ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
「ふわぁあ……酒キメてきてよかったぜ」
「ったく、ガキ共ばっか集まりやがって」
「金のためじゃなきゃ、こんな時間になんか」
全くだ。普段なら良~い感じに酔い回ってる頃合いだったのによ。まあ仕方ねえ、こんぐらいの時間じゃなきゃこの『童夢ダンジョン』にガキ共は集まんねえ。
自慢のナイフを振れねえのは冒険者としてイラつくが、ま、寝てるだけで良いモンが手に入るダンジョンだ。ちょっとした不満ぐらい我慢してやんよ。
しかしよ、『ミルクザント・パウダー』って要は眠り粉だろ? しかも魔物相手に使うアイテムじゃなくて、自分に使うヤツ。ハッ、なんだそりゃ。
だいたい一杯やってからベッドに飛びこみゃ朝までグースカが当たり前だろ? それでも眠れなかったら昼間のクエストで気持ち良~く大暴れしたのを思い出しゃあ充分だ。
だというのに、世間の連中と来たらよ。んな道具に頼らねえと眠れねえとか笑えるぜ! おかげで高値がついて仕方ねえ。寝るだけで儲けられるとか最高だわ。
ま、その高値のためにはちょいと面倒な条件があるが……このダンジョンの魔物共はチっっっョロいからなぁ。最初上手く騙くらかしちまえば後は俺達の天下で。
「あ~! はげのひとだ~!」
「なんかくさ~い!」
「でぶ~!」
「わる~いまじょみたいなかお~!」
「「「「あぁ!?」」」」
んだクソガキ共! 誰の顔が魔女みてえだと!? 妙に少女趣味な洞窟とはいえ、ここはもうダンジョンだぞ! 切り捨てられてぇのか!?
ケッ、俺達がガキに容赦するような奴らだと思ったら大間違いだ。丁度血に飢えてたとこだ、まずはこのナイフでテメエ等に悪夢を――!
「「「――――――!」」」
「「「シャウウッ!!」」」
「「「「わあっ! 妖精さん!」」」」
「「「「ぬああっ!? み、ミミックぅ!?」」」」
お、おい待てや!? なんでこんなとこにミミックが居んだよ?! そりゃここはダンジョンで、ミミックが居たとて、いやおかしいだろ!?
こいつら前まで居なかったろ!? いつの間に棲みついて、てかなんだその姿は!? 普通宝箱とかに隠れるもんだろ、なんでクッションみてえなものに包まれてやがんだ!?
な、なんだっていいが、向かってくんなら切り捨てるだけだ! ミミックなんぞ今まで幾度倒したか……あん?
「こらこら駄目よお、喧嘩は駄目よお。どっちも悪いわあ、両成敗ねえ」
目の前でぴょんぴょん跳ねるだけで、飛び掛かってこねえ。それどころか、クッション付きのロッキングチェアが揺れながら寄ってきやがった。ガチョウを乗せて。ありゃあこの童夢ダンジョン主の。
「「「「あ~! モルメアおばちゃん!」」」」
「いらっしゃい、皆。でもメッよお、相手の姿を笑うのはあ。皆だって気にしているところを笑われたらでしょおう? ほら、一緒に謝りましょうねえ」
「「「「は~い! ごめんなさい!」」」」
ケッ。謝ってんのかそりゃあ。どーせ夢魔ガチョウに言われてテキトーに謝ってんだろ。ま、今は見逃してやるよ。なにせ後で存分に、あぁ?
「次は貴方達の番よお。嫌なこと言われたのは悲しかったでしょうねえ。けれど、刃物を向けるのはやりすぎよお。そこだけでいいから、謝りましょうねえ」
アァ!? 誰が! ふざけたことヌかしてんじゃねえぞ! 最初に嫌な気分にさせられたのは俺達だ! なのになんで、渋々ここに夢を見に来てやってんのによ!
……だが、チッ。睨んでやっても効果がねえ。ガチョウババアは怯みゃあしねえし、ガキ共は妖精とミミックでガードされてやがる。んな間に、更にクッションやら枕やら宝箱やらがゾロゾロ集まってきやがった。
このまま喧嘩売ってもウザってえし、なにより稼げなくなるのは痛え。幾らチョロいと言えど、まだその時じゃねえんだ。本番はベッドに入ってから、ってな。
「あーあー、悪かったよ。これで満足か?」
とりあえずは謝ってやるよ。ほらこれで良いだろ、あいつらだってまともに謝ってねえんだ、なら俺達だって。
「おとななのに、しっかりあやまれないんだ~…」
「わたしたち、あたまもさげたよ?」
「ひとりだけしかあやまってないじゃん!」
「あんなおとなになりたくないよねぇ」
あ゛あん!? これだからガキ共は! っぱこいつら斬るわ。ボコボコにしてやる! テメエ等構わずブチ殺――むぐっ!?
「そうねえ、ちょっと駄目な謝り方だったわねえ。けれど、最初に傷つけるようなことを言ったのは君達よお? 反省しなきゃいけないわあ」
「は~い、ごめんなさ~い」
「みてあれ、へんなかっこう…!」
「たからばこに、たべられて、あしだけ!」
「これもきずつけること、なの? わかった、わらわない」
「良い子ねえ、良い子♪ さ、おいでえ。今日のお布団に案内してあげるわあ♪」
お、俺達どうなって、急に視界が暗く、身体が逆さに!? おいまさかこれ、ミミックに食われてんのか!? て、テメエ等誰かッ。
「「「むごごごごっ!?」」」
ぜ、全員か!? 幾ら油断してたとはいえ、と、というか移動してねえか!? 運んでんのか!? 何処に連れて行く気だぁああァアッ!!!?
「うおっとぁあ!? ぼふうっ!?」
「うげぇ…酔い、覚めちまった……ここは?」
「子供部屋みてえな、暖炉のあったけえリビングみてえな…」
「んあ? 足元、全部ベッドじゃねえか。てこたあ」
んだよ。てっきり食い殺されるかと思ったが、案内してくれただけか? この童夢ダンジョンの個室に。てことは客として認めてくれたってことで良いんだよな。ケッ、最初から案内しとけ、うおおっ!?
「「「「シャウッ」」」」
ミミック!? なんで普通に、枕元に居るんだよ?! 隠れろや!? いや隠れてるつもりか!? クッションみてえな見た目して、じゃあ蓋開いてんじゃねえよ!?
いや落ち着け俺…! こいつらはさっき見た奴らで、恐らく俺達をここに運んだミミックだ。ナイフに手をかけてみるが、敵対する気はないと言わんばかりに妖精共とのんびりしてやがる。ミミックだってのに。
「ふっああああ……先寝るわ。向こうでな」
その呑気っぷりにやられてデブ寝やがったし。おい待て確かテメエ、チッ!
「ンゴゴゴ……ゴガガガガガゴガア グゴッ ンズゴゴゴゴガガッッ!」
「「「うっせえ!」」」
忘れてたこのデブ、イビキうっせえんだったわ。これじゃあ寝れねえじゃねえか。ったく。寝るのが目的だってのに、あぁイラつくぜ。
大体なんだってんだ、この部屋。空にゃあ星やら月やらのドーム絵描いて、ピンクのカーテンやら暖炉やらクッションの山やらオルゴールやら、極めつけはこの床同然のベッドなんてよ。ガキが思い描くお姫様の部屋かよ。
んなファンシー(笑)な部屋で大の大人が寝れるかってんだ。なのにここに来る連中は皆喜んで寝てるってんだから尚ムカつくわ。別の部屋ではきっとすやすやと、っと…そうじゃねえか!
「おい、ちょっと面貸せや」
俺と同じくイビキにイラついてた二人を呼び寄せる。あぁそこで良い。ハゲはともかく、臭野郎は鼻につくわ。ミミック共に聞こえないなら充分だ。さて。
「寝てる連中の持ち物、漁りにいかねえか?」
なんで今までこれを思いつかなかったんだろうなぁ。ここのダンジョンの連中は皆ぐっすり夢の中って訳だ。なら、いくらでも盗み放題じゃねえか!
な? 結構良い案だろ? 賛同するヤツは一緒に、おいなんだよテメエ等。なんだその目、『冗談は顔だけにしとけ』とでも言いたげだな。ぶん殴られてえのか?
ケッ、テメエ等まで毒気を抜かれやがって! このダンジョンに来る度いつもそうじゃねえか! は~もう良いわ、なら俺だけでグムゥ!?
「シャウッ」
「――♪」
み、ミミック!? テメエまた!? んだこのっ、頭に食いつくんじゃ…あの馬鹿のイビキが、良い感じに軽減され……いやこんなアホみてえな恰好で寝れるかァ! 離れろっ!
はあ、はあ…! んだこいつら、妖精と共謀しやがって、俺達のお守りのつもりか? 良い度胸だ、ぶちのめして!
「おい落ち着けって。この調子なら何処にでもミミックいるだろ」
「な。盗み働こうとしたとこで食われて終わりだわ」
……チッ、マジのお守りじゃねえかよ。あーあーわかったよ。引き下がってやんよ。その分覚えてろ? 夢の中で暴れてやっからな? って。
「ンゴゴゴ…プヒュ~……うぇへへ、もう飲めねえ……グゴゴゴガッ!」
それ以前にあいつのせいで寝れねえんだわ! マジでムカつくぜ、あいつ一回ぶん殴って叩き起こしてやろうか。
「お待たせ皆、良い子にしてたかしらあ。あらあら、一人はもう夢の中ねえ。ふふ、可愛いわあ♪」
ようやく来やがった、夢魔ガチョウババア! 早く俺達を眠らせ、っと、いやその前に忘れちゃならねえ。チョロい交渉の時間だ。
「さあ三人共、お休みする準備は出来たかしらあ? さぁ横になって、さぁ夢の世界へ、あらあ? 改まっちゃってどうしたのお?」
俺達ゃ理由なく謝りたくねえさ。てこたぁ、理由がありゃ別だわ。ベッドの上で足を揃え、まともに見えるようにガチョウババアに面と向かってやる。あーあー、ゲホン。
「さっきは喧嘩して悪かった。だから、なんだ、ガキ共と遊ばせてくれねえか? いや変な意味じゃねえ、俺達もガキみてえに夢を味わいたくてよ」
「あらあらあら、まあまあまあ、それは素敵ねえ♪ でも皆、この間もそうおねだりして、夢の中で喧嘩しちゃったじゃない。どうしようかしらあ」
チッ、無駄に記憶力の良いババアだ。ババアらしく忘れてろっての。フン、まあいい。どうせチョロいんだ。そうだ、それこそさっきの喧嘩をダシにしてやるよ。
「良いじゃねえかよ。さっき急に喧嘩吹っ掛けられて嫌な思いしたんだぜ? ならその分俺達がちょっと得してもいいじゃねえか。なあ?」
「そうだそうだ! あのガキ共みてえに自由になりてえよ!」
「俺達だってガキみてえになりてえよ!」
「グゴッ! ピュヒィイイ……フガッ!」
チラッと目で合図してやると、仲間達も同調してくれた。まるでガキが欲しい物買ってくれってねだるようにな。どうだ? いつもの感じ、そろそろ。
「もう、仕方ないわねえ。もう、言うこと聞いてあげるわあ。でも約束してちょうだいねえ、悪さは駄目よお?」
「「「っしゃ!」」」
約束? 誰がするもんか! ここさえ切り抜けりゃあ俺達の勝ち同然だ。ガキ共上手く丸め込んで、出来上がるミルクザント・パウダー、奪ってやる!
おっと、後は程よく虐めてやらねえとなぁ。恨むんだったら俺達をムカつかせたあのガキ共を恨めよ? 俺達は被害者だからなぁ!
「あぁでも、でもでも一つだけ。条件があるわあ。聞いてくれる?」
あぁ!? ったく、気分良く寝てやろうと思ったのによ。だがここで無駄にごねたら全て破算だ。仕方ねえ、聞くぐらいなら。
「そこの貴方、シャワー浴びましょうねえ。綺麗になったほうが、ぐっすり眠れるわぁ。さあおいでえ」
「は!? 俺か!? なんでここに来てシャワーなんて、なあ!?」
「……さっさと行ってこいや」
「お前臭いんだよ」
それぐらいなら幾らでも、だ。あの臭いで横に寝られてもイラついて寝れなくなるだけだからな。ったく、マジでカカアみてえなガチョウだぜ、あいつ。
「おやすみなさい、可愛い子♪ ねんねの時間よお、素敵な子♪ ママに包まれ、夢へ行こう♪ グワワグワァ♪」
「「「「ぐぅ……」」」」
やっぱ変な力だわ……でっけえ羽毛で布団にしてくるし、眠り粉なくとも眠くさせてくるしよぉ……。幾ら抗おうとしても……眠、ら、ざるを……くかあ……。
「「「――んあ?」」」
「お? ようお前等、やっと来たか。先にご馳走頂いてるぜえ」
次に瞼を開いた時は、あの子供部屋とは違う変な空間だ。手足がやけにふわふわむにゃむにゃしてるこの夢の空間、慣れねえなあ。
んで先に眠ったデブは食い散らかしてやがった。何してんだよ、夢だから腹膨れねえし起きたら忘れてんだろ。バカがよ。それよか準備しろ。
「さあて、どの童話が良いかしらあ? 美味しいごはんが出てくる物語? それとも冒険ができる物語? 王道のお姫様が出て来る物語も素敵よねえ」
「いつもなんでも良いっつってんだろ。ガキ共と一緒ならな。早く夢を繋げろや」
背景でデカくなったガチョウババアに命令してやる。ケッ、なぁにがお姫様だ。そのお姫様に好き放題出来んなら良いけどよ、どうせ絵本みてえにエロシーンなんて無くす癖に。
「口が悪いわねぇ。仲良くしてちょうだいねえ。夢の世界へ、ご招待♪」
へッ、それでいいんだよ。妖精が走り、周りの景色が変わっていく。良い感じの森だな。魔物なんて一匹も居ない、夢のような、な。
この童夢ダンジョンってのは、あの夢魔ガチョウババアが童話の夢を見せてくるダンジョンだ。それを上手くクリアしてねだれば、大金の元になるミルクザント・パウダーが貰える。
だがその眠り粉、ガキの夢を使って精製しねえと高品質にゃあできねえらしくてな。基本作れた粉は夢の本人にしか貰えねえから、こうしてガキの夢に混じってお零れを頂くって算段だ。
そして上手くガキを騙くらかせば、お零れどころか全部って寸法だ。どうせガキなんて暗くなったら自動で寝るだろうが。金は大人に任せておけってな!
さあて、どんなガキが相手かなっと。簡単に騙せるヤツ等なら楽で――あん?
「にんげんのともだちって、だれだろ~! あ! さっきのひとたち!」
「かおがわるいまじょみたいな…っあ…!」
「おなかがすごいひとと、えっと、つるつるの…!」
「くさい…あれ、くさくない? ゆめだから?」
「「「「あ゛ぁ!?」」」」
んだよ、またこいつらかよ! しかもさっき叱られたこと何一つ反省してねえじゃねえか! もう絶対許さねえ! マジでこいつらに悪夢みせてッ――。
「だめだよ、そういうこといっちゃ…!」
「あやまろ? せーの」
「「「「ごめんなさい!」」」」
謝って許されるとでも思ってんのか? ここで遭ったが最後だ。この夢の中でテメエ等をボコボコのグチャグチャにしてやる! そのためには。
「なんの童話にしてんだ? 俺達も混ぜろよ」
今は牙隠してやるよ。折角寄ってやったてるんだ、断ったりしたら只じゃ。
「い~よ!」
「えっとね、『さんびきの子ぶた』!」
「わる~いおおかみからにげるやつ!」
「いっしょにぶたさん、やる?」
『三匹の子豚』だぁ? へっ、道理で揃いも揃ってブタ鼻や耳や尻尾つけてるわけだ。くだらねえモンやってんじゃねえか。結末分かり切ってるだろ。
てか三匹じゃなくて四匹じゃねえか。なんだ、ここに俺達が加わったら八匹か? 豚小屋かよ笑えるぜ! んなどやどや集まってたら狼も逃げ、あぁ良いこと思いついた!
「いや、豚役はテメエ等で楽しみな。俺達は狼やるぜ」
「おおかみ~? いいの~?」
「まけちゃうよ? いやじゃない?」
「あ、でもモルメアおばちゃんいるし!」
「おばちゃん、なかよしにしてくれる?」
「えぇ、えぇ、任せてちょうだいねえ♪ ハッピーエンドはお手の物よお♪」
やっぱり空の背景になってやがるデカガチョウババアは、絵本を広げながらグワグワ笑いやがる。ハンッ、ガキもガチョウも、そうやって笑ってられるのは今の内だかんな?
「――それじゃあ、始めるわねえ。むかーしむかし。あるところに、四匹の子ぶたがいました。子ぶた達は仲良しで、いつも楽しく暮らしていました」
「「「「わ~い!!」」」」
ケッ、マジモンの子豚みてえにぷぎぷぎ騒いで駆けずり回りやがって。さっさと食い殺してやりてぇぜ。なにせこっちは狼だ。咎められりゃあしねえだろ。なあ?
「……俺のハゲ、こんままか?」
プハハハッ! おい笑わせんじゃねえよ! そりゃ狼なのは耳と鼻と尻尾程度だろ、別に獣毛が生えて獣人になる訳じゃねえんだ。変に期待してんじゃねえよ。んなこと言ってると。
「あらごめんなさいねえ…! おばちゃん気が利かなくて。もふもふよお♪」
「うおっ!? や、止めろやババア!? 変に気ぃ遣うな!」
ホレ見ろ! ガチョウババアはそういうとこがあんだ。増やされた毛を振り払って捨てるぐらいなら呟くんじゃねえってな。それよか集中しろ。
「けれど、ある日のこと。近くに狼が迫っていると皆が噂しているではありませんか。さあ大変、子ぶた達は慌てて家を建てます。最初は、急いで藁の家」
「そっちおねが~い!」
「よいせ、よいせ!」
「やわらかくて、きもちい~い」
「おおかみきちゃうよ!」
いつのまにか現れた藁束を持ち上げ、ガキ共はせっせと家を建てる。ま、建てるというよか雑に積み上げてるだけだがよ。それでもポンッて音立て家が出来上がるんだから夢ってのは魔法越えだぜ。
「「「「かんせ~い! かくれろ~!」」」」
ったく、楽しそうに逃げ込みやがって。家建つ前に仕掛けてやってもよかったんだぜ? まだ夢の見始めだってことに感謝すんだな。うーし、さて。
「皆が無事に家に入ったちょうどその時。森の奥がガサガサと。のっそり姿を現したのは、なんと四人の狼達! 彼等は鼻をふんふんと鳴らし、美味しそうな子ぶたを探します」
美味しそうだぁ? ヘッ、良い感じに虐められるって意味合いならば美味しそうかもなぁ。だが、鼻を鳴らす必要なんてねえ。何処にいるか一目瞭然じゃねえか。なあ?
「「「「きゃ~っ!!!」」」」
窓から覗き込んでやれば、四人で抱き合って小さくなってやがる。だが悲鳴はどう聞いても楽しんでる。俺達が怖くねえってか? 舐めやがって、チッ!
「子ぶた達を見つけた狼達は、家を壊そうとぶつかります。けれど藁の家は柔らかく、狼の身体をぼよよんと弾きます。これでは中へ入れません」
蹴りつけてやってもやっぱり効果ねえな。仕方ねえ、話通りに従ってやるよ。テメエ等、息を大きく吸い込め! そんで!
「けれど、狼は賢かったのです。四人で家を取り囲み、大きく息を吸います。そして、勢いよく~ふうううううッッ~!!!」
「「「「フゥウウウウウウウッッッッ!!!!」」」」
「「「「きゃ~~~っっっ!!!!!」」」」
か~息吹き付けて藁の家を吹き飛ばせるとか、どんだけレベル高え風魔法だよ。あり得ねえだろんなの。童話ってのはこれだからよ。まあ良い、チャンスだ。
「なんと、藁の家は吹き飛ばされてしまいました! これじゃあ危ない! 子豚達は急いで走って逃げていきます。さあ、走って走ってねぇ♪」
「「「「―――♪」」」」
「「「「にっげろ~!」」」」
妖精に導かれて、ガキ共が一斉に森の奥へと逃げ始めやがった。童話のストーリー通りなら、ここで狼が子豚を殺すことはねえんだろうが……そこがちゃんちゃらおかしいんだわ。
俺だって三匹の子ぶたのストーリーぐらいは知ってるぜ。まず第一、子豚は喧嘩だか勝負だかしてそれぞれ家建てるだろうが! なのになんで藁の家を全員で作って全員で籠ってんだよ!
一つ壊されたら次の強化された家に慌てて避難するって流れだろうが! これじゃあ狼に食われるだけだろうが! ガキが大人に勝てるとでも思ってんのか?
てかよ。聞くところによるとこの童話の原典、家壊されるこのタイミングで子豚は一匹ずつ食われちまうらしいじゃねえか! その通りにしてやんよ!
「「「「待てコラァ!!!」」」」
逃がすかガキ共! 狼らしく追いかけてやるぜ! ま、なんだかんだ言ったけどよぉ、食いはしねえさ。食えねえし、ボコれねえしな。
何度か夢の中に来たことあっからわかんだわ。ここで下手に暴力沙汰起こしたとて、あのガチョウババアか妖精に止められるってことぐらいはよ。だからガキに苛立って強くでるなんて、無能のするこった。
だが、グるフフ、まあでもな。もし『事故』でちょっとぶつかっちまったら、つい狼の役に漬かりきって子豚をボコってしまったら、不可抗力だよなぁ? 夢に夢中にさせるガチョウババアが悪いんだもんなぁ?
だからつまりよ、上手くやりゃあ、あのクソガキ共に悪夢見せてやれんだよ! やっちまうぞ!
「俺にやらせろ! 二度も頭をバカにしやがって、豚鼻になるまで殴ってやる!」
おいおい、キレすぎじゃねーの? ケケッ、ほどほどにしときな、夢から追い出されたら元も子もねぇ。ま、チョロババアのことだ。追い出されはしねえだろうが、まーた謝んのはウザッてえしよ。
だからビンタでもして泣かせるだけにしとけよ? おっと、んなこと伝える前にもうあとちょっとで一匹捕まえられんじゃねえか。独り占めすんなよ、俺達にボコらせ――なんだ、今の?
なんかが俺達の横を、結構な速度でコロコロ転がってったな。あれは、さっきの家で使われてた藁束か? 風に吹かれたのか、ま、関係な、ハあッ!?
「あとちょっ、ぶはあっ!?」
「あれ~!? わらが~!? たすかった~!」
「狼が子豚を捕まえてしまうその時、偶然転がってきた藁束が邪魔をします。狼はすってんころりん、そのうちに子豚達は森の奥へ逃げおおせたのでした」
藁束が、急に曲がってハゲ野郎の顔にぶつかった!? プッ、ハハハッ! ウケんじゃねえか、黄色くて縦に長えカツラだぜ! 喜べよ、ロン毛になれたぞ!
って、笑ってる場合じゃねえ。アホはほっといて子豚共を、チッ、もういねえ。ストーリー的にひと段落か。まあいい、まだ一件目だ。チャンスは次もある。
てかテメエいつまでハゲ頭に藁束くっつけてんだ! 笑うんだよ剥がせっ…剥がれねえ!? 暖かそうにしてんじゃねえよ!?
「とんとん、かんかん♪」
「えだあっつめ~!」
「こんなかんじ?」
「いいかんじ!」
よっと、居やがったな。また四人で家建ててやがる。木の枝の家を。相変わらず速攻でできあがるもんだぜ。おら、早く話進めろや!
「「「「か~んせい! かくれろ~!」」」」
「子豚達が次に建てたのは、木の枝で出来た家。これなら藁の家よりも頑丈です。さっそく皆は家の中に入り、狼が来ないか警戒をします。すると、やっぱり」
俺達の登場だ。窓から覗いてやるぜ。チッ、やっぱ怖がる振りだけの笑顔してやがる。見てろ、今度こそ。
「狼達はさっきと同じように息を吸い、せーので吹き飛ばそうとします。けれど、木の枝の家はガタガタ揺れるだけで壊れません。そこで狼達はさっき以上に大きく大きく息を吸い込み~」
いくぞ、テメエ等! せーのッ!
「「「「ブフウウウウウウウウウゥッッッッ!!!!!!」」」」」
「「「「きゃああ~~にげろ~~~!!!!」」」」
「なんということでしょう! 狼の全力の息で、木の枝の家はとうとう吹き飛んでしまいました。子ぶた達は慌てて逃げだします。もっともっと、森の奥へ」
ふうっ! 夢の中だから疲れねえし、爽快感だけあって良いぜ。あいつらをボコれればもっと爽快なんだがなぁ! 今度こそ!
「ぐへへへ! ほら俺の匂い嗅がせてやるぜぇ! むはああ!」
うえっ、キモい迫り方してんじゃねえよ。テメエ口臭まで臭えんだからよ。てか再現されてんのか? 体臭は消えてんだろ? シャワー浴びさせられたからか夢の中だからは知らんけどよ。
ま、ガキ共を泣かせられるならなんだっていいが。ほら早く捕まえちまえ、さっきみてえな藁束の邪魔は――ぬおっ!?
「おい気をつけろ! 何かが飛んできて――!」
「捕まえたぁ! あん? ごもっ!?」
……ヤベ、俺のせいか、あれ。振り向いたあいつの口に、轡みてえなのがびたり嵌りやがった。って、あれ木の太枝じゃねえか。家に使われてた。おいまさか。
「またしても幸運なことに、飛んできた木の枝が狼の口にすぽり嵌ります。子ぶたを食べるはずが枝を咥えてびっくり。狼達が呆然としている間に、子豚達はなんとか逃げることができました」
何が幸運だ! 絶対テメエの差し金だろうがガチョウババア! こちとら子豚の一匹を捕まえただけでまだ何もしてねえだろうが! なんだ狙い澄ましやがって!
ってんな間にもうガキ共が。こんのクソッたれが早くその枝捨て…テメエも外せねえのか!? だからっ、気に入ってんじゃねえよ! マジの狼か犬になったつもりか!? それともおしゃぶり咥えたガキかテメエは!
「ぺたぺたのせのせ、たのし~ね~♪」
「ね~♪ れんがのおうち、つみきみたい!」
「でもこんどはふきとばされないぞ~!」
「カチカチだから、こわされもしないからね~!」
ハァア、ようやく最後の家か。もう建ってやがる、煉瓦のがよ。あの立派さに対してこっちはひでえもんだ。藁カツラ狼と枝齧り狼が居るんだからよ。こいつらからぶん殴ってやろうか。
「あ、もういる! かくれろかくれろ~!」
「「「おおかみさん、ここまでおいで~!」」」
っッやっぱクソガキ共からだわ。俺達煽ったらどうなるか、起きてる内に学べなかったみてえだなぁおい。良いんだな、後悔させてやる!
「「「「こわくないも~ん!」」」」
ケッ、窓から覗いたらこれだ。とうとう怖がる振りすらしなくなりやがった。ならさっきみてえに、といいてえとこだがよ。
「さっきの二つの家と同じように、狼達は息を吹きかけようとします。けれど煉瓦の家は硬く重く、吹き飛びそうにありません」
だろうな、ストーリー的に。しかもよ、俺達の内二人が藁と枝に囚われてんだ。藁の家すら吹き飛ばせねえんじゃねえか? なら。
「けれど狼達は諦めません。家を壊せないのならなんとかして家の中に入ってしまおう。そう考えます。さあ、どうする気なのかしらあ?」
決まってんだろ、あの煙突だ。そっから入るのが流れだろ。だがよ、どうせ煙突の下じゃ鍋がぐつぐつ煮えてんだろ? 飛び込んだら俺達の負け確定なんだろ。わかってんだよ。他に手段は――。
「なあ…耳貸せ。普通にこの窓割って入りゃあいんじゃねえか?」
っ! そうじゃねえか! 俺、なんで馬鹿正直に童話に従おうとしてんだよ。それでいいじゃねえか! 一番手っ取り早いし、楽だし安全じゃねえかよ!
やるじゃねえかデブ、図体の癖に知恵回りやがる。耳打ちしたのもポイント高ぇ。おかげでガチョウババアにも妖精共にも策はバレてさそうだ。
幾らここが夢の中とは言え、家が再現されてるのは事実だ。ガチョウババアが反応できねえ内に窓を叩き割って中に侵入してやれば、グるフフフ!
そうと決まりゃあ囮はしてやんよ。あのアホ二人もうろつかせて煙突への道を探すようにな。へっ、ご丁寧に階段になってやがるが、敢えてのんびり登ってやる。
「まあ大変、狼は屋根に登ろうとしています。何をする気なんでしょうか? もしかして狙いは、煙突かしらあ? 大変よお、子ぶたの皆」
ケッ、のほほんと続きを読みやがって。見てろ、その間延びした『大変』を本気の焦りにしてやる。デブ、体重のせてカマせよ? せーのッ!
「割れやがっぐべばっ!?」
は?! 窓を割ろうとしたデブが吹き飛ばされた!? 何が…煉瓦が!? 家に積み重なっていた煉瓦が幾つか抜けて、デブにぶつかってきたのか!?
「ぐえええ……お、重ぇ…! 腹に、煉瓦がくっついて……!」
しかもその煉瓦がデブ腹に張り付いて、重しに……いやどういうことだよ!? 煉瓦が勝手に動くのもだが、どうやったら腹にあの岩の塊がくっつくんだよ!?
「あらあら! 窓を割ろうとした狼もいましたが、なんと煉瓦が弾け飛び、子ぶた達は無事に済みました。どうやら窓からは入れないようねえ」
っあのチクショウが、ガチョウの畜生が! これもテメエの仕込みか!? 無駄にしっかり驚きやがってよ! 見てろ、こうなったら、っッ…!
「狼はとうとう煙突を見つけました。中に子ぶた達がいるのはわかっています。しめしめ、ここからなら入れそうだ。狼は喜んでその中へ」
飛び、こめるかァ! 見えねえが、どうせ下でボコボコ鍋が煮立ってんだろ!? 俺を煮殺す気だろうが! このクソババア、ガキには優しい癖にっ。
「ふふふ♪ 安心してちょうだいねえ。熱そうなのは見た目だけ、気持ちいいお風呂になっているわあ♪」
あぁ!? それを信頼しろって……信じて、良いんだな? ふぅん、そうか、なら一つ思いついたことがある。テメエのそのチョロさ、逆に利用させてもらうぜ! せーのッ!
「おりゃあ! がぼぶっ!」
「これで子ぶたが食べられると、狼は煙突の中に真っ逆さま。けれど、待っていたのはぐつぐつ煮える大鍋。哀れ狼はドボンとお湯の中」
やっぱ煮えて、煮えて、ねえ、な。見た目とは違って、程よい湯加減じゃねえか。ガチョウババアは約束を守ったようだな。なら。
「「「「おおかみさん、いらっしゃ~い!」」」」
無警戒に覗きに来たガキ共に、復讐できるってもんだ! 煮られて反省してねえんだ、鍋ごとひっくり返してボコっても文句は無えよなばごぼぶっ!?
「あっぷあっぷ、狼は鍋の中で溺れます。これで狼は懲りることでしょう。子ぶた達は一安心です」
待っ…待てっ…ごぼぼっ…!? なっ、なんだ、なんだげぼぶっ、こ、こりゃあ!? 鍋をひっくり返してえのに、鍋から出てえのに、外に出れねえ! なんだ、この感覚!?
何かに、何かに縛り付けられて、引きずり込まれ続けてる!? 触手みてえな、ごぼっ、待てこれ本当に、がぶっ、溺れっ、た、助けっ、助けぇっ!
「けれど、狼はただお腹が空いていただけのようです。なのにこのまま煮てしまうのは可哀そう。子豚達は助けてあげることにしました」
「だいじょ~ぶ?」
「て、つかんでいーよ」
「せーの!」
「うんとこしょー!」
「ぶはあっ!? た、助かったぁ…!」
ガキ共に引っ張り上げられたら、鍋の中での拘束が解けた。はぁあぁ…夢の中で死ぬかと思ったぜ。助けてくれて……チィッ!
「そとのおおかみさん、みんなでごはんたべよ~!」
「えだ、はずしてあげる!」
「れんが、とってあげる!」
「わらも、え、はずさなくていいの? えへへ~かわいいおぼうしだね!」
どいつもこいつも、俺が溺れたの見て牙が抜けたようにガキ共の世話になりやがって。ご馳走だぁ? 野菜とか果物ばっかじゃねえか! こんなの、ケッ!
「そうして子豚と狼は一緒にご飯を食べて、仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし♪」
次の話じゃ覚えてやがれ? 絶対に泣かせてやっからよォ!
「ふふふ、ふふふ♪ 皆、夢の心地はどうかしらあ。お伽噺、楽しかったあ?」
「たのしかったー!」
「おおかみさんとともだちになれた!」
「ねえねえ、もっとよんで!」
「もっとえほんのゆめみたーい!」
そうこなくっちゃなぁ。俺達からもおねだりするぜ。じゃなきゃミルクザント・パウダーは量できないんだろ? このガキ共とまた一緒なのは心底イラつくがよ。
「良いわよお。どの童話が良いかしらあ。やりたいお話を教えてねえ」
「えっとね、えっとね!」
「なににしよ? んーと……」
「あ! いいことおもいついた!」
「なになに? あはは! そうしよそうしよ!」
ったく、やかましいったらありゃしねえ。このムカつく顔をどうやって歪ませてやるか考えるのが、あん? な、なんだよ揃ってこっち見て来やがって。
「ねえ、おおかみさん!」
「おおかみさんはどんなおはなしがい~い?」
「きめていいよ!」
「ともだちだもん!」
は、はあ!? 俺達が、童話の夢を決めろってか!? バカなこと言ってんじゃねえ、んなガキ喜ばすだけの騙し話なんてとうに興味は……いや待て、こりゃあチャンスじゃねえか?
ここで良い感じに暴力が許される話を選べば、こいつらに容易く復讐ができるってもんだ。しかし、ガキ共をボコれる話か、何があったかな……。
「ね~まだ? きめないの?」
「おおかみさん、はやく~!」
今考えてんだろうがウザッてぇなァ! あんまやかましいと狼らしくテメエ等食っちま――あぁ! それがあるじゃねえか!
「『赤ずきん』はどうだ? 丁度俺達、狼だしよ!」
「それいい! あたしあかずきん!」
「わたしもわたしも!」
「りょうしやる~!」
「えっと、えっと……!」
乗り気みてえじゃねえか! 赤ずきんは狼に食われるってのによ! これだからガキ共はチョロいぜ、そうと気まりゃあガチョウババア、早速準備を。
「その……ぼく、おばあちゃんをやりたい」
――は? っプ、プハハハハッ! マジかよこのガキ、悩んでたと思ったら言うに事を欠いてその役やりたがるとは。最初に食われて終わりの役じゃねえか! とんだマゾ野郎じゃねえか!
「勿論良いわよお。そぉれ、おばあちゃんになぁれ♪」
おっ、妖精の光に包まれて、ガチョウババアみたいな老眼鏡とへんてこ白キャップ被りやがった。服もババくせえエプロンだかワンピースだかにな。
他のヤツは赤い頭巾に派手なガキ用ワンピースやケープだったり、やっぱり派手な緑の猟師服だったりなのに。喜びやがって変なガキだぜ。おかげで心痛まずビビらせて食え――。
「なら、おおかみさんおおくない?」
「そうかも! ねえねえ、おおかみさんへらして?」
……あぁ? 別に良いだろうが狼四人でもよ。さっきの子豚だって四匹だったし、赤ずきんも二人だろうが。ガキが我儘ばかり通じると思ってんじゃ
「あ。じゃあ俺赤ずきんやるわ。なんか頭に被りてぇ。交ざって良いか?」
「「い~い~よ~!」」
ハゲテメエ!? 何裏切りやがってんだ!? 帽子被れるだろうが、ババア食った後変装すんだからよ! クソガキを囲んでボコすには人数居た方が。
「ばんばん、ばーん! ん? これどうつかうの?」
「おいコラガキ危ねえな。ボウガンってのはこう使うんだ」
「お~! かっこいい! いっしょにりょうしやろ~!」
「俺がか? そりゃまあジョブは弓手だが…臭くねえのか?」
「くさくないよ~? ん~やっぱりくさくな~い!」
臭野郎なにガキに抱き着かれて顔綻ばせてやがんだ!? テメエまで降りるたぁ……おいデブ、テメエは降りねえだろうな? 降ろさせねえぞ!?
「あかずきんさんにんだし、おおかみふたりでもいいかも?」
「だね~! モルメアおばちゃん、おはなしはじめて~!」
「りょうし、じゅんびばんた~ん!」
「えと、おいしく、たべてね? おおかみさん」
「お、おう……」
早く始めやがれ! デブまでババア役のガキにやられかけてんだからよ! さっさと狼の心取り戻させろやァ!
「むかーしむかし。あるところに赤ずきんという子供達がおりました。可愛い皆はお母さんに頼まれ、森の奥に住むお婆さんへバスケットのお届け物をします」
「……俺、可愛いか?」
「うん! かわいい!」
「おそろい~! えへへ~!」
チッッ! 何処かだよ、大の大人、しかもつるぴかハゲの赤ずきん姿なんぞゲロ吐くわ! なにガキに褒められて喜んでだよ、自分の醜態見直せよ、クソがよ。
「けれどその途中、赤ずきん達は綺麗なお花畑を見つけました。お婆ちゃんに素敵な花束を持って行ってあげよう。そう考えた赤ずきん達は、お花を摘み始めます。と、そこへ」
「おいガキ共! とハゲ! なにしてやがんだ!」
「花集めて何処行く気だぁ?」
出来る限り花踏み潰しまくって現れてやる! これでこそ狼だろ! チッ、すぐ元通りに咲き直りやがる。荒らして泣かせてやろうと思ったのによ。
そうだ。折角ならまともなモンを、話の流れを荒らせばいいじゃねえか。おいデブ、耳貸せ。ガチョウババアが話読み上げてる今がチャンスだ。上手くやれ。
「突然現れたのは狼達。どうやらお腹が空いているようで、赤ずきん達にこう聞きます。『どうしてバスケットを持っているんだ?』赤ずきん達は答えます」
「じゅんばんね! もりのおくの~!」
「おばあちゃんちに~!」
「っ俺もか? あーと…と、届けにいくの~…!」
うげえ。ハゲテメエ何ガキみたいな声出して混じってやがんだよ。冗談は赤ずきん奥のツルピカ頭だけにしとけよ。だが、テメエは有効活用させて貰うぜ。
ハゲ野郎は大の男だ。んでガキみてえに花畑にぺたんと座り込むのは恥ずかしがってやがる。となると、い~い遮蔽物なんだわ。俺がなんとはなしに近づいて、バスケットを踏み潰すためにはなぁ! やれ。
「あ~……おいハゲ、それ暖かいか?」
「ん? あ、あぁ――」
「あ~! ダメなんだ~!」
「それわるくちなんでしょ? いっちゃだめなんだよ!」
ケッ、ガキ風情が悪口とイジリの区別もつかねえのか。ま、そのおかげで良い感じに注目引けたじゃねえかデブ。今の内に平然装って、ガキの目に触れないようにハゲに隠れてと。
グるフフ! ここまでは順調だ。んで後はもう成功も同然だ。ノーマークの動かねえバスケットを踏み潰すなんて楽勝に決まってんだろ。ついでに花束も踏んどくってのもありだな。
なんにせよ、ガキ共の泣き叫ぶ姿が目に浮かぶぜ! んでそれを現実のものにしてやんよっっと! 踏み、ぬうおわぁあっっっ!?
「あら!? あらあらまあまあ。つまみ食いもだめよぉ♪ 狼の一人はお腹が空きすぎちゃったみたいです。バスケットに手を伸ばしましたが、風のせいでしょうか、すってんころりん♪」
「え!? あー! ダメだよおおかみさん!」
「もー。さっきごはんたべたのに!」
そりゃあ一個前の童話じゃねえか! てか夢だから腹は、いやそれどころじゃねえ! 俺は、なんで転んだんだ!?
間違いなくバスケットを踏み抜けるコースだった。なんなら足がちょっと触れたような気すらする。だが……まるで何かに弾き飛ばされたように、投げ飛ばされたようにすっ転んでいた。
夢だからか痛みも落下の感覚もねえが……なにが起きたんだ? 皆目見当が、あ゛ぁん!? ハゲ、デブ! テメエ等何笑ってやがる!?
「いや、悪い…! だけどよ、花畑に寝っ転がってるのが…!」
「狼姿のお前がそうしてるの、なんか、可愛いな」
は…はあ゛!? ふッ、ふっざけんじゃねえよテメエ等! ムカついた、ハゲ野郎が作ってた花束を踏んでやる! 今度こそばぼばぉうぅあうっ!?
「あはは~! またころんでる~!」
「おはなばたけのべっど、きもちよさそ~! わたしも~!」
「まあ、なんて悪戯っ子な狼と風なのでしょう♪ グワッグワッグワワ♪」
今度は麻痺させらせたかのようなっ、ふ、ふっざけんな! こんなところに居られるかってんだ! おらデブさっさとここ離れるぞ。覚えてろ赤ずきん共、後でたっぷり食い千切ってやるからな!
だがまずはこの恨み、ババア役のガキで晴らさせてもらおうか! 着いたな、開けろガキ! んだテメエガチョウババアみてえな眼鏡と帽子被りやがって。あのガチョウの分も合わせて食ら――。
「くっふふ…! えと。どうしたの~? おばちゃんになにかよう? おはなばたけでかわいい、おおかみさん?」
ッッッッくっっっソガキがぁ! 良い度胸してんじゃねえか! ガチョウババアの物真似してんのも殊更に気に入らねえ! ハッ……ハハハハ!
「お、おい…? なんで笑ってんだ…?」
そりゃ笑うだろうがよ。感謝するぜ、俺を狼にしてくれてよ。ガチョウも人も、ババアもガキも噛み砕く狼に。なら、このガキを引き千切って肉にして食っても誰も文句はねえだろうが!
どれだけ泣いて乞おうが謝ろうが許さねえ、そのチビの身体に牙を幾度もぶち刺し、穴まみれになるまで咀嚼してやるよ! 夢で血みどろにならねえのが残念だなぁ! ガァアアアアッ!
「待てバカお前!?」
「きゃああっ!」
「ばくぅっ! なんと狼は、一口でお婆さんを丸呑みにしてしまいました。ふう、おなかぽっこりねえ」
……あ? あ????
「っ……? んだよ驚かすなよ。てっきりガキを食い殺――いやなんでもねえ」
いや……そのつもりだった。俺はそのつもりで飛び掛かったんだ。ガキの柔らかそうな頬か首を歯で裂いてやろうと。
だが、なにも噛めなかった。ガチンと空を噛むだけだった。なのに、なのにだ。あのババア恰好のガキがいねえ。目の前から消えている。逃げたか? 何処に――。
「んっ? うははははっ!!? おいマジかよどうなってんだ!? もう俺酔ってねえよなぁ。夢って何でもありだなぁ。お前見て見ろよ自分の腹! 恰好も!」
「は? は!? 腹が、俺の腹が、でっかく膨れて!? ババアみてえな恰好にもなってる!?」
ガチョウババアやりやがったな! デブの腹、いやそれよかでけえ腹の膨れ具合じゃねえかこれ! 動き辛……くはねえなこれ。重くもねえ。いやんなことどうでもいい。ガキは。
「あはははは~! なんかあったか~い! おおかみさんのおなかのなか、ふしぎなかんじ~!」
……は? はあああぁっ!?? は、腹の中から、膨らんだ腹の中から、ガキの声が聞こえるだと!? テメっ、そっから出ろ、クソがァ服剥がせねえ!
「ふふふ、ふふふ、まあ大変♪ お婆さんを食べちゃった狼は、まだお腹が空いているみたいで暴れます。そしてお婆さんに変装して赤ずきんを待ち伏せしはじめたではないですか」
「おっ! 俺もか。腹は、こんままか。ここに寝て良いのか? か~こりゃあ快適だわ。寝てるはずのに寝ちまいそうだぜ。お前も早くベッド入れよ」
順応してんじゃねえぞデブ! チイッ、なんでこのガキは俺の腹の中に、いつの間にどうやって。ガチョウババアか妖精かどっちか知らねえが、これで勝ったと思うんじゃねえぞ!
突き止めてやる。次こそぐちゃぐちゃに噛んで噛んで噛み潰してやる! さっさと来やがれ、赤ずきん!
「――少し経って。花束を片手にるんるんと、赤ずきん達がやってきました。お婆さんの家へと入り、早速お届け物をしようとします。おやあ? おばあさんの様子がおかしいわねえ」
やあっと来やがった。早く近寄って来いや。何が悲しくてデブとぴったり並べて寝なきゃいけねえんだ。何が悲しくてこんなデブみてえなゴミ腹でいなきゃいけねえんだ。それもこれもテメエ等に牙剥くため――。
「くふふ…! ここだよ~…!」
腹の中から喋ってんじゃねえババアガキ! ほら赤ずきんガキ共クスクス笑ってんじゃねえか! ハゲ野郎、テメエこれ以上笑ったらその頭穴ぼこだらけになるぐらい噛んでやるかんな。
「心配になった赤ずきん達は、おばあさんに声をかけます。けれどそれでもおばあさんは布団をしっかりと被ってベッドからでてきません。おやおやあ? おばあさんの姿が、いつもと違う気がするわねえ?」
「わたしからね! おばあさんのみみは、どうしてそんなにおおきいの?」
狼だからに決まってんだろ。だが、まだ遠いなあいつら。襲い掛かるには届かねえ。てかマジで横のデブ邪魔くせえ…もうこいつから。
「それはなぁ…っと、それはねぇ、あかずきんの声をよく聞くためだよぉ」
乗ってんじゃねえよデブ。テメエまでババアの真似しはじめやがって。ったく、どいつもこいつもイラつくぜ。さっさと終わらせてやりてえが。
「つぎあたしあたし~! おばあさんのはなは、どうしてながいの?」
「あ、あ? え、えぇとなぁ…あかずきんの……匂いをよく嗅ぐためで……」
「変態かよ」
「うっせぇ! お前の格好も大概だろうが!」
「え~かわいいじゃん。ねえ?」
「ね~! おとなもあかずきんでいいんだよ~?」
ハゲとデブがガキ共ときゃっきゃしやがって中々進まねえ。もうストーリーの流れとか考えず機がありゃあ。
「つぎ、おじさんのばんだよ~!」
「おおかみさんに…あっ…! おばあちゃんになんかきいて~!」
「おいおい俺はまだんな歳じゃ…え。つーいわれても……あー……おばあさんの、おなかは、なんでそんなおおきいの?」
「言うに事欠いてそれかよ。えー……言う訳にはいかねえし、そも俺は食ってねえし……ゴホンッ。それはねぇ、美味しいものを食べるのが大好きだからよぉ」
「わたしもすき~! たくさんたべたんだね~!」
「ぷにぷに~! やわらくてきもちいい~! これすき~!」
おいデブ!!! 今が絶好のチャンスだろうがァ! ガキに腹つつかれて枕にされてんのに喜んでんじゃねえよ!? 食えよ! その腹は飾りかおい!?
まっっっっジでどいつもこいつも無能ばかりじゃねえか! 縁切ってやろうか! おいハゲ、わかってんだろうな? 早く進めろ! じゃねえとお前のミルクザント・パウダーの取り分は…!
「……! あー……なあ、そろそろ最後の質問、するか?」
「うん!」
「みんなでいおうね~!」
「ふふふふ♪ふふ♪ 何度質問しても、お婆さんの様子はどこか変です。そこで赤ずきん達は、お婆さんの口を見て、こう聞きました」
「「「おばあさんのくちは、どうしてそんなにおおきいの?」」」
窓からの木漏れ日よか眩しい顔しやがって! その顔を歪ませてやる!
「それはなぁ、テメエ等を食べるためだよォオオオオッ!!!」
「「きゃ~!!」」
「うおっ!?」
「身体が勝手に!? 俺は別に、ぬあっ!? んっ!?」
――ッ、だああああああっ! クソが、クソがァ! またかよ! また、
「おばあちゃん、いた~! いえ~い!」
「いえ~い! やっぱりここからみんなをみるの、たのしいよ!」
「おじちゃんこわがり~! ここ、おなかおおきなおじちゃんのなかだよ?」
「ど、どうなってんだ!? なんだ、これ、おいなにしたんだ!?」
「こっちが聞きてえよ!? なんか腹に直接、見間違いか……!?」
しかも、デブの方の腹も膨らんでやがる。あいつ喋る程度の口しか開けてなかったってのに。マジでどうなってんだ……!? どんな魔法を使ってやがる、どんな夢をしてやが、うぐっ!?
「グワワ、なんていうことでしょう。狼達は赤ずきんを一瞬でぺろり平らげてしまったではありませんか! 沢山食べてお腹いっぱいになったのか、狼達はそのままベッドでいびきをかいて眠り始めます」
か、身体が……金縛りっ!? 違う、妖精達が俺を止めてやがる! こんなガキよりもチビ共に俺が、ぐぅっ、うるせえデブ! いびきかく真似しだしてんじゃねえ、いつもの方がうるせえわ!
「と、その時です。そのいびきを聞きつけ、猟師がやってきました。ここはお婆さんの家なのに、なんで狼が寝ているんだ? あのバスケットは確か赤ずきんの物じゃないか? もしかして」
「どーん! たすけにきたよー!」
「俺達、猟師コンビがなぁ!」
臭野郎までテンション上がってんじゃねえよ!? 普段誰も近寄らないからって、ガキを肩車して! って、お、おいなんだそのクソデカ鋏、俺達狼の服を切っ、うおおっ!?
「ふ~!」
「たすかった~!」
「ありがとう、りょうしさん!」
「ハハッ! 様になってんじゃねえか」
腹の服が切られたら、中からガキ共とハゲが! 声だけ聞こえてたって訳じゃなくて、マジで居たってのかよ……! だからどうやって、夢ってなんでもありだからって!
「ふくをぬいぬい~♪ もとどおり~!」
「おおかみさん、おなかすいたでしょ?」
「ごはんた~べよ! ばすけっとのごはん!」
「さっきぼうがんで、おにくとってきたよ~!」
服縫われたら腹も元に戻りやがったし、バスケットの中からはパンやら葡萄酒もどきやらが続々出て来る。んでついでに矢が刺さった巨大焼き立て骨付き肉が、猟師のポケットから。
「そうして狼達と赤ずきん達、お婆さんと猟師達は、仲良くご飯をたべて仲直りしたのでした。めでたしめでたし♪ グワワグワァ♪」
そんでまた変わらねえオチが。こんなん頭おかしくなる。どれだけ俺が足掻こうが、童話は平穏に進みやがるなんて。全ての抵抗を何かに邪魔されるなんて。
そうだ……なんかに邪魔されてんだ。あのガチョウババアの反応、妖精の動き、俺の行動を読んでいるようには見えねえ。夢のあらゆる物にとんでもねえ魔法を付与しているって訳でもねえだろ?
なのに藁束は頭に被さるし、木の太枝は口に嵌るし、煉瓦は狙い澄ましたように飛び出し顔に張り付く。そんで大鍋の水奥からは縛られ逃げ出せなくなった。今しがたの妖精の金縛りとは違え感じでな。
そして今。バスケットを踏もうとしたら足を取られ弾き飛ばされ、なら花束をと思ったら麻痺したように身体が止まりすっ転んだ。更には食おうとしたガキ共が気づけば腹の中に仕舞いこまれている。
童話らしく朗らかな森やら洒落た丸太小屋やら暖けえ日光で満ちてるが、その実は悪夢同然じゃねえかよ。悪夢を見せてやるはずが、俺が、ッ!
「次は『狼と七匹の子ヤギ』、だったか?をやらせろ! 狼役は俺がやる! テメエ等全員で子ヤギやれ!」
「え~。またおおかみのおはなし~?」
「なんか、おなじみたいなはなしじゃない?」
「しょ~がないな~。つきあってあげるよ~!」
「かおこわいおじさん、おおかみだいすきなんだね~」
ッッこいつら、ぜってえ食い殺す! 腑抜けたハゲもデブも臭野郎も、噛み殺す! 悪夢を見せんのは俺だ、意味わかんねえ何かもまとめて、俺が悪夢にしてやんだよッッ!
「みんな、良いのねえ? それじゃあ始めましょうかあ。むかーしむかし♪」
今度こそ、今度こそォッッッ! めでたしめでたしには――――――!