聞き耳を立てるだけで……。

 

 

それに、今私がいるところはいつもみたいな観客席の端っことかじゃなくて……。だからいつもみたいにライブ前後でこっそり窺う形じゃなくて…。だからあの方々のお喋りが良く聞こえるのですけど……。

 

 

あ、ううんっ! 違うんです! 私如きが最前列なんて、アリーナ席なんて! そういう席は応援隊長'sみたいな熱い方々の、アイドルから輝きを直に受け取るべき方々のためのところで、私風情は後ろの方でも…………でも、たまには…私ももっと、あの輝きを目の前で……。私もあんな風に輝きたくて……。

 

 

なのに……そんな私なのに、こんな場所に居て良いんでしょうか…!? こんな、身の程知らずなところに! だって、だってここ!

 

 

ステージの舞台袖なんですよ!!? 一流のスタッフの皆さんがアイドルのために動いている、あの!

 

 

 

ううん、違うんです! 私、スタッフじゃないんです! そんな大役……私なんかに務まらないですし……。

 

 

じゃ、じゃあなんでこんなとこにいるのか……は……。そ、その……私、お、おこがましいんですけれど……自分でも信じられていないんですけれど……そんな、全然、アイドルじゃ……。

 

 

アイドルじゃ…………アイドルに……アイドル……。私が……アイドル……。は、あはは……そんな訳な――。

 

 

「わっ!」

 

「ひゃいっ!?」

 

「もう、リアったら。ベルちゃんビックリしちゃってるじゃない」

 

「だってまた悲しそ―な顔してんだもん! いつものでしょ、ベル?」

 

「り、リア様!? サラ様!?」

 

 

急に私の背中に声をかけて脅かしてくださったのは…今日のライブ主役の、waRosのお二方!? と、リア様は溜息交じりに肩をお竦めになって……!

 

 

「ちょっと、もうアタシ達に様付けしなくていいのよ。アンタもアタシ達と同じ『アイドル』なんだし!」

 

「まあまあリア。まだベルちゃんは成りたてな身。憧れの私達(アイドル)と肩を並べられるとあってはね」

 

 

一方のサラ様はそう取りなしてくださって…! そして、魅惑のウインクを…――。

 

 

「それとも…憧れなのは『M&A』かしら? ふふっ♪」

 

 

「ふゅゃっ!? そ、それはどっちもでっ!! 『M&A』も『waRos』も推しで!! あ、あ、も、勿論他のアイドルの方々も国宝級の――ッ!」

 

 

「こら、サラ! 虐めてんのアンタのほうじゃないのよ!」

 

「ふふふっ♪ ごめんなさ~い♪」

 

 

今度はリア様が割って入ってくださいました……! はぁぁぁ……心臓、止まるかと思いましたぁ……。でも、お二人の掛け合いを間近で身近で観れて嬉しいというか…畏れ多いというか……。

 

 

……私が……そんなwaRosと同じアイドルだなんて……。リア様からそんなこと言われるなんて……サラ様に直接弄って貰えるなんて……。自分でも信じられなくて……。やっぱ、夢でも見てるんだ……あはは……。

 

 

「ほら! しゃんとしなさいっての、ベル!」

 

「ふぇっ!?」

 

 

リアしゃまが…私の頬をムニムニしてきてぇ…!? しょ、しょんな、何で…!?

 

 

「アタシ達の後輩アイドルとして、ネルっさん期待の新星として、ここでよく見ときなさい! M&Aに負けないライブ、魅せたげる!」

 

「うふふっ♪ ついてきなさいよ?」

 

「って、だーかーら! それアタシの台詞でしょーがッ!!」

 

 

サラ様も私の鼻をピンと押して、お二人らしい掛け合いをしながらライブスタンバイへと……! は、はい…っ! こ、後輩アイドル……瞬きしないよう、頑張ります…っ!!!

 

 

 

 

 

はい……そうなんです……。私、アイドルになっちゃったみたいで……。少し前まで、アイドルの追っかけをこっそりやっていた身なのに……。

 

 

いえそんな! ファンだなんてそんな立派なものじゃないんです!! ただ、アイドルやこのダンジョンのことを知って、そのキラキラな姿に、世界に、憧れるようになって……よく通ってただけで……。私も、あんな風になりたいと思って……なれるものならですけど……。

 

 

なったじゃないかって…? いやいやいや! なってません! 私はなれてません! 確かに、あの日…M&Aのデビューライブの帰り、あのお二人の姿に魅了され、聞いたばかりの歌を鼻歌にしてしまっていたら、何故かネルサ様……ネルサエグゼクティブプロデューサーが私をスカウトしてきましたけど!

 

 

それで、悪い冗談でも良いと思って、頷いて……。だって、あのネルサ様にスカウトされたんですよ!? 超超超超カリスマなあの方に、私が…いつも臆病で引っ込み思案でへたれで何も出来なくて陰な存在の私が!!

 

 

そんなの絶対夢! きっとライブの余韻で妄想してるんだとか思って! M&Aもネルサ様プロデュースだったし! いやでもあのお二人は元からネルサ様のお友達だったみたいだし、凄い人は凄い人と繋がっていると思った次第で……!

 

 

えっとだから、間違いなく私をスカウトなんてありえないことだし、現実じゃないし、幻惑魔法にかかってても良いやって受けたら…………現実で、奇跡で……。あれよあれよの間に……――!

 

 

っあ、ご、ごめんなさい! 私も今の状況がよく理解しきれてなくて……! 変な説明を……! え、えっとですから、その、私もアイドル、の、一員というか……そうじゃないというか……。

 

 

つまりその、まだ見習い…レッスンを積んでいる身なんです。ですのでデビューはまだまだ先で、売り出し方もソロかユニットかも決まってないので……だからアイドルとは言えなくて。

 

 

そんな私がスタッフ証を首に、コンサートダンジョン内を歩かせて頂けて…! それどころか、こうして舞台袖にすら入れて貰えてるなんて……! お金も払ってないのに……! おこがましくて、なんだか悪いことをしてる気分で……!

 

 

だからせめてスタッフさんのお力にならなきゃとお手伝いをしてみたんですけど、私どんくさいから、上手くできなくて……。スタッフさんは皆さん笑って許してくださいましたし、それどころか椅子とかまで用意して私専用のSS席を作ってくれたりも……は…あはは……。

 

 

皆さんあんなに凄いのに……私は役立たずで……。迷惑しかかけてなくて……情けなくて…。こういう自分が嫌で、アイドルを好きになったのに…。こういう自分を変えられるかもと思って、奇跡に手を伸ばしたのに……。

 

 

なのに結果は、いつもと変わらなくて……。あんなキラキラなアイドルには慣れっこなくて……。ぅう…やっぱり私は、こうして端にいるのがお似合いなんです……。まるでそれこそ、臆病なミミックのように……。

 

 

ううん、その例えはミミックの皆さんに失礼ですよね…。それに、ここで…このダンジョンでミミックさんのことを臆病と言うのはもっと失礼です。だって、ここにいるミミックさん達は――。

 

 

「おや、未来のアイドルちゃん? waRos登場まで秒読みなのに、ボクの方を見ていて良いのかい?」

 

「っへ、ひゃわっ!?」

 

 

び、び、び、ビックリしたんですけど!? 沈み込んでいたら、視線の先に…椅子の下に、ひょっこり寝転がってウインクしてきた方がいつの間にかいて! 彼女はクスクスと微笑むと、入っている宝箱と共にしゅるっと出て来て…!

 

 

「ほらベル、前を向いて。今日も一緒に観劇しよう!」

 

 

灯りの落ちていくステージへ目を誘いながら、私の横に落ち着くこの方は、はい、ミミックなんです…! 『リダ』さんと仰る方で。

 

 

その、色々とライブを覗かせて貰っている際に幾度も顔を合わせたことがありまして。なんでも、ミミック警備員さん達の主任役を務めている方のお一人らしく……。

 

 

あっ、あっ、そうですよね、その説明をまだしてませんでしたよね…! えっと…でもどう話せばいいか……あ、そうだ…!

 

 

さっき応援隊長さんのお一人が仰っていた、『まさにボックス席』のお話……あの沢山のミミックさん達って、ここのスタッフをしてくれている方々だったみたいなんです。裏話的なあれですけど……。

 

 

あぅ…すみませんすみませんっ…! 何も説明できてませんよね…! そ、その……このコンサートダンジョンでは、こちらのリダさんのような凄腕のミミックさん達が色んなスタッフを務めているんです。

 

 

私もミミックって隠れているイメージとかあって、…ちょっと親近感もあったんで、ここに来てから驚かされっぱなしで。さっきみたいにびっくりさせられることもあるんですけど……。

 

 

えとそれで、どんな風にスタッフしているかなんですけど――。

 

 

「さあ、開演だよ…!」

 

 

え、リダさ、あっ…あっ! パッとついた鮮やかな灯りに照らされ、waRosのお二人が! スモークとミュージックと共にステージ下からせり上がって!! 歓声の中、キラキラに輝いて!!! 

 

 

始まる、始まりますっ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「「剣を♪心を♪ 勇気を掲げろッ♪ Swordy Hearty,Bravely♪♪」」

 

 

はぁぁぁ……! やっぱり、素敵です…! 格好良くて、可愛くて、美しくて…激しくて、掻き乱されて、昂って!! waRos、最高ですッ! 私も、いつかあんな風に……!

 

 

なんて、無理ですよね…あはは……。はぁ……。私自身、このままじゃダメだとはわかってるんです……。アイドルやりたいんですから…あのネルサ様にスカウトして頂いたんですから。

 

 

でも…私だけだとどうしても悶々としちゃうので……こうしてライブを覗かせて貰っているんです。一流アイドルの方々の精神を、臆病なはずのミミックさん達の仕事ぶりを見て、勇気を貰うために。

 

 

へ?は、はい。ミミックの皆さんは会場のあちらこちらで動いているみたいです。見えはしませんけど……。でも、リダさんならあちらに。

 

 

「うん、アリーナ前から5列目、左端から8人目。それと、スタンドCの33。急病者対処、宜しく頼むよ。残りはモッシュ警戒、そろそろ派手に起きそうだ」

 

 

私の邪魔をしないよう少し距離を取ってくださりつつ、伝達魔導器(インカム)で指示を飛ばしながらステージを、会場を見つめてます。その目は仕事人のそれで、ついライブの合間に見てしまうぐらいクールで端正で…!

 

 

「――ん~? フフッ☆」

「ひゃ…っ!」

 

 

こ、こっちに気づいて、パチンとウインクを…っ! お、お仕事の邪魔しちゃいけないですよね!! あ、あ、でも、警備員ミミックさんのお仕事振りはご紹介しませんと! 丁度ライブも一息ついていますから…え、えっと…!

 

 

その、さっき言った通り、私なんかじゃミミックさん達の動きは見えないんですけど……わかりやすいのがありまして。例えば、ライブ中各所に立っている警備員さんとか。

 

 

私、以前から結構ここに通っているんですが、この規模のライブ…それもwaRosのライブなんて、お客さん数万人規模とかもザラで。だから、警備員さんの数も相応に多いんです。

 

 

けれど、ある時を境にその警備員さんがちょっと変わったんです。いえ、人数は多分ほぼ変わっていないんですが、なんと言いますか…ゆとりが出来た感じで。

 

 

特に、ステージ最前担当の警備員さん。よく邪魔だと言われてしまっているその方々の警備間隔に、以前までと比べて明らかな余裕があって。おかげで非難の的になっちゃうことが減っているみたいで。

 

 

い、いえ、警備が甘くなったとかじゃないんです…! 私も最初そう思っていたんですけれど、そうじゃなくて……。あの、ここからじゃなくてアリーナ最前列とかからだとわかりやすいんですが…。

 

 

広く配備されている警備員さん達の間、点々と等間隔で配置されている、スピーカーのような、備品のような、舞台装置の一部のような…会場と闇に溶け込んで、誰も気にしないような謎の『箱』があると思います。実はそれが、はい、御想像の通りで…!

 

 

そうなんです。あれは、ミミック警備員の皆さんなんです! 視界の邪魔になりそうな場所の警備は、箱に入っているから他の方々より背の低い、そして物に隠れられるミミックさんが担当するようになっているんです!

 

 

普通の警備員さんは立ち姿で危険行為を抑制して、それで効かなかったらミミックが鎮圧を担当するという二段構えらしくて。しかもミミックさん、鉄柵やチェーンポールとかの中にも潜んでいるみたいですから、今まで以上に頑丈な包囲になっていて…!

 

 

ですから時折アイドルの皆さんが客降りする時も、セクハラとかを完璧に抑えられているらしいんです!! お客さん達にはライブ没入の邪魔になっちゃう警備員さんが減ったように見えて、アイドル達はもっと守られて。凄いと思います!!!

 

 

そしてリダさんのような司令塔の方は、そんな警備員さん達へ指示を出しているんです。はい、この位置からでも。私も気になって聞いてみたことがあるんですが、その答えを聞いて驚いちゃいました。えっと確か――。

 

 

「『ボクはミミックだからね。ダンジョン内、それもこの会場ひとつぐらいなら手に取るようにわかるのさ!』かな?」

 

「ひゃわっ!? リダさ…な、なんで…!?」

 

「ボク達のことを気にかけてくれてるんだ、わかるとも☆」

 

 

いつの間にか離れていたレダさんが私の傍に…まるで心を読むみたいに…! ま、またびっくりさせられちゃいました……! えと、そうなんです。ミミックさんってダンジョン内のことを感覚で理解できるらしくて。

 

 

それでも数万人規模の会場だと大変だから、凄腕なリダさんがこうして裏で観測や指揮を担当しているらしいんです。このダンジョンは他のとこよりも楽だとも仰っていましたが、リダさんが凄いのはそれだけでなく――。

 

 

「ん? ――こちらリダ。うん、わかった。すぐ向かうよ」

 

 

あ。リダさんが何か連絡を受けたみたいです。もしかして。

 

 

「御想像の通りさ。うーんと、目を頑張って凝らせばここからもギリギリ見えるかな? あの奥の席のお客さんだね」

 

 

肩を竦めつつ、リダさんは僅かに見える観客席を指し示します。私も頑張って見てみると……あ、それらしい人影が見えるような……。何か揉めているような……。

 

 

「それじゃ、行ってくるよ!」

 

 

わ…! リダさんがまるで消えたかの如くいなくなりました…! でも行き先はわかります、その揉めているお客さんのところ。もう一度目を凝らして見てみます。

 

 

多分あの人は、迷惑をかける騒ぎ方をしていたのでしょう。それで警備員さんが対処しようとして、でも厄介な方だから手をこまねいてしまっていて。このまま放っておくと、どんどん被害が広がって――あっ!

 

 

その厄介な方が、突如としていなくなりました! まるで…真下に引きずり込まれるように! 勿論、穴とかが空いている訳じゃないです。あれは……わっ!

 

 

その方が急にその場へ戻ってきました! まるで何かからペッと弾き出されたように!! でも、その様子は先程までとは全く違います。警備員の方に謝るようにし、自分の席へ。そして暴れることなくライブに交じって……!

 

 

「フフッ、見ててくれたんだね。ごめんよ、折角のライブを邪魔してしまって」

 

 

その様子を眺めていたら、リダさんも戻ってきました。いえそんな、それよりも…! 

 

 

「毎回大変ですよね…お疲れ様です…!」

 

「なに、ああいう人にルールを叩き込むのはちょっとテクニックがいるからね。ボクはいつでも駆け付けるさ!」

 

 

軽く胸を叩き、キラリと微笑みを煌めかせるリダさん。格好いい…! …あ、えっと、はい、そういうことなんです。

 

 

先程の厄介な方を真下…もとい箱に引きずりこんだのは、リダさん。ですから弾き出して元の場所に戻したのも、勿論リダさん。そしてその間に厄介な方を落ち着かせたのも、リダさんなんです!

 

 

私の横からあっという間にあの場へ移動し、箱に仕舞って何かをし、あっという間に反省させてここに戻ってこられたんです。何度見ても凄いです…! でも……。

 

 

「箱の中でどんなことを…?」

 

「おっと、それはヒ・ミ・ツ♪ 社長にみっちり仕込まれたお仕置き技、とは言っとこうかな☆」

 

 

手を触手に変え、しーっと口元に当ててウインクを…! その御顔はどこかゾクッとさせられる魅力があって、ちょっと怖いけど気になってしまって、ミステリアスでとってもアイドルみたいで――!

 

 

「ちょっとぉ! 見ときなさいって言ったでしょ!」

 

「あら、リアからリダへ推し変かしら? うふふっ♪」

 

 

「ひゃぁっ!? り、リア様!? さ、サラ様!!」

 

 

 

ちょ、ちょうどお二人が衣装替えに!! そ、そんなことは! さっきまで食い入るようにライブ見ていましたし、リダさんの活躍中もwaRosの活躍はしっかりと、はい!!! 

 

 

「フフッ! 申し訳ない、リア、サラ。ちょっと君達のファンを借りていたよ☆」

 

「えぇリダ♪ もうリアったら、私達だけのファンなベルちゃんじゃないのよ?」

 

「なんでアタシが責められる流れになってんのよ!? アンタたちねぇ!」

 

 

リダさんは指示を出しながら、サラ様とリア様はスタッフさん達に衣装替えや化粧直しを託しながらそんなやり取りを…! わ、私のせいで…ひゃうっ!? リア様、私のおでこをぴんと小突きに来てくださって…!

 

 

「まあいいわ! 良い、ベル? 今度こそ――……」

 

「♪」

 

「なんで今回に限って言わないのよサラ!?」

 

「うふふふふふふっっ♪」

 

「もう! リダ、ベルを引き続き頼んだわよ!」

 

「お任せあれ、リア!」

 

 

そう残すと、衣装チェンジを終えたwaRosは再度ステージへと…! 僅かな幕間の時間を私なんかに費やしてくださるなんて…! とても心苦しいんですけど、とっても嬉しくて……ふえ? あれ??

 

 

「り、リダさん…。リア様の衣装の、スカートの装飾の一つ…外れかかってませんか…?」

 

「おや? ――うん、本当だ」

 

 

見間違いじゃなかったです…! 解れていたのか、少し垂れてしまっています…! あれだとダンスで取れてしまいそうで…! で、でももうリア様はステージの上、それどころか前奏もかかり出してしまいました!

 

 

はっ…! もしかして私に構ってくださったから、そのせいで確認が疎かになってしまって…!? わ、私のせいで……! ど、どうしよう…ごめんなさ――

 

 

「ハハッ! ミミックより先に気づくなんて凄いじゃないか! どうか安心して、後はボク達に任せてくれ!」

 

 

へっ…リダさん? わっ、消えっ…わわっ! すぐ戻ってきました…! あ。リダさんの箱から、リダさん以外に小っちゃい子達が顔を覗かせています。確か、『群体型』のミミックの子達です。

 

 

そんなリダさん達は私へ行ってくるよと手で合図し、少し離れたところで出番待機しているダンサーの方々の元へ…へっ!? その内のお一人の衣装の隙間に、するんと入ってしまいました!?

 

 

そして私が問う暇も止める暇もなく、ダンサーの方ごとステージへ!? そのままダンサーの方もwaRosも、音楽と照明の弾けるリズムに身を任せ、一糸乱れぬダンスを!? えっ、えっ、えっ……え?

 

 

……今一瞬、ほんの一瞬、リダさんの入ったダンサーの方からリア様の方へ、何かが……あっ、また? 見間違いだと思いますけど……。気になってずっと見つめてましたから、多分光のちらつきとかだと…ふえっ!?

 

 

な、直ってます!? リア様の取れかけていたスカート装飾が、きっちりくっついています!? ――もしかして!? そういえばあの一瞬があったのは、丁度ダンサーさんがリア様の後ろに…観客席から見て影になった時でした! 

 

 

ずっと見ていた私ですら気のせいと思う『何か』…! でも観客席から隠れたタイミングでの動き…! まさか、リダさん達……その一瞬で……!

 

 

「――ふうっ。そのまさかさ☆」

 

 

ひゃわあっ!? り、リダさんがいつの間にか戻って来てます!? あっ、あのダンサーさんが舞台袖に近寄ったタイミングで…!? え、えっと…!

 

 

「フフ、流石に数万の注目が集まる中、堂々と忍び込むのは社長レベルじゃないと難くてね。皆の力を借りたんだ」

 

 

群体型ミミックさん達を、そして何も気づいていないダンサーの方を示しながらウインクしてみせるリダさん…! 確かに、他のダンサーやバンドの方々はおろか、リア様サラ様、観客の方々、スタッフの皆さんすら誰一人として気づいている様子はありません…!!

 

 

ということは、やっぱり間違いなかったみたいです…! あの一瞬でリダさんの元から群体型ミミックさんが動き、リア様の衣装を直して戻って来たんです! 誰にも悟られず!

 

 

そういえば…! ミミックさん達がいらしてから、ライブ中の大道具や舞台装置等の故障を減ったとスタッフさんが話されていたのを聞いたことが…! それってつまり、こういうこと……!!

 

 

「おっと、またリアに怒られてしまうね。さあベル、ライブを楽しもう!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はひゅぅうぅう……! 今回も最高でしたぁ…! waRosの魅力が詰まっていて、勇気を貰えて……! ……~~♪」

 

「フフッ! つい乗りたくなってしまう素敵なハミングだね! ボクも混ざって良いかい?」

 

「ふぇっ…!? は、はい…! ―あ、綺麗…ふふ…! ~~~♪」

 

 

ライブは終わってしまいましたが、その余韻をリダさんと共に…! ライブ終わりはいつも一人で鼻歌交じりに帰っていた私が、お友達…というには畏れ多いですけど、リダさんとこんなことが出来るなんて…!

 

 

出来ることなら、このままリダさんのお気遣いに甘えさせて頂きたいです…! でも、そうはいきません。私にもレッスンがありますが、リダさんのお仕事はまだ終わってないんです。

 

 

実は今日waRosは、ライブの後に限定握手会があるんです。ですのでリダさんは引き続きお二人の警護を担当されるみたいで。今はライブ会場から握手会会場へと向かっている最中なのですが……。

 

 

「あ、あの…今回も本当にこのままで良いんですか…? 私なんかが抱っこするより、リダさんならあっという間に着くんじゃ…?」

 

 

何故かリダさん、今回も私に『ボクを運んでくれないかな?』とお願いをしてきたんです。はい、時たまにご一緒した際にそう頼まれるんです。ですからリダさんと私は今、まるでM&Aのミミン様とアスト様のようになっていまして。

 

 

……私、アスト様のようなプロポーションなんて無いちんちくりんですけど……。リダさんのほうが私より何倍もアスト様に近くて……あれ? リダさん、ちょっとくすぐったそうに?

 

 

「あははっ、うん、まぁね。 だけどさ、その、ね…? なんというかボク、時折社長達が羨ましく思う時があってさ」

 

 

いつものリダさんとは違う、なんだか少し小さめのはにかむような声でそう仰った後、口を噤んでしまわれました…? よ、よくわからないですけど…。

 

 

「で、でも私なんかじゃなくて他のスタッフさんの方が早いと……」

 

「いいや!? キミだから、ベルだからこそ良いんだよ!」

 

「ふえっ!?」

 

「ボクは、キミの宝物を守るような優しい抱え方に惚れちゃっているんだから! ――いや、ファンになっちゃったと言った方が良いかな? フフッ☆」

 

 

ちょっとはにかんだまま、いつものリダさんの調子に。私の、ファン……!

 

 

「あっ、もしかして迷惑だったかな? そしたらごめんよ、すぐ降りるから」

 

「い、いえ!? 寧ろ喜んで! リダさんの…ファンの……お役に……な、なんでもないです!」

 

「ハハッ! 可愛いね、ベル♪ やっぱりキミは良いアイドルになれるよ!」

 

「そ、そんな…! 私なんか……!」

 

 

リダさんのペースに引っ張って頂きつつ、また鼻歌やライブのお話を。けど、そう長くはできないのが残念です。すぐに握手会の会場に着いてしまいました。

 

 

そこでは既にwaRosのお二人が、握手会前のちょっとしたファンサービスの撮影タイムを。あ、応援隊長の方々も勢揃いなされてます。どうやらご自身分の撮影は済んだらしく、人山から少し離れてお話されています。

 

 

「いやぁ、やっぱりwaRosのライブは寿命が延びるな! 健康に良い!」

 

「間違いありませんな! 何度も申しますが、小生お気に入りの企画がまた!」

 

「最近始まったあれね! 宝箱からリクエスト曲を完全ランダムで選ぶ、『waRosお宝探し』!」

 

「なんでもミミックから着想を得たらしいですよ。だから出現もランダムみたいで」

 

 

もうかなり話し込んいるご様子です。ふふっ、私もあの企画大好きです。waRos御本人には知らされず、ライブの何処かで宝箱が出現するんです。ステージ上に落ちてきたり、ダンス中に手渡されたり、気づいたらドラムに叩かれていたり、観客席にいつの間にかちょこんと居たり!

 

 

はい、その出現に一役買っているのはミミックさんみたいです。でも、箱の中にある他のアイドルの方々の曲も含めたリクエストを引くのは、完全にwaRosのお二人の運で! 中には大変な曲もあって、リア様なんてあからさまに面倒そうな顔をされることも…ふふっ!

 

 

でもお二人とも、どんな曲でも堂々と美しく歌い上げてくださるんです! まさに元冒険者のwaRosにピッタリのシチュエーションで、お二人の実力が遺憾なく発揮される素晴らしい企画で――……!

 

 

「そうそう、それで思い出した。ミミックのスタッフさ、いつの間にか至る所にいるわよねぇ」

 

「ですね。チケットのもぎりとか、小っちゃい箱にチケット差し込むとパクって切ってくれて」

 

「手荷物検査もらしいですぞ。検査中こっそり入って仕込み違反物までしっかり摘発してると」

 

「物販もだな。スタッフが箱からグッズを幾らでも取り出して、箱だけで裏に戻ってくの見た」

 

 

あ、そう! そうなんです! ミミックさんってライブ中以外でも本当色んなところでスタッフさんをやってくださってるみたいで! 私もスカウトされる前それを見てびっくりして、そしたらスカウトされてもっとビックリして――……!

 

 

「よく言えばキリ無いですけど、またwaRosとM&Aみたいなコラボライブも見たいですね」

 

「アリだな! 俺らは箱推しだから皆愛せ――」

 

「あら、つまりミミンちゃん推しってこと???」

 

「デュフォッw フォカヌポォッw ちょwそれは不意打ちすぎるギャグwww」

 

 

ふふふっ…! あっ…! わ、笑っちゃった……よかった、気づかれてないです…! 変に訝しまれない内に去らないと……――。

 

 

「そういえばベルは誰推しなんだい?」

 

「はぇっ!? わ、私も箱推しで――」

 

「おや! じゃあボクのことを推してくれているとか? なんて――」

 

「は、はい…っ! 私、リダさんのことも推せます、推してます…! いつも格好良くて、アイドルの皆さんと同じぐらい素敵ですから…!」

 

「――っ! は……はは……。っぅうん…そう来たかぁ……」

 

 

へ…? リダさん、耳が赤く…? よく見る前に箱に隠れてしまわれました…。わ、私失礼なこと言ってしまいました…!? え、えと…! せ、せめてお仕事は果たしませんと……!

 

 

リダさんを抱っこしたままちょっと早足で、スタッフ用のルートで仕切りの奥へ。握手会会場のメインとなるwaRosのお二人が入る席に。そして。

 

 

「ここで良いんですよね…?」

 

「うん、バッチリだとも!」

 

 

席の床へ目立たないようにリダさんを降ろします。よかった、リダさんいつもの調子です。はい、これで、これだけで私のお手伝いは終わりなんです。後は――。

 

 

「へぇ、またお手伝い? 折角だし握手したげよっか~っ?」

 

「うふふっ。一番最初の栄光はベルちゃんに、なんて♪」

 

 

「ひゃっ…!? リア様、サラ様…!!」

 

 

ファンサービスを終えたらしく、お二人がいらしていました! い、いえそんな!

 

 

「ファンの方々に悪いですから…!! 私はリダさんをお連れしただけですし…!!」

 

「リダ? あ、ほんとだ居たわ!」

 

「今回も色々とお願いするわね♪」

 

「勿論さ! 二人はいつも通り堂々とね☆」

 

 

そう返すと、リダさんはパタンと箱形態に。まるで誰も気にしない雑品入れのように落ち着きました。私も離れませんと…!

 

 

「そだ、ベル! 今日の夜、いつもみたいにライブの感想聞かせなさいよ!」

 

「ふえっ!? そ、そんな畏れ多いことを…!」

 

「はぁ、また言ってるし。おんなじ寮に住んでる仲でしょうよ!」

 

「もう、リアったら。あぁベルちゃん、いつものように覗いてて良いわよ♪」

 

 

サラ様に促され、私はその場からスタッフエリアに退散を…! リア様も、リダさんも手を振ってくださって…! えと、じゃあお言葉に甘えさせていただきます…!

 

 

 

その、ファンの方々の迷惑とならないよう距離をとって、パーテーションの隙間からこっそりですが…私、握手会も覗かせて頂いてまして…。人見知りですから、参考にさせて頂くために……!

 

 

あ、早速握手会が始まりました…! スタッフさんに案内され、お一人目が。リア様サラ様と握手し、タイムキーパーさんがお時間を告げるまでの数秒で嬉しそうにお話を。

 

 

そして剥がしのスタッフさんに優しく誘導され、リア様サラ様の笑顔のお見送りを受けつつ、ご満悦での退室をなされてゆきます。これが握手会の流れでして。

 

 

へ? は、はい。タイムキーパーさんも案内や剥がしのスタッフさんもミミックさんではありません。えと、ライブ中とかと同じで。違反行為の抑制のため、ちょっと威圧感のある方が担当されています。

 

 

そしてリダさんの役割も先程までと一緒なんです。隠れていて、スタッフさんでは対応できない緊急の対応を行う、言わば保険役と言いますか…。でも基本、ファンの皆さんは良い方ばかりなので…!

 

 

「はぁいクリーフ! 今日応援隊長揃い踏みじゃない!」

「ふふっ、いつもライブ引っ張ってくれて有難う♪」

「なんの、それが俺達の役目だからな! こちらこそ、いつも魂に響くライブをありがとよ!」

 

「さぁて、今日は何を教えて貰えるのかしら!」

「待ってました、サポタさんの三秒雑学~♪」

「では期待にお応えし、コホンッ! バニーガール種のダンジョンって月にもあるらしいですよ!」

 

「あははっ! waRosはずっとアタシ達だけよ!」

「目をかけている娘がいるのは事実よ、マアニさん♪」

「じゃあ二人が新メンバー育成中ってのはただの噂なのね。やっぱwaRosは二人じゃないとね~!」

 

「やっ、タクオ! ちょっ、また感動で震えてんの?」

「今日の宝探し、どうだったかしら♪」

「デュフフ…! 最高でしたぞ…! えぇ、えぇ、今日の宝探しで選ばれたリクエスト曲、実は小生も一票入れておりまして、少々難易度の高い曲だとは重々存じておりましたが、それをも鮮やかに歌い上げるお二人は――あ、もうでござるかぁ…! 時間足りないでござるよぉ……!」

 

 

あんな風に。特に応援隊長'sのような認知されている方々は、やっぱり品行方正に、アイドルに迷惑をかけず、スタッフさんの指示を守って握手会を堪能されてゆきます。……全員が全員あのような方々だったら良いんですけど…。

 

 

その、私もファンだったから知っていますし、わかっちゃうんです。やっぱり、厄介な方は必ずいるって。例えば、あの方とか多分……。

 

 

「ね、ねね…! 俺が何処に居たかわかるぅ……?」

 

 

はい……。あんな感じです……。よくあるタイプの厄介な質問です…。小さなライブハウスとかならともかく、数万人動員するライブでそんなこと聞かれましても……。

 

 

waRosのお二人は表情こそ変えませんが、内心辟易していると思います…。ですけど、黙りこくる訳にはいきません。で、でも大丈夫です…! こういう時こそ、リダさんが活躍なされるんです…!

 

 

見えましたでしょうか、あのファンの方が質問したと同時に、床で静かだった箱が少し開き、触手がwaRosの足へささっと触れたのを。そして、それを受けたリア様は…。

 

 

「わっかんないわよ。けどそうねぇ…スタンドの西エリアで見た気がするわ!」

 

「ぉお…! そ、そうだよ…! み、見ててくれたんだね…フヒヒ…!」

 

 

いつものリア様節を交えて、サラッと答えました…! これにはファンの方も満足そうで。因みに、サラ様が同じような方を対応しますと――。

 

 

「そうね~…。アリーナの一番後ろ…えぇ、中央エリアだったかしら」

 

「ええ嘘!? 正解です!! サラさま凄すぎて好きぃ!!!!!」

 

「あら。私、見習いだったとはいえ魔法使いだもの。なんてね♪」

 

 

あのような感じで、これまたファンの方を更に虜に…! は、はい…えっと、言っちゃいけない裏事情になるんですが、流石のお二人でもそこまでパッと出るほどの把握はされていないはずです…。時間があればいけるかもしれませんが、数秒程度では……。

 

 

ですけど今お二人の足元には、感覚だけで観客席の様子を完璧に把握できていたリダさんがいるんです。ですのでああやってこっそり足経由のサインでお伝えして、後はお二人がwaRosらしくアレンジして……!

 

 

はい、確かに嘘ではありますが…皆さん喜んでくださる嘘ですし、私は素敵だと思います……! アイドルの嘘はとびきりの愛とも言いますから……! なんて、私が言っちゃ駄目ですよね――。

 

 

「――もうお時間ですので、ご退室を…」

 

「チッ…―そんでさ!」

 

 

へ?ひゃっ…! ちょっと目を離している内に、もっと厄介な方がいらしてます…! タイムキーパーさんの指示を無視して、剥がしのスタッフさんの誘導すら肩で弾いて力ずくで握手を続けてます…!

 

 

で、でもこれも大丈夫です…! いえ、これこそがリダさん達ミミックさんの最も得意とする――…。

 

 

「ちょっと、ルール守りなさいってば」

「じゃないとお仕置きが入っちゃうわよ?」

 

「んだと!? 俺はファンだ――っ!?」

 

 

あっ。リア様サラ様が苦言を言った直後、厄介な方の姿が叫ぶ前に消えました。は、はい。もう説明の必要はないと思いますが…リダさんです。目にも止まらぬ速さで、ガブッと箱の中に。

 

 

そしてそのまま握手会は何事もなかったように進行していきます。あの引きずり込まれた方は隙間時間でペッと吐き出され、げっそり反省した面持ちで退室を。

 

 

如何でしょう、これが、ミミックさん達による会場警護なんです。……もし私がアイドルになれたら、waRosみたいになれたら、リダさん達は私を守ってくださるでしょうか…?

 

 

それなら、きっと私でも…………あはは……そもそも私はきっと、アイドルになんてなれっこないですけど――。

 

 

「ベルさん、お疲れ様です。勉強熱心ですね」

 

「ひゃっ…!? waRosのプロデューサーさん…!」

 

 

優しく呼びかけられ振り向くと、プロデューサーさんが。えっと、確かお名前は……。

 

 

「ですが、そろそろレッスンのお時間なのではと思いまして」

 

「へ…あっ! す、すみません有難うございます行ってきますっ!」

 

 

 

教えてくださらなければ時間を忘れてました…! い、急いでレッスンエリアに向かわなきゃ…っ!

 

 

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