ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 とある陰キャっ娘と偶像④

 

 

「――それでですね! あのライブMCはファンの皆さんだけじゃなく、裏のスタッフさん方も吹き出されてまして! 私も、お腹が苦しくなるぐらい…ふふ…ふふふっ…!」

 

「あははっ! 良い思い出し笑いじゃない! 身体張った甲斐はあったようで何よりねぇサラ?」

 

「本当よ…。私におふざけ魔法を使わせるためだけに全員で一芝居打つなんて、酷いことするんだから。おかげで次の曲、ちょっとピッチをとちってしまって」

 

「いえ、ミスと気づかれた方はそう多くないと思います。サラ様の刹那の決断と超絶テクニックが輝いて、普段のトーンとは違う味わいのあるメロディーに纏まっていましたから! それにあの時の観客席を睥睨するような視線がバチッと噛み合っていて、素敵な意味で黙らされてしまって!」

 

「あら…!あの時の皆の沈黙って…。――ということはベルちゃんには気づかれてしまったのね」

 

「あ、えと、は、はい……でも、その…! 失礼かもしれませんけど……普段攻める側のサラ様が逆に攻められ乱れてしまったお姿がとっても可愛らしくて、けれどなんだか色気に溢れてまして…! でもそう頬を緩めた次の瞬間に、あのメロディーが! まるでサラ様が呼び出した召喚獣が、『主人の絶技に聞き惚れろ』と喉に噛みついてきたかのようで…!」

 

 

夕食時になりまして。私は寮の食堂にて、waRos(ウォーソ)のお二方を前にライブの感想を…! って、ついまた興奮して、変な感想を言ってしまいました……! あ、でもサラ様、あの時みたいな可愛らしいお顔を……!

 

 

「クスッ…なぁにその褒め方♪ 大体、失敗は褒めなくても良いのよ、もう…!」

「あれサラぁ、顔乱れてなぁい? んじゃベル、アタシのも分かったかしら?」

 

「はい! まさに名シーンでした! リア様はサラ様の様子にお気づきになり、すぐさまメロディーに乗っかって! けれど何処かいがみ合う様子と言いますか…怒って怒られてを感じさせるように導いて! それこそマイクの剣で、サラ様の召喚獣の猛攻を防いでるみたいで!」

 

「そうそう! ホント、よく気づいてくれてるわ。けれどふふっ、マイクの剣ねぇ。センスあるじゃない! ―それで、その後は?」

 

「はい! けれどお二方はすぐに歩み寄って…! 曲の一番の盛り上がりで、息ピッタリにボルテージを跳ね上がらせて! お二方の間で交わっていた剣と召喚獣が、一斉に観客席へ飛び込み暴れ回って! あの圧倒的なボリュームに私、とってもとってもゾクゾクして、感動してしまって――!」

 

「「ふふふッ♪」」

 

「―…あっ…! す、すみません…また夢中になってしまって……!」

 

「何言ってんの、最高の感想よ! アイドル冥利に尽きるっての♪」

「私達も夢中でゾクゾクなのよ、ベルちゃん。貴女の興奮にね☆」

 

 

そんな!! お二方からそんなお褒めの言葉を頂けるなんて、畏れ多すぎます! と、リア様が噛みしめるように唸られて…!

 

 

「は~…! ね、もっと聞かせて! その次のもウケ具合が気になってて――」

「まあまあリア、料理が冷めちゃうわ。どちらもアツアツを楽しまないと♪」

 

 

ふふっ、はい! サラ様の仰る通りです。私はまだいくらでも喋れますし、まずはコックさん方に作って頂いた美味しい料理を、出来立てのうちに頂きませんと!

 

 

ここを含めたアイドル寮って、外観が貴族の館みたいですけど…中もまさにそうで。この食堂も高級なお店のような…いえ、それこそ貴族の館のような調度品やシャンデリアとかでして! なんでも、ネルサ様の御実家を…魔界大公爵(グリモワルス)『レオナール家』を参考に作られたらしく。

 

 

ですからその仕様に合わせ、コックさん方も腕の立つ方々が雇われているみたいなんです。ご飯、とっても美味しいんです! 一口食べるだけでほら、頬が蕩けそうで…♪ 

 

 

更に寮内のお掃除や管理をしてくださっている方々はなんと、あの有名な『ホテルダンジョン』からスカウトされたキキーモラさんらしいんです! おかげで本当にホテルに泊まっているような感覚に…!

 

 

そして防犯面においては、やっぱりミミックさん大活躍です! コックさん方やキキーモラさん方、そして庭師さんのような他の出入り業者さん方も、この寮へ入るにはミミックさんを懐に忍ばせる決まりなんです! 見張り役兼、お仕事のお手伝い役として!

 

 

勿論外の警備も、ミミックさんを始めとした警備員さんが頑張ってくださっているんです。そのおかげでさっきの記者さん方も大分前にお引き取りになりましたし。ですからこの寮にいる限りは、快適安心安全なんです、本当に! ……本当に。

 

 

本当、毎日思うんですけど…私なんかがこんなところにいて良いんでしょうか…? こんな、一流の方々が住まわれるような建物に、一流の食事やサービスを頂ける場所に、それに――。

 

 

「ん? 急に顔沈ませてどうしたのよ」

「口の中でも噛んじゃったかしら?」

 

「大丈夫ベル? ご一緒しても宜しいですか?」

「やった! じゃー私でベルちゃん挟むーっ!」

「とられちった~…! ならその横だ~い♪」

 

「私達も御邪魔して良いですかぁ~?」

「混ぜて欲しいし! 一緒に食べたいし!」

「喉に効くジュース、ピッチャーでお待ちどうさん!」

 

「お、いたいた間に合った。俺らの席予約な♪」

「今日のベル'sライブレポートタイムデース!」

「ふふっ! これ、プロデューサーさんからです」

「本日のライブ映像、是非ベルさんの解説のお供に」

 

 

はわ…はわわっ!? ま、またです…また今日もです…! シレラさん達を始めとした未来のアイドル、リア様サラ様を始めとした現役アイドル……一流の皆さん方が寄り集まう状況に、私が居るのは不釣り合い、分不相応なのに! なのに毎回食事時に、こうして囲まれてしまうんです! 

 

 

いえ、嫌なわけじゃ!寧ろ逆で! あのアイドルの方々と、友達と、肩を並べて親しくご飯を頂けるなんて夢を疑うぐらいに嬉しいんです! スカウトされるまでは、色んな人の邪魔にならないよう、一人で端っこでご飯食べてましたのに!

 

 

でもだからこそ、やっぱり私がここに居るのはおかしいと頭の中で響き渡ってまして……ぅ…リア様サラ様や皆さんには悪いですけど、ご飯持って自分の部屋に――。

 

 

「魔導画面の高さどう?」

「良い感じに見やすいよー!」

「おっけー。はい再生っと♪」

「音量もうちょっと上げてー」

 

 

あっ…始まる…始まりますっ!! 今日のあのライブが…あの瞬間が、別角度で、最高な観客席側から!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー! ここが例のトークか~!」

「うわ本当にサラ虐められてんじゃん!」

「くっふっふ~! 珍しいもの見た~♪」

「で、この後の歌で――ほほう…うわお!!」

「まさにベルさんの仰る通りの…! これは見事!」

 

 

ふふっ、皆さん楽しんでくださってます! しかも気づけば更に他の皆さんが…名だたるアイドルの方々が集まり、同じようにご鑑賞を! それぞれ椅子を動かして、ライブ映像をステージとするように囲んで!

 

 

でもやっぱり、私の状況は変わってなくて…! というより人が増えた分、囲まれ度合いがもっと厚くなってます…! そしてこれまた変わらず――。

 

 

「――ベルっち~! 次の曲の見所教えて~☆」

「あ、はい! リズム感です! 特に今回は、リア様サラ様とダンサーの皆さんの音ハメステップとファンの皆さんの手拍子が寸分の狂いもなくて、会場自体がリズムの拍動で生きているみたいで!」

「ほっほーう! 楽しみ~っ!」

 

「――う~んやっぱか…。ねぇベル、ここの演出どう思った? なんか派手なわりにウケ悪い気がして」

「へ…?とっても豪華絢爛で格好良かったですけど…。ステージ各所で同時に起きる演出に目が忙しかったと言いますか…!」

「うふふっありがと♡ 成程、派手過ぎて皆焦点絞れていないのかも。プロデューサーさんと要相談かしら」

 

 

「――ほわぁ…!! わたし、ここ好き! ベルちゃんも好き?」

「はい、とっても! 可愛さに溢れていて素敵ですよね、このコーナー!」

「うん! わたしたちのライブでもやってみようかな~」

「素敵だと思います! 私、皆さんのでも見たいと思ってまして…!」

「ほんと~? じゃあPさんにお願いしてみるね~♪」

 

 

「――はあ~…。リアさんのマジモンシャウト聞くと、自分のが如何に駄目ってわかるねぇ…」

「マジそれ~…。サラさんの曲限定病みっぷりに心折れるわ~…路線変更すべきかなベルちゃ~…?」

「いえ…!? 私、今のお二人大好きですよ…!? それとその、帰りの話に戻っちゃうんですけど…轟く雷がリア様の鋭い刃なシャウトに、闇を秘めた炎がサラ様の蝕む毒のダークに真っ向勝負をしかけるの、とっても格好いいと思います…!」

「「っっ…!!!」」

 

 

と、今回もまた、皆さん私へ話を振ってくださるんです! ですから邪魔にならないように出来る限り端的にだったり、声を潜めてお答えしてまして。ふふ…! こうしてワイワイと楽しみながらライブ鑑賞するのも、とっても楽しいですよね!

 

 

そしてとうとうライブ映像も、皆さんの拍手と共に幕を閉じました。けれどもどの方も、熱冷めやらぬご様子でにぎにぎしく!

 

 

「かー!良いな! これは実際に観に行きたかった!」

「今日アー写更新じゃなかったらにゃぁ~くぅ~…!」

「良いわよ別に…! ネルっさんが出る訳でもないんだから」

「リア照れちゃって~☆ 後さ、ベルの横で興奮浴びたいじゃん?」

「それは同感ね♪ 私も今度ベルちゃんのお供させて貰おうかしら」

「ならサラ、明日の新曲お披露目覗きに来てよ! ベル連れてさ!」

 

「是非! 早速買わせて……え、また頂いてしまうのは申し訳な――ぁぅ…!」

 

 

その輪の中に、私も混ぜて頂いて…! 結局今回も言いくるめられてしまってご温情を賜ることになってしまいましたけど……ふふふっ♪ 明日も楽しみです! 

 

 

明日も、アイドルの方々の煌めくご活躍をこの目で見させていただいて! 親友で戦友でライバルで共に助け高め合う皆と、最高のアイドルになるためのレッスンを頑張って! アイドルの集うこの聖域()で、今みたいに楽しく、いつまでも――いつまでも……いつまで……。

 

 

 

……いつまで私は、この場に居ることを許して頂けるのでしょうか…。いえ…追い出される覚悟は最初からできています…。皆さんが歓迎してくださった時から…ううん、ネルサ様にスカウトされた時から。

 

 

だって私なんかに、この寮もこのダンジョンも相応しくありませんから…。追い出されてしまうのは、アイドルの皆さんやネルサ様に愛想をつかされてしまうのは、想像するだけで目の前がクシャクシャに歪んで焦げてくみたいに黒ずみだして呼吸が苦しくなって吐き気がしだすほど怖いですけど……! それが当然の私ですし…そう、それが本当の私なんです。

 

 

いつも臆病で引っ込み思案でへたれでちんちくりんで陰な私が、こうして皆さんと同じ空間に居ることを赦されているのも、その皆さんの、アイドルの輝きあってこそですもの…。さっきのシレラさん達と同じように、皆さん優しくて格好良くて可愛くて煌めくアイドルだから、(ファン)を気遣って照らしてくださっているんです。

 

 

 

なのにそんな私が、こんな皆さんみたいな『アイドル』になりたいと考えるなんて、これ以上なくおこがましくて…! 皆さんみたいに誰か()を夢中にさせる『アイドル』なんて、できそうもなくて! 

 

 

 

ぅぅ…結局皆さんを失望させるぐらいなら、アイドルの看板を汚さない内にこの場を去るべきだってのはわかっているんです……けど、だからといって…追い出される覚悟はあっても自分から辞める覚悟はなくて……ネルサ様に申し訳が立たなくて……諦めが…つかなくて……。

 

 

「ベルさん、この間の私達のライブの感想、もっかい…!」

「ダメ~! 今日はアタシらのよ! 明日来なさい!」

「『ベルちゃんは皆のファン』だけど…譲れないわね♪」

「ブーブー! 二人占め禁止ー! ずるいぞぉー!」

「アイドルによるアイドルの独占囲み取材だー!」

「ベル、リア記者サラ記者から逃げて~! ……ベル?」

 

 

なのに皆さん、私を見限らずにいてくださって……。その期待に応えられそうに自分が辛くて、悲しくて、悔しくて……でも、どうにもならなくて……。

 

 

「新世代育ってきてるよねぇ。ヤバ、うかうかしてらんないかも♪」

「てかこのレベルだとさ、デビューラッシュとか起きそうじゃね?」

「あるかも! さ~第一陣は誰だぁ~? どんなデビューだ~?」

「新メンバーか、新ユニットか? ウチらにも欲しいなぁ~♪」

「ベルちはどこ加入したい? なんちてね☆――…ベルち?」

 

 

やっぱりこんな私が、絶望的にアイドルに向いてない私が、アイドルになりたいだなんて…おかしいですよね……あはは……。私なんかよりも、この場にはもっと適する御方が……見惚れるぐらいに素敵だったり、甘えたくなるぐらい優しい方とか……あ…。

 

 

そうです……私の代わりに、リダさんオネカさんをネルサ様に推薦すれば……そうしたら私を、ここから追い出して頂いて――。

 

 

 

 

 ―――カカンッ!

 

 

 

 

っ!? こ、この音、リダさんオネカさんの、あの時のリズム!? な、なんで寮に……あ、あれ…!?

 

 

「効くわね、これ」

 

 

ち、違いました…! ハッと顔を上げてみますと、そこには変わらずリア様が。今の音は机を叩いて出したご様子で……っ…!?

 

 

み、皆さんが……周りにいらっしゃる皆さんが、私を一斉に見つめてきて…います……。ぇと……その……私、もしかしなくてもまた、皆さんにご心配をおかけして…――。

 

 

「なに、まーたいつもの再発? しょうがないわねホント」

 

 

ひぅ…! リア様が呆れたように息を吐き、腕を組みながら椅子に深く…! 

 

 

「で? 今回は何で悩んでたの? 話してみなさいな」

「場所を私達のお部屋に変えても良いわ。どうかしら♪」

 

 

サラ様まで!? お部屋に失礼するなんて、そ、そんな無礼なことは……! ですが、口にするのは……その……。

 

 

「…ふぅん。なら、リダオネカのように内心を言い当てたげるわ! 『自分はアイドルに向いてない』『アイドル()と並び立てる力量がない』『アイドルになったとて、ファンを喜ばせられない』――そんなとこでしょう?」

 

 

「っ―!? は……はい…!?!?」

 

 

リア様、本当にリダさんオネカさんのように、心を読んだかのように…!? な、なんで……。

 

 

「フフッ、アンタがいつも悩んでることだもの。わからいでかっての! ――それと良い機会だから明言しとくわ。その悩みを抱えてるのがアンタだけだと思わないことね」

 

 

へ……そ、それって……? と、リア様は皆さんの意を纏め上げるように――!

 

 

「こちとら曲がりなりにも現役バリバリと、アンタと同じ金の卵達よ? 似たような、なんなら全くおんなじ悩みをもって、それを乗り越えるために遮二無二足掻いてるんだから!」

 

 

その言葉に続くように、皆さんは肯いたり、頬を掻いて微笑んだり、照れたように肩を竦めてみせたりと、同意を…。そ、そうですよね……。私程度が悩む領域なんて、アイドルな皆さんも当然経験なされていて、容易く乗り越えて……へ?

 

 

「足掻いて……?」

 

「そうよ! 越えられない先輩、鎬を削ってくる同輩、物凄いスピードで追ってくる後輩、そして期待に満ち溢れた顔を揃えてやってきてくれる山ほどのファン。常に重荷になっているに決まってるでしょうが!」

 

 

組んでいた腕をパッと開き、リア様は今度は机に片顎杖を。そしてもう片方の手で、周りの皆さんをくるっと指し示して。

 

 

「ま、ファンに関しては一旦後に回しといて。前者はオネカも言ってた通り、親友で戦友でライバルよ。こうして皆で集まってワイワイ話して、仲良く互いに認め合い高め合う。でしょう?」

 

 

それは…っ…!? シレラさんが、私の膝の上の手を、そっと包んでくださって!? ニュカさんもルキさんも…! リア様に賛同するように、あの時を思い出させるように…! 

 

 

で、でも、その高め合いの中の私はやっぱり異物で、邪魔にしかなってないでしょうから……皆さんの円滑なコミュニケーションのためにはいなくなるべきで――。

 

 

「だーかーら! 絶賛足掻いてるんだっての、今こうしてお喋りしてる瞬間すらも! けど、それをどうにかしてくれるのがアンタで、だから――あぁもう…良い言葉が出てこないわね…!」

 

 

ぁぅ……。リア様、頭を抱えるようにガリガリと…。私のせいで困らせてしまって――へ…サラ様が引き継ぐように微笑まれて…?

 

 

「うふふっ♪ 親友で戦友でライバルの皆と切磋琢磨しても簡単には解れず、ファンの期待が勇気にもなれど重圧にもなるこの悩み。それを抱えているのに、なんで私達は軽やかでいられるのだと思う?」

 

 

え…!? そ、それは……アイドル、だから……。悩みを克服できる方法を持っているから…? ファンの声援が解消してくれるから…? それとも――え…サラ様、私が口に出す前にまたクスリと――。

 

 

「えぇ。ベルちゃんの思ったこと、きっと全部当たっているわ。けれどね、ふふっ♪ はい、リア♪」

 

 

「あんがと、サラ! ――その中でも大きいのはベル、アンタの存在よ!」

 

 

 

 

 

 

 

……え。えぇぇぇぇぇえぇぇ……? そんな、まさか、冗談で――。

 

 

「冗談な訳ないでしょーが。紛れもない本心よ!」

「それも私達だけじゃない、この場皆の、ね♡」

 

 

へ……へっ!? 周りの皆さんが、シレラさん達も現役の皆さんも、揃って肯かれて!? え、えっ!? なんで……なんで!?

 

 

「やっぱ自覚ない、か。それも可愛げがあって良いけど…」

「折角の宝物を埋もれたままにしておくにはいかないわ♪」

 

 

互いに顔を見合わせて、更には周りの皆さんからを承諾を得るように目配せをするリア様サラ様…。私の手を包んでくれているままのシレラさん達も、リア様方へ託すようにコクリと…! そ、その……。

 

 

「わ、私…何を……何が……?」

 

 

聞かざるを得なく、ついそう質問を……。するとリア様は皆さんを代表するように、フフッ!と――。

 

 

「アンタがいつもくれる『感想』よ。その称賛がどんだけアタシ達を救ってくれて、どんだけ重荷を取り去ってくれたことか!」

 

 

「…………えっ??? えええ…!?!?」

 

 

そ、それですか…!? い、いえ他に思い当たる節があるという訳ではなく……と言いますか、それもそんな、ええぇ…!?!?

 

 

た、確かに皆さん喜んでくださっている様子でしたけど…私、そういうつもりはなくて。悩みを解決するとか重荷を取り払うとかの大それた思惑なんてなくて、それどころか称賛ではなく、ただ――。

 

 

「『ただ、純粋に思ったことを口にしてるだけ』とでも言いたいんでしょう? ベルのことだから」

 

 

はぅっ!? な、なんでリア様、それすらも…!? え、えと……はい…。だ、だってあの程度、アイドルが受け取るべき当然の感想で! 皆さんを喜ばせようと考えて言ってた訳では…いえ、喜んでもらえるのが嬉しくてついしつこく……。

 

 

「えぇ、アンタはそのままで良いわ。ううん、くれぐれもそのままでいて。おべっか使うようになっちゃ嫌だし、その純粋無垢さに癒されてるんだから!」

 

「うふふっ♪ その上で私達から、ベルちゃんから褒められた私達から、伝えたいことがあるの。日頃のお返しがてら…あら、帰りの続きの仕返しかしら☆」

 

 

へ…!? リア様、サラ様……!? 思わず息を呑んでしまいますと――御二方は顔を合わせあい、はにかみ交じりの、満面の笑みを!?

 

 

「まずは改めて、ありがと! いつもアタシ達を褒めてくれて!」

「ベルちゃんのおかげで、大変な毎日を乗り越えられているわ♪」

 

「え、え、え、えと…っ!?」

 

「そんでもう一度言うわよ。これは、アタシ達全員の本心!」

「口だけじゃなく、身体へ直接撫で伝えちゃいましょうか♡」

 

 

サラ様、皆さんへウインクを…ひゃわっ!? え、し、シレラさん!? シレラさんが微笑みながら、私の頭を優しく温かく、撫でてくれて……ふゃっ!? ニュカさんルキさんまで――えっ、えっ、えっわわわっ!?!? 

 

 

み、皆さんも!? アイドルの皆さんが、私の周りに座っていた方も少し離れていた席に居た方も、一斉に我先にと一人残らず立ち上がって、れ、列を、あ、頭を撫で、ひぅっ…みゃぅっ…ぁぅぅぅ…!!?

 

 

「フフン♪ 皆からの仕返し、もとい褒め返し、今度は骨の髄までしっかり味わいなさい。アンタはそれだけ皆を救っていて、皆から愛されているんだから!」

 

「どれだけ面倒な仕事でも、厄介なファンがいても、苦しいことがあっても、ベルちゃんの褒めは全部吹き飛ばして、また明日も頑張ろうと思えるのよ♡」

 

 

み、皆さんに…ひぅぅ! もみくちゃにされる私へ…ひゃぁぅぁ! リア様サラ様はそう仰ってくださってぇわわゃぁ! あゅぅぅっん!? 

 

 

「ふふっ、私達からももう一度。毎日救いを有難う♪」

「ついベルちゃんに感想貰いたくなっちゃうもん!」

「無自覚にさすベルな褒めベルに何度元気貰ったか☆」

「実際さっき、愚痴った私らを励ましてくれてね!」

「もうダメ私、ベルちゃいないと生きてけないから…!」

「最強の自己肯定感爆上げキャラだし! 見倣うし!」

 

「イエ~ス! ベル'sレポートはそのトップな例デース!」

「褒めて貰えるし参考になるし、良いトコしかないです!」

「どんなアイドルも心より愛してくれるから素敵なのよね♪」

「ウチらファン相手にはだいたい良いトコ探ししてっけど…」

「えぇ、ベルさんには敵いませんね。その豊潤さに敬服を」

「えっとえっとね、言いたいこといっぱい過ぎて、わたしの順番じゃつたえきれないから~ぜんぶ込めて、大好きのぎゅ~♡」

 

 

ひぃうっ! ひぅんっ! み、耳元で!! 皆さんが、シレラさん達もアイドルの方々もこぞって、囁いてきてっ! に、逃げようにもシレラさん達が手を離してくださらないから…全部受け止めるしかなくてぇぇ…! きゅぅぅぁぅぅ…へゃぁぅぁぅふぅぅっ…――!

 

 

「――フフッ。ま、一旦これぐらいにしてと。さ、聞こえてるベル? 皆から『感想』を貰って、どう思った?」

 

 

ぁぁぅぁぅぁぅ……。み、皆さんが丁度一巡しましたタイミングで、リア様が……。私、顔がじゅうぅうって焼けてて……シレラさんが握らせてくださった冷たいジュースでなんとか冷ましてまして…はい、はい……感想…?

 

 

「えぇそうよ♪ ベルちゃんが披露してくれたテクニクシャントークに対する、私達からの『感想』。それを全身に浴びて、心の中はどんな気持ちかしら? 嬉しかった? 明日からもまた、私達を褒めようと思ってくれたかしら♪」

 

「そ、それは……! その、ぇと、皆さんを褒めようなんて上からなことは……」

 

「「心の中を、正直に!」」

 

「は、はいっ!! お…思いましたっ!!」

 

 

サラ様も加わったそのちょっと強めの問いかけに、正直に答えます…! その、確かに間違いなく、とっても嬉しくて…! 皆さんから撫でて頂いて頭がふわふわふやふやに綿菓子みたいになって、一言ずつ頂いて胸の中の心がじゅわぁと溶けてくバターみたいになって…!

 

 

こんな甘い心地になれて、皆さんにこんなに喜んでいただけるなら、また、明日も皆さんの凄い所を言いたくなってしまって…! ……ですけど、私じゃなくても――。

 

 

「はいストップ! 全く、油断も隙も無いんだから! 数秒前に、沈み込む前に戻りなさいな! すっごく幸せそうだったでしょ!」

 

「うふふっ♪ 今のお顔、可愛かったわ♡ 私達の撫で褒め感想を思い返して、夢心地になってくれたのかしら?」

 

 

はぅ…!? わ、私そんな顔してました…!? で、ですけど事実夢心地でしたので、リア様に止められ、サラ様にそう聞かれてしまえばまた正直に頷くしかなく――。 

 

 

「それよ! その嬉しかった時の気持ちを捕まえなさい!」

 

「へっ!?」

 

「そんで反芻して、身体に染みわたらせなさい! はい実践!」

 

 

え、え、えっと…!? リア様の圧に、言われた通りに…! 目を瞑って、あの時の甘く温かい心地良さを思い返すように、繰り返して……。

 

 

「良いわね。そんじゃ、それやりながら聞きなさい。その夢心地こそが、アタシ達アイドルの、明日への原動力。剣のように頼りになり、心を守る感情。――そして、アタシ達がアンタのくれる感想から得ている、勇気そのものよ」

 

 

…へ。へ…!? へっ!?!? なんだか明るい浮遊感の中に、リア様の厳かで愛おしむような声が響いてきたと思いましたら…それはどういう!? 思わず目を開けてしまいますと、リア様は『まだ浸ってなさいよ、そこが重要なんだから』とお口を尖らせつつ――。

 

 

「言ったでしょ? アタシ達ですら――アンタが尊敬するアタシ達(アイドル)ですら、アンタと同じ悩みを持って足掻いているって。そしてそれを救ってくれているのが、アンタの感想だって!」

 

 

そ、それは…確かにそう仰ってましたけど……。で、でも……――。へ、リア様…私の胸を指し示しながら、にひっ♪と頬を緩められて…!

 

 

「まさに今アンタの胸の中で繰り返させてる気持ちになるのよ、アタシ達。アイドルを披露して帰ってきた時に、ファンや仲間の…アンタのキラッキラの感想が撫で褒めてくれると、ね!」

 

 

こ、この気持ちと…同じ……ですか!? こんな幸せな気持ちを、私が、皆さんへ…!? い、いやいやいえいえ!そんな、そんな!! それこそですから、私じゃなくとも…!

 

 

「ファンの皆さんや、アイドルの皆さんの方が、私よりもいい気分にさせてくれる感想を……」

 

「何言ってんのよ? それはそれこれはこれ。ファンの皆のにはファンの皆の、アンタのにはアンタの良さがあるんだから!」

 

 

ぁぅ…! リア様、溜息交じりに肩をお竦めになって…! そして――ずいっと机に身を乗り出させるようにして、私だけじゃなくシレラさん達へも、息を呑んでしまうほどに眩しい眼差しを!?

 

 

「アイドルに憧れ、アイドルになりたくて頑張っているアンタ達だからこそ、良いの。いずれ同じステージに立ってくれると信じられるアンタ達からの感想だから、胸の弾みもひとしおなのよ!」

 

 

リア様は一人一人へエールを、日頃のお礼を送るように! そして最後には、また私に!!

 

 

「だから良ーいベル! アンタもアタシ達のように、感想を受け入れなさい! まずは同じ立場のアタシ達からの称賛に、心を救われなさい! その幸せな気持ちを、怖がらずに楽しみなさい!」

 

「声援に味を占めて気分をアゲる―。それが私達の持つ、悩み克服法の一つよ♪」

 

 

リア様、サラ様……!! はい…はい! 私、頑張ってみま――。

 

 

 

「で、こっからが本題よ! アンタの悩みに答えてやるわ!」

 

 

「――……ふえ…??? ふぇっっ!!?!?」

 

 

 

えっ、えっ、えっ、リア様!? じゃ、じゃ、じゃ、じゃあ今までのって……!?

 

 

「言うなれば下準備かしら♪ ベルちゃんにしっかり聞いてもらうためのね♪」

 

 

さ、サラ様もニコニコと…! 私が、しっかり聞くためにって……? あわあわしている間に、リア様は椅子へ姿勢を戻されまして。

 

 

「回りくどく自分語りまでして悪かったわね。けどこうでもしないとアンタ、またいつもみたいに『私なんかには畏れ多い…』って聞く耳持たないじゃない」

 

「そ、そんなことは……!」

 

「へぇ? じゃ、アタシ達現役に様付けしてんの辞めなさい」

 

「そ、それは畏れ多……ぁぅぅ……!」

 

 

言いながら気づき、私、黙り込むしかなく…! そして、してやったり♪というお顔を浮かべたリア様はそのまま、けれどまるで頼りがいのある戦士が言い聞かせてくださるように…!

 

 

「これから話す内容も、アタシ達からの声援、感想。だからベル、反芻して、受け入れなさいよ! 今から湧き出す嬉しい気持ちに、しっかり味を占めなさい!」

 

 

は、はいっ! ピシッと背を正して、聞く姿勢を整えます! リア様は『そこまでしなくていいっての』とクスクス苦笑いをされた後、コホンと咳払いをなされて――。

 

 

「もう何回も言ってる通り、アンタのその悩みはアタシ達も持ってる悩み。その上で言うわよ? 『アイドルに向いてない』?『アイドルと並び立てる力量がない』? ハッ、何言ってんだか!」

 

 

初手で一蹴なされて!?  いえそう一笑に付してくださるリア様は解釈一致ですけれど――へ、丸くしてしまっていた私の目をバチっと捉え、リア様は周りを見るように促してきて…?

 

 

「ここに居る誰もが、ここに居る誰かに対してそんなこと思ったこと、ただの一度もないわよ! アンタだってそうでしょう? ()()()()()、そうなんだから!」

 

 

っ…!! 皆さん、先程私を褒めてくださった時と同じ顔を…! さっきの褒め返しこそが、その事実の証明だと言わんばかりに…! あ、ああう…! さ、さっきの感覚を思い出して、また顔が、胸の奥が……!

 

 

で、でも……また…! またシレラさんが私の手をとって、沁みこませるようにすりすりとゆっくり優しく撫で擦ってくださってぇ…! リア様も、逃がさないと言わんばかりに畳みかけて来て!

 

 

「アンタは歌もダンスも出来て、愛嬌を外に出すのはまだ少し苦手で。アタシ達(アイドル)のことを大好きで、今までずっと何度も何度もライブに来てくれていて、アタシ達の感想を語る時は誰よりもキラキラした表情を魅せてくれて!」

 

 

最近のことからかつてのことを一つ一つ思い返すように、一言一言をしみじみと、けれどわなわなと。そして昂ったように――!

 

 

「そんな子がアタシ達と同じアイドルになりたいだなんて、考えただけで胸が熱くなるし、身体の底からワクワクしてくるし、そりゃあもう――フフッ♪応援するしかないでしょうが!!」

 

 

溢れんばかりの輝くの笑顔を弾けさせるリア様に、見つめられて…はぅぅぅ…! で、ですが……私は、その……――。

 

 

「私、卑屈ですから……愛嬌とかも、皆さんにご迷惑を……」

 

 

「はぁまっっったこっのっっっ……!!」

 

 

ひぅっ…!? リア様、ぐぎぎぎと手をわきわきさせて…! サラ様はクスクスと笑いながらどうどうとリア様を……リア様、サラ様の手を『最後までやらせて』と言うようにそっと押し戻して――。

 

 

「……あぁそうよ、アンタは確かに卑屈! それは間違いないわ! アタシ達全員がそれを知ってるっての!」

 

 

ぴっ!? リア様、両手でダダンと机を鳴らして立ち上がられて! そのまま息を大きくお吸いになって!

 

 

「けれどアタシ達はね! アンタが皆と一緒に、日々の過酷なレッスンを文句ひとつ言わずストイックにこなしてることも! なによりアイドルが好きで、アイドルになりたくて、弱い自分と格闘して頭の中から追い出そうと必死に足掻いていることも知ってんのよ! だからアンタを嫌う子はいないし、だからこそネルっさんがアンタをスカウトしたんでしょ!!」

 

 

一息で、想い全てを吐き出し叩きつけてくるように!! それを横から支えるように、またシレラさん達が、手や眼差しで『その通り』と! そんな評価を頂けるなんて、身体の奥から甘い痺れがやってきて……!

 

 

で、ですけど…! 私、そこまでじゃ…! 特に自分との格闘なんて、いつも負けて、その度にアイドルの皆さんの歌や振舞いに助けられて、ようやく一瞬追い出せるぐらいで、そんな立派じゃ――。

 

 

「アンタ、立派で完璧なアイドルになれないとネルっさんの顔に泥塗っちゃう、とか考えてんでしょ? 『アイドルになったとて、ファンを喜ばせられない』とも悩んでたし」

 

 

っ! また胸の中を言い当てたリア様は、ふっと息ついて、足を組みながら椅子にゆったりとかけ直されて…!

 

 

「色々言いたいことあるけど、大体ねぇ…デビューすら出来てないのにファンの心配するなんて、皮算用にも程があるでしょうが!」

 

 

ぅきゅっ…! そ、それは……はい……まさに仰る通りで……何一つ返す言葉なんてなくて……。そう…なんですよね…。デビュー出来るかすら怪しい私なんかがそんな身の程知らずの不安を持ったところで――。

 

 

「だからいいのよ、そんなこと考えなくて。ファンは待ってくれてるんだから」

 

「はい…………へ…??」

 

「いいの、ファンのことは気にしなくて! 胸に手を当てて考えてみなさい! アンタはファンに気を使いまくってへんにゃへにゃになるアイドルに惚れたの?」

 

 

それは……! え…サラ様が小さく、現役アイドルの皆さんへ合図をして、リア様の後ろに呼び集めて――!

 

 

「違うでしょ! アンタが惚れたのは、キラッキラのアイドル――アタシ達に惚れたんでしょ!」

 

 

椅子にて足を組まれて不敵な笑みを浮かべるリア様を、現役メンバーの皆さんが囲み、各々煌めくポーズでデコレートを! それはまるで玉座にて待ち構える最強の勇士達で、ポスターやジャケ写に残したいほどに荘厳で華やかで、キラッキラで…!! シレラさん達からも歓声が上がるほどで!!!

 

 

「安心なさいな。ファンをどう捌くかなんて自ずと身につくし、『我此処にあり』という立ち振る舞いこそがファンを惹き付けんのよ」

 

 

そんな私達へ、リア様は微笑んで! そして――!

 

 

「だから皆! 不安なのは仕方ないけど、今はただ自分を追いかけ続けなさい! 泥を塗るとか迷惑かけるとか立派で完璧にならなきゃとか、諸々そんなの忘れなさい! アンタ達がやりたい未来を、なりたいアイドルだけを追い求めなさい!」

 

 

私達アイドル候補生へ激励を! その姿はまさに――!

 

 

「そんなアンタ達を、アタシ達は引っ張ってあげる! だから頼りなさい、アタシ達を――そしてしっかり、ついてきなさいよ!」

 

 

はわぁぁああっ! はい、はい! まさに、眩しいステージライトの中でも一際燦然と光輝く、私を救ってくれたアイドルそのものです!!! 私達はつい拍手を送り、リア様はお顔にほんの少し照れの眉を寄せながら手で払って止められて…!

 

 

「そんじゃ、ベル。煩い説教の〆よ。最後まで噛みしめて受け入れなさいな」

 

「は、はい! ですけど煩いだなんて、説教だなんて…!」

 

 

再度姿勢を正しますと、リア様は『ツッコまなくて良いってのそこは』とイーってしつつ、机にへちゃっと頬杖を。その何処か子供っぽい姿とは裏腹に――。

 

 

「アンタ、卑屈さを壁にして気づいてないでしょうけど…他の皆と同じように順調にアイドルらしく成長してるわ。あと一歩、ってトコまでね」

 

「え……!?」

 

「ふふっ♪ ――最初はライブの帰り道で独りこっそり歌ってた子が、今やトレーナーさんやライバル達の前で歌えるようになって。さっきなんかはリダオネカとそれぞれ一緒に、スタッフさん達がいる前であんなに軽やかに! ホント、あと一歩なんだから!」

 

 

リア様…! そんな、ずっと見守ってくれているお姉さんのような微笑みを、私に…! いえ、まさにそうなんです…! 私がスカウトされたあの瞬間から、ずっと見守ってくださっていて……!

 

 

「そーれーと。ファンが出来ないかもって嘆き、てんで的外れよ、ねぇ?」

 

 

へ…? それは、どういう……リア様が向けた目の先は、私の周りのシレラさん達、そして席に戻られる現役アイドルの方々…。皆さんまた、さっきのように…さっき以上に満面に肯かれて、リア様に集約されて――!

 

 

「しっかり反芻なさい? 既にアタシ達は、アンタのファン。アンタはアンタらしさで、ファンを喜ばせているのよ」

 

「っっ!!」

 

「そんなファンが、アンタを推しているの。素敵なアイドルになれるって。だからアンタ、まだまだ諦めずに、卑屈で弱い自分に負けずに足掻きなさいよ!」

 

 

り、リア様ぁ……み、皆さんん……! はい…はい……はいっ!! はいッッッ!!! 私……私ぃ……っ!

 

 

「頑張ります……私、精一杯足掻きます! 皆さんと一緒に足掻いて、それで、どうしようもなくなったら、お力を借りて……!」

 

「いやもっと気軽に頼りなさいっての! そんな感極まってうるうるの顔しときながら、あんま変わってないんだから」

 

 

リア様は呆れたというように肩をお竦めになって…! けれど、『ま、遠慮一辺倒じゃなくなっただけ一歩成長ね』と口にするリア様は、なんだか嬉しそうで…!

 

 

「そだ、アタシ達に引っ張られるのが畏れ多いってなら、アンタが全力で甘えられる相手を見つけるのもアリよ。アンタのファンになるのはアタシ達だけじゃないんだから。あ、でもしっかりとした素性のやつにしなさいよ! 一回、アタシ達に紹介しときなさい!」

 

「あらリアパパったら、厳しいと嫌われちゃうわよ♪」

 

「誰がパパよ!!!」 

 

 

ふふ…はい…! まさに親のように、私の僅かな成長を我が毎のように喜んでくださってるようで! こんなこと、私なんかが思っていいことじゃないですけどね…あはは……――え、えと、改めて! 

 

 

「有難うございます、リア様! 有難うございます、皆さん! 大切なことを教えてくださって、見守ってくださって…! 私さっきから、胸が張り裂けそうなほど嬉しくて震えてときめいていて、しかもそれを反芻する度にどんどん大きくなって身体いっぱいに膨らんでいって、今にもボンッって爆発しそうで、あの、その…!!」

 

 

ぁぅぅ…! 御礼を述べるつもりが気持ちだけ先走ってしまって、自分でも何言ってるか…! で、でも皆さん、笑って次の言葉を待ってくださっていて…! ですから、このまま!

 

 

「この夢心地を、勇気をずっと覚えたまま、私! 皆さんの期待に応えるために立派で…私がなりたいアイドルを目指して、その、皆さんと…親友で戦友でライバルで、同じ立場で、尊敬するアイドルで、ファンな皆さんと一緒に!悩んで救われて楽しんで、邁進させていただきますっ!!」

 

 

い、い、言い切りました!! 思ってたことを、胸で反芻していた伝えたい想いを!! わぁ…! 皆さん、拍手やグーサインやピース、ハイタッチや笑顔で迎えてくださって! 

 

 

私、リダさんオネカさんへ、今日のことを一生忘れないと言いました。それが更に、絶対に忘れられない日になるなんて! 皆さんの前で宣言させていただいた通り、私、立派なアイドルになるために頑張ります!

 

 

――ですけど、その、今日は、それだけじゃなく、私よりも!

 

 

 

 

 

 

「あ、あの!」

 

 

私の宣言から少しだけ間を置きまして…! 賑やかに戻った場に、そう切り込みます! こ、声が大きすぎたのか、皆さん…サラ様を始めとした皆さんに弄られていたリア様も少々目を丸くして…で、ですが皆さんには、できれば私の時以上に注目して頂かないと!

 

 

「その、私もここにいる皆さん全員のファンで…! 推していまして…! その、ですから――ファンとして、新しいアイドルの、誕生を、祝いたいと、思ってまして!!!」

 

 

「新しい?」

「アイドルの?」

「誕生???」

 

「へぇ!」

「あら♪」

 

 

皆さん首を傾げてしまいましたが、リア様サラ様、そしてあの時一緒に居た皆はわかってくださったようです! ですから私も、ずっと支えてくださっていたシレラさんの手を、握り返して!

 

 

「シレラさんニュカさんルキさん、ごめんなさい、私が邪魔してしまっていて…勝手に切り出してしまって…!」

 

「ベル……!」

「ベルちゃん…!」

「ベルってばぁ…!」

 

 

「その、おこがましいのは重々承知ですけど…どうかこの場で、お三方を推させてください! 今日も私を支えてくれて、守ってくれて、褒めてくれて、一緒にいてくれた大好きな親友を!」

 

「「「っ…!」」」

 

 

シレラさん達、息を呑んで…! そしてリア様サラ様の微笑みに目をやり、小さく息を吐かれて…シレラさん、私の手を両手で大切そうに包んでくださって…!?

 

 

「…本当、1をお返ししたら10にして返してくるんだから」

「えへへぇ~♪ 私達も大好きで親友でファンだよ!」

「こりゃ~マジでベルの強火担になりそ♪」

 

 

お、お三方共…! 私へそう残し立ち上がって、冷蔵庫へと…! 手にしてきたのは、あの――!

 

 

「「「「「え! もしかして!!!」」」」」

「「「「「そのおっきなケーキ箱!」」」」」

「「「「「三人共、三人で!!!?」」」」」

 

 

「はい! 実は此度!」

「ネルっさんからー!」

「デビュー(仮)の通達を☆」

 

 

そうです! それは、実践レッスン時にネルサ様より手渡された、あのケーキ箱! 即ちシレラさんニュカさんルキさんが誇らしげにお答えしている通り、デビュー決定の証明なんです!!

 

 

「おおおマジか~ッ! マジのマジかーッ! ヒャッホウ♪」

「おめでとう! ぎゅーさせて! はぐはぐさせて!!!」

「早く言ってよ~! ダッシュでお祝い買って来たのに!」

「今度遊びに行くとき全部奢ってあげる! てか次の休み行こ!」

「もうデビューか~…! 早いなぁ……なんだか涙が……」

 

 

一斉に祝福を送る、現役アイドルの皆さん! シレラさん達はその勢いに押されてしまってます!

 

 

「い、いえまだ仮で、正式に決まった訳では…!」

 

「いやいやこの三人っしょ! 絶対そうっしょ!」

「は~! ステージで歌ってるの想像しただけで…!」

「萌えるし燃えるしヤバ! なんか興奮してきた!」

「デビューライブのOA(前座)役、立候補するデース!」

「あっ!ぬけがけズルぅ! 私らもお披露目付き添いしたい!」

 

「わっ、ホントですか!!? やった!!たっのしみ~!!」

 

「さあこっからが本番だぜ! 色々揃えないとなぁ♪」

「奢り隊に私も参加にゃ! たっくさん買ったげるにゃ~!」

「私も私も! 三人に合うコーデずっと考えてたんだ~!」

「勿論、靴でも髪留めでも枕でも好きな物もなんでも!」

「本デビューしたら更にお祝いするから覚悟しんしゃい☆」

 

 

「怖んわぁ…! パイセン達怖んわぁ~…っ!!」

 

 

ふふっ! 先程リア様が仰ってくださった通りです。皆さんは皆さんをアイドルと…親友で戦友でライバルと認め合っています! そしてやっぱり、皆さんが皆さんのファンなんです! 

 

 

だって今のシレラさん達のお姿は、まるでファンの花道に揉まれて嬉し楽しの悲鳴をあげているアイドルそのもので! こちらへと戻って来るまで、私、この光景をずっと見ていられて――って、あ、そうだ…!

 

 

席、シレラさん達の間に挟まったままなのは邪魔ですよね…! 急いで別の机にでもズレて……ふぇっ!? シレラさん達、私をそっと押さえて立ち上がらせないようにしてきて…!?

 

 

「――それで、頂いたケーキも凄いんです!」

「さっきちょっと見てビックリしちゃった!」

「ベーゼさんアストさんの推し店らしいんすよ☆」 

 

 

そのままお三方は皆さんとのお喋りを続けながら、せーのでケーキ箱をオープン――わぁっ!

 

 

「「「「「おおおぉおおお~ッ!!!」」」」」

 

 

これは…これは本当に凄いです!! スモークを溢れさせながら箱が独りでに完全に開き、中から大きいホールケーキが! 咲き誇る花々のようなクリームが側面を彩る様は、さながら舞踏会のヒロインドレス!! 更にはシレラさんニュカさんルキさんをモチーフにした、靴、髪留め、枕の形をした飾り菓子も!

 

 

そして上面にはなんと、色とりどりのジャムやクリーム、ゼリーやチョコレートやムースがタイル状に! 鏡のように滑やかだったりキラキラ入りだったりのそれらが光を受けて眩しく輝いている様は、まるで鮮やかなライト群に照らされたライブステージのよう!

 

 

しかも実際にそれを意識なされているのでしょう、そのステージを囲むように盛られたクリームと果物の飾り切りはライトを模していて! ステージの中央にはケーキ毎に、それぞれシレラさんニュカさんルキさんを模した精巧ながらもデフォルメされた可愛らしい砂糖人形が、元気にポーズをとってアイドルをっ!! 

 

 

まさに宝箱の中から出てきた宝物! とってもとっても素敵で、まさにアイドルの誕生を祝うのに相応しいケーキです!! これは写真に収めないと…目にも焼きつけませんと!!

 

 

「今回もとんでもないので来ましたね!」

「綺麗…! 何処のケーキなの~?」

「あ、カード入ってます! えぇと…」

「『パティスリー【お菓子の魔女】』!」

「『ヘンゼル&グレーテル』さん作と☆」

「あ、聞いたことあるかも! 本店森の中の!」

「へぇ~! なんか隠れた名店ぽいかも~!」

「名店なのは絶対そうっしょ! だってさ!」

「あのベーゼちゃんのおすすめだもんね!」

「なんなら、グリモワルス御用達かも!」

「あーそれはそうかも。なにせアストも…おっと」

「ふふっ、しーっ…♪ 撮影魔法、用意できたわ♪」

 

 

皆さんも大いに盛り上がり、写真をパシャパシャと! ふふっ、まるで記者さん方の囲み取材のよう! ケーキと共に笑顔を浮かべるシレラさん達は当然、注目の的のアイドルです!! 

 

 

ただ、その…そんな撮影に私は邪魔ですから、席を替わったんですけど…。それ自体はシレラさん達お三方を並ばせなきゃという理由で上手くいったんですけど……また、シレラさん達によって席を戻され座らされてしまいまして……なんなら混ざらされて一緒に…な、なんでぇ…!?

 

 

「――さぁ、三人共! 実食タイムよ!」

「ホールごとパクっといっちゃいなさいな♪」

 

「今の内だからね~…本当…!」

「マジ体型維持に必死なるから…!」

「気兼ねなく食べられるの今だけ!」

「こら、怖がらせないの!」

「私の時は丸ごといったし☆」

「なぁに、鍛えればいいだけさ!」

 

 

そ、そんなこんなで撮影タイムも終わり、とうとうケーキを頂く時となりまして。皆さんからそう促される中、シレラさん達は――。

 

 

「ふふっまさか! 皆で分けましょう!」

「その方が絶対美味しいですもん!」

「ぶっちゃけ、この量ソロはガチ無理…☆」

 

 

軽くそう仰ってくださって! そのお優しさ、お姫様のように高貴で、流れ星のように美しくて…! 気遣いの詰まったケーキをプレゼントしてくださったネルサ様に、全く負けていません!

 

 

なんでも現役の皆さん曰く、ネルサ様は皆で分け合う前提で大きなケーキをプレゼントしてくださるらしく。沢山食べる方や人数によってはもっと大きかったり複数個渡してきたり、このケーキのようにクリーム諸々の味を変えて色んな子の好みに対応なされてるようなんです。

 

 

ですからこのケーキ、間違いなくシレラさん達の満足できる量や好みの味をご把握の上でのプレゼントなんです! ふふ、流石ネルサ様ですよね…! 

 

 

「早速切って貰ってきますね!」

 

 

あ、シレラさん達が立ち上がって、ケーキを持ってコックさんの元へ! 私もお手伝いを…ぁ…今動いても私なんかにやることは……あ、そうです、今のうちに席を移動して――!

 

 

「サラ任せた」

「は~い♪ ベルちゃん、明日の相談なのだけど――」

 

 

へ、リア様サラ様!? リア様はそのまま立ち上がり、シレラさん達の元へ…! サラ様は私にお声がけを…!? え、えと…!

 

 

「――良いからほら、こんぐらいは食べなさいな! いけるでしょ?」

 

「えっ!? でもそれだと皆さんの分が……」

 

「アンタ達のお祝いでしょうが。アンタ達が堪能するのが一番、アタシ達へのお裾分けはその後の後! ほら、コックさん達もこう言ってくれてるでしょ」

 

「でもぉ…」

 

「ハッ、なら猶の事これ食べて勢いづいて、アタシ達越えの大物になってから皆にケーキ奢んなさい! 待ってるわよ?」

 

「おぉ~!くぅ~っ♪ やっぱリアさんカッコいいわ~!」

 

「フフン! あ、この外側がコーヒークリームのトコ、多分甘さ控えめね。うん、カードの説明にも書いてあるわ。アンタ達の好みじゃないでしょ? これはあの子用で――」

 

 

サラ様へ受け答えをしながら耳をそばだたせておりますと、リア様とシレラさん達のそんな会話がほんのりと。はぅう…! 皆さん素敵すぎます……っ!

 

 

「手ぇ空いてる子ー! 配膳手伝いに来てー!」

 

 

あ、はいリア様! 今向かいます! ……あっ、席替えられませんでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「頂きまーすっ!」」」」」

「「「「「あむっ…んっ!」」」」」

「「「「「美味ひい~ッ!!」」」」」

 

「ちょっとこれ、ウマっ…!」

「えっ、ヤバくない…!?」

「マジでグリモワルス御用達…!?」

「今度の差し入れここに決定ね……」

 

 

「ふひゃ~想像以上…!」

「むへへぇ~♪ 幸せぇ♡」

「こんなの初めて…!」

 

 

はい、まさにですぅ…! 身体が蕩けるぐらいに甘いのに、全くしつこさはなくて…! それどころかフワッと舌の上で溶ける度にフルーティーな酸味や深みのあるコク、弾けるような香りや一瞬感じる刺激の痺れといった色んな味わいが、まるで目まぐるしく輝き変わるライブ演出のように飽きさせてくれなくて!

 

 

そんな一口でいつまでも浸れてしまうような味ですのに、心は『もっともっといっぱいに頬張りたい』と逸ってフォークを運ぼうとしてしまって! 魔法にかけられたような手を抑えながら頂くのに必死で、美味しくて、幸せでぇ…!!

 

 

こんな素敵なケーキ、私なんかも頂いて良かったのでしょうか…! しかも変わらずお三方に…本来このケーキの祝福全てを受け取るべきシレラさん達に挟まれながら…! 

 

 

あんまりそうやって考えるなと言われたのは勿論覚えてますけど…! やっぱり、デビュー祝いという唯一無二な大切なものを切って分けて頂くなんて畏れ多くて、申し訳なくて…! 気持ちとしては、全部味わって頂くためにお返ししたい気分で…!

 

 

「ベルも美味しい? ふふっ、聞くまでもなく幸せそうな顔してて……あれ?」

 

 

ですが当然食べかけをお返しする訳にはいきませんし、一部はもうお腹の中ですし……あ、そうです! このお店から買って、お返しすれば! こんなレベルの高いケーキが幾らするかはわかりませんけど、なんとかお金を搔き集めて次のお休みにでも…! そうだ、そうしましょう!

 

 

「ベル? 顔がどんどん…あ、これ、また……?」

 

 

きっと本当に喜ばれるのは先程リア様が仰ってた通りデビューしてから奢る形か、私がデビューする際に頂けるかもしれないお祝いケーキを同じように分ける形なのでしょうけど……。それが叶わない可能性は充分ありますから……。ですので――。

 

 

「もう……あ♪ ふふ、ねぇベル?」

 

 

ふゃっ!? シレラさんが肩をちょんちょんと…! 返事を…!

 

 

「は、はいシレラ――」

 

「はい、あ~んっ♡」

 

「ぁもむっ!?」

 

 

ふわっ…甘っ…蕩け…美味し…っ!? し、シレラひゃん!?!? なんで、私の口の中に、ケーキを!? それも、自分のを更に切り分けて…!!? え、えと、どういう……!?

 

 

「あっ、ちょっと無理やり過ぎちゃった…! クリームが…!」

 

 

目を白黒させている中、シレラさんも少し慌てたように…私の口周りを拭いてくださって…!? え、え、え、その、ですからこれ、どういう!!? そ、そうだ、感想を、感想をお返ししなきゃ!!? 

 

 

「あっ待って待って! えいっ!」

 

 

むぐっ!? クリーム拭きを放りだすように、シレラさんの指が、私の口を封じて!? え、え、え、シレラさん!? 何処か気恥ずかしそうにはにかまれて、こほんと咳払いなされて…!

 

 

「美味しい? ――ふふっ、ね♪ 甘い心地に浸れて、忘れられないぐらい幸せな気分になれちゃうよね♪」

 

 

唇を塞がれたままに頷きで答えますと、シレラさんはそう微笑まれて…! は、はい、幸せです! 口の中いっぱいが至福で…! けど、何故……。

 

 

「それで…また、食べたいって思う? この味を、また今度も楽しみたい?」

 

 

えっ…それは、できれば、はい…! 深くゆっくり頷いてみせますと、シレラさんは「良かった! 私もなの!」と嬉しそうなお顔を浮かべ、指をお放しになり…!

 

 

「――実はね。未だに私、デビューできるかもってコト、信じられなくて。けれどこのケーキがあるから、この幸せの味があるから、嘘じゃないって信じられて!」

 

「ね~! こんな美味しいの食べちゃったら、明日からももっともっと頑張らないとってなるよね!」

 

「きっと私らこの先ずっと、この味を思い出すだけで、反芻するだけで、やる気が漲ってくるんだろな~☆」

 

 

むゃっ!? ニュカさんルキさんも加わって!? 私まだ口の中にあるケーキをもごもごしながらで、何も言えなくて…! でも、それには同感です…! 

 

 

このケーキは証で、デビューする子の今までの努力を記念して、これからの努力を祈念する祝福で、アイドルにのみ許された味で!

 

 

「でも多分ね。この幸せの味自体は、こういったデビューお祝いのケーキからでしか味わえないと思うの。似たケーキとかじゃ駄目で、どんなお祝いを頂いても違くて――私達はもう二度と貰えなくて」

 

 

っ…! ですのになんで…! そんな大切な味を、限られた貴重な一口を、私なんかに!? それを聞きたくとも、シレラさんは『焦らず味わって』と言うように微笑まれ、なんだかわざとらしく続けられて…!

 

 

「でも内心はさっき言った通り、またいつか味わいたいと思っちゃってたりして。ふふっ♪ベルもでしょう? どうしよう、どうやったらまた食べられるかしら?」

 

 

それは…その、シレラさんのお言葉をそのまま借りると、こういったデビューお祝いのケーキからでしか味わえない、ですから…つまり――。

 

 

「あぁそうだ、ベルのデビューお祝いケーキを分けて貰えば、ベルも私も大満足! なんて、ふふふっ♪」

 

 

わ、私のですか!? い、いえいえいえ!? だって私よりも、他の方々がデビューする可能性のほうが何十倍も高くて、なんなら百パーセントでしょうから――へ…?

 

 

「……本当に十倍返しされそうかも…。ううんいいや、その時はその時…! 言っちゃえ…!」

 

 

シレラさん、ボソリと自分に言い聞かせるように呟いて…覚悟を決めた瞳で、私の目をまっすぐ見つめてきて!

 

 

「ベル、今の一口はそのお願い。その幸せを覚えて、味を占めて、力にして。私達と一緒に明日からも頑張って、私達と同じようにデビューして! そして、お祝いケーキでお返しして欲しいの。今度はベルの幸せの気分を、私達にお裾分けして欲しいの!」

 

 

っっっ?! この一口の、幸せのお返しを、私のデビューで!? えと、もしその時が来たら是非にですけど、沢山お返ししたいですけど! その時なんて、来るかすら――わわわ…!

 

 

「それまで、待ってるから。ベルがデビューするまで、待ってるから。どれだけデビューに時間がかかっても、私…ううん、私達、いつまでも待ってるから!」

 

 

シレラさん、そっと私の手を両手でとって! 照れ隠しのようなウインクで『ベルの方が先に公式デビューするかもしれないし、同じユニットとして一緒にデビューできるかもしれないけれどね』と付け加えつつ、見惚れてしまう微笑みを――!

 

 

「だからベル、今はただ、一緒にこの幸せに浸って。そしてまたいつか、今日みたいにここでこうして美味しいケーキを…アイドルの幸せを分け合いましょう! ね、約束♪」

 

 

片方で私の手を支えてくださりながら、指切りを…! わ、私もケーキを、シレラさんの想いを飲み込み、それに返して――!

 

 

「指切りげんまん♪嘘ついたら――デビューしてから高級ケーキをおーごる、指きった!」

 

「ふぇっ!?」

 

 

逃げ場が!?!? まさかの罰にあわあわしてしまっていると、シレラさんはクスクス笑いながら…約束をした小指で…ひゃわぁっ…!! 私の顔に残っていたクリームを掬い取り、舌先でペロッと舐めてみせて!!

 

 

その小悪魔的な、されど慣れない悪戯に照れた天使のような微笑みはとっても可憐で…! 思わず感動の溜息が漏れてしまうぐらいで……! やっぱり、アイドルって凄い――。

 

 

「私達のばーん! ベルちゃんからのあーん楽しみ~!」

「ほい、あーん☆ ほれほれ遠慮ナシに浸れ~い♪」

 

 

へっ、ひゃっ!? ちょっ、ニュカさんルキさん!?!? ま、待っ!? せ、折角のお祝いケーキなんですから、私なんかにこれ以上分けず味わって……って、お返しってそういう!? ひゃっ、わわっ…!ひゃわぁあああっ…!!

 

 

「へぇ、やるじゃないアンタ達!」

 

「ふふっ、お二人を参考にさせて頂きました! 最も、あれほど上手くはできませんでしたけど…」

 

「またまた! アタシ達感心しっぱなしだったっての!」

「本当♪ 強力で頼もしいライバルのデビューね♪」

 

 

ニュカさんルキさんが私にわちゃわちゃ絡んでくださっている横で、リア様サラ様とシレラさんはそんな会話を…! と、リア様サラ様はお礼を湛えたご表情をお浮かべになって。

 

 

「それに、アンタ達三人に初心に帰らせて貰った気分だわ。そう―アタシ達もあの時、ケーキを貰った時そう思って、だからこそ皆に差し入れを贈るようになったのよね」

 

「えぇ。美味しい差し入れは見てくれている証明となり、次への、永遠の活力になる―そう考えてね。懐かしいわね…けれど思い返すだけで、あの時の幸せの味がまざまざと蘇ってくるわ♪」

 

 

わぁ…! お二方のお顔に、明日からのモチベーションが湧き出してきているのがわかります! このお祝いの味って、トップアイドルになってまでも残る幸せの思い出なんです!

 

 

けれど、シレラさん達はそれを私なんかに分けてしまって―ううん、いいえ…! そう考えてしまったらシレラさん達にもケーキにも皆さんにも失礼ですよね! 

 

 

私に出来ることは、これ以上迷惑をかけないことでこの瞬間を、シレラさん達がトップアイドルになっても思い出してくださる記憶とすること。そして……一口の約束を果たすこと! 

 

 

その約束が叶うかの自信はないですけど……今はその弱い自分を追い出して、シレラさん達と一緒に楽しく浸って! 幸せの味を反芻して、活力にして、明日からも皆さんと一緒に足掻いてみせます!

 

 

そのために、最後までケーキをしっかり味わわせて頂いて――あ、そうです、ケーキの他にも…!

 

 

 

「そだベル! アタシ達の差し入れもしっかり食べなさいよ!」

「うふふっ♪ このケーキに劣ってない自信はあるわよ?」

 

 

はいリア様サラ様! 先程頂いた差し入れも、間違いなく幸せの味です! waRosのお二方が私達を見てくれて、背を押してくれた証なんですから! 今度は腐らせることなく頂きませんと!

 

 

「あー! あれ、ケーキに合わせたら更に美味しくなると思ってたんだ~!」

「相乗効果ってヤツ? 良いねぇ~取り行こ~♪ベルもシレラも行こ~お♪」

 

 

わっ、ニュカさんルキさん! ふふっ、はい! 急いで取りに行きましょう! 四人揃って小走りで廊下に出てまっすぐ進んで、自室に戻りまして!

 

 

本当、アイドル寮はいつ見ても寮というより貴族のお屋敷と言いますか…! 私にあてがって頂いた部屋も他と同じく、何人かで広々お泊り会できるぐらいに大きくて、防音防振等もしっかりしていて! 私なんかには過ぎたお部屋で――。

 

 

って、今はそれよりも、差し入れお菓子を持っていきませんと! あれはレッスン鞄の中に入れたままで……あれ。確か、鞄の奥に大切に仕舞っておいて……あれ……あれ…!? 

 

 

 

えっ……いやいや……あれ……あれ……あれ!?!??!? えっ…えっ…えぇえっ!!? そんな……そんな…そんなっ!! 

 

 

 

嘘……嘘っ!! なんで……なんでッ!? あの時ミミックさんから頂いた、大切に仕舞っておいたはずの、waRosからの差し入れが!!

 

 

 

 

「無い……無い……無いっ!!!??」

 

 

 

 

見つかりません……鞄の中に、入っていません!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ど、ど、どうしましょう! 貰ってない訳はありませんし、貰ってすぐに大切に仕舞ったはずです! なのに、なんで! なんで!?!?!? 

 

 

だって、寮に帰って来てから取り出した記憶はないんです! その…waRosのお二方にどこの感想をどうお伝えするかをずっと考えていて、それで頭が一杯で、忘れていまして……!

 

 

でもなのに、鞄をひっくり返しても全部のチャックを開けても奥まで探っても顔を入れるぐらいに凝らして見ても、それを何度やってみても、影も形もないんです!! どうして――……!

 

 

「あれ、ベルちゃ~ん! まだ~?」

「ちょいちょいニュカ、急かさんのー」

「ふふっ。ベル、ゆっくりで良いからね」

 

 

ぴっ!? ノックの音と共に、ニュカさんルキさんシレラさんの声が!! え、えっと!! 急いで部屋の入り口に駆け寄って、扉越しに!

 

 

「す、すみません! 先に行っててください! すぐに向かいますっ!!」

 

「え~。待ってるよ~?」

「どったん? なんか…」

「声震えてない? 大丈夫?」

 

「い、いえ!? そ、そんなことは! 大丈夫ですから、はい!!」

 

「そ、そうなの……?」

「ん~…………ね、シレラ」

「わかったわ。先行ってるわね」

 

 

よかった、聞き届けてくださいました…! 食堂へ戻ってゆく足音が微かに聞こえてきます…! ふぅ……とりあえずなんとかなりました……安心している場合じゃありません!!

 

 

お三方のことですから、少ししたらまた様子を見に来てくださってしまいます! だからその前に差し入れお菓子を見つけて、戻りませんと!

 

 

ですけど、一体何処に……部屋に戻って来てから出した記憶はありませんし…………いや、もしかしたら自分の思い違いかも…! 一回取り出して、何処かに置いたのかも……!

 

 

とりあえず、私が置きそうな場所から探して…! えっと、ここのアイドルの皆さんから頂いたサインや頂き物を祀ってありますシェルフには……ない…お、同じくウォールラックに……ない……!

 

 

じゃ、じゃあ! テーブルや勉強机の上に……小物棚の中に…キッチン……食器棚には……! 洋服タンス……本棚……魔導画面付近……ライブ映像用棚…楽曲置き場…ベッドにも……あっちには……――こっちにも……――ない……!

 

 

あっ、あっ…! バッグからコロッと落ちた可能性もありますよね! えっと、鞄かけの周囲から床を……姿見の下……ベッドの、机の、家具の、クッションの下……! ぁぅぅ……カーペットの下、ダンス練習用マットの下……床下収納…は一階とはいえないです……ないんです……ない…ない――。

 

 

 

「ないぃ……!!! なんで、なんでぇっ…!?」

 

 

 

どこを探しても、影も形もありません…っ! こうなると、部屋にまで持ってきていたかすら怪しくて…! 見落としたかもしれませんし、もう一度最初から…ううん、部屋の隅から隅まで念入りに――ぴいっっ!?!?!?

 

 

の、ノックの音が、また響いて!?!? もしかして、シレラさん方がもう一度…いえ、でもあの御三方のノックにしてはなんだか力強くて……これって確か!?

 

 

「ベル、アタシよ! ほら開けなさいな!」

 

 

り、リア様っっっ!?!?!? 声的に焦れてるご様子で、お引き取り頂く訳にいきませんし…! は、はい今開け――ひゅっ!?

 

 

「ケーキ乾くわよ、全く」

「迎えにきちゃったわ♪」

 

「良かった、体調は悪くなさそう…!」

「ん~つーことは……逆にマズった?」

「ベルちゃ~ん! 来て貰っちゃった☆」

 

急いで扉を開きますと…そこにはリア様だけじゃなく、サラ様とシレラさん達まで!? 待たせすぎて勢揃いで来てしまわれました!?

 

 

「一体どうしたのよ、随分と来ないじゃない!」

「差し入れ、踏んで粉々にしちゃったかしら☆」

 

「い、いえ! そんなことは! ……そのほうがマシといいますか…」

 

「ん? なんて?」

「あら?」

 

「な、なんでもありません! えと、その……!!」

 

 

リア様サラ様までいらしてしまった以上、差し入れを失くしてしまったなんて口が裂けても言えるわけがありません! ですからその、誤魔化しませんと!!

 

 

「その、お菓子は……ぇと……ぁの……その……あっ…! 実は、あの、持っていく前に少しだけ味見をと一口頂きましたら、止まらなくなりまして!」

 

 

「……は?」

「…そうなのねぇ」

 

 

「は、はい! そ、それで……気づいたら無くなってしまいまして! ですから……えと……ど、どうすれば良いかわからなくなってまして!!」

 

 

「……へぇ~」

「…っふふ…!」

 

 

し、信じてくださったでしょうか…!? 思いつきの言い訳ですけど、なんとか聞き届けてくだされば……へっ、お二方とも、顔を見合わせてにんまりと…!?

 

 

「なら折角だから味の感想聞きたいわね! どうだった?」

 

「はわっ!? え、えっと…綺麗で…甘くて…ケーキに合いそうで…!」

 

「あらおかしいわねぇ。あのお菓子、苦みが美味しいのだけど?」

 

「っっっ!? え、えっとえっとその!? そうでした…かも――!?」

 

「えー嘘だー!? だって苦くなんてなか…ムグっ!」

「いや塞ぐ必要なかったわ。お人が悪いんですからぁ」

「ふふ、もう…! お二人共、ベルを虐めないでください」

 

 

――……へっ…? ふぇっ…!? あわあわしてしまっていますと、ニュカさんの抗議の声が。そしてそれを止めたけどすぐに手を放したルキさんと、シレラさんがwaRosのお二方へ諫めるように……更に当のお二方は謝るように首を縮め、私へも…えっ、えっ…?

 

 

「悪かったわね弄って。あんまりにも必死で可愛かったからつい、ね!」

「うふふっ、ごめんなさいね♪ それで…失くしちゃったのね、お菓子」

 

「っっっ!? な、なんで……ハッ、あッ…!」

 

 

慌てて私も口を塞ぎますが……ぁぅ…もう遅いみたいです……。皆さんとうにわかってたように…いえニュカさんだけは今気づいたようですけど……。

 

 

「なんでって、ねぇ。狼狽の仕方はこの際置いといて…。前にあげた差し入れを大切にし過ぎて腐らせたアンタよ? 『我慢できなくて食べちゃいましたー』なんてこと、しないでしょうが」

 

「帰り道でも『夕食の後に食べるから仕舞っている』って言っていたものね。 ……あら? もしかしてあの時から失くしていたの? それともやっぱり貰っていなかったとか?」

 

 

「いえいえいえ!? その時は持っていたはずなんです! 多分! 多分…。……確認してませんでした…。鞄の奥に仕舞っていたはずだったんですけど……で、でも! 頂いたのは間違いなくて! あのミミックさんからしっかり、お二方のライブ終わりに、レッスンエリアに向かう途中に!」

 

 

リア様サラ様へ慌ててそうお伝えします…! そうです……あの帰り道に確認しておけばこんなことには…! けれど間違いなく頂いていましたし、皆さんやミミックさん達の睦まじい様子に気をとられてしまって……ぁぅ……。

 

 

「レッスンエリアに向かう途中に貰っていて……」

「私達の貰った時にはワンチャン無いなってた…」

「あ、じゃーレッスン室に置き忘れてきたとか!」

 

 

「…………あっ!!!!!」

 

 

シレラさんルキさんニュカさん!!! それかもしれませんっ!!! レッスン室の着替えロッカーの中にあるかもしれませんっ!! 

 

 

だってあの時遅刻してしまった時、更にタオルを忘れたのに気づいて鞄をひっくり返して探してましたから!! こうしてはいられません、すぐに――あうっ…!

 

 

「落ち着きなさいな。この時間はもうレッスン室は施錠されてるし、レッスンエリアもこの辺りも消灯済みでしょうが」

 

 

駆けだそうとしたところを、リア様に止められてしまいました…! うぅ…確かにそうです…。ライブ映像を見ながらゆっくり夕食を頂いてましたから、もう夜も更けてきていて……。け、けど……。

 

 

「そうねぇ…でも、オネカあたりに頼みにいけば開けてくれるかもしれないわ。一緒に行きましょうか?」

 

「っ…! サラ様ぁ……!  是非…あ、いえ! これ以上ご迷惑をかける訳にはいきません! それは私一人でお願いしに……あ…でもそれだとオネカさんにもまたご迷惑を……無かった場合更に…」

 

 

変に押しかけてオネカさんに迷惑をかける訳にはいきません…! だって昼間にも忘れたタオルを取りに行って貰ったりと色々していただきましたのに、また忘れ物しましただなんて……!

 

 

それに……もしレッスン室に無かったら、私が何処かに落としてしまっていたら! それこそ、間違えて迷い込んでしまった大道具エリアにとか、走ってる際にライブエリアにとか! その可能性はいくらでもありまして……!

 

 

それでもしロッカーの中に無かったら……きっとオネカさんは見つかるまで探してくださってしまうはずです…! リダさんも聞きつけて加わってきそうです……! 他のミミックさん達も…!!

 

 

で、でもこのままだとリア様サラ様に申し訳が立ちませんし……! 前回は腐らせて今回は失くしただなんて…! それにこのまま心配かけてしまったら、折角のシレラさん達のお祝いに水を差して、大切な思い出に傷が…! ど、どうすれば……――ひゃうっ!?

 

 

「ま、明日取りに行けばいいだけでしょうよ! 本当の感想を聞くのはまた今度にしといたげるわ」

 

 

リア様が私の肩を組んで、部屋から引きずりだすように!? で、でも――!

 

 

「ん? あ、そっか。ケーキに合わせるって話だったっけ。しょうがないわねぇ、新しいのあげるわよ。余分に買ってきてあるんだから!」

 

 

えっ!? い、いえ頂けません二個目なんて! …あの、でも、多分、それ以前に…!

 

 

「えぇと、リア? その余り分は全部、あの子達に…ね?」

 

「…………あっ」

 

 

良かった、サラ様が気づいてくださいました…! あの時差し入れを配り終えた後、残ったものはミミックさんに全部差し上げていましたから…! その、ですから、私の自業自得ですから、もう私のことは気にかけずに――。

 

 

「なら私達が!」

「ベルちゃんに!」

「分けちゃいま~☆」

 

 

ふえっ!? シレラさんニュカさんルキさん!? い、いえいえいえいえいえ!! それは、それだけは!! だってお祝いケーキすら分けて頂いたのに、その上差し入れお菓子までなんて!

 

 

「言ったでしょ、幸せを分け合うって♪」

「ケーキと一緒だよ! 一緒が一番♪」

「皆で楽しく食べて幸せにならんとねぇ♪」

 

 

「つっ……!」

 

 

お三方共……! ……そうです。今日という日は、お三方にとって楽しく幸せな思い出にならなければいけないんです…! そのためにはこれ以上場を乱すわけにはいきません!

 

 

探しに行って心配させることも、この申し出を断ってぎくしゃくの空気になることも避けなければ! 今はリダさんオネカさんもいませんし……! で、ですから――!

 

 

「その、えと…すみません! お願いします…! 頂いた分は、明日見つけてお返しします!」

 

 

「えっ…!? すぐに頼ってくれて…!?」

「わわ~っ! すご! ベルちゃん成長中!」

「やば気ぃ変わらん内に急いで戻ろ~う♪」

 

 

きゃっ!? シレラさん達は何故かとても喜んだご表情で私を囲み、食堂まで護送するように!? リア様サラ様も後から、同じようなお顔で……えっ、えっ!?

 

 

よ、よくわかりませんけどチャンスです! このまま、この空気を維持したまま、お祝いを進めませんと! 私の泣き言はもうおくびにも出さないようにして、シレラさん達に幸せに過ごして頂きませんと!

 

 

そのためには弱い自分を一旦追い出して! 今は、今だけは、幸せに浸ります! ……差し入れの件は、後で。誰にも迷惑をかけない時に――!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はふうううう……。えへへ……楽しかったぁ……!」

 

 

なんとかお祝いが終わり、私は再度自室に。ベッドに腰かけ、ほうっと呟いてしまいます。ふふっ、本当に楽しかったんです!

 

 

あの後、結局差し入れのお菓子を分けて頂いてしまいまして。それが本当にケーキのクリームとマッチして、美味しさ増し増しで! つい浸ってしまっていると、それを見ていたシレラさん達は何故か更に追加で分けようとしてきて…! それは慌ててお断りして…!

 

 

そうしていましたら、今度は様子を聞きつけた他の皆さんも差し入れお菓子を持ってきて! すでに食べちゃった子には分けたりして、全員で楽しんで! あの時のリア様サラ様、嬉しさが込み上げて来て止まらないって感じの御表情でした!

 

 

あ、満面の笑み繋がりで面白いことが…! ケーキにはそれぞれシレラさん達を模した可愛い砂糖菓子人形が乗っていたんですが…どうやら日持ちもするようでしたからシレラさんルキさんは取っておこうか悩まれていまして。

 

 

私もそれはアリかもと思って一緒に悩ませていただいていたんですが……なんとそうしている間に、ニュカさんがその横で、全く悩まれずにパクリって! 自分を、頭からパクリって! 「んひゃ~~♡ あんま~~いっ♡」って満面の笑みで!

 

 

その光景に思わず私達、「「「食べてる!?」」」とツッコミを入れてしまいまして…! ふふっ、けれどそれが呼び水になって、シレラさんルキさんもお齧りになってました! …どこから食べようか少し悩まれてましたけど、ふふふっ!

 

 

その後もおすすめのお店やアイテムの話や、ネルサ様発の最近の流行について、現役アイドルの方々からのアドバイスや、カラオケ&ダンスタイム、そして急に始まった『他の皆も良い機会だから褒めまくっちゃえ!』コーナー等もありまして! とっても幸せなひと時でした!

 

 

そうして気づけば遅い時間で。夜更かしはいけませんし、お祝いも宴もたけなわで解散となりまして。けれど…ふふっ、シレラさん達は今頃お部屋でこっそり、続きに花を咲かせているかもしれません…! 二次会というやつでしょうか。

 

 

私もそれに誘われましたけど、辞退させて頂きました。デビュー前最後の夜、お三方だけで積もる話もあるでしょうし。もうこれ以上お三方の邪魔をする訳にはいきません。

 

 

それに……いい加減、追いやってしまったあの問題を考えなければいけませんから。はい、失くしてしまった差し入れについてです。とりあえずまずは、もう一度隅から隅まで探してみて――。

 

 

 

 

 

――……やっぱり見つかりませんでした。どうやら本当にレッスン室に忘れてきてしまったか、あるいは……っ考えたくありません…。

 

 

だって、あの差し入れは証なんです…! シレラさん達のお祝いケーキと同じ…! 先程リア様サラ様が仰っていた通り、あれはwaRosが私を見てくださった、頑張りを認めてくださった証明なんです!

 

 

なのにそれを失ってしまうなんて…!! こんなこと、絶対にやってはいけないのに! 前回もその想いを無下にしてしまったのに……! 

 

 

気持ち的にはすぐ取りに行きたい気分です…! ですけどレッスン室は閉まっていますし、各所も消灯済みですし、この時間から事前申請なしに寮を出ることも禁止ですし、正面玄関は当然鍵かけられていますし……。ぅぅ……でも……。

 

 

――っ…! 駄目です! このままだと、どんどん悪い考えに…! とりあえず、また追い出しませんと…! そうだ、日課のアイドル練を…! 今日はwaRosのライブも観覧させていただきましたから、それを! あの素晴らしさを私にも分けてもらうように、真似て! っすぅ……1、2、3、4――!

 

 

 

 

 

 

「――Swordy…Hearty……ブレイブ…り……ぁぅ……」

 

 

駄目です……! 駄目駄目です……! 駄目なんです……っ! いつもみたいに上手く、あの御二方に浸れなくて…! それどころか、どんどんと差し入れの件が膨れ上がって!

 

 

歌を、ダンスを、あのアピールを真似てみる度、練習してみる度、あんな立派な方々からの贈り物を失くしてしまったことが頭をのたうち回って……! ごめんなさい…ごめんなさい……!

 

 

あの時リア様サラ様は許してくださったご様子でしたが…もしかしたら内心幻滅なされていたかもしれません…! シレラさん達も、内心迷惑がっていたに違いありません……!

 

 

ですからせめて、見つけ出さなきゃ…! 頂いた分をお返しできるようにしなきゃ…! けれどそれはどう足掻いても明日になってしまって、このまま待つしかないなんて、落ち着かなくて……!

 

 

それに、もしロッカーに無かったら……本当に紛失してしまっていたら……っ! あの折角の貴重な『証』は、他の店のケーキでも、同じお菓子だとしても代わりにはなりませんのに! 

 

 

どうすれば…そうだったらどうしたら……!! せめて、何処かに落ちていないでしょうか…。怪しいのはあの時、大道具エリアに迷い込んでしまった時で。あの時は急がなきゃと焦っていましたから落としても気づけなかったかもしれませんし…!

 

 

もし落とし物として届けられているのならまだ良いのですが……そうでなかった場合、何処かで見つからず、こっそり腐ってしまうなんてことになってしまったら……! それは絶対嫌です…! そうなったら絶対、リア様サラ様に愛想をつかされてしまって……うぷっ……!

 

 

ぅぅ……! ロッカーにあることを、落とし物として見つけられていることを祈るだけなのは、とても辛くて苦しくて、心がほじくられて中身が漏れ出しているみたいにゾワゾワザワザワして…! このままじゃやっぱり、眠るにも眠れなくて、明日を迎えられそうになくて!!

 

 

せめて、本当に落ちていないかだけでも見に行けたら……そうすれば…………そうすれば…? ―――――――――――そうすればっ! 

 

 

このまま悶々としていても、何も解決しません! イチかバチか、勇気を出して!!! まずは準備を! 服を、タオルを、水筒を、鞄に入れて! 朝、部屋を出た時からの再現を、あの時の再現を! そして――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う、上手く…いきました…? 気づかれて……ませんよね……?」

 

 

一息つき、音が鳴らないように鞄を抑えながらこっそり背後を見てみます。寮も庭園も門も、夜の帳に包まれた静けさのまま。騒ぎが起きている様子は一切ありません。良かった…!

 

 

自室が一階なのが幸いしました…! こっそり窓を開け、周りにバレないように外に……! そして厳重に閉じられた門も、ミミックの方々が利用する垣根の隙間を活用してスルーし、寮の敷地外に忍び出ることができました…!

 

 

なにせもう時間は深夜気味、皆さん眠りについていらっしゃるようです…! とはいえ管理人であるキキーモラさん方は起きているでしょうし、寮から完全に距離をとるまで静かに…! いえ、この後もずっと静かに行きませんと!

 

 

だってそうしないと、警備を担当してくださっているミミックさん方にもバレてしまいます! もし気づかれてしまったら、よくて忽ち部屋に戻されて…! 悪ければ昼間の大道具造りの方みたいに侵入者扱いしてきて、『対処』されて……!!

 

 

ぅぅ……悪い事をしている自覚はあります……これはとってもいけない、叱られてしかるべきな行動です……。けれど、こうしなくちゃ、こうでもしなくちゃ申し訳が立たないんです! 折角頂いた夢心地を、汚してしまうんです!

 

 

 

こっそり寮を抜け出して、昼間通った道を…差し入れを失くしたであろう道を辿る――。これしか、方法は無いんです! これならば、誰にも迷惑をかけずに探すことができるんです!

 

 

 

あ、いえ……ミミックさん方には迷惑をかけてしまうかもしれませんけど……ううん、見つからなければ、大丈夫なはずです! そうすれば迷惑をかけません!!

 

 

私、よくイメージされるミミックさんみたいなことをしてましたから……臆病ですし、影薄かったですし、誰の邪魔をしないよう、気づかれないように振舞うこともよくやってましたから…! 

 

 

それに加え、リダさんオネカさんを始めとした皆さんの動きをよく見てましたから、ミミックさん方が隠れそうなところはちょっとはわかっているつもりです。なのでそれを避けていけば、見つからずに済むはずです…! 現に今も、まだ見つかっていないみたいですし…!

 

 

それに…もし見つかってしまって、捕まりそうになっても…! リダさんとオネカさんが……あのお二方なら……――う、ううん! そんな迷惑をかける前提で動くわけにはいきません! こんな深夜ですし!

 

 

ですので、お二方が担当されている会場エリアとレッスンエリアは後回しに…! ――いや、探さなくてもいいはずです。リダさんオネカさんであれば、間違いなく落とし物に気づいてくださいますから。

 

 

やはり一番怪しい、大道具エリア。あの場所をピンポイントで探しましょう…! 出来る限りあの時を再現して、迷った道順通りに進んで、探して。それで見つからなかったのならば……きっとロッカーの中か落とし物センターにあるはずです! ……きっと、多分……お願い、そうであって――。

 

 

――っ…! いえ、祈るのは探した後です…! ここでぼうっとしていたら見つかるだけです! えぇと、大道具エリアは…こっち!! ひっ…!

 

 

ほぼまっくら……非常灯で薄ぼんやり照らされているだけ……で、でも、もう覚悟を決めたんです! 急いでこっそり、誰にも迷惑をかけることなく! 差し入れのお菓子を探しだしてみせるって!! 

 

 

 

だから、その――っ……い、いきますっ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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