ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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魔物側 社長秘書アストの日誌②終

 

 

うーん……。残念ながら未だ閃きは誰にも降りず。エイリアン待ち受けるこのUFOダンジョンで、冒険者にミミックと気取られぬまま新たな風を吹き込む特殊演出プランなんて、やはり中々の難題。

 

 

頭の片隅に置きつつダンジョン調査を進めていると、気づけば時刻はお昼時に。勿論私達の世界の時間で。ということで。

 

 

「もう一杯く~ださい! 今度は4つで!」

「いやいや、2つで十分ですって」

「え~4つが良いです! 2と2で4つ!」

「2つで十分ですよ! わかってくださいよ~」

 

「普通の人間の方も働いていらっしゃるんですね」

「んだ。ワテらをおとろしがらね人を雇っとるんだ。現地の人は観光客にウケ良いからなぁ」

 

 

やっぱり緑や青のライトや幾何学模様のデザインで満たされた異星の雰囲気漂う……けれど注文口は瓶やらが並ぶ風変りな屋台風デザインの食堂にて、ンマァシアさんと共にランチを。社長は今しがたなんだかよくわからない謎の丼ものを平らげ、余程美味しかったのかおかわりしにいった。

 

 

因みに私は、この、なんだろう……ブロック状やゼリー状やペースト状で構成された簡素なんだかカラフルなんだかわからないプレートメニューを興味本位で。中々に美味しい…! 触感が見た目と違ってふわふわしたりパチパチしたりぽるんぽるんしたりと、異星感漂う不思議な感覚…!

 

 

「お気に召してもろて嬉しいわぁ。ワテら、食事の摂り方は様々さかい。栄養糧食を都度加工する仕組みにしとっちゃ。ぢゃあから、形も味も食感も自在なんだべ」

 

 

なるほど! 実際にンマァシアさんは私達とは違って蛸のような細い口。そこに長い長いストローのようなものをつけ、エビやカニ、貝やアーマーシャークが殻つきで乗ったパエリアをちゅるると。

 

 

その光景がこれまた不思議。お米が、本来は硬いはずの甲殻類や貝類の殻が、なんなら冒険者の鎧に使われるほどの硬度を誇るアーマーシャークの装甲が、まるでゼリーのように千切れて口へと入っていく。確かに自在みたい。

 

 

「したっけさ。現地の食事を食べたいっちゅ~観光客はいっぺ居ってなぁ。でも食べ方とか色々ちゃうもんだから、ああいったこの星の料理を知ってる現地の人を雇ってアレンジしてもらとるんやわ」

 

 

そう説明を受けながら厨房の方を見ると、その料理人さんは幾つかのチューブから円柱状のペースト塊?を切り出し、よくわからない機械の中へ。パネルを細かく操作し少し待つと、お~! ターキーチキンが出来上がってる!

 

 

それは別途加工された野菜 (もどき)を普通に焼いたりお洒落に切ったりした付け合わせと共に、これまた料理に合うようその場で形成された皿へと盛られて完成、提供されていく。見事な腕前である。…ああいったアレンジ、なんだか。

 

 

「ここでの私達の役割に通じるものがあるわね」

 

 

あ、社長がお戻りに。ふふふっ、はい! まさにその通り。あの料理人の方の役割は、エイリアンの食材を私達の世界の美味しい料理に変えること。対して私達の役割は、エイリアンの行動を私達の世界で通じる恐怖へ変えること。なんというか、概念が似ているのだ。

 

 

だから弊社としても、皆さんの期待に応えられるような料理、もといプランをご用意したいところ。でも、うーん……もぐっ!?

 

 

「アスト、あーん☆ 煮詰まっちゃってもいいアイデアは出ないわよ?」

 

 

社長が私の口へ、丼の具材の一つを押し込みながら…!? そこへンマァシアさんも優しいお言葉を。

 

 

「んだな。良いっちゃ、おもろいプランは思いついたらで! ワテらいつでもウェルカムやでな!」

 

 

うっ……。クライアントにそんなことを言わせてしまうほどに悩み顔を浮かべていたとは。反省しなきゃ……って、この具材、味濃!? なにこれ!?

 

 

「プルフフ! それ2つで一杯食べられるぐらいの味付けでっせ!」

 

「うどんに合うわよ~! はいどうぞ!」

 

 

慌てて謎具材を口から放し、社長からうどんを受け取ってひと啜り…! あっ、ちょっと薄味のほっこりスープが確かに……! いやいつの間にうどんまで……。

 

 

「どう? 美味しいでしょ! アストにも食べさせてあげたくて!」

 

 

もう、社長ってば。さっきちょっと揉めてたと思ったら、私に食べさせるためだったなんて。……というより、この具材、なに? 大きめの黒い魚みたいな……いや、考えるのはよそう。きっと異星の食べ物なはず、うん。

 

 

 

 

 

「「――ごちそうさまでした!」」

 

 

なにはともあれ。私の分も社長と分け合い、昼食を堪能。最初から最後まで不思議な食事だった。さてでは、ダンジョン調査の続きといこう!

 

 

とはいっても、午前中で最重要部たる戦闘フィールド、即ちエイリアン達が冒険者と戦うあのエリアは全て調査完了。加えて管理エリアも。ということで残りの大きな調査場所は。

 

 

「ほな、お客さんが集まる来遊エリアやね。今もたんげ人数がわんさかやし、覚悟してもろて」

 

 

とのこと。エイリアンがたくさん集まっている光景、なんだか楽しみ…! では、社長抱えていざ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっから先さがそのエリアだべ。足元のふわふわ感に注意やけん」

 

「「はーい! おおおおお~っ!」」

 

 

扉をくぐり現れた光景に、社長と揃って歓声を! だってここ、天も地も無いというか! 高い高い天井に、広い広い空間。そこを縦横無尽、本当に縦も横も上も下も空中も自由自在に、光の道が! 

 

 

その上を逆さに斜めにすら歩き語らっているのは、やはりエイリアン達! 先程管理室や食堂等で会った皆さんと同じような姿の方々もいれば、初めてお目にかかる姿の方も!

 

 

例えば、中が透けて見えるスライムみたいな肉体と鋭い牙を持つ浮遊生物と共にいる肩が丸くてスリムで何処か機械的なエイリアン。全身が黒と白の独特な縞々で構成されたエイリアン。蝉のようなお顔と大きな鋏を両手に持つ何処か忍者のようなエイリアンなどなど!

 

 

社長みたいに小柄でどこかカエルを思わせるエイリアン、同じく小柄の三つ目で緑色なエイリアン。全身ムキムキで猿のような尾を生やしギュピギュピという足音のエイリアン、キョンシーの長城ダンジョンで見たチーパオのような衣装を纏い傘を持ち鼻をほじっている美少女チックなエイリアンなどなどなど!

 

 

私の姿に近い、所謂グレイ型のエイリアンだけでも結構いる。勿論どこが脚でどこが手でどこか顔なのかもわからないエイリアンも沢山。ただし。

 

 

「色んな姿の人がいるわね~!」

「ですね~!」

 

 

新鮮だけど、やっぱり恐怖はない。こんな姿の方々もいるんだと楽しく周りを見渡してしまうぐらいだもの! あ、もしかしてあれが例のPVだろうか!

 

 

道に沿うように展開された各所のモニターが、さっき見せてもらった先代魔王様とのやりとりを映し出している。他にも冒険者達が戦う様子だったり、魔物の紹介だったり、あれは…隕石?彗星?の映像も。かなり素敵に編集されていて……おっと、お仕事お仕事!

 

 

「社長、感覚効きますか? ここも普通とはかなり違う空間ですけど」

「大丈夫よ! それにここで潜伏する必要はないでしょうし。ですよね?」

 

 

社長の確認に、ンマァシアさんはにこり肯いてみせる。派遣ミミック達の仕事先はあの迷宮エリアが主。この来遊エリアへもお手伝いや魔物紹介等で呼ばれるかもだけど、普段のように潜伏常駐し敵を捕縛する仕事はない。

 

 

そういった役割はンマァシアさん達の警備チームが担当し、神様方も見張っていてくれているらしい。だから来訪エイリアンがミミック達を害するかもという懸念も解消されたし、それ故ここの調査はその辺りをカットしても構わないのだ。する気なんてないけど!

 

 

とはいえ、多少気を抜いて作業しても問題はないということ。エイリアンの皆さんがどんなことを楽しんでいるのか、観光がてら……ケホン、派遣のアイデア探しのために、見ていこう!

 

 

「そら中には戦いたいっちゅ~連中もようけ居るけど、普通の観光目的で来る人が大半でなぁ。ダンジョン以外にも、体験施設は揃えとるんやよ」

 

 

空中の光の道をぶら下がりながら、でも感覚的には普通に歩みつつ、ンマァシアさんは教えてくれる。改めて見渡してみると、異星な道の先や横には、見覚えしかない施設ばかり。

 

 

酒場やお城、教会に市場、武器屋やアイテム店、洞窟や森林の再現と思しきものまで。そこにエイリアン達は集い、買い、雰囲気を楽しんでいる。……もし侵略されたらこんな光景になるのかも?

 

 

他にも体験エリアは沢山。あそこはどうやら武器の体験コーナーのようで、剣や戦槌や弓といった武器の技を、現地人たる人間やドワーフやエルフが指導しているのが見える。そして習ったエイリアンは、触手やアームやPK(サイコキネシス)やらでぎこちなく掴み、立体映像の的や構える指導員に向けていざ実践!

 

 

向こうにあるのは文化体験のコーナーみたい! キョンシーが舞闘を披露していたり、ケット・シーが猫カフェみたいに集まっていたり、バニーガールがカジノを開いていたり。わっ、あそこのヴァルキリーの方が開いているスポーツ体験ブースで、巨人族相手に3mぐらいのエイリアンが相撲してる…!

 

 

でもやっぱり人気なのは、魔法披露のコーナー! 不可視の力場に守られたステージへ登壇した魔法使いが杖先や魔法陣から火炎や雷撃や精霊を紡ぐ度に、常に満員御礼のエイリアン達は歓声をあげている!

 

 

まあ歓声の表現は金属音のような声とか謎の光の激しい明滅とか何かの液がドバっと噴き出るとかエイリアンらしく様々で、担当の人は慣れてないのかその度に身を慄かせてしまっているけど。大丈夫かな。

 

 

因みに、私もここに入ってから絶賛見られに見られている。宝箱を抱き、記録のために幾つかの魔法陣を浮かべながらンマァシアさんに案内を受けているんだもの注目を引くのは当然かもしれない。なんだか視線がくすぐったい……!

 

 

でもこれほど熱狂的なら是非とも自分の身で直接味わってみたいと思う方が居てもおかしくはない。ならば何も知らない冒険者を呼びこんで戦わせるのは理に適っている。ここの職員となってくれた人達はエイリアン相手の本気の戦いなんて躊躇するだろうし。

 

 

それにしてもこんなに現地人の職員が多いとは思わなかった。これなら派遣ミミック達は一層、普通のダンジョンのように過ごせる……ん? あ、あれ?

 

 

 

なんだか……人、多いような? ううん、グレイ体型が、一頭二腕二脚の方々が、ということではない。そういう方は何かしら私達とは違う体の部位や雰囲気を纏っているものである。

 

 

だけど、今周りを歩く人達は……どう見ても、現地人。私のような魔族もいれば、エルフやドワーフや各種獣人。中にはゴブリンやオーク等もいるけれど、特に人間族が多い。

 

 

しかも冒険者やここの職員のような装備姿ではなく、まるでその辺りの街を歩いていそうな平々凡々な恰好ばかり。もしかして攫われてきている? いや、うーん……? 

 

 

ンマァシアさん達がそんなことをするとは思えないし、今も私達を平然と案内し続けてくれている様子から有り得ないだろう。それに……彼らには違和感がある。

 

 

なんというか、雰囲気がおかしいのだ。例えば、魔法を知っているはずなのにまるで初めて見たかのような反応でこちらを見てくるところとか。しかもその際の表情が更に奇怪さを掻き立てる。

 

 

皆、大小様々ながら驚きの顔を浮かべて通り過ぎていくのだけど……その顔をぴくりとも動かさなかったり、逆にスンと落ち着いたりと変なのである。けれど目だけは瞬き一つせずに私の姿を追っていて、ちょっと振り向くと皆見ていて……っ……!

 

 

そういう人も居るのだろう……街中で見かけたら気にすらかけないのだろう……。けれど皆が皆そんな動きをしていると、明らかに……! っ、もしかして!?

 

 

「多分その予想当たりよ、アスト」

「プルフフ! お気づきになったんやな!」

 

 

息を呑む私へ社長とンマァシアさんはにこり微笑んで。流石社長、この違和感もその正体もとうに見抜いているらしい。ではその答え合わせというようにンマァシアさんはこっちこっちと手招きを。

 

 

「さっき、観光目的の人が多い言うたべした。せやから『こないに立派な星が目の前にあるんやから直接地上の様子を見たい!』言うお客さんも多いんじゃわ」

 

 

まあそれはそうだろう。遠路はるばる観光に来た人が、港の雰囲気だけで満足して帰るなんてことはまずない。なら当然、港から出て街に……って、ここは?

 

 

「だもんでワテら、地上観光も請け負ってるさかい。勿論ワテらと神様の見守りつきでな。んで、基本は透明化でひっそり訪れるプランなんやけど」

 

 

語りを続けながら、ンマァシアさんはこの来遊エリアの中でも一際大きい扉へ、怪しい現地人が幾人も出てくるその場へ入っていく。私も社長を抱えて急ぎ続くと……え。

 

 

「それじゃ生殺しじゃ~!直接人込みに混じらせれ~!っていう最もな意見に応え、こういったプランも用意してんねん」

 

「え、え、あ、あの…! これって……!」

「人に扮するスーツ、ってとこかしら!」

 

 

中の空間に、沢山の複雑な装置の中にセットされていたのは、幾人もの人の……蓋が開いた姿! いやそう形容するしかなくて! えっと、えっと!

 

 

この場に並んでいるのは、精巧な人の外殻。見事な出来栄えとはいえ造り物だとわかる理由は、胴体の部分や顔の部分がパカリと開いているから。その中にはよくわからない緻密極まりない機械や幾つものエネルギー体が丸見え状態。

 

 

ただしそれらは、言ってしまえば肉部分のみ。骨や内臓にあたる場所は空洞となっており、何者かが乗り込めるような形となっている。そう、乗り込めるのだ。

 

 

今まさに、その搭乗が行われている。サイズの違う機械輪が複層になったかのような装置が人形へ向けられたかと思えば、待機していたエイリアンがそれを潜り、光と共に人形へピッタリ収まったではないか。そして蓋はプシュウと音立て閉じられ……!

 

 

「動き出した…!」

「出来良いわねぇ」

 

 

人形は命宿し、手の閉じ開きや脚のステップや異常までの瞬きを繰り返してみせる。その後に歩き出す姿は、街中に居ても何一つの違和感はない。やはりというか、先程あれだけ居た人々は現地人ではなかったのだ。中身はエイリアンだったのである。

 

 

あの時私達へ浮かべていた奇妙な表情も、人型の姿に慣れてないが故のぎこちない顔だったのであろう。見た目のリアルさが逆に不気味に作用してしまったというか。それでもあれほどの人数が集まっていなければスルーしていたレベルだし。

 

 

「いや~魔法だったらちょちょいのちょいで姿変えられるんやろけど、ワテらはこうするしかなくてなぁ。ヘンテコなモンお見せしちょりますわ」

 

「ヘンテコだなんて…! とっても凄いです!! 誰でも変身できるなんて!」

「高度に充分に発達した技術は、魔法と見分けが付かない。思い知りました☆」

 

 

私と社長は揃って感服を! 社長の言う通り、最早魔法と変わらない…いやそれ以上かもしれない!

 

 

魔法というのは残念ながら皆が使えるものではない。まず才能ありきで、次に研鑽。それが高いレベルで合わさって初めて実用に耐えうる、限られた人しか使えない技術なのだ。

 

 

だがエイリアンの技術は違う。魔法の理想形といっても過言ではない! 製作の手間こそあろうが、それさえ済めば誰でも分け隔てなく使える代物なのだから! それこそ魔法の使えない人でも、社長のようなミミックでも……あっ!

 

 

「社長!」

「ふふっ! 相思相愛ね♡」

 

 

ちょっ、もう……! コホンッ。確認を取り合う必要はなし。私と社長は揃って、はにかんでいたンマァシアさんへ!

 

 

「ンマァシアさん、一つお願いが。あの人型スーツ」

「私達ミミックに貸していただけませんか?」

 

 

エイリアンが入れる空洞があれば、ミミックは問題なく入り込める! つまりあれはミミックにとって箱同然。即ち、人を模倣することができるのだ!

 

 

そんなことができればお手伝いの幅は大きく広がる! 別働隊の冒険者を演じても良いし、ところどころに出没させて驚かせても良い。恐ろしいイメージを増して良いのなら、エイリアンに囚われたあるいは洗脳された人を演じても良いし、肉膜に絡ませて悍まし気にしても良い。シチュエーション次第で色々と……――。

 

 

「ル、プルルルゥ……。いぃやぁ……そぉれはちいとあかんかもですわ……」

 

 

あ、あれ? ンマァシアさん、触手を力なく緩め、申し訳なさそうに頭を低くして? 貸出は駄目みたい?

 

 

「実はあれ、たぃぎゃ高級品でしてな。あんまし替えが効かへんのよ。んま、ちょびとぶつかったり激しめに動いたりとかは問題ないんが、戦いっちゃなると……」

 

 

とのこと。確かに改めて見れば容姿のリアル具合や中身の精密構造、どんなエイリアンが入っても人らしく動ける仕組み、どれをとっても技術の粋であり、値が張る代物だというのも頷ける。

 

 

それをダンジョン内で臨戦態勢な冒険者の前へ脅しとして出せばどうなるか。考えるまでもなく忽ち傷をつけられよう。えっと、じゃあ……!

 

 

「外側だけでも。ミミックなら中の機械類が無くても動かせるはずですので…!」

 

 

社長に伺いを立てつつ、食い下がってみる。きっと一番高価な部分はその中身なはず。それを除けば……!

 

 

「プルゥウン……堪忍なぁ。ガワの素材も、あらゆるエイリアンに合わせるために特殊なモン使っとってのぅ。一体分でも例の浮遊装置何十個分かはするんよ。新造するんは……」

 

 

うぅ…。毛穴や髪の一本一本や汗の分泌すら再現され、どんなエイリアンが入っても本物と見分けのつかないリアルさでいられるのは、やはり相応のコストがかけられている証か。はぁ…残念。

 

 

「一応、使ってええのは幾つかあるんやけど……あんま似てへんのよね」

 

 

そう譲歩してくださりつつ、ンマァシアさんは手近なパネルを弄る。すると傍の壁が空き、中から機械の収まっていない人形が。ただ……ん~。

 

 

「なんというか……」

「ぶっちゃけ、エイリアンね」

 

 

言っちゃった。まあ、そう。人型を模しているとはいえ目が大きすぎたり、髪型がもはや頭から生える触手になってたり、手の造形が何かに寄生されているみたいだったり、赤白縞の服に白ズボンを纏いヘルメットを被ったあからさまな人形だったり。こっちのは……首が無いぐらい顔がやけに大きくて七三分けしている男性?

 

 

ともかくどれもこれも、全て私達とは似て非なる姿。魔物の中に紛れていればまだしも、そうでない以上エイリアン判定が下されてしまうだろう。無論これも有効活用できるだろうけど。

 

 

「私達が下手にエイリアンを演じて、お客さんのインパクトを薄めちゃうのは避けたいわね」

 

 

懸念事項はそれ。人に扮するならばまだしも、エイリアンに扮するとなるとメインであるお客さんエイリアンの印象を食いかねないのである。

 

 

加えてレパートリーが限られている以上、冒険者へその姿を記憶されかねない。そうなってしまえば興醒めこの上ない。どんなエイリアンが出て来るかわからないのがこのダンジョンのコンセプトの一つなのだから。

 

 

まあ実際に運用するならその辺りには細心の注意を払って出動させるだろうが、やれることが限られてしまうのは事実。良いプランを思いついたと思ったのだけど……仕方ない。

 

 

「ナシ、ですかね」

「かしらねぇ」

「ホンマわりいっけなぁ……お願いしてる立場やのに……」

 

 

ンマァシアさんが謝る必要なんて。クライアントの意見が第一なのは当然であり、本依頼は他ダンジョンのとは違いアミューズメント重視。ならコストパフォーマンスは重要なのだから。けれど、うむむ……。

 

 

正直、諦めきれない。だって人型の箱に入って人を模倣するなんて、エイリアンの技術じゃないと難しいだろうし。あのスーツを使わない方向性でどうにかならないかな?

 

 

その場合クリアするべき条件ってなんだろう。技術はあるだろうからやっぱり素材だよね。幾らでも調整が効いて、安く確実に調達できて、攻撃を受けても被害は軽微で、出来れば容易く替えが効く何か。でも、その条件に当てはまるものなんて――。

 

 

「あの加工食べ物ぐらいかなぁ……」

 

「ッ! それよっ!!!!!」

 

 

ひゃっ!? 社長、急に大きな声を出して!? えっ、あ!? ま、まさか!?

 

 

「ンマァシアさん、今しがたの代案を思いつきました! 先程みたいに助力の必要な方がメイン層ですが、上手くやれば複数チームを相手どれる方法ですし、他にも色々と戦略の幅が広がりますよ~! お耳を失礼して…!」

 

 

びっくりする周りをこれ以上刺激しないように、まるで内容が少々危険だと言わんばかりに、社長は私の耳とンマァシアさんを頭頂部を寄せてこそこそ話を。ふんふん……あぁ、やっぱり……うわそんな手法まで!?

 

 

「プッフゥ! えっらい案が出てきましたなぁ……! 技術的にも予算的にもオールグリーンでっせ。ばってん、はぁああ……プフルゥゥゥ……!」

 

 

細い口から幾度も息を吐くンマァシアさん。そして、畏怖と感激の籠った一言を。

 

 

「改めて依頼して大正解だと思えましたわ……! こらぁ面白くなりちゅうが!」

 

 

気に入ってくださったなら何よりである。確かにエイリアンの加工技術さえあれば素材は何だって良いのかもしれない。あのダンジョンの薄暗さの中でミミックが操るんだから。いや、それにしても……!

 

 

「中々に攻めますね…!」

 

 

それと同時に提示されたプランの実行例に、私は舌を巻くしかなかった。なんというか、良いのだろうか……!? そんなに、その、無惨で…! 素材が素材だから後処理含めてアリなのだろうけど……!

 

 

「プフゥ……! まさに『彗星分裂』級の驚きやでぇ……!」

 

 

ンマァシアさんも未だ衝撃冷めやらぬご様子で――ん? 彗星分裂?

 

 

「プル? あ、これは失礼しましたわ。ワテらのスラングがつい!」

 

 

小首を傾げる私に気づき、ンマァシアさんは軽く釈明を。えっと?

 

 

「こいに棲むワテらの間だけなんやけどな、うったまぐった時にそう言うてしまいますねん。これにゃあ由来があんだず」

 

「もしかしてそれって実際に、その、起きたことのですか?」

 

「プフル! よう知ってまんなぁ! まあまあ前の出来事でっしゃろ?」

 

 

確かに私の生まれる前の出来事らしいし、公的な記録にも『恐らく神の介入があった不思議な天文現象』としか記載がない事象で、知る人はそう多くないとは思う。ただ、それを私が知っているのは……。

 

 

「そうやそうや! それもお見せしましょ!」

 

 

ンマァシアさん、思いついたようにパネルを弄り出して。何かの記録を探すようにしながら説明の続きを。

 

 

「ワテらがたまげたことのトップはそら先代魔王様の降臨でっけど、同じぐらいにおぶけた出来事があったんですわ。それが例の『彗星分裂』で、あまりのインパクトからびっくらこいた時に使う言葉になってしまったんどす」

 

 

ここじゃ派手に見せられないさかい、小さな映像で許してくれな。と私達の前にそこそこ大きな投影画面を表示してくださるンマァシアさん。えっ、ということは今から見せてもらえるのって……その彗星分裂の映像!?

 

 

しかも地上からではなく、この星の海からの光景だなんて…! エイリアンの皆さんに、あの魔王様降臨と同じぐらいの衝撃を与えたなんて! つい社長を抱き寄せる力を強めて食い入るように目を向けてしまう私へ、ンマァシアさんは再生操作を行いながら。

 

 

 

「彗星ゆうけどな、実はあれ、巨大隕石やったねん」

 

 

 

えっ……!? ついンマァシアさんへと目をずらしてしまうと、瞬間耳へ入って来たのは。 

 

 

『――ほんとに構いませんので!? ワテらの総力をあげれば破砕することもできまっせ!?』

 

『その篤心のみ頂戴しよう。だが助力は無用。疾く退避を行うと良い』

 

 

アラーム鳴り響く艦橋にて、必死に通信を行うンマァシアさんの声。そのお相手たる先代魔王様は、泰然と。そしてその周囲の席の画面、及び窓の外に映し出されているのは……わわわっ!?

 

 

あれは彗星なんかじゃない、どう見ても巨大隕石! それが私達の星を穿たんと、真っ直ぐに向かってきている! あんなのが落ちてしまえば、地上は死の世界に……!

 

 

『ンマァシア船長、ご決断を! すぐに阻止限界点に到達してまうで!』

 

 

その焦燥を伝えるように、船員の1人が報告がてら迫る。ンマァシアさんは数秒の煩悶の後、遠く離れた先代魔王様に向け、わざとだとわかりやすい不敵な笑みを。

 

 

『恩を売るチャンス、逃す訳あらへんわな! 全砲門、臨界やな!? 総員、短距離ワープ準備! しかる後、速やかに――!』

 

『フッ。ンマァシア、余の友よ。我等が世界を侮るな』

 

『プッ!? んなっ……!?』

 

 

瞬間、かつて先代魔王様が残していった光球が輝き、艦橋を、巨大宇宙船全てを光に包む。それはすぐに収まったが、なんと……!

 

 

『せ、船長! わ、ワープしちょります!!!』

 

『なんやて!?!? 何処や!?』

 

『月の傍じゃ! 隕石にゃあ近づいたけど……!』

 

 

星の空の上にいたはずの船が、一瞬にして月付近へと転移しているではないか! 魔王様のお力によるものだろう。思わぬ事態ながらも、ンマァシアさんはすぐに指示を出す。しかし。

 

 

『ならすぐに距離調整して、ワープを……どしてん!?』

 

『そ、それが…! 航行機関、最低限の機能残すて停止すてら!』

『攻撃機構もですわ! 臨界エネルギー、消失!』

『今から動かしたかて、阻止限界時刻までは……!』

 

『ッ……! 魔王様……!』

 

 

見覚えのある光景に、ンマァシアさんは先代魔王様へ目を向ける。かの御方は微かに口角を上げてみせながら。

 

其方(そち)等には見物と記録を許す。地上には残らぬ『彗星』の眺景、魔の極致、其処でゆるり楽しむと良い』

 

 

そう残し、通信は切断された。残されたンマァシアさんは何も出来ぬまま、ただ広い窓の外に各データと拡大映像と共に映る、凶悪な隕石を見やるしかない。

 

 

『ん? なんやこぃ……!』

『どげんしたと?」

『いや今、月の上からちっちぇなんかが飛び出すてったような光と反応がな』

『どれ。うわ本当や。しかもすごか勢いで。バニーガールん娘か?』

『にすては速すぎるびょん。もう捉えらねし、とんでも魔法か故障かだな』

『やろうな。こん加速度ならそれこそ、もうそろあん隕石に……』

 

 

そんな船員達の会話が微かに聞こえる中、ンマァシアさんは固唾を飲むように細口を震わせ、何も出来ない自分に苛立つように触手を揺らす。このまま隕石が愛する星を襲う様を見ているしか――ん? えっ?

 

 

『『『『『「はッ!?」』』』』』

 

 

映像の中のンマァシアさん達と、私の声がリンクしてしまう……! だ、だって……! 隕石が、隕石が!!!

 

 

 

『『『『『「割れて……いや分裂して!?!?」』』』』』

 

 

 

あっ、また被っちゃった…! で、でもそう言うしかない、そう叫ぶしかないんだもの、この光景!! 

 

 

何が起きたか、目を擦っても信じられない……! 星を圧し潰さんと迫っていた巨大隕石が、突如として半分に割れたのだ、分裂したのだ!! うん、何言ってるか自分でもよくわからない!

 

 

でも繰り返すようだけど、そうとしか言いようがないのである! 映像もそう捉えているんだし! 割れた隕石はまさしく彗星のような尾を引き、離れ離れに。そして私達の星を上下に挟むように飛び越え、そのまま星の海の遠くへと……――!

 

 

『……あ。船長、機関の調子、戻りましたわ』

『砲の調子もでっせ。えっと……』

『脅威は……見ての通り、無うなりましたな……』

 

『……そか。ほないつもの位置に戻る準備や』

 

 

半ば呆けたように報告する船員と、同じく呆け気味に指示を出すンマァシアさん。ゆっくり動き出す船の中、記録された隕石破壊もとい彗星分裂の映像を繰り返し流しながらンマァシアさんはぼそり一言。

 

 

『ほんまあの星、大好きやわぁ……』

 

 

 

 

 

 

「――ちゅうんが、ワテらから見た彗星分裂でしてな。ピヒッフ~…! あの光景を思め出すだけで触手の先まで衝撃が走りまさぁ…!」

 

 

今尚、その彗星分裂映像のみを繰り返しながらンマァシアさんは浸るように懐かしむ。これが彗星分裂の真実。えっと…………。

 

 

「ええとこに! ンマァシアさん、ちょいとご相談したいことが」

 

「プフ? なんやなんや。すまんこってお二人さん、ちいとばかし席外しまっせ」

 

 

運よくンマァシアさんが呼ばれ、何処かへと。ふぅ、では詰まっていた思いを。

 

 

「社長、これが?」

 

「えぇ。私達最強トリオの活動の一つよ。あの時変なのが急に現れた感じはしたけど、このUFOだったのね」

 

 

うん。何を隠そう、この彗星分裂の実行者は社長と当代魔王様とオルエさん(サキュバスクイーン)の幼き三人組なのだ。話には聞いていたけれども、なんとも……!

 

 

「ま、この映像も事実とはちょっと違うわね。実際は隕石破壊だもの。彗星が分裂にしたように見えたのはオルエの幻術よ」

 

「そうなんですか!?!?」

 

「えぇ。まずマオが月への転移や私達の強化諸々を担当。そんで私が二人を入れて跳ねて、隕石に突き刺さって内部からえいやって両断。最後にオルエがお洒落に幻術をかけて、まるで彗星が分裂したように魅せたのよ」

 

 

サラッと言いのけるんだから! そして社長ならそういう事も出来てしまうという確信もある。とうとう知ることの出来た社長達の武勇伝が欠片を胸の内で味わいつつ、一応問う。

 

 

「どうします? ンマァシアさんへ真実をお伝えします?」

 

「ん~内緒にしときましょ☆ 詳細を知らない方が色々と楽しめるものよ。彗星分裂の真相然り、冒険者達におけるエイリアンの存在然りね」

 

 

それはそうかもしれない。UFOにお宝と共に潜む恐ろしいエイリアンが実はただのイベントだと知れば、冒険者は確実に冷めてしまう。不思議だからこそ、魅力があるのだ。

 

 

彗星分裂も同じだろう。わざわざ社長達への敬服に置き換える必要はない。驚愕のスラングとして、私達の世界への崇敬として伝わった方が良い。実際社長達が動かなくとも先代魔王様や神々や英雄達の誰かしらが破壊せしめただろうし。

 

 

ではこのことは胸の内に仕舞ったままにするとして。あ、丁度ンマァシアさんが戻ってきたみたい。良いものを見せていただいたお礼を伝え……あれ?

 

 

「どうかなされたんですか?」

 

「あぁいや、小さなトラブルですわ」

 

 

先程まで思い出に細口を震わせていたンマァシアさんの顔は、現実に引き戻されたような様子に。私の問いかけにそう答えた後、隠す必要もないかと言うように仔細を教えてくださった。

 

 

「さっき魔法披露のステージ通りかかったべ? そこで魔法を披露してくれてた子が倒れてしまいましたねん。無茶はせねでええんに」

 

「えっ!? 大丈夫なんですか!?」

 

「今メディカルチェックを受けてもろてるけど、まあ大事ないやろ! 他の人曰く、魔力切れらしいしな」

 

 

そこまでの大事ではないのがわかる調子で答えるンマァシアさん。さっき見かけたあの担当の人だろうか。一風変わった歓声に身を慄かせていたのは慣れていないからではなく、調子が悪かったからなのかもしれない。

 

 

それに倒れた理由が魔力切れというのも頷ける。先程披露していた魔法はどれも派手。それこそダンジョンでの戦闘に用いられるレベルの代物だった。それを一日中高頻度で放っていたとなると倒れることもあるだろう。

 

 

魔力切れならばポーションを飲み暫く休めば回復する。私達の世界では日常茶飯事の症状であり、確かに大事ではない。……だが、ンマァシアさんの顔は僅かながら曇り気味。倒れた人が無事で安堵はしているものの、何かが気にかかっているような細口の曲がり具合。

 

 

「もしかして、ステージを止める必要が?」

 

「ルプッ…! か~…察しええわ社長さん。んだず」

 

 

社長が見事言い当て、ンマァシアさんは降参と言うように触手を浮かせひらひらと。裏事情を明かしてくださった。

 

 

「正直なとこ、ワテらを受け入れてくれる凄腕の魔法使いってそう居らんがじゃ。だから一人一人に無茶させることになってまってなぁ」

 

 

それは……お察しします。エイリアンのUFOで魔法披露なんてスカウト、眉唾であろうし恐怖もあろう。冗談交じりとはいえ私達でも人体実験の可能性を警戒していたぐらいだし。なんと声をかけるべきか迷う私達へ、ンマァシアさんは努めて朗らかに。

 

 

「ま、お二人さんが気にすることあらへんがな! 今日休みの人に声かけてみればええし、わがねかったら潔く閉じれば宜しだけのこと。余計な気を揉ませてしまいましたわ」

 

 

軽く謝り、私達の案内を再開しようとするンマァシアさん。とはいえダンジョン内調査も終わりに近いし、商談もほぼ纏まっているようなもの。なんなら、その問題解決に注力していただいても……ん? 社長?

 

 

「ふっふっふ~! ンマァシアさん、お忘れですか~?」

 

「プフ?」

 

「私の秘書は、魔法のプロですよ!」

 

 

ちょっ!? 社長!? その切り出し方、もしかして……!?

 

 

「ピフ……!? ちゅ、ちゅ~ことは……!?」

 

「えぇ! ステージの繋ぎ、うちのアストが引き受けましょう!」

 

 

やっぱり!! ああほらンマァシアさん、私にもわかるほどに期待の籠ったお顔を! はあもう…ふふっ♪

 

 

「ルルプ……アストさん、社長さんはこう言ってくださっとるけど…よかと?」

 

「はい! 若輩者ではありますが、勤め上げさせていただきます!」

 

 

先代魔王様と社長達の偉業という貴重映像を見せていただいたんだもの、これぐらいの御礼はしなければ! エイリアンの皆さんがどんな魔法を好むかはわからないけれど、全身全霊を以て――。

 

 

「彗星分裂級の驚き、お見せしますよ~!」

 

 

って社長! ハードル上げないでください!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

『これより、特別ステージを開催いたしますで。魔法にご興味のある皆さん、こぞってご覧くださいな。ゲストは悪魔族とミミック族の――』

 

 

「またハードル上がっちゃった……」

「ふふっ! 私達ならいけるわよ!」

「微力ながらワテもお手伝いしまっせ!」

 

 

来遊エリア内に響くアナウンスを聞きつけ、ステージを包む不可視の力場の外は既に空中にいたるまで満員御礼のエイリアンだかり。緊張してきた……! けど、社長とンマァシアさんも協力してくれるから怖いものはない!

 

 

それでは深呼吸をして――開演といこう!

 

 

 

「「「「「オオオオオオォ~~ッ!!」」」」」

 

 

 

空中生成した派手な魔法陣を潜り、魔族の翼を広げ尾をしならせ角煌めかせてふわり登壇すれば、もうそれだけで歓声が! さっき低重力飛行に慣れていてよかった。では早速、指をパチリ!

 

 

その合図で周りに浮かぶは、これまた幾つものカラフルな魔法陣! そこから生成されるのは、私よりも大きい火球、水球、風球、土球、雷球、氷球! それらは直後それぞれの属性の翼を生やし、ほうき星のような尾を引きながら不可視の力場へ跡を焦がしながら、鳥の如く場を飛び回る!

 

 

既に皆を魅了しているみたいだけど、まだまだ! 今度は観客席すれすれに魔法陣を天地問わず大量展開、竜牙兵騎士バージョンを召喚! 彼らはエイリアン達を守るように武器を構え、飛んでくる属性球鳥を弾き、切り、吹き飛ばす!

 

 

しかしそれぞれの球鳥は身を分かち、小さな球鳥となってさらに場を縦横無尽に、網を作るかの如く羽ばたき続ける! これもまた不可視の力場に沿うように飛ばし、攻撃的な棘を生やし壊してみせれば、ふふっ驚いてる驚いてる!

 

 

ここから更に盛り上げてみせよう! さあご覧あれ。ステージと観客席の丁度中間、竜牙騎士に指し示され球鳥達に囲まれたその場に展開されるはまたも派手な魔法陣。そしてそこをくぐり現れたのは、銀の浮遊円盤!

 

 

けど、それはどこかおかしい。だって円盤には、ちょこんと宝箱が嵌め込まれているのだから! おっと、それに向け球鳥が一斉に! 危なーいっ! 

 

 

「ふよよよ~んっ☆」

 

 

なんて、ふふっ♪ 危ないわけがない、宝箱の正体は言うまでもなく社長なのだから! 自分の箱の一部となった円盤を上下左右自由自在に高速移動させ、全てを躱してみせるなんてお茶の子さいさい。派遣ミミックの良いデモンストレーション!

 

 

勿論、追いかけっこだけで終わる訳はない! 社長は途中で円盤をパージ、空中へ離脱! タッチの差で球鳥は円盤を貫き破壊、爆散せしめる! 勿論ンマァシアさんの了承済み、ご安心を。

 

 

さあ、ふわふわ宙に取り残された宝箱は、全方位に展開した球鳥の飽和属性攻撃を耐えられるのだろうか! 結果は~、3、2、1、突撃!

 

 

「パクパクパク~ッ!」

 

 

ふふふっ! 耐えられるどころではない。円盤を容易く破壊せしめるはず属性球は、まるで巣へ帰る鳥のように宝箱の中へと飛び込んでいくではないか!

 

 

その間に私はステージを降り、召喚した竜牙騎士を呼び寄せながら宝箱の真下へ。全てを飲み込みパタンと閉じた宝箱を、手繰るようにゆっくり引き寄せる!

 

 

最中、宝箱は再度パカッと蓋を開き、真下を向く。そしてゆっくり横回転をしながら属性球を吹き出しはじめたではないか! それは竜牙騎士の掲げる武器をエンチャントするように灯し、弾け、場を鮮やかに彩る! そして最後は、せーの!

 

 

「「ふ~っ☆」」

 

 

私は抱っこした宝箱を掲げ、宝箱は残りの攻撃をひとまとめにした大きな虹球を空中へ撃ちだす! そしてそれに向け、竜牙騎士が剣を、槍を、矢を放てば――武器のぶつかり合う鋭く小気味よい響きと共に、花火の如く大爆散! 満開の灯りに照らされ、私と社長は一礼で締めてと!

 

 

「「「「「☆☆☆!ネイラiru魔法kkibi◎♯凄い*$&!!!♪」」」」」

 

 

良かった、大歓声みたい! 翻訳出来ない程の声や金属音や明滅や謎液体がそこかしこで! 宇宙じゃ体験できなさそうなことを色々詰め込んだ甲斐はあった! けれど、満足するのはまだ早い。

 

 

なにせ今のは第一部。第二部はすぐさま開演する。ほら!

 

 

「「「「「オアッレトハ!?」」」」」」

 

 

エイリアン達の歓声が止まる。それも当然。ステージの真上に突如としてUFOがワープしてきたのだから。そこから光を伴いゆっくりと降りてきたのは、ンマァシア船長!

 

 

私達も所定の位置につき、向かい合って一礼。直後!

 

 

「プルフ!」

 

 

ンマァシア船長は数多の触手に握った光線武器を私達へと向け、放ったではないか! その連続射撃は瞬きの暇すら与えずに私の身を貫かんと迫るが、させない!

 

 

その一本一本をそれぞれ、展開した魔法陣で弾き防ぐ! 今度はこっちのターン。その魔法陣を竜牙騎士の前に出せば、彼らはそこから光の武器を生成し、斬撃や刺撃、射撃を放ち応戦する!

 

 

しかしンマァシア船長はUFOから降り注ぐ特殊バリアでそれらを無効化。更には小型UFOを展開し、今度はリング型の弾を大量に! ならこちらは新たに眷属の小悪魔達を召喚、フォークでリングを絡めとって投げ返しちゃえ!

 

 

手を変え品を変えた応酬を数度か繰り返し、都度驚嘆と歓声が溢れる中、とうとう最終決戦! ンマァシア船長はUFOからガシュウと展開した巨大光線砲で、私は魔法陣を連ねて、息を合わせて~!

 

 

「発射っ!」

「プルゥ!」

 

 

同時に放つは、極太のビーム! エイリアン技術と魔法技術の迸る照射は拮抗し、更に会場を沸かせる! さあしかしこれ、どう収拾をつけるべきか。おやおや?

 

 

ずっと私に抱かれていたはずの宝箱が、社長がいつの間にかいなくなっているではないか。私は目を向けないようにするけれど、皆の注目は集まっているはず。ビーム衝突地点の前、宝箱から身を曝け出した社長が皆へアピールをしてから――!

 

 

「そ~れっ!」

 

 

宝箱形態となり、ビームの狭間へと自ら身を投じたではないか! どちらの攻撃も見せかけではない。そんなことをすれば一瞬で箱は塵に……ふふっ♪社長だもの、なるわけがない!

 

 

「ぐるるるるる~んッ!」

 

 

なんと宝箱は高速回転! さながらエイリアンのなにかしらの装置のように、双方のビームを弾きに弾きに弾く! 拮抗の全ては光の飛沫へと変えられ、最後には星の爆発の如く、パアンッと盛大に消滅を!

 

 

場を収めた社長は着地し、再度皆の注目を集める。そして数回のステップを挟み、円盤も無しにまたも高速移動を! 転移やワープのような速さでまずは私の頭の上に来て…私と竜牙騎士を箱の中へ次々パクパクリ!

 

 

またもふわり着地した社長は、仰天の声が響き渡る中で同じステップを挟み、またまた高速移動! 今度はンマァシア船長の頭の上に! そして同じくンマァシア船長を箱の中へとパクリ仕舞い込み…身より何十倍も大きなUFOまでをもパクリと!

 

 

悉くを飲み込んだ宝箱は、そのまま宙を流されるようにふわふわステージ中央へ。そして箱をカタカタ震わせて~~せーのっ!

 

 

「「「ぷるふふんっ☆」」」

 

 

箱から飛び出したのは私とンマァシアさんを上に乗せたUFO! 続いてその下に集った竜牙騎士は、社長を私の元へと投げ上げて! そうして皆で決めポーズ☆

 

 

これにて第二部も終幕、さて評判の程は…わわわっ!

 

 

「「「「♡♡♡♡♡!!〇◆ンマァシァ$悪魔&ミミック♭!♪!♪!♪」」」」

 

 

先程までを凌ぐ、大歓声! その勢い凄まじく、UFOから飛び降りて一礼しても、ステージ裏へと引っ込んでも全く冷めることがない。ふぅっ!

 

 

「即興かつぶっつけ本番でよくやったわね! さっすが私のアスト!」

 

 

一息つくと、社長は私を撫でてくれて…! それは社長もですよ、なんて♪

 

 

「なんやえっらい場慣れしとりますやん! もしやそういう経験おありで? こん時だけは調査放棄したんが惜しゅう思えますわ~!」

 

 

ンマァシアさんもそう褒めてくださって。つい私と社長は顔を見合わせ笑い合ってしまう。きっとアイドルの経験が活きたのだろう。と、ンマァシアさんは触手を合わせ頼み込むように。

 

 

「無茶は重々承知でっけど、もうちょっこしだけでも頼めへんやろか? あれ、簡単には収まらへんで…!」

 

 

あはは…。ステージ袖から覗かなくてもわかる。昂ったエイリアン達がもっと見たいと掛け声を贈ってくれているのは。アンコールに応えるのは吝かではないし慣れたものだけど……でも、どうしよう。

 

 

繰り返すようだが、今しがたの演目でさえ即興。だからアンコールの内容なんて考えてあるわけないのだ。なのに深く考える時間もンマァシアさんにUFOや武器を調達してもらう時間もない。それに、何より。

 

 

「もっと社長を際立たせたいんですよね……」

 

 

実はちょっと不満だったのだ。さっきの演出では社長の出番が少なかった。なんならUFO操作もビーム弾きも、ともすれば社長の技と受け取ってもらえなかったかもしれない。ただ、一応それは。

 

 

「だから良いわよ私は。皆魔法を見に来てるんだから」

 

 

そんな社長の一声に私が折れた形の演出だったのである。それが正しいのはわかるけど……個人的には、もっと社長の凄さを知らしめたいのだ! だって社長は、あの『彗星分裂』を――あ。

 

 

「ンマァシアさん、つかぬことをお聞きしますが……観客の皆さんも、彗星分裂についてご存知だったりしますか?」

 

「プフ? せやな。星の紹介PVにも使わせてもろうてますから」

 

 

よかった。来遊エリアに来てすぐに目にした紹介映像、そこに映っていたように見えたのは気のせいじゃなかったみたい。なら、ちょっと危険だけど……!

 

 

「やってみたい演目を思いつきまして。――という感じなんですが」

 

「フプフ!? は~~やっぱお二人さん、とんでもなか! うむ、面白そうやし、船長権限で全面的に許可したろ! 派手にけっぱってけれ!」

 

 

やった! 早速魔法を組み立ててと。これなら皆さんを満足させられるだろうし、私も満足できる。ちょっと匂わせになっちゃうけれど、見てみたいんだもの♪ ということで!

 

 

「社長、あの時みたいにお願いしますね!」

 

「全くもう、あなたって子は……。本当、可愛いんだから!」

 

 

やれやれと肩を竦めつつも、社長も乗ってくれた。ふふっ、それではアンコールに応えよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ピュポポポポ! ポュポポピピ!!」」」」」

 

 

社長と共にステージへと戻ると、歓声が流星群の如く降りしきる! 私はそれに触れるかのように手を伸ばし、えいっ!

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

瞬間、辺りは暗転しだす。私が光を闇に包んで隠しンマァシアさんが指示を出すことで灯りを調整したのだ。今の来遊エリアはまさに星海の只中。

 

 

どよめくエイリアン達はしかして気づく。一際輝く妖光に、私しかいないステージを照らす灯りに。一斉に注目を浴びたところで、魔法陣展開、転移!

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 

驚かれるのも無理はない。転移した先はステージの外、観客席の背後なのだから。そこで警戒走らせるようなライトを身に受け、魔法漲らせた翼と腕を大きく広げ、詠唱を。来遊エリアの空中へと創造せしは――!

 

 

「「「「「〇◇×+-$隕&石◎#*●!?!?」」」」」」

 

 

その通り! 巨大隕石である! あの映像を思い起こさせるような形のそれは、全てを灰燼に帰す暴虐の天災は、焔の波動を纏いて唸り観客席へと墜ちゆく。その脅威の程についてはエイリアン達の方が詳しいのだろう、皆一様に焦り、中には逃げ出そうとする者まで。

 

 

ふふっ、ですがご安心あれ。ここからが真骨頂なのだから! 私は注目を集めるように進み出、大仰な仕草でとある箇所を指し示す。月光の如き灯りに照らされたその場に鎮座する宝箱は、そこから身を乗り出し手を振るは勿論、我らが社長!

 

 

巨大隕石と言っても、あの時のサイズと比べれば欠片に等しいだろう。だから今の社長に強化なんて要らない。全ての視線を集めるように愛嬌を振りまいた社長は、月の上で二度三度ぴょんぴょんと準備運動をしてから~~っ!!

 

 

「てーりゃぁっ!!!」

 

 

わぁ……! それはまさしく星海を裂く一筋の光線、月より飛び上がる流星、灯りや焔の波動を反射し煌めく、かつての神秘の軌跡! 一等星のように輝く最強の宝箱は、隕石へと到達し、そして深くに突き刺さる!

 

 

すると直後、不思議な出来事が! なんと…堕ちるだけなはずの隕石が……逆にぴょいんと打ちあがったではないか! 謎過ぎる挙動にエイリアン達が唖然とする中、隕石は震え、大きく震えて~~っ!

 

 

「パッカーンっ☆」

 

 

宝箱の縦回転によって、見事両断! それぞれの欠片は伴う焔の波動を白く変え分裂彗星と化し、観客席を挟むように、星海の端へと飛び消え去っていく。もとい消え去らせる。

 

 

場に残されたのは、暖かな灯りに照らされふわふわ降りゆく宝箱。それを私は先程のように引き寄せ、抱きかかえて~揃ってはい、決めポーズ☆ これにてアンコール、彗星分裂再現を終わりま――。

 

 

「「「「「☆♡☆♡☆♡☆♡☆♡☆♡☆♡!!!!!」」」」」」

 

 

わわわわわっ!? もはやまともな音じゃない!? 発声振動金属音諸々が猛烈な嵐のように、光の明滅が蝟集した星々の瞬きのように、エイリアンの身が放つ液体や気体や発光体が祝砲のように、大喝采がわかるほどに飛び交っている!

 

 

これは紛れもなく大成功! あ、灯りを調整してくれていたンマァシアさんがこちらへとやってくるのが見える。

 

 

ふふっ、如何でしょう♪ 彗星分裂級の演出を、彗星分裂を成し遂げた張本人が――ん? なんか頭上に変な水影が……ちょっ!?

 

 

「「わぷっ!」」

 

 

か、喝采の勢いが強すぎたみたい…! エイリアンの歓声の一つである、緑色の液体が私達の全身を包み込むほどにかけられて……良い香りではあるけど、なんかこれ、ベトベトするぅ……!

 

 

「あっ、これマズいわね」

 

「へ? マズいって、にゃには……ひゃ、ひゃへ…!?」

 

 

く、口が、呂律が回らなく!? か、身体が、柔らかく痺れだしへる!? あ、頭もなんひゃか、ぼうっと……。 

 

 

「ちょいちょいお客さん! それは控えてくんなまし! そのシャワー、この星ん人にとっては麻痺毒に――」

 

 

ンマァシアさんが焦っひゃ様子で、走ってひて……あぁ、ひゃからステージ、ひゃの不可視力場で…守られれて……。

 

 

「急いで――に――ポッド――実験――」

 

「あら――なら――良い機会――ふふっ」

 

 

 

ンマァシアひゃんと社長が私の顔を覗ひ込みにゃがら、にゃにかを話してりゅみたいだへど……もう、瞼が……いしきが…………すぅ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はっ!?」

 

 

わ、私寝てしまって!? あの液体、そんな効果も…! 祝福のシャワーが体の違いで毒になってしまうなんて。わからないものである。

 

 

っと、しみじみ思っている場合じゃない。お仕事中だし、沢山のエイリアンの前。意識を取り戻したんだから問題ないのをアピールしないと。身体は……あ、あれ?

 

 

もう身体に麻痺の感覚はない。ないのだけど……なんだか違和感が。ふわふわしているというか。低重力空間だから? ううん、それだけじゃない。

 

 

なんというか、水中にいるような感覚なのだ。足を動かしてみても、翼や尾を揺らしてみても、腕を目の前へ動かしてみても。まるで全身が水やお湯に包まれているような……ん!?

 

 

えっ、袖は!? 腕に袖がない……って、えっ、ちょっ!?!? きゃあああっ!?

 

 

 

ふ、服が!? 服がない!! 私、服を着てない!?!? し、下着すらなくて、裸にされてる!? なんで!?!?

 

 

 

あの液体は全部とれてるみたいだけど、それどころじゃない!!! こんなあられもない姿を大勢の前で晒しちゃうのは……え。え…???

 

 

ここ、どこ…? さっきのステージじゃない。来遊エリアでもない。広めの個室みたいな感じで…でも宇宙船の中とはわかる造りで……いやだからそれどころじゃない!!

 

 

と、とにかく服を着ないと! 私の服、どこ!? 大体、誰が脱がして!? あっもしかしてあの液体に服を溶かす毒性が!? じゃ、じゃあなんでもいいから纏うものを…あ痛たぁっ!?

 

 

な、なにこれ……!? 透明な壁…!? それが私を包むように、円柱に…。真上と真下には謎の装置が……えっ、泡がこぽこぽって……ごぼっ!?

 

 

ちょっ、これ、本当に水の中じゃ!? い、息が――!

 

 

「落ち着きなさいな、アスト。息できるわよ」

 

 

えっ? 本当ですか…? そういえばさっきまで普通に……。恐る恐る息を……本当だ、魔法も無しに水中で呼吸できてる! エイリアンの技術、凄い……って!?

 

 

「社長!?」

 

「ふふっ! お目覚めね!」

 

 

今更気づいたけど、ずっといたのだろう。透明な円柱の外で微笑む社長は、私を…私の全身をじっくり見てきて……ちょっ……!

 

 

「あら、今更隠しちゃうの? 私達の仲なのに☆」

 

「そういう問題じゃ…! それより、ここから出してください!」

 

「ん~? どうしようかしら~?」

 

 

箱をふわふわ跳ねさせ、社長はわざとらしく揺蕩ってみせる。もう! 私も怒る時は怒りま……あれ?

 

 

「社長、その服は?」

 

「これ? 良いでしょ~! 着心地も中々ね!」

 

 

これもようやく気付いたけれど、社長の服は先程までも着ていたいつもの白ワンピースではない。メタリックな色彩輝く身に張り付くようなスーツ。これまたエイリアンらしいといえばらしい見た目で…。

 

 

「アストの方はどうかしら? その培養ポッドの着心地は!」

 

「えっ…?」

 

 

社長が目で示した先には鏡があり、私が映し出されている。やはり裸の私は液体に満たされた円柱槽に閉じ込められていて、それはまるで、人体実験か保存装置を彷彿とさせる見た目で…!

 

 

「うふふ…! こうやってあなたをずっとそばに置いとくのもアリねぇ。それとも、もう一人増やして、ふふふふふ……!」

 

 

なんか社長、妖しげな視線で妖しげな台詞を言ってる……!? え、えっと…!?

 

 

「正気になってください…!?」

 

「私は至って正気よ?」

 

 

うっ…! 確かにそうみたい…! その微笑みは冗談半分本気半分ながら、おかしくなっている様子は……え、本気半分……?

 

 

自分の下した判断ながら、つい内心で眉をひそめてしまう。うん、社長の顔はやはりそんな感じ。間違いはないと思う……。でもじゃあ、それって……今しがたの、なんだか危険な香りのする台詞は……!?

 

 

「……っ。あー…うん、よし。 そうね、良い機会だから話してしまおうかしら」

 

 

ッ…! 社長、気づけば私に背を向けている。表情を欠片も晒さぬように、鏡にも映さぬように顔を伏せて。

 

 

しかしながら微かに肩が上下しているその姿からは、珍しく不安に包まれているのが……この瞬間も尚、話を口に登らせるべきか悩み続けているのがわかる。わかってしまう。

 

 

「……何でしょうか」

 

 

そんな社長に気持ちだけでも触れるように、水槽の壁越しに手を置き私は促す。あれほどまでに憂悶とする話とはただ事ではない。水の中なのについゴクリ息を呑んでしまうと、コポリと泡が私の前を立ち昇りよぎる。

 

 

その音を気付けとしたように、社長は肩を落ち着かせる。そして顔をゆっくり上げ口を開こうとし、しかし一つ首を振り…………そのまま見たこともない勢いで、捩じ切れたと錯覚するほどに見上げ曲げてきて!!?

 

 

 

「私の正体がエイリアンだと言ったら、信じてくれる?」

 

 

 

は…!? 社長、逆さ斜めになった顔のまま目を漏れ出さんほどに見開き、宝箱から幾本もの触手を出し脚代わりにして…!? 宝箱の上下が変わっていないことと床を這いずるような触手捌きという点を除けば、ンマァシアさんに披露したエイリアンの模倣と同じ……え、えと…!?

 

 

「おかしいと思わなかったかしら。ンマァシアさんと言葉が通じないままに会話をしていたことや、UFOの操作を容易くできたこと、エイリアンの麻痺毒が効かなかったことを。疑問に思わなかったかしら。私達ミミックの、ンマァシアさん達ですら不思議に思う特異で正体不明な生態を」

 

 

首を元に戻し、けれど奇怪な動きでこちらへと這いよってきつつ社長はそう続ける。それは……そういう力の持ち主だからじゃ……えっ…!?

 

 

「ミミックが、エイリアン…!?」

 

「えぇ。ンマァシアさん達は知らないでしょうね。私達はもっともっと古くにこの星にやってきたの。今やもう魔物の一種になって、当時のことを知るミミックはいないけどね」

 

 

私の入る水槽ににじり寄り、背を寄りかからせるようにして語る社長。えとでも……俄かには信じがたい。だって仮にそうだとしても、社長も当時を知っている訳が――。

 

 

「実は私はね、当時の生き残りなの。あなたの入っているようなポッドで生き長らえていて、復活を果たしたのよ。そうしてマオやオルエを利用して上手く社会に溶け込んだの。――全ては、侵略のため」

 

 

心を読み、社長は先に答える。触手脚を伸ばし、水槽越しに私と手を合わせながら。……まさか、心を読むのってエイリアンのPK(サイコキネシス)の一つだったり…? いやそれよりも、侵略!?

 

 

「会社を作ったのも侵略の一貫よ。時が来れば皆に指令を送って蜂起させる予定なの。私の鍛錬、エイリアンであることを忘れた同族の身体に侵略という目的を呼び覚ますコードを含ませてあるのよね」

 

 

淡々と衝撃の言葉を紡ぎながら、社長はその証明と言うようにポッドのパネルを鮮やかに叩いてみせる。すると、わわ…水の色が、ピンクに変わって…!? ひゃっ……!?

 

 

「さて。とうとう話しちゃったわねぇ。どうアスト、これでも私を信じてくれる? エイリアンな私を…疎ましい私を、愛してくれるかしら?」

 

 

私の正面の透明壁へ大量の触手をべちゃりと張り付け、おでこをごんとぶつけながら社長は問う。その嘲笑うようなお顔へ向け、私が返す答えは……はぁ。

 

 

「――えぇ。信じます。社長がそう仰るのであれば」

 

「……え?」

 

「そして、変わらず愛しますとも。社長がどんな過去をお持ちだとしても、あなたは私の社長で、大好きな人なんですから」

 

 

迷いなく、躊躇なく、即座に。身も心も何も隠すことなく、私は想いを伝える。すると張り付いていた社長の触手は一つ、また一つと剥がれてゆきながら。

 

 

「……私、侵略しようとしてるのよ?」

 

「ふふっ。その侵略、『ダンジョンに棲む人にミミックを愛して貰う』の言い換えですよね? 今日を含めた普段の社長の様子を見ればわかりますよ」

 

 

これも確信をもって言い切れる。社長の大望である『全ミミックに終の棲家を』はそういうことなのだから。ダンジョンの住人が常にミミックを頼りにし愛してくれるようになるのは、もはや侵略と言えよう。

 

 

だからそんな話を打ち明けられても怖がることなんてない。呆けるような社長へ深愛の破顔で応えると、宝箱は残った数本の触手と共につぅうと下へ落ちていって。

 

 

「……参ったわねぇ。そりゃ、最初にふざけたのも顔隠しきれなかったのも逃げたのも私だけど、種明かしする隙すら逃しちゃうなんて……」

 

 

いつもの姿に戻り、おでこを擦りつけたまま俯いてなにか言ってる。えっと、なんでもいいんですけど……出来ればそのまま顔を上げずに私を解放していただけると……あっ、もしかして!?

 

 

「本当に私をここに閉じ込めたり、培養したりはしませんよね!!?」

 

 

さっきの台詞を思い出し、急いで牽制を! しないだろうけど、半分本気だったから……――!

 

 

「プッ……! ふふっ、ふふふふっ!! しないわよ! もう! 全部嘘よ嘘!」

 

 

と、社長、堪えきれなくなったように噴き出して。はぁ……まあ、薄々わかっていたけれど。色々とツッコみどころあったし。

 

 

「ミミックはエイリアンじゃないし、私はマオやオルエと同世代の幼馴染だし、あなたの見立て通り侵略はジョークよ。あ、私達がエイリアンかどうかは正確にはわからないわね☆」

 

 

それはまさしく神のみぞ知るところだろう。少なくとも、ミミックの能力や社長の披露した技の数々はエイリアン技術に連なるものではないはずである。

 

 

「えぇ。読心は推測の延長だし、円盤操作は箱操作の応用、麻痺毒は群体型ミミックが使う力だから、上位種である私にも耐性があるだけよ。誓って嘘じゃないわ」

 

 

ふふっ、信じますとも。もう、変に騙すんだから。あれでも、じゃあこの培養ポッドは?

 

 

「これ培養ポッドなんかじゃないわよ」

 

「え?」

 

 

パネルを弄り、水の色を透明に戻しながら社長はそんなことを。じゃあこれ、一体……?

 

 

「これはね…あ。おっと、えぇと…わかんないからこれで!」

 

「わ!?」

 

 

本当はなんなのかを聞こうとしたその瞬間、社長は一本触手を放ち、私の身体を円柱槽ごと隙間なくグルグル巻きに!? あ、顔の高さから上は開けてくれて…へ? ノックの音?

 

 

「どうぞ~!」

 

「邪魔すんで~。服のクリーニング終わりましたわ。や~ホンマにご迷惑かけまくってしもうて! お詫びとしてはなんやけど、その宇宙スーツ差し上げますわ」

 

 

自動扉をシュパッと開け入って来たのは、ンマァシアさん。その手には綺麗に畳まれ袋に包まれた私と社長の服が。と、そこで顔も半分触手に隠す私に気づいたようで。

 

 

「おや、まだ浸かっとりましたか! こら失礼を。ワテらの風呂、如何でっせ?」

 

「え、これお風呂なんですか?」

 

「はれ、社長さんから聞いちょりませんで? もう出とるからてっきり。全身べとべとにしてしまいましたでな、解毒剤入りの薬湯をな」

 

 

ンマァシアさんの言葉に社長を見ると、テヘッ☆と舌を出して。そういう……。

 

 

「だって水の中で揺蕩うアスト、神秘的で可愛くてえっちだったんだもん! 外からも眺めたくなるでしょ!」

 

「それで困って茶番劇までしないでくださいよ! あんな演技までして!」

 

「えへへ~! ごめんなさ~い!」

 

「プルフフフ! なんやわからんけど、仲良くてなによりですわ!」

 

 

全く! 社長には困ったものである。お風呂と知っていたら堪能したのに。頬を膨らませ抗議していると、ンマァシアさんはクスクス笑いを続けられたまま。

 

 

「しっかし、アストさんが美しかんはワテも心底同意できまっせ。さっき魔法披露してくださった時の翼や尾っぽや角の輝き方、見惚れるぐらいじゃったでな」

 

 

ふふ…! お褒めに預かり光栄です。社長に手伝って貰いもして、結構手入れ頑張っているから――。

 

 

「ふふ~! でしょう? 折角だし近くで見ます?」

 

 

え。え、社長ちょっ?! 触手のブラインドを急に解除しだして!? 待っ! せ、せめて後ろ向きますから……!

 

 

「あ、どうせならンマァシアさんも一緒に浸かりません?」

 

「裸の付き合いちゅ~もんでっか? プルフ、お二人さんさえよければ!」

 

 

えっ!? ちょおっ!? 止める間もなく触手のブラインドは全部解け、また私の裸が晒されて…! 社長には良いんだけど、その……! それに、三人入るには流石に狭い気が……。

 

 

「壁面曇らせるにはここ押しゅうがよかったんですわ」

「えへへ、つい確実な方法とっちゃって!」

 

 

わわっ!? ンマァシアさんと社長が話しながらパネルを操作すると、私の周りの床から更に規模の大きい円柱壁が現れ、数段広い円柱槽に! お湯も満たされ出して、私の壁が仕舞われていって……!

 

 

「これ便利ですね~。完全フィットしてたのにワンタッチで脱げるなんて!」

「擬態スーツにも使われとる技術だべ。ワテも愛用しとるんですわ」

 

 

その間に社長も服を脱いで裸に、ンマァシアさんも……何本かの触手から服らしきものを外して、色違いの触手を露わに! そこが隠すところだったんだ……って、驚いている場合じゃない!

 

 

「え、えっと…! 本当に、一緒に……?」

 

 

慎重に伺いを立てないと…! その……初対面の方とお風呂に入るのはまだ良い。けれど、ンマァシアさんは、その……好々爺というか……それはつまり……。

 

 

「? あぁ! アスト、ンマァシアさんは女性よ?」

 

「へ?」

 

「プルフフ! もう皺くちゃのババアやからわからへんよなぁ」

 

 

えっ。あっ。えっ、っと……あー……うん。 こほん、それでは内心で叫ぼう。

 

 

わかりませんよ!! 初対面でエイリアンの性別は!!! 年齢も容姿も何もかも!!! はぁ……1人で勝手に慌てていた訳で。身体、隠すのも面倒になっちゃった……。

 

 

まあ、あまり気にしないようにすべきだろう。魔物にそれぞれの姿があるように、エイリアンにもそれぞれの姿がある。ただそれだけのことであり、私が知らなかっただけのことなのだから。幸い社長が翻訳してくれているのだし、有難く甘えよう。

 

 

それにしても、そんな性別にまつわる会話をした覚えは無いのに。私が気を失っている間にしたのだろうか。ううん、社長なら最初からわかってそう。……もしかしたら本当にエイリアンだったり……ふふ。

 

 

それこそどうだっていいか。だって社長は社長なんだから! その事実だけで充分である。……決して、思考放棄している訳では無いですよ?

 

 

 

 

 

……因みに。肝心の裸の付き合いだけど、興が乗ったンマァシアさんと社長が心地よく手足を伸ばし、触手風呂となってしまった。

 

 

外からみればなんともオルエさん達サキュバスが喜びそうな光景に……いや、違うかも。どちらかというと完全にエイリアン培養中の中身となっていた気がする。

 

 

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