ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
「――よっと、えっとどこまで話したっけ。あそーそー! ミミックちゃんって皆臆病でしょ? アーちゃんとこに全部委託できれば最高なんだけど、ダメなんだよね? ――ん、なになに? ちょっとスライムパビリオンに行ってくるね!」
いってらっしゃい。変わらず透き通る空の下、ミミックパビリオン目指し幻影で賑わうフェスティバルの通りを皆で歩む。実は今のベーゼの話通りなのである。
我が社にも民間パビリオン出展の打診はあった。というか毎回魔王様から来ているらしい。けれどこうした派遣助力はともかく、社長は全て断っているのだ。
曰く、『あまり有名になり過ぎて冷やかしが増えても困るじゃない! 小さい会社だもの。それに、我が社の目的は違うのよ』と。確かに社の理念はミミック達へ終の棲家たりえるダンジョンを案内すること。
そのために毎度私と社長が依頼先へ赴き、精査を行い派遣を決めているのだ。名が知れ依頼が増えることは有難いが、あまりに多ければ手が足りなくなってしまう。まあそもミミックは表舞台に立たない、立つわけにはいかない魔物だし。
でもいずれは民間パビリオン出展も出来るぐらいになるかもしれない。私が魔法や交渉や簿記やら諸々を指導している子達に精査まで任せられるようになれば、そこからきっと。ふふっ、私が退社するまでの間に形にしてみせますとも。
「ただいま♥ えぇとそだそだ。けど、ミャルミャルちゃんがミミックっぽいから専用パビリオンは必須でしょー、お客さんの関心度も高いでしょーって思ったから、軍の子達に来てもらったんだ。ごめんね、付き合わせちゃって! ――あ、うん! 大樹ダイニングはプランBでお願い!」
「い、いえいえいえ…!? ベーゼ様のお力になれるだなんて誉れでございますから……! ち、力不足ではありましたけど……ふみゃるやぁん!?」
「鳴き声は可愛い方が良いわぁ♡ 今のはとぉっても良い喘ぎ♡ 百点よぉ♡ いつも通り出展禁止な私達に代わって♡皆に媚びて誘ってねぇ♡」
「色ボケはともかく、そ~よ~! ミミックパビリオン、半分ミャルミャルちゃんパビリオンでもあるんでしょう? ほら、怖がらずに私に続いて。ミャル~ン☆」
猶、社長も丁度指導中。あのミャルミャルちゃん着ぐるみに、上位ミミック兵の方と共に入りながら。オルエさんがくりくり遊んでくる尻尾を程よく払いつつ。
「えへへ!アタシも♪みゃる~んっ♥ ――みゃるん? メラメラ火山ご飯ゾーンの整備はそのままみゃるん♥と始めていーよぉ。それでねアーちゃん、社長、もし他にも派遣できるならパビリオンの中にも――どしたの、空風屋台通りね! 一緒に行くよ~とりゃー!」
しかしそれにしても、ベーゼには感嘆せずにはいられない。総責任者の身でのんびりアテンドしてくれていて大丈夫かなと思っていたら、案の定来るわ来るわ報告や指示伺いの人達が。
けれど、ベーゼはそれら全てを捌いているのだ。普通に答えるだけならまだしも、時には現地にまで赴いて。丁度今、報告しに来た人を頭上に抱え上げ幾つものパビリオンを跳び越え消えていったように。そして。
「あのような御手間、私共に任せていただいても宜しいのですのに。『アタシやれるしいーよー!』なんて。あの素晴らしき強健さと敏捷さ、普段の愛くるしい様子とは違う方向で虜に――」
「――ただいま♪ ん? なになにー♥私の話してたのー?」
委員の方すら感動するほど即座に事を済まし、戻ってくるのだから。確かにこれならば何一つ手間ではない。現場に向かう移動時間が、彼女の体技の前では皆無となるのだから。無論疲れた様子なんて無し。本当に、この子は。
「うひゃあー♥♥♥アーちゃん、くすぐったいよぉ! えへへへへぇー♪」
撫でて褒めてあげたくなる! 人を風船を颯爽と飛び越える彼女も、人や風船に囲まれ照れ笑う彼女も、どちらも素敵なのだから! ただ。
「飲食店通り、多くない?」
「ぎくぅ!?」
いやぎくぅじゃないのだけども。気づくよこれは。さっきから届く報告場所がほぼほぼそんな名前だし、そもそもこうして幻影の中を歩いていても、道横に立ち並ぶ食事処群屋台群が全く途切れないんだもの。
最早屋台で道を舗装しました、と言ってもいいレベル。お土産店かもと一瞬自分を騙そうともしたけれど、幻影とはいえ炊煙立ち昇り炙る音響けば、もう。まさしくシズル感はあるけどさ。
「アスト様の御推察通りです。前回と比較し、今回の食事処の数はおよそ85倍となっております」
多っ!? まあ道は広くとられており、それぞれの屋台裏に席は用意されている。パビリオン等が目立たなくなっていることはなく、それらへ赴くルートもしっかり整備されてはいる。けれど、けれどね?
「だ、大丈夫だもん! もし売れなかったらぜ~んぶアタシが買って食べるって約束したもん! ……うへへ♪」
うぅんそういうことじゃ、いやそういうことなの…かな……? 確かに毎開催時、あらゆる飲食店に長蛇の列が形成されるし、それでも食事にありつけない人は結構いるとは聞く。場所が無いよりはあった方が良いのかもしれない。
「今回ね、ご飯もテーマのひとつなんだ! やっぱり万福で満腹になるなら、世界の美食は絶対に欠かせないでしょー?」
撫でていた私の手をさながらハンバーガーを掴むように両手でハムリ。そのままカプカプ食べるように腕を伝い、ベーゼは私と肩合わせの体勢に。そして腰抱きならぬお腹抱きをさせるように胸下を触らせながら彼女は、エヘヘ♥と。もう。
元より咎める意図がある訳ではないが、そういう理由であれば納得するしかない。来場者にも出店者にも迷惑をかけず、あらゆる責を全て文字通り腹に収める気概であれば猶の事だろう。
しかし、それにしても毎度思う。よくこんな細くてちっちゃいへそ出しお腹に山盛りご飯が、あ、お腹がくぅうって鳴った。
「ちょっとお腹空いちゃったぁ。ねえ、アーちゃん…?」
「ふふっ。まだあるよ。沢山作って来たんだ。はいどうぞわっ!」
「やったあ! アーちゃん大好きー! むちゅちゅー♥美味しー♥」
収納魔法陣からクッキーを出してあげれば、受け取りよりも先に私にぎゅむっと抱き着いてキスしてきちゃって。私を味わってどうするの。はい、あーん♪
「うふふ♡ 満点に美味しそぉうな♡お口の交わり見ていたら♡私もお腹空いてきちゃったわぁ。私の口にもぉ♡あーんで♡あぁんな♡」
「手ぇ出したらアンタ、バルーン幻影の外まで弾き飛ばすわよ。ってんな熱っぽい目でこっち見んな!」
後ろから背筋がゾクッと…ムラっと?する淫気が一瞬飛んできたけど、社長が引き受けてくれたみたい。託しましたよ社長、いいえミャルミャルちゃん。悪い人?を食べといてください。
「と~ちゃーく♥ ここがミミックパビリオンだよ!」
やはり屋台尽きぬ道を進み、幾つものパビリオンを一旦通り過ぎ辿り着いたのは、おお~! ドーム屋根には宝物を湛える宝箱が、正面には口を開けるミミックがあしらわれている! なんだか我が社の社屋みたい!
「ひぃい……やっと戻れるぅ……! っあ、有難うございました、有難うございますぅ…っ! こ、こちらの着ぐるみは、お託しいたしますぅ!」
上位ミミックの方、ミャルミャルちゃんから飛び出して凄い勢いで中へと逃げ入って行っちゃった。まあ無理もない、ミミックとは元来ああいう性格生態なのだから。それじゃ私達も後を追う形で中に、ってうわお!
「一瞬、帰社したように見えたわね!」
「ですね! まるで箱工房の箱山みたいな量!」
足を踏み入れた瞬間、壁を埋め尽くすような箱、箱、箱! ううん正確には全ての壁が宝箱。入ってすぐの両端壁も、各展示室もそれへ繋がる道の壁も、最奥でさながらダンジョンボスの雰囲気醸すミャルミャルちゃん像の周りも!
柱が建てられている所以外は、悉くが。積み重ねられ整然と並べられた宝箱で壁が構成されているではないか。なんと冒険者にとって垂涎の光景か。いや、ここがミミックパビリオンだから悪夢だろうか。
「アーちゃんの職場こんな感じなの? 楽しそー♥今度遊びに行きた~い!」
私達の想定外の驚き方に驚きつつ、ベーゼは私に腹抱きをさせたままに。勿論いいですよね社長、そろそろベーゼが欲しがってた食材も溜まる頃合いだし、そのついでにでも来てね。食堂も酒場もあるんだから!
ただ、こんな感じというのは少々語弊があるかも。我が社によるこの光景は、透明屋根より日差し入るドワーフ工房にて、ラティッカさん達が戯れに作った箱がその天井に届くぐらいにとりあえず積まれているだけの場所。
けれどこのパビリオンは違う。松明を模した灯りで外並みに明るいけれど何処か狭く仄暗い雰囲気を感じられる此処は、苔や蔦の絡む石柱から生える棚板を頼りに宝箱が『飾られている』。それとも『整理のために積まれている』と言うべきか。つまり――。
「そ、その……! 横から失礼いたします……! ここは、私の配置場所である中級者向けダンジョンをモデルにしていると、窺っております……! おかげで、とても安心できまして……!」
「ぴゃあ!?」
「あ。先程の。ふふっ、やっぱりそうなんですね」
私達の傍の壁、顔の真横ぐらいにあった宝箱の一つが、パカリと。中からこっそりとあの上位ミミックがおずおずと。なんともミミックらしい現れ方と潜み方。この『罠の宝物庫』にぴったりである。
遺跡系ダンジョンにある、宝物庫。転じて魔王軍ダンジョンにあるミミック潜伏場所。モチーフ元はそれで正解みたい。尤も、ここには宝も罠も無いだろうけど。
「も、申し訳ありませんベーゼ様……! い、いえアスト様、お宝なら、存在いたします……あっ、私なんかがお伝えするべきことじゃ……あぅぅ……」
そうかしこまらないでください。沢山並ぶ宝箱群の中で震えてたらどれがミミックだか一目瞭然ですよ、なんちゃって。あとベーゼ相手にそんな涙粒浮かべちゃったら。あぁあ。
「ん~~~。んんん~~~~? えっへっへぇ~~♥」
「へっ、えっ、あ、あのベーゼ様何故そのように私の元へ近づいて……お、お叱りですよね存分に……――」
「むちゅ~~~♥ ちゅるる~~♥♥♥」
「みゃあああっ!?!? べ、べ、ベーゼ様、何をぉ!? なんで、私の涙を、お、お、お、お飲みにぃい!!?」
すぐ箱の中へ隠れなかったのが運の尽き。首と尻尾をふりふり迫ったベーゼのキス攻撃を受けて、哀れ上位ミミックは涙をペロリ舐め取られる。それ止めなさいってば。別にミミックの涙は。
「んー。『ミミックの涙』って珍味とかじゃないんだねー。しょっぱめで少し甘い、普通の味ぃ。うん、美味しくないし泣いても勿体ないよ♪」
「へぇっ……は、はいぃ……!????」
えっと、とりあえず慰撫は成せたから良しとすべきかな。もう、ベーゼったら。たまに出るんだから、食べられそうなものはすぐに味見する悪癖。確かに一部のドリアードとか涙が美味しいジュースとなる魔物はいるけどさ。さて。
「……ねえねえ、ミミックって美味しいトコ、あったりしない? あ、勿論お肉とかじゃなくてだよ! 指舐めたらと甘いとか、髪ちゅるるんとしてるとか、何度も味わいたくなる唇している、とか♥」
「ないよ、そんなところ。それより、お宝があるとはどういうことなんですか?」
食への好奇心が止まらなくなるベーゼを止めて話を戻そう。オルエさんを師匠にしているせいか、やらしい聞き方になってない? コホン。失礼、本筋に。
「あっ、は、はいアスト様……! 最奥部屋にある、ミャルミャルちゃん像が受付となっております……!」
ということで。私達の背後で弟子の成長?に名実ともに胸振るわせているオルエさんとミャルミャルちゃん姿で呆れている社長と、委員の方を連れその部屋へ。
そこはちょっとしたホール型の広間。ダンジョン最奥のボス部屋のような造りで、やはり壁には一面の宝箱が。そしてその中央には人が簡単に入れる箱のミャルミャルちゃん像。この前に立てばいいの? おや。
『ミャールミャルミャル! よくぞ来たミャル! 私もミミックみたいミャル?』
ミャルミャルちゃん像の蓋がカパカパ動き出し、喋りだした! 本当にボス戦が始まるみたい。ってあれ、この声。ベーゼの?
「うん! 私も声あてたんだー♥ 他にもねー、わかっるかな~♪ 変更!」
『今回はこの声の気分ニャール★ よろしくおねって感じニャル★』
これは、ネルサの声! 私達と同じ
「えっへっへ♪ じゃあこれは、こっちは、この声は~?」
『さて、わかってんミャルね?』
『私と一つ、勝負をして貰うミャルわぁ♪』
『勝てば魔王のお宝をミャル』
『プレゼントミャルー!』
『拒否は無しミャルぜ~?』
『さあミミックの皆、準備良いミャルかい?』
『隠れちゃえ、っミャル…!』
『どこでしょ~ミャル~♡』
あぁほら次々切り替えないの! おかげで音声途切れ途切れだし、宝箱壁に隠れていたミミック達も困惑したように顔を見せてきた。ごめんね、ちょっと待ってね。全部分かったから。
「『
「私達の妹達、『L《リダ》・
「正解~っ! さっすがぁ『
どれもこれも聞き覚えのある声。しかも最後の三人は、殊更に! どうやらミャルミャルちゃん、色んな姿になれるという設定を良いことに様々なアイドルにボイス収録を頼んでいるらしい。
「ねえねえ、二人も録ろーよ! 『M&A』としてなら良いでしょー。
何故それを?! うっ……だからそのキラキラ瞳は…はぁ、引き受けるよ。社長もノリノリだし、ミミックパビリオンだしね。けど今はそれより、えっと。
「あ、最初から流す? いっか、アタシが生で♥説明しちゃお~♪」
「あら! それじゃあミャルミャルちゃんにならないと! おいでベーゼちゃん」
「いいのー!? わーい!」
喜ぶが早いかベーゼは社長の入るミャルミャルちゃん着ぐるみの中へ、箱に飛び込む猫の如き勢いでIN。そのまま喋りだした。恐らく社長の操縦でステップを踏み踊りつつ、交ざろうとじりじり近づくオルエさんから離れつつ。
「ミャルル~ン♥ミミックの皆に聞いて、体験型の展示にしたミャル! 周囲の壁の宝箱に隠れてもらったから、そのうち五体を見つけられたら挑戦成功ミャル♪」
ミャルミャルちゃんの中から軽く顔を覗かせながらベーゼが説明すると、壁にて様子を窺っていたミミック達も任務へ戻るように箱へと戻る。さも宝箱の如く、けれど視界の端になった瞬間に軽く箱を揺らしてみせる形で。
「脅かしほぼ無しで、誰でもやれるレベルにしたミャル♥ どうミャル、社長?」
「素敵ミャルよ~! 箱間移動も出来るからランダム性も高められるミャルね!」
ミャルミャルちゃんが自問自答してるかみたいに着ぐるみ内で完結しちゃった。さておき、うん。これならば実際のミミックと触れあうこともできるし、諸々の危険も少ない。ただ。
「けど、もうちょっと動きが欲しいミャルねえ。これじゃ小さいサイズの魔物なら誰でも出来ちゃうって言われちゃうかもミャル」
まさにミャルミャル社長ちゃんの言う通り。箱の中から探すというのはミミックらしいが、ただ箱に隠れるだけなら小人族やアルミラージとかの小動物系でもできなくはない。ちょっと弱い、かもしれない。
「そうミャルねぇ。探して貰っている最中に箱から飛び出して、目にも止まらぬ速さで走り回って別のところへわざとらしく隠れ直す、ってのはどうミャル?」
「へー♥おもしろそー! あ、おもしろそーミャル♥ 皆、できるミャルー?」
早速改善案を提示する社長と、即座に呼びかけるベーゼ。流れであの上位ミミックの方が担当することになり。
「で、では参ります……! えいっ、走って、走って、走って、こっちに……! こ、こうでありますか?」
端の壁箱から飛び出した箱は、私達の周りをわざとくるくると回り、けど視界で追いきれないぐらいの速度で反対の壁にある適当な箱の中へ。うん! 中々よさげ!
これならば目立つし、且つ何処に隠れ直したかを把握するのはほどほどに難しい。その際の視線誘導で他の子達もいっぺんに動けるだろう。良い難易度調整である。開催時もこの調子で――。
「んー。もっと早くていいよ! 今の倍ぐらいで! もっかいおねがーい!」
えっ。ベーゼ、もう充分な気がわっ速いっ!? 私でもなんとか捉えられたぐらい。でも確かにこれぐらいの子達を混ぜた方がミミックの腕を知らしめるには。
「うーん。アタシ、もっと速くてもいいなー。それにもっと、そだ! 皆でいっぺんにやってみてー♥」
えぇっ!? そ、そんなことしたらわわわあッ!!? 数十体ものミミック達が、一斉にぃ!? ミャルミャルちゃん像を中央に部屋をぐるりと囲む宝箱群から、宝箱がわらわらどばどばと!
突然の号令を受け飛び出した彼女達は思い思いに全速力で慌て走り、私達の視界に軌跡すら残さず適当な宝箱の中へ。場にはすぐに沈黙が舞い戻る。まさしく宝物庫をひっくり返した騒動、こんなことしたら。
「そことそこ! あと、そことそことそこ! そことそこもで、そこから縦四つ! あとは~――♪」
「「「「「っ……! せ、正解です……!」」」」」
えぇぇ……全部当ててる……。あれだけいっぺんに走り回ったミミック達が何処へ隠れたかを、一人も逃すことなく見切ったの? 私でも全部は、オルエさんや委員の方も無理なのに。
「やったぁ! えへへ、たのしー♪ ねね、もっかいもっかい♥」
「ひぇ……も、もう一度でありますか…?! しょ、承知いたしましたぁ……!」
ミミック達も急なフル稼働で憔悴を見せているが、当のベーゼはやはりゲームに興じる子供のように楽しんでいる。もう一度、またもう一度、またまたもう一度、またまたまた……ね、ねえベーゼ?
「ひぃ……ひぃ……べ、ベーゼ様……こ、これ以上は……!」
「えー! 楽しくなってきたとこだったのにー!」
もう、頬を膨らませないの。遊びたい気持ちは尊重するけれど、って、社長?
「なら私と続けましょうか! ほいっと! さあ、ミャルミャルちゃんを追ってくるミャル~☆」
「追っかけても良いの!? 社長大好き~♥ よーし捕まえてやるーッ!」
うっわあああ……。ミャルミャルちゃん着ぐるみからベーゼを出し、最早姿が消えてすら見える速度で高速移動潜伏勝負を誘う社長。ベーゼもそれを追いかけ、宝物庫内を縦横無尽に。
最早残像しか見えないし、その残像も複数残って見えてしまうぐらい。委員の方も唖然と見つめてる。えぇと、あぁはい、わかりました社長。
「こちらにも弊社の人材を派遣いたしましょうか? 来場者のレベルを見極め、どの程度で攪乱イベントを発生させるかの助力となりますが」
「……えっ。あ、はい。それではお願い致します。私もそれが望ましいと、その……助かりますアスト様、ミミン様」
ふふっ。いえいえ。社長の目配せがなければ、私もこの追いかけっこを見つめていましたから。あやしてくれている間に煮詰めちゃいましょう。あ、それと。
「魔王様のお宝、というのは何なのでしょう?」
「コ♡レ♡のことよぉ♡」
わわっ!? オルエさん、胸の谷間からぷりゅんと出さないでください!? って、これってぬいぐるみ、ですね。片手サイズなミャルミャルちゃんの。
「ベーゼちゃん、博物館ダンジョンの宝箱ぬいぐるみを見て、魔王様へ欲しい♡欲しい♡っておねだり♡したのよぉ♡ おねだりにガマン♡効かなかったのでしょうねぇ♡ たぁっぷり♡出してくれたわぁ♡」
えっと……。要は、魔王様が手づから魔法で拵えになった賜与品の一つらしい。魔王主催の催事では付き物だし、他の場所でも菓子やらなにやらが配られたりするはず。それにしても、ふふっ、魔王様は素敵な物を。
「あと、コ♡レ♡も♡」
コレ? ぬいぐるみ以外にもまだ何か、ッぁ……?!
「ほぅら♡アストちゃんの手で♡抓んで取って♡確かめて♡ 私の♡胸の♡ぷっくりしたト♡コ♡ロ♡」
オルエさんの乳く……その、乳り……えと、オルエさんの胸の先が、ギリギリ紐のような布未満で隠されているそこが、先程までとは明らかに違い、コイン状に膨れ上がっている……。えと、その、じゃ、じゃあ。
「ひぁん♡アストちゃん小刻みに震えるソレが、私の中につぷりと♡くぷりと♡ んっ♡そこよ♡そこ♡ もぉっとまさぐって♡もっと奥に♡」
指をお胸にお邪魔させてもらっているだけですけど!? ちょっと、身悶えしないでください! ただでさえ柔らかくてでもハリがあるのに包まれてて、でもちょっと下手な動きしたら全部まろびださせちゃいそうな、ひやぁっ!?
「あんっ♡ アストちゃん♡慰めるテクニック上げたわねぇ♡ 爪でカリリと私のア♡レ♡をひっかいてくるなんて♡細ぉい指で舐るようにクリクリ弄ってくるなんてぇ、ひきゃんっ♡」
動かれるからつい触れてしまっただけで、あっ、ベーゼを連れ頭上を通過した社長が行きがけにオルエさんを触手ビンタしていった。……でもそのせいか、オルエさんビクンビクンずっと小刻みに、えと今の内に失礼しますね、えいっ!
「コホン。そちらも魔王様より賜りました御品、ミャルミャルちゃん記念メダルとなります。しかしぬいぐるみがある以上、こちらは完全に土産品として販売すべきという声もございまして」
オルエさんの胸で生暖かくなったそれは、確かに立派。金色で、ミャルミャルちゃんも刻まれていて。販売しても良さげではある。けれど。
「似合いますね。このぬいぐるみの中に」
「そうなのです。セットとしてお作りくださったようなのです」
正面を見て吼えるミャルミャルちゃんと、背を向け尻尾をフリフリ誑かすミャルミャルちゃんの図柄は、ぬいぐるみの口の中にある凹みへぴったりセットできる。これをバラ売りしてしまうのは確かに勿体ない。
「さりとて、こちらのミミック探索アクティビティへ賞品を増やすのは些か。二度目は飽きてしまいましょう」
それも、確かに。まあ今例外が走り回っているのだけど。このフェスティバルーんダンジョンは広い。ここでお客さんに時間を取らせすぎるのも勿体ないだろう。となれば。
「別の遊びが必要ねぇ♡ アレと同じぐらぁいアツくて♡トリコにされて♡目がギンギンになっちゃうぐらいに興奮できる♡イ♡イ♡コ♡ト♡が♡」
言葉選びはともかく、オルエさんの仰る通り。しかし、それにミミックらしさを付与しなければ。それにできれば、他の場所をも慮った方法で……。
「ひゃあーっ! 見失うし、おいつけなーい! 社長、つっよーい! ふひー!」
あ、向こうの遊びは終わったらしい。散々社長にあやされたベーゼは満足げに床へ大の字に。もう、そんな恰好してたらオルエさんみたいに胸零れるよ。しかし流石は社長。
「ミャ~ルミャルミャル! 良い勝負だったミャルねぇ☆また今度やるミャル!」
「うん! 約束だよー社長! あ、ううん、ミャルミャルちゃん♥」
息切れ一つなくミャルミャルちゃん着ぐるみの中から身体を伸ばし、寝転がるベーゼと指切りげんまん。ベーゼはグリモワルス女子の中では一位二位を争う体力だし、さっきもパビリオンを跳び回っていたぐらいなのに…飛び回る? そうだ!
「以前別のダンジョンでも用いた方法なのですが、スタンプラリーはどうでしょう。各パビリオン内の警備にミミックを配置。場に合った、されど見つかりやすい潜伏をして貰えば!」
「あぁ! 柔軟なるご提案に敬服を。ミミックは『ダンジョンならば何処にでも潜んでいる』とまで言わしめる魔物ですものね。そうすれば自ずと各所に足を、ベーゼ様いかがでしょう?」
「ほっほぉ~! うん、うんっ! それすっごくイイ! さいよ~♥」
よかった好感触! けど、一つ問題がある。スタンプラリーをするのは良いにして、終わったそれをメダルとどう引き換えるか、である。
そのためにもう一度ここに足を運んで貰う、が理想だけど……敷地は広い。それにパビリオンには行列が出来るもの。丸一日あっちこっちを歩き周って、疲労困憊で戻ってきてもう一度並んでもらうのはあまりにも酷。
とはいえ別の場所に交換所を設ける、というのもどうなのだろう。ミミック(風ぬいぐるみ)に含ませるお宝は宝物庫たるミミックパビリオンで配るのが一番良いだろうし。うーん。
「皆アタシみたいに、しゅぱっと跳ねてとんとんとーんとパビリオンの上を走ってこれればいいんだけどなー」
それは無茶だよベーゼ。そんなことが出来るのはここの面々でも貴女か社長ぐらいだもの。あぁでも、ミミックに箱へ入れて貰って移動手段とすれば。その派遣依頼もあるからついでに。いや、結局距離が――。
「ふわぁ……沢山遊んだら眠くなってきちゃったぁ……社長、箱に入れてー……」
自由だよベーゼ!? ちょっと貴女、って社長も快く迎え入れないでください!? っう、オルエさんに抱かれて寝るよりかはマシかもですけど!
「こうやって箱に入っていると、宝物の気分~……。宝物も思うのかなあ。蓋の外には何があるんだろうって……何処なんだろうって……むにゃ……」
あぁ本格的に寝息を。よくわからない寝言を残して……何処なんだろう、って、あ。そっか。その手が!
「転移魔法をミミックへ付与し、箱から箱への転移ゲートとすることって可能でしょうか? そうすればスタンプ担当のミミックを解し、ここまで一瞬に帰ってくることが可能かもしれません」
「その発想はありませんでした! 心得がございますので、試してみましょう」
お願いします。えっと、じゃあ誰か実験体に……あぁ。この子でいいや。社長、良いですか? では。
「え!? み、ミミン様に、ですか!? そ、その、ですがこれ……成功してしまったら、箱の中のベーゼ様が」
「そのつもりで、お願いします。責は私が、アスト・グリモワルス・アスタロトが取りますから」
ふふっ。社長の箱の中で、社長の膝の上でぐっすり寝ちゃってベーゼったら。ちょっと忍びないけど、自由すぎる貴女が悪いのだからね?
出口は、中央のあのミャルミャルちゃん像の中でいいかな。魔法陣構築終わりましたね。それじゃ社長、一思いに!
「しゅぱっと行ってらっしゃーい、ベーゼちゃん☆ ぱくっ☆」
「わぺぴゃあっ!?」
成功! 社長が蓋をパクンと閉じれば、転移の奔流を軌きミャルミャルちゃん像から悲鳴が! 起きた起きた、像の中からひょっこり顔出してびっくりしてる。おはようベーゼ♪
「アーちゃんだねぇえ! くっらえー! キス攻撃!」
きゃっ! あはは、ごめんごめん。でも、急に眠りだす方が悪いんだよ? ほら、尖った唇にお菓子差し込んであげるから♪
さて、このままベーゼを抱えて次と赴こう。何分フェスティバルーんダンジョンは広い。精査や商談も今日だけじゃきっと終わらないのだから!