ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
い、今、なんて!? シレラさん達のプロデューサーさん、今なんと仰いました!? 私の名前が!? なんで、私の名前が!?!? どうして!?!?!?
い、いや、落ち着いて…! 聞き違いに決まっているから……! 『ユニットについての議論をしたい』という前半部分はともかく、後半部分の『
「waRosやシレラさん方と寮友の彼女ですね」
「ということは夕方の会議の続きですね!」
いえ間違ってなさそうです!? シレラさん達のプロデューサーさんに続き、
「それそれ! ほらあの時私、シレラちゃん達のプロデューサーとして提言したでしょう? 『ベルちゃんも三人のユニットに加えてはどうか』って」
っはっっっ!? へっっっっ!?!? えええっっっ!!!!? ぷ、プロデューサーさんどうしてそんなことを!?!? なんでっ!?!?
「いやー、思った以上に紛糾したした! 議題山ほどある中でやっちゃってヤバいと思ったけど、ネルっさんの鶴の一声に助けられちゃった!」
「ですが、あの場に於いて必要不可欠な発議だったと私は思います。今後に響く重要な案件ですから」
「ですね! しかも大割れしたということは、それだけ皆も注目しているということですし!」
ネルサ様まで関わって…!? 今後に響く重要な案件…!? 紛糾して、大割れ…!!? ど、どういう…!? わ、私――……。
「それは嬉しいんだけどねぇ。でもほら、時間的に各々の見解の詳細は聞けなかったじゃない。だからさ、私を納得させるために改めて聞かせて、お願い!」
っ私も……き、聞かせていただきたいです! シレラさん達のプロデューサーさんと同じように、でも音は立てずに手を合わせ、あの方含めたお三方へ…魔導自販器の灯りをスポットライトの如く浴びるお三方へお願いをします!
その自販器の横にあるゴミ箱の中に隠れて、ゴミ投入口から盗み見盗み聞きという卑怯で最低な形をとってしまっているんですけれど……それでも知りたくて! プロデューサーさん方が私のことを議論なされているなんて知らなくて!!
これはまたとない機会なんです! アイドルを導き輝かせるあの方々からの評価であれば、この暗闇の何処へ向かえばいいのかを示してくれるんじゃないかって……もしかしたら踏ん切りが、つけられるんじゃないかって!
ですから、どうかっ……お二方頷いてくださいました!! 良かった……。っ…ここからは、全神経を集中させて…心臓の、脈の、潜めた息の煩さなんて遠くに放り捨てて!! 一言たりとも聞き逃さないように!!!
「あんがとね! じゃ、私から改めて。『シレラちゃんニュカちゃんルキちゃんのユニットに、ベルちゃんは加入すべきか』――発議者だし当然、『賛成』派!」
口火を切ったのは、シレラさん達のプロデューサーさんです! そしてそのまま、まるで前に話したことを繰り返すような口ぶりで――。
「ベルちゃんはまだ完成には少し遠い子だけど、スキルに関しては一級品。どの子にも柔軟に合わせられる素養もある。更に特筆すべきはその性格。一部に難あれど、誰しもに裏表のない惜しみなき情の籠った称賛を与えられる才は、その誰しもから高く評価を受け好感を得ている。――本当、どの子にも。鎬を削らねばならない残酷な場で、彼女は最高の清涼剤になっているわ」
いえそれは過大評価です!? 私にそんな価値はありません! アイドルとしては少しどころじゃなく遠くて、スキルも素養も言われるほどなくて、性格に至っては、一部どころか……全部こんなで……。
だから、『シレラさん達と一緒にアイドル』と言われましても…! というよりそのお話、昼間私が当のお三方から…! あ、もしかして、あの方の口添えがあったのでしょうか?
「それはシレラちゃん達にとっても、ね。あの三人もベルちゃんを気に入っているのは一目瞭然でしょう? だからね、明日会ったら加入のこと、それとなく聞いてみようかなって。絶対喜ぶと思うのよ♪」
ち、違ったみたいです…! けれど…ふふっ…! なんと言いますか…その発想に行きついたことが、その提案を口にする際の楽しそうな様子が、シレラさん達とそっくりで! やっぱりあのプロデューサーさんはあのお三方にピッタリです!
ただ……既に私はその提案を……。だって私、こんなですもの……。ゴミ箱の中に隠れるしかない私なんか引き入れても、絶対邪魔になるだけですし…………そもそもなんでプロデューサーさんまで同じ考えなのでしょう。やっぱり理由も、シレラさん達となのでしょうか…?
「――その通り! だって絶対楽しくなるじゃない? フッフッフッ♪」
ひっ…私に気づいて!? い、いえそうじゃないみたいです……! 慌てて目を凝らしてみても、あの方がこちらを見ている様子はなく、どうやら他お二方の何かしらの合いの手に返されただけみたいです。……つい自分の思考に陥ってしまい聞けてませんでした。
あはは……一言も聞き逃さないって決めた矢先に…どうして私はこう……。いえ、今は卑屈になっている場合じゃありません。今度こそ余計な弱さは追いやって、集中して聞きませんと。答えを頂けるんですから。
「だってベルちゃんがいれば、彩りが更に華やかになるもの! 勿論三人でも最高に輝かせる自信はあるわよ? けれどあの子は、その精彩を一層鮮やかに眩しくしてくれる。姉枠二人、妹枠二人とか!」
あ、姉枠妹枠…!? な、なら多分シレラさんルキさんがお姉さんで、ニュカさんと私が妹で…ふふっ、なんだか楽しそうです…! あ、えっと…!
その、仰っている言葉は多少複雑ですけれど、やはりプロデューサーさんはシレラさん達と同じ理由での加入お誘いのようで…あれ、あの方まだ続けられて…?
「ただ、それは理由の一側面に過ぎないわ。私がベルちゃんの加入を発案したのはあの子のためでもある。あの子はシレラちゃん達となら、停滞を打ち破りステップアップを望めるからと考えているの」
ステップアップ…!? シレラさん達と…!? それはどういう……!?
「そう、現状の彼女は停滞してしまっている。例に挙げれば『他アイドルへの敬称』――現役の子達へ…かなり年下の子へすら様付けをして距離を置いてしまっているそれは、もはや憧れ由来だけのものではない。あの一線の引きようじゃ本人から歩み寄ることも進むことも絶対無い」
っぁぅ……それは……! ……凄いです、あの方。ほとんど会ったことは無いのに、そこまで私を分析なさってくださって…! そして多分、それは大当たりなんだと自分でも思います。どくどく鳴り続けている心臓に、急に矢が突き刺さってきた感覚に陥りましたし…!
だって、さっきも言われたんです。waRosのお二方から、様付けを止めろって…。けれど私は拒否してしまって……だって、だって…畏れ多いんです! 憧れていたあの方々が、憧れの裏で努力を尽くすあの方々が、その上でぽっと出の私を慮ってくれるあの方々が、畏れ多くて、恐ろしいんです!
私はあんな完璧な方々にはなれなくて、なってはいけなくて! 私が混ざって汚染してしまいそうで、それでも受け入れてくださりそうで! だからせめて様をお付けして離れないと、怖くて、申し訳なくて、喋ることもできなくて! あんな良いことを言って頂いたのに、そうでもしないと私は……。
ですから本当は、シレラさん達へもそうするべきだったんです。けれど…なんだかそれはちょっとしっくりこなかったというか……つい、さん付けに落ち着いてしまって。あ、でも、シレラさん達がデビューしたら様付けてお呼びしようとは考えていますけど……。
「――けれど、シレラちゃん達にはまだそれが甘い。恐らく同期としての気安さもあるのでしょう。だからこそ、それを利用しない手はない。シレラちゃんの品行方正で適切な距離感、ニュカちゃんの無邪気で子供的な距離感、ルキちゃんの懐っこく気の張らない距離感は必ずやベルちゃんの良い指標となるわ」
気安さ……そうなんでしょうか…。でも確かに、あのお三方の性格は参考に出来て、憧れで、一緒に居ると心が落ち着いて……! けれどだからといって、一緒にアイドルをやるのはお三方の……。
「迷惑になる、誘ったらそう考えちゃうでしょうね彼女」
よ、読まれて…!? なんで皆さん、私のことを……どうしてそんなに、私のことを……!? そしてやっぱりゴミ箱の私に気づいている様子のないシレラさん達のプロデューサーさんは、確信めいた、何処かワクワクした口調で!?
「けれど、実際はそうではないのは想像の通りよ。彼女の才はシレラちゃん達を間違いなく助けるし、逆も然り。そうやってあの子達が手を取り合い成長してゆく動静は、アイドルの一生をかけた至高のライブイベントとなるわ!」
ふえっ!? ライブって…イベントって…! そ、そんな仰々しいものに、私は相応しくないです! 第一私、シレラさん達にもお伝えした通り、助け合うどころか足を引っ張るだけの存在に――。
「そしてそれを成すために、私も一生を尽くすのよ! 誰もが欠けず、重荷にならず、全員を星のようにお姫様のように美しく輝かせるために! プラン、既に百はくだらない量、用意していたんだから! さっき二人の知恵を借りもしてね☆」
っ!はわぁ…! シレラさん達のプロデューサーさん…! プロデューサーさんこそ、美しく輝いてます! まるで星で象られたシャンデリア…! シレラさん達という特大の星を、プロデューサーさん自身による散りばめられた星々で支え、飾り付け、一層に煌めかせています!!!
そして、今のお言葉でハッとしました。そうです、アイドルにはプロデューサーさんという支え包んでくれる頼もしい方がついているんです! 万事うまく取り計らってくださって、最っ高に鮮やかなアイドルになるよう磨いてくださる方がいるんです!
だから私が加入することでシレラさん達の輝きをくすませてしまうという心配も、きっとあの方はちょっと頑固な汚れ程度にしか捉えなくて。もし私が改めて加入提案を受け入れたら、きっとプロデューサーさんもシレラさん達も喜んでくださって…――。
……私、やっぱり乗っかるべきなのでしょうか…加入のお誘いに……。そうすれば間違いなく私はアイドルの一員にはなれますし、成長もできるかもしれません。でも……でもそれは……私は…………ん? あ、あれ?
そういえば今、シレラさん達のプロデューサーさん、プランを『用意していた』って…? 少しの違和感に気づき、改めて耳をそばだたせますと……。
「――でも、ま~。鶴の一声的にプランの半分はほぼほぼ
えっ…!? そ、それはどういう…!? 鶴の一声ということはネルサ様の!? おじゃん、って…つまり!? 思わずゴミ投入口から目を白黒させていましたら、シレラさん達のプロデューサーさんはふぅっ!と軽い様子で息を吐き、飲み物を一気に飲み干されて…!
「んで、だからこそ知りたいのよ。見事に三分割された、他意見の詳細をね! さあさあどっちから聞かせてくれるの? 丁度揃ってる他二つの支持者さん?」
waRosのプロデューサーさんともうお一方のプロデューサーさんへバトンタッチを! 三分割って…全員違うんですか?! 私のことで!? え、えっと、つ、次はどちらの方が――。
「では、先に。『シレラさんニュカさんルキさんのユニットに、ベルさんは加入すべきか』――『あの場での判断は時期尚早』派として自論を述べさせて頂きます」
waRosです!! waRosのプロデューサーさんが、動かれました!!
「別に日和見主義ってことはないでしょ? きみのことだし!」
「ですねえ。そもあの会議にそういう人はいなさそうですし!」
「えぇ、勿論です。私を含め皆、確固たる意志を元にこの判断に至りました」
心得ているようにお三方は頷き合います…! そして改めてwaRosのプロデューサーさんは、普段通りの冷静な口調で。
「まず初めに、貴女の…賛成の意見につきまして。その策自体は、私共も非常に素晴らしいものだと考えています。また、ベルさんの現在の性格を『停滞している』と評しましたことも的確だと。自らの殻に閉じこもり、破ろうとしても自らの力だけでは弾き返されている――。私もそのような印象を受けています」
はっきりとした、それでいて優しいお言葉です…! はい、加入のお誘いはとっても嬉しくてとっても素敵なお話だと私も思います。けれど私の性格についてそんなお気遣いは勿体なくて……弱い自分を追い出せないから、私は皆さんに迷惑をかけて……。
「ですので外部より強力な刺激を与えることで殻を、停滞を打ち破らせ、そのまま導くことで前へと進ませ続ける貴女の策は、まさしく全てを丸く収められるかもしれない、現状で私達が打つことのできる手としては最良のものであると認識しています。……ですが」
…? waRosのプロデューサーさん、そこで一旦お切りになって? そして許しを得るように小さく頭を下げられてから――。
「否定的な反論をお許しください。今述べました通り、現在のベルさんへは多少強引にアプローチを行うべきだというのは同意致しますが……現段階での加入提案は、彼女にとって些か強引が過ぎる気がするのです」
「っっっっぱりねぇ…。うん、ズバッと言ってくれて助かったわ。続きも宜しく」
強引が…過ぎる!? けれどシレラさん達のプロデューサーさんも、まるで心の何処かで思っていたかのような様子です…! waRosのプロデューサーさんは軽く頷き、そのまま続きを。
「無論その提案にベルさんが一も二もなく肯いてくだされば、もはや一切の憂いはありません。しかしそうでない場合…僅かにでも圧によって従ってしまえば、少なくとも彼女にとっては最良の結果とはなりません」
それは……。結局私はお誘いを断ってしまっているんですけれど、その理由はシレラさん達にとって最良じゃないからであって、私にとってでは――。
「非常に辛い話となりますが、導き方次第では彼女は『周囲を都合よく褒め称えるだけの、搾取されるのみの脇役存在』になってしまう、あるいは本人がそれに甘んじてしまうでしょう。深層では皆と並び立つアイドルになりたいと思っているはずですのに」
っ…! それは……そんなことは……ない……とは、言えません。ううん…きっと私はそうなってしまいます…。だってそれしか出来ませんから……それだけが私が皆さんを喜ばせられる方法ですから。
けれど……なのに、心の奥底では仰られていた通り、皆さんと同じような輝けるアイドルになりたいだなんて思い続けてしまっていて。あはは…高望みにも程がありますよね…。
「でもそこでほら、私がそうさせないように…!」
シレラさん達のプロデューサーさん…。いえ、やっぱり加入のお誘いは受けられません。私みたいなアンバランスな存在が一旦シレラさん達の間に混ざってしまえば……。
「勿論、貴女の腕を疑いはしません。先程披露して頂いたプランの数々も素晴らしいものでした。ですがどのシチュエーションにおきましても、今のままのベルさんではその度に『ユニットに入れて貰った』という事実が深々と突き刺さり、外れない枷となってしまいかねません」
waRosのプロデューサーさん! はい、きっとそうなってしまいます! 私は邪魔者ですからシレラさん達を立てるべきで、だから――。
「その枷が一線を踏み越えることを拒ませ、一歩引いた身を維持させてしまい、ますます脇役を受け入れさせてしまい――ひいては、シレラさんニュカさんルキさんへも影響を及ぼしてしまうでしょう」
そう、そうなんですっ!! 私はそういう役目が似合っていて、精々それぐらいしかできなくて、それすらもできるか怪しくて! なのにシレラさん達は優しいから、私なんかを想ってくださるから…!
「シレラさん達がベルさんの脇役を良しとする方々であればいざ知らず、そうでないのは把握なされている通り。是とはせず、貴女と手を組み彼女を盛り立てようと躍起になるでしょう。それが更に枷を重くしてしまうことに…『ユニットの邪魔をしてしまっている』という意識をベルさんに刷り込んでしまうことに気づかず」
っっ…! waRosのプロデューサーさんもやっぱり凄いです…! シレラさん達のこともよく理解してくださっています…! そうなんです、そうなるかもしれないから、私はお誘いを断ったんです…!
あの時に想像した通りなんです…。シレラさんもニュカさんもルキさんも優しいから、見捨てないから、私を活躍させようとしてくださって。でも私はそれに甘える権利はないですし、端にいるのが正しいですから断って。でもシレラさん達はそれに納得してくださらないでますます、自分のことを投げ捨てでも……ぅぅ…。
だから…だからこそ、シレラさん達のプロデューサーさんには、私みたいな余計な存在へは一片の労力も割かずに、あのお三方のプロデュースだけに注力していただきたいんです! waRosのプロデューサーさんと同じように、全身全霊を以てしてシレラさんニュカさんルキさんを一等星へと導いてあげて欲しいんですっ!!
それが私の心からの願いで……あっ、waRosのプロデューサーさん、珍しく大きめに息をお吸いになって…! けれどやはり冷静な語調を維持した、でも何処か威厳を感じさせる様子で――。
「――私達プロデューサーは彼女達に強制をし、ユニットを組ませ、アイドルをさせる立場です。だからこそ僅かな不満、僅かな遠慮といった、後々彼女達の間に亀裂を引き起こしかねない問題は、事前に排するか、私達だけで責任を持って対処しなければならないのです」
強制なんてそんな!? え、えっとそっちの方はそんなことありませんと言いたいですけれど、亀裂の話は、結果的にはそうなってしまうかもと…。ユニット内で問題を起こさないためにはプロデューサーさんを全面的に頼らなければいけないでしょうから。でも、それだと……。
「故にこのままベルさんが加入し件の問題が発生した場合、貴女はベルさんと単独で勝負をする必要があります。ただし貴女は何があろうと絶対に負けてはなりませんし、一方でシレラさん達のケアも手抜かりなしにやり遂げなければいけません」
ですよね…! そう、今度はプロデューサーさんの負担が一気に増えてしまうはずです。ただでさえアイドルのためのお仕事を沢山抱えていらっしゃいますのに、そこへ無駄な迷惑をかけてしまったらどうなるか……考えるまでもありません。プロデューサーさんの輝きが、あのアイドルを支える情熱がくすんでしまうんです!
しかもそうなったら当然、その影響は巡ってシレラさん達にも届いて、くすんで……!! だからこそ私は辞退したんです。プロデューサーさんにもシレラさん達にも迷惑はかけられませんから!
……もしかしたらシレラさん達のプロデューサーさんなら、問題を丸く収めてくださる術を持っているのかもしれません。けれど、私はきっと……。そんな考えをなぞるかのように、プロデューサーさん方は――。
「しかし、それを完璧に対処しきってみせたとしても――」
「……最初からの歪みは…『ユニットに入れて貰った』という事実は……」
「消えませんから、いつかまた再燃しちゃう、かもしれませんね」
はい……。多分、ううん、絶対に私はそうなります…。必死に助けていただいたのに、その恩に報いれなくて、期待を裏切ってしまって、折角加入させてくださったのに応えられなくて、想いを反故にしてしまって…!
次からは邪魔にならないように端にいたら、それでもまだ手を差し伸べられてしまって、辞める以外の逃げ場がなくて、また私は繰り返してしまって……何度も――呆れられるまで、汚すまで、嫌われるまで……ぅぇっ……ぉぇっ……。
だから…waRosのプロデューサーさん、有難うございます…! おかげで改めて、心を決められました。ビタリと私の不安を言い当ててくださいました。シレラさん達のプロデューサーさんの熱意に惹かれかけてしまっていました私を、正気に戻してくださいました。
きっとあの方であれば間違いなく楽しく活動できるように取り計らってくださると思います。ですがそれでも、私の心には一生棘が刺さったままで、周りへ常に迷惑をかけてしまっていたでしょう。そしていずれは私のせいで、シレラさん達もプロデューサーさんも台無しにして…!! だから私は……――。
「――その上で改めて。私はベルさんの加入が現状の最善策であることに賛同を示し、まずはその成就のために彼女へ働きかけるべきだと立言させていただきます」
ふぇええっ!?!? へ、え!? waRosのプロデューサーさん!!?? そ、それはどういう!? 今のお話の流れ的に駄目だったんじゃ…あ、いえでも最初から明言もなされて…! え、え…!?
「今述べましたリスクの全ては、『ユニットに入れて貰った』という負い目ただ一つに端を発しています。ならば――その負い目を事前に排せば良いのです」
また私が目を見開いてしまっていると、waRosのプロデューサーさんは咳払いをするように声の調子を整えてから、そう語り始めました…! で、でも排すると言われましても…!
「殻を破ることこそ未だ叶っていませんが、ベルさんもまた、確固たる信念を持っています。『アイドルの妨げになってはならない』『迷惑をかけてはならない』――本日のwaRosのライブでも握手会でも、彼女の背姿からはその想いを感じ取ることができました」
っ!? み、み、見られ…!? いえその、waRosのプロデューサーさんなんですから当然どちらにもいらっしゃって、なんなら私にレッスン時間を教えてくださいましたから見られていて……私の背中から、そんなに心を見通してくださって!?
ぁぅ…お忙しい中私なんかにまで目を配ってくださって有難いですし、その、ちょっと恥ずかしい気持ちとかもありますけれど…なにより申し訳ない思いが…! だって多分それが今しがた『停滞』や『殻』と言われた、waRosや皆さんも指摘してくださった私の問題点で――。
「そして、彼女がその理念に従って行動しているのはご存知の通り。つまり言い換えれば、彼女は自らの下した決定は簡単には翻さない性格ということでもあります。ですので――」
「『自らの意思で加入した』事実へと変えることができれば!」
「事は、彼女は、望む通りに進むことができちゃいますね!」
「えぇ。そしてこれこそが彼女の『停滞の殻』を砕く最短で確実のルートだと、私は考えています」
……私の…問題点を……そんな素敵に言い換えてくださって…!? 私の問題点を直すために、そんなに考えてくださって!? 思わず口を開けてしまっていますのに、waRosのプロデューサーさんは、まだ続けて…!
「この試みにおきまして、加入前の今であれば
「おおっ!? いつの間に!? 有難いけど!!」
「ご容赦いただき感謝いたします。加えて、
そんなことまで!?!? しかもそのご様子ですと、アイドルの皆さんにも!? え、じゃ、じゃあまさか夕食時のwaRosのご教示は……いや予定と仰ってますし違いますよね。でも、ふふっ…! waRosのお二方とプロデューサーさんもまた、息が合われていると言いますか、以心伝心のようで……あっ…!?
もしかして、あの今日のライブ映像…! あれを用意してくださったのは間違いなくwaRosのプロデューサーさんです! あれもまたその一環…!?あの方ならば有りうるかも…!? っあ…思わずごくんと息を呑んでしまいましたが…どうやら気づかれていないようで…!
「そして幸いシレラさん達の結成はまだ仮段階であり、デビューするのは暫し先。ですので学習目的と称してベルさんをユニットレッスンに同席させ調整を図り、その間に我々で見極めを行うべきだと進言させていただきます」
更に、私が加入する可能性を捨てずに…! って今更ですけど、この一連の計画、私が聞いちゃいけない話なんじゃ!? け、けれどもうこれ、耳を塞いだところで――。
「もし合えば、その際に加入を。そうでないのであれば、個人デビュー、新ユニット結成、あるいは後発加入の形をとることが出来ます。仰られていた通り、彼女は一級品。どこであれ最高のポテンシャルを発揮できますから」
ま、纏まってしまいました…! waRosプロデューサーさんの優しい声の微笑みで締められるまで、全部聞いてしまいました…っ!! ひゃっ…拍手が…!
「かーっ!さっすがね! 一理どころか十理はあるし、既に手回し済みときた!」
「うむむ、最高の勉強になりますね…! これがwaRosを率いる手腕…!」
「いえ、これらは彼女達から学ばせていただいたことなのです。彼女達が『やりたいこと』をやる様はとても活き活きとしていて、彼女達らしさが存分に発揮されていて。私の役目はそれを守り、常に導ける用意を整え、必要な場のみ手助けをすることだと気づかされたのです」
お二方へそうお返しになる、waRosのプロデューサーさん…! そして今まで以上に凛とした、けれど暖かい想いが籠められているのがわかる声で…!
「ですから私はベルさんにも、最初から自らの意思で選択していただきたいのです。退路無き道を進む覚悟を、『やりたいこと』を、心の底からの期待と高鳴りを持って決めていただきたいのです」
はわわぁ……! 私も出来ることならお二方のように拍手を送らせていただきたいです! waRosのプロデューサーさんは、まるで英雄冒険者の自在なる盾…! 事前に脅威を察知し、一切の襲来を完璧に防ぎ、冒険者の…waRosの剣や魔法がこれ以上なく輝く場を守護する、導きの存在です!!!
「くぅ~っ、こりゃ見倣わないと! ちょっと私が私がし過ぎたかもしれないか…そうよ、決めるのは私じゃなくてあの子達だものね」
「彼女達が100%の力を発揮したところを、200%の…ううん、それ以上の魅力へと
お二方も唸られてます…! 特にシレラさん達のプロデューサーさんは心に刺さったようで、うんうんと噛みしめ続けながら…自販器へ来て? 飲み物を購入なされて……まるで今聞いたことを一滴たりとも逃さないように、一気に煽られて!?
「ぷっは~~ッ! うし、うーしっ! ねぇねぇ、今から戻ってベルちゃん用プランの練り直してきて良い? 今のおかげでアイデアが湧きに湧いちゃって!」
「いえ、明日もありますから本日はもう控えた方が良いでしょう。ですが、今後も加わらせていただきます。総員の力を結集させ、アイドルを育てあげましょう」
え、え、えっと!? い、色々と考えてくださって有難いんですけれど…私も、とりあえず休んでいただきたいです! 明日もあるんですから、シレラさん達との顔合わせがあるんですから! 私のことなんか良いんです! そんな、私を皆でなんて…!
あと、それと……非常に言いにくいんですけれど…ゴミ箱の中に隠れてますから事実喋れないんですけれど……。シレラさん達の件、その、私、もう――……。
「おっほっほんっ! まあまあ! 私の意見も聞いてくださいよ!」
へ、あ…! 急にわざとっぽい、なんだかコミカルな咳払いが聞こえたと思いましたら…! もうお一方のプロデューサーさんです!
「おっとそうだった! さてオオトリ、聞かせてちょうだい!」
シレラさん達のプロデューサーさんは改めて足を落ち着け、そう先を促されて。waRosのプロデューサーさんもまた、軽く頷かれて準備万端と言わんばかり。え、えと私やっぱ耳を塞いで……ぁぅ…き、聞きたいです…! かなり、怖いですけど……。
そう…ちょっと、怖いんです…! だってこの話、私がシレラさん達のユニットに加入するかのお話、既に割れた意見の三分の二の、『賛成』と所謂『中立』は出てしまったんです。ということは……もう考えなくても分かります…! あの方の意見って――……!
「はい! 私は『シレラちゃんニュカちゃんルキちゃんのユニットに、ベルちゃんは加入すべきか』問題において、『反対』派です!」
っっっ…! です……よね……! ぅ……っ……で、でも、それが一番正しくて、私の想像に近くて…! だって私は――。
「だって彼女は、もっと上を目指せますから!」
…………………………はぇ…?
へ、え、はぇ…ふぇ……え。ええええええぇぇぇえええ!? 何を仰っているんですかあの方!?!? 全然私の想像と違いましたし!?!? その言い方じゃまるで…!!!?
「おおっ、宣戦布告! フフッ、言うじゃない!」
やっぱりそうなっちゃいますよね!? だってそれ、あの時私がシレラさん達へ(その気が無かったにしても)やってしまったライバル宣言みたいですもの! そんな、上を目指すだなんて!?
でも幸いなことに、シレラさん達のプロデューサーさん方が癇に障っている様子は無くて。それどころかあの時のシレラさん達と同じような、晴れやかで何処かワクワクしている感じで…!
「きみがそう言うということは、つまり~?」
「ふふふっ、はい! シレラちゃん達もですとも! 私の持論は、『シレラちゃん達とベルちゃんは、別々のユニットとして切磋琢磨させるべき』なんですから!」
それは…!? それって、waRosのお二方の意見と、リダさんオネカさんの励ましと、あの時の宣戦布告の締めくくりと同じ……! まるであの出来事をご存知のような……!
「これに思い至った理由はたっくさんありますけれど…その前に一つ、良いでしょうか? 完全な憶測になっちゃいますが」
へ? あのプロデューサーさん、一体何を? 憶測って……――。
「――実践レッスンの際にネルっさんから結成を伝えられたことで、シレラちゃん達も同じ動きを見せているかもしれません」
っっっっっっっっ!?!??!? そ、それって…つまり!!? シレラさん達とwaRosのプロデューサーさん方もまた、驚愕なされながらも察しがついたのでしょう。推測を、いえ、事実を口に…!!
「ということはもしかして…あの子達自身で…!」
「ベルさんをスカウトしているかも、と?」
「はい。あの子達の性格からして、その可能性は大きいと思います。そしてその場合――恐らくベルちゃんは辞退しているはずです。確固たる意志をもって」
ふぇぇえ!? そ、そこまで…!? なんで、そこまで!!? ま、間違いなくあの方はあの出来事を見てはいません! だってあの時間、プロデューサーさん方はネルサ様交えた会議中でしたし! しかもあの時、私達の周りにスタッフさんは一人もいらっしゃいませんでしたし――。
「「……有り得る」」
へっ!? シレラさん達とwaRosのプロデューサーさん方まで信じられて!? いえですから確かに事実ではあるんですけれど! しかも反対派のプロデューサーさんに至っては、更に続けられて……!
「そして、その確固たる意志にはやっぱり迷惑をかけちゃいけない邪魔しちゃいけないとかが大半を占めるのでしょうけど…私、それだけじゃないと思うんですよ」
その信じて疑わないような様子はまるで、あの方の背には裾を掴んで隠れている私がいて、そんな私の気持ちを代弁してくれているかのようで――。
「きっとベルちゃんは、シレラちゃんニュカちゃんルキちゃんによる彩りがぼやけるのを避けたいと――あの三人の完成された華やかさに、自身に限らず余計な色は要らないと考えているはずです」
っぇ……ぁ……ぁ……! ですから……なんで、どうして……!? どうして、シレラさん達のプロデューサーさんの意見へ真っ向から反論する形になっちゃう――。
「確かにベルちゃん含めた四人のユニットは華やかで鮮やかに眩しくて皆の目を惹くでしょう。けれどそれは三人でもできるはずです。なら色彩を複雑にしたところで、視線がばらけてしまうだけ。ベルちゃんは、要らないんです」
――
そう、そう、そうなんです! それこそが、先のプロデューサーさんお二方が見抜かれた私の不安と並ぶ加入辞退理由! こんなことを言うのはおこがまし過ぎるしとんでもなく失礼だってわかってるんですけど…まさに私情を抜きにした、私なりのプロデュースプランなんです!
『私のためにパフォーマンスが割かれてしまえば、お三方の本領は上手く発揮できなくなってしまう。あの見ていて楽しくて、笑顔になれて、元気を貰える魅力が、最大限には輝かなくなってしまう』……加入辞退した際に思っていたことで、確かに単純なミスとか性格とかで足を引っ張っちゃう不安も入ってましたけれど…それだけじゃなくて!
純粋に、余計な配色なんです私は! シレラさん達のプロデューサーさんはそれを『精彩が一層増す』と素敵に捉えてくださったんだと思います。けれど、その必要はないと思うんです。仮に私が上手くやれるアイドルだったとしても。
だって、シレラさん達はお三方で既に完成していらっしゃるんですから! ただ純粋に邪魔なんです。私じゃなくても、waRosやM&Aであったとしても、お三方へ加わることは過剰で余計なんです! featやwithとかなら最高ですけど…!
あ、そうです、今日のライブでwaRosのお二方が気になされていたあの演出、まさにあれと一緒なんです! 豪華絢爛で派手で格好良かったですけれど、確かに目は忙しくて。サラ様がご指摘なされた通り焦点が定まらなくて想定よりも盛り上がらなくて……私が加入してしまえば、シレラさん達が常にそんな目に遭ってしまうかもしれないんです。
そしてそうなったら私はお三方を際立たせるために脇役をやるでしょうし、結果waRosのプロデューサーさんの懸念通りになってしまうでしょう。そうも思っていたから、私は……。
それにしても凄いです、あのプロデューサーさん。なんで私のことをそんなにわかってくださって…こんな私のことを……。てへへと自分を嗤うようにしながらも、自販器の灯りで輝いたあの方の瞳は、とてもまっすぐで…!
「勝手にベルちゃんを名乗って憶測を語るなって怒られそうですけれど…これは確信です。彼女なら間違いなくそう言います。それに、もしかしたら――」
「……waRosもそう考え、加入に反対するかもしれません」
「そしてその場合、シレラちゃん達は身を引くわね。寂しく思いつつも…外ならぬベルちゃんが自ら下した決定を尊重して」
waRosのプロデューサーさんも、シレラさん達のプロデューサーさんのプロデューサーさんも…はぅぅ…! もう今こそ飛び出していって、まさにその通りだと…担当の方々と阿吽の呼吸だってお伝えしたいぐらいです!!
ですけどやっぱりそんなことは出来なくて…。あはは……私はこんなだから……こんな…なのに……。
「では、それを事実と仮定し、改めて貴女の意見をお聞かせください」
「宙ぶらりんになったベルちゃんを、きみはどう活かすのかしら?」
「ではコホン! ――そうだとしても、シレラちゃん達ユニットへの加入を目指す形が現状の最善手なのは私も同意です。今後気が変わるかもしれませんし、誰かとユニットを組むためのステップアップには最適ですから!」
まだ私の未来を考えてくださって、可能性を信じてくださって……。でも、シレラさん達への加入辞退をしたのと同じ理由で、候補生現役問わず他の方々と組むのも良くなくて……。かといって、ソロも……。
「ですがそれはあくまで『現状』のです。だからこそ私の持論を、欲望を、まずは語弊を気にすることなく、言わせていただきます!」
なのにあのプロデューサーさんは、目を、全身を、まるで宝箱いっぱいの宝石のようにキラキラにさせて――!
「私はベルちゃんを新規ユニットの――それも、メインに据えたいんです!」
ええぇ……えぇえぇぇ……??? いや絶対無理ですよ…? 私がメインだなんてそんなキラキラ、無理なものは無理です。なのに、あのプロデューサーさんは。
「てへへっ☆まずは急いで釈明を! 当然ながら、アイドルは全員がメイン。少なくとも私達プロデューサーはそう扱い、そう育て、そう輝かせます。――けれど、敢えてもう一度。ベルちゃんは、メイン向きだと思うんです!」
まだ変わらず、フンスと自信満々に! あ、語弊ってそういうことですね。全員がメインというのには私は全力で賛成ですし、waRosとシレラさん達のプロデューサーさんも真意をしっかりと読み解かれているご様子です。
「ユニットが複数人で構成される以上、メンバー内で役割振り分けが行われるのは一種の摂理と呼んで差し支えないでしょう」
「waRosで言えばリアちゃんが。あの子達で言えば…きっとシレラちゃんになるでしょうね。それが、きみが今言いたい『メイン』ね」
多分、ファンやメディアからユニットの中心人物と見られる方。それをあのプロデューサーさんはメインと称したのでしょう。そしてそれで当たっているみたいです、あの方は更に目を輝かせ息を興奮させ、自論を口にされました。
「はい、そうですそうですっ! あの子が『メイン』となれば、他のメンバーを…いいえ、他ユニットの子達すら確実に褒めに褒めちぎって立てます! 無意識に、純粋に、心の底から! そうすれば――」
「誰もが引き立て役やおまけになることなく」
「全員が、全員でユニットの顔になれるわね!」
それはちょっと大役が過ぎるのでは!? 私なんかがそんな、他の方の顔を立てるだなんて…。今まで出来ていたのかも怪しいですのに…。もしできなかったら、その方のアイドル生命を潰すかもしれないのに…!
「ふふふっ! ですから私、ベルちゃんを既に完成されたユニットに加入させるのはぶっちゃけ勿体ないと思ってるんです! それだけのポテンシャルがあの子にはあるんですから!」
なのに、あのプロデューサーさんは私をどこまでも信じて!? ぁぅ…ぇと…waRosのプロデューサーさん、シレラさん達のプロデューサーさん、な、なんとか反論を……!
「非常に納得のゆく計画だと思います。ただ、幾つか懸念が。まず、そのような役割は往々にしてメンバー同士で自然と決まるものです。無論、私達が介入するという手はありますが……」
「そうなったら不和が起きる可能性バチバチね。というかそもそもベルちゃんの性格上、よっぽどのことがないとメイン役なんて譲っちゃうし、なんなら引き受けないでしょうよ?」
そ、そうです! 私がメインなんて分不相応で! その役は他の方が務めるほうが相応しくて、私はやっぱり引き立て役やおまけの立ち位置の方が……。
「ふっふっふ~! まさにそれも、私が新規ユニット結成を提唱した理由なんです! ベルちゃんを合うユニットに入れるのではなく、ベルちゃんに合ったメンバーを集めるべきなんです!」
ま…また……また、あのプロデューサーさんは、なんて無謀なことを仰って!? 私なんかに合うメンバーなんて…………その…どんな方が合うとお考えになってるんでしょう…?
「ではここで、ベルちゃんの性格の一部の難――『停滞の殻』にしてあの子の根源たるそれに、改めてスポットを当てましょう!」
ふえっ!? 急に!? 当たり前ですけど止める暇なんてなく、あの方は語り出されて!
「あの子は一人だとどんどん悪い方向に行っちゃうタイプの子です。人は救えるし導けるのに、本人は落ちていってしまう――私が例えるなら…自分から皆の煤を拭ってくすんでいっちゃう原石、ですかね」
っ…! それがあのプロデューサーさんが思う、私の性格の問題…私の根源……。救える…導ける……でも一人じゃダメな、皆の煤を拭う原石……それが…私…。
「だからこそお二人はあの子に手助けが必要と考えていますし、私も他の皆も同じでしょう。そう、彼女を知る誰もが!」
そんなヘンテコ原石を、プロデューサーさん方だけでなく、皆さんが…? と、あのプロデューサーさんはうんうんと思い返し噛みしめるように頷かれて。
「本当にあの子は稀有な才能の持ち主ですよねぇ。周りを輝かせて、自分は消えようとして。けれど消えきれなくて踏みとどまることができて。その苦悩という煤にまみれた後ろ姿からは、まだ鈍いけれど強い輝きが透けて見えて、私達を虜にしてきて!」
へあっ…!? それもヘンテコ原石の話なんですか…!? それが…私のやってることなんですか…!? その虜の代表というようにあのプロデューサーさんは更に、皆を演じる役者さんの如く身振りを交えて…!
「だから皆『あの子をそのままにしておけない、あの子も輝かせたい、あの子を守りたい、煤を払って輝かせてあげたい!』って、自動的に保護者みたいになっちゃうと言いますか! ふふっ、あの子はまさに『みんなで育てるアイドル』の体現者ですね!」
そんな畏れ多いことを楽しそうに口にし、キラッと決めるプロデューサーさん…! でもすぐに「おっと、話が逸れちゃうところでした!」とコホンと咳払いなさり、自らのお考えをお明かしに…!
「ですから、ベルちゃんのメンバーにはそういう想いが強い子達が相応しいと思うんです! そうですね、もっと具体的に言うなら……友達として引っ張るよりも…そう、リーダーのように引っ張るか、あるいはお姉さんやお母さんのように支えられる、ベルちゃんをメインに立てられる保護者役の子が!」
……ぇと……その……あの……。確かにヘンテコ原石にはそういう守り手が良いのかもしれませんけれど……えっと……。
「成程。それをお聞きし懸念の大半は解消しました。ですが、最後に一つだけお聞きしても宜しいでしょうか」
「単刀直入に行くわよ。そんな子、どこにいるの?」
で、ですよね…! 問題はそこで…! そんな奇特な方なんて……――。
「うーん、今はいないですね!」
ですよね!!!!!? ですよね!!!!!! いませんよねそんな方!!! ……思わずゴミ箱の側面に頭をぶつけるところでした…!
「該当する子達はいますけど、皆既にデビューして第一線ですし。当然引っ張ってくるわけにはいかないですからね~」
い、一応目星は付けていてくださったみたいです。ですがデビュー済みなのは当たり前です。それだけの才がある方ならば、私なんかに関わらずトップアイドルになれますもの。
それを抜きにして、私も思い浮かんだ方々を仮に当てはめてみていましたが……どう考えても私なんかの保護者役には勿体なさ過ぎて。寧ろ私がその方々の引き立て役になりたくて! あ、でも……それだったら私がメインなら…全部解決……? あ、あれ…で、でも……?
「それにそもそもベルちゃん、既存アイドルには敬服のスタンスを譲りませんし。だから欲全開にしちゃうと、ベルちゃんと顔見知り且つ、今アイドル志望とかじゃ全然ない完全新規の子が良いんですけどねぇ」
って、ますます欲深になってますあの方!?!? いえ私のためなんですけれど!! そんな新しい方と仰られましても、私を守ってくださるような素晴らしい方に心当たりなんて………………。
っ…ううん、そんな方々は、それこそ私なんかを気にせずアイドルデビューなさるべきです! 絶対そうですよね!!
「それは…………なんとも難しい話ですね」
「も~、完っ全に妄想の類じゃないの……」
ほら、waRosのプロデューサーさんもシレラさん達のプロデューサーさんも、とうとう呆れているようなお声に…! ただ、荒唐無稽な話というのはあのプロデューサーさん自身も自覚なされているらしく、照れたように頭を掻きつつ――。
「てへへ…! まあそこは…ネルっさんのあの鶴の一声を信じて待ってみようと思ってます!」
へ…? あ、そういえば……! 仰ってました、この議論に終止符を打ったのはネルサ様の鶴の一声だって…! それって一体…!?
「『うんうん★
「おおお~っ! 似てます似てます! はい、そう仰ってました! それと――」
「『なるはやでいかんとヤバ気だしダッシュでキメっから、それまでは
「「今サラッと真似た(ました)!?!?」」
わ、私も聞いてしまいました…!! waRosプロデューサーさんの、ネルサ様声真似!!! あの冷静沈着な低音ボイスでのネルサ様はギャップがビビビっと背を走ってカッコいいのに可愛くて!
って、あ、今はそこじゃなくて、ネルサ様のお言葉のほうが重要でした…! ネルサ様、そのようなことを……私に合うバッチリな子がいる、すぐに決める…何かしらのお考えがあることは確実ですけれど……。
「――ま、弄るのは終わりにしてと。ネルっさんがそう言ったんだもの、進めるべきは私のガツガツプランよりも、きみの様子見プランの方ね。あの口ぶり、加入辞退されるってことも予見済みでしょうし」
「恐らくは。あの方には字義通りの見る目も…魔眼『親睦眼』もありますから。ですので勝手に行動を起こさせていただいたのですが……それも、直ぐに必要なくなるかもしれませんね」
「そうしたら私の妄想プランがきっと現実に! ネルっさーん!! どうか宜しくお願いしまぁーす!!」
少しの間わちゃわちゃされていたプロデューサーさん方は、気づけば話のまとめに。そして最後に、あの変わったプロデューサーさんがコホンと咳払いなされて。
「以上、誰もメインプロデュースをしたことのない経験不足の私からの、憶測と妄想まみれの反対意見でした! お耳汚し失礼しました~!」
残るお二方の拍手を受けて、ぺこりと頭を下げてみせるプロデューサーさん。はい、本当に憶測と妄想で構成されたお話でした。最も憶測のほうは完璧に事実を捉えていらっしゃったんですが。
それでもやっぱり、全部が全部突拍子もないと言いますか。私をメインに据えるとか、私に合ったメンバー…それも私の保護者になってくれるような方で構成するとか、ネルサ様に全部託しちゃうとか……でも……けれど、なんでしょう……。
現実的なシレラさん達とwaRosのプロデューサーさん方と違い、あの方は……なんというか、夢が溢れていて底が窺い知れなくて。でも夢のひとつひとつがキラキラしていて、つい目を惹かれちゃうものばかり詰まっていて。
さっき私、あの方を宝箱いっぱいの宝石のようにキラキラしていると表現しました。今それを元に改めます。あの方は『宝石いっぱいの不思議な底なし宝箱』です。
沢山詰まっているキラキラ宝石は、危険な香りはしますけどとってもワクワクして。つい近づいてしまうと…殻を着込んだ煤まみれの原石なのに近づいてしまいますと、その底なしに落ちて、キラキラ宝石に気持ち良く溺れ揉まれ、殻を砕かれ煤を磨かれ…私も…………あはは…なんでもないです…。
「いえ、そう卑下なさることはありません。そのプランが叶うのであれば、私もそれが至高であると支持します。私達のはあくまで『現状の最善手』なのですから」
「そうね。ぶっ飛んでるとはいえ、ピントは誰よりも合っていると思うわ! ふふっ、流石きみね!」
プロデューサーさんお二方もそのキラキラを認めているようです。あのプロデューサーさんは少し照れた様子で満面の笑みをお浮かべになって。
「てへへ…! 果報は寝て待て、待てば海路の日和ありという言葉もありますし、その機会が来たら逃さず飛びつきましょう! それまでは――」
「えぇ。明日にベルちゃんの意見をそれとなく聞いて、いつでも加入できるように様子見と介入を絶やさずして、後はネルっさんを信じていきましょうか!」
「では、本日はこれで。カップを」
どうやらお話はこれで終わりのようです。本当皆さん、こんな夜遅くまで、しかも私なんかのために時間を使ってくださって申し訳ない気持ちでいっぱいで――へ?
あ、あれ…waRosのプロデューサーさん…? 全員の飲み終わり紙カップを回収して重ねて……こちらに!? まさか気づかれて…ッハ! ち、違います!!!
い、今私、ゴミ箱なんです! ゴミ箱の中に居るんです!! ということはあの紙コップは、私が今外を覗いているゴミ投入口から入れられ――! やっ、ヒッ…!!
「では帰りましょうか」
「「はーい」」
……ふぇ…? え、あれ…? 今紙カップが視界を迫り潰すように飛び込んできて、思わず目を瞑ってしまいましたけど…目に当たるどころか、身体にもぶつかった感覚がないです…? 上手く落ちたんでしょうか…?
「ん、んく~うっ…! あ、そういえばさっきのきみ、なんだか楽しくお喋りしてる時のベルちゃんに似てたわ」
「え、そうですか? てへへ~嬉しいですね! ベルちゃんと気が合ったりしないかな~。そしたら――――……」
「えぇ、もし貴女の立案通りに事が進めば、きっとそのように――……私達からも推薦を――……」
…………その間に、プロデューサーさん方の声はどんどんと遠ざかっていって……あっという間に聞こえなくなりました。周りはまた、自販器の光と微かな音ぐらいしかない、静かな空間に……も、もう出ても大丈夫ですよね…?
「よいしょ……ふぅ……」
蓋をパカッと開け、音を立てないように外に出ます。改めて身体や鞄を触ってみますが、濡れている様子もないし、臭くもありません。
ふと気になり今まで自分の入っていたゴミ箱を覗いてみます。すると底には、さきほど捨てられた紙カップが。どうやら本当に運よくすり抜けてくださったみたいです。えと…それで……。
「どう…しよう……」
ゴミ箱の中へ目を落としたまま、口に出してしまいました…。いえ、やることはわかっているんです。差し入れお菓子探しの続きで、大道具エリアに戻らないと。時間は経ちましたし、もしかしたらゲンさんもお帰りになってるかもしれません。
けど……そうじゃなくて……。どうしよう、というのは今やるべきことについてじゃなくて……この先の、未来のことで。無理やり忘れていたはずの『この先アイドルを目指し続けるかどうか』のことで…。
今のプロデューサーさん方の話を聞いてしまって、緊張が解けて一息ついたら、なんだか急にどこかへ追いやっていた思考が大波や竜巻のようにどっと押し寄せてきて……。それこそさっきのように視界を迫り潰す勢いで、胸も頭も圧し潰して粉々にしようとしてくるみたいで……苦しくなってきて……ぅ……ぅぅ……。
……あのプロデューサーさん方って、私とほとんど顔を合わせてなくて…。精々が廊下ですれ違って挨拶したりちょっと話しかけてくださったり、時折レッスンを覗きにきてくださる程度の面識なんです……。
なのに、あれだけ激論を交わせるぐらいに深く私を分析してくださって、道を用意してくださって、未来を信じてくださって……。アイドルのために、こんな深夜まで身体を張って頑張ってくださっていて…!!
そんな素晴らしい方々の努力を、私なんか受け取って良いんでしょうか……? ううん、駄目に決まっています。他の立派なアイドルの方々ならともかく、私みたいな面倒で陰鬱で役立たずには勿体ないんです…! だって……そんなに私に期待されても……っ…!
ぅ…わかってます…。プロデューサーさん方はこんな風になる私を見越して、様々な可能性を加味して、あの手この手で育てようとしてくださっていることは…。だから変な心配はしないであの方々に引っ張っていただいて、やりたい未来を、なりたいアイドルだけを追い求めるべきだってことは…。
そしてわかってます…。こういう時こそ私はリア様サラ様のアドバイス通り、称賛や感想を…幸せな気持ちにしてくれるそれを、今褒めていただいたところだけを怖がらずに楽しんで、味を占めて気分をあげるべきだってことも……。でも、それができなくて……!
だって、だって――怖いんです……応えられる気がしなくて、怖いんですっ!!!
シレラさん達と一緒に成長する、プロデューサーさん方の支援を受けて性格の問題を直す、全く新しいユニットで誰かと頑張る……そのどれもが手を伸ばしたくなる希望に満ち溢れていて!
waRosを始めとした尊敬する皆さんを頼ってついていってやりたいアイドルになる、そうしてまた皆並んで美味しいケーキを食べる……そのどちらもが甘く蕩ける幸せで胸を全身をいっぱいにしてきて!
けれどそれらは全て、皆さんの努力も想いも全て、私の失敗ひとつで台無しになってしまうんです! 成功したとしても、大した結果にならないと思うんです!! ――私じゃ、希望と幸せに見合ったお返しをできないんです!!!
それが怖いんです……私は……。私なんかには皆さんの期待が重すぎて……受け取ってしまったら結末が恐ろしくて……。しかもそれどころか、実際にそれらを頂く機会が目の前に現れたら、きっと私、逃げてしまいそうで、隠れてしまいそうで…挙句の果てに拒否しちゃうかもって思うと…………。
あ…はは……自分のことなのに、何言ってんだって感じですよね……。でも……想像しただけで震えが止まらなくて…。皆さんの人生に関わってしまう重責に耐えられなくて、クシャッとなって飛ばされていきそうで……うん……私は原石なんかじゃないんです……ただのゴミと同じなんです…。
だって私はゴミ箱の中に隠れるしかできなくて盗み聞きも止められない侵入者よりも悪いやつで……あのミミックさんにすら見つからないぐらい影が薄くて……ううん、ゴミとも呼べないぐらいの矮小な存在なんです……。だから、このダンジョンにいる意味なんて無くて……。
なのに……そんな私なのに、アイドルに相応しくないゴミ未満な私なのに、プロデューサーさん方も、アイドルの皆さんも…! どこまでも一員として扱ってくださって、激励してくださって! しかもそれは、その方々だけじゃなくて!!
警備員の皆さんも、スタッフの皆さんも、ゲンさんも、トレーナーさんも、リダさんオネカさんも!!! 皆さん…なんで! 私なんかを……そんなに……あんなに…………。
ッ…! ダメです…! このまま心の中をぐちゃぐちゃにぐるぐるさせていても、何も進みません…! 一旦追い出して、このゴミ箱と同じように蓋をしてから――えいっ! 痛っ…ふうぅっ…!
いい加減、ほっぺたのじんじんが止まらなくなってきました…。でも、この痛みが続いている間は正気でいられて、不安を忘れられて……。今度から何かあったらそうしましょうか…。
いや、それも今考えることじゃありません。まずはやらなければならないことをやらないと…。大道具エリアに行って、失くしたお菓子を見つけないと……。だって、だってそうしないと…もう私は……何一つ…………――。
「道は……こっちで合ってる……」
またマップを辿り、大道具エリアへの道を戻ります。各所から漏れる灯りは先程よりもかなり減っていますが、まだちらほらと。皆さん本当に本当にお疲れ様です。
その前を、私はすっと通り抜けます。自販器の前も同じく。大丈夫ですよ、気づかれません。だって私はゴミですから。ゴミ未満の存在ですから。あはは。
それに、ここでずっとうろうろしていた方が余計に邪魔になっちゃいますもの。でも音もなくすぐに通り過ぎれば…消え去れば、皆さんが私なんかに意識を割く必要すらもなくなりますもの。
あ、そうやって進んでいる間に、資材らしきものが色々積まれている広めの通路へと出ました。間違いありません、ここが大道具エリアへと続く道です。なんだ、これでよかったんです。
いつもの通り、誰にも迷惑をかけないように影を薄くして、高望みしないようにして、夢は見るだけで…輝くアイドルの皆さんから浴びるだけにすれば、こうしてやらなきゃいけないことはすぐに達成できるんです。
最初から間違っていたんです。私はそれで良いんです。夢を叶えるだなんて私の身の丈に合わない望みだったんです。……そうだ、お菓子が見つかって寮に戻ったら、荷造り始めましょう。
ごめんなさいシレラさんニュカさんルキさん、約束は守れそうにないです。
ごめんなさいリア様サラ様、あれだけ励ましてくださったのに私は駄目なんです。
ごめんなさいアイドルの皆さんプロデューサーさん、私なんかに時間をとらせて。
ごめんなさい皆さん…迷惑ばかりで……。
そして…ごめんなさいネルサ様。折角スカウトしてくださったのに。あの時の私に断る勇気が無くて……それよりも無謀な夢へ挑むことを選んでしまったせいで、ネルサ様のスカウトの最初の失敗になってしまって。
でも今ならまだ、きっと、傷は浅く済むと思うんです。今ここで私が消え去ればこれ以上誰にも迷惑をかけることはありません。これから先失敗して大惨事を起こしてしまうよりも、きっと皆さん楽に済むはずです。
そうです…だからやっぱり、アイドルになる夢を……弱い自分を追い出して、このダンジョンからいなくなりましょう。そして今まで通りにライブを……今まで……通り…………――あれ?
「後ろから、誰か…?」
また足音がします。しかもこちらに向かってきてます。警備員さん…侵入者…? いえでも、足取りはさっきの方々みたいにしっかりもこっそりもしていません。
じゃあエリア的に、プロデューサーさんとかスタッフさん……? それが一番有り得るんですけど、なんというか、少しふらふらみたいな感じがします…?
誰かはわかりませんが、誰であっても見つかってはいけません。迷惑をかけてしまいます。だから急いで隠れませんと、消えませんと。
幸い大道具エリアと接続してある道だからか、余裕で身を潜められそうな大きめ木箱が置いてあります。ここに入りまして…よいしょ。後はやり過ごしましょう。
「――んあ…? おい、ここ違うじゃんか? 仮眠室じゃないぞ?」
「だよね…大道具エリアへの道だよね。ふあぁう……間違えちゃったあ」
直後、お二人の姿が見えてきました。えぇと、どうやら事務のスタッフさんのようです。けれどその様子、道を間違えたみたいです。しかもとっても眠そうで……この時間までお仕事だなんて。
「んー…。どっと気ぃ抜けてきた。やっぱ残業し過ぎだったかなぁ」
「今怒られてきたしそうでしょ。あの方までわざわざ来ちゃったし…」
「控えないとなぁ。でもアイドルのためになるって思うと、ついついなぁ」
「わかる。それに、ミミックちゃん達に事務仕事まで任せちゃうのもね~…」
どうやら誰かに残業を咎められて切り上げてきたみたいです。え、ミミックさんって事務のお仕事まで出来るんですか…!? 相変わらず多彩すぎません…!?
「まあミミックちゃん達はここ棲みだから案外気楽なんだろうが……俺達もここに住めないかねぇ。アイドル寮みたいにスタッフ寮みたいなの建てて貰ってさぁ」
「あー…防音室の増設申請来てたし通ったし、ダンジョンだから賛成多数ならすぐ作れるかもだけど……そしたら私らみたいに残業するやつ増えるだけ~!」
あっはっは、間違いない、とちょっと壊れたように笑い合うスタッフさんお二方。その、本当…もう少しお身体を大切にしていただきたいと言いますか……。やっぱり私がいなくなって、皆さんの負担を少しでも減らすべきなんじゃ……。
「ふっ…あぁあぅ……! うーん…仮眠室行くかぁ……。で、どっちだっけ…?」
「そうだった…迷ってたんだった。マップは……あ、ちょっと天啓来た…!」
へ…? 何か思いついたようなお一方が、すっと進み出るように? そして少し声をお張りになって――。
「ミミックちゃ~ん! いる~? いたらちょっと道案内して欲しくて~!」
わ…!? ミミックさんを呼びました…! でも残念ながら多分、この辺りにミミックさんは……――。
「チウ」
「チュウ」
「チュウ!」
……………………………へ? え? え。え……え…………。
「やった~。ごめんねネズミミックちゃん、警備のお仕事中に~」
「仮眠室わかるかい? お、こっちか。ありがたいなぁ」
…………
けれど……その、あの……えと…えっと……今ちょっと、頭が混乱していて……。声も出ないぐらいになってて……。だって今、あの宝箱ネズミのミミックさん……。
え、え、え、え、え……え…………ど、どういう……で、でも間違いありません…! 私、今、ミミックさんと一緒に箱の中にいたという事です! 迂闊でした…こんな丁度いい箱、ミミックさんが入っていて当然ですよね…!
じゃあ…なんであのミミックさん、私をスルーなされたのでしょう…!? 見つかったら寮へ戻されてしまうか、あるいは侵入者として追い出されるはずですのに……。
……あ、あ…! そうです…そういうことです…! やっぱりそうなんです!! 私、影が薄いからそれでも気づかれなくて、ゴミにも劣るちんけな存在だから、気に掛けてすら貰えなくて――――
「いいや? キミのことはボク達み~んなご存知さ!」
「んふふ~♪ すっごいアイドルになれるベルちゃ~ん♪」
ぴぃいいっっっっっっっっっ!!!?!?!?!?!?!?!??!?