ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 とある女魔法使いの捜索

 

とある街、その片隅。そこに一軒の店があります。といっても、ほぼほぼ露店に近い代物ですけど。

 

ただその店、凄く変わっているんです。営業日、営業時間が全くの未定。いつ営業予定なのかとか、何時ごろ開くのかとかの張り紙すらありません。というか、十中八九閉まってます。

 

しかし、ひとたび開いているのが確認されれば―。

 

「ちょっと、押さないでよ!」

「しっかり並びなさいな!」

 

話を聞きつけてきた女性客が押すな押すなの大行列。喧騒すらも響き渡るほど。ここ、何の店かというと…。

 

「はーいいらっしゃいませー! 『A-rakune』を御贔屓にしてくださってありがとうございまーす! 本日は新作を新作を用意してありますよー!」

 

店員の元気な声が飛んでいます。そう、ここは今話題の女性服ブランド『A-rakune』を売る唯一の店なんです。

 

 

 

着心地抜群動きやすさ最高、来た時に思わず『あっ楽…!』と漏らしてしまうことで有名なこの服。街の女性たちや遠方から駆け付けた女の子達に大人気、中には商家のお嬢様や貴族の方達までお忍びで買いに来るほどなんです。

 

それを売るのは少し怪しげな雰囲気漂わせる女性店員達。全員が少し厚めのベールを被り、貴族が着るそれ並みに大きく、足が全く見えないスカートがついたドレスを着ています。

 

故に彼女達は貴族令嬢の次女三女達か貴族の未亡人達の集まりだと噂されており、半分道楽による営業だとまことしやかに囁かれています。けど、真相は定かではありません。

 

何故なら正体を確かめようと『おいた』をした場合、どこからともなく取り出された白い紐でぐるぐる巻きにされ店の外に放り出されちゃうのです。きっと彼女達は魔法に長けているのでしょう。

 

因みに、列の追い抜かしや購入点数制限を無視した場合なども同じく放り出されます。なのでお客は皆礼儀正しくしています。

 

 

 

そんな『A-rakune』ブランド、少し前まで上に着る服やブラとかしか作っていなかったのですけど…。

 

「えっ嘘! ズボンがある! ワンピースも下着も! 靴下まで!」

「作らないんじゃなかったんですか!?」

 

「えへへ…良いモデルさんを雇い…コホン、要望が多かったので頑張っちゃいました! これからはこういった服も作っていきますよ!」

 

驚いた様子の女性客達に、自慢げに胸を張る店員さん。そう、いつの間にか全身『A-rakune』コーディネートが可能になっていたのです。デザインも勿論素晴らしいものばかり。

 

そのおかげで、客足は更に苛烈に。早い時なんて、ものの数時間で店じまいになることだってあるほど。そんな状況でも店は拡大せず、委託もせずに細々と営業しています。客足は細々どころではないですが。

 

 

 

そして今、そんな盛況な店を遠目で見ているのが私なのです。

 

 

 

申し遅れました、私の名前は『アテナ』。冒険者ギルドに所属する冒険者の1人で、ジョブは魔法使い。結構な腕があると自負しています。そんな私がなぜ『A-rakune』ブランドの店を見ているかというと、一つの目的があるからなんです。

 

今着ている服を見て貰えばわかる通り、私も『A-rakune』のファン。今日も開いているのを聞くや否や飛んできました。

 

そして見事買えたのですけど、実は購入する時に店員さんにとあるお願いをしたんです。

 

 

それは、『冒険者用の装備を作って欲しい』というもの。こんな着心地の良い服、装備に転用できればどれだけ心地よく旅を出来ることか。今はインナー程度にしか使えませんが、防御力を付与できれば…!そう思い打診したのですけど…。

 

「ごめんなさい、そういった装備系は作りたくないの」

 

というのが返ってきた回答。作れない、作らないではなく、『作りたくない』。折角のお洒落な服が魔物の血や汚れにまみれるのは嫌ということなのかな…?。

 

まあそれなら仕方ありません。気持ちはわかりますし。ならばと素材を売ってもらって他の装備職人達に作ってもらおうと画策したですが、素材の詳細も企業秘密といわれてしまいました。

 

ですけど、私は諦めきれません。分厚い魔法使いのローブで旅するの、いい加減嫌気がさしているんです。暑いし蒸れるしゴワゴワだしで。

 

ということで、ダメ元で彼女達の工房に行って直接頭を下げてみようと思いました。しかし場所がわからないため、こうして店仕舞いの様子を待っているというわけなのです。

 

…因みに、私お勧めのコーヒー豆を贈り物として持っていったのですが、「飲むと気分悪くなっちゃう」といった理由で受け取ってくれませんでした。むしろそっちのほうが凄く残念です…。

 

 

 

 

「ごめんなさーい! 今日用意した分売り切れでーす! 本当にごめんなさーい!」

 

申し訳なさそうな店員さんの声が響き、並んでいた人達はすごすごと帰っていきます。そして、店にはするすると幕が。どうやら店仕舞いらしいです。

 

店員さん達がどこから出てくるのか、私は注視して待ちます。しかし…。

 

「出てこない…?」

 

いくら待っても横づけする馬車はおろか、誰一人として出てきません。おかしいなと首を捻り、店の様子を窺ってみることに。

 

「あ。ここ開いてる…」

 

鍵のかけ忘れか、少しの隙間を発見してしまいました。ゴクリと息を呑み、きょろきょろ辺りを見回します。誰も見ていないことを確認し、『おいた』認定覚悟で侵入してしまいました。 …もうただの犯罪、放り出されるだけじゃ済まないかもしれませんけど。

 

 

中の様子は至って普通。至る所に服をかけるハンガーやマネキンが置いてあります。ですが布切れ一片たりとも残ってません。

 

「すみませーん…!店員さんいますかー…!」

 

一応呼んでみますが、誰からも返答はありません。そのままゆっくりと店の奥に進むと、あるものを見つけてしまいました。

 

「これって…!ワープ魔法の!」

 

店の端に隠すように置いてあったのはワープ魔法陣。どうやらこれで出入りしていたらしいです。気づかないわけです。

 

しかし、普通の服屋にこんな魔法なんて…。やっぱり店員さん達貴族なのかな。ならお抱えの魔法使いとか居るだろうし。

 

「まあでも、良かった!これなら行き先がわかる!」

 

普通の盗賊(私は別に盗賊じゃないですけど)ならば、ここで諦めていたでしょう。ですが私は手練れの魔法使い。術式を読めばある程度のワープ先は探れます。

 

「ふむふむ…あれ? 意外に近い…?」

 

 

 

 

 

 

 

「えっ…ここ…!?」

 

術式から読み取ったワープ先へと足を運んだ私。街から少し離れたそこにあったのは広い峡谷。そして―。

 

「ここ、『ア巣レチックダンジョン』じゃないですか!」

 

 

 

私は目を擦り擦り、頭に手を当て記憶を探ります。術式、見間違ったのかな…? それとも隠蔽魔法が施されていたのかな…?両方、あり得るかもしれません。

 

だってここ、アラクネの巣によって出来たダンジョンですもの。服屋がいるわけないです。

 

「ん…?巣…って糸ですよね。服の材料もきっと糸…。いやいや、まさか…」

 

あり得ないことを想像してしまいます。いや、でも…。

 

「…とりあえず潜ってみようかな…。ここ、危険は少ないらしいし…」

 

 

 

 

 

実はこのア巣レチックダンジョン、ギルドからは他の様々なダンジョンとは違う扱いを受けています。

 

深い谷の上に名の通りアスレチックじみた形で形成されているここは、宝物が何一つ無い代わりに魔物がほとんど出ず、主であるアラクネもお腹が空いた時以外は人を積極的に襲いません。

 

更に、猿も木から落ちる…もとい蜘蛛も巣から落ちるのか、谷の下までダンジョン判定が入っています。それにより、私達冒険者が落下死しても復活可能となっています。

 

そういったことから、冒険者達の間では完全に『筋トレ用ダンジョン』として名を馳せている、らしいんです。

 

なんで「らしい」のかって? だって私魔法使いですし。筋トレってあまりしたことなくて。ここに来るのは初めてです。

 

 

 

 

邪魔な装備を預け、簡易装備に。他の冒険者の様子を見ると、小さいバッグに僅かな回復薬と護身用の武器、そしてプロテインを詰め込んでいます。

 

着ているものも筋トレに相応しい動きやすい服のよう。…この『A-rakune』の服で行ってみようかな。多分これ以上に動きやすい服ありませんし。

 

 

 

 

 

「いいよぉ!広背筋が成長してきてる!逆三角形は完成間近!」

 

「ハムストリングムッキムキ!肉屋でも売ってないぞその太さ!」

 

「そのまま腕の力だけでロープを渡り切るんだ!ゴールすれば間違いなくレベルアップ!どんな魔物もワンパンだ!」

 

 

…うるさっ。 ダンジョンに入るなり聞こえてきたのは筋トレに励む冒険者達の掛け声。足場から垂れ下がり懸垂をしたり、硬い紐を足に引っ掛け持ち上げたり、足場が完全にない場所に掛かった紐を腕だけで渡ったりと皆さん中々にハードなトレーニングをしています。落ちたら即死なのに。

 

とりあえず入口でぼーっとしているわけにもいかず、とりあえず最深部を目指し私も足を踏み入れました。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…疲れたぁ…!」

 

大きめに開けたところに出た私は、床にゴロンと倒れてしまいます。峡谷から吹いてくる風と蜘蛛糸の弛みがハンモックみたいで心地よい…。

 

ここまで何時間かかったでしょうか。落下する恐怖に耐えつつ、難関アスレチックを乗り越え結構な深部まで来ました。ここまで来る冒険者は少ないらしく、あれだけうるさかった掛け声も全く聞こえません。

 

服屋の手がかり? そんなものないです。 そもそもこんなダンジョンに服屋がいるわけないですよね、はい。

 

…いや、正直アスレチックが意外と楽しくて…。ちょっと目的を忘れてたというか…。魔法しか使わないジョブだから身体を動かすのが新鮮で…。

 

 

 

 

「…帰ろ」

 

諦めと、それを上回る身体を動かしたことに寄る爽快感を胸に、私は立ち上がります。と、その時でした。

 

 

「おっ!初めて見る顔だな。新入りか!」

「アナタもバンジージャンプをしにきたの?」

 

現れたのは男女のペア。中々にマッチョです。姿こそタンクトップという軽装ですが、何故か大きめの袋を背負っています。

 

「バンジージャンプ…?」

 

首を傾げる私。すると彼らは違うのか、とちょっと驚き説明してくださいました。

 

「ここは知る人ぞ知る、バンジージャンプの名所なのよ。最も、冒険者限定だけど」

 

「まあ見せたほうが早いな。よっと…」

 

と、男性は持っていた袋を少し離れた地面に置きました。ちょっと中身が見えましたが、あれは…。

 

「食べ物…?」

 

「そうよ。依頼料といったとこかしらね」

 

女性の答えに私はますます眉を潜めてしまいます。それを余所に、男性は声を張りました。

 

「おぅい!アラクネ! いつもの頼む!」

 

すると、少しして…。

 

ヒュルルルルッ! ベチョッ!

 

どこからともなく飛んできた蜘蛛糸が食べ物入りの袋を捕らえました。そしてそのままどこかへと引き上げられていっちゃいました。

 

そして次には…。

 

ヒュルルルルッ! ベチョッ!ベチョッ!

 

再度飛んできた幾本もの蜘蛛糸が、男性の身体や足へとべったり。それがしっかり張り付いているのを確認した男性は、近くの隙間から…。

 

「いやっほぉ!」

 

谷の底へと飛び降りて行ったのです!

 

 

 

「ええええっ!? ちょっ、ええええっ!?」

 

自殺まがいの行動に、私は慌てて近くにいる女性に縋ります。すると彼女はニコニコと笑いながら「大丈夫」と答えるだけ。と―。

 

ビシッ ビョーンッ!

 

伸びていた蜘蛛糸が張り、引き戻る。すると同時に、男性の楽しそうな声が聞こえてきました。

 

「ひゃっはぁ! 最高だぜ!」

 

…本当にバンジージャンプしています…。アラクネの糸で…。

 

 

 

「おう、お前も来てたのか!」

 

と、背後から雄々しめの声が聞こえてきました。私と女性が振り返ると、そこにいたのは目出し帽にブーメランパンツという珍妙な出で立ちのムキムキ男性。

 

「あらカンダタさん。アナタも?」

 

知り合いらしく、女性は気軽に挨拶を交わしました。彼女達と同じように食べ物入りの袋を持っていることから、彼もバンジージャンプ志願者のようです。

 

「そっちのは新入りか? ちょいと見せるのは恥ずかしいが…それもまたアリだな!」

 

謎に筋肉をピクピクさせ、カンダタと呼ばれた男性は同じように食料を置きます。そして叫びました。

 

「おぅいアラクネ! 亀甲縛りで頼む!」

 

は…? 大口を開けぽかんとする私を余所に、食べ物入り袋は同じく糸でスルスルと回収されていきます。すると次の瞬間…。

 

ベチョッ グイッ!

 

カンダタさんは蜘蛛糸でどこかへと連れ去られちゃいました…!

 

「えっ…あ、あの…!?」

 

またも私は女性に縋りますが、やはり彼女は大丈夫の一点張り。すると―。

 

「はっはあっ! 快っ感っだぁ! この間より締まりが良い!」

 

…亀甲縛りにされた変態、もといカンダタさんが谷の底に落ちて行ったのです。

 

 

 

 

「…………」

 

何一つ声が出なくなる私。すると女性はよしよしと宥めてくれました。

 

「あの人は変態だから気にしないで。まあ、ああやってバンジージャンプをさせてくれるのよ。アナタもどう?」

 

いや…カンダタさんのインパクトでそれどころじゃありません。というか、魔物によるバンジージャンプなんて怖くないのでしょうか。私がそう問おうとした瞬間でした。

 

ブチィッ!

 

「「あっ」」

 

カンダタさんに繋がっていた糸が思いっきり千切れました。私達は急いで下を見ますが、彼は悲鳴なのか嬌声なのかわからない声を出しながら本当に谷底へと…。

 

「あーあ。カンダタさん、運が悪かったわね」

 

「え、いや、え。放っておいて良いんですか…!?」

 

「どうせ即死よ。知ってる?一瞬で死ねば痛みを感じないのよ。ここならば復活魔法陣で生き返れるしね」

 

「死ぬ危険を承知でやっているんだ。気にしなくて良いぞ」

 

女性の言葉に続き、男性の声。どうやら先にバンジージャンプをしていた彼が蜘蛛糸を手繰り登ってきたらしいです。なんですかこの変態集団…。私はそんなことを思ってしまいましたけど、口には出しませんでした。

 

 

 

「ところでアナタ、その服『A-rakune』ブランドよね」

 

と、女性が話を振ってきます。頷く私に、彼女はにっこりと笑った。

 

「私が着てるのもそうなの! これ本当良いわよね!いくら汗かいても全くべとつかず、ずっとさらさらを維持してくれるから重宝しているわ!」

 

「わかります!これを着て来てよかったです。…あ、そうだ。実は私、今その服を作っている人達を探しているんですけど…。このダンジョンにいると思いますか…?」

 

ハッと目的を思い出した私は、お二人にそう問います。すると2人共『何言ってるんだ?』みたいな表情を浮かべました。

 

「いやいるわけないだろ。ここにいるのはアラクネだけだぞ」

 

「そのアラクネが作っているかもしれない…とかはあり得ませんかね」

 

男性の至極真っ当な回答に、私は一応食い下がります。すると今度は女性は手をないない、と振りました。

 

「それはあり得ないわよ。だってこんなに硬くて強い糸を作る魔物が、こんな柔らかな服を織れるわけないもの」

 

「ま、仮にアラクネが作っていたとしてもだ。筋肉を鍛えさせてくれる魔物に悪いやつはいないさ!」

 

「ね!でも、確かに外のキャンプ辺りに服屋は欲しいわね。汗かいた服の代わりなら皆欲しているもの!」

 

わいわいと盛り上がる2人。 …聞く相手を間違えたかな…。いえ、誰に聞いても同じ回答が返ってくるでしょう。おかしいことを考えているのは私の方なんですから。

 

 

 

 

「あれ…? あそこにも穴が空いてますけど、奥まだ続いているんですか?」

 

そんな折、私は奥の方に通路らしきものを見つけ、お二人にそう問います。

 

「あぁ、あっちは粘着糸まみれだ。きっとアラクネの棲み処だろう」

 

「行っても食べられるだけよ」

 

軽く忠告をしてくださったお二人は、時間が惜しいとばかりにバンジージャンプを始めました。

 

もしかして、この奥に何かあるかも…!そう思い立った私は消音魔法等をかけ抜き足差し足、そちらのほうへ。女性の方が糸をつけてもらっている隙を突いて…。粘着糸でも、抵抗魔法でなんとか凌げば…!

 

 

 

 

 

 

「ひぃ…ひぃ…ひぃ…もう…動きたくない…」

 

私、頑張った…。多分今までの人生の中で一番頑張った…!というかこれからの人生分も運動した気分です…! 

 

もはや人が通れる道でない場所をひたすら進んで最深部らしきとこまで来ました。運よく、アラクネには見つからずに。ですがもう、魔力は完全に枯渇してます。目も疲れからか霞んできました。帰れないかも…。

 

しかしそんなことより、凄いものが目の前にあるんです。

 

「何…?この巨大な蜘蛛の巣…」

 

そこにあったのは、壁と見紛うほどに大きな大きな蜘蛛の巣。しかも分厚く、反対側が見通せません。まるで何かを隠してるかのような…。

 

全身パンパンになった身体に鞭打ち、半ば這いずるようにその場へ。そして適当に触れてみると…。

 

「開いた…!?」

 

なんと、巣の一部がスルスルスルと持ち上がったのです。

 

おっかなびっくり、侵入を試みます。と、中に入るやいなやー。

 

 

「良いよ〜!似合ってる!ボディライン完璧!」

 

「もうちょい胸を大きくしてくれる? おー。ちょっと過激な下着だけど、いい感じにジャストフィット!」

 

「そのタイツの履き心地どう? ズレはない? よしよし!」

 

あれ…?さっき聞いていたような筋肉的掛け声のようなのがここでも…!?でも、何か違うような…。

 

霞む目を凝らすと、そこにいたのは沢山のアラクネ達。そして…。

 

「囲まれているのは人間達…?いや魔物達…?宝箱から立ち上がってるの…?」

 

まだ微妙に垂れている蜘蛛の巣のせいでよく見えず、もうちょっと近づこうとした…その時でした。

 

「おっと」

ギュルッ!

 

瞬間、近くにあったらしい宝箱から謎の声と共に出てきたのは触手。それによって私の身体はぎっちり縛りあげられてしまいました。しかも視界が完全に塞がれて…。

 

「ぐえぇ…く、苦しい…」

 

魔力切れ、そして疲れた体ではどうすることもできず、ミシミシと締め付けられ窒息寸前。そんな今際の際、私はその触手の正体をなんとか見定めました。

 

「な…なんでこんな場所に上位ミミックが…? …ガクッ」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

冒険者を仕留めた上位ミミックは、その死体を床に置くとほっと安堵の息を漏らした。

 

「ふう!危ない危ない。アストちゃんの指示通り警戒していてよかったぁ」

 

と、騒動を聞きつけたアラクネ達、そしてモデルをしていたミミック達も彼女の元に近寄ってきた。

 

「わ、ほんとに人間じゃない!ここまで来た冒険者はこの子が初めて! あら?この子、私達が作った服を着てるわね」

 

「まさかここが工房だって気づいて? 凄い執念ですね」

 

わいわい話合う彼女達。そんな中、死んだ冒険者の顔を覗き込んでいたアラクネの1人があることに気づいた。

 

「あれこの子、店開いた直後に来た人間ね」

 

「え?…あ、ほんとだ。確か『冒険者用の装備を作ってください』って言ってきて、コーヒー豆をくれた…。ごめんねー、私達ってコーヒー飲むと酔っぱらっちゃって上手く糸編めなくなっちゃうのよ。お詫びに今度、魔法使いのローブっぽい服を作ってあげるね」

 

既に魂無き冒険者にそう謝ると、アラクネ達は何事もなかったかのようにミミック達によるファッションショーへと戻っていった。

 

 

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