ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
魔物側 社長秘書アストの日誌①
さて、今日もお仕事ダンジョン訪問。社長を抱っこしいつものように!
この間ちょっと休みを貰ってしまった時、業務に何か支障がでるかもと一抹の不安を抱いていたのだが…それは完全に杞憂に終わった。あれから少し経った今でもあの日の影響は欠片もなく、こうして普段通りに過ごせている。
それもこれも社長と皆が全部片づけてくれたおかげ。本当、あれだけの書類量をよく。次の日確認してびっくりしたもの!
……まあ、大半は私の母のせいな気がするのだけど。いやまあ、魔王様直々の御尊命だし、誰が来ても結局あの量になったろうし……でもお母様、せめて私がいる時に…絶対社長、プレッシャー感じて……はぁ。
止め止め。この件に関しては公私共に抗議の手紙を送ったもの。それにおかげで皆の事務の腕を把握できたのがとても有難かった。うん、あれならこの先安心かも。
どうやら良い評判が広がっているようで、入社希望や依頼は数を増していっているのだ。今後もどんどん増えていくだろうし、暫くは私が捌けるとはいえ、いずれは私以外の手が必須になるもの。
しかし、本当に様々なところから依頼が舞い込むようになった。まさか――。
「おお~! 月や水の中よりもふわふわ~! これが無重力ですか?」
「$=〇*%◎◎! *$+%&×◇※!~△」
「へえ~調整できるんですね! ほんとだ、ふわふわ少しになった! あっ、今外飛んでったのって!」
「●※◇!##=△▼&=?×*※♪%」
「ですよね! ここに来るまでに乗せて貰った、アダムスキー型の!」
まさか、異星の方までミミック派遣をご希望だなんて。
少しふわふわする身体で、少しふわふわする社長の箱を軽く抑えつつ、倣って横の大きく丸い窓から外を見てみる。そこに広がるは暗闇に散らばる星々を背景に、巨大な緑と青と紫の星……星と認識できないぐらい広く近いのだけど、私達人魔皆の棲み処が。
そこから目を戻し、今度は自分達が今いる場所を。どこか流線形の印象を受けるこの明るい廊下は、石材や金属とはまた違うツヤを、ともすれば生き物のテカリのような輝きを放っており、一部なんて泡のように膨らみ、透明で柔らかくもある。
またその透明なところの内部には幾本ものチューブが通っているのが見え、それぞれを全く別の発光物質がどろりと流れている。更に各所で点滅するランプはカラフルに、何かを計算するように無機質に瞬いている。
この感じ、以前訪問したゴーレムダンジョンに少し似ているが、やっぱり違う。でも、うーん、なんて表現すれば良いのかがわからない。それこそまさに異星人的、エイリアン的建築様式と言うしかない。
――そう、ここはエイリアンのダンジョンなのである。私達は今、空高く高くに姿を隠し留まっている、超巨大円盤型UFOの中に居るのだ。
ううん。別にアブダクションされた訳では無いですとも。正式に依頼を受けて、今しがた星の海へ飛んでいったようなアダムスキー型UFOが迎えにきてくれて、乗せて貰ってここまで来たのである。
あんなに右へ左へ不規則に動く乗り物なのに全く酔わなかったし、あっという間に空を越えて星の世界に出たし、そこに更にこんな大きなUFOがあるなんて!
しかもなんとこのUFOダンジョン、私達の星へと来訪するエイリアン達の窓口でもあるらしい! 衝撃の連続過ぎて私、若干現実逃避的な思考放棄をしてしまっていて…!
あはは…何分、宇宙のダンジョンなんて滅多にないものだから気までふわふわしちゃってて。ふぅ、でももう大丈夫。宇宙のダンジョンは初めてではない。月のダンジョンには訪問したことがあるのだから。
そうそう、今回の依頼、その月ダンジョンの主である
「なるほど~! そういう技術は反重力、って言うんですね」
「?*@=#%&*※※◇」
「いえいえ、魔法と同じぐらい凄いです! ま、私魔法使えないんですが☆」
どうしよう。やっぱりどうにかしてお願いした方がいいよね……。実はさっきから、依頼人の言葉がわからなくて。でも何故か社長は会話成立させてるし、歓談に口挟むわけには……。
「えぇ、うちのアストは魔法のプロなんですよ~! ね?」
「ぅえっ!?」
社長!? 急にこちらに話を振られても! その、言葉がわからなくて!! あっ、そっか魔法でなんとかしろって助けてくれた形で――。
「〇※△$#っとっとっと! あーあー、通じまっか?」
あっ。それよりも先に、依頼人の方に気づかせてしまった。沢山ある触手の一本で小さな腕輪機械を弄り、何本かの触手を謝るように動かして。
「いやぁ、えろうすんもはん! 間違えて翻訳機能消しとりましたでな!」
「こちらこそすみません…! すぐに切り出せず…!」
「プルフフ! アストさんはほんに優しか子ばい! バニプリんお二人がようけ褒めちょったのも納得だべなぁ」
細長い口を軽く震わせ大きな頭を揺らし、『ンマァシア』さんは感心したように微笑んでくださる。そしてそのまま触手で腕を組み、更に感嘆したように。
「んだば社長さんもよぐワテの言葉わかるもんだ。あまりにスムーズで、翻訳切れとんの気づかへんかったわ!」
「えへへ! フィーリングで~す!」
「ピッフゥ! こっりゃあえげつねぇだ! ほんにこの惑星の住民は、何年経ってもたまげさしぇてくれるのぅ」
改めて。こちらの方はンマァシアさん。……これ言って良いのかな? えっと、多腕の蛸が立っているようなお姿をしている彼?彼女?は、このUFOダンジョンの管理者のお一人。
それと翻訳機能が調子悪いのか元々なのか、ずっとこんな一風変わった喋り方で。なんというか、まさしくエイリアンと話してるみたいな感じである。魔法で補正すればいいんだけど……まあ折角だし、エイリアン訛りということで♪
「いやぁワテら、この星の上に長く棲まわせてもろうとるけどの? まだまだ色々勉強させて貰えるさかい、ほんに飽ぎね飽ぎね!」
大量の触手を器用に動かし、私達と同じように星に目をやりながら楽しそうに先導してくださるンマァシアさん。と、社長へ向き直り、細く長い口を楽し気に揺らしてみせて。
「ミミックっちゅ~種族も、こうしてじっくり会うだば初めてだったりするんよ。なんか親近感抱くわ~。蛸さ見た時も思ったけど、それとはちゃうそっくり感あるわ~」
あっ。ご本人の口から蛸って。よかった…! でも、それとは違う親近感とは?
「もしかして、こういうことですか~?」
わっ、社長、私の腕の中から飛び出して……空中でくるり逆さになって、箱から大量の触手を! しゅるしゅる伸びるそれは、まるでンマァシアさんの脚のよう。成程、触手仲間的な。
「プルッフゥ!? そんなこともできるとよ!?」
「えっへっへ~! ミミックエイリア~ン!」
逆さ箱からひょこっと、器用に上半身を反らせて顔を出してみせる社長。そのままンマァシアさんがしゃがんだり踊ったり?するのに合わせてうにょうにょうねうね。普段の社長じゃまず見れない姿は、なんだか奇妙で可愛らしくて……。
「ほなそこまで競争や~!」
「負っけませんよ~!」
ちょっ!? なんでお二人共、唐突にダッシュを!? うわ凄い触手の動き! よく絡まずに、って早い!? 走ってじゃ追いつけない、飛んで……きゃっ!
つ、翼広げたらふわふわ感が増して足が浮いて、空中でわたわたするしか…! ま、待って! お二人共、待ってくださいっ!!!
「――ルプフフ! すまへんすまへんアストさん。ワテに姿寄せてもらえたんが嬉しゅうて、つい。この星だとグレイ体型の人が多かろ? あ、グレイっちゅうのはあの子んみたいなの」
広く白く明るい、けれどやっぱり見慣れない緑と紫の幾何学立体膨張デザインに彩られたその場につき、ようやく私はお二人と合流。飛ぶのにようやく慣れた翼を畳み、促されるままに見渡す。
そこには他のエイリアン達も幾人か居り、そのグレイ体型と紹介された方は、宙に浮く椅子から立ち上がって丁寧な一礼をしてくださった。確かに胴から手足二本ずつと顔が生えている体型は人型そっくり。銀色の肌とか目の大きさとかはともかく。
他にもトカゲのような肌をした方や、小さな円盤から機械の腕を出している方、巨大な眼球が細い管で飛び出しているような方、犬のような姿ながら顔をパカリと四つに開け、舌でお菓子らしきものをつまんでいる正体は不明だけどなんだかすごい方などなどなど。
何かの管理をしているのだろう、皆さんそれぞれ、立体映像やモニターを見ながらカラフルに光るパネルを操作している。ただ、私達の様子をちらちら窺っているみたいで……。
「……あんな。ちょべっとこの星の人には個性的な見た目に思えるかもだけどな、姿だけたい。皆良い子達やねん」
つい皆さんを眺めてしまっていると、ンマァシアさんが努めて優しく、恐る恐るに。えっと…?
「そうでもないですよ? 皆さん、割と違和感ないお姿で!」
私の腕の中にぽんと戻ってきながら、社長はそうンマァシアさんへ返して。あ、そういう!
「はい! 見慣れていると言いますか。お姿が似ている種族は居ますから」
例えばンマァシアさんであればクラーケンやローパー、グレイの方であれば私達のような人型種族。トカゲ肌の方はドラゴニュートみたいだし、円盤の方はゴーレムに似た姿の方が。一つ目の方はサイクロプス系や妖怪系、犬みたい方は犬系魔物に居ても全然おかしくない。
そう。どのエイリアンの所謂『個性的な姿』も、全て私達の範疇。多種多様な魔物の域を越えない。つまり、気を揉まれているような『エイリアンの姿に怖がる』なんてこと、私達には、この世界にはないのだ!
それを明言するように、私と社長は二人で胸を張ってみせる。逆にンマァシアさんは、大きな頭をくねんくねんさせて。
「ほんまこの星好っきやわぁ…!」
あっ、それ喜びを嚙みしめる動きなんだ。周りの皆さんもどこかほっとしたように作業に戻られて。よかったよかった。私も微笑む中、社長は更にクスクスと。
「それに、私達ミミックの方がよっぽど個性的なんじゃありませんか~?」
「ふふっ…!」
あっ…! つい噴き出しちゃった…! だってそれはそうなんだもの。宝箱型、触手型、群体型、そして箱に収まる上位の人型。こう言っては何だけど、エイリアンの皆さんよりもよっぽどエイリアンらしいというか。
「プルフフほんまじゃけぇ! その能力も構造もどないなっとるんだか、皆なまら興味深く思てます!」
どうやらンマァシアさんも同じ思いらしい。細長い口を擦りながら、改めてしげしげと。すると社長、今度は箱の向きを前後ぴょんと入れ替え、私に抱き着いてきて。
「きゃ~! もしかして私達や派遣する子達、人体実験されちゃったり~?」
「ええっ!? ちょっ、社長!?」
「プフッ!? いやいや滅相もない! よう誤解されちゅ~けど、そんな人道にもとることなぞ致しませんわ!」
ぶんぶんと触手を何本も振り、ンマァシアさんは否定してみせる。あはは……互いに先入観はあるもので…あれ? ンマァシアさん、少しおさまりが悪いように頭頂部をカリカリ掻いて?
「んまでもその誤解も、有効活用させて貰うとるんですがにゃぁ」
有効活用? 首を捻ってしまう私達を、ンマァシアさんはちょいちょい手招き。だけどそこは一面の壁。何も……。
「来る時お伝えしましたべな。ワテら、エイリアン相手の観光窓口やっとるって。んでな、その一環としてな…ちょちょちょいと。ほいな!」
「「おお~っ! 壁が窓に!」」
ンマァシアさんが同化していたパネルをポチポチ叩くと、壁は一転、巨大な窓へと変わったではないか! そこから見下ろせる景色は、こちら側からは透明に見える屋根の奥に見える光景は、私達のいる場所よりもさらにエイリアン感が強い。
そこは強い灯りはところどころにあれど、ほとんどは暗く脈動するかのような通路。いや、この複雑さ、一部が隔壁や生き物の膜のような代物で仕切られ閉じられているこの様子は、迷路と言うべきかも。
『こっちだ! 走れ! 捕まったら解剖されるぞ!』
『あ、あ、あんな恐ろしい化け物がいるなんて!』
『くっ、けど魔法は効果があった。立て直せばきっと!』
『倒せなくても、さっきのお宝部屋までいければ……!』
丁度その迷路を走っている人達が見える。拡大して貰うとその姿は、戦士の鎧に剣、魔導ローブに杖、身軽装甲に弓と、見るからに冒険者パーティー。どうやらなにかから逃げているようだけど…あ!
『オロォオオオオオォッッッ!!!』
『『『『で、でたぁ!!?』』』』
突如、冒険者パーティーの前にドチャリと落ちてきたのは、咆哮猛々しきエイリアン。鈍い灯りに晒されて黒光りする巨大な体躯と、どろり分泌液を垂らす牙をひけらかし、冒険者達を捕らえんと迫る。
『ひっ…! に、逃げなきゃ…!』
『い、いや攻撃だ! やるぞッ!』
『怯むな! 魔物とおんなじだ!』
『倒せばお宝! ここまで来たんだから!』
しかし、冒険者達もただでは引かない。フォーメーションをとり、抗いだしたではないか。しかし剣の一閃も魔法の一撃も、不可視の力場に弾かれエイリアンの身には届かず。いや。
『攻撃力、強化! 速度アップ!」
『いくぞぉっ! 炎の剣を食らえぇっ!』
『光の礫、連続発射!』
『虹の矢、貫け!』
冒険者達は魔法を駆使し、攻勢を強める。猛攻によって耐久の限界が来たのだろう、不可視の力場はまるでガラスのようにパリンと割れ、魔法が、矢が、エイリアンの黒曜の身を叩く。そして。
『トドメだ! なにっ!?』
『キャウルルルルゥ……!』
今まさに致命の一刀が入る瞬間、エイリアンは今までにない勢いで逃げ出したではないか。追撃を背中に食らうのも厭わず、大きな体を狭い配管に滑り込ませて消えた敵を見て、冒険者パーティーは鬨の声をあげる。
どうやら冒険者側の勝利なようだけど……おや? 窓の一部がまたも拡大され、今の戦場からは少し離れたとある部屋が映し出される。そこは周りの廊下とかとは違い明るく、色々な設備も整っている。
と、そこへ身を滑らせ入って来たのは、先程のエイリアン。呼吸を整えてるのか、身を大きく上下させている。すると部屋に待機していた小さな浮遊ゴーレムみたいなものが動きだし、治療してる?
「丁度ええな。せばだばお二人共、ちっとだけ耳を傾けといてくだされな」
そのよくわからない光景を眺めつつも、私達は従って傾聴の姿勢をとる。するとンマァシアさんは壁のパネルを弄り、通話を始めた。
「あーあー、調子はどないでっか? 格好いい登場でしたでな!」
『キャパォゥ…慰めてくださいますのね。完璧に優位をとれたと思ったのですが、やはり冒険者はお強いこと。そして魔法ってやはり不思議で、見事なる技術で!』
ん? あれ? この感じ、もしかしてあの黒いエイリアンと会話なされている? えっと、うん、そうっぽい。ここから見えるあのエイリアンの方の動き、この翻訳と連動しているもの。
「ピュルフフ! 闘志消えてなくてよかね。さぁ、お宝狙う冒険者は道を戻りはじめたで。勝負、続行ばい!」
『えぇ! 魔法に負けてはいられません! 今度こそ勝って、お土産にあの剣をいただきましょう!』
意気込むエイリアンは、身体の動きとバリアたる不可視力場の起動を確認し、勇んで部屋を後にする。と、今度は冒険者パーティーへとクローズアップ。どうやら道に迷いかけていたらしい。
しかし、障壁の開閉や肉膜の生成、灯りの強弱調整や液体の流れが切り替わる。それはまるで目的地へと道案内しているようで、彼らはそれに恐る恐るながらも従い、とうとうお宝部屋の前の広い空間へ到達し。
『ッ! 来るぞ!』
『カロガロロロロロッ!!』
冒険者パーティーとエイリアン。再度相対す。剣vs黒曜拳、魔法と弓vs光線武器。死力を尽くしたその戦い、結果は――。
『キュラ……ギルゥ……ガフッ、キュウゥ……』
『やった……勝った……!』
『『『勝ったーっ!!!』』』
冒険者パーティーの辛勝。力尽き倒れたエイリアンを踏み越え、彼らは宝物部屋へ。歓喜に満ち溢れた顔で、お宝を…といってもエイリアンの皮や殻、装甲やカプセル状の発光液体などを主に鞄へと詰め込んでいく。
「ほな、自動運転のUFO用意したげて~」
「はいよ~。記憶処理は無しでよかね」
「んだな。あん感じなら広めて貰えそうだべ」
その様子を遠隔で見守りながらンマァシアさんが指示を出すと、グレイさんがパネルをカラフルに叩き操作を。すると宝物部屋の一角が壊れたようにゆっくり開き、脱出口を作ったではないか。その先にあるのは、帰還用のUFO。成程。
「ほな次はこっちと。あーあー、復活お疲れさんどす。良~い勝負でしたわ!」
『悔しい~っ! あと一撃さえ与えられていれば! ンマァシアさん、是非リベンジさせてくださいまし!』
「プルフフ! やる気いっぱいだぁ。んだども、予約もいっぱいだかんなぁ。また暫くお待ちになっておくれやす。でーじょうぶ、冒険者達は幾らでも挑戦してくれるさね」
続けてンマァシアさんが通話を行ったのは、魔法陣から復活を果たしたあのエイリアン。しかし倒されたことや宝が奪われたこと怒る訳でもなく、ただ敗北を悔しがる様子。成程、成程、そういうこと!
「ほなね。あ、冒険者達が途中で落とした回復ポーションとかは今回収させてっから、お土産にしとくれやす。んじゃまたのチャレンジお待ちしちょいもすわ~!」
通話を終わらせンマァシアさんは一息。見計らった社長が代表し唸ってみせる。
「はは~! 冒険者を逆手に取ったダンジョン防衛体験、面白い発想ですね!」
間違いない。このダンジョンは冒険者をわざと呼び込み、来訪エイリアンの皆さんに倒してもらうという体験イベントを運営しているのである。ンマァシアさん自身もその通りと肯かれて。
「魔法っちゅ~のはワテらエイリアンじゃ解析も再現も不可能な代物でな。それを体験したいっちゅ~連中、えっらい多いんですわ。けどま、派手なのって戦闘する時が多いべ? ほんで文化への興味も相まって、ああやって戦ってみたがるお客さん、わりかしいるんじゃわ」
そう解説してくださりながらパネルを操作すると、見えていた光景がブゥンと音を立て切り替わり、複数の場所が映し出される。灯りや造り、材質や毒々しさは違えど、何処か似通った異質感。
「でもま、実際にダンジョンに行ってこ~いなんて言ったら色々こじれんのはわかっとりますさかい、こうして船をダンジョンにして、冒険者の皆さんに来て貰っとるんどすえ」
これら全部このUFOダンジョン内の光景らしい。実際今しがた見たようなエイリアンvs
「噂流してまんねん。空高くには毎日のようにでっかいUFOが現れて、そこには必ず戦闘狂のこぉわいエイリアンが棲んでっけど、お宝も沢山眠っとるって。んで冒険者ギルドにはワテらの呼び出し方法を託しちょりましてな。そうやって魔法や剣やらを使える冒険者をUFOでご招待しとりまして」
更に浮かぶように表示されたのは、冒険者達がどう招待されたかの記録映像。皆、地上のミステリーサークルらしきものが描かれた場所で呪文のようなものを詠唱し、それに応え飛来したUFOに自らアブダクションされている。
更に、今しがたエイリアンを倒した冒険者パーティーが帰還していく様子も映し出されている。警戒しながら用意されていたUFOに乗り込んでいた彼らは、無事地上にふよよよ降ろされ安堵の息を吐いている。
見たところエイリアン側でなく冒険者側への対応も見事なもの。社長と揃って感心していると、ンマァシアさんは照れ隠しのように触手を揉み手にして。
「お恥ずかしくも、けっこう稼がせてもらうてますわ! ワテらの脱ぎ捨てた皮やらなんやらでも冒険者さんはお宝判定してくれますじゃろ? だから元手はあんま要らへんで済むし、その分融通しまっせ」
確かに仰る通り、あのお宝部屋にあった諸々は地上では高値取引の代物。私達にも有難い『ダンジョン主達には不用品だが市場では高級品』のパターンであり、それとは別に私達の通貨での支払い用意もありそう。
更には冒険者達へもこれほどの対応をとっている以上、ミミックを派遣しても丁重に扱ってくれるだろう。条件としてはかなり良い。……だけど、気になる点が幾つか。まずは。
「なら良い子達を派遣しないとですね! なにを担当させましょうか?」
社長がやんわりと切り出した、ミミックの役割について。冒険者を必要人数分だけ誘い、完全監視下の元エイリアンと勝負させるこのシステムは既に完璧に近い安全度。ミミックが必要とは思えないのだ。
「それなんだけどな。わんつか面倒なお役をお願いしたくてなぁ」
と、ンマァシアさんは申し訳なさそうに細口の下を擦り、またもパネルを操作しようとする。が、丁度そこにグレイさんのお声が。
「丁度別の区画で起きちまってますわ。映し出すべ?」
「あっちゃぁ……。まあ今だけは都合良いと思うとくか。ほな頼むわ」
どうやら記録映像ではなく、現在進行形の光景を見せて貰えるらしい。一体、どんな問題が――。
『はっ! これがエイリアン? ザッコ』
『ほれほれ! 抵抗してみろよ~!』
『へいへいパース! キーック!』
『こいつ連れて帰ろうぜ! 高く売れるだろ!』
あぁ……。明らかに素行の悪い冒険者四人が、ふわふわなボールのようなエイリアンを弄んでる。あんなエイリアンもいるんだ。
「あんまりお見せするのもあれなんやけど、こういうことがあいさに起きてしまいますねん。怖いエイリアンがいるって口コミ、流しすぎたせいだべなぁ…」
ンマァシアさんは明らかに肩を…頭と細い口を落としてみせる。まさかの弊害というべきだろう。確かに噂を信じ腹をくくって来た冒険者達からすれば、拍子抜けこの上ない相手なのかもしれない。
「一応、あの方にゃあ警告もしたし誓約書にサインももろとるけど、やっぱり気分はよかないわな。魔法も見れないどころか相手にすらされないちゅ~のは」
ピィピィ声を上げ泣いているふわふわエイリアンへ申し訳なさそうに頭頂部を掻きながら、ンマァシアさんは息を吐く。一応このような有事のために救援部隊が控えており、絶賛向かっているようだが。
「んだから、ミミックの皆さんにゃあ演技指導兼、こっそりの護衛をお願いしとうて。ダンジョンで冒険者を震え上がらせるミミックさんなら、ワテらの希望になってくれると信じとります!」
その有事を未然に防げるなら、まさにミミックという存在は希望なのだろう。大きな頭をペコリと下げて頼み込んでくるンマァシアさんへ、社長は。
「なら早速、実演してみましょうか?」
「ピルフ?」
――さて。数分も経っていない後、件の現場。謎の液体滴る異星のダンジョンの中を、あの冒険者達は肩そびやかし進む。内一人が手で掴み振り回すは。
「オラオラ、お宝部屋は何処だ?」
「さっさと案内しやがれ! また蹴るぞ?」
「ったく、なぁにが恐ろしいエイリアンだよ。」
「あーコイツが使ってた光線武器、拾ってくればよかったわ」
ふわふわボールのようなエイリアン。抵抗の意志はないのか失ったのか、されるがまま。つい先程まであげていたの鳥の声のような悲鳴も、今はない。
「おい、なんとか言えよ」
「さっきまでピィピィ五月蠅かったくせに」
「俺達が恐ろしくて声も出なくなったか?」
「……なあ、なんか変じゃねえか?」
どうやら敏い者は感じ取ったらしい。辺りに蔓延りだす不気味さを。灯りの瞬きはところどころ僅かに、しかし確実に激しくなりだしている。それとは対照的に、雰囲気は悲鳴はおろか水音も機械音も消え去った無へと変じ、冒険者達の足音すら飲み込まんばかり。
何馬鹿なこと言ってんだよ、と笑い飛ばすにはあまりにも不意にして異質な空気を媒介に、不安は瞬く間に伝播する。いつの間にか冒険者達は言葉少なになり、誰とはなしに歩調を早めだし。
「ッチ…! んだここ、広い空間だな」
「まさか…誘い込まれた…?」
「ん、んな訳ねえだろ! 一本道だったろ!?」
「おい、早く教えやがれ!お宝は何処だ!」
まるでダンジョンボスの居座るかのような、されど仄かな赤い灯りによって何もないことがわかる空間へと足を踏み入れてしまう。踏んだ場数から嫌な予感を悟った冒険者達は、焦ったようにふわふわボールを振る。
しかし、エイリアンはやはり沈黙を……否。狙い澄ましたかのように。
「ピィ」
「ハッ、やっと鳴いガッ!?」
「「「はっ!?」」」
突如、エイリアンを掴んでいた冒険者の身体があらぬ方向へと吹き飛ばされる。仲間が見開いた目でそれを追う中、解放されたエイリアンはふわりふわり宙へと舞う。その身が、空間の中央へ到達したと同時に。
「ピイッ!」
「「「「っ!?」」」」
一言高らかに叫べば、空間の壁全てが極彩色に瞬きだす。冒険者達の目を狂わせる輝きはまるで集まるように縮み、刹那、全てを焦がすかの如き白色閃光と化す。
「「「「ぐぁっ……なっ、あ、あぁ…!?」」」」
一瞬目を瞑り、開いた冒険者達は見る。先程より赤く、警戒のアラート音に合わせ明滅する周囲を。その中央にて、ミステリーサークルを紋様とした巨大光輪を背負い、毛をおぞましく蠢かせ浮遊する球型異星生命体を。
「チィ」
異星生命体が荘厳となった声を発すれば、怯む冒険者達の背後より迫りし何かがその顔横をチッと掠める。それは、先程の戦いで打ち払ったはずの光線武器。まるで引き寄せられるように飛んできた武器を装備し、異星生命体は狙いを定める。
「お、おい…! あいつ、魔法使えたのか!?」
「い、いや違う! ちょ、超能力だ!」
「だけどよ、さっきまでそんな強さは…!」
「も、もしかして…覚醒させちまったのか……!?」
突然に身を吹き飛ばされ、後光を背負い、遠くから武器を呼び寄せられればそう勘違いするのも当然。
「ヂィイイイイイイイイッッッ!!!!!」
「「「「ひぃいいいいいいっ!!!?」」」」
「いんや~! ほんにあんりがてぇ! こぅりゃあ契約待ったなしですわ!」
「ふふ~っ! お役に立てて何よりです!」
ダンジョン内を移動する小型浮遊円盤に乗りながら、ンマァシアさんと社長は喜びの表情を。私もお力になれて良かった!
先程の戦いは見事ふわふわボールなエイリアンが冒険者達を全員気絶させ勝利。それはもう直前の立場が逆転した無双ぶりであった。その光景を再度思い出したのだろう、ンマァシアさんは口をプルフル震わせにっこりと。
「おかげであのお客さんも楽しんで終われましたし、冒険者への記憶処理もちかっとで済みましたで! ぜ~んぶ、社長さんの演技指導とアストさんの魔法のおかげじゃ!」
丁度地上にふよよよ捨てられる、装備を全て剥がされ呆けたような冒険者達の中継映像の前で、改めて感謝を露わにするンマァシアさん。そう、さっきも述べた通り、仕向けたのだ。
エイリアンの方の沈黙やその後の行動、各所の演出、それらは全て社長の発案。恐怖を煽り、威圧で制する。依頼通りの演技指導だったのである。
更に社長は、護衛の役も実演してみせた。エイリアンの方を解放した吹き飛ばしがそれである。姿を捉えさせぬその一撃は冒険者達に超能力の不安をよぎらせ、エイリアン側のプライドを傷つけない最低限にして最高の一手。
そして私はンマァシアさん達の壁面明滅に合わせ、ミステリーサークル後光を担当。それに武器を引っ張ってくる役目も果たした。極力バレないようにしたとはいえ、冒険者達に気づかれなくてよかった…!
でも、ちょっと気になることが増えてしまった。さっき思った懸念が一つの延長線上ではあるのだけど。
「宜しかったのですか? 実演で私の魔法を用いてしまって。確か……」
「せやな。確かにワテら、魔法は使えないさかい。この星の人の特権だべなぁ」
ンマァシアさんは見事に先を読んでくださった。実演と銘打った通り、あの光景はンマァシアさんや先程のグレイさん達のようなダンジョン管理員の皆さんへと公開されていたのだ。ミミック派遣会社の紹介として。
ただ、私の魔法は少々社の管轄外というか。確かに魔法が使えるミミックもいるが、あくまで高度なオプション。それをメイン運用目的で派遣依頼されてしまうと、ミミックとしての役割が……。
「その点なら大丈夫だぁ。あれぐらいならワテらでもなんとかなっけ。お客さん用の通信装置をちっくら改造すれば光でもなんでも発生させられるし、超能力…
ほっ…! よかった。私のは代替案に過ぎなかったみたい。なら問題なくミミックはミミックらしいお仕事を果たせそうである。まあ理想としてはミミックが護衛の全てを担当し、皆さんには憂いなく他の作業に従事して貰うのが一番なのだけど…。
「ふっふっふ~! 私、良い方法思いついちゃいました! 上手くいけば、PKを使わずにお手伝いできるかもです!」
あ、社長が何か思いついたみたい! 私は耳をそばだたせ、ンマァシアさんは気持ち頭頂部を向け……え。ンマァシアさんの耳もしかしてそこ? さっき頭を掻いていたのは耳に触れていたということで、いやだからなんなのかって話だけど!
ともかく、二人で社長の次の言葉を待つ。社長は満を持して、触手を数本伸ばして。
「UFOとか、これとか、先程の管理室にいらっしゃったエイリアンの方を参考にした方法です!」
映像に映るUFOと、私達の乗っている浮遊円盤と、さっきまでいた管理室の方向を指さして? えっと、それに共通するのは……ああ!
「ゴーレムの基地ダンジョンでも採用した方法ですね!」
「その通りよ! この子の手に乗るぐらいのサイズまでならうちの子達は問題なく潜めますけど、ご検討いただけますでしょうか?」
私に掌を差し出させ、その上に乗るような円を触手で作ってみせる社長。ンマァシアさんも既に理解なされたようで、楽し気に口を震わせた。
「ピルッフッフ! 勿論ですわ! ダンジョン内を飛び回る程度の反重力装置であればこまいもんですし、なんぼで~も仕込めまっせ!」
交渉成立! 触手を交わし、社長とンマァシアさんは握手を。なら帰ったら早速ラティッカさん達に箱の制作をお願いして……いや待って。
どうせなら箱作りからお任せするべきかな? 後で打ち合わせはするけど、可能ならそうしたほうが良いかも。装置をどう組み込めば良いかもわからないし、デザイン等も異星風にする必要があるのだし。
それに、下手に私達が関わって調整や修理が複雑になってしまえば事である。なにせンマァシアさん達はダンジョン経営をなされているとはいえ、魔法は使えない方々で…………うーん…。
やっぱり、引っかかる。今しがた晴れた延長線、それの本体たる疑念がまた膨れ上がってしまったのだ。聞きたいけれど、聞いていいものなのか……――。
「良いと思うわよ。あなたなら当然の疑問だし、面白い話が聞けそうよ!」
へ? ……ふふっ、社長、いつも通り私の心を読んで…! なら怖いものはない。勇気をもって聞いてみよう!
「あの、ンマァシアさん。少々宜しいですか?」
「ルプ? なんやなんやアストさん、改まってしもうて。ハッ、もしやこわ~い話でっか!?」
いやいやいや!? お手柔らかにぃとまな板の上の蛸のように身を震わせてみせるンマァシアさんを慌てて宥めから、改めて。
「えっと。エイリアンの皆さんは誰も魔法を使えないんですよね? でもこのダンジョン……
「!!!」
実はずっと気になっていたのだ。ここまでエイリアンの皆さんが魔法を使っている様子は一切ない。記憶処理の工程も見せて貰ったが、ペン型の装置で青い光をパッと浴びせるそれに、魔法の気配はなかった。サングラス越しだったとはいえ見紛いはない。
だというのに、ここは
しかもこの感じ、独学による生成ではない。どこを見ても魔法式は理路整然と纏め上げられており、形式通りに構成されている。まるでマニュアルに則り規定に逸れることなく展開された…ううん。
まるで、なんかではない。まさしく規範通りに敷設されているダンジョンなのだ。しかもこの魔法式、少し古めとはいえ間違いなく――。
「……プル……ルププ……プルッフッフ……!」
えっ…? ンマァシアさん? 全ての触手を、頭を、プルプルと微振動させて…? えっ、あ、あの…?
「やはりプロは違いまんなぁ! とうにお気づきだったとは!」
そんな感心するように唸られて!? いやあのですから、プロなんてものじゃ…!
「いつ種明かしすんべととうと迷っておりましたわ! ほな、ちょいとくらお付き合い願いまひょ!」
わっ!? 急に円盤の軌道が変わって! 一体、何処へ?
「ほっほい。こちら総合管理室でござぁい。ま、正しくは艦橋なんやけどな。もう船としての役割は皆無なもんで、プルッフフ!」
連れて来ていただいたのは、最初に訪れた管理室よりも何倍も広く、何倍ものエイリアンの方がいて、何倍ものパネルがチカリチカリピカリピカリと目まぐるしく光り続けている場所。中央には厳重に保管された謎の光球も浮かんでいる。
そして先頭には、星の世界が、私たちの星や月が一望できるほどに巨大な大窓が天井にかけて! なんとも壮観な光景…!
「おや、ンマァシア船長お疲れさんどす。あれま、そちらのお二人は例の」
「これからのビジネスパートナー兼友人にええもの見せたろうと思うてな。場所借りるで~」
その大窓を正面に見据えた椅子へ私達を座らせ、ンマァシアさんはまたもパネルを弄る。と、楽しむように懐かしむように。
「ま~これは観光客向けのプロモーションに流用してるから何処でも見れんねんけど、折角なら当時のワテらのびっくり度合、同じ現場で味わって貰いたくてなぁ」
どうやらええものとは過去ここで起きた出来事の様子。けれど仔細は掴めず首をひねるしかない私へ、ンマァシアさんは操作を続けながらにんまりと笑い。
「正直明かしましょ。ワテらはかつて、調査のためにこの星さ訪れたんだ。うんにゃ、まだ言い方甘ごいかもしれへんな」
そこで頭を傾け考えるようになさったンマァシアさん。今度はおどろおどろしく、触手をうにょうにょさせながら。
「調査なんか建前。実はワテら、この星を侵略しにきたんや」
「えっ!?」
思わず声をあげてしまった…! エイリアンによる侵略って、つまり……! そう息を呑む私を見兼ねたように、近くにいたエイリアンのお一人が。
「船長たら。んな言い方したら取引反故にされますえ? 交流前提やったんに」
「なんや、わかってるやろ。入植目的の調査なんて上から目線、原住の方々にとってはどう足掻いても侵略じゃけぇ」
折角の仕込みを乱すなやと笑いながら言われ、そのエイリアンの方はやれやれと作業に戻る。はぁ、びっくりした…。どうやら半分冗談だったらしい。
「ま、そんな侵略者なワテらがどうしてダンジョンを開いているのか、開けているのか。不思議やろぉ?」
話を戻すンマァシアさん。一応話に乗って考えてみれば……侵略に来たはずの異星人が巡り巡って私達の星を紹介するようなダンジョンを経営しているのは色々と不思議。私達が肯くと、ンマァシアさんは更に愉快そうに。
「さっき、人体実験なんてしないって言いましたろ? 無論、する気なんて毛頭ないっちゅ~のもあるけど……プルフフ! そもそもできへんのですわ!」
その上機嫌な口調で話す内容でもない気がするけど……これまた不思議。できない、とは? その疑問に辿り着いたのを確認し、ンマァシアさんは触手でパネルを最後の一押し、ポチリ。
「なにせワテら、監視下でして」
「「おお~っ!?」」
直後、ンマァシアさん操作のパネルから青い線や幕が艦橋全体に広がり、何かを映し出す。これは…空間全体を使った立体映像? ただ、そうは変わっていない。艦橋の見た目は艦橋のまま。エイリアンの方々の顔ぶれが変わった程度で、窓から外の光景も……。
「あれ、私達の星が……?」
どうやら景色は変わっている様子。私達の星も月も消え、一面の星の暗海。って、え? 下から黄色い文字が、何処かへ流れていくように現れてきた。えっと……。
『統一銀河歴39985年。宇宙を自在に翔けるようになった人々は、その版図の拡大のため、あらゆる星へと調査団を派遣するようになった。現地人と交流を深め、技術を共有し、地を借り受けるその試みは、我々に新たなる友と知見を授けた』
『しかしそれは侵略ともとれる行為。特に技術差のある星々にとっては我々の存在は脅威であり、無用な戦端が開かれたことも少なくない。我々は自らの行いを反省せねばならない』
『しかし、中には想像を遥かに超える技術を要し、我等の来訪を許容する星々も存在したのだ。MIM85星雲方面担当第339調査団が辿り着いたこの星も、その内の一つであった――』
という文章が、壮大な音楽と共に、私達の文字に翻訳されて。これがプロモーションの一つなのだろう。それが流れきり奥へと消えると、わっ!? 眩しっ!?
急に星海が伸び、緑や青、赤や橙の輝きが迸りだして!? 突風や激流のように後方へと過ぎ去っていくそれは、まるで長距離を移動しているようで……あっ!
「ここに到着したみたいね」
社長の言う通り。輝きが収まり窓の外に映し出されたのは、先程までみていた私達の星。それと同時に、私達の暦も端の方に表示された。えっ、私どころか、社長すら生まれていないぐらい前…!
『長距離ワープ、完了。微速航行に切り替えます』
『天体仮符号、IC-33-9。目標外周への到着を確認』
『生体反応はAクラス。やはり知的生命体の生息が見込まれます』
『大気の収集、及び検査を開始します。ポート、開放』
不意に耳に入って来たのは、やはり翻訳されたエイリアン達の声。早速調査に入るのだろう、誰も彼も淡々と――わわっ!?
『なんだ!? 緊急アラートだと!?』
『大気調査用自律円盤、反応途絶!』
『攻撃機構、推進機関、謎の力で強制停止させられてます!?』
『こ、高エネルギー体、接近! いえ、出現!? 計測不能!!』
突如鳴り響いたのは、甲高いサイレン音。同時に艦橋全体が警戒を促すように明滅し、淡々と作業をしていたエイリアン達は動転を。どうやら何かが現れたらしい…! 一体何が……え。
「わっ!?」
「おおお~っ!」
刹那、宇宙船前方に生じた紫白の閃光が艦橋全てを包む。眩しく、されど目を苛むことない暖かきその光は、ある人物の…あの御方の発した後光にして威光。それは――!
『異星より至りし者共よ。我等が園に何用であるか』
「「先代魔王様!」」
そう、オウマ・ルシフース・バアンゾウマ・ラスタボス・サタノイア84世……! 先代魔王様である彼の御方が、軍総帥バエル家を従者に引き連れ星の海に顕現なされたのである! しかもあの御姿、かなりお若い…!
「先代様だけじゃないわね!」
「へ? わっ、わわわっ!?」
ほ、本当だ! 先代魔王様だけじゃない!! 宇宙船を囲むように、次々と現れたるは……神々! 以前お会いしたイダテン神様やニケ神様が、あの時とは全く違う、外敵を打ち払うための神装で!
更にヴァルキリーやエンジェルの方々までもが完全武装で現れたではないか!! ああっ、シグルリーヴァさんやガブリエラ様のお姿もある! 中には人間族を始めとした歴史に謳われる強者英雄まで。これ、私達の世界の最高戦力と言っても過言ではない……!
『接近を感知されてたということか…!?』
『明らかに友好的には見えません…!』
『迎撃も脱出も不可能です…!』
『最悪の場合、プロトコルに従い……――!』
想定外の事態に、艦橋内部も戦々恐々。およそ最悪と思われる判断へと突き進んでしまう中、1人の叱咤が飛ぶ。
『落ち着くんや! 決めつけんな! コンタクトを取るのが先やろ!』
それはンマァシアさんの声。その方向を見ると、こちらもまたどこか若々しいンマァシアさんの姿が。その真横で照れくさそうにしている今の本人をすり抜け、皆の怯えを払いのけるように交信を始めた。
『あーあー。こちら、MIM85星雲方面担当第339調査団。ちゅーても、言葉わからへんですよな……』
『通じておる。下手な世辞は無用。続けるとよい』
『ホンマでっか!? えっらい技術をお持ちのようで……! えっとな、ワテら調査の目的で来たんやけど、出来れば色々と交流したいなー思うて……。もしお嫌なら速攻で退散しますさかい!』
らしい軽さで、されど恐怖を押し殺し尚漏れ出すような震え声で用件を伝えるンマァシアさん。それを受け、先代魔王様は。
『ほう』
『んなっ!? どうやって中に!?』
一瞬の内に私達の前、もとい艦橋内部へと、単独で転移してきたではないか! 思わず武器を構えようとするエイリアン達をンマァシアさんは抑え、単身臨む。
『お一人で入って来てくれるとは、ワテらを認めてくださったということでっか……?』
『それは
そう先代魔王様が差し出した指へ、数度の戸惑いの後に意を解したンマァシアさんは恐る恐るに触手をくっつける。するとその指先はふわりと光ったではないか。まるで交流を行うように。
『……! ワテの記憶、いやワテらの記録、今ので読んだんで……!?』
『然り。ふむ、その上で表明しよう。魔王の名を以て、神意の代弁者として、神の眼差しの元この宙域に居を構えることを許す。望むのであれば此の地にそぐう居住策と、其方等の世界に繋ぐ道を授けよう』
流石は先代様! そのひと動作で相手の全てを読み解き、他の面々と共有したらしい。そして寛大な御心で許容し……直後、ご尊顔に烈なる色を浮かべて!?
『されど、我等が園の営みを不必要に乱すこと能わず。其方等が望む未来は侵略に相違ない。心を改めよ。深きに意を通すだけが交流に非ず。弁えぬならば、容赦などせぬ』
凍てつくような波動と共にその手を振れば、巨大な宇宙船はまるで振り回された玩具の如く揺れる。慄いたンマァシアさん達が一斉に了承を示すと、船はピタリと止まり。
『船を揺らした非礼を詫びよう。すまなかった』
先代魔王様は深々と頭を下げ、謝罪したではないか。圧倒的な力を持つ者とは思えぬ慎ましき態度にエイリアン達は驚き、ンマァシアさんはおずおず繰り返す。
『ワテらを…認めてくださったんでっか……?』
『フッ。其方等が我等の意を汲むのであれば、我等も倣うが道理』
顔をあげた先代魔王様の顔には、先程までの圧はない。それはまさに、闖入者を仲間と認めるかのような、優しく鷹揚なる微笑み。
『この世界へ新たに加わりし種族に、祝福と歓迎を。それぞれの未来を、それぞれが謳歌することを余は願う』
マントを翻し、先代魔王様は消え去る。それに続き、バエル家の護衛も、神々も、ヴァルキリーやエンジェルを始めとした皆も星海より姿を消す。アラートは止まり、機構機関も動き出し、宇宙船は平常を取り戻す。
ただ唯一、魔法による光球を艦橋中央へ新たに浮かべて。
「――ちゅ~のが、ワテらがここに来た際の出来事ですわ! いや~ビビったビビった! あん時のワテ、一介のガキ船員に過ぎなかったのにようこんなおっかねことしたべな!」
立体映像は消え、ンマァシアさんは私達の前へと。そして懐かしむように、光球を容器越しに触れつつ。
「ワテらの船を簡単に潰せるぐらい強いのに、あんな微笑みで許してくれたんだもん。そらこの星好きになるやろ? この星のべらぼうさ、皆に見せたいと思うやろ~!」
その口調に表情、先代魔王様に魅せられたのが手に取るようにわかってしまう。そしてわかった、やっぱり。
「このダンジョンのは魔界の構築魔法によるものだったんですね」
「んだ! 先代様の部下さんが付与してくれたんだぁ。しかも超長距離の転移魔法まで用意してくだすってな。まっさかタンホイザーゲートまで繋げてくれるなんて思わなかったわぁ。おかげで皆帰郷し放題、観光客も呼び放題や!」
その何とかゲートが何処かにあるかはわからないけれど、エイリアンの皆さんでさえ簡単には行き来できない遠方なのだろう。先代魔王様は約束を守ってくださったようだ。
「したっけ、ワテは先代様の言葉に従って程よい距離感でこの星と付き合うことにしたんだ。侵略も調査も放棄して、観光業に勤しむ形でな。ま、やらかしかけた時は神様方が現れて止めてくれっからこれでいい感じなんだべさ!」
ンマァシアさんはそう話を纏める。成程、人体実験等が出来ないという理由もこれで理解できた。神々に見守られているのであれば、派遣するミミック達も間違いなく丁重に扱われるだろう。安心割り増しである。
……ただ、今の映像を見て、ちょっと思うところが。いや私のそれは単純な驚きというか、くだらない衝撃なのだけど…。
「ンマァシアさんって、その……」
「プルフフフ! ええで、ンマァ
いやいやいや!? えっと、その…! まあ……そういう驚きで。ンマァシアさん、私のお祖父様並みのお歳だったなんて…! 好々爺というかエイリアンの技術もかなり凄いというか……エイリアンの見た目こそ怖くないけれど、年齢はわからないものである。
それと吐露ついでに。ンマァシアさんや皆さんの喋り方は、翻訳の故障でもなんでもなかった。ただの癖、且つ訛りだったみたい。故郷から離れて長く駐在していればそうもなるということなのだろう。
けほん! そんな私の失礼過ぎる感想はともかく。社長は依頼について黙考しているみたい。話の誤魔化しがてら聞いてみると。
「結構長くこのダンジョンを営んでらっしゃるとお見受けしました。なら多少マンネリのてらいもあるのでは? 特に、冒険者側にとって」
「は~! 社長さんやっぱしプロさねぇ。んだ。ワテも薄々感じてての。それが舐められる原因になっとる気はすんだわさ」
おぉ…! 流石は社長! 確かに言われてみれば、である。種族によっては幾世代も経るほどにこのダンジョンを営んでいれば、地上に流布する噂も固着してしまう。出てくる敵はエイリアン数体だけ、と。
それは冒険者達にとっては余裕となり、エイリアン達にとっては不利となる情報。当然記憶処理等で対策はしてあり、そのためのミミック派遣要請ではあるのだろうが……前者には限度があるし、後者は依頼の内容的にそこまで力には慣れないだろう。仮にそうでなくとも。
「冒険者が相手な以上、ミミックと悟られないようにしなきゃいけませんしね」
「そうなのよアスト! 存在がバレちゃったら折角の異星感が台無しだもの」
その悩みがある。ダンジョンといえばミミックと称されるほどなのだ。下手に姿を晒し手伝ってしまえば普段のダンジョンと変わらないと判断され、エイリアンは魔物と同列に扱われその神秘さが薄れてしまう。
だからこそ介入は他ダンジョン以上に慎重に行わなければならない。絶対に冒険者達へ気取られてはいけないのである。まさかミミックの評判が逆に足枷となってしまうなんて。
「ん~。でも新しい風を吹き込みたいところよね~。なにか良いアイデアないかしら。私達と悟られず、且つエイリアンの皆さんを立てて、もっと冒険者を驚かせられるようなプラン……ん~」
私も頭を捻るが、そんな妙案は簡単には出てこない。と、ンマァシアさんが申し訳なさそうに。
「そら有難いけど、構らんでっせ? ミミックの皆さんが守ってくれるだけでも大助かりなんやもの」
「いえいえ、大恩ある先代様がお認めになったんですもの! 私もお力になりたいんです☆」
そして私も、グリモワルスの一員として、社長の秘書として! 異星の方々のために一心不乱に策を練る私達を見て、ンマァシアさんはまたも嬉しそうに身をくねらせて。ふふっ!
……ただ、それでも良いプランは中々。この後のダンジョン内調査の間に何か思いつけばいいのだけど。