ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
どッ、どうすれば、どうすればっ! わたくしは、どうすれば!!? ベーゼ様、ベーゼ様! 気を、お気を確かに!! どうか、どうかお顔を、普段のような爛漫なお顔をっっ!
何故、何故っ…! 何故そのように、背を潰れんばかりに丸め、腕すらをもその内に……! 平時ならば飛びつくはずの大量の料理に目をくれず、ただただ強く瞑り、苦しむように……! 嗚咽のようなを声を漏らし、呼吸も深く歪な……!
っ! もしや……毒の類ですの!? 件の反魔派冒険者が、魔族魔物に仇なす連中が、ベーゼ様に毒を盛ったのですの!? っその可能性は、大いに……!
先の不安が、最悪の形で的中してしまったのですの……! やはり連中は既に暗躍しておりましたの…! っ食べかけの焼き魚の料理、もしやこれにッ!
ベーゼ様曰く、このフェスティバルーんダンジョン内には解毒魔法が常時展開中だと。チョコレートを毒とする獣が、この時だけはその味を楽しめるように――そのような理想がため。
しかし、されど! その効果は如何程か! 確かにチョコレートは往々の獣には毒とは存じておりますが、人の身を持つ獣人程度であれば元より解毒なぞ必要ないのですの! 貝毒等を防ぐには効果がありましょうが……!
仮にそのレベルの解毒魔法でございましたら、暗殺用の毒物に貫通されてもおかしくはございませんの……! あぁ、わたくしが魔法に精通しておりましたら、ッいえ、いえ! それどころでは!
「ぅ………………う…………?」
ベーゼ様っ! ベーゼ様ぁっ! どうか、どうか! 爺や! なにを突っ立っておりますの!? お早く、お早く救護を!!! 誰か人を!!!!!
こんなことになってしまうなんてっ……! これは偏に、わたくしが招いた惨禍。わたくしが臆病にも、張り詰めた風船の如き幸せを求むるがあまり、このような……っ!
なんと、なんとお詫び申し上げれば……! 魔界大公爵アスモデウス家が御嫡女に、愛慕抱く同胞に、わたくしはなんと……この贖いは、わたくしの命と共に――むきゃっ!?
「う~~ん……??? あっ!? ヴィーちゃん!? ごめんぶつかった!?」
ふぇっ、ふぇいきですの……! ベーゼ様のハートの編み髪が丁度クッションとなりまして、鼻は痛むことなく――ふえっ!?
「べ、ベーゼ様!? その、お体に障りはございませんの?」
「へ? うん。元気だよ? え、もしかしてヴィーちゃんお腹痛くなったり? おかしいなあ、魔王城にも展開されている護宮解毒魔法なのに。あ、元々お腹痛かったりは関係ないか」
……そ、その? よく、仰っている意味が……いえ意味自体は理解できるのですが、えぇと。
「わたくしは支障なく……ですが、毒が……解毒魔法が……?」
「うん! ここ、ヴィーちゃんみたいな人界の貴族とかアーちゃんネーちゃんみたいなグリモワルスも来るから、最上級の安全を確保しなきゃだもん! それの影響もあって、幻影はししょーに頼ったんだあ。えっと、リソース不足による外部委託、ってやつ!」
…………えぇっと、はあ。わたくしの言葉足らずにございましたが、つらつらと言葉を紡がれるベーゼ様の容態は、なんら不調も違和もなく。では、先程の前屈姿勢は一体。
「ベーゼ様、先程お悩みになられておりましたようですが。如何なさいました?」
は? お悩み? 爺やそれどういうことですの。貴方もしかしてそれがわかって、だから何も動かず、ッなればわたくしに即刻報告するのが執事たる――!
「あ! そうそう! ヴィーちゃんならわかるかなあ。はい、あーん♪」
あ? あー……もぐっ!? これは、焼き魚、ですの? 丁度ベーゼ様が口をつけられていた、毒が盛られているはずの、いえこの味は。
特に異常はございませんの。美味ですの。脂が程よく落ち、さっぱりとしていてしつこさが無く。どうやら毒殺云々はわたくしの勘違いだったようですが。
「ね? おかしくない?」
はて。ではベーゼ様は何故に唸っておられたのでしょう。そう首を傾げられても、わたくしには何が何だか。
「この焼き魚、アイブラクで獲れたサソマって売り文句なんだあ。なのに、なんだか脂少ないでしょ?」
アイブラクで? ふむ。このサソマという魚は、確かにその産地たる海の箇所にて蓄える栄養度合を変える生態をしておりますの。その中でアイブラク産となれば、脂の乗りが顕著という特徴がございますの。
しかし今頂いたサソマは脂は比較的控えめであり、その分口にくどさを覚えぬ軽やかさが。美味には違いありませぬが、これは、言われてみれば確かに。
「サンブクリッジ産に近い――」
「そうだよね!! ヴィーちゃんもそう思うよねぇ♪さっすがヴィーちゃん、やっぱりわかってるぅ♥大好きぃ♥」
きゃっ♡抱き着かないでくださいまし♪ こほんっ。サソマは個体数も多く、それ故に個体差も相応にございますの。こちらの焼料理は、その誤差の範疇。もしくは焼き加減による脂落としともとれかねませんが――。
「ううん、それはないよ。この味はサンブクリッジだって確信できるもん! それに毎朝の検食、ずっとアイブラクのだなあってわかる味だったもん!! 今日のだってそうだったし」
そうでしたの。ならば――いえお待ちを。検食を、毎朝? この広大な、このエリアが片隅だけでもこうして卓に山盛りになってしまうほどの、即ちこの何十倍もの食事を、毎朝??? それでいて、わたくしとこうして漫遊を?????
い、いえ。複数人にて行っているやもしれませんし、そも一皿丸々ではなく一口サイズや少量の可能性もございますの。……だとしても毎日口にしている味を、ああも新鮮味に溢れた高揚と涎で必ず迎えられるとは。改めて敬服を。
閑話休題ですの、コホコホン。ベーゼ様の御見立通りこの焼きサソマがサンブクリッジ産であるのならば、一つ問題がございますの。それは、こちらを販売なさっていた店舗の惹句。
「確認して参りました。あの店では今も尚『アイブラク産』の看板が掲示された儘となっております」
御苦労ですの爺や。味はサンブクリッジ産であるのに、セールスはアイブラク産。ここから導きだされる解は一つ。……正直、考えたくもございませぬが。
「あちらのお店が、産地を偽っている、と……?」
「そういうことかも~……!」
つい二人で声を潜め、顔を寄せ合ってしまいましたの。本来ならばつい顔を赤くしてしまう距離にございますが……事が事。これは一大事やもしれませんの。
料理を構成する一花弁であればいざ知らず、ああも堂々とセールスポイントとしている以上、間違うことなき偽装行為ですの。魔王の名を冠する催事にて、このような真似は。
「よっと!」
「参りましょうか、ベーゼ様」
ぴょんと椅子より立ち上がったベーゼ様に続くように、わたくしも控えますの。わたくしのことは護衛とお思いくださいまし、もしもの際は我が身を挺して――!
「ううん、ちょっと待ってて! まずはゴミ捨ててくるね~!」
あ、あら? 弾劾がために向かうのかと思っておりましたら……ベーゼ様、手近な食べ終わりの容器を集め出しましたの。そのようなことは爺やに――は、はあ? こ、こちらに座れば宜しいので?
代わろうとしたわたくしは、あれよあれよの間に椅子の上へ。しかも、ベーゼ様がお坐りになられていた椅子にですの。残る愛らしき温もりが、ドレスを通じてじんわりと……。
あっ。動けぬ間にベーゼ様がダストシュートへ。爺や、何かしらお手伝いを……あら? ベーゼ様が、ダストシュート横にいる料理回収ミミックへ話しかけておりますの?
するとミミックは台より飛び降り……何処かへ向かいましたの。あれは確か、料理が満杯になった際の行動なはず。されどベーゼ様、残した料理など持っていってはおりませんの。空容器だけでしたの。
首を捻るしかない中、ベーゼ様はすぐに戻ってきたミミックを撫で撫で。スキップでこちらへ戻って参りましたの。やはり件の偽装店へ向かうことなく。すぐに椅子をお返しして――へっ?
「よいしょっ♪それっ♪ ヴィーちゃんが座ってた椅子、あったか~い♥」
ななな何故、わたくしが座っておりました椅子に!? しかも、わたくしのすぐ傍へと移動なされてから!? え、えとあの、産地偽装の件は放置ですの!?
「ん~ん。でも、アタシの舌で感じただけじゃ証拠になりにくいし、もっと大変なことが起きてたら対応も変わるから、まずはこれで確かめようかなって!」
これ、とは? 言うが早いかベーゼ様は、両手でハートを作ってみせましたの。そちらを、目元へ当てまして?
「『主催眼』、発動~っ♥」
目がっ!? ベーゼ様の目が、ウインクと共に光輝きだしましたの!? いえ胸高鳴った際の比喩表現ではなく、本当に。本当に光を放っておりますの! これは、もしや噂に聞く。
「アタシ達エスモデウス一族の魔眼だよ~! 催事参加者の役割を見極めたり、贈呈品の中身や贈り主を確認できる能力なんだ! 食材の贈り主もわかるんだよ!」
やはり、魔界大公爵に伝わる、魔導籠められし特殊能力にございますの! 発動なされている光景を見るのはわたくしこれが初にございますが、なんとも『催事長』エスモデウス家に相応しき能力……!
「まずはこれで~~お店の人チェ~ック! うん、問題ナシ♪ちゃんと許可取って従事している調理員と販売担当だね。周りにも~おかしい人はいない!」
その両指ハートモノクルの儘、ベーゼ様は辺りをきょろきょろと。ほっ……もしや産地偽装は例の反魔派冒険者の仕業かと邪推しておりましたが、その可能性は無いようですの。
「それじゃ、肝心の食材チェック! 上手く見えると良いなあ。アーちゃんがいてくれたら……ううん、アーちゃん相手にできたし、アタシの魔眼だって!」
はて、アスト様は此度に役立つ魔法を覚えておられるのでしょうか。残念ながら姿はございませんが、わたくしが微力ながら――へ?
「はい、ヴィーちゃんお願い♪ あ~~~~~んっ♥♥♥」
あ、ああ、あああ~ん!? あ~んですの!? しかも、しかも!? わたくし『に』ではなく、わたくし『が』ですのぉ!?
助力を申し出ようとしたその瞬間、さっと持たされたのはフォークにございますの。そして目の前には、お口を大きく、無防備に、待ち遠しそうに開いたベーゼ様が。えぇとその……!?
「あっ。そっか説明してないや。てへっ♪ アタシの一族の魔眼は『贈られたもの』に反応するんだ。だから、自分でお金を払った物とかは誰かに『贈って貰わなきゃ』いけないんだぁ」
そ、そうでございましたの。成程、わたくしがあーんにて焼き魚を『贈る』ことで、魔眼の発動条件を満たせますのね? で、では……ごくり……!
「あ、あーん……!」
「あ~んっ♥♥♥」
フォークにとりました魚の身を、ベーゼ様の御口の中へ。そっと差し入れましたら、大口は柔らかき唇により朗らかに閉じ。その際に弾かれ溢れる仄かな湿り気を帯びた呼気は、わたくしの指先を撫で舐り。
ふと微細に伝わるは、絡めとられるような感覚。はたと覚め慌てながらも丁重に手を引きますと、その揉み揺れるような艶やかなる赤き熟れ狭間より、ちゅぷんと僅かな音を立て、小さく煌めき伝わる雫と共にフォークが。
行き場を失い……いえ、机に戻せば良いだけなのに何故かそう嘘を言い聞かせたくなるほどの魅惑を持つ、てらてらと妖しき尖。その背景には、咀嚼に動く小さな顎と、つい触れたくなるいじらしき頬。そして――。
「美味し♥ うん、見えた。見覚えのある景色。間違いなくサンブクリッジだ」
ハート編み髪の下、ハートモノクル無き真なる双眸。わたくしへ可憐に微笑みかけつつも、共に威迫を内包せし輝く両魔眼。嗚呼、嗚呼……ベーゼ様、わたくしは、わたくしはぁ――……♡
「よし、確定! お話聞きに行っくよ~! …あれヴィーちゃんどうしたの? すっごい美味しいもの食べた人みたいに恍惚としてるよ?」
「へあっ!? い、いえなんでもございませんの! いえ……至高にして究極を味わっていたといいますか……本当になんでもございませんのっ!!!」
こっっっほん!! 参りましょう! ……爺や、場に着くまで僅かな間、壁になってくださいまし。ああでも、ベーゼ様を隠すことは無きように。
「よかった、丁度お客さんいないね! もしも~し。万福管理委員会で~す!」
「っ……! ……来……隠……」
「ベ……味……やっ……違……」
「もう……冷…………堂………なら……」
店前に辿り着き覗けば、焼き場の奥には三名程。総じて魔族の方々ですの。何かを話しておられでしたが、よく聞き取れませんの。
「っと、べ、ベーゼ様。ご機嫌麗しゅう。私共に何か――」
「産地偽装、してるでしょ。味的にアイブラクじゃなくてサンブクリッジだよ」
おずおず進み出た一人に、ベーゼ様はぴしゃりと言い放ちましたの。突然の指摘に一瞬固まる店員へ、彼女は更に頬を風船のようにぷくうっと。
「もう! サンブクリッジのだってすっごい美味しいんだから、申請して看板書き変えればいいのに! なんで黙って――」
「お、お待ちを! これはっそのっ、しっかりとアイブラク産で……ひっ!?」
「アタシの魔眼はそうは言ってないよ。見えた海も港も市場も、絶対にぜーったいにサンブクリッジだったもん!」
文字通り目を光らせ詰め寄るベーゼ様は、カウンターを圧し潰さんばかり。しかし、されど。
「み、見間違えではないでしょうか……! き、きっとそうですよ! それか、似ている光景だったとか……そ、そうに決まってます!!」
店員もまた退く様子は無く。理路整然とした釈明が無い以上、心の内に不徳があるのは確実にございましょうが。
「そ、それに、御身の魔眼は素晴らしきスキルと存じておりますが……わ、私共のように凡なる身には、その内に映った像を知る術はなく……はは……ねえ?」
「っ、そ、そうですよ! お、恐れながら……真実か定かすら……」
「証拠に! っ証拠に、なり得は……しないの……では……っですよね!?」
他を巻き込み、さも群れた狼のように吠えるとは。なんといけしゃあしゃあと。ベーゼ様の心優しさに付け込んだかのような狼藉、許せませんの! なればわたくしの名を以てして――!
「そうだね。魔眼ってあくまで補助の力だもん。間違ってることは絶対ないけど、こういった時に証拠として提出はしにくいよ」
ベーゼ様!? 狼藉者へ迫ろうとするわたくしを、そっと腕で抑えて。た、確かに魔眼は
ですが! ベーゼ様がそのような真似をするはずありませんの! それに大公としての大権も、催事責任者としての権限も、ダンジョン主としての支配権もございますの! このような者共、捕えてからぴわわっ!?
「ちゅっ…♥ ヴィーちゃん、わかるかな~…♪」
今のタイミングでのキスは流石におかしくありませんこと!? しかも耳に、イヤリングにも下唇が触れるように、奇妙な囁きと共に……はて。わかるかな、とは……おや?
今、店の奥。店員達がこちらの一挙手一投足を伺い、今のキスにて目の行き場を失くし竦む更にその奥。食材箱や容器等の資材類が積まれたその場にて、何かが跳ねたような……。ベーゼ様も目をにんまりとさせて。
「じゃあ魔眼の話はいいや! けど……これならど~お?」
指をパチリと一鳴らし! するとあの店奥の跳ねたように見えた箇所が、震え、盛り上がり、もしや!?
「「「シャウウウッ♪」」」
「「「うわあっ!? ミミックぅ!?」」」
や、やはりでしたの!? いつの間にか潜んでおりましたのは、ミミックにございますの! おや、それぞれ何かを箱に咥え、ぴょんぴょんとこちらへと、カウンターの上へと。これは!
「っああぁ!? しまっ……!」
「お魚の箱には、シールで産地を誤魔化した跡。見つけた仕入れの書類には、サンブクリッジ産の文字。そして、映像再生♪」
『なあ、やっぱり申請しとくべきだったんだよ。魔王様の催事で……!』
『だからこそ、だろうが……! 仕入れられなかったなんて言えるか…!』
『サンブクリッジのがあってまだ良かったけどよ……』
『っと……! 来たぞ、隠せ……!』
「ベーゼ様を味で騙すなんて、やっぱり無理だったんだ……』
『もう諦めろ。冷静に、堂々と振るまえ……! ベーゼ様ならワンチャン…!』
それぞれが箱の内に詰めて参りましたのは、シールにて裏の『サンブクリッジ産』の文字を隠した箱、丸めて隠されていたと思しき取引証明、録画魔法を付与した水晶が。この視点、間違いなくあの資材置き場からですの。
「これで証拠は充分だよね♪申し開き、ある? 嘘ついたご飯は美味しくないよ」
「「「シャルルル……!」」」
カウンターに両肘を突き笑みつつも、目の光にて刺すベーゼ様。その刃の一助となるように唸る、ミミック達。これには、流石の狼藉者達も。
「「「申し訳ございませんでしたぁ……!」」」
即座に縮み上がり生まれたての子犬の如く。これにて解決にございますの♪
「本当に宜しいのですの? あのような処置で?」
「うん! 今日は閉めて貰うし返金対応もして貰うけど、諸々の処理と反省が済んだら営業出来るようにするよ。早ければ明日からすぐに、かなあ」
それはなんとも寛大な……いえ、恐れず進言いたしませば、手緩いかと。ひいては魔王の顔に泥を塗る行為に相違ございませんの。その旨をお伝えすれば。
「そうだよねえ。でも最初から騙そうとしている人じゃなかったし、代用サソマがサンブクリッジ産だもん。もっと安いのも仕入れられたはずなのに」
と。その点に関しましては、わたくしも一目置きましたの。アイブラク産と並ぶ程にサンブクリッジ産のサソマは美味であり、相場も拮抗していると心得ておりますの。本当の悪漢ならそれこそ雑魚のような品を偽り販売していたことでしょう。
されど、彼等はそのような真似はしなかった。『値段が似ていて間違えた』という虚ろな予防線や、良心の呵責、魔王や魔界大公爵を敵に回す損との兼ね合い等理由はいくつもあるやもしれませんが……。
「それに、こんなに美味しく焼けるんだよ♪ 悪い人じゃないよぉ♥」
えぇ♡ あちち、はふふ♡彼等もまた、この魔王万福に、ベーゼ様に招かれた食に真摯なる者。多少の面子に足取られてしまっただけの矜持なのかもしれません♪
彼等の元に監査員が来るまでの間、幾尾か焼いていただきましたの。無論サンブクリッジ産と理解した上でしかと料金をお支払いましたの。これもまた、わたくし共の矜持ですの。
既に店には店員方々の姿はおろか食材も資材も器具もなく、ただ返金対応の魔法陣立て札が残るのみですが――個人的には感謝いたしても宜しくてよ。
何故なら、こうして美味なる焼きサソマを頂けただけではなく、ベーゼ様の活躍を間近にて堪能できたのですもの♡ ふふふぅ♪それだけでなく先の延長のように、ベーゼ様と隣り合う席でずっと、なんて♡♡
肩と肩が触れ合う距離、ふと食器を手に腕を動かせば軽くぶつかり合いすらする傍。その度にくすくすと笑い合い、避けることなく、寧ろ弄りあい交わりあうように。時には。
「はい、あ~ん♥ お返しだよ♪」
「まあ♡ もぐっ♪ では今のお返しに、あ~んっ♡」
「あ~んっ♥ あっ、も~またぁ♪ 終わらないじゃん♪」
こうして食べさせ合うことすら……! 嗚呼、夢のような、暖かき海に揺蕩うような魅惑のひと時ですの。願わくばこの先も――。
「う~ん。それにしても、あんな人達がいるなんて。検食の時はもっと気をつけなきゃ。あ、じゃあこうやって食べ歩く時も? ん~~ねえねえヴィーちゃん!」
「はい♪ なんでございま――」
「こっから先、全部のご飯アタシにあーんしてくれない? 一口づつだけで良いから――」
「っっっっっっ是非ッッ!!!!! 是非にっ、わわわわたくし、その栄誉ある御役目、感泣を以て拝命いたしますのっっっ!!」
食い気味に、フォークを持つベーゼ様の手を握り締めるような勢いでとってしまいましたの! だ、だって、まさかの、願ってもない御用命なのですもの! 大魚を逃がしたくはない漁師の心持ですの!
まさかこの夢のような時間を、これから更にずうっと味わえるだなんて、この風船のような心は何処まで膨らんでゆくのですの!? 嗚呼、なんという口実、今日は好日に違いなく――!
「コホン。お嬢様、ベーゼ様が」
っあ! つ、つい、わたくしとしたことが……! ベーゼ様の御手をとったまま、恍惚と。ただベーゼ様の御食事を阻害しただけでなく、こうも目をパチクリとさせるほどに呆気に……! し、失礼を……!
「っふふ、ぷふふっ! えへへ、へへへっ♪ ヴィーちゃん、熱烈~! 焼き立てサソマよりも熱いかも。じゃあ、お願いするね。感謝のちゅ~♥」
ふひゃあっ♡♡♡ もうわたくし、このまま今日という日を終えてしまっても……いえそれはなりませんの。何故ならこの先、尚一層と悦楽の財宝が待ち受けると確定して、ケホン。
「しかし驚くべきは、ミミックの皆様にございますの。よもや、既に潜んで偽装の証拠を掴んでおりますとは。あの様子や録音の内容からして、恐らくはあの時に」
「えへへ、バレた♪ ゴミ捨ての時に、あの子を経由して潜伏と調査のお願いしたんだあ。ここにも警備のミミックいるからね」
やはり。先日の宝食糧庫のように、ここまで巡った食事処のように、あるいは各パビリオンのように。この場にもミミックは潜んでおるのでしょう。推知すれば、あの珊瑚礁飾りや大真珠抱く貝、船模型や漁網束の中でしょうか。
ベーゼ様は唯一姿を露出させている料理回収ミミックに命じ、その潜伏ミミック達を動員。誰にも、わたくし達はおろか警戒を払っていたはずの偽装魔族達にすら悟られることなく事を成したのですの。
「きっと今頃、アタシ達みたいに焼きサソマを頬張ってるよ♪ 誰かの残した物とか、売れ残りのばっかりじゃ嫌だもんね。あ、これも売れ残りかなあ。違うのも買ってあげるべきだったかなあ」
いいえベーゼ様、そのお気持ちだけできっと充分ですの。あまりに食べ物で誘いますと、賄賂に靡きかねませんもの。尤も、パビリオンにて学びましたミミックの臆病気質からしてその点は安心できましょうが。
それとわたくし、別の観点から安心いたしましたの。ずっと気を揉んでおります、件の反魔派冒険者。彼等がもし既に会場に潜伏していたら、とうに暗躍を開始していたら。それはまさしく杞憂にございましょう。
なにせ、ミミックがいるのですもの。警備事情をある程度把握しているであろう魔族すら気づかぬ潜み方をするミミックがそこかしこにいるのですもの。
そんな中で潜伏なぞ、到底叶いませんの。怪しい動きをしていたらあの日の悪漢のようにパクリですの。ベーゼ様が常に魔眼を行使なされていないのもミミックの警備が信用してるからにございましょう。
つい催事という光景にばかり目を奪われ忘れておりますが、ここはダンジョン。魔物の巣窟。なればどれほど熟練な冒険者であったとて――。
「すぐ気づいてパクっとしちゃいますよ~☆」
「ぴゃああああああっっっっ!?!!!?!!?」
なあっ、なあっ、なああ!? み、みみみミミン様ぁ!? いつのまに背後に、そのように驚かされると誤嚥の恐れが、いえ丁度口の中が落ち着いたタイミングでしたが!!
「あれ社長、アーちゃん! もう勝負? アタシ達まだこの海泉マリーナしか巡ってないよぉ。でも勝負なら負けないよ! もう一回食べたいって思わせて――」
「ふふっ。様子を見に来ただけだよベーゼ。ちょっと問題が起きたんだって? 解決したみたいで何より」
成程そうでございましたか。流石はベーゼ様の御親友方。お耳が早く……相も変わらず絶妙なタイミングでお姿をお見せくださいますの。此度は褒めきってはおりませんの。
「そ~そ~! サソマの産地偽装があってね~。質は良いからアタシの独断で裁いちゃった。良いよね?」
「ふふふっ。もう、なんで私に聞くの。ベーゼはここのダンジョン主でしょう? 良いんだよ。皆ベーゼを信頼しているんだから。それに私はベーゼが正しいし、優しい立派な催事長だと思うよ」
「そうよ。未来のエスモデウスに相応しい判断だと思うわ。オルエに毒されてなくてよかった。今後も良いとこだけを見習うのよ?」
むうう……! アスト様はベーゼ様のもう片側で、ミミン様は机の上で。そうしてベーゼ様の頭を撫でて差し上げるお役は、わたくしに譲って然るべきでは? いえ畏れ多くてそのような真似できませぬが……とにかく、お邪魔にございますの!
ベーゼ様ほどの美食、もとい素晴らしき方は皆で分け愛でるべきということは理解しておりますの。ですがお二方でしてよ、不調和を避けるために身を引くと宣言なされたのは。
ならばお早く退散なされまし! 御親友であられる貴女方をしっしっと手を払うつもりも、美食にたかる羽虫と下卑る気もございませんが……どうか。でなくばわたくし、一抹の――。
「うふふふぅ♡ お胸にぱぁっくり♡空いた♡ひくひく寂しい♡ふかぁい穴♡ 私がにゅっぷり♡ずっぷり♡埋めて♡ぜぇんぶ頭からトんじゃうぐらい気持ちよ~く♡してあげましょうかぁ♡」
ふぇ……? ど、どなたの声ですの……? 蕩ける、蜜のような声。それと共に香って来たのは、甘く熟した桃のような、イチジクやベリーのような、チェリーのような……いえ果物だけでは。
バニラやムスクのような優しさや、イランイランやローズやジャスミンのようなエキゾチックも併せ持つフローラルさすらも……ただ、甘いというのは共通しておりますの……。
誰かが果物の盛り合わせを持ってきた訳でも無し。香水にしてはむせ返るような、されど身を委ね虜になりたくなるような……。声の通りわたくしの胸の疎外感が、身を這う靄で埋められはじめ…全てを忘…………。
「ふん!」
「ぴゃあああ!?」
「っあん♡」
な、なああぁ!!? ななな何をなされるのですミミン様!? なぜ急に触手を、槍の如くわたくしの方へと!? 幸いにも外れ、背後へと。あら今の声は。
「痛ぁい♡ミミンったら、遠慮なくべちんべちん♡打ちつけて来るんだからぁ♡私のカ♡ラ♡ダ♡壊れちゃうわあ♡」
「ちったぁ黙んなさいな。お客さんを守るのは我が社への依頼内容の一つよ」
未だ香れども薄れた濃密さは、わたくしの背後より。目を覚まし振り向けば、そこには……んなっ!?
「デッ、ぜっ、ほ、ほとんど紐……いえ糸ですのぉお!?!?」
「あ、ししょ~♥ ししょ~も来てくれたんだ!」
師匠!? は、え、は!? ベーゼ様、それは確かでございますの!? この、このお胸が大きく、全裸な…いえ最早衣服ですらない糸で恥部のみを隠しているサキュバスの方が、貴女様の師匠ですのぉ!?
た、確かにベーゼ様の師匠はサキュバスとお聞きしておりましたが! にしても、これは! 催事の場にも飲食の場にも相応しくないというか、食欲を満たしたらお次は、とでも言いそうな!
「そだ、ヴィーちゃん紹介するね! アタシのししょー、オルエさん! このフェスティバルーんダンジョンの幻影魔法をぜ~んぶ管理してくれる超超超超ちょ~う凄腕なんだよ♥」
信じたくありませんでしたわぁ…! せめてもっと大魔導士然とした方ならば。こんな姿で、外を歩くのも憚れるような姿で務まりますの!? それより、何故わたくしの背後に! よもや――。
「うふふ♡ 85点、いえ敢えての76点かしら♡」
なんの点数ですの!? 何故当初より下がったのですの!?
「あら。かなり低いじゃない。ベーゼちゃんの友達だからね?」
かなり低いのですの!? ベーゼ様の御友達だからですの!? ど、どういうことなのですの!? だ、誰か! 誰か説明を!
「あはは……。椅子ごと失礼しますね。あまり点数は気になされない方が。オルエさんの趣味度合いというか、性欲度というか……低い方が安全なんです」
きゃっ。わたくしを椅子ごと浮遊させながら、アスト様が。そのまま彼女の位置、ベーゼ様を挟んだ反対側に着地させてくださいまして。ベーゼ様に聞かれぬよう耳打ちを?
「私達が戻ってきたのはベーゼを褒めるためというのもあるんですけれど、彼女が動いたのを感知したからなんです。私達と同じでベーゼを褒めにきただけだと思うんですけど、その、見た目通りの……」
はみ出し者、と。ゴホン。なればアスト様方には深謝を向けなければなりませんの。恐らくは先の香りはサキュバスのフェロモン。わたくし、あわや彼女の毒牙にかかるところでしたの。
「ねえねえししょー聞いて聞いて! さっき、ちょっと悪い人がいてね~――♥」
「まあ♡よく対処できたわねぇ♡ ご立派な♡ベーゼちゃん♡タチ良いわねぇ♡」
とはいえ、ベーゼ様の愛嬌の前にはサキュバスの色気も無意味なのでございましょうか。ハグしあうお二人はまさしく師弟、それか仲睦まじき姉妹のようで……いえ、ちょ、ちょっと……。
「あの撫で方、良いのですの…?! 頭だけでなく、肩や首筋や、背中まで。それも、明らかに普通に撫でるというには……!」
「オルエさんの手癖なんですあれ……。やられると、まあ、ご想像通りの感覚が走るのですが……ベーゼは効かないのかそれとも慣れてるのか。変なことにはなっていないようで……」
ほ、本当ですの!? あんな指先をくねらせ、爪を軽くたて、掌にて肌をしとり濡らし舐り、柔肉を揉みしだくような手つき、わたくしでもわかりますの。どう見てもあれ、愛なる撫で方で……おや?
「ふんふん、お~♥ わかったししょー! やってみる♥」
抱き合っていたベーゼ様が戻って参りましたの。オルエ様に何かを耳打ちされてから。……少々嫌な予感がいたしますの。ベーゼ様、貴女様の師匠とはいえあまり従うのは、え。あの?
「はいヴィーちゃん、フォーク持って♥ よこーえんしゅーしよ♥」
あれよと渡されたのは、焼きサソマの身を刺したフォークにございますの。予行演習とは、件のあーんのでしょうか。いえそんな練習なぞせずとも、ふゃっ!?
「んしょ♥こうして両膝を地面について、ヴィーちゃんのスカートの傍に行って♥ 両手をお皿にして、目もつぶって、ベロも出して。あ~~んっ♥♥♥」
なななななななななあああ!?!? べべべべベーゼ様!? 何故わたくしの前に跪いて、わたくしの脚の狭間に顔を寄せ、両手を受け皿にし迎え舌で懇願なされておりますの!!?
あーんをするにしては随分と奇怪、過激ではございませんこと!? 公衆の面前でその姿勢は……さながら何かが舌へ降りかかるのを待つような、受け入れるような、いえこのフォークにございましょうが!
あぁあベーゼ様の吐息が私のドレスの内に潜り、膝を…! わたくしの指先をくすぐりますの……! 火照るような舌先からはとうとう、僅かな糸を引くように唾液が……! そ、その上目遣いは、止めっ……♡
「なぁに教えとんじゃあ!」
「あぁんっっ♡♡♡」
「んあ~♥♥♥早く早くぅ♥ んえ? アーちゃん?」
「ベーゼ、ストップ。普通にあーんして貰いなさい。ね?」
っあ。震えるフォークをベーゼへと垂らす前に、響いたのは盛大な打擲音と怒声嬌声。それとアスト様がベーゼ様を立ち上がらせる光景。た、助かりましたのミミン様アスト様……!
「ねえあんた本当にベーゼちゃんに手を出してないのよね??? だいぶ信用ならなくなっているのだけれど???」
「ベーゼ、オルエさんからなんて吹き込まれたの? うんうん、『ああしたほうがエッチで、ヴィザレーヌ様も喜ぶ』と。えっと、エッチなのはともかく、ヴィザレーヌ様は望んでいないと……ですよね」
は、はい! そうですのアスト様……いえ、ベーゼ様が自ら私に傅いてくださるなんて稀有な機会。もっと堪能を……ッゴホン! わたくしはゲテモノ公女ですの。それは食欲にのみ当てはまりますの。
「ったく、油断も隙もありゃしない。やっぱ様子見に来て正解だったわ。どーせヴィザレーヌ様を弄り回すつもりだったんでしょ」
「うふふ♡せぇいかぁい♡ だってベーゼちゃんがベッドの上で毎夜話してくれる
ぴっ…! ミミン様拘束より解放された瞬間、こちらを熱い瞳で見つめながら言わないでくださいまし! そんな、わたくしは、うぅ……!
「で♡も♡ベーゼちゃんを独り占めしちゃうのは勿体ないわあ♡皆に甘えん坊で可愛ゆ~いのがベーゼちゃんだもの♡自分だけで耽っても空しいわよ♡ だから私は♡敢えてこちらを頂くわあ♡」
それは……金言にございますの。ベーゼ様をベーゼ様たらしめているのはその天衣無縫さ。なればわたくしの身で覆ってしまうなぞ愚行で…………は? は!?
「爺や!? おおおおお止めくださいましオルエ様!? 何故爺やに、その、蛇やナメクジのように身をお絡ませになって!?」
「だって美味しそうだもの♡88点♡疲れたナイスミドルの魅惑がムンムンでぇ♡私が迫ったら、お嬢様のためにビンビンに我慢♡してくれそうで♡そのふつふつ煮える忠愛を♡ぐちょどろになるまで溶かして葛藤させるのが♡うふふふ♡」
わたくしの忠実な執事に何をする気ですのぉ!? というか爺や、少しは抵抗なさいまし!! 何故棒立ちのままですの!!?
「あの感じ……落ち着いてくださいヴィザレーヌ様。幻惑魔法です。恐らく執事さんは…いいえ周囲の皆さんは、私達とは違う光景を見せられています。平和な、仲睦まじい私達のやり取りを」
っんな!? 成程それならば得心がいきますの。なにせ爺や、どれだけオルエ様に擦り寄られようが、只控え立つだけですの。ああだとしても爺やをまさぐるのはお止めを! 見ていられませ――ちょっとお待ちを。
「あの御方が幻惑術の精通者ということは承知いたしましたの。なれば、わたくし達こそが幻惑を見せられている可能性は。変わらぬ爺やや周囲の皆々様の様子こそが幻想で、本当は既に魔の手に落ちている可能性はございませんの?」
数万は容易に集まっているこの催事会場を包む、巨大バルーン型のドーム。その中で執り行われる数多のイベント。彼女はそれらの光景を一手に幻想ならぬ幻操なさるサキュバスとお聞きしましたの。
なれば、わたくし達を二重三重に幻に包むことなぞ容易いでしょう。アスト様どうなのですの? この方は本当に信用に値するので?
「えぇっとそれは………………無いと言い切れは……」
駄目じゃないですのぉ! おのれサキュバス! 冒険者ヴィザレーヌが成敗を!
「ですが社長がいますし、そんなことはしないと…あっヴィザレーヌ様!?」
止めないでくださいまし! わたくしの身だけならばまだしも、爺やを狙い、大切な愛しきベーゼ様までその毒牙の内となればわたくし許せはしませんの! 武具はおろか手袋の用意すらございませぬが、いざ堂々ぅにゃぅんっ♡!?
「あらあらあら♡あんまりお姉さんを興奮させないで頂戴ねえ♡ベーゼちゃんのお友達だからって遠慮しているのよ♡そちらからそうしてギンギンな意志で迫られたらぁ♡誘い受けと見做すわよお♡♡♡」
ひっ!? オルエ様いつの間に私の背後に!? されど未だ爺やに絡んで、これも幻影ですのね。おのれサキュバ――ひわわっ!? ど、ドレスに手をねじ込まないでくださいまし!?
止めっ!? 胸の輪郭をなぞるのはんひっ♡!? 下から、尾が!? そ、鼠径部を這うのはっ♡、お臍を尾先で甘く突くのはっ♡、ひううっ♡耳に息が、べ、ベーゼ様ぁ! お助けを――!
「あちあち……! んひゃ~♥この焼き立てイカ、臭くて美味ひ~♥♥♥」
何食べておりますのぉ!? いつのまに串焼きイカなんてっ。ってオルエ様の分身が買って来たのですの!? お待ちをそれ本当にイカですのよね!? もし違いましたら、うぅうアスト様ぁ!!
「やっぱりこうなっちゃった……。オルエさん、これ以上は心証がひゃん♡!? わ、私にまで。うぅんこれもうダメそう。社長!」
止めようと動きだしたアスト様まで、オルエ様の分身に囚われてしまいましたの……! の、残るはミミン様のみ。ミミックであらせられるあの御方であれば、き、きっと……!
「うふふ♡どうしたのミミン♡早くしないとぉ♡私が寝とっちゃうわよぉ♡」
「……はぁ。それが本当の誘い受けなのか、職務で溜まった疲労晴らしなのかはどーだって良いわ。けど、少しやり過ぎね。強めの鞭をくれてやりましょうか。本当はこの場で言いたくなかったんだけど」
机の上で溜息交じらせている場合では!? お早く、でないと…んっ♡はぁっ、寧ろ責め立てが強くなった気がしますのぉ! 急ぎ、急ぎその鞭とやらを!
「あら言葉責めかしらぁ♡うふふそれも良いわねぇ♡貴女の触手鞭に並ぶ、太くてぇ♡長くてぇ♡カタぁい♡一物を♡私に突っ込んでぇ――♡」
「今すぐ止めないと、あんたの少女趣味皆にばらすわよ。今もたまに行ってるみたいじゃない。読み聞かせに、可愛い夢を見にね」
「…………………………え。…………………んんぅッ!?」
わわっ。わたくしを弄りまわしていたオルエ様が消えましたの。爺ややアスト様に絡んでおりましたのも。只唯一、ベーゼ様にイカ焼きを差し上げていた個体のみ残りましたの。
「えぇっと……♡ミミン? その……何処から聞いたのかしらぁ……♡」
「あら。まだあんたは知らなかったの。弟子を溺愛するのは師匠譲りかしらねぇ。あーあ。後で菓子折りでも持って行って差し上げなきゃかしら。それとも、派遣代金暫く無料の方が――むぐっ」
その本物と思しきオルエ様も、ミミン様に飛び掛からんばかりに迫り、小さなお口を塞ぎましたの。胸で。されどミミン様はそれを容易く押し離し。
「『シンデレラ』に『赤ずきん』に『白雪姫』? しかも淫猥に染めずに、大人しく聞いてた? ハッ、
「そ、その……ミミン、私が悪かったわぁ。だから、これ以上は――」
「ベーゼちゃぁん? ちょっと聞いて頂戴な! あんたの師匠、実はねぇ!」
「きゃーっ! きゃーーッ! きゃーーっっっ!!!!!」
嬌声ではない、悲鳴にも似た声を挙げながらもう一度ミミン様へ覆いかぶさるオルエ様。その騒がしさに、周囲の皆々様や爺やも驚いた顔を向けておりますの。どうやら幻影は解けたようで……おや? んなっ!?
「そ、空が……!? 空が、極彩色に!?」
「歪んで、捻じれておりますの!?」
「幻影バルーンドームに異常!? オルエさんが離れたから、というより!」
先程まで鮮やかな青であった空が、急に捻じ曲がり狂いだしましたの!? さながら厚き油を掻き回す水面、黒ずむ闇の虹、別世界へと繋がらんばかりの混沌!
これはよもや、敵襲にございますの!? 反魔派冒険者による工作の類で!?
「あんた幻影魔法操作権は移譲しているんじゃっ、あぁこれアンタが核だからアンタの調子狂うと異常が、わかったわよ! 一旦黙るから落ち着きなさいな!」
きゃっ!? ミミン様がオルエ様を箱の中へと! パクリ食べられれば、数秒の後に空の様子が戻りましたの。何事もなかったように青空へと。そうするとオルエ様が吐き出されまして。
「はぁ……♡私としたことが、イキ叫ぶぐらい乱れてしまったわぁ♡ やるじゃないミミン♡やっぱり貴女は私の、うふふ♡ ごめんなさいねベーゼちゃぁん♡」
「ふえ? なにが? どうしたのししょー?」
恍惚と忸怩が混じった様でベーゼ様の頭を抱き撫で始めましたの。されどイカ焼きに夢中だったベーゼ様は今し方の顛末を耳にすらしておらぬようで。不幸中の幸いでしょうか。
「なんでもないわぁ♡知らぬ陰で実は…♡というのはエッチよねぇ♡ ヴィザレーヌちゃんもごめんなさい♡ベーゼちゃんの親友と聞いて、つい遊びたくなっちゃったの♡もう手は出さないから、フェスティバルーんに乱れまくってねぇ♡」
は、はあ。蓋を開けてみれば、わたくし達に大した被害はございませんでしたの。ですから許して差し上げても良いですの。寧ろ傷を負ったのは、ミミン様にしてやられたオルエ様では。
「ふう♡ それで、ミミン???アストちゃん??? ちょおっと、先っちょだけ♡お話聞かせて貰いましょうかあ♡私と一緒にだぁれもいない♡物陰にまで来てもらうわぁ♡有無は言わせないわよ」
「っは!? なによ本気のオーラ出して!? 悪かったわよ、けどあんたが!」
「わ、私もですか!? 私は何も、ただモルメアさんから……あっ」
むわうっ!? 先程の甘いフェロモンが、勁烈さすら感じるほどに、毒と紛うほどに強く、濃密に!? 怒りの香りとわかるそれを燻らせ、オルエ様はミミン様を抱え、アスト様の尾を尾で捕らえ、行ってしまわれましたの……。
「行っちゃった。ししょー変なの。一緒に遊びたかったのに。ねーヴィーちゃん」
いえ……あのような嵐、わたくしは一度だけで充分でございますの。海泉マリーナへの被災はありませんでしたが、後始末は必須かと。
爺や、『先の変態は一体』みたいな顔しないでくださいまし。説明は面倒でございますし、貴女の貞操を守ったのはわたくしにございますのよ? はあ。性のゲテモノは食のゲテモノで雪ぎましょう。何か追加で、きゃあ!?
「な、なんですの!? 大砲!? もしや、今度こそ本当に反魔派が!?」
突如大空に響いたのは、盛大な砲音。オルエ様の仕業でなければ、これは!
「あ! もうそんな時間!? ヴィーちゃん、残ってるご飯急いで、でも味わって食べきっちゃお♥フェスティバルーんのフェスティバルが始まるよ!」
どうやらまたも杞憂のようでございますの。しょ、承知いたしましたの。ですが……フェスティバルーんのフェスティバルとは一体? 既にお祭りの中ではございませんの?
ベーゼ様、詳細を…なんですのそのニマニマ顔。可愛らしゅうございますの♡