ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№75 『エスモデウスのフェスティバルーんダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌①


 

 

「おお~! もうかなり建設が進んでいるみたいね!」

 

「流石、魔王軍が全面協力なだけありますね!」

 

 

 転移魔法陣で目的地へ到着すれば、そこは整備された山の上。しかしその先に見降ろせる広々平地に並ぶは、色とりどりでまぁるい幾つもの建物――パビリオン。

 

 

「今年のフェスティバルダンジョンは一段と面白くなりそうね! あ、違うのよね。今回はそういう名前じゃなくて、『魔王万博』じゃなくて」

 

「はい。魔王万福(まんぷく)』。そして『フェスティバルーんダンジョン』。ふふっ、あの子らしいというかなんというか」

 

 

 『魔王万魔博覧会』――略して魔王万博。それは魔王様の主催で行われる、様々な魔物達や人間達の集う祭典。フェスティバル。彼女はそれをもじったのだろう。

 

 

 そして、ダンジョン名も同じく。なにせあらゆるパビリオンは楕円球形、さながら地面に転がるカラフルな風船群のような形をしているのだから! 巨竜すらポインと跳ねさせそうな見た目がまたなんとも可愛らしい。

 

 

 でもあれ、視認性は大丈夫なのだろうか。それぞれの魔物達による展示、あるいはアクティビティやライブやらのイベントを内部で行うのがパビリオン。ならば外から見た際でも何の博覧か一目で把握できるようにする必要がある。

 

 

 けれどあれでは色こそ分かれども、どれもほぼ同じ。本当に風船群が落ちているだけ。一応なにかしらの魔法陣が描かれているのだけは遠目でも見えるが、あの程度ではどのお客さんも確実に迷ってしまうだろう。折角の催事が台無しである。

 

 

 とはいえこの企画が魔王様からご承認を得ている以上、何か策はあるはず。そればかりは今回の企画責任者、もといダンジョン主に聞いてみるしかないだろう。そのためには。

 

 

「早速会場入りしましょうか。えぇと、どちらの手段で向かいます?」

 

 

 向かってみるしかない。不思議なことに、あの遠い会場へは二つの通行手段が用意されているのだ。一つは、今来たみたいに転移魔法陣を通る方法。もう一つは今私達の目の前に続く、魔法で構築された空中虹道を進んでゆく方法。

 

 

 この開かれた人工山の上で転移のワンクッションを挟むのは混雑防止もあるが、恐らくあの会場を遠目で見せたいがためだろう。それはこうして虹の高速道が用意されていることからもわかる。でもそれにしてはちょっと距離があり過ぎる。

 

 

 おかげで今の会場遠望に抱く第一印象は、大地に乱雑に散らかる巨大風船群。とはいえパビリオンは更に幾つも建てられるだろうし、装飾もまだ途中。きっとあちらこちらに風船が浮かび、通りの屋台が美味しそうな匂いを漂わせるはず……いや、だとしてもやっぱり弱いかも。

 

 

 というより最も気になるのが、この虹の道である。目で辿った限りだけど、なんだか酷く大外回り。会場からやけに離れた外周を飛び、やけに空中から会場へ接続しているのだ。違和感の大因はこれだろう。

 

 

 ここ以外の会場を取り囲む魔法人工山からも同じように道が出ているが、やはり遠い。これならもっと近くで山を造り召喚しても良かったはず。まあその辺りの疑問もまた、『彼女』に聞けばわかるだろう。さあ社長、どちらのほうで。

 

 

「向かうまでもなく、迎えに来てくれたみたいよ。ほら、あの虹の道!」

 

 

 へ? あ、本当ですね! 本来は馬車や竜車が通行する虹の道が上を、虹の土煙、もとい、散る結晶の煌めきのような軌跡が逆走中。速度強化を付与されている魔法道路というのもあるが、あれは彼女の足の速さや力強さによるものだろう。

 

 

 だってあの子、まるで足が丸く描写されるような、ダバダバという音が似合うような高速走行してるんだもの! あっという間に駆け終わり、私の前に着地した彼女は――わわっ!?

 

 

「むちゅちゅ~っ♥ アーちゃん、社長! 待ってたよお~♪ あっ、えっとコホン! この度は、わたくし共の依頼を受けていただきぃ――」

 

 

 もう、それは熱烈な歓迎のキスとハグより先に言うべきことでしょうに。でも、ふふっ! 本当に貴女らしい!

 

 

「いつも通りで良いんだよ、ベーゼ。ね、社長?」

「そうよ~! 私からもお返しのキス、ちゅちゅちゅ~☆」

 

「きゃはは! 社長、大好き~♪ ねえ、アーちゃんもアーちゃんも♥」

 

 

 私も? はいはい。ちゅっ。あ、またお菓子の欠片頬っぺたにつけてるし。そしていつも通りハート型の髪結びを備え、案外露出多めの伝統装束ドレスを更に改造した、サキュバス並みの衣装を纏っている彼女は、そう!

 

 

「あっ、でも怒られるからやっとかなきゃ。こっほん! この度はお力添えに感謝いたします。総責任者にしてダンジョン主たるアタシ『ベーゼ・グリモワルス・エスモデウス』から心よりの、けーぼ、敬慕を!」

 

 

 よく言えました! まさに。彼女は魔界大公グリモワルスが一柱、『催事長』エスモデウス家が嫡女、可愛い可愛いベーゼである! はい頑張ってる子に差し入れ。

 

 

「やたっ、アーちゃん手作りのクッキー! いっただきま~す! 美味ひい~♥」

 

 

 見ての通り、愛され系の令嬢でもある。けど、よかった。重責に苦しんでなくて。正直、務まるかはちょっと心配だったから。

 

 

 

 

 

 話は少し前に行われたグリモワルス女子会に遡る。あの場にて、魔導画面越しながら御光臨を賜った魔王様がベーゼへこう仰ったのだ。『其方が望むのであれば実力試しとして、小規模のものではあるが催事を任せてみるとしようか』と。

 

 

 その約束を、魔王様は見事に守ってくださったのだ。それも小規模なんてものではない、一大イベントで。その信にベーゼが応えられるかが僅かに不安だったのだけど、余計な心配だったみたい。

 

 

 ……いや、どうなんだろう。さっき覚えた疑念がある。ううん、だからそれはああして形になっている以上魔王様の承認が下りたということ。私ごときが気にすることじゃ――わっ!?

 

 

「ふっへっへぇ~♪」

 

「びっくりしたぁ。なに、また顔近づけてきて。もう一度?」

 

「それも良いかも! でも、違うよ~。アーちゃん、こっから会場を見て『なんか物足りないなぁ』って思ったでしょ?」

 

 

 ッ!? なんでそれをっ、もしかして社長がこっそり伝えて……はいなさそう。私に抱っこされたまま、睦まじさを楽しむように耳を傾けてるだけ。てことは私、思いっきり顔に出ていた? えっと……。

 

 

「あはは! み~んなそう思ってるからだいじょ~ぶだよ! アタシもだもん!」

 

 

 …………え。えぇえ……? じゃ、じゃあなんで? なんでこんな、見栄え微妙な会場設計にしたの? 魔王様のご期待に応えなければグリモワルスの役割は。

 

 

「ふふっ、どうやら良いタイミングで来れたみたいね!」

 

「社長わかる~? そうなんだぁ、とってもとっても最高なタイミングで来てくれたんだぁ~! だから全速力で会いに来たんだぁ♥」

 

 

 えっと? 何かが始まる、ということ? え、こっちに来ればいいの? 会場までが良く見える展望エリアみたいだけど。ベーゼは水晶で何かやり取りをしてから、私達を窺いつつ満面の笑みで。

 

 

「いっくよ~! りょーいきてんかっ……そんな詠唱だったけ? 固有結…違う。あっ! 『バルーンの夢、おっきく膨らめ~ッ!』」

 

 

 何をどうしたらそう間違えるのか。まあ体術が得意な彼女は魔法詠唱に不慣れで、えっ、わわ、おおおお~っッ!?!!?

 

 

「会場が、ううん、会場の周りがとても大きな風船に包まれて!? しかも!」

 

「下の方では内部の様子が見えて、上の方では魔物達の雄姿や会場の人達が映し出されている。面白い試みじゃない!」

 

 

 ベーゼの詠唱と共に、大地に転がる数多の風船パビリオンを包むように何かが。立ち昇る柔らかな壁のように生成され天頂で閉じ形を成したのは、超が幾つもつくほどの巨大な風船! 

 

 

 会場たるダンジョン全域をすっぽり覆い、軽くぼよよんと震えたそれは、下部を透明に上部をスクリーンに。風船の中に小さな風船が収まっているような様を見せ、その内部の盛況を心まで膨らませるように映す。

 

 

 そして、あの空中に浮き気味だった虹の道は、その巨大バルーンに見事接続し風船の持ち糸のように! 成程これならば、ふふふっ!

 

 

「お見事ベーゼ! 『フェスティバルーんダンジョン』に相応しい会場だね!」

 

「へっへーんそうでしょそうでしょ! アタシ、色々考えたんだ~♥」

 

 

 伊達に催事長の家系じゃない。色々世界を漫遊しているだけはある。遠くにある期待感と、それを大きく映し出す高揚感で会場入りする前からワクワクを煽る。なんとも素晴らしい企画で――。

 

 

「――それで? 映像を見せるだけじゃないんじゃな~い?」

 

 

 ちょっと社長何を。なんでそんな煽りを、ベーゼの企画にケチつけるかのような。

 

 

「お~やっぱ社長勘良ーい♪ こんなこともできるんだぁ♥ むむむ、え~い!」

 

 

 えっ、ベーゼ念じて何を。向けられた先は、やはりあの超巨大バルーン会場。丁度そこでは、竜やエルフやスライム達が仲良く戯れているほんわか映像が……え。わわわっ!? わわわわっ!? 

 

 

「きょ、巨大バルーンから、映し出されている映像から、本当に竜やエルフやスライムが飛び出てきた!?」 

 

 

 するりと抜け出すように現れた彼等は、そのまま翼を広げ、髪をたなびかせ、ぷるるんと震え、虹の道の周りを三体で囲むように飛び交いだす!? 竜はともかく、エルフやスライムはなんで!? 

 

 

 飛行魔法を使っているようにも、羽が生えているタイプでもないのに。どうやって飛んで……わっ、こっちまで来た!? そして手を振って、今度は竜に乗って、帰っていった……。

 

 

「他にもこんなことできるよー! むむむむ、そーれ♥」

 

 

 ちょ、ちょっと待ってベーゼ。私まだ理解が……超巨大バルーンの映像が、切り替わった? 今度は何を映す気で――へっ。え。えぇっ!?

 

 

「わ、私達!? 大きな私達がバルーンに映って……で、出てきたあ!??」

 

 

 わ、私だよね!? あれどう見ても私だよね!? 顔も髪型もスーツも、社長を抱っこしているのも、大きさ以外今の私と同じで!?

 

 

 それが超巨大私達が、あのバルーンに映ったと思ったら、上半身だけ抜け出して来たのだけど!? だから文字通りバルーンスカートで、どちらかというとフープスカート……そんなのどうでもよくて!

 

 

 しかもその巨人族越えの私は、私が今浮かべてるだろう驚き顔と同じ表情をしているし。やっぱり巨人族越えの社長は手元の社長と手を振り合って遊んでいて、え、え、えええぇ!?

 

 

「他にもねー、こんなこともできるんだぁ♥ むむむむむ……」

 

「待って! 待って!!? ど、どういうこと!?」

 

 

 あまりの予想外の連続に、私は巨大な私と共にベーゼを止めてしまう! あ、大きな私が光になって消えてゆく。ううんそれより!

 

 

「どういう魔法なの、あれ!? てっきり魔導画面のドームに投影魔法を付与していたのかと思っていたのに! 召喚魔法、とか!?」

 

 

「えっへへ~♪違うんだなぁアーちゃん♥ 会場を屋根で覆っちゃったらな~んか息苦しくなっちゃうし、空も自由じゃなくなるかなーって思ったんだぁ」

 

 

 それは、そうかも。外観のために内部の快適さが犠牲となるのは、えちょっと待って。ということはあの巨大バルーン、ドームじゃないの? 屋根壁ですら、覆われてすらいないということ???

 

 

 じゃあ、今私達が見ているあれは……? わ、わからない……。なんだか夢や幻でも見ているかのような気分に――夢、幻? ってまさか!?

 

 

「アーちゃん、気づいちゃった~? あ。もしかして社長も?」

 

「えぇ。特に『コレ』はね。察しの通りよアスト。これ、幻影魔法ね」

 

 

 やっぱり! あんな奇妙な召喚や投影、幻影と考えた方がしっくりくるもの! だとしてもこの規模このリアリティで、それもこの山含む広大なダンジョン敷地全土を、来訪者全てを包むであろう魔法だなんて。

 

 

 こんな実際に巨大ドームを作って召喚投影をしたほうが簡単なまでの絶技、行使できる者は限られる。……だけど丁度、私達は一人知っている。

 

 

 この社長の若干呆れが入った反応、もしかしてであろう。その方は社長の心友で、ベーゼの師匠で、こんなことに噛ませたら確実にやらかしてきそうで――!

 

 

「あらぁ♡ 私、お・っ・ぱ・い♡を貸しただけよぉ♡」

 

 

 うっっっっわぁっ!? きょ、巨大バルーンが! きょ、きょ、巨乳ッ! パビリオン群を内包する、巨竜すら幾十体も入るあれが、巨乳になったぁッッ!?

 

 

 いやあれも幻影なんだろうけど! バルーンに投影されたおっきくてふくよかで、本当にバルーンみたいにばるんばるんぼいんぼいん跳ねそうなお胸が、あ止めっ、ただでさえ紐な支えが解けて、ままま丸見えになっ――!

 

 

「止めんかぁ! あと、胸を貸す、で良いでしょうがッ!」

 

「ああぁんっ♡♡ あつぅい一発♡お腹につっこまれちゃったぁ♡」

 

 

 あっ、よ、良かった消えた……! あとちょっとで大事なところが野晒しになっちゃうところだった……若干アウトだったような気がするし、今なぜかバルーン全体が薄ピンクに染まってるけど――って。

 

 

 社長今、私の背後に向けて触手ビンタを? ということは、やっぱり! いやもうやっぱりどころじゃないけど!

 

 

「はぁい♡ミミン、アストちゃん♡焦らされちゃってもう我慢できなかったの♡」

 

「なんであんたが参加してるのよ、オルエ!」

 

 

 後ろにいたのはサキュバスクイーン、オルエさん! あはは……最近会いたいなぁとは思っていたけど、まさかこんなにすぐ会えるとは――ひゃっ!?

 

 

「あらぁ♡アストちゃんもお姉さんが待ちきれなくて、アソコをうずうず♡させちゃっていたのかしらぁ♡ んふふ♡100点までもうちょっとねぇ♡ あぁ食べちゃいたい♡万福に、マンぷくにしちゃいたいわぁ♡」

 

 

 社長触手を胸で挟み、ずり受け流すようにして私の背中に密着を!? アソコって、この指でくりくり突かれてる胸の奥で、いやナチュラルに胸揉まないでください!!?

 

 

「オールーエ!? あんた本当に縛りのめして、きゃっ!? ベーゼちゃん!?」

 

「ししょーとアーちゃんだけずるーい! 社長、アタシ達も混ざろ♥むむむ~!」

 

 

 うわわっ社長の触手にベーゼの密着まで絡み合って、って待ってベーゼこの状態をバルーンに映さないで!? 四人で交じり合ってる姿がひわぁ!?

 

 

 オルエさん私達の服を脱がそうとしないでください!? 見えますから、見えちゃいますから! ベーゼも引っ張らないで脱げる! こら社長の触手を食いこませるのは、ちょっ、待っ、待っ!!

 

 

「テクニシャンなハメこみ撮りねぇベーゼちゃん♡ 百合も映すと素敵よぉ♡」

「そうなのししょー? よーし! じゃあ百合の花と、もっとすっごい幻影を!」

 

 

「「いい加減に、しなさいッッッッ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あうぅ~……」

「痛ぁい♡ まるでぷっくり♡熟れ始めた大事な♡ツボミみたいな♡うふふふ♡」

 

「そのたんこぶ、もう何個か増やしてあげましょうか?」

「もう、ベーゼ。オルエさんの言うことを聞きすぎるのも考えものなのだけど」

 

 

 流石にベーゼにはたんこぶを作らせてはいないけれど、師弟揃って正座。これはバルーンに映されては、いないみたい。ふぅ。全く!

 

 

「アーちゃん、社長、ごめんなさいやり過ぎちゃった。ししょー、こういうことすると喜ぶから。楽しくてつい……むみひゅっ! えへへぇ、ししょー温かぁい♪」

 

「あぁ可愛いわぁベーゼちゃん♡ ダメな師匠を許してねぇ♡ダメな師匠に気を許してねぇ♡」

 

 

 あぁもうまた抱きつき合って! こっちは気が気じゃないのに! ただでさえベーゼがオルエさんに、その、食べられないか不安だってのに。あんなものを見せられたら、もう!

 

 

「ふふふっ♡安心してちょうだいなアストちゃん♡ 私だって魔王様の心友、弁えてはいるわぁ♡ それに、ソウいうことには駆け引きが大事でしょう♡」

 

「全く信用なりませんが!? 魔王様の名を関する祭事で、まだリハーサルの段階とはいえ、あんなデカデカと、山を越えるサイズのお胸を映し出すなんて!」

 

「それこそ胸を♡いいえそのおっぱいを撫でて♡ぷるんっとおろしてちょうだいねぇ♡ 私のおっぱい映像はぁ♡ここの皆にしか映らないようにしていたわぁ♡」

 

 

 またそんな言い回しを。それ、本当ですか? まあ自己弁護のために嘘をつく方ではないし、信じてあげても。

 

 

「まあベーゼちゃんが映した、皆で乱れた交わりあいは、ね♡うふふ♡ 少なくとも外の幻影だから、中の皆には晒されてないわよぉ♡」

 

 

 駄目じゃないですか!? 『可愛い乳繰り合いだからセーフ♡』じゃないんですけど!? ベーゼも『だよねー!』って顔してないで、いやこの子友人には初手キスしてくるタイプの子だった。うぅん。

 

 

「はぁ。で? 私の質問の答えは? なんでアンタが此処にいるのよ」

 

「あら♡ぴゅるっと漏らしちゃったの、舐めとって欲しいわあ♡ さっき言った通りおっぱい♡もとい胸を貸したのよ♡ ベーゼちゃんの懇願♡を聞いて、幻影魔法展開のお手伝いをね♡」

 

「アタシのやりたいことやるなら、やっぱししょーの腕が不可欠だなって思ったんだー! あ、魔王様には許可貰ったよ! えとね、はいこれ!」

 

 

 うわ本当だ。私達にも送られた書式の外部委託書に、オルエさんの名前と魔王様の承認印が。偽造書……という訳でもなさそう。魔眼で見てみたけど、紙もインクも公文書で用いられている素材だし。

 

 

「そんな嬲るような顔しちゃいやんミミン♡ 可愛いベーゼちゃんと可愛い魔王様からの♡私を求めるおねだり♡だもの、悪いことはしないわぁ♡ 会場の幻影をイジイジしちゃう主導権はぁ♡もう完全にベーゼちゃんのモノよ♡」

 

「そうだよー! それに開会以降の幻影変更には管理委員会の承認必須にしろって魔王様が仰られたからそうしたんだぁ。さっきのはリハーサルだから遊んだけど。ねー♥」

 

 

 オルエさんも『ねー♡』じゃないんですが。要は開催期間中の幻影システム管理を行う魔法技術者として招聘されたということらしい。これもまた、信じてもいいかもしれない。魔王様も警戒なされているなら、オルエさんの友人を想う心が本当なら――ふふっ。

 

 

「あらぁどうしたのかしらアストちゃん♡そぉんなとろとろなお顔しちゃって♡ 私との一夜♡が忘れらなかったのかしら♡ ミミンを抱いているのにわるぅい娘♡」

 

 

 なんだか語弊ありませんかそれ!? でもまあ、あの一夜が――オルエさん達と過ごした楽しきあの日や、先日の童夢ダンジョンで暴露話を聞いたあの日が忘れられないのは確かに、ねー♪

 

 

「まあ♡ミミンまでうっとぉりとアストちゃんと見つめ睦み合っちゃって♡ くちゅくちゅ私のア・ソ・コ♡弄るように笑って♡あぁん♡えっちなんだからぁ♡」

 

 

 ですからそれ胸の、心のことですよね! こらベーゼ、エッチなんだぁ♪みたいな目で見てこないの。実は案外乙女なオルエさんの話、聞かせてあげようかな。

 

 

「ししょー、楽しそー! アタシもししょーと見つめ合うー♥」

 

 

 ううん、多分ベーゼは知っている。あそこで、ケホン……心で知っている。そんな気がする。だから懐いているのだろう。だからあれだけ危険で妖艶なオーラを纏うサキュバスクイーンを、優しい姉の如く慕っているのだろう。

 

 

 なら童話夢の話でオルエさんを攻め弄るのは、ベーゼがいない時にしないと。童話夢のようなあの子の前ですることじゃないもの。いやらしい大人の話、というヤツである。まずはそれよりも。

 

 

「それじゃ、バルーンのように膨らんだベーゼの夢へお邪魔させて貰おうかな」

 

「うん!アーちゃん! ちょっと待っててね、乗り物召喚してくる~っ!」

 

 

 オルエさんから離れ、走って虹の道入口にある魔法陣へ赴き操作するベーゼ。あの尻尾ふりふりからどれだけ楽しんでいるかがわかる。なんとも可愛らしい。

 

 

 そして出したユニコーン牽きの馬車へ一番に乗り込み、早く早くと手を振る姿もまた。ふふっ、今行くね。よいしょっと、ん? んっっ!!?

 

 

「な、中が!? ぜ、全面透明貼りなんですけど!!?」

 

 

 立派な外観の馬車だったのに、中へ踏み入ったら壁も床も天井も外が丸見え!? な、なんでこんな、召喚魔法の誤作動!? でもベーゼは気にしてる様子ないし、でもえと、なんだか入るのはちょっとふゃぁっ!?

 

 

「ぬぷり押し込んじゃうわぁ♡ 安心してぇ♡マジックミラー号にしてもらったのよぉ♡勿論合法で、安全よぉ♡」

 

 

 またオルエさん私の背中に胸をっ、そのまま足を止めてた私を馬車の中に押し込んできてって、なにが!? 何が安心で安全なんですか!!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお~! これは、壮観!」

「へへ~ん! そうでしょそうでしょー!」

 

 

 さながら空を駆ける雲の気分で、馬車は虹の道を走る。外を見通せる構造は周囲の絶景を、バルーンで包まれた会場を、そこに映し出される内部の様子や幻影魔物達による歓待を余すことなく楽しむことができる!

 

 

 成程、外が透けて見えるのは理に適っているらしい。そしてどうやら安心というのは、中でどれだけはしゃいでもバレないということ……じゃ、ないような、合っているような…? 

 

 

 まあその辺りは、その。私とベーゼの向かいの席で、やけに開脚な座り方で社長の宝箱を挟み歓談しているオルエさんに聞くのはちょっと。こほん。

 

 

 しかし、本当に見事な幻影! ベーゼが拘ったのもわかる。もしこの次第に迫ってくるドームバルーンが魔導画面だったら、近づけば近づくほど映っているものがわからなくなっていただろう。

 

 

 例えば今映し出されているゴーレムやゴブリンやドワーフの楽し気な行進ムービーや、それこそさっきの四人での肉体絡み合いも、本来この距離までくれば何が何だか。視界全てが只の一色のみに染まってしまい、面白みはゼロだったはず。それだったらあの映像を流して良い、ってことにはならないけれども。

 

 

 しかし、幻影ならばその問題は解決できるのだ。私が今流れている映像を把握できたように、どれだけ近づいても、やはり一面を埋め尽くす巨大な迫力を以て、幻影は明瞭に映し出されるのである。あ、今度はアルラウネとトレント、マイコニド達による森の微笑ましい集会に!

 

 

 無論、冷静に考えればおかしいとわかる。けれど迫りし期待が、私達に手を振り伴走し迎えてくれる幻影魔物達が心の奥底までを膨らませ、奇妙を奇妙と思わせない夢の中へと連れてってくれるのだ! 

 

 

 ふふっ、あの歓迎もまた幻影だからこそ。この乗り物は外から内部が見えない。だからもしあの魔物達が召喚体だったら、こうして私達と目を合わせて笑ってもくれないだろう。よく考えられていると感嘆の声をあげずには、むみゅっ。

 

 

「えっへっへ~! 驚くのはまだまだ早いよ、もぉっと楽しんでねアーちゃん!」

 

 

 幻に見惚れていたら、背中と頬っぺたに現実の温かさが。もう、なぁにベーゼ。後ろからのしかかってきて頬ずりしてきて。もうそろそろ道はバルーンの中へ。幻影魔物の手で開かれる幻影扉を潜れば――え、えぇっ!?

 

 

「な、なにこれ!? よ、夜!? まだ朝だよね!?」

「そうだよー! まだ朝だよー♥でも、ここは夜だよー!」

 

 

 さっきまでの青空が一転、星月輝く満天夜に!? でもなんだか明るいというか、そう暗くないというか。虹の道と並ぶ流れ星がとても綺麗で、まさかこれも!

 

 

「お次は夕方で、月に手招きされて太陽さんいらっしゃーい♪ 二つがくっつけば虹色お昼♪」

 

 

 わわっ本当に月に招かれるように太陽が現れて夕焼けに、そして太陽と月が合わさって、虹色の波動を放つ昼間に!? やっぱり、どう見ても! 

 

 

「どーお、幻影のきらきら空模様♥地面の風船も飛んでるみたいでしょー!」

 

 

 うん! 本当に! 幻影により全方向を空に包まれた中、真下を見ればパビリオン群がまさに空に浮かぶ風船束の如く。高所から接続した理由がよくわかる!

 

 

「楽しんでくれて嬉し―♥ でも、これで終わりじゃないんだなー♪」

 

 

 まだなにかあるの? ふふ、ワクワクが止まらな、えっ。わわわっ!? 輝いていた太陽と月が、急に何かに包まれ、違う、握られた!? 

 

 

 されど放たれる光に照らされたあれは、巨大な手……って、その手は、あの手甲を装された御手はぁ!? 空の奥から浸み出ずるように現れたあの御姿はぁ!!?

 

 

『よくぞ参った。余の催じる【フェスティバルーんダンジョン】へ』

 

 

 凍てつくような、されど温もりを感じる波動と共に顕現なされたのは、ままま魔王様ぁ!? かの巨躯の威容が、今や空を支配するかの如く、っていうことは。

 

 

「あれも、幻影?」

 

「うん! でも本当に撮っていただいたんだよ。ダメ元で頼んでよかったー♥」

 

「へー! あの子がこんなことをねぇ。あんたも説得したの?」

 

「いいえ♡ いつも通り思慮深ぁ♡の皮をかむってた魔王様を、ベーゼちゃんがぜぇんぶぺろぺろ♡ムキムキ♡してくれたのよぉ♡」

 

 

 なんとまあ、物怖じしないことで。先日の女子会での一幕が勇気づけたのか、元来の愛され系故か。尤も魔王様もまた、皆との交流を深めたがっていたのだから案外快く引き受けてくださったのだろう。

 

 

 ただやっぱり、鎧の魔王装束で本来のシャイで可愛いお姿はお隠しになっているけど。いつかあのご尊顔を晒していただきたいものである。ベーゼなら間違いなく受け入れるし――ん?

 

 

「どうしたのベーゼ、そんなニヤニヤして?」

 

「んっひっひ~♪ アーちゃん、社長、気っづくかなー♥」

 

 

 どうやら何か仕込んでいるみたい。この魔王様の映像になんだろうけど。お。

 

 

『心弛ばせ満喫することを許す。存分に魔を知り、日の許す限り楽しむと良い』

 

 

 そんな台詞と共に大いなる魔王様が手を開けば、太陽が燦々と空へと登る。そして外と同じような青空がどこまでも広がる。バルーンの壁もまた幻影なため、何も境が無いように見えるのだろう。

 

 

 一方で手元に残った月は……え、柔らかく光って、宝箱の形に!? しかも、サキュバスみたいなハートの形の尻尾が生えてる!?

 

 

 あの宝箱デザインは社長のだし、尻尾の形はオルエさんの! ということは!

 

 

『さあ、我が心友に連れられ赴け。万の福が詰まりし祭りの会場へ!』

 

 

 ミミックのように蓋をパクパク開き、ハートの軌跡を描く空飛ぶ宝箱に連れられ馬車は道の終点へゆっくり降下を。ふふ、ふふふふっ♪

 

 

「これもベーゼちゃんの交渉の賜物なのかしら? ふふっ、可愛いじゃない!」

 

「でしょでしょー♥ さいきょートリオは一緒じゃないとねー♪」

 

 

 やっぱりベーゼは凄いよ! チューしてあげたいぐらい!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――こちらが開催時を予測したシミュレート幻影となります。各パビリオンに於きましては、竣工次第実際にこれらの幻影を適応させる予定です。魔導画面投影の要領ですね」

 

 

 おお~! 青空と緑街灯道の下行き交う人々、空に浮かぶ風船の飾り群。立ち並ぶ屋台の煙に、パフォーマンスを見せる各魔物達。どれもこれも本物のよう!

 

 

 また単なる風船にしか見えなかったパビリオンには、担当する魔物達を模した様々なデザインが。入口も森や遺跡、天空に海中などなど、まるで様々なダンジョンがこの地へと集結したみたい!

 

 

 こうしてエスモデウス家配下の管理委員の方に色々お話を伺い、改めて唸ってしまう。成程、これらもまた幻影の利点。こうして事前に本番さながらのチェックができるし、建築の手間もかなり低減される。

 

 

 無論開催となれば人は本当に往来し、装飾は実際の物が浮き、パビリオンは見た目こそ幻影であれ内部の展示やイベントは触れられるリアルとなるだろう。

 

 

 オルエさんの実力ありきのアプローチとはいえ、中々に応用が利くものである。是非今後も大がかりな催事にはご協力を……いや、なにかしらの変態行為を仕込みかねない気がする……。

 

 

 なにせ社長や魔王様ですら制御できないのが彼女なのだ。そう考えると、ベーゼはよくオルエさんを……あれ? あれ!? ベーゼ!? オルエさん!?

 

 

 二人共いつの間にかいなくなってる!? 人込みに呑まれちゃった…訳ないよね、だって幻影だし二人共幻影慣れしてるのに。

 

 

「ベーゼちゃんならあそこにいるわよ。張り付いてる、って感じかしら」

 

 

 何処ですか社長? あっちって、幻の屋台通りで。……まさか。いやいや、幾らベーゼとはいえ。きっと何か改善点を見つけて考え込んでいるだけで。

 

 

「じゅるり……!」

 

 

 やっぱりぃ……! 食べること大好きなあの子だもん、本物同然の幻影へ目キラキラに釘付けとなるのは当然で……いや貴女の主導する幻影シミュレーションでしょうが! 何度も見ているはずでしょうが!?

 

 

「毎度のことですのでお気になさらず。割とすぐに飽きてお戻りになられますよ。なにせ口に運ぼうとも食べられませんから」

 

 

 えぇ……。まあ、委員の方がそう仰るのであれば。あ本当だ、串焼きを手に取ろうとして失敗して、すごすご戻ってきた。もう。それじゃオルエさんの方は何処へにゃぁんっ!?

 

 

「うふふ♡とぉっても可愛い嬌声を♡こぉんな人込みの中でお漏らししちゃうなんてぇ♡ 幻影じゃないのに♡食べられないのが辛いわぁ♡」

 

 

 お、オルエさんが背後から尻尾で私の首筋を撫でつつくからでしょう!? 友人以外もいるのに……うわ委員の方は何も言葉にしないけれど、『毎度のセクハラです』と言わんばかりの苦笑を……。

 

 

 うぅん…これもしかしなくとも、ベーゼがオルエさんを上手く扱っているのではなく、欲望に忠実同士で馬が合っているだけ? 普段ならこれで良いんだろうけど、今は王命の催事。

 

 

 これで務まっているのだろうか。もし必要ならば心を鬼にして叱責をしなければいけない。この場で魔界大公の娘と魔王様の御友人へ公然と説教を出来るのは、きっと同じ立場である私だけ。キッと振り返ってでも――。

 

 

「そう力まなくても良いわよアスト。次代催事長の初仕事とはいえ、お祭りよ? 準備段階から気楽に済む方が本番も楽しくなるし、あれがエスモデウスの家風よ」

 

「フフ、えぇ。ご安心ください、ベーゼ様はしっかりと職務を果たしておいでですよ。オルエ様もまた、そのフォローを確実に。ここまで来るとご両人の癖も、案外可愛いものでございますから」

 

 

 社長と委員の方に諫められてしまった。それは……そうかも? 確かに先程見た一連のバルーンや入場方式はキスしたくなるほどの出来栄えだった。ならば他も立派にやり遂げているのだろう。

 

 

 そしてオルエさんも……素行に多少の問題はあるとはいえ……ベーゼのアイデアにそぐうよう幻影魔法を展開し、活かすように馬車のデザインに噛んでもいる。魔王様の催事を壊すことはしないだろうし、やっぱり良い師弟では――あの。

 

 

「さっきから凄くチクチクするんですけど?」

 

「「えへへ~♥♡」」

 

 

 私が振り向かなかったことを良いことに、背中側をすごくプスプス刺されている。たまに私の尾に触れる感覚から、恐らく二人共、自身の尾でクリクリ。抱っこしている社長がなんにも言わないということは安全なんだろうけど。実際くすぐったいだけなんだけど。

 

 

 でも、っん、しつこいというか、っひぅっ、首筋やお尻や内太ももにまでチロチロしてくるのはちょっと、うひゃっ!? もうっ! 変な痕が出来ちゃったらどうするんですか! そんな三人がかりで――え?

 

 

 三人な訳はないよね。でも……実際にちくちく刺さってくる尻尾は三本。ということは、誰かを巻き込んだということ? なにしているの、ううん、なにをさせているのだか。って、あれ。

 

 

「この子、さっき魔王様に召喚?された、社長とオルエさんの」

 

「こ♡ど♡も♡ たぁっぷり♡お互いの愛を交ぜ合った♡結晶♡ やぁんっ♡」

「違うでしょうが。マスコットキャラクターね?」

 

 

 振り向いた先、オルエさんに抱かれていたのは、会場入り演出の際に見たあの宝箱キャラクター。自身とオルエさんをモデルにしたその子を、社長は触手鞭で淫魔攻撃をいなしつつ撫でる。そっか、毎回恒例の。

 

 

「可愛いでしょー♥ 名前はね、ミャルミャルちゃん! 社長とししょーの名前を借りたんだ!」

 

「脳がビクビク痺れちゃうぐらいに素敵な命名よねぇ♡だってこの子、私とミミンの合いの子、愛の子で♡あぁんっ痛ぁい♡♡」

 

 

 ミミックのような、けれど人一人は簡単に上に乗っかれるサイズの宝箱を降ろし、ベーゼは抱き着くようにのしかかる。どうやらオルエさんはこの子を連れてくるためにいなくなっていたみたい。

 

 

 見た感じ着ぐるみのようで、ふわふわ質感の宝箱。と、ベーゼはそんな宝箱の中に手を入れ書類束を取り出し満面の笑みで私へ。これってマスコットキャラクターの企画書? 設定やら没案やらが色々載っている。えぇと、うわ。

 

 

「『この子の本当の名前は【ミャルミャル・ラト・ステップ】と言い、実は魔王様と並ぶ魔界の支配者の一人。千もの姿に変身や分身ができて、お気に入りのこの姿でダンジョン内の様々な場所に現れる』……』」

 

「『その可愛いステップで皆を魅了し、口の中も柔らかく福に満たされているが、ダンジョンを乱す悪を見つければ豹変。無貌の牙で、彷徨う触手で、狩り立てる眷属で容赦なく仕留める』ねぇ」

 

 

 なんともぶっ飛んだ説明で。この設定、要る? いくら依頼内容の一部がそうとはいえ。

 

 

「支配者だからね、悪い子を見つけてパクっと食べちゃうのがお仕事なんだ♥ 皆が万福で満腹になるために、ミャルミャルちゃんもお腹いっぱいになるまで頑張るよ! ねー♪」

 

 

 ベーゼに頬ずりされ応えるように、けれどちょっともじもじするように蓋をカパカパさせるマスコット、もといミャルミャルちゃん。まあ魔王様の心友と名乗るならこれぐらいは要るのだろうか。

 

 

 なら寧ろ社長達の風貌のおかげで可愛く収まってよかった。この没案の、なんとも名状しがたい細胞と水の配合体になってたらちょっと怖かったもの。あ、こっちの森の精みたいなのは可愛いかも。

 

 

「それでねそれでね! 社長達、あ、えっと、御社にはね、このミャルミャルちゃんの中の人になってもらいたいんだー。良ーい?」

 

 

 うっ…! そんなきゅるんな顔でお願いされたら断れない……なんちゃって。依頼文面からそれは把握済み。そもそも正直な所、我が社は必要ないはずなのだ。

 

 

 だってここまでに見た通り。大きな建物建築物は内部の空間拡張魔法を含めたとて瞬きする間に建築されてゆき、幻影魔法もオルエさんが肝とはいえ維持可能な魔導士達が揃っている。山や空中道路まで完備。

 

 

 また、資材や書類バインダーを手に行き交う人々は軍靴を鳴らし、あちらこちらで指示を飛ばす。出展準備に入ってきた魔物達を案内し、魔法で手伝いながら。そう、このダンジョンは魔王様の威光輝かす催事が一つ。人材も魔法も一流なのだ。

 

 

 当然開会したところで彼等の円滑具合は変わらず、寧ろ祭りの歓楽を加え大いに活躍するだろう。例えば人魚やネレイスには水の膜を纏わせ、小人やゴブリンには空中を歩ける乗り物を提供し、巨人族は小さくなれる魔法を付与するように。

 

 

 無論それだけではない。あちらを見れば、広大なダンジョン敷地を楽に移動するための転移門が。こちらを見上げれば、歩き疲れた人用の飛行箒や浮遊絨毯、ペガサス馬車などの移動モビリティが。

 

 

 私達がいつも任される警備も、当然本職たる魔王軍が。ならばこっそり掃除やらを、と思いきや都度ある各所のゴミ箱にはポータル式ダストシュート魔法や消臭魔法まで仕込まれている徹底ぶり。この通りミミックですら潜伏する隙間がないほどの精励具合なのである。

 

 

 なにせ幾百年も執り行われてきた催事、抜かりがある訳がないのだ。それでも私達が呼ばれたのは恐らく、協賛企業となる栄誉に浴するため。魔王様やベーゼ達からの厚情なのだろう。

 

 

 だからこのマスコット役も、本来なら私達に頼らずとも魔王軍内で務まるはず。だって中の人、もとい中の箱となっているのは恐らく。

 

 

「あ、あの…わ、私、魔王軍中級ダンジョン配備のミミックで…あります……! こ、この度もまたご助力を頂けると思うと、そ、その、感無量で……!」

 

 

 蓋へてろんと寄りかかってるベーゼへ揺動を与えぬように、おっかなびっくりにミャルミャルちゃんの中から顔を覗かせてきたのは、やっぱり魔王軍のミミック。って、『この度も、また』?

 

 

「お、覚えておいでであられると、嬉しいのですけど、私はマネイズという者の指揮下にございまして…! お、御社のご鞭撻のおかげで、まだ強くなる前の勇者一行を、私達でも狩れたことが……!」

 

 

 マネイズさんの! ふふっ、それはよかった。そうしてそうだった、それもあるんだった。今回のフェスティバルダンジョンの裏には、実はちょっとした懸案が隠されているのだ。

 

 

 それこそが、件の勇者一行。初級者向け中級者向けの魔王軍ダンジョン群を破竹の勢いで蹴散らし、絶賛上級者向けダンジョン群に挑戦し――それも、とうとう全制覇一歩手前まで迫っている彼女達のこと。

 

 

 私達も上級者向けダンジョンのバサクさんの元へ今猶精鋭を送ってはいるのだが、何かに憑りつかれたように挑み続ける勇者達を止めきれず皆疲労困憊気味。隠さず言えば、最早攻略されるのは時間の問題と目されている。

 

 

 そうなれば古の制約により魔王城への道が開かれ、彼女達は魔王様の首を獲らんと攻め込んでくる。その防備に軍は追われており、催事に割ける人員は平時よりも限られてしまってはいる。

 

 

 しかし、かといって祭りを取りやめる訳にはいかない。民の不安を悪戯に増し、勇者一行へ弱みを見せるも同然なのだから。治める立場である以上、どちらをも取らなければならない。魔王様の苦衷察せられる。

 

 

「あの子のことだもの、ベーゼちゃんに良い顔もしたくて……いえ、違うわね。ベーゼちゃんが良い顔だから、笑顔に満ち溢れた子だから、きっと」

 

 

 えぇ、同感です社長。だからこそ今回のフェスティバルダンジョンはベーゼに託されたのだろう。その天真爛漫さで民を楽しませ、曇る内懐を満腹で隠すために。ふふっ、ならば。

 

 

「依頼、承知しました。皆さんに代わり、ミャルミャルちゃんを演じさせていただきますね!」

 

 

 助力を懇願するミミック兵へ、しかと肯いてみせよう。すると彼女の顔は、宝箱に収められる宝石よりも輝いて。

 

 

「ほ、本当ですか! よかったぁ…これでミミックパビリオンに戻れるよぉ……。派遣していただいた指導官のおかげで少しは臆病が治りましたけど、こんな場所で、着ぐるみで歩き周るなんて……!」

 

「ふふっ☆ もしもっとパワフルになりたかったら、うちに来てもいいわよ~? 厳しいけれど、身も心も強くなれるのは保証してあげる!」

 

 

 もう社長、軍のミミックを引き抜こうとしないでください。バエル家に、というかマネイズさんに申し訳が立ちませんよ。まあ、本人の意思が一番大事で――って、え?

 

 

「ミミック、パビリオン? 各パビリオンの警備、じゃなくて?」

 

「うん! あるよミミックパビリオン! こっちこっちー♪」

 

「ひゃぁっ!? べ、ベーゼ様ぁ!? か、掲げないでくださぃい!?」

 

 

 抱き着いていたミャルミャルちゃんをひょいと頭上へ持ち上げ、軽いステップで私達を呼ぶベーゼ。ふふ、もう待ってよ。そう走ったら他のお客さんに迷惑だよ、なんて♪

 

 

 

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