ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
――と、レッスン更衣室から連れてこられまして……。着いた先はやっぱり寮じゃなくて……でも一応このコンサートダンジョン内でして……。
今は箱から出していただいて、靴も履いて鞄も隣に置いて、椅子にちょこんと座っている状況なんですけれど……。えっと……。
「うん、そこはそのライトだけで良いよ。一旦
「音源セット確認~。リダ~音量これぐらいで良~い? は~い♪」
……リダさんオネカさんが、ひっきりなしに動かれていて……。しかも、それだけじゃなくて……。
「装置は…残念だけど軒並みオフだね。でも映像はフルで。画出し、頼むよ☆」
「大道具、簡単なのだけこっそり持ち出して貰っちゃった~♪ いい感じ~♡」
ミミックさんが、あちらにも、こちらにも……といいますか、ミミックさんばかりで……いや、あの……。
「ok! こんなところかな! 皆協力有難う!」
「それじゃ~始まったらいつもみたいに宜しくね~♪」
あ…準備、終わったみたいです。流石はミミックさん方、大きな音も立てず、素早く設営を済まされて――……もう良いですよね? じゃあ……。
「あ、あの!!?」
ひぅっ…! こ、声を大きめにはしましたけど、予想以上に反響してウワンウワンウワンと…! こんな状況初めてですから…! も、もっと声を潜めないと……いえそうじゃなくて!!!
「フフフッ! ツッコミ、待っててくれたんだね☆」
「んふふ~♪ ベルちゃんったら優しいんだから~♡」
そ、そうではあるんですけどぉ……どちらかというと全部に驚いてどこから聞けばいいかどう止めればいいかわからなかっただけで……! って、ですからそうじゃなくてっ!!!!
「い、良いんですか!? こんな時間に、こんなところに入って! い、いえ、絶対駄目な気がするんですけど!?」
言うに言えなかったその言葉を、
「だってここ、コンサート会場――それも、今日waRosのライブがあったステージですよね!!?!?」
間違いありません! 私今日、ここにいたんですから!! あの時とは違って舞台袖ではなくて、ステージの様子が一番よく見える本当のSS席に置かれた椅子に座ってはいるんですが……!
「アハハッ♪ 言ったじゃないか、実践レッスンしようって☆」
「実践レッスンはコンサートエリアの会場で行うものでしょ~?」
カラカラ笑うリダさんオネカさん…! そ、それはそうですけれど……! で、でも普段の実践レッスンは今日みたいに小さめのハコでやるもので! こんなトップアイドルが立つ数万人収容可能な巨大ハコでなんてやったことないですよ!?
しかも今、深夜で!! ですからお客さんもスタッフさんも警備員さんもいなくて、灯りもステージと私のいる付近しか照らしてなくて、観客席はガランとしていて振り返るのもちょっと怖いぐらい暗闇で!!
……これ、さっきまでの倉庫やレッスン室の利用とは訳が違います…! 明日も使われるはずの…いえ、確実に予定が入っていたはずです……そんな会場をこんな時間から貸し切って実践レッスンなんて、許可が下りるはずが……!
「まあ勝手にお邪魔しているだけだからね☆諸々は最小限で許してくれ」
「スモークとか生演奏とか派手なのは~正式な時にとっときましょ~♪」
「ですよね!!!? やっぱりこれ、駄目な行為ですよね!!!!? 思いっきり侵入者してますよね!!!!?」
サラッと明かしましたねお二方!!! 薄々わかってましたけど!!! でも普通なら会場自体が施錠されているはずですのに……あぁ……。そうでした……リダさん、コンサートエリアの主任警備員さんでした……。
さっきオネカさんがレッスンエリア担当警備員としてレッスン室を開けてくださったように、リダさんも勝手が出来ておかしくありません。そうでなくともミミックですから、忍び込むのは自在で……で、でもそれが明るみに出てしまったら!
「大問題になっちゃうんじゃ――みまゃっ…!?」
「大丈夫さ。責任はボクがとるとも」
「も~リダ~。ボク『達』でしょ~?」
い、いつの間にかステージの上にいたリダさんオネカさんが、私の目の前に来てて、私の口を揃って指でちょんと封じてきてぇ…! まさか無断使用の全責任をお二方で負うつもりですか…!?
さ、させられませんっ! だってこれ、間違いなく私の泣き言が発端になっているんですから……! だからお二方の指を手を私の両手で包んで、封じられた口を無理やり開いて…!
「わ、私も…! 私も、一緒に責任を…ひゃわわっ…!?」
「気持ちだけ有難く頂くよ☆これはボクとオネカの思いつきだから」
「ベルちゃんも皆も、うち達が無理やり参加させただけなのよ~」
今度は頭撫で撫でで封じられてしまってぇ…! と、私の隣から…抗議の声が。
「「「シャウッ! シャウゥン!」」」
「ハハッ♪ 強要されたんじゃない、自分の意思だ!ってね☆」
「んふふ~♪ 皆、こんなノリノリに参加してくれちゃうなんて~♪」
本当です……なんで皆さんこんなに積極的なんですか…! ステージ設営をしてくださっているミミックさん達も、今私の隣や周りに居る……
この方々も、私がこの席へと出して貰ったらどこからともなくいらっしゃって、設営がなされている間こうして私を護衛してくださっていたんです……! 今なんかあの宝箱ミミックさんが私のバッグを持って……乗せて?守ってくださっていて、私が不安にならないように構ってくださっていたんです!
警備の仕事があるはずですのに、忙しいはずですのに、一日頑張ってお疲れなはずですのに、皆さんなんで……なんでここまでしてくださって……!?
「フフ…! キミならわかるんじゃないかな。『推しのため』だよ」
「推している子のためなら、いつでもなんでも何処にでも~。よ~♪」
推しのため……。なら、わかっちゃう気がします。私もアイドルの皆さんのためならどんな労力も惜しまずにできて――えと…。
「やっぱり私のことが推しなんですか…?」
「「「シャアン!」」」
護衛ミミックさん達にそっと聞いてみますと、当然というように元気なお返事が。ぁぅ…未だに信じられません……。皆さん私のかける迷惑を迷惑だと思ってなくて、私のことが大好きお助け隊と、まるで応援隊長’sの方々みたいな……あれ?
…護衛ミミックさん達、本当に応援隊長'sの皆さんみたいな雰囲気で…? その、博愛と言いますか、まさしく箱推しをしているような、私へと同じぐらいに他の方へ期待を寄せて応援しているような……。でも他って……あ…!
「ひょっとして……リダさんオネカさんも推し…だったりします…?」
「「「! シャウンッ♪」」」
お二方に聞かれないよう、箱に密着してできるだけこっそり聞いてみますと…やっぱりです! 皆さん『そこまでわかるなんてすごい!』というように、『みんな二人のことも大好き!』と跳ねるように! ふふっ、私も――むみゅぅ…!?
「もう…聞こえてるよ…! 少し油断したらすぐ周りを立ててくれるんだから」
「あらあら~…皆、そんな風に思ってくれていたのね~♪ くすぐった~い…♡」
リダさんオネカさんが、お顔を少し照れさせながら、また私の口を塞いで…! ば、バレてました……って、これだけ近かったら聞かれないようにするのは無理な話ですよね…! でも……ふふふっ♪
皆さんにとっても、お二方はアイドルなんですね! さっき見せていただいたアルバムでもそうでしたもん。皆さんを導き包むその姿は立派なアイドルで、推しにできて、だからこうして皆さんノリノリで深夜に参加してくださってるんですね!
ですが……これが危険な無断行動だってことには変わりはありません。もし見つかってしまったら、皆さんの…ミミックとして評判が……!
「なに、バレなければ大丈夫さ☆ スタッフさんはほとんど帰っているか夢の中。見回りの警備員さんは暫くこの辺りには来ない。……さっきまではあの方が居たみたいだけど…」
「もう帰ったみたいだし大丈夫でしょ~……けほん。だから~終わった後に片付けを完璧にしちゃえば、皆でしーってしちゃえば、うち達だけの秘密のレッスンになるのよ~♪」
わわっ…! リダさんオネカさん、私の唇に当てていた指を自身の唇へと運び、火照りを振り払ったやんちゃな微笑みで、虜になってしまう妖艶なウインクをぱちりと…! え、えとぉ…!
一部こそ何故か声を落とされていて上手く聞こえませんでしたが、仰っていることは……その……あの……。誰にも迷惑をかけなければ、バレなければ良いと寮を抜け出してきた私には何も言えませんん……!
「ということで、早速始めようか!」
「トップバッター、誰にする~?」
そしてお二方は流れるように、軽やかにレッスン開始の宣言を……! っ……これは私のためのレッスン……私にアイドルを慣れさせるためのレッスン……それは痛いほどよくわかっています。お二方に、皆さんに勇気づけられた今、夢のためやってみせるべきだって思っているんです……。
でも……………や…やっぱり、またなんです……! 実践レッスンとなると、身が硬直してしまって……! しかもトレーナーさん方には無断で、こんな巨大な会場を使ってだなんて! 正直まだこの状況を受け入れきれてませんのに……!
だ、だから……私がいきます、とは切り出せなくて……声が出なくて……覚悟を、決められなくて…………。あ……はは……あれだけ励ましていただいたのに私はこんなで、だから、アイドルになんて……――。
「じゃあ、ボク達から行こう! 見ていてくれ、先輩☆」
「ベルちゃんから貰った感想活かして、レッツアイドル~♪」
へ……リダさん、オネカさん…!? もしかして本当に…!? つい俯きにしてしまっていた顔を上げますと、お二方は微笑み、目を閉じ、深く深呼吸をして――。
――カカンッ!
ッッ! 響き渡ったのは、あの時の箱のステップ…! 瞬間、ステージを均一に照らしていたライトは一斉に消えゆき、灯りは私達の周りだけとなり……それすらも小さくなって、リダさんオネカさんが、私が、消えていって、会場は完全な暗闇になって――っわ!
影が全てを包んだと思った刹那、今消滅したはずの…今まで眠っていたはずのあらゆる煌めきが、早着替えの色彩でステージを切り砕いて!! は、始ま――ふぁあ……!?
見惚れている最中、幾つもの光線がこちらへと、蠢くように迫り、照らし――! それは触手のように息を漏らしてしまった獲物を、観客を、私を絡めとり、閃光の鋭牙が待ち受ける弾ける口腔へと引き寄せて――ッ!
そう飲み込まれた先に現れたのは、数多が収束していく二柱の輝き! またひとつ、またひとつと束へ加わっていく中、一際大きな光芒がそれぞれに――あっ!?
そこへ胸やお腹を殴りつけるような重低音の前奏を纏って飛び込んできたのは――小さな物体! それは光芒と共に残影を描きながら踊るように柱を囲み、巡り、光集う中心にてその正体を、宝箱を晒して!!
そう、宝箱です!! その見覚えのある宝箱は、先程まで目の前にあった宝箱は、中身を良く知るはずの宝箱は、まるで秘めた未知の宝を顕現させるように蓋を荘厳と開いて!
一つ一つ色を失い白く統合されゆく灯りの内で、燦然と立ち昇った華は今、吸い取った色彩を放つように、鮮麗で絢爛な蕾を開かせるようにっ!!!
「さあ♪ 剣を抜け♪ キミだけの♪伝説の
「心に刺さる~♪ 願いと想いを♪ 勇気の証に――ッ♪」
っあ、ああ…あぁっ! はわぁ…ほわぁああっ…はわぁっッ!!!!! り、リダ…さん…!お、オネカ…さん…! リダさんっ!オネカさんっ! リダ様ぁっっッ!!!オネカ様ぁっっッ!!!
澄み渡る歌声が、甘く包む歌声が、waRosの勇壮なメロディと共に旋風の如く、香りすら漂ってくるようで!!! 背景中央の巨大魔導画面には、凛々しく、優雅に、眩い笑顔がより鮮明に映し出されて!!!
全身の血が沸騰していくのを感じるリズムに合わせ、お二方の歌もダンスも熱を帯び! 激しく明滅するカラフルライトのダンジョンの中、現れたダンサーミミックさんと共に箱をかき鳴らすステップを刻み、ステージの末端までをも染め上げビートを最高潮へと導いて!!
「Aa-h! 混乱毒麻痺眩暈呪い♪ Temptation斬り払え♪」
「未踏未知を相手取り♪ 怖気ず握り直すんだ~♪」
戦士の刃掲げるようなシャウトを、騎士が清く高らかに! 魔導士の妖艶な調べの
その御姿にはとうとう、リア様サラ様の…waRosの幻影すら見えてしまって…! その四人分の真っ直ぐな瞳が観客を――私をズクンッと貫いて!!
「「剣を♪心を♪ 勇気を掲げろッ♪ Swordy Hearty,Bravely♪♪」」
はひゅうぅっ! 凄い……凄すぎますっ!! なんて素晴らしい『Swordy Hearty,Bravely』! やっぱりお二方共、才能の塊です!!
開幕演出はM&Aの三回目ライブを、箱からの登場演出と各所のポーズは今日のwaRosライブをモチーフにされてまして! 加えてダンスはそれぞれのアイドルのを組み合わせていて!
それでいて、全てに於いてリダさんオネカさんの色が見事に浮かび上がってまして! アイドルです…しっかりアイドルです、お二方共!!
「…うん。もっとだね。――さあ! まだまだいこうか☆」
「うち達だけじゃね~……――ファンの皆~♪ 応援お願いよ~♪」
え! も、もっと歌ってくださるんですか!!? 是非、是非っ!!!! 応援、たっっくさんしますっ!!!!! だからお二方の歌、たっっくさん聞きたくて――へ、護衛ミミックさん?
箱から何か取り出してくださって……これ…サイリウム!? 私が使って良いんですか!? ふふっ、有難うございます! では――全力で応援、させていただきますっ!!!
「La-La-LaLaLa-LaLa♪ ワンツー☆」
「sha-sha-shashasha-shasha♪ さんはい~♪」
「La-La-LaLaLa-LaLa♪ せーのっ!」
「「「「「シャー♪シャー♪シャシャシャ~♪シャーシャー!」」」」
「アハハッ☆良いね良いね! アガってきたよ!」
「んふふ~皆盛り上げ上手~♡ さ~いくよ~♪」
はい! ふふっ、ふふふふっ!! 手にしたサイリウムを皆さんと…護衛ミミックさんやダンサーミミックさん達と振りながら、アイドルなリダさんオネカさんのライブを全身全霊で楽しみます!! とってもとっても、楽しいです!!!
それにしても驚きなのが、お二方のアイドル所作です…! レッスンを受けている訳じゃないのにその所作は完璧で、現役アイドルの方々のライブを彷彿とさせるんです!
普段から実際のライブやレッスンを見守ってくれているからでしょう。歌やダンスはもはや言わずもがな、目線は常に配ってくださいますし、合唱やコール&レスポンスのタイミングもばっちりそっくりで!
更にはなんと、ダイブまで!!! ステージから勢いよく跳ねて、くるくるくるってこちらへ飛び込んできてくださったんです!! それを私が箱抱っこで受け止めさせていただいて…ふふふ…!
そんな完璧なパフォーマンスに劣らないよう、私も全てに応えます! 手拍子も、ウェーブも、スタンディングも、コールも、モッシュやヲタ芸じみたことも…! 加えて、応援隊長’sの方々のような役を僭越ながら務めさせていただいて…!
はぁぁ……!ほんっっっとうに素晴らしいライブです! ただ惜しむらくは、観客が私達しかいないことで。これだけ広い観客席にあるのは私達のサイリウム数本だけで、やっぱり他はがらんどうな闇のまま。もっと沢山の歓声をお二方へ届けたいのに……。
勝手に侵入してやりたい放題してる身のに何言ってるんだですが、もっと観客が居ればいいのにと思ってしまいます。そうすれば私といる時以上にお二方の勇姿が輝いて、私のなんかよりも激しくて熱い想いを――。
「フフッ、驚いたよ! キミの応援、こんなに激しかったんだね!」
「ね~知らなかった~♪ ベルちゃんの熱さでうち達もメラメラ~♡」
「……へっ?」
曲がまたひとつ終わり、トークのように切り出されたお二方の言葉にポカンとしてしまいます……。わ、私…そんな激しかったですか……? 熱かったですか……?
「熱かったとも! 会場に溢れんばかりの歓声さ!」
「激しかったのよ~。枷がとれた全力って感じ~♪」
か、会場に溢れんばかりというのは流石に言い過ぎで…!? で、でも……ふと気づいてみると、私、いつもの応援以上の力を入れていた……いえ、出せていたかもしれません。
今までライブ参戦した際には、周りの他のファンの皆さんに迷惑が掛からないようにある程度抑えていました。ここに来てからは舞台袖からでしたので、邪魔にならないようそういうことは一切しなくて。そして実践レッスンでも、当然騒ぎ過ぎないようにしていました。
けれど今は観客席で、私以外ほとんど誰も居なくて。唯一いるのは同族なミミックさんだけで。だから無意識に、自分を抑えるのを止めてしまったのかもしれません。でも、それが心地よくて、すっきりして、満たされて、最高の気分で……って、あ…!
一応これ実践レッスンなんですよね…!? じゃ、じゃあこれ、騒ぎ過ぎで…!? え、えと、レッスンの邪魔をするつもりはなくて――!
「これが本当のキミなんだね。ようやく見れた」
「んっふっふ~♪ 次は~ステージでも、ね~♡」
……ふぇ? リダさん?オネカさん? ステージの上で浮かべる、魔導画面に映し出されるお二方のお顔はとても歓喜に満ちていて、さらなる心を決めるように深く息を吸って。
「――そのキミのまま、聞いて欲しい。ボク達の宣言を、次の曲を」
「今までのもだったけど~次の歌は特になのよ~。だからね~♪」
お二方共、雰囲気が急に…!? 気を改めるようにマイクを直し、ポーズをとり、一度ゆっくり目を閉じ――不敵な笑みと殊更に『自分』を出して心を尽くした瞳を、私へ!!
「「この歌を、ベルに捧げる――」」
捧げ!!? え、あ、あのリダさんオネカさん!? ――このポップで明るいイントロは…!!
「『箱から飛び出た宝物』…!!!」
先程まで歌っていらした中にも、M&Aの曲はありました。けれどこれは、M&Aが初めて披露した記念すべき曲で、私の運命が変わった曲で、大好きな曲で――それを、捧げるって……!?
真意がわからないまま、ただ私は曲に合わせ踊り歌うお二方を眺めるしかなくて、応援の手も止めてしまって。けれど当のお二方はそれを一切気にすることなくただ集中して全力で……あれ…?
リダさんオネカさんのダンス……歌も……ううん、全部、先程までとは違います……? いえやっぱり格好良く美しくを崩されずとっても素敵なのですけど! その……背後に誰も見えない、と表現すべきでしょうか。
さっきまでのどの歌でも、ダンスでも、パフォーマンスでも、お二方の背後には最初の『Swordy Hearty,Bravely』のようにその曲や踊りの持ち主が見えるようでした。それだけそっくりだったんです。
だけど今は、M&Aの御姿が窺えなくて。他の曲とは違ってそこにいるのはアイドルなリダさんとオネカさんで。これってつまり……。
「
ふと頭によぎった言葉を、誰にも聞こえないぐらいとはいえ小さく漏らしてしまいました。でも、それで確信に変わりました…! そうです……これ、そこが違うんです!
歌い方もダンスムーブも、多少はM&Aを参考になされている感じです。けれど残る大半は身体の赴くまま、感情の赴くままにご自身を……『お二方』を全面に溢れさせているんですっ!! だから今目の前にいるアイドルは、限りなくリダさんオネカさんで――ッハ…!
そのリダさんオネカさんと、バチンと目が合って!? こ、これは目線貰えたという勘違いじゃありません…! 傾聴を願うような…ここから先を一層私へ捧げるような眼差しで、私はそれを、歌を、身体に染みわたらせて――!
「――塞ぎ込んで
「こんなところにいつの間に?♪ そっと触れたら~♪」
「カタカタ♪」 「コトコト♪」
「「パッカーンッ♪」」
「あの日あの音あの香り♪ あの味あの時の手応え♪
飛び出したのは
「私を置いて何処行くの?♪ 急いで立って追いかけよう♪
「ひとつひとつに触れる度♪ 仕舞い込んでた想いが溢れ♪
「『準備は良ーい?♪今の私♪ 私達は♪待ってたんだ♪ だってほら――♪』」
「「キミこそが♪ 宝物♪ そのまま真っ直ぐ♪飛び出してゆっけ!!♪」」
――――――……曲の終わりと共に、歌いきりポーズを決めるお二方に、私は一心不乱に盛大な拍手を送っていました。サイリウムを取り落としてまで。
そしてその拍手の間、音楽が終わって数秒の内に、幾度反芻したんでしょう。もはや回数が分からなくなるぐらいで、こうして自分を把握しはじめても、尚。
私の大好きな曲で、思い出深い曲で、なのに今日の実践レッスンで失敗してしまった曲で、その後リダさんオネカさんと一緒に歌った曲……。その歌詞が何故か今、今まで以上にするっと心の最奥に入り込んできて…。
この感覚はさっき更衣室でリダさんオネカさんが私の心を言い当てた時と似ていて……。同族であるお二方の歌声が、想いの籠った言葉が、ダンジョン最奥にある秘宝の箱を開けようとして……過去を、開けようとして……。
……私、これまで陰で暗くて、だから陽に輝くアイドルに惹かれて、いつしか影から飛び出したいと…あんな素敵な存在になりたいと思うようになって…。あんなにキラキラと輝く宝物みたいな思い出をくださった方々を追いかけたいと思って…!
だけどそんな願いは叶わないし手にとることすら失礼だと思って、奥底に…影に仕舞い込んでいて……。それは奇跡が起きてスカウトされてからも変わらなくて……変えられなくて……。
毎日必ず増えていくアイドルな皆さんとの宝物は、やっぱり箱に仕舞うことしかできなくて。だから欲張りな夢や日々の努力もどきもまた、一緒に過去に閉じ込めるしかなくて。そうして今まで過ごしてきて……だってそれ以外知らなくて……っ……。
ですから、リダさんオネカさんは凄いんです。私と同じ過去を、箱を持っていながら、あんなに立派に大成なされていて。こんな大舞台で一切怖がらずに自分を飛び出させていて。お二方も私にとってはアイドルで、ミミックの先輩です!
どうか、応援させて欲しいです。お二方のアイドルの道を。私がいつまで傍に居続けられるか、そもそもお二方がその道を歩むかはわかりませんが……こんな最高の原石を磨けるお手伝いができれば、私も――――。
「ハハッ! やっぱり、ダメだね☆」
「う~ん♪ うち達じゃダメね~♡」
「……えっ?」
不意に耳へ入って来たのは、リダさんオネカさんの……あっけらかんとした、何処か嬉しそうな、でも不満足を露わにする会話……!? え、えと…?
「だ、ダメって……何が、ですか……?」
そのあまりのちぐはぐさについ、ステージ上のお二方へ投げかけてしまいます…! もしかして私が応援の手を止めてしまったことが……!?
「ダメなのはボクとオネカの歌さ。ううん、全部だね」
「ダンスもパフォーマンスも、いまいちだったのよ~」
……えっ? えぇ……いやいやいや……!
「とっても素敵でしたよ!? 私、心に響いて…!」
「
「っ…!!」
リダさんに突かれて、息が…止まって、しまって……。それは…………で、でも! 響いたのは!
「お二方が想いを籠めて歌ってくださったからで…!」
「そ~なのよ~。それに全力で、他がちょっとね~。でしょ~?」
「ッ……」
今度はオネカさんに促され、反芻を……さっきまでの感情的な反芻とは違って、客観的な…ともすれば批評家さん方のような目線で回想を行います。それは……それは…………。
「本当のアイドル達と比べて、どうだった?」
「前の曲までのうち達と比べて、どうだった~?」
………………っそれは……。げ、現役の方々と比べること自体がおかしくて…………! ……でもお二方は先程までそれを見事なまでに模倣していて…………その時と、比べて…………。
……確かに、今の曲中のお二方の歌やダンスやパフォーマンスへ、いつもみたいな細かな感想は湧き出してきていなかったかもしれません……。で、でも! お二方は充分に素敵で! 私なんかよりも実践レッスンをやり通されていて――!
「フフ、ごめんよ。優しいキミに無理を頼んでしまって」
「うち達が一番わかってるのよ~。うち達だけじゃ限界って」
詰まる私へ、お二方はそう声をかけてくださって……。そしてやはりさっぱりとした口調の、でも少しだけ手の届かなさを嘆くような様子で……。
「きっとリアやサラ達なら…輝くアイドルの皆であれば、キミへの想いを伝えることと感動させること、それでいて自分らしく楽しくあることを同時にやってのけるはずさ。でもボク達では…アイドル素人のボクとオネカだけでは、どれか一つが精一杯でね」
「なら本気の本気でアイドルを模倣すればいけるかも~ってやったら、やっぱりそれでも一つだけで~…ん~ん、物真似な以上、うち達が感動させたとも言えないし~。だから何度か自分を出せないか頑張ってみたけど、全部中途半端で終わっちゃって~」
そんな! そんなことは!! 想いも感動もお二方らしさも私、感じて! 中途半端じゃなくて! 例えば――!
「最初の『Swordy Hearty,Bravely』とか、リア様サラ様だけじゃなく、しっかりリダさんオネカさんも浮かび上がっていました! その次も……――ぇ、ぁぅ……」
感じたことを全部並べ立てようとしましたが……お二方の優しい微笑みに止められてしまって……。綻んだ頬と愛が詰まった瞳の奥に微細な物憂げが仕舞い込まれたそのお顔は、私がそう言うのをわかっていて嬉しく思っていて、けれど自身が満足できないんだと首を振るようで……。
「有難う。でもね…本気でアイドルになることを考えるなら、それじゃあ…浮かび上がる程度じゃ駄目だと思うんだ」
「リスペクトは感じさせながらも、これは自分の歌だ~!ぐらいの主張がないと~。んふふ~…ミミックとは真逆ね~」
浮かび上がる程度じゃ駄目…………確かに……そうかもしれません……。今まで聞いてきたアイドルのカバーソングはどれも、敬意を払いつつも『自分自身』を歌い上げていました。それはシレラさん達も…実践レッスンでもそうです。
だってそうしなければただの物真似で、歌も自分も中途半端で……中途……半端………。……ようやくわかりました、お二方の言い分が…ダメだと仰られた理由が……。でも……いえ…私が口を挟めることではありません……。
ただ、ミミックがそれを成すのは他種族よりも難しいことなのかもしれません。物言わぬ宝箱として模倣を極めなければならないんですから。自分を主張するアイドルの生態とは、まさに真逆で……。
……もしかして私、お二方に無茶をお願いしてしまっているのでしょうか……。リダさんオネカさんが一度アイドルを拒まれた理由もこういうことで、ミミン様が特殊で、私はそれを知らずに手前勝手に妄想を、迷惑を押しつけてしまって……――!
――カカン!
ふぇ…!? こ、この音は…! 前よりも小さく、されどどの時よりも軽やかに響いた宝箱のタップに引き付けられステージを見上げると、変わらずそこにはリダさんオネカさんが。ただしその表情は打って変わって曇り空が晴れ渡ったかのようで、ここからが本題と言うようで――!
「それでね…ボク達が理想とする歌い方はなんだろう、ってずっと過去の中を探していたんだ」
「これなら『自分』で『アイドル』だなってこと、あったかしら~って、反芻していたのよ~」
いつの間にかにリピートされている『箱から飛び出た宝物』のメロディをBGMにして、それに負けないような弾むような様子を見せてくださるお二方。理想とする歌い方を…自分でアイドルなことを……。
「そしたらね……フフッ…!」
「すぐに見つかったのよ~」
おぉ~っ! 良かったです!! よほど良い出来事だったのか顔を見合わせてクスクス笑うお二方に誘われ、私もつい嬉しくなってしまいます!
けれどそれ、一体どんな理想の歌い方で、どんな自分でアイドルなことだったんでしょう…! もしかしたら参考になるかもしれませんし、是非エピソードもお聞きしたくて――。
「フフッ! 知りたいかい、ベル?」
「そうじゃなくても話しちゃう~♪」
! はい! すっごく知りたいです! もう胸の中がワクワクして、ようやく見つけた宝箱を開けるような気分で!! だからお二方の唇が紡ぐ数瞬が、キラキラ光輝いてみえ――!
「キミに抱かれ一緒に歌った歌、さ☆」
「ベルちゃんとのあのひと時、よ~♡」
って!?!?!? んっ、えっ、へっ、えっ、は……ええええええええっ!?
な、なんか思っていたのと違うんですけれど!!? ミミン様やアスト様とのエピソードとか、リア様サラ様とのお話とかだとばかり……えっ、わ、私!?!? 私が関わっているんですか!? その理想の歌い方に、自分でアイドルなことに!?
しかもそれって、今日のレッスン終わりのあれですよね!?!? そんな直近な……いえ確かにそれならすぐ見つかってもおかしくはなくて……私もあのひと時はとても楽しくて! で、でも――……。
「あの時の歌は、恥ずかしかったけど凄く心地よかったんだ。自分を出せて、想いを籠めて、皆を感動させて」
「だからそれを反芻しながら今のを歌ったんだけど……んふふ~…やっぱりうち達だけじゃ上手くいかなくて~」
ステージ中央から私の方へ、一歩ずつ…そうだとわかるぐらいにゆっくりと歩み寄りつつ、はにかみ噛みしめるように明かしてくださるお二方…! そしてとうとうステージ縁へと立って、仰ぐように深く深く息を吸い、胸を焦がすような火照りを湛えて!
「素直に告白するよ。――ボク達は、キミが欲しい」
「うち達、ベルちゃんがいないとダメなのよ~…!」
きゅっんぅ!? わ、私が!? い、いえそれは……っリダさんオネカさんの穢れのない宝石のような瞳が、煌めいてっ…! 眩しいほどに真っ直ぐな手が、差し伸べられて――!
「「一緒に歌おう、ベル♪」」
っっっっっッッッッッ……! 私が必要で……私と一緒に……!? その誘いは身体が奥から溶けるのを感じるぐらい嬉しくて…! 願ってもない事で…! きっと…ううん、絶対に楽しいはずです! ……その手を……とれたら……。
「っぅ…………」
……でも……とれなくて……。折角の誘いの手なのに、救いの手なのに……。私の手は、膝に落としたまま動かせなくて……。柔らかなライトが照らしてくれているのに、凍ったように動かせなくて……。
わかっているんです…! リダさんオネカさんが気を遣ってくださったことは……。あんなことまで言って私を奮い立たせようとしてくださっているのは……。だから応えるべきだってことは、わかっているんです…!
でも……光輝くステージと観客席の間に、リダさんオネカさんと私との間にある、僅かなはずの暗闇が……絶望的に深い谷底にしか見えなくて…! もし不用意に足を踏み出してしまったらたちどころに墜ちて、全てが台無しになりそうな気がして……っ!
…………あの時のお二方との歌は、とってもとってもとっても楽しかったんです。何もかもを忘れて、ただ歌いたいように歌えて、そこには何も壁がなくて、全てが澄み渡って、なのにあらゆる心がふわりふわりで、どこまでもいけそうで、出来ることならもう一度味わいたくて!!
けれど……それが今出来るかはわからなくて……。あの煌めくステージに立つと考えただけで、背筋が凍って……だって夕方の実践レッスンですら、あのステージですら、声を掠らせ詰まらせ歌えなくなる惨憺たる有様でしたのに……!
そして……あの輝くお二方と一緒に立つと考えただけで、無いはずの箱に閉じこもりたくなって……! もう帰り道とは違うんです…。お二方は私のミミック先輩で、ステージの上でああも華麗に舞える立派なアイドルで……!
だから、新入りミミックの私が、先輩な訳すらないアイドル見習いな私が、あの手をとってしまったら、邪魔になるかもしれなくて、迷惑になるかもしれなくて!! 台無しにしてしまうかもと……台無しになってしまうかもと……考えたら……動け…なくて……――。
あぁ……リダさんオネカさんが、差し伸べてくださっていた手を下ろされて……。本当にごめんなさい……。やっぱり私は臆病で、役立たずで、陰キャで、独りでいるべきで――。
――カカンッ
ふぇっ…ま、また……? また鳴ったのは、リダさんオネカさんのタップ音です…。けどそれはステップじゃなく、手を下げきらずに箱へと置き、撫でるように叩いて出した音で……さっきよりも更に小さくて優しく話しかけるような音で……。
「――これは社長から教わったミミックのための戦闘理論の一つなんだけどね。ボク達と同族なキミなら、きっと思うところがあるかもしれない」
リダさん……? 私なら思うところがある、戦闘理論ですか…? 観客へMCをするように……けれど私へ直接説くように話し出したリダさんは、そのまま大振りな動作で胸に手を当てられ、ライトが集中して。
「ミミック……臆病者なボク達は、基本独りだ。狩りの時も、何かを成す時も」
独り……。そうです……。皆さんもそうなんですね……。だってそれが一番楽で、安全で、誰にも迷惑をかけずに済みま――。
「――なんて、大嘘さ☆」
しゅっ!? えっ……えぇえ!? リ、リダさん!? ウインクと舌チロで可愛く瞬間手のひら返しして、スポットを当てていたライトもパッと元通り…いえ更に明るく全体を照らし直して!? あ、あの!?!?
「皆する思い違いなんだ、それ。実際はね…どんなに独りで何かを成そうとしても、そこでは必ず皆と協力しあっているんだよ」
そ、それってどういう……?! つい引っ張られる私へ微笑み、リダさんとオネカさんは軽快なバトンタッチを…!
「ベルちゃんが身体までミミックで~ダンジョンで冒険者を狩る営みを送っていたとしましょ~。さ~宝箱に入っているベルちゃんは、どこで待ち構えとく~?」
えっ……? きゅ、急に…!? え、えぇと……!
「開けた道のど真ん中~? それとも~味方にも見つかりそうもない陰~?」
例を挙げてくださるオネカさん。ですけど……多分、そのどちらもダメな選択肢で。ミミックは宝箱に隠れて不用意に近づいた相手を捕まえる魔物。前者はあからさまに怪しいですし、後者は隠れて休むならともかく、狩りするには不適切…ですよね。ですから――。
「宝箱があってもおかしくない雰囲気のところで…! え、えと…なんだか大切そうな感じの場所とか、誰か戦っている方の近くとかで、宝物を演じて……!」
「お~! んふふ~完璧~正~解~♪ やっぱりベルちゃん、ミミックよ~♡」
あまり具体的なことを言えませんでしたけど、オネカさんは褒めてくださいました…! リダさんもお見事と拍手をしてくださって、ダンサーミミックさんや護衛ミミックさんも嬉しそうに跳ねてくださって……!
で、でも……それが『ミミックは独りじゃなくて誰かと協力しあっている』ことに…? 前者は独りでもおかしくないですし、後者に至っては戦っている味方を見捨てているような気が……!
「フフッ、難しい話だよね。でも、蓋を開けてみると単純なんだ。そうだね…思考のヒントとして、プロデューサーさん達の言葉をもじろう」
「『アイドルは皆で育てるもの』ならぬ、『ダンジョンは皆で育てるもの』~♪ んふふ~ここ含めたダンジョン全部、そうなのよ~」
ダンジョンは皆で育てるもの……? アイドルと同じように…?
「今キミは『大切なそうな感じの場所』と答えてくれたね。まさにそういう場所はどのダンジョンにも沢山あるんだよ。武器の一時置き場や造りが少し豪華な小部屋、皆の集会所やちょっとした神殿、聖域のように光輝く…だけの道の角☆」
「このコンサートダンジョンで挙げるならそうね~~武器じゃなくて資材の一時置き場とか~集会所ならぬ会議室や控室や握手会した多目的会場とか~。あとは~アイドルのサインや写真が沢山ある廊下とかも、ギリギリそうかしら~♪」
軽いステップで右左へと動きながら、立てた指の先へ幾つもの例を挙げてくださるお二方。確かにそれは全部、大切『そうな』場所です。サインの廊下も、私のようなファンにとっては貴重で垂涎ものですが……ダンジョンにとってはステージや事務室や倉庫の方が大切なのは間違いありません。
でも……その場所がダンジョンは皆で育てるものと、ミミックと皆さんが協力しあっていることと何の関係が…? そう思う私を見越したように、元のステージ縁へと戻ってきたお二方は悠々と続けられて――!
「けれど、そのどれもが無から発生したものじゃないんだ。誰かが手を加えて、全員がそこを大切そうに扱って、ダンジョンに棲む皆に染め上げられて――」
「そうして初めて『大切そうな場所』が成立するのよ~♪ そこで待ち構えるという事はつまり~皆の力を借りている、と言えちゃうでしょ~♪」
えぇえ!?!? そ、それはまた詭弁…………という訳でも、ないんでしょうか…? えと……うん、驚いてしまいましたけど、理屈はわかります。
武器や資材の一時置き場も、会議室や控室や多目的会場も、光っているだけの場所やサインの廊下も。本来は何もなかった空間だったはずです。けれど棲んでいる方々がそれぞれの用途で使いだして、更によく使う場として怠らずに整備をして。
そうして出来上がったのが、汚れず整っていて、宝箱や何かの箱が置かれていても違和感がない『大切そうな場所』。成程確かに、皆さんのおかげで私達ミミックが居られるんですね。でも…協力には……。
「協力の真骨頂はここからさ! フフッ…!ベル、あの回答は本当に完璧だったよ。なんでキミは大切『そうな』場所と言葉を選んでくれたんだい?」
「えっ……。それは…本当に大切な場所だったら、出来る限り冒険者さんを近づけちゃいけないでしょうし。大切そうな場所と違って、本物の宝箱も沢山あるでしょうから……」
リダさんの感動しながらのような問いかけに、そのままお答えします。最後の防衛として待ち構えるならともかく、本当の宝物が詰まった場所で最初から待っていたら失敗した時に危ないですし……わわ!?
「まさにその通りよ~!! 大切そうな場所というのは、あくまで見た目だけ~。少し目が肥えていれば、そんなところに宝物なんてないってすぐ気づかれてしまうのよ~」
今度はオネカさんが感動されたように!? そ、その反応は気になりますが…!仰られていることはまた、よくわかります。会議室や控室にお宝はありませんから。
と、そこでお二方は互いに宝箱を寄せ合い、一つのスポットライトの下で蓋を深めに被ってみせてクスクスと…!
「でもね……ボク達が、キミが、宝箱に扮してその場にいたら、どうかな?」
「数本の武器の傍やサイン廊下の机に、宝箱が安置されていたらどう~?」
「っ!!! お宝と勘違いしてしまうかもしれません……っ!」
何か貴重な武器が入っているかも、アイドルからの寄贈品…あるいは宝箱自体がアイドル関連品かも、そう思ってしまってもおかしくないです! そして蓋と箱の狭間の影から妖しく覗くお二方と、対照的に人を吸いつけるようにキラキラ輝く宝箱が、その勘違いの先の運命を明確に表していて…!
「ハハッ! そう、宝箱が一つでもあるだけで、その場に合わせた貴重そうな箱があるだけで、冒険者は誤解してしまうんだ! つまりね――」
「ミミックのおかげで、ベルちゃんのおかげで、皆が本当に大切にしている場所が守られるのよ~♪ んふふ~♡皆で育てて協力しあってるでしょ~?」
蓋とライトを戻し纏めるリダさんオネカさん。私が、ミミックが、皆の大切にしている場所を守って……。皆さんが作り出した空間を、環境を使って……。確かにそれなら、ダンジョンは皆で育ててますし協力しあっていると言ってもいいかもしれませんけど……。
「『誰か戦っている人の近く』に関してはもっと明快さ!」
「見捨てているなんてとんでもない~! 役割分担よ~♪」
わわわっ…!? お二方は畳みかけてきて!? 明快なんですか…!? 役割分担なんですか…!?
「先に居た皆のおかげでボク達はスタンバれて、皆が戦ってくれたおかげで冒険者はボク達を頑張ったご褒美の宝箱だと思い込んでくれる」
「そして逆も然りよ~。うち達がいるおかげで皆は後を任せて戦闘から離脱できるし~うち達が盾や囮になれば、袋小路に誘い込めるの~♪」
明快でした…役割分担でした…! これも間違いなく協力しあっていて、ミミックは全く孤独じゃなくて――!
「これがボク達が教わった戦闘理論なのさ。ダンジョンは、皆は、ボク達は、そうやって成り立っているんだ。それが自然でごく当たり前で、最も完成された関係性なんだ」
「どんなとこでも常に協力しあっているんだから~変に肩肘張らず、遠慮せず、自分を含めた皆が気兼ねな~く楽しく暮らせるようにしましょ~☆っていう教えなのよ~」
おおおおぉ~!! ダンジョン毎の環境へ溶け込みその一部となるミミックさんらしい、優しくて重要な理論です! その教えがあるからミミックさん達は皆さんの一部として沢山活躍なされて――……。
なら……私も…? い、いえいえいえ……! 私はそんなことはしてなくて、本当のミミックさん達みたいに活躍は――。
「今のキミもそうさ、新入りミミックちゃんにして未来のアイドルちゃん☆ 今日、ダンジョンの皆からどんな感想を貰ったんだい?」
「リアサラやシレラちゃん達アイドルからの、スタッフさんにプロデューサーさんからの、そしてうち達からの~♪ 反芻してみて~♪」
へ……。皆さんからどんな感想を…貰ったか……。それは……それは、とっても、とってもとってもとっても沢山の言葉を尽くしていただいていて!
リア様サラ様シレラさん達アイドルの皆さんは、私の感想が悩みを全部吹き飛ばして救いになっていると。日々軽やかに活動できるのは、私の存在が大きいとまで仰ってくださって。
スタッフさん方やプロデューサーさん方からは、いつも良くしていただいていて。突発に歌った時には足を止めてくださって他の方にも広めてくださって。深夜にあんな真剣に激論を交わしてくださって。
そしてリダさんオネカさんミミックさん方も、私のファンと宣言してくださって。大好きお助け隊で、宝物で、同族で。今なんてお二方、『私が欲しい』だなんて――――ぁ……。
「気づいたかな。そうとも、キミはもうこのダンジョンの一部だ。皆に溶け込んでいるんだ。ボク達の親愛なる仲間なんだ☆」
「皆の心を、アイドルを守っていて~常に協力しあっていて~そこに一方的な迷惑なんて無くて~♪ おかげで毎日楽しくて~♡」
そう……なのでしょうか……。本当にそう思ってしまって良いんでしょうか……。そうだったら嬉しくて、事実毎日が楽しくて……それを私、信じてしまっても――……。
「そして今も。キミとボク達の在り方がこの環境を作り出して。ボク達がキミを励ましてキミがボク達を楽しませて。フフッ、完成しているね!」
「ならもう、余計なことを考える必要なんて~! さあベルちゃん、うち達と協力して~楽しい事をしてみましょ~!」
っ! そう続けたお二方は箱へ置いていたあの手をゆっくりと上げ……まるで私にこびりついた煤を、陰を、指で拭い払うように! そしてさっきと変わらない…ううん、さっきよりも更に強く煌めくアンコールを!
「「一緒に、飛び出そう!!!」」
リダさんっ!オネカさんっ! 気づいたら私は手を伸ばしていて、何も考えずにお二方の手をとろうとして! でもふと不安がまたよぎって――……ひゃっ…!?
「「「「「シャウッ♪」」」」」
何かがぽすすんっと触れてきたと思ったら……一緒に観賞していた護衛ミミックさん達です…! 皆さんはもう一度ぽすすんっと優しくぶつかってきたり、キャッチしてくださっていたサイリウムを振ってみせてくださって……!
それは私の背を押すようで、私がステージに向かうのを心から応援してくださっているようで、私の楽しいことが自分達も楽しいと言っているみたいで――楽しい……こと……。
私が楽しいこと……それはアイドルの輝きを受けることで……ああなりたいと思っていて……それがやりたいことで――っそうです…! 私が一番楽しいことは、本当にやりたいことは――今ならっ!
「有難うございますっ…!」
護衛ミミックさんにお礼を残し、勇気を振り絞って立ち上がります。その瞬間ステージは殊更に広く明るく見えて、キラキラの宝物に溢れていて、私は狭間の暗闇を気にせずに一歩を踏み出していて――わ…!
私の行く先を、ステージへまでを示すようにライトが照らし、暗闇を暴いて! そこは奈落の谷底なんかじゃなくて、輝く一本道で!
だからもう私はまっすぐに、ひたすらに、ひたむきに、一直線に進んで走って! 止まらないで、そのまま、そのまま伸ばした手で、両手で、ずっとずっと待っていてくださったリダさんオネカさんの手を、とって――!
「「そ~れっ☆♡」」
「わわっ…! えいっ!」
お二方に勢いよく引っ張り上げられ、陰から光へ、ステージの上へ! 立っちゃいました……勢いで来てしまいました、このアイドルしか許されない聖域に! 今更ながらちょっと怖気が……ふにゃあっ!?
「よく勇気を出してくれたね、ベル! ボク達嬉しいよ!」
「ベルちゃん良い子良い子~強くて優しい可愛い子~♪」
リダさんオネカさんが絡みつくぐらいの熱烈なハグをしてきて!? ちょ、ちょっと苦しいです…! でも、嫌じゃなくて……! 私も抱き返してぎゅうを味わいますと、怖気が溶けて無くなっていくようで……もう少しだけこのままで……!
ふひゅぅ…! すぅ……はぁ……! うん、よし、いけます! 有難うございます、これで頑張れます! 私の分のマイクをいただき、やりたい未来を、なりたいアイドルだけを追い求める準備、完了です!!
「フフッ! さあ、思うが儘に歌って踊ろうか☆ どんな動きでも大丈夫さ!」
「ライトも撮影も、皆が入ってくれているからね~♪ 全力出しましょ~!」
「はい! ……っえ!? その口ぶり…まさか……!?」
「うん、物理的に入っているとも☆」
「だから自在よ~♡ ね~?」
オネカさんに応えるように、灯りや画出しがくるくると動き回って…! ミミックさん、そんなところにもいらっしゃったんですね! だからあんなに触手のような動きができて、抜き方も動きもプロの域で、私に花道を作ってくださって……!
「皆さん、見守ってくださって有難うございます! 大好きです!!」
つい感極まってしまい、沢山のライトへ向けて、撮影へ向けて、ダンサーミミックさん方へ向けて、観客の護衛ミミックさん方へ向けて、全てのミミックさんへ向けて、ふにゃっと笑い手をいっぱいに振ります! 感激を籠めて、親愛を籠めて、感謝を籠めて! わっ!?
ダンサーミミックさん方が私を取り囲んで、それが大画面に映しだされて、ライトもハート型に集って――ふふっ、せーのっ、くるくるくるっ~! たたんっ♪
「「「「「シャウウンッ♡」」」」」
わぁ…! つい心が弾んで勝手に踊ってしまって、なのに皆さん楽しく乗ってくださって! サイリウムやライトや撮影と空ハイタッチを、ダンサーミミックさん方と箱タッチを! タッチ、タッチ、抱っこ♪ ふふっ、ふふふふっ♪
「うん、うんっ! やっぱりベルはアイドルだよ!」
「キラキラに輝いてるベルちゃん、とっても綺麗~…!」
ふぇっ!? 気づいたらリダさんオネカさんが恍惚とした様子に!? え、えと……あ……お二方が私の手を導いてくださって、背中を支えてくださって……!
「帰り道の話を、今こそ現実にしよう。このライブのボク達は、アイドルさ☆」
「うち達、オンステージよ~! セトリどうする~? まずはM&Aメドレ~?」
「はいっ!! アイドルになります! 歌わせていただきます!!」
お二方に肯きつつ、PA担当のミミックさんへお願いをします! するとすぐに曲をかけてくださって……もう一度深呼吸をしてから――うん!!
「一緒にいきましょう、リダさん、オネカさん!」
「勿論さ!」
「いくよ~!」
「「「1、2、3、4――♪」」」
「La-La-LaLaLa-LaLa♪ ワンツー☆」
「sha-sha-shashasha-shasha♪ さんはい~♪」
先程と同じコール&レスポンスに入り、リダさんが軽やかに正統に、オネカさんがのどかにミミックさんに合わせたメロディを口ずさみます。けれど、さっきとはちょっと違くて――!
「sha-La-shashaLa-shaLa♪ みんなで~!」
「「「「「「シャー♪ラー♪シャシャラ~♪シャーラー!」」」」」
リダさんオネカさんからバトンを渡された私は、お二方の意志通りに自分の思う通りにコールをMIXしちゃいます! ミミックさん方もそれに乗ってくださって♪
「凄いねベル! 伝わるもんだね!」
「以心伝心ってこのことね~♡」
「ふふっ♪ 私達、おんなじ、ですから!」
つい興奮してしまって、そんな軽口を叩いてしまいます! わっ、お二方共にキュンとなった顔と浮かべて、更に燃えるような気合を溢れさせて!? 私も遅れないよう、今みたいに分かり合って分かち合ってついていきますっ!! 1、2っ♪
M&Aメドレーに始まり、ここまで色んな曲を歌わせていただきました。その中にはソロやデュオを始めとした、本来三人用じゃない歌も結構あったんです。でも、それなのにですね……ふふふっ…♪ 今のコールみたいに、どれも鮮やかに歌えてしまいまして!
どの曲においても打ち合わせなんてしていません。しかも三人一緒に歌うのなんて、全部初めてなんです。なのにパート分けもコーラスもユニゾンも全部全部、お二方と目で見つめ合ったら…ううんなんならそんなことしなくても、こうして自在にできてしまってるんです!
一曲前に歌った『Swordy Hearty,Bravely』の最後なんか、剣がリダさん、心がオネカさん、勇気を私が担当するように自然と分かれまして! それが一番それぞれに合っている気がして、三人の考えが一致してまして!
…冷静に考えればこれ、かなり奇妙な話ですよね。ですが、不思議と違和感はないんです! きっとお二方が私の心を読んでくださっているのでしょう。私も……そうなのかもしれません。明確な自覚はないんですけどね…ふふふっ♡
「アハハッ☆ ベル、楽しんでるかい? 歌うの、好きかい?」
「はい! とってもとっても、と~~~っても!!!」
「んふふ~♡ ベルちゃん、うち達歌えてる~? 良い感じ~?」
「はい! すっごくすっごく、すっ~~~ごくっ!!!」
「お二方はどうですか? 私と一緒は――」
「「最っ高に大好きに決まってる~!!!」」
めくるめく変わるライトの中、身を弾ませるリズムの中、大きく映し出される自分自身を背負う中、汗を厭わず、影を蹴飛ばすほどに踊り、中身を出し切るぐらいに歌い、その夢心地に酔いしれて、更に高く高くアガっていって!
ふふ…!リダさんオネカさんも同じみたいです! 歌声もダンスもその笑顔も、何もかもがさっきまでとは違うんです! その姿には模倣なんてとっくになくて、リダさんオネカさんで、それもさっきまでのと比べて何倍も何倍も、普段以上にリダさんオネカさんで!!
私を引っ張るリダさんは聡明で清く麗しくて情に満ちていて、私を支えるオネカさんは優艶で華やいでいて愛に染まっていて! なのにお二方共、私に身を完璧に預けている甘えた感じもあって……! 私もそれに応えて!
ライブ終わりにハミングしあった時よりも、箱の中で一緒にカラオケした時よりも、あの時皆さんの前で歌った時よりも、どの時よりも! 今私達は深く深く交わっているような気がします! まるで、一つの箱の中にいるような――。
あぁ、そうです…! ここはまさに宝箱の中なんです! 底知れない興奮にはお宝が満ち溢れていて、そのお宝は自分を互いを磨き煌めかせるようにキラキラの輝きを放っていて……私も、その中の一つで! リダさんオネカさんと一緒に、眩しさを、幸せを分け合っていて!!
殻を砕けなかったはずの私が、煤だらけだったはずの私が、今、この瞬間だけはこんなに飛び出して、光を放つことができて! 心のダンジョンの最奥から、触手のように複雑に絡み合っていた心の全てへ、身体の全てへ、嬉しさが喜びが湧き出して噴き出して満たされていて!!
これです……これだったんです、私のやりたい未来は、なりたいアイドルは! あの日あの時目を奪われた輝き、私に生きる意味をくださった煌めき、ずっと憧れてやまない眩しさ、追い求めていた光は、これだったんです!!!
こんなことが出来るのは皆さんが、お二方が助けてくださったおかげで! ですからせめてものお礼としてこの光を皆さんへ届けるために、リダさんオネカさんを更に更に輝かせるために、私、もっともっと、もっと――♪
「――おや。名残惜しいけど、次で最後かな。ボク達を全部、出し尽くそう!」
「さあベルちゃん、どの曲歌う~? 想い、いっぱいに詰めこみましょ~♪」
つい夢中になってしまっていたら、もうそんな時間になってしまったみたいです。もう終わりと聞いて一抹の寂しさはありますが……それを大きく大きく凌ぐのは、歌いきれるという達成感。お二方と一緒に歌いきれるという感動。だから――!
「では――♪」
「『箱から飛び出た宝物』で!」
「『箱から飛び出た宝物』だね☆」
「『箱から飛び出た宝物』よね~♡」
「「「ふふふっ♪」」」
私…いいえ、私達、最後まで光ってみせます!!! かかりだすあの軽快なメロディに、歌にダンスに、毎秒毎瞬間溢れる喜びと皆さんへの感謝を乗せて! 今の私、皆さんのおかげでどんなパフォーマンスも出来て、どんな不意打ち
ですからこの曲を皆さんへ、リダさんオネカさんへと捧げます! お二方と歌と心を交え、一緒に足と宝箱をかき鳴し、手を取って抱いての連携攻撃で――へっ?
リダさん、オネカさん? 歌いながらバチッと合った瞳が伝えてきたのは――え、えぇ…!? でも――ふふっ、はい♪
「「「――塞ぎ込んで
「こんなところにいつの間に?♪ そっと触れたら~♪」
「カタカタ☆」 「コトコト~♡」
「「「パッカーンッ♪」」」
ここまでは他の曲と同じように、相談無しながら分けあって一緒に歌います…! そして――ここからです! まずはリダさんオネカさんがそれぞれ、私と!
「あの日あの音あの香り♪ あの味あの時の手応え♪」
「飛び出したのは
「私を置いて何処行くの?♪ 急いで立って追いかけよう♪」
「
私をセンターに、お二方は右で左で引っ張るように支えるように力強く、自分の色を鮮やかに! 今度はまた三人集って!
「「「ひとつひとつに触れる度♪
仕舞い込んでた想いが溢れ♪
歌いながら、リダさんオネカさんは私より少し前に出て。そして――私へウインクと共に、手を差し伸べて!!!
「『準備は良ーい?♪今のボク☆』♪」「『うち達は♪待ってたんだ~♡』♪」
「「だってほら――☆♡」」
その手を、私は今度こそすぐにとって! お二方に引っ張られ、真っ直ぐ前へ! 三人で三人を飛び出させるように、私達で飛び出すように前へ!! せーのっ♪
「キミこそが☆ 宝物♪」
「 私こそ ♪ 宝物♪」
「あなたこそ♡ 宝物♪」
「「「そのまま真っ直ぐ♪飛び出してゆっけ!!!♪」」」
「「「「「シャウアウゥゥウウンッ♪♪♪」」」」」
ミミックさん達の歓声と拍(触)手を、私とリダさんとオネカさんはステージの上で浴びて……! う、歌ってしまいました……! 歌いきってしまいました!!
実践レッスンを、ライブを、怯えることなく怖気づくことなく最後まで!! しかも…しかもあの曲をアレンジまでしてしまって!!!
それも最後、自分を宝物だなんて…なんて罰当たりなことを! リダさんオネカさんから提案なされた時には驚きましたけど即座に受け入れてしまって、皆さんへ捧げるはずの歌なのに、これじゃあ自分へ捧げる歌に……ふふっ……ふふふっ♪
「ハハッ! ベルったら、顔蕩けてるよ☆」
「んふふ~♪ 楽しかったようで何よりよ~♡」
と、蕩けちゃってますか…!? で、ですけどその…収まらなくて…! とっても楽しかったから、心地よかったから……!
勝手なことをやってしまったという後悔も勿論あるんです。ですがそれより、私の全てに満ち満ちたこの想いが……瞬きしても燦燦と晴れやかな視界が、呼吸をする度に走る痺れを伴う甘さが、熱を昂らせて興奮を止めてくれなくて!!!
不安を忘れ、やりたい未来を、なりたいアイドルだけを追い求めた先の輝き……こんなに綺麗だったんですね……! これがキラッキラのアイドルの皆さんが見ている景色なんですね……!
幸せって、こんなにも甘くて美味しくて浸れてしまって力になって、あのケーキの味とそっくりなんですね……! だから忘れられないぐらい幸せで、皆で分け合うのが至福なんですね……!
全部がいくら反芻しても味わいつくせなくて、一生涯かけてもまだ味が残るってわかるぐらいで、でももう既にまた幾度も味わいたくなるぐらい病みつきで――リア様サラ様、シレラさんニュカさんルキさん、皆さん……! こういうこと、なんですね…!! そして――!
「リダさん、オネカさんっ!!!」
「おっと! よく頑張ったね☆」
「あらあら~♡ よしよし~♡」
ようやく整い始めた呼吸をまた荒くして、お二方を抱きしめて!! だって私がこうして光を放てたのはお二方が誘ってくださったおかげなんです、一緒に歌ってくださったおかげなんです!!
「有難うございます…! とっても楽しくて、夢のようで、本当にアイドルになれたみたいで!! お二方共大好きです、とってもとっても大好きですっ!!!」
こういう時に限って良い言葉が出てこなくて…! ただ感情そのものを、お二方のしっとりと上気した柔らかな肌へとぶつけるしか出来なくて…へにゃ……!!
「「ぎゅうううっ~☆♡」」
お二方からも、ハグが帰って来て…! 汗で濡れているのを全く気にせず密着させてくださったお身体からは、未だトクントクンと早めの、私と同じ速度の鼓動が、興奮ぶりが伝わって来て……!
「フフッ…!ボク達もこの通りなんだよ…! キミに導かれて良かった。こんなにも輝きに包まれ煌めきを放てるひと時を味わえるなんて! 改めてこの光の虜になってしまったさ☆」
「本当にアイドルになったみたいでとっても楽しかった~♪ ベルちゃんがうち達を支えて一緒に歌ってくれたおかげよ~♡ 付き合ってくれて有難う~またこっそり、どうかしら~♡」
ひゃわわっ……!? リダさん、煌めく宝石に見惚れるように熱っぽく私へ瞳を落として、唇や首をソフトにじんわり撫ぜて…! オネカさん、頭や肩や背中をいっぱいよしよししてくださいながら、最後に火照った様子で耳元でぇ……?!
えと、でも、ふふっ♪ 良かったです、お二方もアイドルを楽しんでくださって! 私がお力になれたかはわからないですけれど、またこっそり――いいえ!
次は、こっそりなんて方法をとらなくても……堂々と歌いたいです…! 皆が集まるステージで……アイドルとして!!!
やっぱりお二方もアイドルです、私が大好きなアイドルなんですっ! だからいずれデビューして欲しいんです……そうして、この会場いっぱいの歓声を浴びていただきたいんです!!!
だから、言わないと…お願いしませんと……!! アイドルやりましょうって……一緒にアイドルやりましょうって!!!
わかってるんです…! リダさんオネカさんは警備の仕事がある身、こんな申し出をしても困ってしまう事は重々承知で。けれど……こ、断られるとわかっていても、言わなきゃ…言わなきゃ……っ!!
だって私、感じたんです…お二方と歌って踊ってバチバチに身体が輝く中、思えたんです!! もしかしたら私、お二方と一緒なら、この会場をファンでいっぱいに煌めかせるぐらいにキラッキラになれるかもしれないって!
今はまだほとんど真っ暗な状態の私と観客席ですけど……私達であれば、きっと! 偉大なアイドルの皆さんのように、waRosのように、未来のシレラさん達のように、M&Aのように、ネルサ様のように!
ですから……お、お願いを…! お願いを、したいんです…!! 私があの日見た憧れの光景を、今度は私達でと、お二方に甘えたお願いを、させて、ほしくて――!
「せーのっ★」
『!!!!! L !!!!!』
「ぴっ!?!?!?」
『!!!!! O !!!!!』
「なっ…!?」
『!!!!! V !!!!!』
「あ、あらら~!?」
『!!!!! E !!!!!』
「「「「「シャウゥッ!!?!?」」」」」
『!!!!! L・O・V・E LOVELY★みんな !!!!!』
な、な、な!?!?!?!? 何が、何が、何事ですかぁ!?!?!?!?!?
突如響き渡ったのは、沢山の歓声!!!! そして――真っ暗で変わらないはずの観客席が、無人だった数万の観客席が、一斉にピンクサイリウムのハートの灯りで満たされてゆきます!?!?
い、いえ! サイリウムの輝きじゃありませんこれ!? そんな仄かな灯りじゃなくて、周囲を明るく照らすぐらいのビビットな数万のハートで、会場全体が明るく染め上げられたんです!!!?
「「「「「シャルルルル…!」」」」」
その勢いに驚いたのか、応援してくださっていた護衛ミミックさん方は私の鞄を死守するように陣形をとっていて……えっ? あれは…!
その護衛ミミックさん達の元へフワフワ飛んできたのは、ハートの灯りを持った……カラフルな猫やカラス、兎や精霊!!! ハートをミミックさんへ渡し、自分の席へと――あ、ああぁ…!!
ようやく気付きました…! そのハートの灯りを振っているのは、色とりどりの召喚獣です!! それがいつの間にか会場の席一つ一つに計数万体、満席になるぐらいに呼び出されていて、私達へエールを!
そ、そして……あの召喚獣をお使いになられるのって! それを証明するように、いっぱいの観客は更なるエールを!!
『!!!!! L・O・V・E LOVELY りーだん !!!!!』
『!!!!! L・O・V・E LOVELY べるるん !!!!!』
『!!!!! L・O・V・E LOVELY おねかん !!!!!』
や、やっぱりです、やっぱりですぅ!? リダさんを、私を、オネカさんを、その可愛い渾名で呼んでくださるのは――――わわわわっ!?
そのエールコールが鳴り響く中、私達の前に、同じステージに、スモーク渦巻きが!! スモーク装置なんて使ってないのに現れたそれは、人が入れる大きさへと膨らんだそれは……突如としてカラフルに染まって! 直後、星やハートに変じて輝くように弾けて、中からっ!
「にっひっひ★L・O・V・E~っ! 超絶LOVELYだったし★ 三人共っ★」
「ネ、ネルサ様ぁ!!!!?」
「「ネルっさん…!!!!」」