ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
か~! ギンギラギンにジリついててアっツイぜ。けど気分は悪かないさ。俺ちゃんにとっては絶好なロケーションだ。青い空に眩しい太陽、クランの仲間達。そんでぇ~~!
「今日も良い波良い流れしてんなぁ! 『水の道』ちゃんよ!」
サーフボードを地面に刺し、日差しを手で遮りながら見上げてやりゃあ、えっぐいほどに青く透き通る水流共が空に道を作ってるのが見える! ふぅ~! 唸ってる唸ってる!
この水の道ダンジョン、水精霊ウンディーネが仕切ってるだけあっていつ来てもとんでもねえぜ。ただでさえ水流が空に道作ってるってだけでもヤバいのに、そのうねりようが超ヤベえと来た!
イイ女のくびれた腰つきみてえな水流があったと思えば、死にかけのアクアサーペントがのたうち回るような大暴れ水流が。かと思えば輪状や螺旋状、しまいにゃシャワー状っていう頭が熱でやられてんじゃねえかってアホ水流まで。
相変わらず並みの連中にゃあお近づきすら許さねえうねりだよホント。気圧でおきるうねり、スウェルなんか目じゃねえ。ま?だからこそ?俺ちゃんみたいな凄腕には相応しいんだなぁこれが!
さ、今日もあのじゃじゃ馬ならぬじゃじゃ水流を乗りこなしてやるとすっか! おぅい、お前等ぁ、いい加減準備できたか?
「もうちょっと待ってくださいや、リーダー…! まだ召喚が……!」
「人数分の魚も舟も揃ってないんすよ…! 強化魔法も、おい早くしろよ」
「急かすな! 体力強化に水中呼吸に他色々、何個かけてると思ってんだ!」
「重……。こっちの爆弾何個か、そっちのバッグに入れられないか?」
「無理だっての。鎧も着てんだから。沈ませる気か?」
「俺も無理だ。大槌背負ってんだから」
「てかリーダーこそ。また召喚獣も強化も無し、装備もポシェットだけで…」
あ~ん? ハンッ、俺ちゃんここに来る時はいっつもこんなスタイルだろ? 武器ならほれ、魔法剣持ってる。あとは海パン一枚で充分だ。おっと、アロハシャツは脱いどかないとな。
バフ魔法もそうだが、んな爆弾とか重装備なんて要らねえっしょ。重くて波乗りの邪魔になるに決まってんだからよぅ。叩き折ったアクアジュエルを入れるポシェットだけで充分ってな。
大体そうやって色んなもんに金かけてっから元取ろうとして大荷物になるんだろ。俺ちゃん見習えよ。装備は剣一本と水着だけ。サーフボードは魔法で出した自作。これなら大儲けできんだぜぃ?
ま、俺ちゃんほどの腕前がなけりゃあできないだけどよ! 見ろ、この日に当たって輝く、焼けに焼けた肉体美! 映えんだろうぃ? これでダンジョンに挑むだなんて、あいつらにゃ到底無理だよなぁ。
とはいえ?そんな雑魚連中でも?俺ちゃんの可愛い可愛い子分みてえなクランメンバーだ。泣きつかれたら出張ってやんなきゃしょうがないって話っしょ。丁度ひと泳ぎしたい気分だったしよ。
けど、は~あ。おいおい、ま~だ用意終わんねえのかぁ? サンオイルぐらいは持ってくればよかったぜ。
「――全員準備できました、リーダー!」
「やっとか。おっせえんだからよぅ。う~し、んじゃ予定通り四人四人な。つっても?巨大アクアジュエルに着くまでは?黙って俺ちゃんに、んあ?」
早速サーフボードを水に浮かべようとしてたら、ひとパーティー後ろの方でこそこそしてやがる。なにしてんだ? てか。
「こちとらお前等のリベンジのために来てやってんだぞ? ちっとは前張る覚悟ぐらい見せられねえのかよぅ」
「っ、す、すんませんリーダー…! けど、その…」
「お願いがありまして……へへ……」
「俺達、下に潜りたくて……」
「その間、上でウンディーネ共を引きつけてもらいたく……」
あぁ? 何言ってんだよアホか? 下って、このダンジョンの最下層にある湖的なアレか? そりゃ、あん中にもアクアジュエルは生えてるけどさ。
「巨大アクアジュエルの方が遥かに質が良いし、何よりスリルあって楽しいじゃんかよぅ! お前等も冒険者の端くれ、ならそれらしく――」
「それができんのはリーダーぐらいの腕あってですぜ…!」
「俺達、無理っす……。この間の失敗で装備全部失っちまって」
「まだ暫くは安全に稼がなきゃ、スリルもへったくれもないんすよ!」
「いやほんと、リーダーのその頼りになる胸、貸してくださいよぉ…!」
は~~……んだこいつら。よく見りゃ確かに潜水装備だし、召喚魚とかもそれ用だ。つまり、最初っから俺を囮にする気満々だったてかあ? ったくよぉ、急にクランからハブってやりたくなってきたぜ。ま。
「そっちの取り分、半分寄越せば聞いてやらんでもないぜ? 格安だろぅ?」
間抜けな子ほど可愛いとはよく言うからな。ここは俺ちゃんが?大人になってやんよぉ。か~全く、俺ちゃんったら優しいぜ!
「は、半分…!? そりゃ幾ら何でも……!」
「暴利にもほどが!」
「ッ…いや、頼んます……」
「ぐぅ……」
おいおい、んな悲しそうな顔するなっての。俺ちゃんが?身を張ってやんだから?もっと晴れ渡るような笑顔しとけって。この青空みたいにさぁ。くぅっ、アあ~!
「もうたまんねえ~ッ! ノって行くぞ~ぉうッ!」
俺ちゃんのパーティー三人を指でくいくい呼んで、早速水の道へと飛び乗ってやる! ぷはあっ! いいねえこの流れ、悠長にパドリングなんてしてられねえぜ!
「んじゃ、精々地味~に地道~に、頑張って来いよ~ぅ!」
早々にテイクオフして、あの間抜け仲間達にピッと合図してやる! 精々アクアサーペントやケルピーに食われないようにな~! かかっ!
「う~い! ほ~い! い~ようっと! どうだい? ウンディーネよりも水の精霊だろうぃ~?」
波立つ流れに乗ったまま、オーリーしてからのフロントサイドエア―! つまり一度跳ねてサーフボードを掴んで見せて着水。それで俺ちゃん流に無理やり起こした波を活用して、突っ込んでって波乗りジャンプ!
んで飛沫を空に上げてやってから、カットバックで水流を切り白波の弧を描いて仲間の元へ。ほれほれ、傍でノーズランディングを披露してやんよ! この技、結構ムズいんだかんなあ?
サーフボードのノーズ、先端に足の指をかけながら波乗りすんだ。そうするとノーズが良い感じに沈んで、まるで水面を立って滑ってるみたいになるんだぜぃ?
「いや~! ウンディーネよりも水の精霊っすよ!」
「マジそれ~! ウンディーネのほうが格下感あるわ~!」
「てか実際ウンディーネよりも波乗り速いじゃないっすか!」
かかっ、褒めんな褒めんな! ま?本来はカワイイ女の子達に披露してやる技だし?どんだけ褒められようとも両足十本かけるハングテンは見せてやんねえよう~だ。あぁ、そういや。
「あのポンコツ共が言ってた美女? 今日は来てねえのかなあ?」
今日俺ちゃんがここに来てやったのは、あのごねた連中のリベンジ、復讐のためだ。んでその復讐相手が、かははッ! いやマジウケる!
なんでも、宝箱をサーフボードにした悪魔族の女みたいでさぁ。しかもバカンスでもしてたのか水着姿だったらしくてよぅ。そんな女相手に重装備のあいつらは爆弾使い果たしてボロ負け、復活魔法陣送りにされたんだってから!
おっとっと! いや~思い出したらつい
ポンコツ共の話だから若干眉唾だけどさ。その悪魔族女、えっっっっぐいぐらいの美女だったってなあ。そんな女がここを自在に乗りこなしてるだなんて、まさに水も滴る良い女、水も滴る良い男な俺ちゃんに相応しいっしょ!
なにせウンディーネは見た目ガキだし、何より俺ちゃんより波乗り雑魚な癖に水の精霊とか名乗ってんのが気に入らねえし。マジだったら是非お近づきになって、俺の美技でメロメロに……あ。そういや。
もいっこなんか言ってたなあいつら。その悪魔族の女、子分を引き連れてたって。なんだっけか? 悪魔族のイケたスタイル水着美女って話だけ印象強くて忘れちまったわ!
それにしても、あいつらは何度思い返しても不甲斐ねぇなあ。折角俺ちゃんが技を仕込んでやったのによぅ。そも?今日ここに来ることを了承したのは?ポンコツ曝した分いっちょ再稽古といこうと思ってたからでもあるんだよっと!
ふうっ! バツグンのフリップぅ! この水の道ってさ水流だけで動いてっから、
けど?水は見ての通り海レベルだし、流れは一方通行で変にカレントみたいな水中流やショアブレイク的な打ち寄せ波を気にする必要なくて?だから寧ろ潮のローやハイを気にせずずっと出来て?
そんで場所によってはさっき言ったみたいなおっそろしいコースもあっから?ホレてる波なんて、大技披露すんのに適したサーフポイントなんて幾らでもあんのよ! ガチ目指すサーフィン練習にはピッタリなんよマジでさ!
なのにあの連中、あ~んな必死に頼み込んできやがってさ。それじゃあ俺ちゃんもさぁ、強く言えないじゃないのよ。好きにやらせるしかないじゃないじゃんよ。
ま?あいつらも腕は悪くないし?下の水溜まりは流れがほぼ無いし?ケルピーやアクアサーペントの縄張り外のとこ潜ってったから襲われる心配もないし?ウンディーネ連中はほぼ下にいないし? 余裕っしょ!
俺ちゃんがここでサーフィンするだけであいつらは喜ぶし、取り分も追加で入ってくる。最強じゃんかよぅ! どうれ、もうちょっと加速してムズめの技を――。
「ん? は!? り、リーダー! あれ見てくんさい!」
んおっとお!? ちょいちょい、なぁに俺ちゃんの流れ止めてんだよ! 折角の乗りを潰されるのが俺ちゃん一番嫌いだって知ってんだろが!
って、おいおいおぅい。なんで三人とも水の道の端に止まって下見てんだよ。まだ楽しく見下ろせる高さじゃねえだろお? なのになんで、落ちるか落ちないかのスリルを味わるレベルで……あ?
な~んかちっちゃく見えるなあ? 一番下の湖的なとこに、なんか浮かんでんぞ? どぅれ、魔法で視力強化してやろうじゃないの。
アクアサーペントやケルピーじゃねえな。とはいえまあまあでかいしぷかぷか浮いてるしゴミかなんかか? ったく、誰だよ俺ちゃんお気にの遊び場汚しやがんの。あんな四つも……鎧やバッグみたいなのも……え。は、はあぁッ!?
「アレっておい!!? あのポンコツ共じゃんかよ!?」
ゴミじゃねえ! あ、あれ、さっき下に潜るって言って別行動になったもうひとパーティー! 俺ちゃんに囮頼んできやがったあのポンコツ共の……!
ありゃあもう完全にやられてやがるじゃん。復活魔法陣送りになる頃合いって感じ。は~……マジポンコツの間抜けじゃねえか! なんなんだよぅ!
このダンジョンでコテンパンにやられたからって俺ちゃんまで引っ張ってきて、んでこそこそしたと思ったらあの有様かよ。あ~あ~、あんなになるぐらいなら初めから俺ちゃんについてきとけば。バッカでぇ。ただ。
「もしかしてあいつら、ウンディーネに…!?」
「潜ってる隙狙いやがったなあ!?」
「精霊の癖に卑怯なことしやがって!」
「ちょい落ち着けや。あいつらヤッたのはウンディーネじゃねえな」
俺ちゃんの凄腕冒険者としての勘が言ってんだよ。少なくともあいつらを復活魔法陣送りにしたのはウンディーネじゃねえ。殺り方が違う。せいぜい溺れさせたりするぐらいだ。
かといってアクアサーペントやケルピーとかの魔物共でもない。あいつらならあんな風にぷかぷか浮かべず速攻食うだろうしな。
なのにあれ、全身まともにありやがんのよ。一見溺れたかのように見えるし、実際んな苦しみ方してそうなヤラれ方だけど、俺ちゃんの目はごまかせねえ。身体に穴開いてんのが見えた。鎧すら貫いてるほどのな。
なら結構な戦闘があったはずだ。だってのに戦闘音はおろか爆発音すらしなかった。俺ちゃん、耳もプロってんのよ。波とか流れを聞き分けなきゃ乗れねえからさ。
つ~ことはあいつら、奇襲的な何かで一瞬でやられたってことよ。とはいえあいつらだってA級ダンジョンとか行けるぐらいの腕。幾ら水中とはいえアクアサーペント程度なら返り討ち、のろまなウンディーネ数体相手なら言わずもがなっしょ。
なのに、ああもあっという間にやられるもんかね。こりゃあな~んかあったな。予想外ななんかが。ふ~ん? ん~う?
ぶっちゃけあのやられ方、見覚えある気すんのよ。俺ちゃん、水系のダンジョンどこもホームみたいなもんだからよぅ。そこで見た気が。んで、奇襲じみた……待てよ。
確かあいつらなんつってたっけ? あの悪魔美女の話。さっきほっぽった話の続き。悪魔美女、なんか子分連れてたって言ってたよな。そいつが確か、あ~と……宝箱でサーフィンする美女の子分は……っ……ッ!
「じゃあリーダー、あいつら何にやられたって――」
「ミミックだ」
「は……? は!? ミミックって、あの!?」
「間違いねえよ。このダンジョン、ミミックが棲みつきやがったんだ」
「お前等しっかりついて来いよぅい? かっ飛ばすぜぇ!」
「り、リーダー! わぷっ、ま、待ってくだせえ!」
「ミミックいるって、マジなんすか!?」
「な、なら気を付けた方が……!」
あ~ん? んな不安がるなっての。俺ちゃんの経験を疑う気かあ? 間違いなくいるぜぇ、冒険者の天敵とまで言わしめるあのクソ魔物、ミミック。
あのポンコツ共が最後の最後で役に立ったって感じかねぇ。あいつらのヤラれ方、恐らく蛸的な毒持ち触手型と、『宝箱ダツ』的な群体型のソレだもん。俺ちゃんも昔何度やられたことか。
ま?ただ?ジョーシキ的に考えてみろってハナシ。ミミックって~のはどっかにじ~っと隠れてコソコソやるような陰キャ魔物だって知ってっだろ? そういうヤツは、ま、下の湖的なとこには棲むだろなあ。
けどよ、ここはどうよ。こ~んな水流ギュンギュンな水の道、ミミックなんているワケないっしょ! 流されるに決まってるっつ~の! ぶっちゃっけいっちゃん安心じゃん?
まだ不安なら、俺ちゃんの速度に着いてくればマジ安心よ。ミミック如きが俺ちゃんの動きに追いつけるワケないんだからさ。ま?俺ちゃん完璧主義者なんで? マニューバとか技とかほぼ封印して警戒強めてやってっから。
とりま、さっさと巨大アクアジュエルに着いて、良い感じにドカンやってかっぱらってやろうぜぇ。俺ちゃんのクランを二度も汚したんだから、水で流してやるわけにはいかねえよなあ? お。
「かかかっ! やっぱこ~りゃ壮観だ! ビッグウェーブみてえだあ!」
ここまで近づくと迫力は相当だぜ。まるで水中に飛び込んだかのような、何から何まで全部巻き込んで流し尽くしそうな青。山サイズの巨大アクアジュエルだ!
これを俺ちゃんの手でブレイクさせて攻略すんの、想像しただけで気持ち~んだよなあ! さあ~てっと! う~いいいっ、とうッ!
エアーリアルで水流波から飛び出し、巨大アクアジュエルの上に着地。さっすが俺ちゃん、決まってるぅ! おいほら、お前等もこの上に乗ってきな?
別に端っこの棘みてえに飛び出してるとこ壊すだけでも良いんだけどよ。俺ちゃんの顔に散々水ひっかけてくれちゃった礼はたっぷりとしないとなあ。イイとこぶっ壊して貰ってってやるから。おっと。
「お前等、こっからは警戒は怠んじゃねえぞぅ? どこにミミックいてもおかしかねえんだから、よ」
見ろよこの、どこもかしこも青い宝石で出来たギラッギラの林を。こんなに鬱蒼として棘まみれの場所、ミミックがどこに隠れててもおかしくないってな。水の道みてえに俺達へのアドがあるわけでもねえし。
それにここはウンディーネの本拠地的な場所よ。あいつら一体一体は大した強さねえけど、いっぺんに来られたらウザいし、それこそ水の道が無えから逃げんのも面倒。だから警戒に越したことは…つか気になんのが。
「そういやウンディーネ、一体も見てないすね」
おいおい、俺ちゃんの台詞奪うんじゃねえよカスがよぅ。ハブんぞ? ま、それよそれ。いつもなら水の道に乗ってる最中に見つかって騒いでくるもんなんだが…それが邪魔くさいから急いだってのに。まま、ど~せ。
「どっかで遊んでんだろ。ガキみてえな連中だしよ」
「なんか向こうの方からぱちゃぱちゃキャッキャ聞こえんな」
んだお前等もかよぉう! 俺ちゃんからスネークすんじゃねえよ、波奪うんじゃねえよ! プライオリティがあんのは常に俺ちゃんなんだぜ? クランリーダーなんだからよう!
ったく。ま、あとで弄って憂さ晴らししてやるから良いわ。それよか、ちょ~ど話に上がったんだ、乗ってやろうじゃねえの。
「音の方、見に行こうぜぃ」
「「「え!? マジすか!?」」」
「おい声でけえよ。大マジだわ。うら、着いて来い。リーダー命令だ」
いっつもうるせえウンディーネ共が何に夢中になってるかは興味あるし? ミミックがいるからって俺ちゃん達をここまで侵入させたアホディーネを嘲笑ってやりてえし? 折角ならあいつらの嫌がるよ~な場所をぶっ壊してやりてえじゃん?
だから覗きしにいくんだよ。お、この辺りから様子窺えそうだな。どれどれぃ? ど~せいつもみたいに、水溜めてプール作ってぱしゃぱしゃしてやがってんだろうが……あ?
「……なんだあ、あれ?」
「舟…? 浮き輪……?」
「何艘も何個も……でかいのも小さいのも…」
「柄も色々あんな…ドラゴンのゴンドラか、あっちの?」
予想通り、ウンディーネ共はプール作って遊んでるわな。けど……あぁ? なん、なんなんだあれ。あんな舟だか浮き輪だか諸々なんて前まで一つもなかったぞ。しかもよぅ。
「あの真ん中のデカブツ、わけわかんねえな?」
「クソデカいバケツ…いや宝箱っすよね?」
「それが空中に吊るされるようになってて、水が流し込まれてて……」
「うわっ、ひっくり返って水が大量に……! プールかよ」
いやプールじゃんかよ、どうみてもよ。それもアトラクションタイプの、ガキが喜ぶタイプの。水をちょろちょろ撃ちだし続けてる大砲もどきもあるし。てかそれだけじゃねえ。
あの端っこにあるの、まさか水上コテージかぁ? しかもバーみたいになってやがるし。それに、あっちにゃあパラソルとビーチベッドまでありやがる。ウンディーネ共はそれを満喫して…いやマジ変だわ。
今までウンディーネ連中はあんなもの持ってなかった。なんつ~の?人工物、構造物?まああれよ、人の文明的な代物。そりゃ水しか操れない連中だもんな。せいぜいが水製の何かぐらいっしょ。
けどあれはどう見ても違う。誰かが作った道具の類だ。浮かべて乗ってバカンス楽しむみてえにしてる舟も浮き輪も、支えてる柱からシャワー出るようになってるクソデカ水ぶちまけ宝箱も。他諸々何もかも。
なんで、急に。つ~……思いつくのは、例の悪魔美女かあ? 俺ちゃんここに飽きるほど来てるけどそんな女が居たって話初めてだし、時期的にその女の後だろ、これが出来たの。
子分ミミックを足蹴にサーフィンするだけのことはあんなあ。意味わかんねえことしやがる。色んな意味でもっと会いたくなって来たぜ。色々と楽しくおハナシしてみてえわ。
ま。とりまぶち壊すか。丁度いい標的だ。この付近に爆弾仕掛けまくってやればアレも壊れるだろ。そしたらウンディーネ連中は混乱するだろうし、その隙を突いてたっぷりアクアジュエルを、かははっ!
う~し! そうと決まれば早速設置と行こうぜ! 一番いい感じに爆砕できそうなトコはと。か~、こんなことなら俺ちゃんもちょっとは持ってきて……ッっ…!
「おい。一人何処行ったよ」
「「え? あれ!?」」
振り向いて気づいたわ。俺ちゃんのパーティーメンバー、一人いなくなってやがる。さっきまで居たし、勝手な行動してるってことはないだろ。んなことしやがったら俺ちゃんキレるって知ってんだろぃ?
「「まさか…!?」」
「そのまさかだろがよお。気ぃ抜くなよ」
つ~ことは答えは一つ。ミミック。だっからあんだけ警戒しろって言ったのによぅ。これ以上ポンコツ増えても面倒見切れねえんだよカスが。
とりま相互確認できる陣形になって周囲の警戒だ。こうでもしてりゃミミックはおいそれとかかってこれねえっしょ。しかし…どこに潜んでやがった?
向こうのプールの方はまだしも、俺ちゃん達の周りはアクアジュエルの棘林だ。宝箱はおろか人工物も構造物もない上に、比較的開けている。ミミックが接近してきたら視界の端に移りそうなもんなんだけどよぅ。
俺ちゃんの勘違いで、あのアホは勝手な行動とってるとかか? いや、んなワケない。ミミックがどっかに隠れてるに違いねえ、今も俺ちゃん達を狙ってるに違いねえ。
何処だ、何処にいる? あいつらが潜むなら何処だ? 俺ちゃんのA級常連冒険者の経験と勘をフルに活かして考えろ。こんな場所、潜める場所は少ない。そう、例えばア……ん?
「なんだぁ、この音はよぅ?」
「え、なんか変な音するっすか?」
「水の道の音と、ウンディーネ共のプールの音しか……」
バッカ、その音がおかしいだろがよぅ! あ~そっかあ、こいつら、俺ちゃんほど耳よくねえからなあ。当たり前かあ。んじゃよく聞きやがれ。流れの音が変に増えてんだよ。
水の道の音で誤魔化されてるけど、俺ちゃんは気づいてる。こりゃ~なんか新しいうねりが出来てんな。それと、プールではしゃぐ音が減って……減って!?
「「「「「どどどどどっぱ~んっ!!!!!」」」」」
「「ぬわあああっ!?」」
おいアホ共がよお! 茫然としてないで走りやがれぇっ! 水流に、
「ぷいにゅへへ~! 待て待て~!」
「爆弾、使わせないぞ~!」
「逃げても追いかけてやるんだから~!」
「そ~れだっぱ~ん!」
くっ、このぉ! 水の精霊の癖に舟なんかに乗りやがってよお! その舟、真っ二つにしてやる! 食らえ、俺ちゃんの必殺剣――ぐうっ!?
「硬え!?」
ちょ待てよおぉい!? 傷すらつかねえじゃねえの!? なんか魔法とか能力とかでも使ってんのかあ!? あんの悪魔美女、なんてモンを!!!
ちょちょちょお!? 波が、水が容赦なく押し寄せてきやがる! 足取られたら流石の俺ちゃんでも……!
「り、リーダー! 早く!」
「水の道、すぐそこっす!」
おっ、助かった! へっ、ウンディーネ共見やがれ、これが俺ちゃんの技だ! まずはサーフボードを召喚。そんで~え! ひぃやおう!
「「「「「わあっ!?」」」」」
敢えてウンディーネ共の方に走り、あいつらが引き起こしてる波をフェイスにして乗って、トップまで昇ってターンを披露してやる! できればここで一発食らわしてやりたいとこだけどよ、多勢に無勢だから見逃して~え、やるぜぇ!
「『ジェット・マニューバ』!」
サーフボードから魔力を放出して、勢いつけて! リップから派手に跳ねてやるぜぇ! ついでにロデオフリップも魅せながらな。どうよ、ホレんじゃねえぞお? な~んてなあ!
「う~い! 走れぇい!」
「「うっす!」」
バシャンと水の道に着水し、そんまま流れに乗って、流れを越えて逃げてやる! かかっ、なぁにが舟だ。どーせウンディーネ共、この水流以上のスピードは大してだせないだろ。見失わせて、別な場所を爆――はっ!?
「にゅへへ~! も~う逃がさないよ~お!」
「「レースだぁ! 待て待てぇ~!」」
「「はっしれえ~!」」
「「「速ぇっ!?」」」
「ど、どうなってんすかリーダー!?」
「なんでウンディーネ共、あんな速く!?」
う、うっせぇわ! んなの、俺ちゃんが知りてえってのお! 水の道まで出れば俺ちゃん達の独壇場だと思ってたのによぅ!
なのになんであのウンディーネ連中、今回に限って追ってこれるんだよ! いや理由はわかってんよ、あの舟なんよ! ぜってぇそうだろうがよ! なんなんだよあれはよお!
ゴンドラもあればプレジャーボートが、かと思えばカヤックみてえな手漕ぎボート的なのが、更にはスワンボートみてえなのもあるし! あれなんだよ!? たらい!? 舟ですらねえじゃねえかあ!
「あ、あれ、俺の召喚舟みたいにブースト機能付いてますわ!」
んなもん見りゃわかるってのポンコツぅ! だってあいつら、どいつもこいつもまともに漕いでねえからなあ! なんか仕込んでやがる!
ウンディーネの力で水流操って速度だしてんのか、それとも別のなんかがあんのか? なんにせよ撒かないと面倒……お? 進行方向にちょ~どいいものが!
「げっ!? り、リーダー! あれ!」
「アクアジュエルの、棘茨!!」
そ~よ! ありゃあ育ったアクアジュエルが、棘まみれの茨みたいに水の道の上にせり出してきてるヤツよ! これはチャンスっしょ!
「ここで振り払うぞ! お前等、棘に気を付けろぅい!」
「ひいいっ! 痛ぅっ…!」
「ま、魔法かけてて良かった…!」
仲間にもスピード上げさせ、無理やりその茨を潜り抜けてやる! はっ、このための防御魔法だろぅ? んな掠り傷程度でガタガタ抜かすなよ。その甲斐はあっただろうさ。
なにせこういった青棘ゾーン、ウンディーネ共は怖がる。精霊の癖に刺さんねえか不安がりやがって、勢い弱めるか水の道の中に潜って回避すんだ。
けど?今のあいつらは?舟乗ってやがる。見たとこ、この場所でそれを潜らせることは出来ねえだろぃ? だからこれで阻害できるってワケで――。
「どどどどどど~どがががが〜!」
「すぷらっしゅ~!」
「砕水せ~んでお掃除〜だ!」
「らむあた~っく!」
「ひゃあ~! あぶな~い! にゅへへ~!」
ぅおおおおいっ!? ちょいおいおぅいッ!?!? あ、あいつら舟で! 舟でアクアジュエル茨をへし折りながら突き進んできやがったあ!?!?!?
な、なにしてんだよおおい!? 俺ちゃん達が壊すのはキレる癖に、お前等は良いのかよお!? んな舟に身を隠して安全確保してんじゃねえよ! 水の網でアクアジュエル回収してんじゃねえよぉい!?
「「「「「補充かんりょ〜! すぴ~どあ~っぷ!」」」」」
うおおおおっ!? そんでなんでそれで速度あがるんだよお!? 意味わかんねえよお!!
「「「「「いやっほ~! ざっぱ~んっ!」」」」」
く、クソがよぉ! もう巨大アクアジュエルが遠くになりだしてやがる! どんどん離されてやがる!
「り、リーダー! どうしましょう!」
「こんままじゃジリ貧で……!」
あ~うっせえよポンコツ共がよお! 俺ちゃんばっか頼ってんじゃねえよ! 今あいつらに攻撃しかけても舟で防がれたら最後、一瞬で迫られてドカンと舳先で潰されるだけだろうがよ!
そも数が多すぎんのよ! こちとらサーフボードの俺ちゃんと舟乗りと魚乗りの三人、なのにあいつら舟は五隻、乗ってるウンディーネは十体はくだらねえ。
だからとりま数減らさなきゃ俺ちゃん達が攻勢には出れねえのよ。それをなんとかできりゃあ……っうおっとお!?
「ひゅ~! あっぶねえ!? シャワー型の水の道かよぉ!」
必死になってて気づかなかったぜ……! このダンジョンの名物が一つ、細分水流によるシャワー状水の道じゃねえか。こんなとこにまで来てたなんてよ。
ま?俺ちゃんは凄腕だから?反射的にエアーリアルでジャンプ回避してみせたけどよ。そうだ、あの舟共、ここで落ちたりは――。
「うわああああっ!?」
い~やお前が落ちんのかぁい!?!? お前も舟だけどよお! こんのポンコツ確定野郎がよぅ! ったく、なんとか下にある水の道には着地できたみたいだが、俺ちゃんと合流は――いいや、そうじゃんか!
「お前も一人で頑張んな~! せいぜい囮になってくれよ~い!」
「えっ!? り、リーダー!?!?!?」
ひぃ~やっほ~っ! 魚乗りの仲間を置いて、俺ちゃんは水の道から横へ飛び出す! んで舟乗りのヤツとも違う、更に別な水の道へと着水、流れにっと!
かかっ、俺ちゃんとしたことが。すっかり忘れてたぜここでのマジ戦法。クランメンバーにはよく教えてやってるってのによ~! 変にウンディーネ共が混乱させてくるから悪いんだ。
どーせこのダンジョンは移動全自動。ほぼウンディーネに追っかけられ続けるのが前提。なら?目標は一つだし?バラバラ行動するのもアリってなあ!
そうすれば向こうも俺ちゃん達を追うためにバラバラにならざるを得ないっしょ? つ~ことは追いかけて来る数はその分減るっしょ? そしたら数の利が良くなるってワケ!
ま、だからといってウンディーネを倒せるかは腕によるもんだけど、俺ちゃんなら問題ナシよ。てか一番良いのは追ってこねえことだけど。
「あっちは私達が行くよ~! せ~のぉ!」
「「どどどどどど~!」」
うぅわ。普通に舟で水の道をジャンプしてきやがった。生身の時はふわふわ飛んでくることしかできなかった癖によ。とはいえ、かははっ!
「一隻だけとは、俺ちゃんも舐められたもんだぜぃ!」
こっちに来たのはゴンドラ一隻とウンディーネ三体だけ。こりゃ~余裕よ余裕! 遊んだろ!
「ほうれほぅれ~! どうだあ~ウンディーネ共! 俺ちゃん、お前等よりも流れに乗るのが上手いんだぜ? 舟使ったところで追いつけねえだろ~い!」
追ってくるゴンドラの前で散々に煽り散らかしてやる! 右へ左へわざとらし~く大きくグライドしながら、360交えたフリップジャンプのコンビネーション! そんで後ろ向きに立って中指立ててやる!
かと思えばターンして敢えてウンディーネに近づいてみせて、ぶつかりそうになって脅してやる! けど、急速スナップで方向転換! ブーストかけて、水飛沫ひっかけるスラッシュして距離を取ってやるぜぇ!
なんならこの水の道の外周、ぐるぅっと滑ってやんよ! こんな
「にゅへへ~! すご~い! こんな動きしてたんだ~!」
「「追いかけっこ楽し~!!」」
けどよ、あいつらあんまビビってねえな。寧ろ俺ちゃんの技に拍手とかしてくる。接近して脅した時も怯みこそしたけどそれだけで、水の道外周りも歓声あげながらついてきやがったし。
なんだあ?俺ちゃんの方が遊ばれてんのか?馬鹿にされてんのか? チッ、マ~ジでムカつく精霊共だよおい。さ、そろそろ良いか。
「あ! あいつ、剣を抜いたぁ!」
「やば、気をつけなきゃ!」
「きゃ~!」
そろそろ仕留め時だ。あまり近場で倒して他のウンディーネへ救援呼ばれるのは避けてえ。かといって遠すぎると巨大アクアジュエルに戻るのが面倒。この辺りが頃合いだろ。
それにあまり長引かせすぎてあのポンコツ共がウンディーネに狩られちまったら勿体ない。遠くの水の道の白波的にまだ逃げられてるみてえだし、こんまま囮として役に立って貰わねえとな。
そんじゃ、パーティウェイブは終わりだ。そのゴンドラで舟葬にでもしてや――
「ぷにゅへ、んじゃ私達も仕掛けよっかぁ♪」
「「わ~い!!」」
あん? なんか動き始めやがったなあいつら。内一体はゴンドラの船頭してやがるけど、残り二体がゴンドラの中に身を引っ込めて、なにかごそごそと……あ?
「「行っくよ~! そ~れっ!」」
何か、水の道へ放り入れた? あれはゴンドラと
さっきもプール的なとこで使ってたヤツみてえだが、それにそれぞれぴょんと飛び乗りやがって……いやおい待てよ、おかしかねえか?
浮き輪もバナナボートも、ゴンドラの中にゃあなかったろ? どっちも一人用のサイズだとはいえ、ガキみてえな姿のウンディーネよか全然大きめだ。あれだけの大きさがありゃあウンディーネより目立っててもいいだろ。
だってのに、どっからそんなの出してきてんだよ? だいたいそのゴンドラに置けるスペースねえだろ。一瞬で膨らませたのかあ? いぃや、にしては。
てか大体なんで急にそんなモンを。いくら間抜けなウンディーネ共とはいえ、このタイミングで遊ぶワケ――。
「「突っ込め~ッ!」」
はっ!? はあああっ!?!?!?!? 浮き輪が、バナナボートが、勢いよく突っ込んできただとぉおうぅいっ!!!?
「どっぱ~んっ! 惜しい~!」
「躱さないでよ~!」
い、いや躱すに決まってんだろがよう!? そんな勢いで突然突っ込んでくりゃあよぅ! いやなんで突っ込んでこれるんだよ!??!?
それ、どっちかっていうと舟に引っ張られて動くタイプだろぃ!? そのための紐じゃねえのかよお!? なのに寧ろ繋がってるゴンドラを引っ張る勢いで前に飛び出してくるってよお!?
水の流れ的におかしなことじゃない……ワケねえだろうが! どう見ても動きおかしかったじゃねえか! 今もおかしいじゃねえか! 明らかに浮き輪とバナナがゴンドラ引っ張ってんだよお!
「待て待て~! 捕まえてやる~!」
「バナナで突き落としてやる~!」
「にゅへへ~! ゴンドラもいるよお~!」
うおっ!? どあっ、こ、この
っ、い、いや…落ち着け、落ち着け俺ちゃん……! 俺ちゃんは一流冒険者にして一流サーファー、そんでこんな精霊連中よりも水の精霊なんだぜ? してやられっぱなしなんて性に合わねえのよ!
だいたい、こいつら本当に水の精霊かよう! ボートやらでばっしゃばしゃ水面荒らしてなぁにがウンディーネだあ!? んなマナー違反のカス精霊なぞ、んなマナー違反のボートなぞ…かかっ♪
「食らえぃ!」
「きゃっ!?」
隙ありだぜぇ? なぁにがバナナボートだ! 水の道にんなの持ち込んでじゃねえよ! この一振りでパァンと切り割ってや――るぐっ!?
「あっぶな~い!」
「か、硬ぇえ!? バナナの癖に!?」
剣が、魔法剣が弾かれたぞおい!? う、うおっ…! 思ってなかったから、反動で揺れ、あ、あぶねえ! いやおかしいだろうがよお!
そういうのってゴム製か、良くてそれこそアクアサーペントのなめし抜け殻ぐらいだろうよ!? じゃなきゃそうやってぷかぷか浮かばねえだろ!? って、もしや……こっちはどうだッ!
「ひゃ~! スリルある~!」
「ぐっ…やっぱ浮き輪もかよ…!」
今度はそのつもりで剣を刺したから落ちかけることすらしねえよ。刺さらなかったがよ! いやマジなんだよ!? バナナボートも浮き輪も、あの舟並みの硬さしてんじゃねえか!?
つーことはほぼ舟じゃねえか!?!? 何の素材でできてんだよ、どんな造りしてんだよ!? じゃあどうやってゴンドラの中からそれ取り出したんだよ!!? なんか覚えのある硬さの気もするが……!
「どぱん! もういっちょ~どぱん!」
「にゅへへ~! 恐~そ~れ~見~よ!」
うおっ!? げほっ、このっ、うおおっとあっ!? や、止めろって言ってんだろがよお!?
クッソ、頭回るかよこんなのよお! 普段ならウンディーネ連中後目に頭空っぽにして流れに乗れてたってぇのに! マぁジ意味わかんねえ! 頭熱くて痛えよ!
もういい、もういいわッ! 俺ちゃんキレさせたなァ! 俺ちゃん、波乗ってる間はぜってえに
幾ら舟が硬かろうが、乗ってるウンディーネは普通だろうぃ? ならボードから飛び降りて、舟に飛び移ってやる! んで叩き切ってやる!!
うし、決めた。俺ちゃん容赦しねえかんな、泣き叫んでも許してやるもんかよ! 次良い感じの波立ちでボードが跳ねたら行ってやる!
まずはゴンドラからだ。得体の知れねえバナナボートと浮き輪よか、まだ理解が及ぶからよ。それにあの二つとは紐で繋がってる。あれさえ掴んじまえばこっちが有利になるぜ!
なんて考えてる間に、来たな! 良~い感じのホレ波、ホレ水流だ! ドパンとトップに持ち上げられた瞬間に、俺ちゃんジャンプでゴンドラに……ん!?
おい、ちょい待てよ。浮き輪は? 浮き輪のヤツはどこ行った!? いつの間に姿消えて、でも紐はゴンドラから伸びてて、んでその紐は水の道の外周に伸びて……それが水の中を潜って、俺ちゃんの傍を通り過ぎて――ハッ!?
「かぽ~っ!」
ぬぉあっ!? 浮き輪を、被せられた!? いややっぱこれ浮き輪じゃねえわほとんどの場所硬えし……じゃねえよ、何しやがんだよぅい!!?
こっそり水の道の外周を周ってきて隙突いてきたなら、せめてこの硬い浮き輪で殴るなりなんなりしろってのぅ! クッソ俺ちゃんとしたことが……!
一流の俺ちゃんに不意打ちしかけて成功させるだなんて、やってくれるじゃねえの。ウンディーネの癖に。ま、結局攻撃はお粗末だがよぅ。
こんな浮き輪を被せるだけで俺ちゃんを拘束したつもりか? 確かに腕ごと抑えられて剣もまともに振れやしねえ。けど、手錠とかじゃあねえんだぜ?
こんなの、腕で跳ね上げちまえば一瞬で終わりだ。こんな風に肘を勢いよく上げれば――ッ!?
「そんで~! かしゅしゅしゅんっ! っあ!? 躱されたぁ!?」
いやカシュシュシュン!じゃねえんだわ!?!? は、え!? マジ一瞬で気づいて腹ばいに、パドリング態勢になってなきゃあ……いやマジなんなん!?
デカめだった浮き輪が
「いつでも遊んでくれて、いつでも捕まえてくれる。素敵な浮き輪だよお~!」
そういうことかよ、俺ちゃん達から身を守る装備的なシロモンだなこれ! 成程な、これだけ小さくなりゃあゴンドラに隠し持つことも……いやバナナボートの方はどうなんだよ!? あれは縮まねえだろ、意味ねえし!
「「「捕まっえろ~!」」」
うおおっ!? そ、それどころじゃねえ!? 元に戻った浮き輪とバナナボートとゴンドラが俺ちゃんを圧し潰そうと迫ってきやがる! いやだから、なんでんなスピード出せるんだよおい!
折角あいつら囮にして分散させたってのに、これじゃ意味ねえじゃねえか! こんまま流されて追われ続けてるだけじゃあ倒す機会なんてありゃしねえ。なんか良いチャンスは……あん?
この波の、水の流れの感じは。もしや。どれ、ウンディーネ共に気をつけながら下を、水の奥を覗いて……かかっ、かははっ! カハハハッ!
こりゃあいい! ツイてるじゃねえのよ! 流れは俺ちゃんにキテる! そうとくりゃあ~! よっと!
「あいつ、剣仕舞ったよ?」
「そんでしゃがんだ? 何する気?」
「にゅへ~! もしかして~!」
おうさ、そのもしかしてに決まってんだろい? 流れでスピードは充分、あとはサーフボードが波の隙間に軽く埋もれた瞬間に――今だ、うぉらあっがぼぶっ!
「「「潜った~!!」」」
そうよ! サーフボードに手を当て、足の力も加えて水中に押し込んでやったのよ! 結構テクいんだぜ、このダックダイブ。本来なら邪魔な波の下に潜って沖に出るための技だが、ここに沖なんてねえよ。
それに、身体を水面と並行にせず、寧ろ垂直に近いレベルで潜り続けてやる、あえて水中へと沈んでってやる! なにせこの水の道の下には……かかっ! 俺ちゃんの目に狂いはねえってな!
「到着ぅ! I love you! Hold me tight! チューブ!」
今日もイカしにイカしてんじゃねえの! これぞ全サーファーの夢、巨大バレル空間! 海じゃお目にかかれねえ、最強のグリーンルーム! シーズン・イン・ザ・チューブ!
ま、正確にゃあ全然バレルじゃねえし、水も魔力と属性力が強いせいで色的には完全にブルールームって感じだけどよ。それでもここは最高っしょ!
ほら有名だろぃ? でっけえ波が巻いて、管状になった空間の中にサーフィンしていくあの大技、チューブライディング。あれ、マッジにムズイんだわ。
大波来るまでひたすら何日も波待ちだし、その波がホレてなきゃいけないし、それがバレルてかチューブ作ってくれないと入れねえし、ブレイクのタイミング見誤ると入っても呑まれて大怪我必至だし。
けどよぅ、ここならどうよ!
崩れることもない、流れは決まってるからクーカイやポンコツ共にでも安心。そんで景色はマジモン以上の爽やかさ! 見ろよこれぇ! 全面が水と光のカーテン、生えてるアクアジュエルはまるで珊瑚礁、神秘的な海の中だぜい!
か~……ガチ許せねえわ。ウンディーネの連中。こんな激ヤバスポットを独り占めしてんの。だからよぅ――。
「「「どっぱ~んっ! 逃がさないよお~!!!」」」
当然のよ~に追ってきたゴンドラ&浮き輪&バナナボートへ、ウンディーネ共へ見せつけてやんよ! 誰が一番ここに相応しいか、誰にプライオリティがあるかをよオ! 行くぜェッ!
「あっ! あいつ、一気にスピードあげたよ!」
「追いかけよ~! 待て待……わっ?」
「にゅへえ~。待って。なんかして来るらしいよお」
そこでただ流れに飲まれてやがれ! サーフボードにブーストかけて、俺ちゃんはバレルの内側に張りつき周るように進む! さっき外周でやったのの内周版且つ高速版よ!
かかかっ! この感覚がたまんねえんだ! 螺旋を描きながら空も地面もなく、ただボードの下に水面が、視界の全てが水面に包まれているこの感覚がよぉ! さあ見惚れやがれ、そして食らいやがれェッ!
「俺ちゃん必殺!『バレルストリーム』ッッ!」
「「「魔法剣の、嵐ぃ~ッ!?!!?!?」」」
青く眩しく煌めく水のトンネル道の内側を、白波の螺旋で傷つけながら! 俺ちゃんは魔法剣で斬撃を放ちに放ちまくるッ! 嵐だぁ?かははっ、イイ表現してんじゃねえか!
ひたすら流れに乗り、バレル内を周り駆け、ありとあらゆる方向から連続斬撃を飛ばすこの技。あいつらから見たらまさに全方位から降り注ぐ斬雨の嵐っしょ! 刻まれたくなければ回避してみなア!
まあ無理だろうけどよ! やたらめったら撃ちだした斬撃が水の道を切って波立てて大荒れにしてんだから! 舟じゃあまともに躱せねえだろぅ? それがお前等の敗因だぜ!
「ぷにゅへ~! 集まれぇ~隠れろお~!」
「「きゃ~っ!」」
ハッ、舟に身を潜めても無駄に決まってんだろ。なにせ俺ちゃん、バレルの天井から、船を上から覗き見れる位置からも斬撃放ってんだぜ?
んな状況で、屋根もねえゴンドラに隠れてもたかが知れてるってのぅポンコツ水精霊共! かかっ、さあ?モノホンの水精霊たる俺ちゃんが?お前等に引導を渡してや――……あ?
「……見間違いか?」
今、あいつらの姿が……いや、周回しながらの一瞬だから上手く見えなかっただけだろ。斬撃は撃ち続けてるし。どれ、もう一周して上から見てと…あ? は、はあァ!!?
「い、いねえ!?」
おいどういうこったよ!? ウンディーネ共の姿が…消えてやがる!? ゴンドラの中から、いなくなってやがる!? どこ行きやがった!?
水中に飛びこんだんじゃねえのはわかる。音も飛沫もそれらしいのはなかったし、あれだけ斬撃降らしてたんだ。無理に決まってる。
残ってんのは勝手に流されてるゴンドラと、それに繋がっておんなじように流されてる浮き輪とバナナボートだけ。当然そっちの二つにもウンディーネの姿は無くて、俺ちゃんの斬撃を弾いて長閑に揺れてやがる。硬すぎんだろ……。
って、ならあいつらマジで何処に行きやがった!? このバレル空間は密室だぞ?密グリーンルームだぞ、密ブルールームだぞ?? 水しか操れねえあいつらが変な魔法使えるわきゃねえし、水中に逃げたのに気づけなかっただけか……?
いや――す~ふぅ~。落ち着け、俺ちゃん。心をフラットに、ベタ凪の呼吸をしろ。俺ちゃんは一流冒険者で一流サーファー、ウンディーネよりも水の精霊でこのバレル空間の支配者だ。その俺ちゃんに、水音の聞き間違いはねえ。
じゃあ結局どこに行ったかって話だが……こういう時は今日を振り返ってみんのがいいだろ。サーフィンだって振り返りが大事だしよ。おかしなところを洗い出してみるとすっか。
まずあれっしょ。ウンディーネが舟に乗ってやがること。しかも速いし硬えの。アクアジュエルの石茨を圧し折り、俺ちゃんの攻撃を弾きやがるぐらいには。
んで、棲みだしたミミック。下の湖的なトコと、巨大アクアジュエルの上には絶対居たろ。けど、こんな水流の中にゃあ流石にいねえか。隠れる場所もねえし、泳ぎ続けるワケには……ん?
待てよ……そういや、あの感覚…。舟を切りつけた時と、あの激硬浮き輪共を切りつけた時。な~んか知った感覚だったんだよな。そう、それこそ、ミミックの箱を切りつけた時と――……。
「おい、まさか……」
バレルストリーム中止だ。周回止めて速度落として、剣を構えたままゴンドラの中に飛び移る。怪しいのはこの座席辺りか。信じられねえが……それなら全部説明つきやがんだよ!
「この舟、ミミックだなァッ!!」
「ぷいにゅへへ~!」
「「当たり~!」」
ふぐぅっ?!!? け、剣を座席に突き刺そうとしたら、足元の舟床と前後の舟板がパカッと開いて、ウンディーネが水のオールで俺のケツと両脇腹をぉ!?
ま、まだ別のトコが開くかもとは警戒していたがよ…っ! 三ヵ所も同時に開くのは、そんで遠距離じみた攻撃しかけてくんのは卑怯だろうが! ぐっ……!
「あ、危ねえっ…!」
それでも伸びてきた触手が足を掴む前に跳んで、サーフボードを再召喚して避難することはできた。俺ちゃんを甘く見んじゃねえぞ。ったく、クソがよぉ…!
「ミミック舟たぁ、ウザいコトしてくれんじゃねえか……!」
この流れと深さのある水の道、ミミックは潜めねえし追ってこれねえと思っていたが…まさかんな方法があったとはよ。なら勿論?
「浮き輪もバナナボートもミミックだろ?」
「にゅへへへ~! それもぉ~?」
「「せいか~い!」」
「「シャルウ♪」」
ケッ! ゴンドラからひょっこり出てきたウンディーネ共が飛び移れば、浮き輪共は自分からぴょんぴょんばるんばるん水面を跳ねてみせやがる。普通じゃ絶対ありえねえ動きで煽ってきやがって。
ああ成程よ、このダンジョンには打ってつけだろうよクソッタレがよぅ。ただ水に浮くってだけじゃねえ。水の道っていうルートが限定されているこのダンジョンに於いて、水を操る精霊ばっかのここに於いて、その箱は最適だろうさ。
しかも浮き輪とバナナボートを収容できる容量、箱の硬さ、俺の攻撃を防御し三ヵ所同時に不意打ちしてきた様子的に、ミミックの中でも手練れが複数入りだな? マジで乗り合い舟じゃねえか。
それでもそんな連中程度、俺ちゃんなら鮮やかに倒してのけ……てえとこだがよ。チッ、人がサーフィン楽しんでる状況を狙いやがって。まともな足場のねえ水の道が足を引っ張ってきやがる。流石はミミック、性悪だぜ。
だが?ま?簡単に倒せはしないが?俺ちゃんだって倒されはしねえからなあ! こうなったらどっちが先にスタミナが尽きるか勝負と行こうぜェ!
「ついて来てみやがれ! はっはあッ!」
剣を仕舞い、サーフボードに力を籠め、再ブースト! 『バレルストリーム』攻撃無し版だぜ! さあ、ウンディーネにミミック共、お前らは。
「にゅへへ~! 追いかけられる~? 行こ~お!」
「きゃ~! ぐるんぐるん周る~! 速~いっ!」
「ミミックちゃん、頑張れ頑張れ~!」
かははっ! 良い波乗ってんじゃねえの! ウンディーネ共を乗せながら、アクアジュエル珊瑚も跳ね避けて、俺ちゃんの速度についてこれるたあ! これこそいいパーティーウェーブ、いやパーティーロードか?
……てか、な~んで俺ちゃんについてこれるんだあ? 割と本気だぞ? 船に潜んでウンディーネの力もあるとはいえ、ミミックがあんな動きできるかあ?
そもそもミミックってのは瞬間的な動きにゃあ長けてるが、こうまで長距離を駆けるだなんて滅多にねえ。潜伏する魔物だからよ。だからありゃあおかしい。水の力を借りているとはいえ、だ。
水棲型のが舟の中にいるってか? いや、そいつらも基本は変わらねえ。水中で潜んで、近づいてきた敵を絞めめるか刺すかだ。あんな高機動は無理だろうよ。
というよりちらっと見えたあの感じ、あいつもブーストかけてるように見えんだよな。魔法使えるタイプのミミックか? そういうミミックもいるにはいるらしいが、極少数。俺ちゃんレベルのブースト魔法となるとマジの一握りだろ。
ったく、面倒なヤツに狙われたもんだぜ。ま?んなヤベえヤツを引きつけてやってんだ。あいつら、今頃なんとか巨大アクアジュエルに――あ? うおおっ!?
「ひぃいいっ! っあ、り、リーダー!?」
「お、追ってくんなあ!? っえ、全員ここに!?」
急に道の水壁が敗れたと思ったら、あいつらが、俺のパーティーメンバーの魚乗りと舟乗りが飛び込んできやがったあ!? おいなんでここに、おいまさか!?
「「「「「待て待てぇ~!!!!」」」」」
うおおおおっ!? 水のトンネルが、次々と突き破られて! プレジャーボートが、カヤックが、スワンボートが、たらい舟が…舟?が、勢いよく中に飛び込んできやがったあ!? い、いやそれだけじゃねえ!
「「「「「遊んでやる~♪」」」」」
び、ビーチボールが、二人掛けの浮き輪が、シャチだったりケルピーの顔つきだったり座れる貝型だったりのフロートが、サーフボードが、帆付きのウインドサーフボードが、他色々が!
水辺で遊ぶような玩具の類が、ウンディーネを乗せて一遍に襲い掛かって来てやがる!!? うおっ、うおおおっ!? バレルの内側を、トンネルの内側をぐるっと一周纏わりつくように並んで!? ど、どんだけ居やがるんだよお!!
こんな光景、真相に辿り着いてなければ暑さにやられてんかと思うわ! いやなんなら絶賛そう思ってるわ! あれ全部マジでミミックなのかよお!?
いやま普通のダンジョンにもこれぐらい潜んでるかもだけど! 水の道だから目立ってるだけなんかもしれねえけど……意味わかんねえってのぅ!!
「り、リーダーぁ! 助けてくれぇ!! あいつら、硬すぎて!」
「爆弾も大槌も効かねえ! てかまともに攻撃出来ねえ!」
こんのっ、ポンコツ共があ! 俺ちゃんだってそうだわ!! なんて数を連れてきてんだよぅ! なんでここに追い込まれてきやがったんだよおう!
せめて引きつけて俺ちゃんのために死にやがれや! なのに、あぁ、クソ!
「ねえねえ、この辺りの道、あとで変えてみない?」
「良いね~! そろそろ流れ変えたかったんだ~!」
「すやぁ……貝殻ベッド…快適快適~…」
「も~う、ミミックちゃんに身体委ねすぎぃ~!」
「気持ちはわかるけどね~! 速いのに揺れ良い感じだもん~」
「――にゅへ、もう待っててくれてるのぉ?」
「うん! そろそろじゃないかって!」
「だから違う道で先回りしてくれたよ!」
こちとらこんな必死なのに、あいつらキャッキャと井戸端会議みてえなお喋りしやがってよお! 水にしてやりてえが、この状況であの数に喧嘩売ったとて……!
「り、リーダぁー…! に、逃げましょう!」
「あんなの無理っすよ! ダンジョンの外に出れば…!」
「うっせぇポンコツ共がよう! こんままおめおめ帰れるかってのお! 俺ちゃんのクランも名前もボロボロにされて、爆弾や装備を失いまくってよおう!」
逃げるなんて考え、とうに思いついてるわ! けど、帰るに帰れねえのよ! なにせ俺ちゃん、あのポンコツパーティーに頭下げられて渋々来てやった身だぞ? あいつらは速攻やられたがよ。
なのに頼られた俺ちゃんがなんも得られずに帰るなんて、プライドが許するかよ! かといってどうしようも、巨大アクアジュエルは離れる一方だしよぉ……!
「じゃ、じゃあ! ここに浮いてるアクアジュエルを採れば!」
「それイイじゃねえか! ほ、ほらリーダー! まあまあ足しには!」
あのアクアジュエル珊瑚のことか? ……巨大アクアジュエルのヤツに比べれば質は下がるだろうが、今となっては充分か。それに大きいのを選べば、金額的にも名声的にもとりあえずは……チッ。
「なるべくデカめの見繕え! 時間稼ぎぐらいはやってやんよ!」
うおらあッ! 再度剣を抜き、魔法斬撃をウンディーネ共にぶちかましまくってやる! クソッ、やっぱウンディーネ共は楽しそうに隠れるしどの舟にも玩具にも効きやしねえ。だが?
「お! あれなんてどうだ!? 採れるか?」
「丁度棘が無い場所がある。掴めそうだ!」
その間に仲間がイイデカさのアクアジュエル珊瑚を見つけたぜ。抱えても余るぐらいのサイズだ。あれぐらいあれば、今日の損失分は賄えるだろうよ。はっ、ポンコツも多少は仕事して――ッなんだ、この悪寒…!?
俺ちゃんの勘が、何かを伝えてんだ。な~んか忘れてることがあるってよう。だが、なんだ? 何を忘れてる?
振り返りはさっきした。ウンディーネ共が調子に乗り出したのも、ポンコツクランメンバー共がやられたのも全部ミミックのせいだったろ? 舟も、下の湖的なトコも……あ?
待てよ……。んじゃあん時のは? 俺ちゃんのパーティーメンバーが一人やられた時の。あん時、俺ちゃん達はアクアジュエルの棘林の陰からウンディーネ共を覗いてただけだ。
その傍には舟も、玩具も、水棲ミミックが潜める水溜まりもなかった。なのに、一人やられた。音もなくな。大方アクアジュエルの宝石茂みに隠れて潜んでたんだろうが、ぶっちゃけ宝箱的なモンはチラリとも……ッ、おい、まさか…!
「う~し、う~し、こんまま進めばイケるぜ!」
「拾ったらすぐに逃げようぜ! リーダーも……」
「ポンコツ共! アクアジュエルから離れろォッ!」
「へっ!? どういう――」
「ぎゃッ!?」
おい…おいおいぅおい…! マジかよ、マジだったのかよ! 俺ちゃんの勘と推測すげえ…が、当たってほしくねえことばっか当たんなぁおい!
俺ちゃんが仲間に首を向けた瞬間、見えたのは――アクアジュエル珊瑚が、水流から自ら飛び跳ねる姿。割れるでなくパカリと開いて、中から剣並みに鋭い牙と長え舌を明らかにしやがった姿。
それが、そのアクアジュエル珊瑚を拾おうとしていた舟乗りのヤツへ、頭から一息に食らいついて。瞬きする間もなく、もう足先しか出てないぐらいに飲み込まれて。
んでその勢いのまま着水せず、流れに乗ってる俺達の顔横を掠めて後ろに、ウンディーネ共の舟軍団のとこへと――……。
「にゅへへ~! きゃ~っち!」
ウンディーネ共に水で受け止められ、ゴンドラの舳先へ器用に。そして俺の仲間をゴクンと飲み込み、またあの牙と舌を、宝箱ミミックの武器をこっちに見せつけて…ッ!
「あ、アクアジュエルが、宝箱ミミックになったあ?!」
うっせぇポンコツ! 今起きたことを考えれば一目瞭然だろがよぅ! そうかよ、宝箱ミミックがアクアジュエル被って化けてやがったとはよぅ!
ならあん時一人いなくなったのもアレの仕業に違いねえ。なんで都合よく流れてきたのかはわかんねえけどよ、随分味な真似してくれるじゃねえかクソが……!
チッ、そうなると流れてくるアクアジュエル珊瑚がどれもこれもミミックに見えてくる……! 下手に拾えねえどころか、さっきまでみたいの珊瑚スレスレのジャンプも危険になるじゃねえかよ。
か~……くぅ……わぁったよ。今回は俺ちゃんの負けだ。水の精霊の称号はお前達に預けとくわ。いややっぱりそれは駄目だ。ミミックに協力仰いでるし。
だが、これで終わったと思うんじゃねえ! 俺ちゃん、必ずリベンジしてやるかんなア! だから今日のとこは――。
「り、リーダー! お先ぃ!」
あっ!? あんの魚乗りポンコツ、俺ちゃん残してソラトビウオで逃げる気かよ!? てかこの水トンネルの中で飛ぶよか、一度下に沈んで外周に抜けてからの方がいいだろ! 水の道に慣れてねえヤツはこれだから――……。
「にゅへへへ~! 飛べ~!」
「「「シャアアアウッ!!!」」」」
「っな、なあああっ!? ぎゃぐえぁっ……!」
……あ…? 浮き輪が、バナナボートが、アクアジュエルミミックが、飛んだ…!? んで、ソラトビウオごとあのポンコツ野郎を……いや待てや!?
なんでミミックが飛べんだよ!? 飛行型ミミックだって群体型の宝箱ツバメとかだろ!? なのになんで浮き輪のまま、バナナボートのまま、アクアジュエルのまま空中に、もしやどいつも魔法使える凄腕で――いや、違え!?
そ、そうか……そうか、そうかよ、そういうことだったのかよう! 全部、全部分かった! なんで俺ちゃんのスピードについてこれたのか、なんで舟ごと水の道を飛べたのか! なんで空を飛べてんのか、ついでになんでアクアジュエルの棘茨を壊して、そっから速度あがったのか!
その答えは、あれかよお! 浮き輪の、バナナボートの後ろに取り付けられたアレは、
今まで水の中に漬かっていたせいで、水飛沫のせいで見えなかったが、あいつらマジでブーストかけてやがったんだ! アクアジュエルに魔力注いで、ジェット水流でスピード出してやがったんだ!!!
あいつらァ…! 俺ちゃん達が汗水垂らして取りにきたアクアジュエルを、んな雑に使いやがってぇ! マジ次、覚えてろよ。ぜってぇ泣かしてやっからなァ!
もう一度ダックダイブだ! 今日のとこは離脱して、次来た時は爆弾でも使って全部――うおおっ!?
「た、宝箱ダツだとォッ!?」
水の道に沈もうとした瞬間、その水の下から鋭槍みてえな口の群体型ミミック、宝箱ダツが!? って、この水影!
「どっぱ~ん! アクアジュエルミミック、効果あったみたいだね!」
もう一艘、道の中に入ってきやがった! しかも水影的にまだいやがる、俺の下に、水の道の表面にまだいやがるのが見える! クソが、クソがあ!
完全に囲まれてんじゃねえか! 密ブルールームじゃねえかあ! これじゃあまともに逃げられねえ、かくなる上は!
「『ジェット・マニューバ』! 最大出力ッ!」
「「「「「わわわあっ~ッ!?」」」」」
俺ちゃんの全身全霊全速力、見せてやんよ! いや見えねえぐらいにかっ飛ばしてやんよ! ぐっ……かかっ、追いつけるもんなら…追いついてみなあ!
「にゅへぇ~! 流石に速いねぇ~」
「ねえ、あれまずくない!?」
「だよね? 止めた方がいいかな?」
ハッ! なぁに悠長なこと言ってやがんだあ? 止めてみろよ! ま、俺ちゃんですら制御できねえんだ、お前等程度じゃ無理無理。ほれ、どんどんあいつらのスピード落ちて――。
「だってこの先の道……」
あ? ん…この流れ、ッヤバア!? お、大渦ぅ!? 道が狭まって、マジモンの波バレルよりも狭い、全てを呑み込み磨り潰すような勢いの、と、止まっ!
「止まらねえ!?」
スピード上げすぎた! せ、制御マジで効かねえ! こ、このままじゃ、ヤバ、マズ、マジでッ、がぼゴッ!?ボボカホボッ…ガバ……! ゴボブ……ゲ……グブ……ガフッ……。
「――っは!? こ、ここは!?」
「リーダー! リーダーまで…!」
「じゃあ…これで全滅っすか……」
「やっぱ、ミミックの奴らっすよね…!」
お前等…そのパンツ…水着じゃねえ下着のパンツだけの恰好……。そうか、ここは復活魔法陣か。つーことは、チッ、やっぱ魔法剣もポシェットも失くし…おい待てこの感覚。
「って!? り、リーダー水着は!?」
「まさか復活の時に装備判定で!? いやんな訳は…!?」
「と、とりあえずアロハ持ってきてますんで…!」
か~……俺ちゃんの履いてた水着、無くなってやがる。こりゃ溺れ死ぬまでの間に脱げたな。あんなえぐい殺人細バレルにあんな制御不能速度で突っ込めばそりゃ当然で…………チッ。
「あのポンコツパーティーは?」
「あ、あぁ! 安心してくださいよ!」
「締めときましたわ!」
「ほら、あそこっす」
あん? ハッ、ボコボコに殴られて正座させられてやがる。中に着てた水着だけの状態でな。うし。
「お前等もあいつらに並べ」
「……はい?」
「ちょっ、リーダー何言って……」
「っひ!? う、うっす……!」
それでいいんだよ。ポンコツ共は黙って俺ちゃんに従ってろ。さて…着る暇も惜しいしフルチンのままでいい。今欲しいのはアロハじゃなくて魔法剣だしよ。ま?ないもんはしゃあねえし?――必要もねえ。
「このポンコツのゴミカスのクーカイ共がァッ! よく聞け!」
「「「「「「「う、うっす!」」」」」」」
「今すぐ準備整えろ! 今晩、水の道ダンジョンへ復讐しに行くぞ!」
「「「「「「「……え!?」」」」」」」」
「なぁに水をひっかけられたような顔してやがんだ、アァ!? 俺ちゃんの決定に文句あんのかァ!? すぐに支度に移れやァッ!」
「「「「「「「は、はいぃ!!!」」」」」」」
ったく、ようやく動き出しやがった。これでよし。そりゃま?復讐もとい復習は忘れねえうちにやった方がいいだろ? ウンディーネもミミックも疲れてるだろうし、利はこっちにあんのよ。
それに?なにより? この俺ちゃんをバレルの中で、水の中で溺れ殺しやがったこと、許せねんだわ。ボコボコに復讐してやんなきゃ、熱湯沸かせるぐらいに煮えくり返ってるこの思い、収まらねえんだわ。
覚えてやがれ、ウンディーネ共、ミミック共。俺ちゃん、悪魔になってやんよ。テメエらの寝耳に水、浴びせにいってやんよッ!!!