ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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魔物側 社長秘書アストの日誌②終

 

 

 煌々と晴れ渡る青空の下、湖を超えるほどに巨大なる水溜まり。その水面より立ち昇るは昇龍のような、いいや『水の道』と称すべき奔流群。

 

 

 人を舟を精霊を容易く浮かべ、空を編むように泳ぎ繋ぎ続けるそれらは、ダンジョン中央に山の如く聳え浮かぶ巨大なるアクアジュエルを支え源とし、更に涼やかなる神秘を見せる。

 

 

 それがここ、水の道の内部。さながらトンネルのように、あるいは水管のように。ウンディーネ達は流れる水を操り管状に広げ、内部にこれほどまでの空間を作り出したのだ。

 

 

烈日の熱射を薄め淡光のレース飾る清流のサークルカーテン、流れにそよぎ瑞々しく照るアクアジュエルの青珊瑚。爽やかに唸る水声。そんな理解が及ばぬほどに美しく心躍る只中へ、私は社長に誘われ足を踏み出し――たら、これだもの!!!

 

 

 

「なんで社長をボード???にして、『サップ』をするんですかぁ!!!?」

 

「ちょっと変えて言い直さなくていいわよ☆ 楽しいじゃない♪」

 

 

 

 もう、もう! 意味がわからない! 今の状況、自分でもよくわからない!! サップってあれのことである。サーフボードの上に立って、水面を浮いて進んでいく水上アクティビティ。これをそう呼んでいいかはわからないけど!

 

 

 ざあざあ水流が鳴る中、社長は宝箱の蓋をいっぱいに開いて水の上。どうやってかわからないけど流されないようにぷかぷかと。

 

 

 そして! その上に! 社長入りの開ききった箱の上に! ()()()()()()()のだ! 片足を蓋に、もう片足を社長と一緒の箱の中へ入れて!

 

 

 何の変哲もないパドル一本こそ作ったが、それ以外に魔法は使ってないし、悪魔翼も開いてない! だってそれが社長の命令なんだもん! スリルを楽しめって。

 

 

 だからこれ、私の全体重が箱にかかっているはず。なのになんでか一切沈まないのかはこの際聞かない。社長だもの。聞かない、けど…!

 

 

「その、重くないですか…?」

 

「あら、軽すぎるくらいよ? 水着着るからって絞ったわね~! もっとお肉ついてていいのに」

 

 

 なんてことを、ってちょっと社長!? 股下からひょっこり顔出さないでくださいよ!! いや今の姿勢的にそれしかできないのはわかってますけど……その、なんか…わ、あわわっ!

 

 

「ほ~ら、足もじもじさせて閉じちゃダメよ。へっぴり腰にもならないの。絶対落としてあげないから、バランスとることにだけ集中しなさい?」

 

 

 あ、危な…前のめりに倒れるとこだった…! うぅ…そうは言いますがぁ! もし本当に危険を感じたら飛んでも魔法使ってもいいとは言われましたけどぉ…!

 

 

「にゅへへ~がんばれぇ~! アストさ~ん!」

「「「「「がんばれ~!!!」」」」

 

 

 後ろからは歓声が。ふらふらしつつ目を向けると、オディーヌさん達ゴンドラ山盛りウンディーネが停船したまま手を振ってくれて。あっちにはしっかり魔法かけてるし精霊の重さ的に沈んだりはしないぃっ!?

 

 

「ふふっ、もうアストったら。パドルは杖じゃないのよ? こんな急流に不用意に差しちゃったら」

 

 

 こ、こうなりますよねぇ!? 身をもって体験しましたとも! わわっ、わわわわっ、た、倒れぇ! あっ…!

 

 

「よいしょっと! 手をばたばたさせて可愛いわねぇ♪」

 

 

 有難うございます…! 触手で身体を掴んで支えてくださったおかげで倒れずにすみました。ふう、これならだいぶ安定して…あの……ちょっとお願いが……。

 

 

「社長……」

 

「ん? なぁに?」

 

「その、慣れるまでは今みたいに掴んでもらっていて良いですか……? どうか、私を離さないでください……!」

 

 

 こうやって頼んでる間も転ばないよう内股にならないと、生まれたての小鹿みたいにぷるぷるさせないと自分の股下に話しかけることすらできませんし……楽しむためにもどうかっひきゃあ!?

 

 

「掴んでって言いましたけど!? なんで太ももなんですかぁ!? せめて腰とかで……そんな絡みついてこないでください!?」

 

 

 なんでよりにもよってそこぉ!? いまホットパンツすら脱いだから、触手が完全に直でにゅるにゅるって、ちょっ、水着に擦れてますからぁ!!

 

 

「なによぉ~! 可愛いこと言うアストが悪いんだから~♡」

 

 

 ど、どういうことですか!? ひうんっ!? いやだから止め、オディーヌさん達も見てるんですから! あぁもう、ひんやりしてるんだかあったかいんだか!

 

 

 うぅ、剥がそうにもぐらぐらで安定しないし! なんなら触手挟んでもっと内股になるしかなくて、だからその分感覚が、太ももの間を道のようににゅぽにゅぽ通る感じが……ふぅ…くうっ、も、もう!!!

 

 

「一旦止めて、くださいっ!」

 

「ぎゃんっ!?」

 

 

 あっ。つ、ついパドルを箱の中に突き刺しちゃって! 触手の勢いは収まったけど……しゃ、社長大丈夫ですか? あぁ、頭に直撃しちゃったんですね……。

 

 

 で、でも! 私謝りませんから! さっき社長、私に熱くなりすぎって水かけてくださいましたけど……社長こそこの濡れパドルで頭冷やしてください!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう? 慣れてきたかしら?」

 

「は、はい。だいぶ。これぐらいの速さなら」

 

 

 改めて。立つのにも安定し、ようやく宝箱サップは流れの中。さっきまではいつ落ちるか気が気じゃなかったけど、社長が足首や時には腰を支えてくれるから結構楽になってきた。ただ。

 

 

「別に股下に嵌ってこなくていいじゃないですか……」

 

「え~いいじゃないの! 役得よ役得♪」

 

 

 たまに社長も身体を大きく出し、私の太ももの間にぎゅむっと顔を挟んでくるのは如何なものか。まあさっきみたいにまさぐられるよりはいいけど。それに。

 

 

「ふふっ、楽しいわね~!」

「はい。まるで私もウンディーネになった気分です!」

 

 

 この気分は何物にも勝る! 水のトンネル道、青い宝石珊瑚礁、周囲を泳ぎ飛び交う精霊達。散りばめられた光に暑さはなく、パドルを振るう度に跳ねる水が緊張と興奮で火照った身体から、社長に温められた太ももから熱を流し去ってくれる。

 

 

「上手上手! 冒険者と違って綺麗な流れ方だよ~! ~~~♪ ~~~♪」

 

 

 その傍についてくれるように、オディーヌさん船頭のウンディーネゴンドラが。乗船している皆さんは流れに揺られ、流れに揺蕩うような軽やかさの舟歌(バルカローレ)を。

 

 

 その美しき合唱は水声と共に滔々と、私達を置き去りにするように儚く、されど足や身を連れ行くように響き渡る。私もウンディーネとしてつい加わりたくなってしまうほどに。あぁ、本当に素敵でひあっ!?

 

 

「う~ん良いわねぇ。なんだか満ち足りてるわ」

 

 

 もう、少し台無しなんですけど社長。またそうやって私の股下に顔挟んできて。しかも外太ももに腕巻くようにきゅっと抱きしめてきちゃって。しみじみどうしたんですか?

 

 

「いつも抱えて支えてもらってだから、たまにはこうやって抱えて支え返してあげないとね。は~…一緒にどこまでも流されたい気分」

 

 

 急に何を仰るかと思えば。ふふっ、確かに普段とは逆ですね。私が宝箱を支えるのではなく、宝箱が私を支えて。私が社長を持ち上げるのではなく、社長が私を持ち上げて。

 

 

 社長のおかげで、社長が水を向けてくださったおかげで私、とってもダンジョンを堪能できていますよ。私もこのまま宝箱に乗せてもらいながら行けるところまで行きたい気分です♪ ただ……。

 

 

「にゅへへ~! 全く沈んでな~い。宝箱ってそんな使い方もあるんだねぇ」

 

 

 その前にこの誤解はなんとかしなければいけない気がしますが。えぇとオディーヌさん、多分普通の宝箱だったら普通に水が入って沈みますし、ミミックでもこれほどの芸当ができるのはそうは……いや。

 

 

 こういったことができない子でも、社長のように水を蹴立てて走れるような方法を探していたのだった。そのためには何が必要か。誰かが乗っても沈まない箱、流れを御し自在に動ける力。

 

 

 宝箱サップのおかげで少し答えに近づけた気がする。けれどもう少し、もう少し足りない。具体的なプランにするにはもうちょっと、呼び水になるようななにかがあれば……――。

 

 

「っあ。あちゃ~、私としたことが…!」

 

 

 へ? どうしたんですか社長? 何か気づいたことでもどぱんっっっ!?

 

 

「た、大変大変っっ!」

 

 

 びっくりしたぁ…! 水の道の天井…正しくは私達の上の水にウンディーネが一人、飛び込みをしてきて…! 大変って、どうされたんですか?

 

 

「冒険者が入って来たよ!! 爆弾持ってる!!!」

 

 

 えっ!? そっか今しがたの社長の台詞、ミミックのダンジョン把握能力でそれを理解して! なんて納得している場合じゃない!

 

 

「やばぁ! 倒しに行かなきゃだ――」

 

「オディーヌさん、私達も助力します! 社長!」

「このまま行くわよ! しっかり乗りこなしなさいな!」

 

 

 ひゃっ!? 一気に宝箱サップのスピードが上がって! でも、今なら耐えられる! 裸のおへそに力を入れ、水面に仁王立ちするかの如く堂々と!

 

 

「オディーヌさ~ん! 壁、ちょっとだけ開けて良いですか~!」

 

「良いよ~! どばしゃ~んだぁ~!」

 

 

そしてその社長の許可取りが、太ももを掴む社長の手が、次の行動を示してくれる! 私が今やるべきことは、これッ!

 

 

「『ウォーター・ハンマー』!」

 

 

 パドルに魔法をかけ、大槌に! それで進行方向の水壁を叩き、どぱんっと一時的な穴を作る! そして!

 

 

「い~やっほ~う!」

 

 

 穴が満たされ戻る前に、社長は私ごと飛び出し再度外へ! うわぁっ…た、高い…! 晴天の空が、くねる水の道が、巨大アクアジュエルが、光る様々な青が視界を襲う。けど。

 

 

「滑空します! あの道ですね!」

 

 

緊急事態だもの、翼も使っていきますとも! ただし~!

 

 

「あら! 魔法制御はしないのね?」

 

 

えぇ! 魔法も翼も解禁します。けれど、箱サップを乗りこなすのに魔法は使いません! 冷や水は本物をたっぷり浴びているんですから☆ このまま目標の水の道の上へ、脚の宝箱からダイブ! 着水っ!!

 

 

「うふふっ! やるじゃないのアスト! いっぱしの箱サーファーね!」

 

「なんですかそれ! ふふっ、さあ乗っていきましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えました!」

「せんと~じゅ~んび!」

 

 

 水流に乗り、水の道を鮮烈に泳ぎ駆ける箱サップ、いやもう自分では漕いでないし、箱サーフ? ともかく道の先に捉えたのは、四人組の冒険者! 魚型召喚獣に跨って巨大アクアジュエルへ向かっている!

 

 

「後方、何か来てやがる! 速い!」

「ウンディーネだろうが…にしては速度がありやがるな。待ち伏せか?」

「数少ねぇと思ってたが、チッ、水差して来やが……なんだあれ!?」

「魔族の女が、立ち泳ぎして…!? いや違っ、何乗ってんだあれ!!?」

 

 

 ふふふ! 宝箱だなんて露ほどにも思わないでしょう! 正直乗っている身としても意味不明のままだもの。けれどそれこそがこの宝箱の、ミミックの真骨頂!

 

 

「なっ!? はぁっ!? あ、あれミミックじゃねえか!?!?」

「上位ミミックだよな!? 泳いで、え、人乗せて!?」

「なんで沈まな、魔法で、とっうおあ!?」

「おい馬鹿! 操縦に集中しろ!」

 

 

 ひょこっと私の股下に顔を出した社長で気づいたのだろう。冒険者パーティーはさらなる動揺を! あらら、私でもわかるぐらいにブレて、流れに負けてしまって。ああなってしまえば。じゃじゃん☆

 

 

「『ヒュドラ・バイトフィッシング』!」

「あ~んど! きゃ~っち!」

 

「「うわああああっっ!?!? ぐえぇっ……!」」

 

 

 パドルを釣り竿に、水を素材に呼び出した水蛇達を噛みつく釣り糸に! そして動きを乱して遅れた冒険者二人を同時釣り! 

 

 

 それを社長の触手が手早く締め、箱の中にすぽんと! 火の山ダンジョンへ訪問した際に搭載した『クーラーボックス』機能、今も使い時かも? なんて!

 

 

 さてさて、あっという間に残りは二人! さっさと捕まえて、おっと!

 

 

「っこ、このぉ! 水着で浮かれ気分で来やがってアマがぁ! ありったけの爆弾で吹き飛びやがれやァッ!」

 

 

 内一人がバッグをひっくり返して、大量の爆弾を! 水流に流されることなく広がり、機雷のように。ふむふむ成程、見たところかなり良い魔導爆弾。近づいたらたちまち爆発するだろう。で・も☆

 

 

「エアリアルジャ~ンプ!」

「『バブルシェル』!」

 

「なあっ!? 飛び越えて躱して、バリアで守って!?!?」

 

 

 社長は私を乗せ、軽やかに水面を蹴り跳ねて! 私は爆弾を泡の殻に包み、外に漏らさず爆破処理! この程度、なんら妨害にはならない! 

 

 

 だって、今の私はウンディーネなんだから♪ ふふ、勿論社長の御力ありきだけど♪ それではウンディーネらしく、水属性の魔法で最後まで対処を――あっ!?

 

 

「くっ…撤退するぞ! 別れろ! 跳び移れぇ!」

「う、うおおおおおおおおっ!!」

 

 

 あの二人、それぞれ別の水の道へとジャンプで移って! 流石はこの水流を乗りこなすほどのレベルの冒険者…判断も水の如く早く、流れるよう。しまった…!

 

 

 撤退を信じるわけにはいかない。私達がいなくなってから再度攻めてこられても困るし、そもそも帰らず逃げ回り巨大アクアジュエルを狙う算段かもしれない。

 

 

 それに、派遣ミミック達の上司としても『取り逃がしてしまいました』は許されない。だからあの冒険者達はなんとしてでも倒してみせなければいけないのだ。

 

 

「社長、こちらも二手に別れましょう!」

 

 

 残念ながらウンディーネとか言って楽しんでいる場合じゃなくなってしまった。翼を伸ばし、飛ぶ準備を。社長なら絶対大丈夫だし、ここはそれぞれで。

 

 

「その必要はなさそうよ!」

 

 

 えっ、ですが……ん? 空が急に曇って…違う、これ、影!? ひゃわあっ!?

 

 

「ばっしゃ~んっ! 社長、アストさ~ん! 片方は私達が追っかけるよ!」

 

 

 水の道に落下してきたのは、私製のゴンドラ! それに乗っているのはやはりオディーヌさん率いるウンディーネ達! 使いこなしてる……!

 

 

「私達のダンジョンを壊させはしないもん、いつまでも冒険者に水をあけていられないもん! 皆で追いかけてやるんだから~!」

 

「有難いです! では、あっちに逃げた冒険者をお願いしま~す!」

 

「まっかせてよ~! 皆、全速前進大ジャ~ンプだよ!!!」

「「「「「どどどどど~っ!」」」」」

 

 

 おお~! ウンディーネ達の力でゴンドラは軽々水の上を跳ね、水の細道を繋ぎ滑り進む。あちらは確か爆弾を使い果たした冒険者。比較的安全。

 

 

 なら私達は向こう! さっきの感じ、向こうの冒険者はパーティーのリーダーで腕も中々よさげだった。急いで流れに乗りなおして――。

 

 

「さ~行くわよ、ウンディーネアスト!」

「っもう! はい、ウンディーネ社長♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「待てぇーっ!」」

 

「チッ! もう追ってきやがったか…! なんなんだよあいつら!」

 

 

 捉えた! 社長の方が速い、今度こそ逃がさない! うん、背中のバッグから魔導爆弾あ微かに見えている。使われる前に、さっきみたいに釣りあげて――。

 

「っここなら! ヘッ、ついて来てみろよ! ゴブンッ…!」

 

 

 って、急に水中へと潜っていった!? あ、ここももしかして、なら!

 

 

「アスト!」

「いつでもどうぞ!」

 

 

 社長の合図の前に、おでこのサングラスを指で弾いて装着済み! せーの!

 

 

「「どっぱーん!!!」」

 

 

 軽く浮き、宝箱を水の道に叩きつけて道を割り入る! ごぼんっ、ふうっ! やっぱりここの中は管状水道、水のトンネル道!

 

 

けれど、さっきので充分に水慣れしている! 怯まずこのまま追いついて――!

 

 

「や、やるじゃねえか…! ならうちのクランリーダー直伝の技で! 見やがれ食らいやがれ、『バレルストリーム』!」

 

 

 っ! あの冒険者、私達の到着を見るや更に加速して! しかも、わあ…! 水の道の内側を、螺旋を描くように走行しだした!? 

 

 

 浅瀬の水中が如き澄明さに満ちた青、そこを螺旋状に切りつけ蹴立てる飛沫の白波が綺麗……これが彼らのクランリーダーとやらの技…! 

 

 

 天地どれもが水の道となるこの空間、そのあらゆる流れを取り込み全てを我が物とするかのような動きは敵ながらつい見惚れてしまう。まあ、魔導爆弾を撒き散らしながらじゃなければだけど!

 

 

 勿論あれらを放置していくわけにはいかない。それにああも勢いよく動かれては狙いが定めづらい。ならば社長…ふふっ♪聞く必要なんてありませんよね!

 

 

「かっそく~! 振り落とされるんじゃないわよ~!」

 

 

 こちらもあれに倣おう! だって私達はウンディーネであり、模倣を得意とするミミックなのだから! うねりをあげ囲む水流を御すように飛び乗り、天地が無くなる勢いで! くうっ…ふふ、ふふふっ!

 

 

 身は加速と遠心力によって潰されんばかり、視界は常に回転し上下の間隔すら不明瞭。その中で次から次へと波の如く押し寄せる爆弾群の処理詠唱! 本来だったら私、速攻でワイプアウトし落水していたのかもしれない。

 

 

 けれどさっき色々社長に仕込まれたもの、今やこれがとっても気持ちいい! 立っているのがやっとの中バチバチと身体を攻め立てる水飛沫が、アクアジュエル珊瑚を跳ね躱す度に飛び散る煌めく水飛沫が、痛くも冷たく心地よいのだ! 

 

 

「ふふふっ! アストったら、ノリノリじゃないの!」

 

 

 えぇ! やっていいのならば腕も翼も尾も広げ、全身でこの流れを味わいたい気分です! 社長に脱がされて水着だけになったおかげです、社長が私を支えてくださってるおかげです! お礼に社長の顔、太ももで挟んじゃうんですから♪

 

 

 おっと、そろそろ遊んでいる場合じゃない。爆弾は流れてこなくなり、先を行く逃亡冒険者との角度と距離が合い始めた! この楽しいレースもそろそろ終わり、射程内まであとちょっと。

 

 

 今の内に討伐武器を生成しておかなきゃ。じゃあ今度はパドルをトライデントにしてみて……ん!?

 

 

「しゃあッ! やっぱりだ! こうなってると思ってたぜ!」

 

 

 えっ!? な、なにあれ!?!? 水の道の先が、大渦!? ううん違う! 急に狭まって、細くなってる!?

 

 

 あれも水の道には違いない。渦の真ん中に道が続いているもの。ただしそのサイズ、私の身長よりも狭く小さい……! これだけ広いトンネル道が、あれほどに凝縮されているとなると……!

 

 

「巻き込まれて溺れて流されちまえ! 水着でも剥ぎ取られちまえ!」

 

 

 でも冒険者は召喚魚に身を密着させ、できる限り細くなって渦道へと突っ込んでいく! まずっ、このまま進んだら間違いなくそんな目に遭ってしまう!?

 

 

 なら私もあの冒険者みたいに身を縮こませて……宝箱の上にしゃがむだけじゃダメだよね!? 絶対流れに掠って飲まれて、社長が掴んでくれている以上流されはしないだろうけど、それこそ水着ごと巻き取られてもおかしくは……!

 

 

 ってそんなこと考えている間にもう目の前に!? ど、どうしよう!? しゃ、社長どうしたら――!

 

 

「もうアストったら~! 私をなんだと思ってるのよっと!」

 

 

 ひゅわっ!? きゅ、急に足が引っ張られてぇ!? 蓋に乗せていた方も箱の中に引きずりこまれ、あっ、そ、そうでした…その方法がありました!

 

 

「カポンっ! とっつげき~!」

 

 

 私を箱の中に仕舞いこみ、蓋を閉じて。ちょっとだけ私のために開けてくれて。宝箱は激流の細渦の中に躊躇なくッ、ご、轟音…耳をつんざくほどの……! う、うわわわ…! 

 

 

 これは、さっきまでの水の道とは違う……! 波立つ流れと単純な水量に光は更に遮られ、青く蒼く碧く。周囲は狭隘と言うべきほどに迫り、手を差し出せば捻り飛ばされるような、そうでなくとも圧に潰されるかのような……!

 

 

美しい…されど恐ろしい……! 暴威すら感じる幽玄さ……! 水の重厚なる青のカーテン、緑のルームは逆鱗に触れられた龍の如く捻じ曲がり暴れ続ける!

 

 

 なのにその中を宝箱は悠々とすいすいと。決して水屑にも漂流物にもなることなく。ううん…寧ろこれ!

 

 

「スピードあがってません!?」

「なんだかここ、調子いいわね!」

 

 

 流れに乗っているだけとは考えにくいほどに箱が加速して! 社長、この空間に適合して、なんで、もしかしてここの判定、うわわわわっ視界がグルグルグルグルぅ!? う、うええ…!

 

 

 で、でもこの速度ならあの冒険者に追いつけるかもって、いた、見えた! 前方に魚影、もとい人影!

 

 

「さ~やっちゃいなさい!」

 

 

 良いんですね社長? この隙間からトライデントで狙い打っても! そうと決まれば! 蓋に噛ませるように、水刃パドルトライデントを装填。よ~く狙って……今、発射!

 

 

「クッ! イチかバチかだ、痛ぐあっ、う、うぉおおおッッッ!」

 

 

 外れた!? 掠りこそしたけど、あの冒険者はパドルトライデントを避けて、というよりこの厚い水の道の壁を、無理やりに突き破り昇って行った!?

 

 

「へえ! 勇気あるじゃないの! こっちも行くわよ~!」

 

 

 社長も跳ねて、追いかけるようにざぶぶんっ! わわわっ、蓋をできる限り閉じて……でもちょっと見たいからバリアで、おおおぉっ……! 

 

 

 全てが……全てが水。視界が青。泡と流れが背後から前へと迸り、溟く埋め尽くす。これも水の道の一側面、なら私達はどこへ連れていかれるのか。もしかしたら深い淵へと流されてしまうのか。

 

 

 つい怖気を感じ、箱の暗闇の中で空となった手を握り締めてしまう。けれど不意にするりと触れた感覚がある。これって……社長の手。私の手を握ってくれてる。

 

 

 姿こそ暗くて見えないけれど、間違いない。だって小さく、柔らかく、力強く、温かい。そして、どんな流れも御して打ち破るほどに明るい。それを示すように、私達の目の前にも光が、水面の明かりが、近づいて――割れて!

 

 

「ばっしゃーん!」

 

 

 外へと、勢いのまま空中へと飛び出して! 蓋を開けてくださって、手が送りだしてくださって! 出ます! わぁ……!

 

 

「素敵…!」

 

 

 先程までも見ていた景色のはず。美しい光景だと何度も思っていたはず。けれど、何故だろう! 今は殊更に輝いて見える! 

 

 

 龍の如く空を濤する水の道も、それを照らす暑くも暖かい日の光も! 水の狭間から飛び出した私達を明るく迎え入れてくれるよう! あぁ、ふふっ、やっぱりここで腕も翼も広げ、尾も伸ばしてたっぷりと……。

 

 

「アスト、正面!」

 

 

 へっ、わわっ!?

 

 

「ラストの爆弾、食らえやァ!」

 

 

 魔導爆弾!? 空中に浮遊して、ば、『バブルシェル』! っ、ふう……!

 

 

「危なかったぁ…!」

 

 

 景色に魅せられてのほほんとしている場合じゃなかった…! 冒険者を追いかけている最中だった! っとっと、今のでバランス崩してしまった。一度翼畳んで着水を。あの冒険者は一体どこに――。

 

 

「はっはっはぁ! レースは俺の勝ちだぁ!」

 

 

 ッ!? 上空!? い、いた!? 召喚魚に跨って、召喚魚が翼伸ばして羽ばたいて!? しまった、あれはソラトビウオ、私としたことが……!

 

 

「ここからならダンジョンの外までひとっ飛びだ! じゃあなァ!」

 

 

 しかも速い! 急いで追いかけなきゃ! 社長!

 

 

「走るわよ~! 跳ぶわよ~! とうとうと~うッッ!」

 

 

 社長は顔を出し、水流に乗り加速! 道を飛び跳ねに飛び跳ね飛び移って! 逃げ去る冒険者に接近を、っ、ここからならッ!

 

 

「と~~うッッッッ!!!!」

 

「なあっ!? 宝箱が、飛んで!?」

 

 

 宝箱は勢いよく空へと飛び出す! 私も手を伸ばして、あと少し――!

 

 

「うおっと!? ハッハァ! 残念だったな!」

 

「躱され!? 届かな……!」

 

 

 急上昇されて回避されてしまった! くっ…高度が下がって。飛行と跳躍じゃあ流石に分が悪い。もう猶予はない、悪魔族に戻り、こちらも翼で飛行を――!

 

 

「まあまあ、待ちなさい。良い波が来てくれたわ☆」

 

 

 え? 良い波って、ここは空中で……ん!? 下の水の道が、急に膨らんで!?

 

 

「「「「「どっぱ~んっっ!」」」」」

「ごげぼぼべぁ……」

 

 えっ、えええええっ!? ふ、舟が、オディーヌさん率いるウンディーネゴンドラが浮上してきたぁ!? しかも舳先でもう一人の冒険者を突き潰しながら! 

 

 

「どどどどど~っ!!!」

「「「「「どばばば~っっっ!」」」」」

 

 

そのままゴンドラはウンディーネ達の操る細流に乗り、私達の傍まで急速接近! けど、もう限界みたいで……!

 

 

「ギリギリ届いた! 私達に任せてよ! せーの!」

「「「「「それーっ!」」」」」

 

 

 こ、これは! 水の、傘!? あるいは水にスプーンを当てたらびしゃびしゃって広がっちゃった時のような……えっと、ちょっと表現が…。

 

 

 ともかく、オディーヌさん達がゴンドラの上に張ってくれたのは、水の障壁! 有難い、これさえあれば!

 

 

「タッチ! あ~んど! さ~ふ、ゴー!」

 

「なにいぃいッッ!!?!?」

 

 

 着水、そして再度の跳躍! これなら、間違いなくーー!

 

 

「ぐ、や、やられてたまるァッ!! これでも食らえッッ!」

 

 

 うわっ!? 冒険者、バッグごと投げてきて!? 回復薬とかが投棄されて、危な、きゃっ、しまっ……勢いが…!

 

 

「ハッ! 鈍りやがったな! 今だァ! っこの、もっと飛べぇッ!」

 

 

 ええっ!? ま、まだ上昇していくの!? 召喚魚も水流越えて限界みたいなのに! くぅっ…折角のチャンスだったのに、あれじゃあやっぱり、ウンディーネ気分のままでは……!

 

 

「アストさ~ん、これ使って~!」

「アスト、これ使いなさい?」

 

 

 えっ、わっ!? 落下していくオディーヌさんから小さな水流が、箱の中から社長の触手が、私の両手にそれぞれ何かを渡してきて、これって!

 

 

「アクアジュエル!」

 

 

 そういえば社長もさっき持ってて、でもこれを渡されたところでウンディーネらしくは……あっ、そうか!

 

 

「気づいたわね~! さあ飛びなさい! ウンディーネアスト!」

 

 

 はい! 私の魔力ならできる! この距離なら申し分なく届く! 翼は閉じて、尾は下げて。けれど腕だけは広げて、手からはみ出すようにアクアジュエルをしっかり握って! それじゃあ!

 

 

「社長、しっかり太ももに掴まっててくださいっ、ねッ!」

「ひぃいやっほお~ッッッ!」

 

 

 ウンディーネの腕からたなびく水流のように、あるいは水の道を作るように! アクアジュエルから勢いよく水を放ち、その勢いで空を、駆けるっ! 

 

 

「はっ……はあああっ!?!?!?」

 

 

 全力を篭めているもの、必死に逃げている冒険者にあっという間に追いつき、追い越し、目の前に! さあ、ノリノリのまま、決めて魅せよう! 

 

 

「社長!」

 

 

 そう声をかけながら、空中でバックフリップ!ターン! それと同時に宝箱を包むように巨大水塊を形成!

 

 

「さ~! 私達の技にホレて、ブレイクしときなさいな!」

 

 

 社長は宝箱を後ろへ引き、私の身体ごと弓なりとなって準備万端! ふふっ、あの冒険者の顔。烈日の青空に細流の軌跡描く私達へ恐怖を覚えたか、それとも見惚れたか、あるいは両方か。

 

 

 なんにせよ、その思いに溺れてもらいましょう! せーの!!!

 

 

 

「「『ウォーターボックス・ハンマー』っッ!」」

 

 

「げばごぼばぁっ!?!?!!!?」

 

 

 

 水塊纏った宝箱による、大槌の一撃が如き思いっきりキック!!! 冒険者はとうとう回避できず、召喚魚を掻き消されるほどに蹴り飛ばされ、吹き飛ばされ、水の道を突き抜け~一番下の水溜まりへと、特大の水飛沫あげ落水! 

 

 

 

どれどれ、うん! 復活魔法陣送り、確認! ふふ、ふふふっ!

 

 

「「やったぁ!」」

 

 

 思わず社長とハイタッチ……はできないから、私の太ももとタッチ! まさかウンディーネ気分のまま最後までやれちゃうだなんて!

 

 

「たっっのしいわね~! ここに派遣する子達がちょっと羨ましいかも!」

 

 

 ふふっ、気持ちはわかります♪ 我が社には水棲型の子用のプールはありますけれど、やっぱりロケーションが違いますからね。もしあの子達がここに来たら、泳ぎに泳いで……あ。そうだった。えっと一回近場の水の道へと降りて。

 

 

「どうしましょう。派遣する子の装備や戦術」

 

 

 遊びに夢中ですっかり忘れてしまっていた。元々それを考えていたのだ。この箱サップあるいは箱サーフィンを楽しむ建前ではあったものの、悩みの種なのは事実。いやそれより。

 

 

「社長~! アストさ~ん! ざっぱ~んっ!」

 

 

 丁度オディーヌさん達がこちらへと。わわっ、乗っていたウンディーネの皆さんが怒涛の勢いで顔を寄せてきて!

 

 

「ねえねえねえ! ミミックってあんなこともできるの!?」

「浮くだけでもすごいのに、あんな速度でなんて!」

「水の上でジャンプも、あんなすっごい波乗りも!」

「この舟みたい! ミミックってちっちゃい舟なんだね!」

「ねね、この舟も派遣してほしいな~って…! アクアジュエルあげるから~」

 

 

 え、えっと、その…! 舟は私の魔力製ですから供給が途切れたら消えてしまうので、ラティッカさん達箱工房に本物を作って貰えば……そっちはともかく。

 

 

 やはり勘違いさせてしまった。デモンストレーションじみた討伐だったとはいえ、やりすぎた。先程までの行動は全て、社長だからできたことなのである。

 

 

 派遣予定のミミックは浮くことこそできるだろうけど、あれほど速くは泳げず、あんなに高く波乗りジャンプはできない。なのに最高レベルのミミック技を見せてしまい、下手な期待をさせてしまった。

 

 

 そもそもそれらの対処法のために頭を捻っていたのに……流れに身を任せ忘れちゃってたけど。何も解決先を導けないまま今に至るのだ。せめてこう質問攻めになる前に何かしら見出したかったのに……ひいぃんっ!?

 

 

「ええ! 皆さんの助力があれば、派遣する子達もご期待に応えられますよ~!」

 

 

 ちょっと社長!? 今日一番の勢いで私の股下にずぼっと!? 頭ぶつかってるんですけど!? というか皆さんに話しかけるのであれば箱サップ解除でも……え。

 

 

「社長、請け負って大丈夫ですか…?」

 

 

 翼を広げ、箱から足を抜き、ひょいと持ち上げながら。すると社長はサングラスをしゃきんとキメ顔でつけてみせて。

 

 

「勿論よ! さっきまでの遊びで良い感じのプラン思いついたの! きっとアストも色々思い浮かんでいるはずよ?」

 

 

 え。いえ、私は。幾つか思いついたことこそありましたが、どれもこれもまとまりがなく。皆さんの願いに、冒険者の全てに対処するアイデアは。

 

 

「ふふ、充分よ。細かな流れは、全部一纏めにして大きな流れにしちゃえば良いんだから! これを使って、ね」

 

「これ? アクアジュエルですか?」

 

「忘れちゃいけないわよ~! これほど属性の力に満ちたダンジョンなら、私達ミミックでも魔宝石を自在に使うことができるんだから!」

 

 

 そういえばそうでした。他の精霊ダンジョンでも、ここでも。さっき魔法の適性が皆無な社長でも水は作り出せていた。

 

 

 けれど、それを活かしてアイデアを一纏めにとは一体。とりあえずゴンドラに乗りましょうか。えっと満席どころじゃないから、端に腰掛け足を外に出す形で。

 

 

ふふっ、水流がさらさら当たってくすぐったい……! おっと、楽しんでいる場合じゃない。お仕事の時間。ゴンドラの穏やかな揺れの中、社長のプレゼンテーションが始まる。私も耳を向けて、ふんふん、えっ、ははぁ……!

 

 

「――というプランで如何でしょう? 皆さんの助力は必須となりますが、これならばどんな冒険者だって!」

 

「「「「「乗った~!!」」」」」

 

 

 有難いことに皆さんも即座に受け入れてくださった。日が当たる水面並みにキラキラとした瞳で。しかし、ふふっ!

 

 

「まさに今日の訪問総まとめみたいなプランですね!」

 

 

 社長の言葉に偽りなし。全ての行動を纏めた、どのシチュエーションでも通用する対策だった。これなら冒険者が泳ごうが潜ろうが飛ぼうが全部に対処できる。

 

 

 更にはウンディーネの皆さんが、さっきの私達みたいに冒険者を追いかけることを楽しむことすらできる! 流石は社長、流れるようなプランでした!

 

 

「にゅへへ~今日は楽しいことばっかだ~! ねぇねぇ、もっと遊ぼうよ~!」

 

「あら! ではお言葉に甘えまして! アスト、まだノれるかしら?」

 

「はい! そうだ皆さん、舟のデザインにご希望はございますか? えいっ!」

 

 

「「「「「わ~っ!!!」」」」

 

 

 色も形も様々な何艘もの舟を出すと、ウンディーネの皆さんは楽しそうに移っていって! そうしてすぐに辺りへ流れだすのは、軽やかで美しいバルカローレ。オディーヌさんに続き、私達もそれに乗せてもらうとしよう♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……因みに、その後に起きた出来事があって。正直、口にも出したくないぐらい恥ずかしい話なのだけど…ううぅ……。

 

 

 社長が皆さんと遊んでいる間に私、一人でも出来るんじゃないかってこっそりサーフボードを作ってみたのだ。あの感覚が忘れられなくて、いけるかもって。

 

 

 けれど当然それは思い上がりで、いざ水流に浮かべたら立つことはおろか腹ばいで流されるのが精いっぱいで、あっという間に溺れて……。

 

 

 しかも調子に乗って早めの流れの道でやったものだから、それはもう揉みくちゃにぐるんぐるんと。慌てて魔法と翼で浮いて、復活魔法陣に送られることなく済んだのだけど……だけど……。

 

 

 ……そこでなんだか全身がスース―していることに気がついて。ハッと見たら、その……えと……水着が、無くて…流れに巻き込まれて剥ぎ取られてて……。しか…も……じょ…上下、両方……。

 

 

 きっとあれだけ戦闘ではしゃいだ後だったから緩んでて……なんなら下は社長に散々頭突きされていたからそれが響いてたんだと思う……。でもずっと楽しかったからその瞬間まで気づかなくて。

 

 

 その、だから……つまり、クライアントのダンジョンで…ぜ、全裸になってしまったということで。だから反射的にサーフボードにまた腹ばいになるしかなくて。

 

 

 それが焦りで火照った身には冷たくて……なんなら、あの……先が、凄くヒヤッとして…コホンッ! あと、炎天下のジリジリがその冷えた身に、特に水着跡に沁みてちょっと気持ち良……ゴホンッッ!

 

 

 そう、焦ってしまっていて。魔法で別の水着を作ればいいのにその発想すらでてこなくて。もうあわあわしたまま翼で胸を、尻尾で下を隠すのが精一杯で。

 

 

 ……あの時ほど社長の触手が恋しくなった時はない。悪魔族の尾は細いから隠すべきとこ全部隠せてる不安だったし、太ももに挟んだ尾が頼りなくて心細くて。あの社長の太さが、はぁ……。

 

 

 ケッホンッ! ともかく、そんな酷い有様で腹ばいサーフボードは無情に流されていって。サングラスも流されているからそれを直に受けとめるしかなくて。

 

 

 いつひっくり返るか冷や汗もので、誰かに見られたらと羞恥でいっぱいで。どうすればいいか不安で不安で。ただ水の道に身を任せるしかなくて。けど、その時。

 

 

『ア~スト~!』

 

 

 って声と共に、流れの正面から白波蹴立てて来る何かが! うん、もう言う必要はないけれど、社長。あの瞬間、心から救われた気分だった。助け船が、神が来てくれた気分だった。

 

 

 だった、ん、だけど。嬉しかった……の、だけ、どっっっ!!!

 

 

 なんで…本当なんで!! この際どうやって気づいてどうやって拾ったかはもう気にしませんが、社長だし! だけど本当に本当になんで、なんで!!!?

 

 

 百歩譲ってサングラスはわかりますよ!? 頭に私の分と合わせて二個乗せてるのはすっごくかわいかったです! ですけど、ですけどぉっ!!!

 

 

 

 なんでわざわざ、私の水着を頭に被って泳いで来たんですか!?!?!? しかも、しかも、上下両方とも!!!! 

 

 

 

 風と水飛沫に紐がさらさら流されてるのに気づいた瞬間、茫然でサーフボードひっくり返りかけたんですから! なにしてくれているんですか本当に!

 

 

 周囲に誰もいなかったから良いですけど、もう、ほんとにもうっっっ!!!

 

 

 

 

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