ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 とあるゲテモノ公女と万福①

 

 

「でーすーかーらぁっ! 謝罪を! お謝罪をなさいまし! その愚なる頭を地へ擦り付けぬ儘、この場を後に出来るとお思いですの!?」

 

 

 はあっ全く。なんて催事に、なんて兇賊が現れるものでございましょう。このような狼藉、わたくし許せませんの! よもや眼前でこらそこ! 逃げるのは許しませんの。爺や!

 

 

 ふんっ! 武具の持ち込みさえ許可がなされていれば今すぐに爺やが仕留めて差し上げるものを! えぇ、公爵令嬢であるわたくしでさえ、お付きの者にすら武具の携帯を許されない。あぁ…なんて。おほほ、なんて。

 

 

 なんて行き渡った、平等なる催事でございましょう! 流石はあの御方の催じる魔王万博……いいえ、魔王万福(まんぷく)! 魔王に与せぬわたくしとて、この壮麗さには深く感銘を抱きますの……じゅる……。

 

 

 ンンッコッホン! つい垂涎をば。はあ、思い返してもなんと絢爛か。転移陣を潜り着けば、そこは巨大なるバルーンを望む見晴らし良き山。繋がる虹の道を内部清澄なる馬車に乗り走れば、バルーンより出でしは魔物の方々。

 

 

 エルフが弓を引いてみせ、ドワーフが槌を振るってみせ、魔族がハーピーと空を駆け、ゴブリンが多重なる肩車にて踊る。夢幻と見紛う歓待は、大写しとなる千客万来の会場様相と共に。

 

 

 そしてバルーンの扉を潜れば、目まぐるしく変わるは空模様でしたの! よもや愉楽で時が過ぎたと勘違う煌めきは、魔王の顕現と共に高揚へと変わり、可憐な宝箱と共にこの地へ足を。そうしましたら、嗚呼!

 

 

 なんて、なんて鼻腔くすぐるこの芳醇なる香り! 甘味、酸味、塩味、旨味、苦味、辛味――止まらぬ濁流のように、されど支流絡み合う清河のように! わたくし、一瞬にて虜になってしまいましたの!

 

 

 この催事の話を教えていただきましてから、一日千秋の思いで開催を待っておりましたが……その甲斐は実に、実にありましたの! うふふ、実はわたくし、結構な健啖家でございまして。尤も世間一般では。

 

 

「……けっ、噂通りの『ゲテモノ公女』が。貴族なら貴族らしく籠ってろよ」

「……チビの癖に。甲高い声で喚きやがって」

「おいおい、このお嬢様ならこの祭りに来るのは当然だろ?ってな」

 

 

 まあ! このわたくし『ヴィザレーヌ・フォン・グーララーサ』にそのような態度、何処の領民で? 正式なる書簡にて罪に問いましょうか? フン、背丈が小さいからって舐めないでくださいまし。見下すような視線には敏感ですの!

 

 

 そも! いけしゃあしゃあと! 見た目からして冒険者が一味でございましょうが、兇賊はやはり兇賊。貴方がた、何をしたとお思いですの!

 

 

「こちらの屋台、ハーピーの茹で卵! そちらの品に唾を吐きかけるなぞ、重罪に値しますの!」

 

 

 芳醇な香りの大元が一つ、立ち並ぶ屋台群。空風屋台通り、と号されておりましたこの地が一角。ハーピーが営む屋台にて美味しそうに並ぶ殻付き茹で卵。それに唾棄するなぞ、言語道断ですの!!!!

 

 

 寄りにもよって、わたくしの好物に……! いえ屋台の販売物を体液で汚した時点で当然の如く許されざる悪行なのですが。折角好物を見つけ、いざ実食と鼻歌交え近づいたわたくしの目の前で、あのような、うぅう、あのようなァ!

 

 

「例え官憲が許そうが、わたくしが許しませんの! 彼女達へ頭を下げ、代金含めた賠償の金銭を納めぬ限り解放なぞ致しませんの!! これでもわたくし、多少武の心得がございますの!」

 

「そうよそうよ! 私達が丹精込めて産んだ卵よ!」

「滋養満点なのに、食べもせず吐き捨てるなんて。酷い人間」

 

 

 わたくしが構えれば、屋台のハーピーも翼広げ爪を鳴らし戦闘態勢に。兇賊は反射的に腰や懐へ手を差し込みますが、得物を置いてきたことに気づき、まあ! 今度は地面へ唾を吐き捨てて!

 

 

「誰が食うかよこんなもの! 精々がポーションの材料だろ!」

「気持ち悪いんだよ! ほぼ人の魔物の卵なんてよ! ババアの卵なんてよ!」

「中にハーピーのガキが居たらどうすんだ! うええ想像しちまったぜ!」

 

 

 周囲へ喧伝するように、大声で! なんてことを! 貴方がた、本当に!

 

 

「酷い! そんなの判別できるに決まってるじゃない! 全部無精卵よ!」

「産む子も…生産者も選別しているし、魔法で確認もしているのだけど」

 

 

 ハーピーの方々も必死に抗議を致しておりますの! ならばわたくしも、えぇと、コホン!

 

 

「仮にそうでなくても、わたくしは命を丁重に頂き、この身の糧といたしますの。バロットのようなものでございましょうし、珍味やもしれませんの」

 

 

 あれはまさしく珍味。味と舌ざわりに濃厚さが増した、血管の見える黄身。殻の内に満ちる鳥の汁はエキスを煮詰めたスープの如し。柔らかき骨と羽はアクセントとなり、まろびでる肝は味が実に……あ、あら?

 

 

「……お嬢様、それは如何なものかと」

 

「……やっぱこいつ」

「噂通りのゲテモノ令嬢じゃねえか……」

「うええ……想像しちまった」

 

「バロットって……孵化直前の鳥の……だよね? ってことは…うわっ」

「えぇと……私等を守ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと……」

 

 

 爺やの諫言に周りを見渡せば、あの兇賊はおろか、ハーピーまで顔を引き攣らせたご様子に。な、なんですの! 美味しいのですよバロット! それに無論、ハーピーのバロットに興味は…………コホン。

 

 

「ともあれ!!! 謝罪を! 陳謝を!!! 同じ人間族として、同族の愚行は許せませんの!」

 

 

 改めて構えなおしましょう! わたくしの嗜好はどうであれ、愚行は愚行! 権威を以て従わせることが出来ぬのは実に無念でございますが、催事警備の者が来る前に、なんとしても地面に吐いた唾を、当人の顔を以て!

 

 

「チッ……! 警護一人の癖に、舐めてんのかこのお嬢サマは」

「殴ってやりてえが、後々訴えられても面倒だな」

「屋台でも蹴って、混乱の隙に逃げるか。人混みまみれだしよ」

 

 

 っんま!? 聞こえておりますの! そのような真似、絶対にさせませんの! 貴方がたのような悪漢には、必ずや裁きが舞い降りて――!

 

 

「――ど~んっ♪ アタシが来た~ッ♥」

 

「「「うおおおっ!?」」」

 

 

 ままま、舞い降りましたわああっ!? 空より勢い素晴らしく着地なされた者が、ってそのお姿は!? その魔族装束、ハートの結び髪、角と翼を揺らし、尾を振るう貴女様は!

 

 

「トラブル、はっけ~ん! あ~っっ!!! やっぱりヴィーちゃんだー! ようこそ~♪うぃ~うぃ~♥♥♥」

 

 

 きゃあっ! べ、ベーゼ様ぁ、そう頬ずりをなさらないでくださいましぃ! うふふ、とっても温かくて……♪ コホン! そ、そうじゃありませんの!

 

 

「お、おい…! 今空から跳んできたこいつ…!」

「あの顔、あの姿、あの服…!」

「ようこそって、もしかして……!」

 

 

「その通りですの! 控えなさい皆の者、この御方をどなたと心得ますの! 畏れ多くも、かの魔界大公爵グリモワルスが一柱、このフェスティバルーんダンジョンの此度の主にして魔王万福の支配者! 催事長エスモデウス家が御令嬢『ベーゼ・グリモワルス・エスモデウス』に――」

 

「え~控えなくていいよー。だって控えちゃったらご飯食べられないじゃん!」

 

 

 っそ、そのような……いえ、その通りですの。皆の者、とは少々出過ぎた真似でございました。ですが!

 

 

「貴方がたは平伏なさいまし! 愚行を恥じ、断罪を頂戴するのですの!」

 

「この人達がトラブルの元? 何したの~?」

 

 

 一切首を垂れる気も無い兇賊達を見張りながら、全てを詳らかに致しますの。ハーピーが集客がために声を張っている目の前で、白昼堂々あの三名が並べられたアツアツ茹で卵の上に唾を吐いたことを。

 

 

 その瞬間を目撃したわたくしは爺やと共に彼等を封じ止め、罪を雪ぐよう促しておりましたことを! このような真似、絶対に!

 

 

「ひっっどお~! すっごく美味しいのに。ほら、お金払って食べてみてよ!」

 

 

 ベーゼ様もお怒りですわ! 唾の吐きかけられたゆで卵を全て手に取り抱え、殻を剥いて、若干の困惑を見せる兇賊達に迫り!

 

 

「唾ついたところは剥いたよ~! あ~ん」

 

 

 まあ! 羨ましいですの。御身自ら、手ずからお口になんて。わたくしも――。

 

 

「ッ要るかァ! キメエんだよ魔族のガキ風情が!」

 

「きゃっ!」

 

 

 な、なんてことを!? ベーゼ様のお手を、兇賊が弾いて! 抓まれていた卵が弾かれ宙を舞って! なんて勿体ない、いえ無礼千万な行為を、ってああ!?

 

 

「逃げるぞ!」

「「おうっ!」」

 

 

 あの兇賊連中、皆の視線が宙舞う卵へ注がれている間に、逃走を! 爺や、何しておりますの! お早く――。

 

 

「ひゅひょ~ふ! もぐ、んぐ、ごくん! ストップ、逃げちゃダメだよ! 代金まだなのに。こんな美味しい卵なのに!」

 

「「「んなっ!?」」」

 

 

 べ、ベーゼ様!? いつの間に、逃げる兇賊共の前に!? しかも残る卵を変わらず抱えてお口をもぐもぐさせているご様子。もしや吹き飛ばされたゆで卵を口で受け止め、その足であの場まで!? なんという健脚、健啖……!

 

 

「もうアタシも怒ったよ! 食べてなきゃ帰さないからね~! ほら、あー」

 

「ッう、うるせえクソガキ、んなサキュバスみてえな露出しやがって! その胸ごと、骨を叩き折って!」

 

 

 なっ!? 兇賊の一人が、殴りかかって! でもベーゼ様は卵で腕が、あ、危な――っ!

 

 

「きゃんっ♥」

 

「……!? やわっ……えっ、弾かれ……!?」

 

「も~痛いよ~? あ、違うや。ししょー曰く、こんなことされたときには~♪ 『きゃ~! えっち~♥♥♥』」

 

「ふぎゅごぼおっっッッ!?!!?!!?」

 

 

 え。えぇえぇえ!? 殴られたベーゼ様の身体は、一切揺らぐことなく。それどころから胸でぽよんとお弾きになった兇賊を、勢いよくお蹴り上げに!!?

 

 

 打ち上げられた彼は、素っ頓狂な悲鳴を上げながら空高く、高く。青空に、色とりどりの風船に映えるように。そうして、落ちてきた、兇賊は――

 

 

「シャウッ!」

 

「ミャルミャルちゃん、ナイスキャッチ~♪ あとよろしくね~♥ あ、その人お財布持ってる?」

 

 

 あの入場時に目にした、宝箱のキャラクターの中へすっぽり消えてしまいました…の……。ミミック……なのでございましょうか? その宝箱は蓋を閉じもごもごさせた後、兇賊の財布をポンッと吐き出しましたの。

 

 

 それを尾で器用に受け取り、卵の代金分を取り出したベーゼ様は再度財布を宝箱へ。更に卵の一つを仕舞い……差し上げて?から見送りましたの。あれは、その。

 

 

「後で復活センターに迎えに行ってあげてね! それとも、一緒がい~い?」

 

 

 残った兇賊二人へかけている言葉から、そういうことなのでしょう。あまりの実力差に恐れをなし首を横に縦に振り回す彼等へ、ベーゼ様は。

 

 

「はい、あ~ん♥ 何を食べるかは自由だけど、食わず嫌いは駄目だよ? 悪いことをしたんだもんね」

 

 

 再度茹で卵を食べさせようと。流石に逃げる気力も失い、諦観に包まれたのでしょう。大人しく、されど渋々、あからさまな怯えと躊躇いを浮かべつつ、残る兇賊達はハーピーのゆで卵を口に。

 

 

「「……っ美味あ!?」」

 

「へへ~♥でしょでしょ~! 鶏の卵よりも濃厚で、滋養に溢れているでしょ! でもぎゅううって栄養が詰まっているのにしつこくなくて、柔らかくて、パサパサもしてない。ん~♥これ、茹で加減もバツグンだよぉ♥」

 

 

 驚愕の声をあげる二人へ満足そうに笑い、もう一つ食べて頬を蕩けさせるベーゼ様。じゅるり……あのハーピーの店主様、わたくしにも一つ、いいえ五つくださいまし。あちあちほふふ、んん~~♪ やはり最高ですわぁ♡♡♡

 

 

「ごく……こっちにもくれないか?」

「私達にも! 十個頂戴!」

「しまった乗り遅れた! もうこんな列が!」

 

「はい立って、はいまずは謝ろ~♪ そして残りのお金も払って、よしよしい~こい~こ♥ んじゃはい、これお土産。食べちゃったあの人にもあげてね~……も一個だけ貰っていい? やった♪美味し♥」

 

 

 気づけば屋台には列が伸び、兇賊達は牙抜け一介の客へと落ち着いて。吐き捨てられた汚れも、仕込まれた浄化魔法で既に跡形もなく。

 

 

 おほほ、なんという手腕でございましょう! なんて素晴らしい万なる福を呼び込むのでしょう、あの御方は♪

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィ~ちゃ~んっ♪♪♪ 招待したセレモニー以外にも来てくれてありがと♥ んちゅ~~♥♥♥」

 

「きゃっ♪ ベーゼ様、少々お恥ずかしゅうございますの…! えぇなにせ、わたくしですもの!」

 

 

 ベーゼ様と頬同士をぴたりすりり付き合わせ、キスまで頂いて。幸甚の至りですの! 仄かに香るゆで卵がたまりませんの♪ もっと味わいとうございますの♪

 

 

 しかし、このハーピーの卵を見ると思い出しますの。わたくしとベーゼ様との馴れ初めを。あれは、わたくしがゲテモノ公女の名を遺憾なく発揮している頃でしたの。今もでございましょうが。

 

 

 人間界ではおよそ手に入らぬ、あるいはポーションや武具の材料がため鮮度度外視の品しか大して出回らぬ、ハーピーの卵。その新鮮なる美味を知ったわたくしは、爺やをハーピー棲まうダンジョンへと遣わせたのでございます。が。

 

 

「叶うことなら二度と、赴きたくはございませぬな……」

 

 

 手の茹で卵を見つめしみじみ呟いている通り、冒険者ではない彼には苦労をさせたようで。ある日復活魔法陣からの帰宅と共にあの調子となってしまいましたの。それでもわたくし無理を頼んでおりましたが。

 

 

「むぐむぐ、も~。ひゃまなんへ、ごくん、様なんて要らないのにぃ。公務とかならともかく、今はお忍びでしょー?」

 

「まあ。それを仰るのであれば御身こそ公務の最中では? うふふ♪冗談ですわ。どうかお許しを、そちらの方が慣れておりますし大恩ありき貴女様ですもの♪」

 

「大袈裟だよお。アタシ、美味しい食材売ってる市場、教えただけだよー?」

 

 

 それが大恩と言わず、なんと申しましょう! 食べたい物を食べられず、懊悩の狭間にいた私と偶然に出会ったベーゼ様は、ハーピーの卵を容易く仕入れられる魔界の市場を御紹介してくださったのですの!

 

 

 いいえハーピーの卵だけではございませんの。トレントやマンイーターの果実、バロメッツ、ビホルダーの目玉、クラーケンの触腕、ピッグフライの翼、大サソリの、河豚クジラの――!

 

 

 わたくしの傍の者は一様に眉を顰めますの、『そのようなゲテモノ』と。されど、視野の狭いこと狭いこと。魔界ではどれも日常的に食べられている代物、何がゲテモノでありましょうか!

 

 

 ですからわたくし、ゲテモノ公女と渾名されようが一向に構いませんの。自らの知らぬモノ、遠きモノをゲテモノと断じる『古風』な皆様の方がよっぽど下手な――!

 

 

「あ~ん♥ えいっ♪」

「もぐぅっ!?」

 

 

 く、口の中いっぱいに旨味が広がってっぇ!? こ、これは!? これは!

 

 

「グルマンバードの、燻風焼きですの! 味付けの雲塩が、また肉のコクを…!」

「せいか~い! 美味しいよねぇこれー♥」

 

 

 一口わたくしにくださるなんて、なんと寛大な……! あぁでもわたくし、今ので火がついてしまいましたの。爺や、二つ、いいえ三つ購入してきてくださいまし! この鳥ならば貴方も堪能できましょう?

 

 

 あぁ、やはりもっと人を連れ立ってくるべきだったかもしれませんの。わたくし自ら並んだとて、手は二つ。爺やと合わせ四つ。あちらこちらも一遍に買い揃えることは、いいえ。お忍び、ですもの。

 

 

 本日は公務でも招待でもない、遊楽での訪問。であればまたぞろ人を引き連れてしまえば皆々様の迷惑となりましょう。不便ではありますが、これもまた一興。

 

 

 それに、うふふっ♪そのおかげでベーゼ様が駆けつけてくださったのですもの! 仮に兵を控えさせていれば、先のような蛮行は立ちどころに。そうなれば、こうして同胞たる彼女とこうもすぐに出会うことは。

 

 

「むぐむぐ♪ ねへねへヴィーひゃん♪ひょれ…んごく、どれ食べる~? いぃっぱい買ってきちゃった♥」

 

 

 って、んまあ!? ベーゼ様いつの間に、お顔が隠れるほどの山盛り屋台料理をお抱えになっておりましたの!? ずっと横に居られたはずですのに、あぁ分身魔法を駆使なされたので。お見事ですの!

 

 

 ……やはり遣いが少ないのは不便ですの。爺や、戻って来て早々問いますが、分身魔法は使えて? そう、残念ですの。なんとか習得なさい。命令ですの。

 

 

 

 

「――んまんま♥ 空風屋台通り、今日も制覇♪全部美味ぁ~♪」

 

 

 暫しベーゼ様と舌鼓を打てば、あれだけあった串も卵も雲飴も殻揚げも、フェニックスの炎炙り焼きも巣の煮込みも、フェアリーの鱗粉アイスも、コカトリスの鶏蛇盛り合わせ石毒ソースがけも、シルフィード風トルネードポテトも、プレイグバッタの炒め物も。

 

 

 いつの間にか、全てわたくし達のお腹の中。これほど堪能すればわたくしとてお腹はまずまず膨れましょう。ですが、気分はさながらケーキを一切れ食べるのと同程度。程よい腹心地且つ、スタイル維持ですの。

 

 

 これが、このダンジョン全体へ特別に付与されている消化魔法や体形キープ魔法…称してしまえばグルメ魔法の効果。わたくしが普段付与させるものよりも高性能で、遍く人々に分け隔てなく。

 

 

 嗚呼、感嘆の溜息が出てしまいますの。無論、食べ過ぎの溜息ではございませんの。げに素晴らしきや、魔王が配下の皆々様。そして何より――。

 

 

「さ~て、次何処食べに……じゃないや、何処見回りに行こうっかな~♪」

 

 

 満喫なさるベーゼ様! あぁ、もうお別れなのですの。お引止めしたい気持ちは山々にございますが、ダンジョン主としてお忙しいとは聞いておりますの。ここは笑顔で見送らなければ。この団欒の御礼は、折を見て美食を贈らせて――。

 

 

「あ、そだ! ヴィーちゃんヴィーちゃん、この後予定ある?」

 

「へっ? い、いえ。ただ各所の美食とパビリオンを巡ろうかと。ベーゼ様の手掛けた催事にございますもの、隅から隅まで堪能いたしませんと!」

 

「えへへ~♥ありがと~ちゅ~♥ じゃあさじゃあさ、一緒に巡らない? 案内してあげる! 一緒にご飯食べて、パビリオン見て、ご飯食べよ~♪」

 

 

 まあ!? そ、それは願ってもないことにございますの! ですが、よ、宜しいので? わたくし、ベーゼ様のお邪魔になりたくは。

 

 

「だってご飯って、友達と一緒に食べればもっともーっと美味しくなるもんね♪ ヴィーちゃんはアタシの友達の中でも一番にご飯の話が出来るし、味覚も合うんだもん! 絶対楽しいよ♥」

 

 

 っっっまあっ、まあっ! まあっっっ♡ わたくしをそこまで、ええ、ええ! ベーゼ様、わたくし心から、心を尽くし、御相伴に預からせていただきますわ!

 

 

「やったぁ♪それじゃ行こ行こ! まずは~~あっ! やっぱりあそこだよね~。楽しかったし、腹ごなしがてら良いもんね~♥」

 

 

 わたくしの手をとり、ベーゼ様はきゃあっ!? わ、わたくし持ち上げられてますわあ!? じ、爺やごと持ち上げられてますわあ?! と、跳んでおりますわあああああっっっ!!?!!?

 

 

 

 で、ですが……この青空の下、色彩豊かな風船や香気満ちる炊煙を潜り、魔の幸を堪能し頬落とす人々を眺めるこの光景は、ふふっ、万の福に満ちておりますの♪

 

 

 

 

 

 

 

 

「とうちゃ~く! ミミックパビリオンだよ~っ!」

 

 

 ベーゼ様に連れられ、辿り着いたのは、まあ! 宝箱の装いをした風船、もといパビリオン。されど入口はさながら牙覗く口腔の如く。これは。

 

 

「やはり先程目にしましたミャルミャルちゃん?に似ておりますの」

 

「えっへへ~♪ ミャルミャルちゃんのモデルの一人はミミックなんだぁ」

 

 

 成程! 道理で。されど、となれば。わたくし達はこれよりいただかれてしまうので? それは……なんとも好事と感興をそそりますの! では早速、あら?

 

 

 どういたしましたの、爺や? そのように怯えを見せて。もしや、ミミックに何か辛い思い出でも? しっかりなさいまし、それでもわたくしの付き人ですの? ほーらー! お早く! 全く……まあ!

 

 

「これはなんと! わたくしの屋敷の幾倍の宝物庫にございましょうか!」

 

 

 扉を潜り目に飛び込んできたのは、一面の宝箱、宝箱、宝箱! あらゆる壁を構成構築する宝箱全てに宝物が詰まっていると考えれば、王家の宝殿もかくやにございましょう! しかし、この装い。

 

 

「……ダンジョン、の如き内装にございますな。ミミックが潜むには誂え向きの」

 

「うん! おかげでスタッフの皆も居心地良いんだって! ね~♪」

 

「は、はい…! 心地よく潜ませていただいて、おります……!」

 

 

 ひゃわあ!? 傍の宝箱から、人の姿のミミックがあ!? な、成程これがミミックの生態で……爺や? 流石にそのように飛び退かなくとも。ミミックに失礼ではありませんの?

 

 

 

 

「――ははぁ。ミミックとはかくも様々な種類がおりますのね。宝箱型は体色…もとい箱色を自在に変化させ、触手型もまた多様な色を。群体型は色は毒々しくも」

 

「蛙にお魚に、蜂に燕に、他にも色々い~っぱい! 凄いよね~♪」

 

 

 ともあれ、観覧を。お忙しいベーゼ様をこうも引き留めてしまって宜しいのかは図りかねますが……まあわたくしとしては。

 

 

「あら。こちらはミミックが入ることのできる箱の展示で、いえ箱に限らないのですの? 壺に鎧、殻に袋、かぼちゃ等を削り中にも、毛を纏って擬態をも。更には物同士の隙間、そして、まあまあ……♪」

 

「ふふふ~……♪ミャルミャルちゃんの中にも…だよ~♪ 気づいちゃった~…? し~っ……♥」

 

 

 耳打ちくすぐったいですの♡ こうして友人とパビリオンを巡るというのは至高の愉楽にございますもの♪ おやこの一角は。 

 

 

「はいは~い! こちらはミミックの箱の中の体験ですよ~! 食べられる感覚、味わってみます?」

 

「あ、安全ですよ……! ほ、本当には食べませんから……! ぎゅうっと、するだけで……!」

 

 

 このようなコーナーまで! では早速体験をば……なんですの爺や。心配なぞ無用ですの。ミミックを、いえベーゼ様を信用なさっていないのですの? フン!

 

 

「一緒に入ろうよヴィーちゃん♥」

「勿論でございますの♪」

 

 

 ならば折角の誉れもとい誘い、爺やに浴させはいたしませんの! ではいざ箱の中へと、しかしどうやって、あ、あらら。人型ミミック……いえ確か上位ミミックと仰る方の手が触手に。空中を這いずる鞭のように伸び迫り。

 

 

「それじゃ、ご案内~! くるくるくる~ぎゅっ!」

「ほ、本当にご安心を……! 勢いは凄いですけど……!」

 

 

 

 わたくし達は巻き取られっ、きゃああああっひゃむうっ!? こ、ここは……も、もう箱の中、ですの…!? 真っ暗で、宙に浮くようで、力が抜けていくようでぇぇ……!

 

 

 い、いえ、ようで、ではございませんの。ほ、本当に全身の力が抜けていって、動けなくっ。こ、ここから抜け出すことすら叶わなく……!

 

 

 これではまるで、闇水に飲まれ解ける土塊、宙に潰され塞がる星灯、いいえ消化されゆく食物。わたくしが消え、崩れ、溶け、じ、爺や! た、助けっ……ひっ、ひいっ……!?

 

 

「おお~社長とはまた違った感覚だ~♪抑えてくれてたんだ~♪ ヴィーちゃん、アタシここだよ~。はい、握手、ちゅーう♥」

 

 

 っこ、この手に触れる暖かさ、頬に感じる温もりはぁ……! べ、ベーゼ様、わたくし、わたくしぃ……きゃ…!?

 

 

「体験、終了でーす! ほいっと! あらお姫様抱っこ!」

 

 

 っへ…? 噴き出されるような感覚が身に走ったと思いましたら、周囲の景色はミミックパビリオン。正面には上位ミミック達。されど、身は宙に浮いているような……ひゃわあ!?

 

 

「ヴィーちゃん救出~♪ どうだった? 楽しかった~?」

 

 

 わ、わたくし、ベーゼ様に抱かれておりますのお!? お、降ろしてくださいまし恥ずかしゅうございますの! ……いえ衆目なぞ気にせずもっと……コホンッ!

 

 

「存分に堪能いたしましたの。ミミックの内部空間、中々に不可思議にしてスリリングにございましたの。成程、冒険者の方々が逃れられぬも理解できますの」

 

「そうでしょ~! もしダンジョン行くなら、食べられないように注意してね!」

 

「一度仕舞っちゃったら、もう私達のご飯になるしかありませんから……!」

 

 

 その様子が目に浮かびますの。せめて美味しく頂かれることを期待するしか………………そういえば。

 

 

「その……良い機会ですの。おひとつ窺っても宜しくて? ミミックはわたくし共を……人間も食べると先程目にしましたの。今も半ば体験いたしましたの」

 

「そうですよ~。でもダンジョンに来た人だけですよ。ダンジョン棲みですから」

 

「人間や魔族以上に何でも食べられますから、宝を漁る冒険者ぐらいしか……!」

 

 

 あぁいえ。気を揉んでくださらずとも。そちらに関しましてはここまでの解説文から薄ら読み取りましたの。わたくしが聞きたいのはそうではなく。声を潜めたのには理由がございますの。ずばり。

 

 

 

「わたくし共、美味しいのですの? 是非忌憚なきご感想を聞きたく」

 

 

 

 そう顔を見つめ合わせて回答に悩まないでくださいまし。ただの純然たる興味、『ゲテモノ公女』としての矜持ですの! いくら名を冠していようが、本当に口に運ぶわけにはいきませんの。人間族の倫理もわたくしの心も許しませんの。

 

 

 ですがわたくしの好奇心は抑えられませんの! 声を潜めたのは周囲の観覧客にわたくしのような人間族が混じっているからですの。ずっと、昔から気にはなっておりましたの。

 

 

 このように人肉食の魔物と平和的に会話を交える機なぞそうはございませんでしょう。ささ、どうかこのヴィザレーヌに、わたくしの味を! さあ!

 

 

「良いんですベーゼ様? わかりました、じゃあ……私達は結構好きな味ですよ…! 牛肉のような、豚肉のような。部位によっては鶏肉感もありますね。でもなんだか癖があって、匂いも強めなことも」

 

「ひ、人によりますよね……! 初級ダンジョンに来る方々は柔らかいお肉ですけど……中級ダンジョンだと筋肉が増えて、食べ応えと、噛む度に出て来る濃厚な味が……!」

 

 

 まあ、まあまあ……! そうなのですの、美味しく食べていただけるのですの……! で、では、ごくり……あいえ、これは唾液ではなく息を呑んだので。

 

 

「どの部位が、美味なのでしょう……?」

 

「え~? 悩ましいですね~。やっぱり太腿とかかな骨付き肉みたいにして食べるのが好きでしたよ~……。あ、足の裏のお肉も結構……! 臭いのにあたるとちょっと大変ですけど、皮を厚めにピリピリって剥いちゃえば……!」

 

「わ、私はやっぱりお腹のお肉が……! 内臓と一緒に食べるのがお気に入りです……! 骨もそんなにないですし……背中を破かなければお皿みたいに食べられますから……! それと……あ、ど、どうしました……!?」

 

 

「お嬢様、お震えに…!? 当然でございましょう、このような聞くに堪えな――」

 

「っっっ素晴らしいですのっ!!! えぇ、えぇ、ええ! わたくし、嬉しゅうございますわ♪ わたくし共を嫌わず、平らげてくださり感謝いたしますの!」

 

 

 なんですの爺や。下がりなさい。わたくし、ミミックと歓談しておりますの。聞くに堪えないとは、全く。わたくし達もまた、命をいただいているというのに。

 

 

 冒険者の所業はともかく、命のせめぎ合いは悍ましく、殺伐としたものにございましょう。しかし片方が力尽き肉と化した場合、それを捨て置くのはあまりにも命に失礼。

 

 

 なればその肉を余すことなく味わう彼女達こそが、冒険者にとって慰めにもなり得ましょう。ただ美しき一皿のためにその何倍もの部位を切り落とし廃棄するわたくし達は、頭なぞ上がりませんわ。しかし、その……。

 

 

「どうか最後にもうひとつ……! 舐めるだけで美味しい部位はございますの?」

 

 

 繰り返すようですが、無論わたくしとて人間の肉は口にいたしませんし、する気もございませんの。されど……それでも気になってしまうのが性でございますの。舐めるだけならば……!

 

 

「ん~。しゃぶる、という感じなら指ですかねえ。塩味が効いてるし」

「み、耳も……好きです……! 柔らかいのと、固いのと、ぺこぺこするとこを噛むのが…!」

 

「どれどれ~? あむむっ♥ ん~お花の香り♪ 甘いの後ろに、しょっぱみ♪」

 

 

 ひあああっ!? そ、それは手に塗った保湿軟膏の香りですのお!? ですが塩味はなんて……そ、それは恐らくわたくしの、手汗で……ではなく!!

 

 

「ベーゼ様わたくしの指を勝手に食まないでくださいまし!!? せめて一言――ふにゃああんっ!?」

 

「はむはむ~♥ ほんとだ、耳の食感、楽し~♪」

 

 

 おおおお、お止めにぃベーゼ様ぁ! みみみ耳は弱いのですのお! いつもケアの際に身をよじらせてしまい、メイドに苦労を――ひひゃああああんっ!!

 

 

「奥の方はどんな味かな~♪どれどれ~れろれろ~♥ も~腰砕けにならないでよ~舐めにくいよ~。後でアタシの舐めていいから~!」

 

 

 や、ややや、止めてくださいましいぃい! 耳の、耳の、穴を、舌で舐るのはあ! ひあっん、せせせせめて、ふきゅんっ、人気のないところで、んあっ♡ 

 

 

 じ、爺やお助けを、わたくし、本当に食べられてしまいますのおおおっ!

 

 

 

 

 

 

 

「――はあ。とんだ辱めを受けてしまいましたの!」

 

「えへへ~ごめ~ん♪ごはん奢るよ。アタシの指も耳も、存分に舐めていいよ♥」

 

 

 っそれは……ンンッ、後で誰も見ていない静かな場所で、ゆっくりと賞翫させていただきますの。まずはパビリオン観覧を続けて、あら?

 

 

「ここからはミャルミャルちゃんの展示ですの? あらこのような設定が」

 

 

 周囲の宝箱壁こそ変わりませぬが、展示の様子は明らかに。加えて、それを加味したとしても些か展覧の品が少ないような。先日招待客として別のパビリオンを観覧した際は、もっと。

 

 

「えへへ~…! 実はね、ミミックってまだまだ分かってないことだらけなんだ。恥ずかしがり屋さんだし、そもそも自分のことも詳しくわかっていないって子が多いんだって。だから、展示がちょっと少ないかも」

 

 

 そのような事情が。確かにわたくしであってもミミックという魔物は『宝箱に潜む謎の魔物』と存じておりますの。謎の、魔物と。それこそがミミックをミミックたらしめる神秘なのかもしれませんの。

 

 

 それに、わたくし共人間とて自らの全てを把握している訳ではございませんもの。なればこれもまた一興。謎の魔物が謎であり続けるのは、なんともミミックらしいと――。

 

 

「でもねでもね! その代わり、ミミックの凄さがよくわかるアクティビティを用意してるんだ! こっちこっち!」

 

 

 きゃっ! ベーゼ様そのように手を引っ張らないでくださいまし、足がお速うございますの♪ はて、ここは。

 

 

「アタシ達も入りま~す♪ じゃじゃん♥名付けて、『ミミックど~こだ!』 っあ、まだ言っちゃ駄目だった……!」

 

 

 パビリオンの、最奥にございましょうか。存外開けた、されどやはり宝箱に囲まれた円形広間。その中央には荘厳さとどこか愛嬌を感じさせるミャルミャルちゃんの大きな像がございますの。

 

 

 そこに集う観覧客の皆々様にわたくし達も倣います。はて、慌てて口を噤んだベーゼ様から察するに、ミミックを探すイベントにございますの? 成程、潜伏を主とするミミックを探し出すとは中々に。

 

 

「ミャ~ルミャルミャル☆ 冒険者達、よくここまで来たミャルね☆ お宝が欲しいミャルか? ならばこのミャルミャル・ラト・ステップ――即ちミャルミャルちゃんが、皆に試練を課すミャル☆」

 

 

 まあ! ミャルミャルちゃん像の蓋がパクパクと、お喋りに! なんとも可愛く少女らしい、似合ったお声ですの! おや? 蓋、いえ、口が大きく開いて?

 

 

「クリアすればこの宝物、ワタシを模したミャルミャルちゃんぬいぐるみ一人ひとつずつプレゼントミャ~ル☆」 

 

 

 ミャルミャルちゃん像の中からぴょいんぴょいんと、幾つものミャルミャルちゃんぬいぐるみが跳ねて! うふふっ、なんとも可愛らしい。わたくしも冒険者のように、試練に挑ませていただきますの!

 

 

「皆、挑戦するミャル? ミャルルル~ン☆その意気ミャル☆ ――まあ、もう逃げられないミャルけど」

 

 

 皆々様も意欲に満ち溢れて…………へ? い……今、なんと? ミャルミャルちゃんの語調が、些か。まるで、その……獲物を罠に嵌めたかのような冷徹をゾクッと感じさせるような……!?

 

 

「気づいているミャル? 既に皆、囲まれているミャル。ワタシが姿を真似た、宝箱を真似る魔物達に。ミャルルル、ほらそこに。ほらあっちに」

 

 

 ッ!?  ミャルミャルちゃんが薄ら笑うように示せば、それに呼応するようにあちらが、こちらが、壁にて重なる数百の宝箱の中で、私達を取り囲む宝物庫のそこかしこで、カタカタと……! 中に何かが。ミミックが――!

 

 

「シャッフルターイム! ミャル☆」

「「「「「シャウッ☆」」」」」

 

「「「「「きゃああああっ!?」」」」」

 

 

 な、な、なんですのぉおお!? 震えていた宝箱から何かが飛び出して、目にも止まらぬ速さでわたくし達の周りをぉお!? お、お助け爺や――あ、あら?

 

 

「ミャ~ルミャルミャル☆びっくりしたミャル? これぞミミックの実力ミャル! さ~皆、ミミック達が何処に隠れたかを探すミャル! 名付けて、『ミミックど~こだ!』ミャル☆」

 

 

 謎の箱影としか形容できなかった謎の魔物達が、目の端で何処かの宝箱へ入って。その儘まるで何も起きていない、そもそも生物が潜んでいたというのが誤想かと思えるほどに、静謐なる宝物庫さながらに。

 

 

 これが、ミミックという魔物の真価ですの……!? その子達を数百はあろうかという宝箱の中から探し出すというのは、中々に骨が折れるような気がしますの。

 

 

 なにせ何処ぞの箱に入ったのは捉えられたとて、それが何処かはわからぬのですもの。最早運頼みしか出来ませんの。それに……その……仮に見つけた場合、いえ、見つけてしまった場合、もしや……。

 

 

「ミャルミャルミャ~ル☆安心するミャ~ル☆ 見つかっても脅かしもパクリ呑み込みもしないミャルよ☆ 制限時間も無いミャル、五体見つけられたらクリアミャル☆ よ~い、ミャルル~ン☆」

 

 

 開始の、合図?が! ほ、本当に安全でございますの、信じて宜しいですの? べ、ベーゼ様までそう頷かれるのであれば……では。挑んで、みるといたしましょう! えぇと……。

 

 

「先程、ここへ入っていったような……」

 

 

 恐る恐る、首を引き手だけを伸ばし宝箱に触れてみますの。されど、宝箱に違和は無く。只の箱として、此処に在る限り。当てが外れたのですの? やはり恐々の心持で蓋に触れ、ゆっくりと、ギイイと小さな音を鳴らし蓋を開けてみれば。

 

 

「やはり、居りませんの。どうやらわたくしの見当違いで――あら!?」

 

 

 若干肩を落としたその刹那、視界の端で軽く震えたものを見たような。確か、この列の、この宝箱! 今は動いておりませんが、見間違えには思いませんの。今度こそ。

 

 

 先程よりも強く、逃がさぬように宝箱に手を。退き気味の身を、少し寄せ。身の奥底より疼きだし脈動を速める高鳴りが儘に、蓋を――!

 

 

「シャウッ♪」

 

 

 お、居りましたのぉ! 開けた瞬間、見えたのは綺麗な牙と、上機嫌に揺れる舌。これは居たというか宝箱自体が、宝箱型ミミックでしたの!! ……あら? ということは。

 

 

「もしや、ずっとここに居られたので? 先のシャッフルに参加は――まあ!?」

 

 

 まるでわたくしの疑問を察したかのように、宝箱ミミックは口腔内からポンと、自分と同サイズの宝箱を取り出しましたの! そしてその蓋の隙間にするりと入り、何の変哲もない宝箱のように鎮座いたしましたの。同じサイズの箱ですのに!

 

 

「おお~! ミミックちゃんって凄いよね~。アタシでも同じ大きさの箱を呑み込むこと、できないなあ♪」

 

 

 ……普段から、今日も既に、体躯以上の量の料理を貴女様は容易く、というのは無粋でしょうか。わたくしと違い魔法も使わずにその絶世にして垂涎のボディスタイルを……コホン。成程、このような潜伏方法もあるのですの。

 

 

 なんとも不可思議な魔物、ミミック。わたくしは残り四体、見つけられるのでしょうか? いえ、見つけてみせますの! なにせ彼女達は冒険者に奇物とされる風変りなる存在ですもの。

 

 

 なればゲテモノ公女と呼ばれるわたくしが見つけて差し上げなければ、その魅力を誰よりも把握して差し上げなければ、なんという! ふふん、腕が鳴りますの!

 

 

 

 

 

 

「――んんんんん、ここッ! ここですの!」

 

「せいか~い♪ これで五体目、おめでと~う♥」

 

 

 ふうっ! やりましたの! これで試練、クリアですの♪なんとも手強く、されど挑み甲斐のあるイベントにございましたの。

 

 

 ここと見定めた場所が空振りとなったが幾度、忸怩に沈みかけたが幾度。その都度、視界の端で箱が揺れ、次なる挑戦へと誘われたが毎度。時には怪しいと感じた場所がまさに正当であったことも。

 

 

 惜しむらくは、数多の挑戦者達の中で一番と相成れることができなかったことにございますが……うふふ、いえ、悔しさは皆無にございますの。なにせ、この試練はイカサマ行為。心優しき忖度にございましたもの。

 

 

 御覧を。わたくしに先んじた挑戦者……もとい、子供達を。わたくしも気が短い性質にございますが、幼子の癇癪ほどではありませんの。数度の箱開けのみでミミックを思うように見つけられず、親御様でも抑えきれぬほどに頬を膨らませていた彼等ほどでは。

 

 

 おほほ、ええ。間違いありませんの。子供達が地団太を踏み出す前に、ミミック達は自らを発見させたのですの。彼女達ならばそれが出来るのですの。それほどにまで自在に潜伏できるのですの!

 

 

 なにせ、その親切の相伴に預かろうとした皆々様が、後追いで蓋を開けばミミックなぞもぬけの殻だったのですもの。ええ、わたくしも一度だけ味わいましたもの……ンンッ!

 

 

 とはいえ、それだけであればわたくしも幼子のようになっていたかもしれませんの。何故このわたくしが、名高きヴィザレーヌ・フォン・グーララーサが、こうも望むものを見失うかと。ですが、それも致し方ないことですの。

 

 

「ヴィーちゃんもクリアしたし、もっかいだけスーパーシャッフルタイムしちゃおっかな~? あれ、見てるだけで楽しいもんね! ミミックちゃん、いける? よ~し、皆、目を凝らしてね~。せーのっ♪」

 

 

 ぴゃああああああっ!!!? こ、これですのお!! わ、わたくしが、冷静になった理由っ! ミミックが噂に違わぬ、冒険者の天敵に相応しき理由っ!

 

 

 五体見つければ試練クリアと聞きましたからっ! 精々が十体も潜んでいないと思いましたのにぃっ! ななな何体居ますのっっ! 何十箱が飛び交い跳ね回りますのおおおッ!!?

 

 

 最早竜巻の只中に巻き込まれたような、豪速で駆け抜ける群れの狭間に立たされたかのような、家具食器舞う激しき家庭喧嘩のような、ミミックの大襲来てんてこ舞いっっ! めめめ目を凝らしている暇なんてございませんのおおっ――あっ。

 

 

「しゅ~りょ~! さ~どこ行ったかわかるかな~♪」

 

 

 されどその嵐は、突然に収まりますの。そして残るはやはり、静寂支配する宝物庫の様。何処にミミックが隠れたなぞ、一体たりともわかりませんの。爺やはまた固まっておりますの。しっかりなさい。

 

 

 ふうう。最初のシャッフルタイムとは一線を画す、ミミックの底無き能力を感じさせるこれを目の当たりにすれば、わたくしとてわかりますの。わたくし達もまた、客人として丁重に扱われていることに。

 

 

 これが、ミミック。なんと、なんと素晴らしき魔物。ふふ、うふふっ! さながらゲテモノの如く。装いこそ奇怪とされ敬遠されるものの、その実の魅力は、秘めたる味はなんと、なんと芳醇なことでしょう!

 

 

 わたくしの心、満腹まで馳走を堪能した際のような充足感に満ちましたの♪このぬいぐるみ、もとい宝物はその平らげた空皿、即ち勲章ですの♪ ……嗚呼、しかしお許しを。わたくし、健啖なもので――

 

 

「物足りないよねぇ~? うんうん、わかるわかる♥」

 

 

 ひゃわあ!? ベーゼ様、わたくしの頬に、頬ずりをなされて!? え、物足りないとは、もしやベーゼ様わたくしの腹具合心具合を見抜かれて――!

 

 

「そのぬいぐるみ! な~んか欠けてる感じあるでしょ? その通りなんだあ♥」

 

 

 へ? あ、本当ですの。こちらの可愛らしいミャルミャルちゃんぬいぐるみ、半開きの宝箱のような造りとなっておりますの。その内部にはクッションと共に、何かが二つほど入りそうな隙間が。これは。

 

 

「やっぱり宝箱にはお宝を入れなきゃだもんね♥そこにはこれが入るんだ♪」

 

 

 コイン、ですの? このぬいぐるみと同じく、記念の品でしょうか。ミャルミャルちゃんの正面絵と背後絵が描かれたそれは確かに隙間に嵌るようで、箱と宝が組み合わさることで見事な宝箱となりえますの。では、きゃっ!?

 

 

「なにを、まあ!? コインが、像の中へ?」

 

 

 手を伸ばし受け取ろうとしたコインは、二枚ともベーゼ様に指で弾かれ宙を舞いましたの。その落下先は、わたくし達の前に聳えるミャルミャルちゃん像。おや、動き出しましたの。

 

 

 はて。そういえば先にクリアしておりました皆様にも、ミャルミャルちゃん像はぬいぐるみを差し上げる以外に何か話していた気がいたしますの。何分集中しておりましてよく聞いておりませんでしたが……。

 

 

「ミャルル♪今はこの気分ミャル。皆さん、ワタシの声はよく聞こえるミャル?」

 

「あー! 社長に続いてアーちゃんのだ! えへへ~聞きやすいよ~♥」

 

 

 もしやこちらの声、御友人のもので? 先程のは違い大人びた、澄んでいて優しい御声ですの。張りもあって聞き取りやすくもありますし、このようなアナウンスには慣れている方なのでしょうか。

 

 

「『ミミックど~こだ?』のクリア、お見事ミャル♪ けれど、も~っとお宝が欲しい、宝箱ぬいぐるみに合う宝物が欲しい、そう思ってはいないミャル?」

 

 

 ふふ…♪ ええ確かに。ですが、そのようなお宝、何処にございますの?

 

 

「そう思っている皆さんには、もうひとつ試練を用意してあるミャル♪ 名付けて、『ミミックど~こだ、パビリオンダンジョンver』ミャル。まずはこれを受け取ってほしいミャル」

 

 

 あら、像の中からふわりと紙が。はて、幾つかの四角に区切られた空白と説明書きが。えぇと、『スタンプラリー』?

 

 

「ふふふっミャル♪ 実はミミック達、このフェスティバルーんダンジョンの沢山あるパビリオンにも、こっそりと潜んでいるミャル。その子達を探し出して、スタンプを貰う。それが試練の内容ミャル」

 

 

 成程、そのような催しですの! 数は、八個のようでございますの。パビリオンを探し、ついでにミミックを探す。あるいはその逆。どちらにせよ、この魔王万福を巡り楽しむ素晴らしい策ですの♪

 

 

「もし既に色々と巡った皆さんは、ここのスタッフに訪れたパビリオンと、ミミックの隠れてそうな場所を伝えるミャル。そうすれば試練はクリアミャル。けれど可愛いミミック達の、場所に合った潜伏。探し出したほうがきっと楽しいミャル♪」

 

 

 ええ! そうさせていただきますの! ふふ、成程。ベーゼ様が最初に此処へわたくしを連れてきてくださった理由、よくわかりましたの。

 

 

「そうそう。スタンプが全部埋まったら、その隠れていたミミックへ話しかけるミャル。そうすると、ミャルルルル☆ 面白いことをしてくれるミャル!」

 

 

 まあ、気になりますの! ベーゼ様は勿論存じているご様子ですが、うふふっ、楽しみにさせていただきますの♪ それでは――!

 

 

「試練、開始ミャル♪ 皆さんの健闘をお祈り、ミャル♪」

 

 

 冒険者ヴィザレーヌ、ベーゼ様と共に出発ですの! さて、まずは――。

 

 

 

『『ぐるるるるるるるうううううう』』

 

 

 

「腹ごしらえ、だね♥」

「うふふっ、ですの♪」

 

 

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