ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
「もう外観は完全に出来上がったみたいね!」
「ですね! あとは内部のイベント仕込みだけ、腕が鳴ります!」
最初に招致を受けてから数日。会場全体を包む巨大バルーン幻影には設営の終わったパビリオン内部や食事処の様子がスタッフ達と共に映り、虹の道では乗り合い馬車や竜車がひっきりなしに走っている。
普段のダンジョン精査であればここまでの日数をかけることはないのだが、大規模な催事であり他参加者も多い以上、足並みを揃えなければならないのだ。
とはいえ、ほとんどは済んでいる。既に派遣済みの子達がミャルミャルちゃんを演じ、パビリオンを巡るミミック捜索スタンプラリーも順調。各パビリオンにお邪魔させて貰い、潜伏場所をお借りした。
残る私達の役目は、イベント時のお手伝い派遣。フェスティバルーんダンジョン内で人を集合させ行われる、幾つかのイベント。その交通整理や運搬等の支援、警備を補佐してほしいというのが万福管理委員会からの依頼なの、だが……。
「今日こそ教えてくれると良いんですけど」
「ふふっ。ベーゼちゃんも楽しみにしてるのよ」
その詳細を、総責任者たるベーゼは教えてくれないのだ。こうしてスケジュール表こそ貰ったけど、何故か各イベント名の部分にはこの通り幻惑魔法が付与され、ハート飛び交うピンクの靄で包み隠されている。
『皆で見たいから待ってて!』というのが彼女の弁。幸いにも必要な人材については幻影無しに明記してくれたため滞りはないけれども。まあ、彼女の意を汲むとしよう。お祭りは皆で巡ると楽しいものだから。
しかしそうなると気になるのが、『皆』の部分。それはつまり、私達以外にも見せたい相手が、一緒に見たい相手がいるということ。そして私の推測が正しければ、今日これから行うことが――。
「おっはよー♥ アーちゃん、社長♪」
わっ! 急に背中におぶさってくるように、むにゅっと。もうベーゼいつの間に来ていたの? こっそり背後を襲ってくるなんて、そんなところまで師匠から学ばなくとも――わわっ!?
「おっはよぅ~い★ あっすん、しゃちょー♪」
もう一人、むにゅっと! ベーゼとは違う、ベーゼと同じぐらい快活な声は!
「ネルサ! 貴女まで。いつの間に示し合わせてたの?」
社長を抱えたまま振り向けば、ベーゼの隣にいたのはシュシュで可愛く髪を纏め、キラキラメイクやアクセサリーを纏い、伝統装束ドレスの至る所をデコレーションで輝かせた、ネルサ・グリモワルス・レオナール!
「えへへ! 今さっき! ネーちゃんにしーっして貰ったんだ♥」
「なんだべぜたん★て思って見たら、あっすんいるじゃん? こりゃ~やるしかっしょ★乗るしかっしょ★★」
相変わらず仲が良いんだから。さて、丁度いい。聞いちゃおう。
「ベーゼ、待っている『皆』って」
「うん! 皆のことだよ♥ アタシ達の友達の、アイドルの皆!」
ベーゼとネルサが同時にじゃじゃんと手を広げれば、奥の転移魔法陣より続々現れたのは見知った顔ぶれ!
「へえ、その恰好を見るのはあの時以来ね!」
「おはよう、アストちゃん、社長♪」
「おはようございます、アストさん、ミミンさん!」
「おっはよーわー!? すっごい!? なにこれ!?」
「ちょいちょいニュカ、テンション上げすぎぃ~ってホントにヤバあ!?」
リアとサラ――
「っお、おはようっ、ご、ごじゃいまっあぅ、ひ、舌を……!」
「フフッ、落ち着いてベル。僕達のお姉さんは優しいだろう?」
「そ~そ~。厳しいのは修行の時だけよ~♡ 今日は~~?」
勿論修行じゃありませんともオネカさん。リダさんの言う通りですよ。深呼吸して、ベルちゃん。ううん。
「今日は楽しくリハーサルをしましょう、可愛い妹達♪」
私達『M&A』の妹ユニット。元うちのミミック社員なリダさんオネカさんと、そんな二人を導いて手を取り合いスターダムへ駆け登った人間族ベルちゃんによる『L・B・O』! なんて言ったらベルちゃん恐縮しちゃうかな。ほらとりあえず。
「緊張せずに顔を上げて…熱っ!? えっ、もうオーバーヒート気味!?」
「変わらないわねぇ。そこが可愛いんだけど♪ ほら、リラックスさせたげる☆」
あっ、社長!? ベルちゃんを触手でくるっと捕まえ、パクっと箱の中に。少しの間もごもごとして、ポンッと外へ。どれどれ。
「へにゃあぁ…ミミン様にぎゅっと、むぎゅっと、畏れ、多い、ことひょお……」
「うーん。言葉喋れなくなるぐらい強めに力みを抜いたげたのに。ここまで来ると尊敬するわねぇ」
でも充分ですよ。膝から崩れ落ちて恍惚としてますし。本当に声が出なくなってしまったらこの後に差支えがでてしまいますもの。はい、立てる? ふふっ、ほわほわさせられたからか、とっても素直。
「後は僕達が引き取ろう! でも社長、ちょっとズルいよ」
「そうよ~! 私達がやってあげたかったのに~」
「あら! 早い者勝ちよ☆」
リダさんオネカさんも、ベルちゃんを回収がてら頬をぷくり膨らませている。彼女を可愛いがりたい気持ちは私もわかるもの。可愛い可愛い私達の妹だもの。けど、私も混ざるその前に。
「ベーゼ、早速一か所幻影を解いてくれる?」
「は~い! えへへ、スタンプラリーみたいだね♥」
ふふっ、確かに。スケジュール表にベーゼが念じれば一部の靄が解ける。そこに書かれていたのはやっぱり、『フェスティバル特別アイドルライブ』。これが数多あるイベントの一つである。
そして私達がこうしてそのライブに参加するアイドル達と合流しているということは、即ちそういうことである。それじゃミミック派遣会社の社長業と秘書業は数時間休業。ここからはひわああ?!!?
「へっへ~ん! ししょー直伝、服脱がし~♪」
「おお~★ べぜたん、だいた~ん★」
ちょっと!? ベーゼ、なんで私のスーツの上着を脱がしたの!? 留めていたボタンすらも気づかないうちに外して、するるっと。この鮮やかな技は確かにオルエさんの脱衣術で、じゃなくて!!
「だってアーちゃん、魔法服じゃないでしょー? じゃあまず脱がないと!」
「こ~んな風に生着替え★できんっしょ★ メタモル★アイドル★なんちて★」
確かに私のスーツは『A-rakune』のアラクネ糸で編まれた服だけど……わっ、ベーゼとネルサの姿が光に包まれて。纏っていた魔族服が切り替わっていく。
「じゃじゃ~ん★ どうどうあっすん★」
「アタシも久しぶりに~♥ アイドルだ~!」
おお~っ! 今日のアイドル衣装も輝いているよ! ネルサエグゼクティブプロデューサーは言うまでも無いし、ライブ映像でなく初めて目にするベーゼのアイドル姿もまた、見惚れてしまう!
ネルサはビビットでセクシー、ショートパンツから伸びる長い脚とお洒落に開いた胸を星形ハート形の彼女らしい魔法陣メイクでバッチリギャルらしく! 魔族の尾と羽が存分に生かされている!
一方のベーゼはフリフリのガーリッシュ。おっきなスカートに、頭にはハートのおっきなリボンもつけていて乙女らしさMAX。実に彼女の纏う可愛らしさにマッチしている。けれど……やっぱり。
「っぱ良いわ~★べぜたんの作ったアイドル衣装★」
「えへへ~催事長だもーん! 腕前ネーちゃん級だよー!」
そう。ベーゼは催事長一族。故に数々の式典祭典で用いる衣装を作り出せる魔法教育を受けている。更に持ち前の器用さも相まり、服魔法の腕はネルサすら凌ぐレベルなのだ。ただし、あぁほらまた、チラチラと!
「ねぇベーゼ。そうぴょんぴょん跳ね回ると、ね? その……スカートの中が、パニエが無意味に、それに胸も脇もだいぶ……!」
「えー大丈夫だよアーちゃん! 見えても良いヤツ履いてるもん、ショーツじゃないから恥ずかしくないも~ん♥これぐらいゆとりないと、動き悪いんだもん♪」
指摘しても駄目だこれ。うぅん、映像で見た時からそうだったのだけど、ベーゼのアイドル衣装はその、なんというかチラリズムに満ち溢れているのだ。
大きさの割にやけに軽いスカートはパニエも軽く、ああして跳ねるたびにチラチラと下着が…当人曰く見せパンらしいけれど……それも割ときわどくない…? 下手すればお尻まで丸見えの中々に食い込んでるヤツじゃない…!?
しかも胸や脇も結構開いているから零れそうというかなんというか。当人の天真爛漫可愛らしさで誤魔化されてはいるが、ふと気づけばなんて衣装だと唖然としてしまう。いや普段の改造伝統装束とどっこいなのかもしれないけれども。あ。
「ねえもしかして。そのアイドル衣装、オルエさんにアドバイス貰った?」
「うん! ししょー、褒めてくれたんだー♥ アーちゃんも褒めてくれる?」
うっ……だからそのキラキラ顔は反則…! まあ露出過多は普通にしていれば見えないし、それを加味したとしてもフリフリ似合っているし。とっても似合っていると褒めてあげたくは……って、あれ?
「そういえばオルエさんは?」
「あれー? ししょー、此処に来るまでは一緒だったんだけどなー?」
この間はベーゼに付かず離れず隙あらばエロティックだったオルエさんが、今日はいない。ダンジョン内にいるにはいるらしいし、急にはぐれたらしいけれど……だからこそ嫌な予感がひゃああっ!?
「えっへっへ~♪それよりアーちゃん、脱いで脱いで♥アイドル見せてよー♪」
「にひひ★あーしが光のカーテン引いたげるし★ 衣装チェンジタ~イム★」
ベーゼ! ネルサ! 今度はシャツまで脱がそうとしないで!? 皆見ているでしょうが、更衣室は用意してあるでしょうが!? 他のアイドル達はまだ私服なんだから、私達だけここで着替える必要は――!
「ないわぁ♡ 私がそう仕向けていない限りはねぇ♡」
へっ……ひゃきゅんっ!!? せ、背中にむにゅんと、腕にするりと、パンツの中ににゅるりクリリと、ここここれって、ちょ、ちょっとオルエさんん!!?
「待っていたわぁ♡このアクメをぉ♡ 青い野外♡アイドル達の前で♡
「許すかぁ! チッ、気を抜いてた私が……っふきゅ!? わ、私の体まで!? あんたっ、どこで本気出してんのよ!?」
社長!? L・B・Oの元から駆けてきた社長が、操られるように!? 自ら着ている白ワンピースに指をかけ、肩からはだけるようにオルエさんの胸の中へと!?
まさか、っやっぱり! ネルサの目が、若干ピンクの靄に囚われている! オルエさんの幻惑魔法に違いない。きっと気を許せるメンバーとの更衣室での一幕幻影だろう。いつの間に散布していたのか……んっ?
「おお~すご~いししょー! 社長も皆でぎゅーしよー♥」
……ベーゼ、特に囚われてない。これきっとオルエさんにそそのかされただけ。『私を着替えさせちゃえ』とか。もう、そういう倫理観がちょっと怪しいのが彼女の怖いところでっんきゅ!? ちょ、ちょっと!?
「ネルサちゃん♡光のカーテンの代わりに♡ベーゼちゃん共々その細くておしゃぶりしたくなっちゃう指でぇ♡アストちゃんを♡うふふ♡このまま♡おっきくぅ♡皆へ♡晒しちゃえ♡」
む、胸のボタンが!? ベルトが解けて!? って、おっきく皆へって……映ってるぅ!?!?!? あの会場を包む超巨大バルーンに、先日みたいにぃ!!?
ま、待ってこれ…ひぁっ、こ、この間よりもマズい!!! あの時も脱がされかけたけど、今は本当に脱がされている! きゃっ、下着までっ!?
んっ、ベーゼとネルサに胸の周りやお臍周りを撫でられ汗ばんできたし、ひぅっ、社長とオルエさんにぎゅうっと抱き着かれて、み、身動きが!
み、見られているのに! アイドルの、友人の皆に、この痴態を! あの巨大バルーン会場スクリーンで! でかでかと、見せつけてしまっているのに!
リアとサラは顔を背けてくれているけど確実に、シレラちゃんルキちゃんはニュカちゃんの目も隠しながら。他の子達も、もじもじとっ…!
そしてベルちゃんも……リダさんオネカさんの手で視界ブロックされてるけど……社長まであわや胸先が見えんばかりに乱された姿を見た二人の手は緩んでいて、赤い顔が完全に見えてるぅ…!
み、見ないで、お姉ちゃんのこんな姿、どうか見ないで……!
「ああ♡あぁん♡堪らない♡堪らないわぁ♡♡♡ ベーゼちゃんにネルサちゃんに♡ミミンにアストちゃん♡ 私のだぁい好きな子達を♡カラダの奥の奥まで食べて舐って味わいたくて堪らない子達を♡ハーレムに♡」
しゃ、社長ぅ…! どうか、なんとかしてくださいぃ……! このままじゃオルエさんが、オルエさんに、私達が……!
「……はぁあぁぁぁ。もう良い?」
「んっ♡ はぁっ…ん♡ はふぁぅう♡ えぇ♡ミミン♡」
「そ。なら――あんただけはマジで声出なくなるぐらい潰してやるわッ!」
ひゃわあっ!? 社長、はだけていた服を直すや否や、目にも止まらぬ速さでオルエさんを宝箱で丸呑みに。サキュバスのハート尾だけがぴょろんとはみだし、まるでミャルミャルちゃんみたいに。
「それって♡エッチな意味で♡かしらあ♡」
「やかましい!」
あ。尻尾まで完全に飲み潰された。えっと……えぇと……とりあえずベーゼ、巨大バルーンの私達消して。そして会場に案内して。着替えの続きはそこの更衣室まで我慢ね。もう、頬膨らませないの。
「わ、わわわわぁ……!?!? こ、ここ、風船型パビリオン…?の……」
「中……なはずだよね。こんな感じになるとは」
「てっきり~。完全ドーム型なのかな~と思ったら~」
「入った途端、クォーター屋根に。野外ステージみたいになったわね……!」
「これもダンジョン全体を包むバルーンと同じ幻影なのかしら。不思議」
「でも席にはしっかり椅子が。数も揃っていてお客さん沢山入りそうですね!」
「お空見えてきれ~い! 広~い! なんでもやれそ~!」
「……ちゅ~ことはあの空、幻影なんじゃ? やば、面白♪」
ベーゼに率いられ、ライブ会場となるアリーナパビリオンへと到着。幻影魔法と空間魔法を駆使した内部に、皆驚きの歓声を上げている。先程のダンジョン入りの一連シーケンス――虹の道や魔王様幻影を見た時と同じぐらいに!
「もっと面白いこと出来るからワクワクしててねー♥まずはおっ着替えだ~♪」
はいはいベーゼ。今度はちゃんと着替えさせてよ? それじゃ皆更衣室に……あ、あれ? 皆? どうして引き攣って?
「えっと~……★ぶっちゃけオルエさん自由なんがちょい怖いかな~……って。ほんとさっきはマジゴメン……★あーしガチでもう楽屋かと……」
だからそれはネルサが悪いんじゃ、え。あっオルエさんいつの間にかライブ会場の席のど真ん中に!? こっちに手を振って、社長解放しちゃったんですか!?
「どうせ縛っても縊ってもご褒美としか捉えないわよ。でも安心して頂戴。あいつ、もう悪さはしないわ。長年の友人として保証したげる。……不本意ながらね」
えぇ……? でも確かに彼女、かなり満ち足りたような顔。何故かやけにお肌ツヤツヤなのを除けば、普通にライブが楽しみな人にすら見える。でも……。
「こう言うとアレだけど、ヤることヤッて満足したのよ。私やアスト、ベーゼちゃんやネルサちゃんに囲まれながら、そのくんずほぐれつの盛り様をアイドルの皆に見せつけるってアホ計画をね」
「その通りよぉ♡ あのおっきく♡ぷるんと♡晒しちゃった♡幻影も、あの場にいた♡夜を共にするようなぁ♡友達同士♡な皆にしか♡見えてないわよお♡」
うわ来た?! それが一番問題なのですけど!? あぁほら皆警戒を。元冒険者のリアとサラが壁となって他の子達を守りだしたし、ベルちゃんはリダさんオネカさんに仕舞われるし。でもオルエさんはゾクゾクと身体を震わせて、おや。
「ししょー、メッだよ! 遊んで良いのはアタシ達だけだし、終わりだよ?」
「うふふそうねぇ♡そういうヤ♡ク♡ソ♡ク♡よね♡ペットのように従うわあ♡」
珍しく立ち塞がったベーゼへクスクス笑みを見せ、オルエさんは席へと戻っていく。待って、その『アタシ達』に勝手に私や社長やネルサ入ってるよね? ……良いか。アイドルに手を出されるよりは。
「これでオッケー! 皆着替えよー♥」
「ま、あいつ約束破るようなタチじゃないわよ。心配なら着替え終わるまで私がまた捕まえておくけど……下手に拘束したら、またムラつきだして何しでかすか」
相変わらず色んな意味で恐ろしい方である。とはいえこれ以上手を出しては来なさそうだし、社長も警戒を厳としてくれるだろう。変態さんのことは一旦忘れて着替えるとしよう。
「――♪ ――♪ ――――♪♪♪」
「「「~~♪♪ ~~~♪♪ ~~♪♪♪♪」」」
「いえ~~いッ★ み~んな、一緒に~~ッ★」
「「「「「フェスティバルーん、みゃるみゃるーんっ!」」」」」
曲に合わせてリズムを刻み、リズムに合わせて歌高らかに! センター務めるネルサに合わせ掛け声一斉、ミャルミャルちゃんの花火一閃!
幻影とはいえ青空高き中、幻影とはいえ色濃く煙で宝箱描く花火に、ステージの上の私までテンションが上がってしまう! そして何より、ふふっ♪
「みゃるみゃる~ッ♪」
「みゃるみゃる☆」
「みゃるみゃる~~う♡」
社長とリダさんオネカさんがミャルミャルちゃん衣装(宝箱)を着て、虹の道の魔法に乗り、ミャルミャル音頭のステップを刻みつつ、各々可愛いミャルミャルちゃんを観客席へ振り撒いてるのがまたなんとも!
「リダさん、オネカさん、ミミン様……! とってもとっても、とっっっても綺麗ですっ…! あっ、その……えへへ…♪」
私の隣のベルちゃんも興奮が止まらないようで、この楽しさを共有したいと言わんばかりに目をキラキラ、無意識にこちらをチラチラ、ふふっ♪ ねー♪
フェスティバル特別アイドルライブのリハーサルはまさに順調。皆最初は薄ら警戒していたオルエさんも本当に一切手を出して来ず、ミャルミャルちゃん団扇を手にずっと応援しているだけ。
これならばきっと、お客さん達も喜んでくれることだろう。けれど……ちょっと引っかかる。色々と気にかかる。
「んじゃブレイク★タ~イム★ MC代わりに雑談だ~★」
「ねえねえ皆、どーかな? アタシとししょーが手掛けたアリーナパビリオン! 改良点とかあったら教えて欲しいんだー! 屈託のない意見、ぼしゅーちゅー♥」
演出に一段落がつきトーク練習、という名目の休憩タイム。少し気を抜く皆へ、ベーゼはニコニコでそう問いかける。うーん……この感じ。
「えぇと……」「そうねぇ……」
「なんと言いますか……」「これ言っていいの?」「どうなんかね~……」
「ぁぅ……」「おやおや、どうしたんだいベル?」「んふふ~合ってるのよ~♪」
皆、何処かしら気まずそうに言葉を噤む。言いたいことはあるけれども、本催事のホスト且つ総責任者であり純真無垢な…それこそ屈託のない笑みを浮かべるベーゼには切り出しにくいと言わんばかり。
けど残念。皆騙されている。ベーゼは純真無垢だけど……少なくとも今は純真無垢に小悪魔。私もおかしいと思っていたのだ。わざわざスケジュール表のこの項目を隠していたことに。
なにせ私達もアイドルとして出演するこのライブ、当然事前に話を受け、プログラムに合わせトレーニングを重ねてきたに決まっている。それこそ派遣会社としてこのダンジョンへ訪問する前から。
なのにわざわざベーゼは靄で覆ったのだ。わかりきっているイベントなのに。これだけならば隠す意味がないのに。つまり逆説的に――隠している何かがあるということ。隠しておいて、じゃじゃん♥と見せたい何かがあるということ。
このトークは、その流れの布石に違いない。というか長年の付き合いだからわかる。あれ、早くじゃじゃん♥したい顔。けど皆はやはり言葉に詰まっている。
「ん~~★でもべぜたん★これじゃあ遠くの皆にあーし達のキラキラ姿、見えなくな~い? おっきい魔導画面はここにあるけど、足りん気がするんよね~★」
そんな中、満を持して進み出て大仰な素振りで肩を竦めてみせるはネルサ。そのわざとらしい背後にはネルサが大写しの巨大魔導画面。これはまるでMCのような、いやまさにそうなのだろう。
「あぁ…! そうねベーゼちゃん。アタシ達もネルっさんと同じ気持ちよ!」
「折角お客さんもアイドルも集まっているのだもの。もっと見て欲しいわね」
おお~! 流石は百戦錬磨のwaRos、すぐに気づき乗ってきた。そこに続くは。
「そうですねサラさん。あっちのお客さんにも、こっちの――えっ、えっ!?」
「あれ~!? オルエさん増えてるー!? あっちにもこっちにもいるー!?」
「最初の席にも普通におるし……これもサキュバスの幻惑魔法なん……?」
新進気鋭のTRYstar-Cinderellas。けど思わぬ出来事に少し怯んでしまった。あはは……きっとこれもベーゼ達の指示。あれはまだ訪れぬお客さん代わりに範囲をも示しているのだろう。さて、チャンスだよ。
「ハハッ☆ 確かにシレラ達が言うように、向こうの席ではよく見えないかもね」
「なら、どうしよ~。私達じゃ何もできないな~。どうすればいいんだろ~?」
「っえ、え!? あっ、そ、その……ベーゼ様、なんとか、できません、か?」
期待の新星たる我が妹達、L・B・Oがその隙を頂戴! 寧ろ拾われて胸を撫で下ろしているシレラちゃん達は一旦置いといて、よくぞそこまで繋いでくれたねベルちゃん。良いおねだり顔が画面に映ってる♪
「えっへっへ~んッ♪できるんだなーこれがー♥ ししょ~準備オッケー? いっくよー、むむむむっっ『バルーンのスクリーン、おっきく膨らめ~ッ!』」
その詠唱は、わわっ、おおおお~! スカートが捲りあがるほどに勢いよく全身を伸ばしたベーゼと共に、ライブ会場の至る所から湧き上がるのは風船達!
無から現れたそれらは、空へ上がる度にどんどんと膨らんでいく。顔サイズから人サイズに、人が数人は容易く入れてしまうほどのサイズに、更に更に……おや停止した。程よい高さで巨大なまま。となると。
「みんなー! せーのでポーズだ♪ せーのっ、えいっ♥」
急だね!? でも皆プロ、慌てながらも各々のキメポーズを。すると、ふふっ、やっぱり。その姿は数多の風船にそれぞれ映し出される! つまりはこれは。
「じゃじゃん♥風船型の、魔導画面だよ! 面白いでしょー♪」
うん、確かに! 青空の下、軽く目を上げれば見える大風船はライブ会場のライティングも相まり中々に映える。そして映し出されている私達も。風船型に歪むことなく、アイドルの美しさを存分に浮かび上がらせている!
「しかもあれ、お客さんの見たい人を一番近くに映す幻影なんだぁ♥思い浮かべてみて♪ ちょっと難しい魔法らしいんだけど、ししょーが頑張ってくれたんだ!」
わっ本当だ! 軽く意識を向ければ、あらゆる風船は全て社長を映し出した。逆に意識を逸らせば、ステージの全員が程よく。ベルちゃんは、リダさんオネカさんを中心に皆が見てるのかな。あわあわしながら鼻息荒くなっている。
……え。待って。ということは……数万人の各個の意識をそれぞれ読み取り、幻影風船へ別個投影できるということ? リアルタイムで、些少の誤差すら無く? ちょっと難しいじゃ済まないよこれ……流石は最強トリオが一角……。
「しかもね♥しかもね♪あの風船だけじゃないんだよ! 皆思わなかった? 演出物足りないな~って!」
まだ何かあるの? 演出が物足りない……うーん、確かに? 例えばネルサのコンサートダンジョンでは、密閉暗闇を利用し舞台装置によるレーザーグラフィックやスモークライティングといった派手な特殊演出を用いていた。
けれどこの会場は野外である以上、青空が燦然と輝いている以上、そんな照明効果はそれほど……あ。あ! 違う、ここ野外じゃない! ということは!
「あ~! アーちゃん、気づいたでしょー! しーっだよ、しーっ♥」
「ふふっ、勿体ぶっちゃって♪ でも、どうやるのかまではわからないよ?」
私もMCに混ざろう♪ベーゼったら楽しそうに『それはねそれはね~!』と右へ左へ行きつ戻りつのステップを。そしてわざとらしく悩むように手を組みながら。
「へっへっへ~♥アタシが説明しちゃうより、皆に歌ってもらお~!」
「はいは~いッ★ 一番、あーしが歌います★ 『サバサバ★Sabbath』★」
これも打ち合わせ通りなのだろう、満を持してネルサがステージ中央へ。彼女がかかりだすイントロに身を委ね、リズムを刻み空を指させば――おお~!
「のあっ!? そ、空に!? 空に、ネルっさんの魔法陣が!?」
「そこから夜が広がって……ビビットピンクの星空が広がって!?」
「カラフルキュート動物達も、魔法陣から、風船の影からにゃ!?」
皆ビックリ仰天! ふふふっ、私も予想は立てていたとはいえ、この圧巻具合にはベルちゃん並みに目を見張り輝かせてしまう。まさかここまで派手だとは!
抜けるような広大青空に突如として展開されたのは、ビビットな星形ハート形の魔法陣達。ライブ会場全体を包むように輝くそれらは青空を侵食するように、ビビットピンクの星空輝く夜空を齎す!
更にはネルサの召喚獣たる、カラフルでキュートな猫やカラス、フクロウやネズミ達があたかも風船の影に隠れていたかのように現れ空を駆ける! ポップな曲調に合わせ愛を振り撒きながら!
まさにネルサの持ち歌に合った演出。しかしこれほどの魔法、行使にはかなりの魔力と体力を消費することだろう。きっと歌って踊るのは辛いはず――なのに。
「うぇ~いッ★は~これこれ★これ~! あーしの歌のイメージ、ドンピシャ★」
彼女にその様子はない。元気一杯天衣無縫。眩しき夜に照らされ汗も滲まず、ダンス捌きに違和はない。寧ろ理想の演出を受け、テンションは類を見ないぐらい!
そんなネルサを殊更に盛り上げるかの如く、歌が進む度に黒空は踊り夜宴の炎は辺りに煌めく。あり得ぬブライトピンクの星々は一層輝き流れ、架かりだす虹と共に獣は手を取り合い召喚を行う。
なにを? そう、ミャルミャルちゃんを! 星座と軌跡の魔法陣より現れたその宝箱を中心に、集った皆の輪描く舞いと共に、歌はクライマックスへと至り――!
「んじゃんッッ★ ふっっひゃ~~あ★やっっっば★マジオルエさんエグヤバ★」
最後のキメポーズを称えつつ、その全ては消えゆく。夜空は青空へと塗り替えられ、召喚獣達は魔法陣やネルサ映す風船影へと消え、あるゆるものが元通り。これでもうわかったでしょう?
そう、あれらは全て幻影。会場入りの際の目まぐるしく変わる空模様の応用であろう。歌い手の心を用い、本人が形にしきれない歌への想いすらをも――おや?
「あの時みたい……ネルサ様が…ネルっさんが……私達を……!」
ベルちゃんが。あぁ、そういえばベルちゃんから聞いた回顧談でもネルサはド派手に。きっとそれも、彼女が恥を忍んで…いや恥と引き換えに?オルエさんから学んだ幻影魔法だったのだろう。そうだ、ベルちゃんなら!
「やっぱネーちゃんの歌、つい踊っちゃうよー♥ さー、お次はだぁれかなー♪ いないならアタシが」
「はい! 私が、ううん『M&A』と『L・B・O』が『箱から飛び出た宝物』を!」
「ふぇっ!?!?!?」
ベルちゃんが素っ頓狂な声を出したけど、逃がさないよ♪ ほら、社長もリダさんオネカさんも乗り気だもん! まだ皆この幻影演出を理解できていないだし、ベルちゃんの表現力で驚かせちゃおう♪
「まっ、待っ!? わ、私、どうしたらいいか……!」
「曲のイメージを思い浮かべるのよ。今日はこんな中で歌いたい、こんな素敵空間で踊りたい。あるいはこの曲にどんな宝物を抱いているのか。妄想しながら飛び出しましょう☆」
社長の言う通り。ベルちゃんなら出来るよ。手を繋いで、一緒に。ステージ中央で、せーのでっ、わあ!
「ひゃ~! お空におっきいミャルミャルちゃん! 宝箱振り撒いてる~!」
「落ちて……!来ないわね。ふわふわと、風船みたいに浮いて。可愛い♪」
「ありゃ、全部パカパカって開いて、キラキラの風船が飛び出したあ!?」
風船スクリーン越しに見える! 私達のクォータードームステージの背後に、虹を集め象られたのは超巨大ミャルミャルちゃん! 彼女が口を開けば、その中より放たれるは大量の宝箱!
しかしそれは落下せず、ステージを青空を囲むようにふわふわ。するとその全てが一斉に開き、中から宝物のように輝く風船を! 更にその風船達が集まり、ポポポンとリズムにシンクロするように破裂すれば!
「おおー! なにこれ何これ~♥楽しそーな、思い出?いっぱい! あ、あれ! 数日前のミミックパビリオンのだ!」
「あーしがべるるん達の追っかけしてたあの日のも★ M&AとL・B・Oのデビューライブのもあんじゃ~ん★」
それらは蒼空に映える虹雲となり、宝物たる思い出を色濃く映す! どうベルちゃん、妄想通り? ふふっ、良かった! どうやら複数人による妄想でも、幻影は都合よくMIXしてくれるらしい。さすオルエ!
あの日あの音あの香り、あの味あの時の手応えを皆に伝えるように鮮明に。急いで立って追いかけたくなるぐらいに鮮烈に。数多の宝物は空を埋め尽くし、その最中をミャルミャルちゃんへ変じた宝箱達がコトコト語るように跳ね泳ぐ。
その様はまさに、ひとつひとつに触れる度に仕舞い込んでた想いが溢れるよう。楽しくて、温かくて、漲ってきて、昂ってきて、そう、このまま、そのまま――!
「「「「「そのまま真っ直ぐ♪飛び出してゆっけ!♪♪♪♪」」」」」
歌の締めに、宝物は私達を反射に写す煌めきの宝石へ。ミャルミャルちゃん達がそれに乗っかり尾を振り踊る中、巨大ミャクミャクちゃんが虹の軌跡を描き跳び、その全てをパクパクと。
そうして箱一杯になった宝物を客席へ私達に魅せ、彼女はるんるんるーんと他会場の方面に飛んで行った。多分私のアイデアが強めに出てるけど……良かった、ベルちゃん達も愉快そうに手を振って見送ってる!
「へぇ、そういうこと! アタシ達の心読んで、幻影に反映してくれんのね!」
「……言うのは簡単だけど、なんて魔法。あの方、どれほどの腕を……」
皆も仕組みを理解したみたい。サラを始めとした魔法に覚えがある面々は若干畏怖を覚えているけれど。気にしなくていいと思う。本人そういうの一番嫌がるだろうし、そんな怯えを見せていると。
「あら♡その熱ぼったい瞳♡私がどんなテ♡ク♡を使えるか気になるのかしらあ♡ うふふ♡な♡ら♡誰もいない裏で♡じぃっくり、あぁんっ♡」
「大人しく観客役やってなさいな! 満席にしときなさい!」
隙を突くようにサラに絡みつこうとするオルエさんを、社長が未然にキャッチ&放り投げてのリターン。席へとふわり着席した彼女は、笑いながら指をパチリ。直後溢れるは、数万の観客幻影!
「そだった、それ忘れちゃってた! ありがと社長、ししょー! これでリハーサルも本番さながらだー♥」
そっか外で予行の幻影を出していたのだもの、こういうことも出来るよね。でも今で良かったかも。まだベルちゃん慣れきってなかったみたいだし、ん? ベルちゃんどうしたの?
「あ……え、えと……! その……さっきの演出、とってもとっても思い出深くて、胸がじわあって沁みるような燃えるような理想を形にしたような心だったんですけど……本番じゃやっちゃ駄目…ですよね……? あ、いえ!? 決してアストさんやミミンさんを――!」
ふふっ、落ち着いて。言いたいことはわかるよ。そして、確かにその通りかも。きっと観客幻影を、しっかりと『博覧会を見に来たお客さん』が反映された幻影を見て、気づいたのだろう。さすベル♪
今私達が飛び出させた宝物は、ほとんどが私達個人の思い出。ファンであれば垂涎ものではあろうけれど、来るお客さんは必ずしもそうであるとは限らない。いいや、ファンでない方々のほうが多いだろう。
なのに催しと関係ない独りよがりな追憶を見せてしまえば意味不明。フェスティバルを楽しみに来ている方々に微妙な印象を持たせてしまう。演出の大枠はともかく、その辺りは変えなければ。でも、どうしたら。
「そんな心配しなくていいわよ。この後リハ終わり次第、ベーゼちゃんがダンジョンを案内してくれるんでしょ?」
「ボクもそう聞いてるよ! そっか社長、名案ですね! その時に」
「飛び出す宝物のような~♪ 思い出を作ればきっと~♪」
成程! このフェスティバルーんダンジョンで、宝物を作れば。それを来てくれたお客さんに魅せ、ミャルミャルちゃんに託し飛ばせば! きっと皆、私を置いて何処行くのと追いかけるに違いない♪
「なになにー? この後の話ー? えへへ、楽しみにしててね~♪この空の幻影、たーっぷり活かしたお祭りにするんだもん♥」
それはどういうベーゼ……いや、ふふっ♪ 敢えて聞かないでおこう。この後の宝物を存分に楽しむために♪ けどその前に、やることをやらないとね!
「さーさー次は誰が歌うー? アタシでも良いけど、オオトリがいいなあ」
「……んじゃ、アタシ達waRosが歌うわ。『Swordy Hearty,Bravely』を」
お! リアとサラが! これは楽しみ! ベルちゃんも胸高鳴らせているし、急いでステージを開けよう。さあ二人共、あの名曲を。
「でも曲かけんのは待って。悪いわね。ベーゼちゃん、聞きたいことがあんの」
へ? どうしたのリア、サラ。なんだか雰囲気が重いというか、申し訳なさそうというか。ベーゼもぽかんとしてるし。
「どしたん? あーしも話聞こか★ なんか言いづらいこと?」
「まあ、そうね。でもアタシ達じゃないわ。情勢、というか……」
情勢? アイドルの皆が見守る中、リアとサラは意を決したように。
「今、アタシ達がここで歌って良いものなの? 世間じゃ――少なくともアタシ達人間族の間では、魔物排斥主義が興り始めているのよ?」
「例の、勇者一行の『活躍』が影響してしまって、ね。冒険者達も盛んにダンジョン攻略に赴いているわ。きっと、ここを訪れるお客さんにも」
それは……。そういう動きが盛んになってきているのは私も知っている。勇者一行が活躍すればするほど人間族は『魔物なぞ取るに足らない』と考え、駆逐に動いているのだ。
今はまだ起こりであり、一部の冒険者達が暴走している程度だが、この先勇者一行が魔王城へ到達すればどうなるか。その時までにこの流れが変わらなければどうなるか。想像に難くないだろう。
事実、軍総帥バエル家であるルーファエルデは迫る勇者対策のため、王秘書アドメラレク家であるメマリアはそのイデオロギー対処のため奔走している。それを理由にグリモワルス女子によるアイドルユニットは計画段階で凍結中なのだ。
リアとサラは元冒険者。曲もそれを想起させるものが多い。人魔入り混じる来訪者の山の中、下手に歌えば火をつけかねない。そう考えての相談なのだろう。祭りのことまで気を遣ってくれる様は実に心優しい。けれど、ふふふっ。
「もしこの祭りを貶める可能性が欠片でもあるのなら、アタシ達は――」
「絶対、そんなことは無いっ♪ アタシが自信をもって保証するよー!」
ベーゼが折れるとでも? 魔王配下の皆がその程度予測できないとでも? ふふ、私達は強大だよ?
「アタシもそんな話、聞いてるんだ。でも、だからこそでしょー♥格好いい二人の歌を聞いたら、人間も魔物も間違いなくメロメロになること請け合いだよ!」
「その実例がここにいるよ。ねー、ベルちゃん♪」
「はいっ! どんな方にも響かせ、魂を震わせてくださるのがwaRosです!」
私達が名乗り出れば、他のアイドルの子達もそうだそうだと! だから二人共、そう心配しないで。
「安心して! 武器とか持ち込もうとする危険な人は端から転移ゲートを潜れないようになっているもん。安全管理は催事の基本だよー♥心配ありがと♪ちゅっ♥」
「にひひ★歌詞もこういうのには配慮してるし★安心して歌って踊って~ぇい★ ミュージック、スタート★」
ベーゼが親愛のキスを贈り、ネルサが指を一つ鳴らせばあの魂震え勇気を掲げたくなる勇ましき音楽が。二人は自らの熱くなった頬をひと撫で、注がれた心意気を煎じ呑むように唇に塗り、いざ!
「――ついていくわ。だから、ついてきなさいよ!」
「私達の勇気の証、存分に♪ 掲げてみせましょう!」
ふふっ、ふふふっ! それでこそwaRos! ステージを幻の巨剣で貫き、未踏未知を相手取るように、怖気ずシャウトで握り直す様は――燃え立つように剣を心を勇気を掲げる様は、勇者よりも勇者であろう!
彼女達のボルテージに乗せられ、他の子達も次々に自分の曲を歌いだす。皆思うが儘に大空をステージを観客席を彩り、今この空間の支配者となる! フェスティバルを最高に飾る歌唱の〆は、満を持しての!
「最後はアタシ~♪ 『JamboreeなまでにHungry』っ♡」
ダンジョン主たるベーゼ! 彼女の曲を生で聞くのは初めてだが……おおおっ~! なんとも可愛く、なんともロック! 実に彼女らしい!
そして演出もまた、彼女らしい。分身達と歌いながら闘うとは! 花火に染まる大空の下、風船スクリーンの上にスタンッと現れたのは、赤や青、黄色や緑、橙や藍や紫に染まり不敵な笑み浮かべる彼女の分身。
少々過激なまでにスカート揺らし踊っていたベーゼの手招きに応じ、それらはさながら集会に招かれるように一斉にステージへ襲来。そして、スパーリングするように共に踊るように、本体を綾なさんと武踊に舞う!
その軌跡、さながら虹の如く。その只中で、最早スカートが意味をなさぬほどに跳ね、回り、蹴り合い、ハートの結び髪とリボンを可憐に揺らし、天真爛漫我にありと歌いしきるベーゼは、まさしく催事の長であろう!
そのネルサとは違うド派手ぶりに、この場の誰もついていけないほどに激しい戦闘ダンスに皆手拍子すら忘れ見惚れている。オオトリに相応しい一曲だが、やはりそのフィナーレとなるのは!
「こればっかりは本物使わんとね~★ ほいあっすん★ やったれ~★」
でた、シンバル! 私がやっていいの? やった! ベーゼのこの曲は、この魔法で繋いだシンバルを蹴り鳴らす轟音を以て〆となるのだ。
既に曲はアウトロの盛り上がり。昂るベーゼのひと蹴りごとの絡み合いと共に、分身達は吸収されるかのように光となり集う。彼女の足は虹に染まり、あれできっと! せーのっ、今っ!
「ウ~っ♪ JamboreeなまでにHungryッッッ!!!♪」
っひゃああぁッ!♪ 身を弾け飛ばさんばかりに貫く、衝撃と轟音! そうそう、これでこそベーゼのフィニッシュ! 蹴り飛ばされたシンバルは彼女の足に宿っていた虹に乗るように、高く高く――あっ。
「あっ。やっっっばあッ!?」
「「「「「ぴゃああああああっっっ!?」」」」」
ベルちゃんを始めとした皆の悲鳴と共に、場をつんざくは……衝撃と轟音。虹に乗ったシンバルが、大空を貫き弾け飛ばし、盛大な風穴を開けた音。大空の奥に見える真なる大空へ飛んでいく音。あっちゃー……。
「や、やっちゃったああ!? 会場に、穴開けちゃったあ!?」
そうだった。ベーゼのシンバルキック、普通でも天井に届くぐらいの威力なんだった。それを今日のテンション爆上げ状態でやれば、幾ら空間魔法をかけた会場とはいえ、幻影すらをもぶち破って、あーあー……。
「な、直して貰わなきゃ!! ううんそれよりもシンバルがどっか落ちて! ちょ、ちょっと待っててね! だ、誰かあ!」
流石のベーゼもこのやらかしには狼狽せざるを得ないのだろう。慌てふためき、ステージから跳び、わざわざ開けた穴から外へ、って、あれ!?
「むぎゅむひゅっ!?」
「はぁい♡ 呼んだかしらあ♡ 元気で♡ビンビン♡なベーゼちゃん♡」
「そう焦らなくていいわよ。後始末はつけてきたわ」
風船スクリーンが映し出してくれたのは、穴から出ようとするベーゼを胸でぽよんと捕まえたオルエさんと、それを箱に仕舞う社長!? うわステージにいないし、いつの間に!
「あ、あひょひまひゅ? んむむぷはっ、ししょー、社長、どういうこと?」
「耐久性の確認という誘惑をぉ♡皆の耳にふぅっと♡吹き込んできたわあ♡」
「はいシンバル。空中でキャッチしたから何処も誰も傷ついてないわよ」
……本当に、いつの間に。この結末が予測できたのだろうけど、にしてもである。ともかく修復はすぐに行われるだろうし、シンバルによる被害はない。万事問題なしと安堵の息つくところだが。
「うぅうー……。どうしようぅうう…………」
社長の箱に詰めこまれ、オルエさんの胸下に収められ撫でられながら戻ってきたベーゼは浮かぬ顔。そんな沈みこまなくても、解決したようなトラブルなんだし。
「いいえアスト。解決はしてないわ。ベーゼちゃん自慢のシンバルキック、このままだと安全上出来ないわよ」
「ベーゼちゃんはあ♡私の幻影じゃマ♡ン♡ゾ♡ク♡できないのよねえ♡」
「うん……ししょーの幻影は本物と遜色ないけど、蹴り心地とか音とかインパクトとかあるから、これだけは本物使いたいんだあ……」
そっか。確かにこのまま続行は出来まい。天井すら貫く危険のある蹴りを万来の会場で放てば、必ずや怪我人が出てしまう。幻影ならばそれも解決だけど、まず間違いなく触れ心地は皆無になる。
最高の演出のためには是非とも本物を使いたい。しかし初の催事責任者とあって昂っているベーゼは、曲の高揚も相まり、常に確実に力一杯蹴ってしまうだろう。あちらが通ればこちらが通らず。なんとも難しい問題である。
「うぅん……安全が第一だよね……。諦めて幻影にするしかないかなあ……」
しょんぼりする彼女に、ネルサですら声をかけられず、オルエさんですら撫でてあげるだけ。私も何もアイデアは……いや……。でも……うぅん……。
「ならウチの子達使う? シンバルなら隙間に入れるわよ!」
うわっ社長言っちゃった!? 私もちょっと考えましたけど、でもそれはあまりにも危険な……あぁでも。
「魔王軍の手練れ魔法使い、揃ってるもの。衝撃も轟音も凌げるわよ!」
そうかもしれない。絶好のチャンスかもしれない。社に置いてあるミミックキャノンで遊んでいる子達なら良いアトラクション扱いしてくれるかもしれない。
どうせ回数は一日多くても二、三回。開催期間の間のみだろうし、割とありかも。となると、次に解決すべきイシューは。
「どう受け止めるか、ですね。勢いこそ殺せるものの、落下しては危険ですから」
「わわ…っ★ あっすんが仕事人の顔に★」
「シュッと締まったわね。フフッ、相変わらず」
「アスト様格好いい……!」
聞こえてるのだけど? コホン。ムズかゆい視線をなるべく気にしないようにし、頭を捻る。虹のシンバルロードを美しく描くためには天井にぶつかる直前まで豪速を緩めてはならない。しかしそれでは手練れのミミックでも着地は難しい。
となれば、天井に回収役のミミックを配置するのが望ましいところ。どこに蹴っても追えるような。ベーゼのコントロール力は問題ないけれど、そうすれば何処にだって蹴れるだろうし。うーん……あ。
「折角ですし、風船使いましょうか! 勿論偽物の、幻影で覆った風船ですけれど。浮遊魔法や操縦魔法があればきっと上手く機能します」
「良いわね! オルエやれるわね。ベーゼちゃん、どう? これなら、あらっ♪」
「っっっっっ最高だよぉっっ!! ありがとおっ社長、アーちゃんんんっ!!!」
わわっ。ベーゼったら、頭に乗ったオルエさんの胸を、オルエさんの顔にぶつかる勢いで跳ね上げ飛び出してきた。もう、そんなに感動しなくてもわぷうっ!?
「ちゅ~~~!! 大好きが止まらないよお! むちゅちゅちゅちゅ~~♥♥♥」
待っ、ベーゼ、待ぁっ! 熱烈、熱烈すぎるからぁ!? 私と社長、交互に、そんな濃厚なのをっ! す、ストップ、皆見てるからぁ!
とうとう全員手で顔覆いだしたし、オルエさんも『流石私の弟子♡』みたいな顔してるからあ!?