ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 とある陰キャっ娘と偶像⑧

 

 

あ……本当です…。リダさんオネカさんに指摘されて…触れてみて…ようやく気付けました……。涙、出てます…。私、泣いてますね……。

 

 

道理で目の前のお二方も、折角見つけたお菓子もちょっと歪んでる訳で…。早く拭いませんと……あれ…あれ……?

 

 

ど、どうしましょう…。いくら手で拭っても拭っても、また出て来て…勝手に涙が出て来て止まりません……。早く収めなきゃいけないのに……今日どんなことがあってもなんとか堪えてきましたのに……。

 

 

……そうです…。今日一日色々ありましたけれど、一度もこうならないようにしてきたんです。waRosのライブに観戦した時も、ゲンさんに怒鳴られてしまった時も、実践レッスンで大失敗してしまった時も…。

 

 

それだけじゃありません。その実践レッスンにwaRosとネルサ様が乱入なされた時、シレラさん達のユニット結成が決まった時、そのユニットに誘っていただいた時、断ってしまった時。私のミスでリダさんオネカさんを転ばせてしまった時……。

 

 

そして……waRosとシレラさん達、アイドルの皆さんに励ましていただいた時。お菓子を失くしてしまったと気づいた時。さっきも含めますと、警備員さんやゲンさんに見つかりかけてしまった時やプロデューサーさん方の話を聞き終わった時も……。

 

 

嬉しかったり悲しかったり申し訳なかったりと心の内は様々でしたけど…そういう時は必ず心がぎゅうっとなって、込み上げてくるものがあって……。でも、その度に外へ零れだすことだけは…涙にするのは抑え込んできたんです……。

 

 

だって、迷惑をかけてしまいますから…。皆さんを心配させてしまいますから……。だから出来る限り堪えるようにしていましたのに…その分昂る想いは言葉にしたりぐちゃぐちゃの不安は飲み込んだりしてきましたのに、なんで、今……!

 

 

こんなとこで泣いてしまったら、リダさんオネカさんの前で涙を流したままでいたら、必ずお二方は心配してくださって…私、迷惑をかけてしまって……! ただでさえ迷惑をかけ通しなのに、今日最悪の迷惑を――あぁ……そうです……。

 

 

 

迷惑をかけ通しだって、改めてわかってしまったから……今日最悪の迷惑を目の前にしてしまったから……その迷惑の全ては私の無能さが原因だから……これ、止まらないんです……。

 

 

 

何が……『お菓子を失くしてしまった』ですか……。何が……『落としてしまったかもしれないからこっそり探そう』ですか……! その過程でどれだけの方々に迷惑をかけたと思ってるんですか!!!

 

 

お菓子をくださったwaRosに、お菓子を分けてくださったシレラさん達に…! 寮を抜け出すことをうろつき回ることを見逃すどころか見守ってくださったミミックさん達に、忙しくしている警備員さんスタッフさん方に、私を案じてくださったゲンさんにプロデューサーさん方に、リダさんオネカさんに!!

 

 

優しくて立派で素晴らしい方々に、私は山ほどの迷惑をかけてしまいました…! だからこそせめて、迷惑をかけられた甲斐はあったと思っていただくために……少なくとも、私がそう思うために絶対見つけようと気を張って……いましたのに……。

 

 

……良かったです。お菓子が見つかって…。落とした訳でもなく、誰かに盗まれた訳でもなく、ゴミとして捨てられた訳でもなく、こうして無事に保管されてて、保管していて、良かったんです……。……けど……っ……。

 

 

…………私にとってはこのお菓子は…とってもとっても大切なものです……。美味しい食べ物というだけじゃなくて…憧れのアイドルであるwaRosのお二方が、私達のためにくださった…認めてくださった証なんです…。けど……けどっ……!

 

 

傍から見てしまえば、ただのお菓子ひとつ! それを探すために私は深夜にとんでもない大騒ぎを起こしてしまって!! 挙句の果てに……あはは……蓋を開けてみたら……あはははは……! 見てください、この有様を……!

 

 

あれだけ皆さんに迷惑をかけながら探していましたのに、こんなところに…! 数時間前まで使っていたレッスン更衣室のロッカー内に普通に仕舞ってあって!! 私は何も考えず仕舞っていて!! そのことに今の今まで全く気付かなくて!!

 

 

そうなんです……そうだったんです……初めから全部……全部……! 私の単純で簡単で軽率で粗忽で怠慢で迂闊で不注意で確認不足でドジで間抜けでグズで無能なミスだったんですっ!!! 

 

 

もしタオルのことを覚えていたらこんなミスはしなくて…もし帰る時にしっかり確認していたらこんなことにはならなくて……もしこのことを少しでも思い出せていたら、こんな迷惑はかけなくて…!

 

 

シレラさん達の予測が完璧に当たっていたのに……サラ様リア様が仰っていた通りにすぐ見に行くか、明日にするかにしておけば良かったのに……そうしておけば良かったのに……! 私はまた、空回りなことをして、迷惑を無駄に広げて……!

 

 

本当、私はどれだけ無能なら気が済むんでしょう……。どれだけ情けなかったら……ぐすっ……。私はこんななのに…皆さんはあんなに……でも期待に応えられなくて……迷惑でしか……返せてなくて……。

 

 

っう……だ、駄目です…もう涙を止めないと……堪えないと…耐えないと……! これ以上、リダさんオネカさんの手を煩わせるわけにはいかないんです…! ぼやけていてもわかります、お二方が心配なさってくださっているのが…!

 

 

だから、なんとかしてこれを抑え込みませんと…! 急いで押し殺して、笑ってみせないと……あ…そうです…さっきまで使っていたあの方法で……!

 

 

「あっ、ベル…!?」

「ベルちゃん…!」

 

 

お二方の前から踵を返し、ロッカーの前に一旦戻ります…! そしてお菓子をタオルで包み直して鞄の中へと確実に仕舞って、両手を開けて。またさっきまでのように、正気を取り戻すために、痛みで忘れるために、頬をバチンと――えいッ!

 

 

「痛っ……え…えっ……?」

 

 

い、痛くない…? で、でも今思いっきり頬を叩いたはずで…!? 勢いよくバチンとやって、音もしたはずで……なのに痛くない…どころか頬に当たった感触もなくて、でも手にはあってちょっとひりひりしてて……!?

 

 

な、なんで…!? じゃあ私、今、何を叩いて――――え…あ……あぁ……あああぁぁ……!?

 

 

 

「――ベル、確かにキミは笑顔が似合うし、ボク達も楽しく笑うキミが大好きさ。けれど、今やろうとしていることは違うよ」

 

「そ~よ~。自虐で笑うのも、心配させないために無理やり笑って見せるのも、悲しい偽物~。本当の笑顔とは言えないもの~」

 

 

そっと頬に手を近づけてみて…頬と手の間に挟まる温かさに気づいて……! 信じられなくて目を見開いてしまった瞬間、背後から諫めるように…けれど優しく聞こえてきたその声が、背けることを許してくれなくて! 

 

 

ま、間違いないです……間違えようがないんです! 今私が触れているこれは、さっきまでずうっと委ねていたのと同じ触れ心地のこれは、お二方の、手!! リダさんオネカさんの手が、私の頬を守るように、背後から…差し込まれて……!

 

 

つまり……つまり私が叩いたのは…叩いてしまったのは、自分の頬ではなく……お二方の手で……! ということは私は……リダさんオネカさんを叩いてしまってぇ……! 私…私…なんてことを……!

 

 

山ほど迷惑をかけただけでは飽き足らずに……昼間も転ばせてしまったというのに……手を思いっきり叩いてしまって……! ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさいっ……!

 

 

「ごめんなさいいい……!」

 

「っと…!?」

「大丈夫よ~…!?」

 

 

あ……身体が……全身がポキッて折れたかのような…プツッて切れたかのような感じになって…へたり込んでしまって……。お二方が受け止めようとしてくださる指先が、微かに背に、髪先に触れて……。

 

 

こんなことをしてしまったらもっと心配なさってしまうのはわかっています……。でも…立ち上がれなくて……。お二方へ振り向けなくて……顔向けできなくて……涙ごと床に隠してもらうしかなくて……。

 

 

だって…だって……ファンって言ってくださったお二方に…友達って言ってくださったお二方に……あのリダさんオネカさんにあんなことをしてしまって……。私は…私は……最低最悪で…………もう…もう……もう、私は……私は――……。

 

 

「……リダさん…オネカさん……お願いがあります……」

 

「……なんだい?」

「……出来ることならね~…」

 

「私を…捕まえてください……」

 

 

もう私は…こうするしかないんです…。やっぱりそうして貰うのが一番だったんです……。これが正しかったんです……。だって……だって……だってぇ……!

 

 

「私は侵入者なんです…悪人なんです…邪魔者なんです! このダンジョンに…アイドルの中に入り込んでしまった場違いな存在で、でも身を引くことができなくて…いちゃいけないってわかっているのに皆さんの厚意に甘えてしまって、結局皆さんの足を悉く引っ張ってしまって!! 今も……お二方に…私……」

 

 

そして……臆病者でもあるんです……。こんな身勝手なお願いをしていますのに、お二方に背を向けっぱなしで…足に力が入らなくて姿勢を正すことすらできなくて……。ただ目の前の開きっぱなしなロッカーに、代わりに伝えてもらうしかなくて……。

 

 

そんなことしかできないから…なんでしょうね…。飾ってある皆さんとの写真とか…ボロボロになってきたレッスン靴とかも…声を揃えて『私はここにいちゃいけない』って言ってきているみたいで……。っ、お願いしますリダさんオネカさん、だから……だから……っ!

 

 

「だから私を捕まえて…ここから追い出してください…ッ!! そうすれば皆さんも、私も――――ぇ……え…?」

 

 

改めてお願いをした瞬間……両頬に…目の下に、何かがそれぞれそっと当てられて……? 良い香りで…柔らかい布で……? それを通じてほんのり、心地よくてそれぞれ違う、記憶に新しい温かさが伝わって来て……ひぁ…!?

 

 

そ、その温かさが…背中いっぱいに広がって…!? それも、右と左から挟むように……! こ、これも間違いようがなくて、リダさんオネカさんが私の背中にそっと寄り添ってくださって、ハンカチで目元を拭ってくださっていて――。

 

 

「――わかったよ、ベル。キミの想いは聞き届けたとも」

「うち達がしっかり捕まえて~追い出しちゃうからね~」

 

 

……っ! はい…はい……っ! どうか、お願いしま……。

 

 

「だけど、まずは調書をとらないとね。だから――」

「もう一度~もっとお話聞かせて貰えるかしら~☆」

 

 

えっ…? 調書って……あ、でも…さっき記者さん達が捕まった時、警備員さんが報告書を作るとか仰っていました。ならきっと必要な手続きなんでしょう。……ですけど、お話って……何を話せば……ひゃ…!

 

 

「フフ、丁度今日のことを話していたし、さっきの続きからでどうだい?」

「差し入れ貰って~うち登場で~さあレッスン開始~! からでど~お?」

 

 

お二方がいつの間にか、私のロッカーの両側に背をつけてお座りになっていて…! こちらを向いて、手を差し伸べてくださっていて、更にはそっと指で、残っていた涙を、最後まで……!

 

 

「どうかボク達に打ち明けて欲しいんだ。何があったかを」

「うち達と再会するまでのぜ~んぶの頑張り、教えて~♪」

 

 

さっきまでのお話の続きを……お二方に…お二方と一緒に……なら……それ……なら……。必要なこと…なんですし、話させて、いただきます……っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それで、プロデューサーさん方にもこれ以上迷惑をかけないために、出ていこうと思っていて……。だって、あんなにリア様サラ様やシレラさん達や皆さんから励ましていただいたのに……私は……! ぅぅぅ……ぅぇっ……ぐずっ……」

 

 

全部…本当に全部…話しました……。リダさんオネカさんもご存知な今日のレッスンのことから、帰り道のこと……お二方と別れてからの寮での出来事、waRosやシレラさん達からいただいた鼓舞……そしてお菓子を失くしてからの顛末、記者さんや警備員さんやゲンさんスタッフさん、プロデューサーさん方から盗み聞きしてしまったことについても……。

 

 

そうやってひとつひとつ話していましたら……また自分の無能さが嫌になって……呆れて情けなくて恨めしくて責めるとこしかなくて悲しくて苦しくて申し訳なくてぇ……! せっかく拭っていただいた……のに……また……涙が……溢れてきてぇ……っひぅ…。

 

 

「辛い中、最後まで聞かせてくれて有難う。ここまでよく頑張ったね」

「やっぱりベルちゃんは強い子よ~。は~い、ち~ん♪ そうそう~」

 

 

またお二方が撫でてくださって……涙を拭いてくださって……鼻までぇ……。ぁぅ……結局私、甘えてしまっています……。姿勢こそさっきのベッドでのようにはならないように…オネカさんに抱かれてリダさんに見守られるような形にはならないように辞退しましたけど……。三人でロッカーを背にして座る形に落ち着きましたけど……。

 

 

それでもお二方は私の両側から離れてくださらなくて……拒み切れなくて……。足を抱えて座る私に身を寄せて密着してくださって……その温かさがちょっと有難くて……。だから、全て話してしまって…話せてしまって……。こんな甘えてしまって、変な話を聞かせてしまって、お二方共幻滅なされて……――。

 

 

「ううん、寧ろ逆さ。キミの激動の一日に心揺さぶられてしまったよ」

「ね~。そんな大変な思い抱えてたなんて~。もっとよしよしさせて~」

 

 

はぅ…。また心をお読みに…いえ察しになってきて……またそうやって私を守ってくださって……。そんなことをしていただいても…私は……私は……!

 

 

「今日のことは全部お話しました……。私を捕まえてください……追い出してください……!」

 

 

改めてお二方にお願いをします。罪は充分なはずです。アイドルの皆さんの足を引っ張って、スタッフさんの仕事の邪魔をして、寮のルールを守らず抜け出して、プロデューサーさん方の重要な会話も盗み聞きして…!!

 

 

だから……今が最大のチャンスなんです。ずっとぐずぐずしていて夢を諦めることが出来なくて周りに迷惑ばかりかけていた私が、正当に追放してもらえる絶好の機会なんです。リダさんオネカさんにそのお役目を託してしまうのは申し訳ないですが……本当なら一人で勝手に消え去るべきなんですが……。

 

 

「――うん、始めようか」

「覚悟してね~…!」

 

 

お二方共…! こんな時にまで私、お二方に甘えてしまって……。お二方は最後まで、私の我儘を聞き届けてくださって……。どうか許してください……もうこれ以上お二方に…とっても優しくて大好きなお二方に迷惑をかけず、何処かで生きていきますから……っ! 

 

 

息を吸い、目をつむって執行を待ちます……。……これで、良いんです。アイドルになるだなんて夢は、私にはやっぱり相応しくなくて。アイドルの方々に余計に心配をかける前に、お二方に処分してもらった方が……お二方になら、私は――。

 

 

 

「「ぎゅ~~~~うっ☆♪」」

 

「ふぇ…? ふええっ!?!?」

 

 

 

な、な、な、なひあっ!? な、な、な、なんで、なんでですかっ!?!? なんでリダさんもオネカさんも、私にぎゅうっとハグをしていらっしゃるんですか!?

 

 

それも私が動けないぐらい強くて、なのに絶対お仕置きとか追放とかじゃないってわかってしまう優しいハグを……捕まえてくださるんじゃ…追い出してくださるんじゃ!? 私のお願いを聞いてくださったんじゃ!? 

 

 

「ハハッ! 想いは聞き届けたけど、願いは聞き届けていないかな☆」

「ううんリダ、お願い通りよ~。だってこうして捕まえてるもの~♪」

 

 

私を捕まえた(?)ままクスクス笑い合うお二方! い、いえあの!? 私がしていただきたかったのはこういうことではなくてひゃんっ!?

 

 

「なら次はベルを追い出さないとだね。この胸の中の――」

「不安だらけなベルちゃんの一面を、うち達と一緒にね~♪」

 

 

ぎゅうっとしたまま、耳に、胸に、背中に…声で、指で、くりくりと……! も、もう! だ、だからそういうことではなくて!! それは詭弁で――!

 

 

「そうさ詭弁さ。だってボク達、キミと離れ離れになりたくないんだ。キミがアイドルになる姿を見られないなんて嫌なんだ。キミの友達でファンなんだから」

 

「だから~うち達の匙加減でお願いを有耶無耶にしちゃった~☆ いなくなってほしくないし、諦めてほしくないから~。んふふ~…幻滅、しちゃった~…?」

 

「それは…! してませんけど…!」

 

 

予想とは全く違ったことをされて驚きこそしてますけれど、幻滅なんて…! ……心の何処か隅っこでは少しほっとしてる自分もいますし……。

 

 

「「良かったぁ…!」」

 

 

…へ? お、お二方共安堵したように、更に私へ身を寄せるように…? そういえばさっきも、ミミックの皆さんを嫌わないかどうかのお話でもこんな感じになったような……。そう思ってますと、リダさんオネカさんはもはや私へ身を預けるようになされて。

 

 

「ごめんよ、実はボク達も不安だったんだ。キミを幻滅させちゃわないかって」

 

「え…!?」

 

「さらっと聞いたけどドキドキだったのよ~。ほっとして気が抜けちゃった~」

 

 

お、仰っている内容にもですけど……お二方の滅多に見られない何処かしおらしい雰囲気にドギマギしてしまって……! それで狼狽してしまっていますと、リダさんオネカさんは私へこつんと頭を合わせてきて。

 

 

「……懺悔するよ。最初からキミのその『お願い』を受け入れる気はなかったんだ。けれどすぐに拒否してしまったらキミは救いを失いそうで、事情や心の内を何も打ち明けてくれなさそうで。だから少しズルをさせて貰ったんだ」

 

「ベルちゃんに甘えちゃった~。でも、本当に嫌よ~……ベルちゃんがいなくなるなんて、夢を捨てちゃうだなんて~。ライブを見てきた後のキラキラで、レッスンを受けてる時の真剣そのものな姿が見れなくなるなんて~……」

 

 

何処かの誰かにこっそり打ち明けるように、けれど私へ包み隠さずまっすぐ伝えるように。そんなお二方の口調からは、私のお願いに心を砕いてくださったことがひしひしと伝わってきます……。ぅぅ…厄介ごとをお願いしてしまいましたから、やっぱり迷惑に……――。

 

 

「ううん、ベル。ボク達は迷惑だなんて思っていないさ。それどころか今までキミと一緒にいて、迷惑だなんて思ったことはただの一度もないと断言するよ!」

 

「今日もそうよ~。今も、ライブ中も、レッスン中も、帰り道で一緒に歌ったのも、二人で抱っこして貰ったのも、んふふ~揃って転んじゃったのも、ぜ~んぶ楽しかった思い出よ~♪」

 

 

キュッと唇を噛む私へ、またお二方はそうやって……! そんな訳、絶対に無いですのに! あれだけのことを今までしてしまったのに一度も迷惑に思っていないなんて、全部楽しかっただなんて……!

 

 

「フフッ、それがあるんだよ。だってそれはボク達の判断、ボク達の感想、ボク達の匙加減なんだから」

 

 

へ…? リダさん……? 私と頭をくっつけたまま、フェザータッチで私の頬を、下唇を、肩を、胸をそっと……。

 

 

「ベルに、ベルの話に、ベルの行動に、ベルの心に、幻滅するかどうかはボク達が…受け取る側が決めることなんだよ、ベル。キミがボク達に幻滅しなかったのと同じようにね」

 

 

私がリダさんオネカさんに思っていたことと……同じ……? 私とお二方が……同じ…? い、いえでもそんなことは……だってリダさんオネカさんには幻滅する要素自体がなくて、いつでも信用できていつも憧れていて……ひゃわ…!

 

 

「そして逆もそうなのよ~。うち達もベルちゃんを幻滅させないか不安になりながら、けれどなんとか本音を伝えなきゃ~と頑張っていたの~。ベルちゃんと一緒でね~」

 

 

オネカさんが私の手を取り、同じく私にくっつけていたご自身の顔へと運び、頬を、唇を、肩を…胸に至っては自ら近づけてまで触れさせてきて!? で、でもお二方には表情とかから内心を読むような能力が……。

 

 

「ん~ん…。察してみた心が本当の気持ちなのか、奥底ではどう思っているかまではわからないのよ~……。それに~活かせるかはまた別問題だし~……」

 

 

オネカさんは取ったままの私の手の甲へおでこを寄せて、リダさんも頭を委ねてくださったまま目を瞑られて……。まるで、触れることで体を通じてなんとかして心を探ろうとするように……真剣そのもので、本気で知ろうとしていて……。

 

 

ミミックさんは本当に考えを見抜いている訳じゃなく、あくまで不意打ちのための洞察力を応用しているだけとお二方は仰っていました。それでもとんでもなく凄いことだと思いますけど……それなりの悩みがあるみたいです。

 

 

100%正解な保証なんてなくて、経験から推測することしかできなくて、当たっていたとしても望む心境へと導けるかは違う話で……。なのに多少は心の内がわかっちゃう以上、常に正しいのかが不安で、言葉や行動を選ばなくてはいけなくて、少し大変で――……。

 

 

お二方のそんな思いが、手から、頭から、密着している肩や腕や脚から伝わってくるようで……。あ、いえ、もし私が同じ能力を持っていたらそう思うかもという妄想を勝手に当てはめてしまっているだけなんでしょうけど…!!

 

 

それでもなんだか、なんといいますか……他人事に感じられなくて、お二方の不安を出来る限り拭ってさしあげたくて。そのまま熱を受け入れてますと、リダさんオネカさんは不意に揃ってどこか気恥ずかしそうに顔をあげて、でも何故だか嬉しそうに微笑まれて。

 

 

「ね、ベル。キミがあれだけ褒めてくれた能力を以てしても、ボク達はキミと一緒の悩みを抱えちゃっているんだ」

 

「まさに『ベルちゃんが褒めてくれるうち達(ミミック)ですら、ベルちゃんと同じ悩みを持って足掻いている』ね~」

 

 

…! 私と、一緒の悩み……! 私と…お二方が同じ……! ってオネカさんのその台詞、もしかしてリア様の!? 私と同じ悩みを持っていると励ましてくださったリダ様のオマージュじゃ!?  

 

 

思わずハッとなってしまっていると、お二方はクスリと笑って背を起こし、前に身を傾けて…! リダさんは肘杖でクールに、オネカさんは私の手を両手で挟んで、私の顔を両側から見つめて――!

 

 

「だから、一緒に救われようよ。ボク達とキミ、同じ立場な者同士。皆からの称賛を、感想を、反芻しあって心救われようじゃないか☆」

 

「そして分け合いましょう~♪ 悩みを、幸せを、美味しいケーキみたいにお裾分けして味わって味を占めて~浸りましょ~♪」

 

 

リア様サラ様の、そしてシレラさん達の励ましを想起させるような台詞をっ! 今こそ実践の時だと手を引き背を押すように!! そうです……そうしなきゃ、いけないんです! 

 

 

輝くアイドルの皆さんからあんなに素晴らしいアドバイスを受けたんです。胸が破裂しそうになるぐらいに感動したんです。宣言したんです、その金言を夢心地を勇気を胸に、アイドルになるために邁進するって!

 

 

だから、従いませんと……! リア様サラ様シレラさんニュカさんルキさん皆さんの期待通りに……リダさんオネカさんのお力を借りて、そのアドバイスを実践しませんと……! 今こそ……今度こそ…………!

 

 

まずは……深呼吸して……! 頭の中を整理してから……弱い自分を……追い出してから……っ…………。大丈夫……今はリダさんオネカさんがいるから……一緒に分け合って救われてくれるから……私だけじゃ…ないから……!

 

 

だから、さっきまでみたいに怖がる必要はなくて……! 全ての方々の…アイドルの皆さんの警備員さんのスタッフさんのプロデューサーさんの感想を、好きな時に好きなものを反芻して味を占めてよくて……っ……ぅ……。

 

 

…………あれだけの感想を頂いたのに…直接や隠れて聞いてしまったというのに……私は、アドバイスを実践できていませんでした……。ううん……実は、あえて、()()()()()()んです……。

 

 

頭にこそ浮かびましたけど、実際にはできなくて、不安や申し訳なさで埋め尽くしてしまって……。そうならないように、その不安や申し訳なさを消すために教わったアドバイスですのに、酷いですよね……。でも…でも……!

 

 

実践してしまったら……その先に待っているのは――。それで成功するならまだしも、もしそれで――……!

 

 

 

「――怖いんだね。幻滅()()()ことが、失敗して迷惑をかけて()()()()ことが。それで今の幸せが消えてしまうかもしれないことが」

 

 

「だから難しいのよね~アドバイス通りにやることが~。上手くできなかったら幻滅されるし傷つきあっちゃうって思って、動けないのよね~」

 

 

 

「ッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今……今の……リダさんオネカさんのお言葉……! わ、私思わず息をカヒュッと音を出して吸い込んでしまって……なのに、吐き出せ…なくて……! 胸が突かれたような感覚に陥ってしまって……ううん、そんな生半可なものじゃなくて!! 

 

 

例えるなら……複雑なダンジョンの奥の奥の最奥にある、何重もの壁や罠で覆って隠していたはずの、自分でも何なのかわからなくなっていた秘密を、ミミックであるお二方にすっと見つけられたかのような感じで!! 

 

 

だから目を見開くしかなくて、目から鱗が落ちる気がして、全身を刃で切られたかのような痛みと爆発魔法の直撃を受けたかのような衝撃が走って、胸の中から取り出して貰ったそれを、私は見つめるしかなくて!

 

 

「そう……かもしれません……。っ……ううん…そうなんです……! 私はだから、だから…いつもそうなんです……そうなってしまうんですっ!!」

 

 

皆さんからのアドバイス……教えと言うべき金言の数々にはどれも本当に感銘を受けていて、実践するべきだと頭ではわかっているんです。けれど……全く教え通りにはできていないって自覚もあって、それこそさっきまでの深夜徘徊の時もで。

 

 

色々な人がアイドルについて、時には私についての感想をお話されていました。なら私はリア様サラ様の教え通りに反芻して味を占めて気分をアゲるべきだったんです……。けれど実際に反芻していたのは……頭の中で響き渡っていたのは、自分の悪いところばかりで……リダさんオネカさんに見つかる前までは特に……。

 

 

だって……それが一番楽なんです……自分だけで終わるんです……。でも、もし、皆さんの教えを使ってしまえば……その……重荷になってしまって……責任がのしかかってきてしまって……!

 

 

だって……だって! もしアドバイスの数々を実践して失敗してしまったら、至言を汚してしまったら、教えてくださった皆さんの顔に泥を塗ってしまうことになって、そして……――。

 

 

 

「怖いんです……教えられた通りに出来なかったら、良い結果にならなかったら、アドバイスは無駄だったと幻滅されて、アイドルの皆さんに見限られてしまうかもしれなくて……! そうしたら…そうしたら……ひぐっ……やっと幸せを見つけたのに……憧れを見つけられたのに!」

 

 

 

あぁ……また…です……。ようやく吐き出せた息と心に巻き付いて、また涙が……。抑えなきゃ……飲み込まなきゃ――

 

 

「――いいんだよ、全部吐き出して」

「うち達が最後まで受け止めるよ~」

 

 

っ……!? リダさんオネカさん、だ、駄目です……! またそうやってぎゅうってしたら……さっきよりも強くハグされてしまったら……駄目…駄目……! 全部出てしまって、止められな――……!

 

 

 

「失いたく……ないんですっ……! もう何もなかった陰に戻りたくないんですっ! 皆さんに嫌われちゃったら……キラキラに見捨てられちゃったら……もう……私は……! ぅぷっ……ぅぇっ……」

 

 

 

ぁぅ……また……えずいてしまいました……。アイドルの皆さんに、希望に見放される想像をしてしまって……。リダさんオネカさんの温かさがなかったら、全身を優しく擦ってくださらなかったら本当に吐いていたかもしれません……。有難うございます……。

 

 

……嫌なんです…。そんな言葉で済まない程に嫌なんです……。ただでさえ魅力のない私が、陰の存在の私が…今ある幸せを、ようやく見つけた幸せを、幸運にも賜った幸せを、アイドルから頂く幸せを、失うのが怖くて……嫌なんです……。

 

 

だってその幸せは初めて魅了された至高のお宝で、唯一の希望で、尊敬していて、キラキラの憧れで……。だから毎日のように朝から晩までライブに参戦させていただいて、輝き続けている皆さんに私の陰を塗り潰していただいていて……。

 

 

そして少しでもそんな輝きに浸れるように……夜ごと闇と共に戻ってくる陰を、弱い自分をどうにかするために……勝手にアイドルに身をやつすような真似を、ダンスや歌を一人で反芻していたんです……。幸せを出来る限り継続させて、無理やり一日を終わらせていたんです……。

 

 

だから……だからぁ…!! そんな希望の存在に嫌われたくなくて、幻滅されたくなくて、見捨てられたくなくて、見限られたくなくて、少しでも迷惑をかけたくなくてっ! もしそうなってしまったら、何もかもが閉ざされてしまって、何もかもが真っ暗なままになって……視界が歪んで……ぅぁ……。

 

 

……ですから、アイドル(希望)のアドバイスを実行できなかったんです……。下手に用いて失敗して最悪のぎくしゃくになるより、今のままの方が何倍も何倍も幸せですから……。

 

 

…………逃げようとしていたのも、アイドルになるのを辞めようとしていたのも同じ理由なんです……。今逃げれば、少なくともアイドルの皆さんの心には『努力はしていたベル』が残りますから……。嫌われるよりも何倍も何倍もマシですから……あはは…あははは……。

 

 

「――でも、それが最高の幸せではないだろう?」

 

 

…っ! リダさん……それは………………そう……ですけど……! それが理想じゃないのは私でもわかってますけど! でも、でもっ……今以上の幸せなんて、私じゃ無理で……!

 

 

「気負い過ぎさ、ベル。心の読めるボク達が保証してあげよう! アドバイス通りに行動して失敗しても絶対誰も咎めないし、それどころかそのチャレンジ精神を称賛してくれるよ!」

 

 

なんて、能力の秘密を明かした今となっては弱いかな。と少し自虐的に笑うリダさん…! そんなことはないです! だって今もお二方は私の心をこれ以上なく正確に捉えてくださってますし!

 

 

ただ……それでも……その…………不安なんです……。お二方の保証があったとしても、もしものことを考えてしまうと……。

 

 

「んふふ~。うち達が見る限り、その『もしも』は絶対起きないと思うよ~」

 

 

へ……オネカさん…? 私をぽんぽんと撫でながら自信満々な微笑みを…!

 

 

「だって皆、うち達と同じでベルちゃんに幻滅したことなんてただの一度もないもの~♪ うち達の能力が確かならね~」

 

 

え、えと…能力は間違いなく確かだとは思いますけれど……。って、リダさんもその通りと言うように頷かれてます!?

 

 

「多分さっきまでもそうよ~。うち達は見てないけれど、お話を聞いただけで手に取るようにわかっちゃった~♡もう一度思い返してみて~寮での皆の表情を~」

 

 

皆さんの……。言われるがままに、寮の様子を思い返してみます……。ライブ映像を見て、ご飯食べて、アドバイスをしてくださって――その時の皆さんのお顔を……。

 

 

「皆、ベルちゃんがどれだけ挫けても笑顔で迎えてくれたはずよ~。リアなんか、ベルちゃんが途中で挫けかけちゃっても最後まで諦めずにアドバイスしてくれたんでしょ~?」

 

 

それは…! そう……かもしれませんけど……。全員で褒めてくださった時も皆さん笑顔でしたし、リア様には途中で歯噛みさせてしまって、なのに最後まで……。

 

 

「皆がもしベルちゃんのことを嫌いになりかけていたら~そんな褒めないし、アドバイスなんて止めてたし、約束もしてくれなかったし、お菓子も気前よく分けてくれなかったはずじゃない~?」

 

「ぁぅ……た、確かに……。――で、でも! 失敗して一気に嫌われてしまうって考えたら……!」

 

「んふふ~それこそ大丈夫よ~♪ だってベルちゃんが失敗しちゃっても皆、よく頑張ったって褒めてくれたじゃない~♪」

 

 

ふぇっ……? それって……? つい首を傾げてしまっていましたら、オネカさんは『思い出させてごめんね』という思いを顔に含ませるようにして、明かして――。

 

 

「今日の実践レッスンよ~♪ み~んな、拍手を送ってくれたでしょ~?」

 

「えっ……あっ……!」

 

 

そうです…! あの時、私盛大に歌を失敗して…! オネカさんに助けられてなんとか歌いきったら、皆さん拍手をくださいました…! でもあれはマナーと言いますか、ただの流れで……。

 

 

「いいや? ボク達の目にはそうは見えなかったね。あの拍手は純粋な、努力したキミへの声援だったさ!」

 

 

ひゃっ…オネカさんからそっと顔を外した先に、リダさんが…! そうでした、あの時リダさんも見ていたんでした…! いえ、リダさんだけでなく――!

 

 

「リアサラだってそうだよ。ボクの中で頑張れって手に汗握っていたんだから。最後まで歌いきった時なんて、段取り無視してボクを押しのけて飛び出していきそうだったんだ!」

 

「そして~ネルっさんもよ~♪ 姿隠しながらあの方、立ち上がってまでベルちゃんを応援してたんだから~♪ 拍手も音を消してなかったら、誰よりも応援の声が大きかったはずよ~」

 

 

えぇえ…!? 俄かには信じがたいですけれど……実際にリア様サラ様を自分の中に仕舞っていて、唯一ネルサ様の観覧に気づかれていたお二方がそう仰るのであれば……そうなのかも……ふひゅっ!?

 

 

「そんな失敗しちゃっても、皆はベルのことを嫌わなかったんだ。ベルが思っているより、皆の心は深いし、楽しんでいるんだ。ボクやオネカと一緒でね」

 

「だから~アドバイス通りにやれなかった程度で嫌うだなんて絶対ないのよ~。それどころか~ベルちゃんにもっとマッチしたアドバイスを考えてくれるかも~♪」

 

 

み、みみみ、耳元でお二方共ぉ…!? の、脳に直に響くような声で、まんべんなく擦りこんでくるようでへぇ…!?

 

 

「そう、それぐらい容易くやれる程には皆、キミのことが大好きなんだよ。さあ、反芻しよう。キミは誰も幻滅させていない。誰からも嫌われてない」

 

「ベルちゃんがアイドルになる姿を考えただけで胸が熱くなるし、身体の底からワクワクしてくるし、そりゃあもう――んふふ~♪ 応援するしかないのよ~♡」

 

 

それと同時にハグは更に密着し、まるで全身をきつく食い込むほどに縛り上げられているようでぇ……! もう自覚するまで逃がさないと言わんばかりで、脳どころか心臓や全身の骨の中までバチバチゾワゾワゾクゾクさせられてしまってぇ……!

 

 

「「せ~の☆」」

 

「わ、私はぁ…誰も幻滅させてなくてへぇ……誰からも嫌われてなくてへぇ……応援を、感想を味わって気分をアゲてへひゅぅぅ……!」

 

 

その上で反芻するように促されて、従うしかなくて……身体が動かせない分、自分で言った言葉が発散されずに自分の身体にじゅわじゅわじゅくじゅく染み込んでくるようでぇ……そのままバツンッて気を失いそうでぇ……! はひゅう…はひゅうぅぅう……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そ、それで、私は褒めることが上手でぇ…アイドルになれてぇ…もっと上を目指せてぇ…ひぃぅぃぅう…!」

 

「そう、その通りさ☆ キミはもっと成長出来るし、強くなれるとも!」

「良い子良い子優しい子~~とっても可愛い子~♪ よく頑張ったね~♡」

 

 

更にアイドルの皆さんやプロデューサーさん方からの感想まで反芻させられて、ようやく火照るようなハグと脳の痺れる囁きから解放されましたぁ……。なんだか息が上がってしまって、気分がフワフワしてしまってます……。

 

 

「フフッ☆ リア達のアドバイス、上手く実践出来たじゃないか!」

「んふふ~♪ 次からもうち達がお手伝いするからね~♪」

 

 

そんな私へ、リダさんオネカさんはまたなでなでを…! も、もう! すっごく恥ずかしかったんですから! 気を失わないようにするの、大変だったんですから!

 

 

――ですけど、それは口には出しません。だって、それより言いたいことがあるんです。そんな不満なんかどうでも良いぐらいに私、お二方に感銘を受けたんです!

 

 

「やっぱり凄いですお二方共……! 私の不安を一瞬で捉えてくださって、私の心を導いて助けてくださって……!」

 

 

本当に凄いと思うんです! あんな正確に私の心の奥底を言い当てて、逃げてしまわないように捕まえてくださって…! 

 

 

「普通なら心を見抜くのも捕獲するのも、戦い用の技なはずで。なのにお二方はそれをいとも容易く私のために作り替えて、当てはめてくださって……! それがとっても格好良くて綺麗で惚れ惚れしてしまって嬉しくて!」

 

「っいやいや、そんな大それたものじゃないからね…!」

「うち達も昔ちょっとね~…だから少し心得がというか~…♪」

 

 

あ、あれ? 何故だかお二方共急に声が小さくなって…まるで言葉を隠すような感じで、あまり聞き取れなくなってしまって…? お顔も少し離されてしまいました……失礼なことを言ってしまったんでしょうか…?

 

 

えとともあれ、お二方には本当に感謝しかありません! 厄介な方相手とは違って優しく捕まえてくださって、私に迷惑をかけられたことなんてないって仰ってくださるほどに懐が深くて、鮮やかな手練手管で励ましてくださって!

 

 

お二方だけじゃありません、さっきまで見守ってくれていたミミックさん達も! 皆さんあの手この手で私を守ってくれていて、陰の立役者で、立派で、物怖じしなくて、人懐っこくて、寄り添ってくれて、これがミミックさんなんだって、わかって――わかって、しまって…………。

 

 

 

「やっぱりミミックさんは、私じゃないんですね……」

 

 

 

 

 

 

 

「ベル…?」

「今~……」

 

「え……? あ、い、いえ! な、なんでもないです!!」

 

 

今、漏れてました!? 漏れてたみたいです!!? リダさんオネカさんに顔を覗きこまれてようやく気付きました、ちょっとした思いがポロっと口から出てしまったことに!

 

 

いえでも本当になんでもないんです!! ただ、心の端っこのちょっとした感情が、不意に、その……勝手な願望が、真実に当たって、弾き返されたと言いますか……ただの思い込みだったことがわかって、少し……寂しい……と、思っただけで……。

 

 

「ついでだよ、ベル。聞かせておくれ」

「悩みも幸せも、分け合いましょ~」

 

 

っ…! お二方共、また私へ身を寄せて、傾聴の姿勢に……。でもこれは私の悩みとかじゃなくて、勝手な妄想的なもので! それが事実とは違うって、解釈違いなんだってわかって、勝手に自滅して潰えただけで、お話するに値しない内容で――!

 

 

「水臭いじゃないか☆ボク達は同じ立場な者同士だよ?」

「案外シンパシー感じて、面白いことになるかも~♪」

 

「――っ!」

 

「っと…!? ごめんよ、気分を害しちゃったかな……」

「話せなくてもうち達は幻滅しないし嫌いにならないからね~」

 

 

あ、いえ、違うんです! 今息を吸ってしまったのは嫌だからとかじゃなくて! 寧ろさっきの不安を言い当てられた時みたいな衝撃で、今の『同じ立場』『シンパシー』という言葉が、それで……っ――。

 

 

「その、くだらない妄想の話なんですけど……」

 

 

つい予防線を張ってしまうぐらい、話してしまうのが怖いです……。でも……お二方にはもう何も包み隠さずにお話したくて……甘えてしまいたくて、知って欲しくて……。心が明確に定まっていないのに、勝手に……。

 

 

「大道具倉庫で私、ミミックさんに親近感を抱いていたって言いましたけど……。それ、本当のことを言いますと……っ……もっと深くて重くて、皆さんにとってはきっと気持ち悪い感情なんです……」

 

 

ひとつひとつ言葉を紡ぐ度に、リダさんオネカさんの顔を窺いたい衝動にかられます……。けれど見たら何かが壊れそうな予感に苛まれてしまって……。だからただ俯いたまま、最後まで漏らすしか――。

 

 

 

「私……自分を勝手に、ミミックさんの()()みたいに…思っていたんです……」

 

 

 

 

 

 

っぁ……い、言ってしまいました…聞かせてしまいました、私のただの妄想を! しゃ、釈明しませんと!

 

 

「お、おかしな話だってのは勿論わかってまして……! 私は箱に入ってませんし、手とかを触手にすることも隙を突く動きとかもできませんし、狭い所に隠れるのも……。何一つ違いますのに…あはは……」

 

 

ハッと顔をあげ慌ててそう付け加えます! だ、だからこんな妄想話、お喋りに値しませんから、聞き流していただくか一笑に付して――ぇ……え……!?

 

 

お、お二方共……リダさんもオネカさんも、少し驚いた表情を端にお浮かべになりつつも笑い飛ばすことなく、息を呑むようにしながら……続きを聞きたいと促すように、そっと私の手に手をしゅるっと巻きかせてきて……!? え、えと……!

 

 

「み、ミミックさんのイメージって……あの……その…………ぁぅ……」

 

「――臆病で引っ込み思案で」

「隠れることしかできなくて~」

 

「そ、そこまでは!? っ……いえ…は…い……大体そうなんです……」

 

 

言葉にしにくかったところを代わりに口にしてくださって…! ですから私も、誤魔化さずに続けるべきで、続けたくて……!

 

 

「少なくとも私はそう思っていたんです……それが一般的なイメージだと信じこんでいたんです……。私みたいな性格の種族がこの世にはいるんだって……私の本当の仲間みたいだって……思ってしまっていて……」

 

 

本当、失礼極まりないんですけれど……本当の本当にそう思ってたんです…。ミミックさんの存在を始めて知った時からずっと心の何処かで想いを馳せていて、気になっていて、そうしたら――!

 

 

「皆さんが急にここに…コンサートダンジョンに現れるようになってまして、嬉しくなってしまって! 前以上にライブ参戦が楽しみになってきていたんです! そして、あのミミン様を見て……ミミックでも…私でもあんなに輝けるかもって…勝手に妄想してしまって……」

 

 

だから、ネルサ様のスカウトを承諾してしまって……。普段の私なら断っていたと思うんです。けれどアイドルの陽に、ミミックさんの陰に、そしてM(ミミン)A(アスト)の希望にくらっと惹かれてしまって、気づいたらこのダンジョンの一員になってしまっていたんです。でも、でも――!!

 

 

「でもここで暮らすようになってから、ミミックさんの性格が全く違うってことがわかって! ミミックの皆さんは誰もが元気いっぱいで、陽キャで!! 全然臆病してなくて引っ込み思案なんかじゃなくて、潜伏を活用するプロの仕事人で、ピカピカ輝いていて!!! ……私とは違うってわかってしまって」

 

 

そう、真実は違ったんです……。このダンジョンで見かけるどのミミックさんもイメージとは違い、陰な要素なんて全く無かったんです……。隠れることも私とは比べ物にならないという現実も、さっき向き合わされたんです……。

 

 

あの深夜徘徊中の私なりの本気の潜伏は、本職である皆さんには全てお見通しで。それはとっても嬉しかったんです。私は孤独じゃない、道端の塵みたいな誰からも無視される存在じゃないって言われてるみたいで、心の底から嬉しかったんです。……でも…。

 

 

それと同時に……私とミミックさんじゃ質が違うとわからされてしまったんです……。あれだけ同じ立場の、同族のように思っていたミミックさんが、私なんかよりもずっとずっとずっと格上の存在だったとわかってしまって……それが、寂しくて…………。

 

 

「っあははは……ごめんなさい……気持ち悪いことを言ってしまって……。幻滅なさってくださ――」

 

 

本当、なんで言っちゃったんでしょうね私は……。こんなこと聞かされてもリダさんもオネカさんも迷惑に決まってますの――。

 

 

「フフ……フフッ、フフフッ!」

「あらあら~♡ んふふふ~♡」

 

 

にゃっ!? え、え、えぇっ!? お、お二方共!? なんでお笑いに!? 顔を背けたり手で隠すようになされて、肩をわなわなと震わせてまで!!?

 

 

い、いえこれが嘲笑だったならわかるんです!! くだらない話でしたし! で、ですけどこの笑い方はそうじゃなくて…まるで喜びや嬉しさが抑えきれなくて漏れ出しているような、それこそ親愛の籠った笑い方で――!

 

 

「うん、うん! やっぱり、キミはボク達と同じだ!」

「ね~! 社長に励まされたとこまで一緒なんて~♡」

 

 

ひゃっ!? リダさんが弾けたように情熱的に、オネカさんが沿わせるように愛おしむように、また私の手をとってきて!!? ど、どういう!?!?!?

 

 

「おっと! フフッ、ごめんよ勝手に興奮してしまって。フフフ……でもなんというか、ね…! あぁ、気の利いた言葉が出てこないよ!」

 

「気持ち悪いなんて~全く逆なのよ~! 嬉しさとか懐かしさとかもう色々がじわぁっ~と! ね、本当にうち達ミミックと同族で良いの~?」

 

「え、は、はい…。ミミックさんと私は同じような存在だと思っていて、他人とは思えないと思っていて……だから多分私、リダさんオネカさんについ甘えてしまって……。でもそれは勘違……え、ええぇぇ……!?」

 

 

急いで訂正しようとしましたら、それ以前にリダさんもオネカさんも、その、歓喜が止まらないって感じで身をくねらせるようになされて!? あ、あの、それはどういう反応なんでしょうか!!?

 

 

「お、お二方共…!? ど、どうか落ち着いてください…!???」

 

「っと…! あぁどうか許してくれ…!」

「もう感極まっちゃってね~んふふ~♡」

 

 

思わず声をかけますと、ようやくお二方はハッと正気に戻られて……るんでしょうかこれは? 姿勢を戻しはすれども間違いなく色めき立っている様子のお二方は、どこから話そうか悩むようにされてから軽い咳払いの後に。

 

 

「まずは真実を語ろう。キミの、ううん、世間の印象通り、ボク達は本来陰キャラな性格さ。特に上位ミミックは99.9%そうだって言っても過言じゃないんだ」

 

「魔王軍に所属している子達だってそうなのよ~。そして~んふふ~☆このダンジョンにいるうち達み~んな、ご多分に漏れてないのよ~」

 

「へ!? え!? そ、そんな訳は!? だってお二方はこんなに!!」

 

 

サラッと語られた内容を私、信じられなくて! だってリダさんもオネカさんも、いいえお二方だけじゃありません! さっきまで護衛してくださっていた下位ミミックさんや、各所で見かけたり挨拶してくださるミミックさんは、誰も! 誰一人として陰キャじゃないんです、100%陽キャなんですよ!?

 

 

それなのになんでそんな真逆のことを……。もしかして私を励ますために嘘をついてくださって……? そんなことを考えてしまっていますと、お二方はクスクス微笑まれて。

 

 

「それが嘘じゃないんだよ。オネカ、今も持ってるかい?」

「勿論よ~♪ ベルちゃん、証拠見せてあげる~☆」

 

 

証拠って……わっ! オネカさんがまるで巻き取られていくロープみたいに、しゅるるっと宝箱の中へ戻られて!? そして少しの間カタカタコトコト箱が震えて……!

 

 

「じゃじゃ~あん、ア~ル~バ~ム~♡」

 

 

ひょこっと出てきました! 両手で持った可愛い装丁のアルバムを私へ見せるようにしながら…アルバム?

 

 

「んふふ~うち、皆の写真ちょこちょこ集めてたのよ~。ほら見てみて~♪」

 

 

横へと戻ってきたオネカさんは、そのアルバムの真ん中辺りを私の前で広げてみせて…あ、片側をリダさんが支えて…! 私も……ん、わぁ…!

 

 

「これ、リダさんですよね! 皆を率いて、訓練なさってます! 格好いい…!」

 

「汗だく姿でなんだか恥ずかしいね…!」

 

 

写真の一つに見つけたリダさんは、運動場のようなところで沢山の宝箱…もといミミックさん達の先頭に立って走っています! 後ろを軽やかに振り返って皆さんへ激励をしているその様子は、爽やかな汗がキラキラと輝いてて、見ているだけの私も力が湧いてきそうで!

 

 

「こっちはオネカさん! ふふっ…子守歌中なんですね…! 凄く包容力が…!」

 

「せがまれちゃってお昼寝タイムよ~…!」

 

 

つい声を潜めてしまったこの写真は、芝生の上に沢山の宝箱…もといミミックさん達がコロコロ寝転がってまして、その中央でオネカさんがお歌いになられてます! しかも撮影されている方に気づいて、指でしーっとしつつも、手招きとウインクと誘ってきていて。私も写真の中に引き寄せられそうで…!

 

 

「あっ! こっちにはミミン様にアスト様まで! 本当にお二方って会社やられているんですね……!」

 

「そうとも! だから今でも『社長』って呼んじゃうんだ」

「んふふ~♪ アストちゃんは既にアイドルだったかも~☆」

 

 

そしてその傍には、M&Aのお二方の姿まで! 机に向かい、沢山の書類を捌いていらっしゃいます…! ミミン様は白ワンピースでアスト様はスーツで、その姿もお顔も、ライブ中やこちらにいらっしゃった時とは全く違っていて痺れてしまって…! でもこの魅力は一部スタッフさんや私達だけの秘密で…!!

 

 

他にもドワーフの方々や空中に浮く調理道具さん達のお姿もありまして、どれもこれもとっても素敵で、ずっと見ていられちゃいます! けれど、どれもこれもやっぱりミミックの皆さんの陽キャぶりを裏付けるだけで――。

 

 

「でもベルちゃんに一番見てもらいたいのは~~こっちよ~♪」

 

「最初のページ、最も古い写真だね。さあ…ご覧あれ!」

 

 

一番古い写真を、ですか? 首を捻る間もなく、お二方によってアルバムはパラパラと戻されてゆき1ページ目に。そこには確かに、先程まで見ていたのよりも少し年季の入った写真が飾られていて……えっ?

 

 

「これ……えっと…………集合写真……です…か?」

 

 

あっ…結局首を捻ってしまいました…! い、いえ間違いなく集合写真なんだと思います……多分。えと、あの……迷ってしまったのには理由がありまして……。

 

 

背景に飾られている横断幕の文字的に、どうやら入社式での撮影のご様子で。最前列の真ん中にミミン様がにこやかに姿を出されていまして、その周りには沢山の宝箱が……その…『宝箱』が、並んでいるんです……。

 

 

い、いえ勿論わかってます! この沢山の宝箱も全部ミミックさんなんだって! でも……なんと言いますか……ぱっと見ではミミックさんだってわかりにくいんです。結構な方が身を仕舞い込まれていて、まさしく宝箱な姿なんです。

 

 

ですから集合写真と言うよりも……もはや倉庫の中みたいな、宝物庫の中みたいな写真に見えてしまいまして。

 

 

あっ、し、失礼ですよね! 身を仕舞い込んでると言いましても完全に蓋を閉じ切っている方はそこまでいませんし、しっかりお顔や姿を出している方もちらほらいらっしゃいます! ……ただ。

 

 

そのお顔や姿のわかるどの方々も……怖がっているというか、臆病そうというか、陰キャというか……総じてビクビクしてらっしゃるのが手に取るように窺えます。さっきまで見ていた写真のミミックさんとは似ても似つかないぐらいに。これって……。

 

 

「懐かしいね。あれから何年経ったっけ」

「アストちゃんはまだいなかったわね~」

 

 

不意に聞こえてきた声にそっと顔を動かしますと、リダさんもオネカさんも集合写真を見つめていました。その注がれている視線には追憶が詰まっていて、けれどそれは決して郷愁とか偲ぶとかの類ではなくて――。

 

 

「っと、フフッ…! ベル、これを見てどう思ってくれたかな?」

「んふふふ~…! ここに写っているミミック、どんな感じ~?」

 

 

私が見ていたことに気づき、お二方はこそばゆそうにしつつもそんな問いかけを。それは……。

 

 

「……よく耳にしてましたミミックさんのイメージ通りで…。私が親近感を覚えた、同族かもって思ったミミックさんで……」

 

 

ぁぅ……思っていたことを正直に言ってしまいました。先程お二方が仰っていた通りミミックさんの性格は世間一般のイメージと一緒で、ミミン様の元にもそういう方々ばかりで……え、じゃ、じゃあ――!?

 

 

「気づいたかな! そうさ、これがボクだよ☆」

「んっふっふ~! こっちがうちなのよ~♡」

 

 

はっ!? えっ!?!!? リダさん!? オネカさん!? 何処を指さして…写真を指さして……ええっ、ええええええええっっっ!?!?!?!?

 

 

「実はボクはオネカの同期でね」

「だから一緒に写ってるのよ~」

 

 

いえそこは今は気にならなくて!! それよりも驚きが勝ってまして!!!! だ、だって!!! 今お二方がご自身だって指さしたのは、その集合写真の中のミミックさんで!! 

 

 

それもご多分に漏れず、怖がっているというか、臆病そうというか、陰キャそうというかビクビクしていらっしゃる、今の私そっくりのミミックさんで!!!!!

 

 

えっ、えっ、えっ、えっ、えええっ!? 俄かには信じられなくて、その写真のミミックさんを見てリダさんを見てもう一度写真のミミックさんを見て今度はオネカさんを見てまた写真のミミックさんを見てもう一度リダさんをオネカさんをっ……あ、た、確かに面影が……! え、でも、え、え、えぇぇ……!?

 

 

「ね? ボク達はキミの同族だったろう?」

「そっくりでしょ~過去のうち達~♪」

 

 

目が回りそうな私をそっと支えてくださりながら、お二方はクスクスと微笑まれて…! え、え、え、あ、あの、あの、あのぉ……!?

 

 

「――これが真相なのさ。ボク達は元々、キミみたいに自信のない性格をしていたんだ。だからね……フフッ…! ボク達もキミには親近感…いいや、それを超えた想いを抱いていたんだよ。キミと同じ、ね」

 

「けど~ミミックって世間じゃ良いイメージはないでしょ~? だからうち達からそう思われるのは迷惑かも~って胸の奥に仕舞っていたのよ~。でもそうしたら~んふふふ~♡ まさかベルちゃんから~♡」

 

 

わ、私へ……私と同じ想いを…私と同じような理由で秘められていて…!!? そ、そんな訳ない……と手前勝手に頭を振ることはできなくて、リダさんとオネカさんの目が、顔が、手が、全てがそうさせてくれなくて! 

 

 

その自らの心の底を覗かせるような澄んだ瞳が、裸の自分を惜しげもなく差し出すような解けた表情が、なのにほんのほんの僅かに震える手が…受け入れて貰えるかを不安がるような緊張するような手が――!

 

 

でもそれを凌ぐ覚悟と尊さの域の喜びが渦巻いているのを抑え、普段通りのクールさや包容力を保っているそのお姿が、なのに――なのに何故か感じてしまう親近感が……私と同じような、かつてのお二方のような弱い姿が幻影のように垣間見えるお二方の姿が、嘘じゃないと叫んでいて!!

 

 

「ど、どういうことですかぁ……!? なんでこんなに変わって……!?」

 

 

だからもう、それしか言えなくて! 真実だって理解してしまった以上、お二方の別人と呼べるほど変貌ぶりに結局目が回ってしまって! そんな私をお二方は軽く撫でてくださって…!

 

 

「勇気を出したから、さ。一念発起して募集に、社長の誘いに飛び込んだんだ」

「一歩踏み出すのはとっても怖かったけど~気持ちに正直になったのよ~」

 

 

勇気を出して、一歩踏み出して……。ミミン様の元なら変われると信じて一念発起して、変わりたい気持ちに正直になって……。流れるように仰いましたけど、それはとってもとっても……。

 

 

「凄いですお二方共、私にはそんなことは……」

 

 

とってもとっても難しくて、怖くて、実行できるのは凄い事だと思うんです。だから私には無理で……――。

 

 

「おや? 何言ってるんだいベル。キミだって全く同じじゃないか☆」

「ベルちゃんも勇気を振り絞って、ネルっさんの誘いに飛び込んだでしょ~♪」

 

 

「っ! そ、それは……!」

 

 

そう…………です、けどぉ……。でも私のは一時の気の迷いみたいなもので、結局飛び込んだ後に大成できなければ何一つ意味が無くて! でも私はお二方と違って大成できるような存在じゃないですから、期待してくださった皆さんに迷惑しか……――。

 

 

「フフッ…! あぁ本当、愛おし過ぎておかしくなりそうだよ♪」

「ね~♡ 他人とは思えなくて、一緒に宝箱に入りたいぐらいよ~♡」

 

 

んひゃっ!? リダさんオネカさん!? ま、またハグを!? で、でもこれ、ひゃうんっ、さっきまでのとは全く違う感じのハグで、ふにゃっ、いや苛烈すぎませんか!?!?

 

 

キュンキュンが止まらない感じといいますか、もはやキスされそうなレベルのハグで!? 気恥ずかしくなって思わず逃げようとしますけど、やっぱり捕まっていてしかもミミックに捕らわれた人の気持ちがわかるぐらいの強さで! ……でも、その……嫌じゃ、なくて……!

 

 

「ボク達も入社して数年は今のベルみたいに自信がなくてね。心が壊れそうになったことも幾度あったことやら」

 

「辞めて逃げようと思っちゃったことも何度あったかしら~。その度に社長や皆から励まされて助けて貰ってね~」

 

 

ハグに身を委ねてしまった私へ、お二方は更に。リダさんオネカさんにもそういう過去があるなんてわからなくて…でも私を包むお二方の腕から、そっと触れさせて貰っているその温かさから、それがかつて歩んだ足跡なんだということがひしひしと伝わって来て……!

 

 

「ベル、ボク達とキミはそっくりだ。だからきっとボク達と同じ道を辿って、同じように成長できるはずさ!」

 

「うち達が社長に鍛えられたように、ベルちゃんはこれから皆に鍛えて貰って、なりたい自分になれるのよ~♪」

 

 

リダさんオネカさん…! お二方の腕に触れている私の手へ、裏からそっともう片手を重ねて来て……今の言葉を保証するように固く、されど優しく縛ってきて…! 私が、お二方と同じように立派に、なりたい自分に……。っで、でも……。

 

 

「私、お二方みたいに……ミミックさんみたいに立派じゃないんですよ……? 能力もないですし……」

 

 

あっ……ぁぅ……。また私は、変な予防線を……。いくら同族みたいに思えても実際は違うんですから、能力なんて無くて当然なのに――。

 

 

「おや? もしかして、自分の才に気づいてないのかい?」

「あらあら~♡ 能力までうち達とそっくりなのに~♪」

 

 

……へっ? リダさんオネカさん、何を仰って…? 思わず目をパチクリとさせてしまいますと、お二方はなら教えてあげようと言うように自信満々に…!?

 

 

「『心を読む能力』さ☆ 皆の顔色を見て、機微を感じ取って、内心を推測して。それ、皆に――ボク達相手にもやってみせてくれているじゃないか!」

 

「うち達の能力を褒めてくれたけど~ベルちゃんも全く同じの、持ってるのよ~♪ ほら普段を思い出してみて~~皆の心、読んでいるでしょ~?」

 

 

ハグを解除し、今度はそっと目を覆うように、今までを思い返すのを手伝うように手を当ててくださるお二方…! 私が、ミミックさんみたいに心を読んで……? そんなことは……そんな…ことは……。

 

 

「どうだい、心当たりあるだろう?」

「相手を慮るベルちゃんだもの~♡」

 

 

あ、あれは…! リア様サラ様やシレラさん達や皆さん、そしてリダさんオネカさんにやっているのは、そんな能力というほど立派なことじゃなくて! ただの……――。

 

 

「それに『隠れる能力』もあるじゃないか。さっきなんか、厳しい訓練を積んだボク達にしか気づかれていなかっただろう? 入社したてのボク達より何倍も上手いよ!」

 

「『隙を突く能力』もしっかりあるしね~♪ ほら~レッスン終わりに、リダをひょいっと抱え上げてアワアワさせちゃって~♡ リダの隙を突けるなんて、もはやプロの技よ~」

 

「ちょっ、オネカ!? それを持ち出すのは反則……もう…! でも、確かにあれはしてやられたね…! そうだ、『身体が柔らかい能力』も――」

 

 

あわわ、わわわっ…!? お二方共私を挟んで、私に有無を言わせないような怒涛の勢いで…!? た、確かにそれは全部ミミックさんの能力ですけど、私のはただの偶然で――。

 

 

「――ううん。ミミックなのさ、キミは」

 

「うち達と同じ、立派なミミックなのよ~♡」

 

 

ッ……! 私が……ミミック……。リダさんオネカさんと、皆さんと同じ、ミミック……。本当は臆病で引っ込み思案で、でも凄い能力はあって、頑張ればこんな立派になれる、ミミック…………。

 

 

い、いえ! それは言い過ぎで! い、いくらミミックに性格も能力も似ていたとしても、私が皆さんみたいになれる訳は――きゃっ…!

 

 

「まだ不安なんだね、新入りミミックちゃん。安心して、ボク達がついてるさ☆」

 

「先輩ミミックなうち達も、ベルちゃんを手取り足取り鍛えてあげるからね~♡」

 

 

リダさんに肩を抱かれて、オネカさんにお腹を抱かれて…!? そしていつの間にか、お二方の箱が私の足先を包んでいて……! これじゃまるで、私も――!

 

 

「さあ、一緒に箱に閉じこもろう。そしてたくさん話し合って、褒め合って、慰め合って、励まし合って、勇気を出して!」

 

「そうして一緒に影から光へ飛び出しちゃいましょ~♪ うち達はそれが出来るのよ~。だってうち達、ミミックなんだから~!」

 

 

っっっ! そのお言葉が、抱いてくださるリダさんオネカさんが、箱の中で交ざりあう私達が、心地よくて、嬉しくて、温かくてぇ……。あ…あれ……? ど、どうしましょう……ま、また目から……。

 

 

でも、さっきまでと違って……まるでお二方が注いでくださっている愛情が、溢れてきてるみたいでぇ……ぐすっ……有難うございます……こんな私を……大好きです、お二方共ぉ……――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、本当にこのままでいて良いんですか…? しかも靴も靴下も……」

 

「勿論だとも! フフ、お嫌かい?」

 

「いえ!? 寧ろお願いしたくて私もミミックになれたみたいで…! あと、お二方と足先まで一緒なのが嬉しくて楽しくて気持ち良くて、ずっとこうしてたいぐらいで……!」

 

「んふふ~ベルちゃん可愛すぎよ~♡ え~い♪」

 

「んひっ!? も、もうオネカさん!? 足を絡めてくすぐるのは…ふゃぁんっ!? り、リダさんまでぇ!?」

 

 

ロッカーに寄りかかったまま、それぞれの宝箱へ私の足先を入れてくださったまま、リダさんオネカさんはくっつき続けてくださって…。さっきの涙はすぐに止まりましたし、大丈夫なんですよ…?

 

 

それに……こうして足をお邪魔させてもらっていると、その分お二方が箱から身体を出す隙間が狭くなってしまって。リダさんもオネカさんもほぼ全身出しているとはいえ、窮屈になっていないか心配だったんですけど…。

 

 

お二方共それどころか、私の足を箱の縁から守るようにご自分の足を絡ませてくださってるんです。箱の中は暗くて見えないですけど、お二方の足先は多分触手みたいに自由自在になっていて、そのついでにすりすりと擦られてくすぐられちゃって……ひぁっ…!

 

 

しかも、靴も靴下も脱がされてしまってるんです…! 箱の中に土足を入れるのは確かにいけないことだと思ってされるがままにしていたんですが……脱いだ靴をお二方共出してくださらなくて、土足を咎めた訳じゃなくて私にリラックスさせるためみたいで、そ、そのせいで、くすぐりが指先までしゅりしゅりっひんっ!?!

 

 

「も、も、もうっっっ!!! 同時はダメですっ!!!」

 

「フフフッ!」

「んふふ~♪」

 

 

はぁ……はぁ……もう……お二方共悪戯好きなんですから……。でも、こうしてお二方から弄っていただけるとなんだか居心地が良くて、それこそ本当に後輩ミミックになったみたいで。苦楽を共にするミミックみたいで……。

 

 

あ、そうです! 共にするって話なのに、楽しい事も悲しい事も一緒に分け合うって約束なのに、私、貰ってばかりになってしまってます! 何か、何かお返ししませんと! えっとえっと――まむっ!?

 

 

「充分さ。だってボク達は既に、キミから沢山貰っているんだから」

 

「ベルちゃんとこうして悩みを打ち明け合えて、うち達幸せよ~♪」

 

 

リダさんが私の口を指で、オネカさんが私の両手を包むようにして、優しく抑えるように…! 沢山貰っている…!? 打ち明け合う…!? 私そんなことしてませんよ…!?

 

 

「いいや、キミから賜っているとも。その熱烈な視線と賛美を、ね」

 

 

ひゃっ…! リダさん、身を伸ばし上からの顎クイで私と見つめ合って…! 先程のままの全てを明かすような、けれど全てを知っているような艶めくウインクを…!

 

 

「キミは誰よりも見てくれている、ボク達の活躍を。ライブ中でも、急いでいる時でも、目を足を止めてまで。ボク達、気づいているんだよ?」

 

 

っそれは…た、確かに今日のライブの時や遅刻しそうな時も、つい見惚れてしまっていましたけど…!  なんでバレて…あっ、感知能力の高いミミックさんですし、気づかないはずがな――ひぁ…!

 

 

「そして賛美に至っては今しがたも。ボク達が陽キャラなんて…フフッ…! それは努力してきたボク達にとって、何よりの称賛さ!」

 

 

今はボクに集中して欲しいと頼むように、顎クイの指で首をなぞってくるリダさん…! って、それも称賛なんですか…!? 私がただ感じたことで、しかも勘違いでしたのに……!

 

 

「ハハッ☆可愛いねベルったら! そんなキミに…ミミックを好きといってくれたキミに、同族とまで言ってくれたキミに、こうして出会って頼って貰えて、本当ボク達は幸せ者だよ…! 甲斐があった…!」

 

 

気づけば顎クイは頬へと周り、宝物に触れるような手つきで撫でられて……!? あ、あのリダさん、私、そんな噛みしめるような熱っぽい視線を頂けるような存在じゃ…――。

 

 

「なのにね~。うち達、ベルちゃんに甘えてしまっているのよ~…」

 

 

へ? 今度は反対側からオネカさんが? リダさんはちょっとくすぐったそうに、されど全面同意するように笑いながら肩を竦めそっと手を頬から離して……ほわ…!?

 

 

それを引き継ぐように、反対の頬にオネカさんの手が柔らかく…! そのまま優しく振り向かされて……ふぇっ!? お、オネカさん!?

 

 

リダさんとは真逆に身を縮め下から……普段の甘えさせてくれる雰囲気とは違う、大人ぶるのを辞めて全力で甘えてくるような蕩けたお顔をなされています!? あ、あの…!?

 

 

「本当はね~うち達、ベルちゃんを華麗に説得して帰らせようとしてたのよ~。時間も遅いし、種明かししてサラッと励ましてとりあえずまた明日って~」

 

 

え……!? オネカさんの少しとろんと見つめてくる瞳もまた、さっきまでみたいに何一つ包み隠してなくて、そこに負い目が加わっていて……! いえ私が悪いのにそんな――むにゃぁ…!?

 

 

「でも気づいたら、うち達の能力も過去も内緒の想いも心の奥底全部打ち明けちゃって~。素敵には決められなくて、でもなんだかそれが良くて~んふふ~…♪」

 

 

お、オネカさん、ころんと私の膝の上に身体と頭を乗せて、両手で頬をムニムニしてきて…!? もしかしてあのお話の数々が、打ち明け合ったカウントなんですか…!? いえあれは私の悩みとは比べちゃいけないぐらい素晴らしくて、お二方共ずっととっても素敵で――ひにゃあっ!?

 

 

「ベルちゃんって本当にミミックたらしなのよ~。本来、ミミックは甘えん坊ではないのよ~? でもさっきの子達もうち達も、ベルちゃんには甘えたくなっちゃう、褒めて貰いたくなっちゃうの~…!」

 

 

ちょ、ちょおっオネカさん!? 私のお腹に抱き着いて顔を埋めて、照れたように叫んで!? え、えっと……よしよし、オネカさん良い子良い子いつも優しくて守ってくれて可愛くて素敵で美わわっ…!

 

 

つい流れで撫でてましたら、オネカさんは急に姿勢を戻されて、数秒私に目隠しをしてきて…!? 視界が開けた時にはオネカさんは普段通りの雰囲気を纏っていました。耳真っ赤ですけど……。

 

 

と、クスクス堪えるような笑い声が耳に入ってきましてを反対側を見ましたら…リダさんがようやく本音を露わにした、ようやく溜めていたものを解放したと言わんばかりに微笑まれてまして…! オネカさんにむぅっとにらまれ、コホンと咳払いをひとつ。

 

 

「どうだい? ボク達はキミからこれほどまでに愛を注いでもらってるんだ☆」

「だからお返しなんて必要ないのよ~。寧ろまだまだうち達から返させて~♪」

 

 

私そんな大それたことしてませんよ!? 今仰られたこと全部自覚ありませんし……いえどう思うかは皆さんの匙加減、御心次第ではあるんですけれど……!

 

 

でもその、私が満足できないんです! もっともっと、自分でわかるぐらいにはお返ししたいんです! ――と、リダさんオネカさんは顔を見合わせ、何か思いついたような表情をお浮かべになって…?

 

 

「――やっぱり、お返しを貰おうかな」

「うち達のお願い、聞いてくれる~?」

 

「っ! はい! はいっ!! なんでも仰ってくださいっ!!」

 

 

突然の方針転換に、勢いよく返事をしてしまいました…! でも、それが一番有難いです。お二方からのお願いであれば、確実なお返しになりますから! それで、そのお願いって一体……。

 

 

「キミの夢を、叶えて欲しい。挑み続けて欲しい」

「それ、うち達の夢であり望みでもあるんだから~♪」

 

「ふぇ……!?」

 

 

あ、あの……!? それって…それって……! 思わず息を呑む私へ、お二方は起こした身体を箱へ少し戻されて。私の肩を支えたまま、正面から向かい合うように――!

 

 

 

「「アイドルになって、ベル(ちゃん)!」」

 

 

 

はぅうっ!? や、やっぱり!!! で、でも、その……!

 

 

「それはお返しにはならないんじゃ……」

 

「そんなことはないさ! 宣言したろう、ボク達はキミのファンだって☆」

「大好きなベルちゃんがアイドルだなんて、嬉し過ぎて倒れちゃいそう~♪」

 

 

力強くぐいっと私に迫ってくるお二方…! そしてにこりと微笑みながら、それぞれの空いた片手で私の手に、指を絡ませて…!

 

 

「一緒にミミックしあうって約束したけど…キミが夢を諦めてしまったら、このダンジョンを去ってしまったら、その約束も果たせないんだ。そうなったらどちらも幸せにはなれないよ」

 

「でもアイドルになってくれたら~うち達は今まで通り…ううん、今まで以上にベルちゃんを警護してレッスンお手伝いをして~立派に輝かせて~。んふふ~うち達の夢よ~♪」

 

 

悪い未来を思い、寂しそうに縋るように。良い未来を思い、楽しそうに睦まじく。にぎにぎと指で指を食みながら、一切の不意打ち無しの正面突破のまま、リダさんオネカさんは、自らの夢を――!?

 

 

「ベル、キミには才がある。ミミックとしての、そしてアイドルとしての」

 

「だから社長やアストちゃんに続く、うち達のアイドルになって欲しいの~!」

 

 

そ、そんな!? 私に才なんてなくて、M&Aのような素晴らしいアイドルになりたいと思う事すらおこがましくて――ぁぅ……でも……。

 

 

先程見つけてくださってから今の今までずっと、リダさんオネカさんは私に夢を諦めさせないために、山ほどの言葉を尽くしてくださいました。そのためにこの時間はあったと言っても過言ではありません。だから――。

 

 

「が、頑張ります……っ! ご期待に沿えるかはわかりませんが……!」

 

 

その想いを無下にしないためにも、頷くべきで…! それに励ましていただいた分心が軽くて、首が動かしやすくて、ミミックさんと…お二方と一緒ならまだ進める気がするんです! ……ただ――。

 

 

「…………けど……その……」

 

「どうしたんだい?」

「なになに~?」

 

 

内心、今の今までずっと思っていたことがあって。例のことなんですけれど……。今、お二方のおかげでさっきまでとは…一人で煤にまみれていた時とは違う、何処かすっきりとした心持ちになれています。

 

 

だから今こそ、純粋にお伝えできるチャンスなんだと思います。なので勇気をもって、耳を傾けてくださっているお二方へ!

 

 

 

「私より、お二方がアイドルになった方が絶対に良いと思います…っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっとずっと、何度目かわからないぐらいに思っていたことを、改めて直接当人へとぶつけました! するとリダさんもオネカさんも目を軽くパチクリとさせて。

 

 

「ボク達が、かい? フフッ、また嬉しい事を言ってくれるね…!」

「そういえば帰り道でも勧めてくれたよね~。本気だったの~?」

 

「勿論本気です! 私も皆さんも、お二方はアイドルに向いているって本気で思ってるんです!」

 

 

今度は私がぐいぐい迫る番です! だって、それが最高なんですから! お二方共にミミックの才は当然ながら、アイドルの才に満ち溢れてるんです。現役アイドルすらも認めるぐらいの!

 

 

だからこそ、あのM&Aに続くアイドルなんて私よりもリダさんオネカさんの方が目指せるんです! しかも…お二方共にアイドルに乗り気だったはずです! その今日の帰り道に、私と――!

 

 

「うーん……実際、どうなのだろうね…?」

「うち達が、社長みたいなアイドルね~……」

 

 

……へ? え? あ、あれ? リダさん……オネカさん……? 先程までの私を励ましてくださった溌剌さと迷いの無さが消えて、考えあぐね悩まれるご表情に……いえ、それよりももっと悪くて…!

 

 

拒絶というほどではないですけれど……やんわりと辞退するような、避けるようなお顔で……! そんな…なんで…!?

 

 

「ダンスも歌も、あんなにお上手だったじゃないですか…!? それに愛嬌も、私とは比べ物にならないぐらいにあって、とても楽しくて、頼りになって、お二方がいるだけで明るくなれて!」

 

 

ギュウッと締め付けられてドクンドクン騒がしい心臓を悟られないように、出来るだけの平静を保ちながら……! 今日の実践レッスンでも道中でも、その才を遺憾なく発揮してましたのに……あんなにアイドルに乗り気でしたのに!

 

 

あの時私と一緒に歌った後、ネルサ様に自己推薦しようとまでしてくださったのに…私と一緒にアイドルをやっても良いって仰ってくださったのに! なんで……ぁ…。

 

 

お二方が同時に、私の髪へサラリと触れてきて……。でもそれは今までのとは違って謝るような触れ方で、そのお顔には申し訳なさそうな表情が浮かんでいて……。

 

 

「実を言うとね…全て模倣に過ぎないんだ。ダンスはリア達と一緒に踊った一流ダンサーの模倣をしただけ。それにリア達が乗ってくれただけなんだよ」

 

「歌もよ~。結局は素人のカラオケ上手、つまりは模倣だもの~。子守歌だけでアイドルはやれないでしょうし~夕方のはベルちゃんあってこそだもの~」

 

 

そう自虐的に語るお二方の姿は、どこか弱弱しくて。そこには今見せて貰ったアルバムのあの写真のような、かつてのお二方の怖がりが顔を覗かせているように見えて――……っ!

 

 

「ごめんね。ボク達は社長と違って、皆の模倣(mimic)が精々なんだ」

「でも~ミミックであってミミックじゃないベルちゃんなら、きっと~――」

 

 

「――そんなこと、ありませんッ!!」

 

 

 

本当に、今度は私の番でした。跳ね起きるように小さくしていた身を起こし、箱に入れさせていただいていた足を出して。膝立ちとなって、私からお二方の正面から向かい合うように!

 

 

私の急に発した大きな声と、相対するようにそびえた姿にリダさんオネカさんは驚き息を呑まれてます。完全に立場逆転したこの状況に恐縮ですけど…でも、こうでもしないと収まらないんです! 

 

 

「模倣なんかじゃありませんっ!! レッスンを盛り上げてくれたダンスも、一緒に奏でてくださった歌も、どれもこれも模倣なんかじゃなかったです!!」

 

 

再度、大きめの声を出してしまいます。お二方へ言い聞かせるように、勘違いを正すように。それぞれの手を抱き寄せて。

 

 

「あのダンスは箱に入っていることを加味した動きになっていました。箱で足捌きが少ない分、全身の動きで魅せていて、お二方独自のクールさや美しさが放たれていて! 断言できます。あんな動き、今までいっぱい見てきたどんなライブでも見たことはありません!!」

 

 

感想を口にしながら、抱いた指をこちらから食んで。足だけじゃ伝えられなかった熱を伝えるために、もっと、もっと。

 

 

「歌もそうです! お二方の歌声が誰かの模倣だなんて思えなくて! 一度聞いたら忘れられなくて、仮に姿を隠されていても聞けばお二方だってわかるぐらい唯一無二の魅力に溢れた歌声で! だからあれだけ皆を、アイドルもスタッフさんも感動させて! 私も楽しく歌えて、合わせられて!!」

 

 

真っ直ぐリダさんオネカさんの目を見つめながら、それぞれの手を更に力いっぱい抱き締め、胸越しに更に熱を。本当のことを言ってるという熱を、お二方へ!

 

 

「だからお二方とも凄いんです! 模倣なんかじゃないんです! もう完全にお二方はお二方、『リダさん』と『オネカさん』なんですっ!!!」

 

 

必死に、お二方の煤を拭うように。熱の籠った感想をお伝えしました…! で、でも…まだまだ足りません…一番伝えたいことを言葉にしきれてません! もっと、もっと、もっと…!

 

 

「そ、そもそもダンスも歌もまずは誰かの模倣から始まりまして…! 皆さんもそうだって仰ってましたし、私も最初はそうでした! なんなら今も毎日寝る前にやってます、アイドルの皆さんの物真似をしてます! だからやっぱり私はミミックなんです、模倣しているんです!!」

 

 

新入りミミックとして、ミミックならざるミミックとして、アイドルを目指すミミックとして…! ですから――…!

 

 

「ですから、そんなこと仰らないでください…! 駄目じゃないんです、アイドルに向いていないなんてこと、ないんです……! お二方は模倣から自在に変化してみせていて、自分の色を抜群に出していて、私なんかよりもよっぽど――っ……」

 

 

ダメです……こんな言い方じゃダメです…! これじゃいつもみたいに、私の卑屈さが邪魔な箱になってしまってます。今は、今だけは、その箱から出て、自らの足で――私の伝えたいことを、欲望を、本当の気持ちを、正面突破で!!

 

 

「ベル…?」

「ベルちゃん…?」

 

 

あっ…! 言葉を切ってしまったから、リダさんオネカさんが心配そうに…! いえ、もう大丈夫です、言えます! 自分のやりたいことを、言いたいことを!!!

 

 

 

「……私、見たいんですっ! アイドルのお二方を! だって私もお二方のファンで、大好きなんですから!!」

 

 

「それは……っわ…!」

「その~……あら~…」

 

 

色々と言いたげなお二方には、もう一度手を強くハグすることで噤んでいただきます…! まだ私に煤を拭わせてください!

 

 

「夕方お二方は、私と一緒にアイドルをやるのも良いと仰ってくださいました。あれは冗談交じりだってことはわかってます。でも……本気でした。本当にその未来もアリかも、とも思ってくださったお顔をしてました」

 

 

「「っ……!」」

 

 

私の勘違いじゃなさそうで良かったです。リダさんオネカさんにそう思って頂けたことは何よりも嬉しいです。――そしてきっと、それなのに臆病に戻ってしまった理由も私の勘違いじゃありません。ならあえて怖がらずに、強く深呼吸してから!

 

 

「私もミミックですから、お二方の心を読みました。社長さんが……ミミン様が畏れ多いんですね。だから、竦んでいるんですね」

 

「「ッ!? な……!?」」

 

「ミミン様に救われたから、素晴らしく輝いているあの方だから、自分なんかが敵いはしない、肩を並べてはいけない、同じ道に進んで汚してはならない――そう、思ってしまってるんですよね?」

 

 

何も挟ませないように、出来る限り淡々と。けれど結局少し感情が混じってしまってちょっと揺れてしまいながら言い切りました。これが私が読んだ、お二方のアイドル辞退の理由。そしてそれは――。

 

 

「……驚いたよ。まさか……」

「バレちゃうだなんて~…」

 

 

「ふふっ…! 本当に一緒だったんですね…お二方と、私。こんなにおんなじだったんですね……!」

 

 

そうです。これはさっき私を励ましてくださったお二方の言葉と同じ。いいえ、アイドルの皆さんやプロデューサーさんからの私へ向けられた指摘と同じ。

 

 

私が畏敬からアイドルに怯えているのと同じように、リダさんオネカさんはミミン様に……圧倒的な輝きに憧れ、畏れているんです。

 

 

だから私の心も容易く読めたのでしょう。だってこんなにもそっくりなんですから! それがわかった今、もう間に挟む言葉なんて要りません!

 

 

「私もまだ諦めません。頑張ります! ですからどうかお二方も、アイドルを諦めないで欲しいんです。ううん……!」

 

 

抱きしめ続けていたお二方の手をそっと解放します。けれど、手は繋いだままに……まるでお姫様が騎士様と女神様の手を丁重にとるように、(いざな)うように――!

 

 

 

「影から光へ…今の光からもっと眩しい未来へ、一緒に飛び出しませんか…っ!」

 

 

 

い……言ってしまいましたぁ…!! 私の感想を、欲望を、本当の気持ちを……っ! リダさんオネカさんは少しの間目を見開いて……肩を震わせて…!?

 

 

「フフッ……ハハハッ! これは実に参ったね……!」

「んっふふ~…! ベルちゃんはこれだから~……!」

 

 

何故か悶えるような笑い方を…!? た、確かにちょっと変な台詞でしたけど……いや思い返してみましたら、ちょっとどころじゃないかもしれません…!!

 

 

なんで私、あんな上から目線の言い方をしてしまって…!? そ、それに勝手に決めつけてしまって…! お二方共にお仕事がある身ですのに、今が天職だからアイドルの道を選んでないだけかもしれませんのに…!!

 

 

なのに私、なんて意味不明で自分勝手なことを…! は、恥ずかしくて顔が赤くなって……好き放題言ってしまった罪悪感で顔が白くなって……気持ちが変になってぇ……! お二方の顔が今、色んな意味で見れなくてぇ…!!

 

 

え、えと、えと、えとぉ……! そ、そうです、お菓子は見つかりましたし、今日の目的は達成したはずです! だ、だから……か、帰りましょう!! ロッカーからお菓子入りの鞄を出して、寮に戻りましょう! だからすぐに立ち上がって――ひゃっ!?

 

 

「待って待ってベル! 違うんだ、面白くて笑ったんじゃないんだ!」

「もう感動で~キュンキュンしちゃって~♡ ベルちゃん大好きよ~♡」

 

 

私が立つのを止めるように、今度はお二方から握り返してきて…! 私の手を抱きしめてくださって…!

 

 

「キミの想い、しかと受け取ったとも! うん、本気で考えてみるさ!」

 

「あんなに熱意たっぷりに誘われちゃうなんて~♪ うち達で良いの~?」

 

「ほ、本当ですか!!? はい、それはもう!!! お二方なら、私なんかより何倍も凄いアイドルになれて、私がアイドルになれなくても――あ、あれ…?」

 

 

喜んだのも束の間、リダさんオネカさんは顔を見合わせて複雑な表情を…? 私今、変な事言ってしまいました…!?

 

 

「言ったさ。もう…キミは本当に、皆の煤を拭ってくすんでいっちゃう原石だね」

 

「『私なんか』とか『アイドルになれなくても』とか~まだまだ手助け必要ね~」

 

 

ぁぅ…! 少し呆れたように突っ込まれてしまいました……! ……あれ、でも……なんだかお二方、どことなく楽しそうで……。そのまままたアイコンタクトをしあって……何かを思いついて腹を決めたかのように?

 

 

「よし! キミに認められたアイドルなボク達が、飛び出すために協力しよう!」

 

「うち達もアイドルできるか不安だし~。ベルちゃん先輩と実践レッスンよ~♪」

 

 

へ!? えっ!? あ、あの!?!? 協力って!?!? 先輩って!?!? 実践レッスンって!?!?!? あ、あの、きゃああっ!!!!?

 

 

「さあ、会場移動だ☆ 忘れ物はないかい?」

「靴に鞄に~お菓子も確認~♪ 行きましょ~!」

 

 

 

あっという間に私、今度はオネカさんの箱に仕舞い込まれて!? あ、あの、その!? 寮に帰るべきじゃ!? ここから何処へ!? 連れていかれてるんですかあぁぁぁぁ!!?!??

 

 

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