ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 あるパーティーへの蝸牛

 

 

ゲロゲロゲロゲログワッグワッグワッ 至る所でカエルが鳴いている。このダンジョンは彼らにとって天国なのか、どこはかとなくウキウキした鳴き声のような気がする。

 

「雨季が終わりかけだってのに、なんでまたこんな…」

「というか今日は街で食べ歩きする予定だったじゃん…!」

「なんでリーダーこの依頼受けちゃったんですか…」

 

その一方、はああ…と大きく溜息をつくのは雨がっぱ装備なパーティメンバーの女の子達。剣士、召喚士、魔法使いの彼女達はウシガエルのようにもう…、もう…と不平不満を言っている。だってその約束忘れてたんだもん…。

 

 

 

 

俺はギルドの冒険者。4人パーティのリーダーをしている。まあ俺以外のメンバーは全員女の子だから、時たまちょっと雑な扱いを受ける。

 

今も必要な荷物をほとんど持たされている。…いや、今日に限ってはそうしないと皆来てくれなかったからなんだけど。

 

 

そんな俺達は、商人の依頼を受けて『雨期雨期ダンジョン』というダンジョンにやってきている。常に雨降りなここに来る以上、全員が雨がっぱ装備で雨を弾く魔法を付与して臨んでいる。

 

「雨の時って気分憂鬱になりません?」

「わかる。私、ここに入ってからちょっとお腹痛い」

「せっかく街でタピオカ食べようと思ってたのに…」

 

雨の中仕事をするのは誰だって嫌なことだけど、仲間達のテンションがやけに低いのはそれが理由ではなさそうだ。

 

「なんでよりにもよってこの、カエルとカタツムリとナメクジまみれのキモいダンジョンなのよ!」

 

仲間の1人の召喚士はブチギレ気味。俺は意外とカエルとか好きなんだけど、女の子達には不評中の不評。今日はここに行くと伝えた瞬間の彼女達の顔は泣き出しそうなほどだった。

 

「粘液採集は断ったから我慢してくれよ」

 

一応言い返す俺。彼女達が最も嫌う、ナメクジとかのヌメヌメなアレの回収クエストは皆の事を思って(実際は背に皆からの無言の圧を受けて)拒否したのだ。感謝してほしい。

 

「卵とかもでしょうね…!」

 

「そうだよ。ダンジョン奥地に生える薬草採集だけだよ。魔物と自主的に戦う依頼は無いから」

 

しつこく聞いてくる召喚士へ雑に返す。ん…そういえば…。

 

「なあ、お前達が好きなあのタピオカっての、カエルのた…」

 

ジャキッ!

 

「…なんで3人共武器こっちに向けるんだよ…!」

 

「それ以上言ったら」

「いくらリーダーでも殺します…!」

「なんならダンジョンの外でね…!」

 

俺何か悪い事言ったか…!? 魔物に向ける時以上の殺気出てるんだけど…!!

 

 

 

 

 

 

 

「…もう。大体リーダー、なんでこの依頼引き受けたんだ?」

 

怒り心頭の彼女達をどうにか収めた俺は、仲間の1人の剣士から白い目で問われた。

 

「最近ここのダンジョンの攻略率が著しく低くなったみたいでさ。普段の倍近くの報酬を見せられちゃって…」

 

仕方なしに正直に答える。要は金に目がくらんだのだ。他の仲間二人も、むくれたまま話に参加してくれた。

 

「なんかダンジョン内の何かが変わったんですかね?」

 

「見た感じは何も変わってないみたいだけど…」

 

辺りをきょろきょろ見回す仲間達。だが特に変わった様子は見受けられない。そもそも雨のせいでそこまで遠くまで確認できないのだけど。

 

「…気のせいか? なんだかナメクジの数が極端に少ないような…」

 

「そういえば…」

 

何か気になることを見つけたらしい剣士と魔法使いは首を捻る。言われてみれば確かに。カエルより機動力が低く、カタツムリより殻がない分倒しやすいナメクジは粘液採集の相手として一番良いのだけど…。狩られ過ぎたのか?

 

いや、きっと草木の裏に隠れているんだろう。あいつらの戦闘スタイルは奇襲が主だし。

 

 

「カタツムリのほうが可愛いから良いわよ。さっさと薬草採集して帰りましょう」

 

今回は粘液採集がないと聞いたからか、安心した様子で道をずんずんと進む召喚士。と、その直後…。

 

ボヨンッ

 

「むがっ…!?」

 

何かにぶつかったらしく、彼女は弾かれ地面へ尻もちをついた。

 

「あいたた…なんでこんなとこに壁が…あっ…」

 

顔をお尻を労わりながら立ち上がる召喚士はそこで気が付いたのだろう。パシリと慌てて口を抑える。目の前にあるのは壁ではない―。

 

「やっば…カエルじゃない…」

 

ボソリと呟く召喚士。道のど真ん中でずっしり座っているのは数mはある巨大なカエル。幸い、うとついているらしくぶつかられた事には気づいていない。

 

「…。」

「…! …。」

 

俺は皆に目だけで指示を出し、カエルの周りをぐるっと迂回させる。運の悪いことに顔の正面を通るしかないが、音を立てなければ…!

 

「ちょ、ちょっと待って…!」

 

1人乗り遅れた召喚士は少し慌てたように俺達の後を追いかけてくる。が…。

 

ズルッ

「べうっ!?」

 

顔から泥にツッコむようにすっ転ぶ召喚士。ベシャアッと酷い音も。まあそうなればどうなるかは明白で―。

 

「ゲロッ!」

ベロリッ バクンッ

 

召喚士は目覚めてしまったカエルの口の中へ連れ去られてしまった。

 

 

 

 

 

「うええええ…べとべとぉ…」

 

先程の道から少し離れた巨大な葉の下。カエルの涎まみれになった召喚士はこの世の終わりかの様な表情を浮かべていた。

 

即座に俺達がカエルの腹を叩き、無理くり吐き出させたのだ。寝起きだったからか効果は抜群だった。

 

…でもやったぜ、これが見たかったんだ。涎まみれ粘液まみれになるパーティーメンバー見たさにこの依頼を引き受けた節すらある。雨と涎のおかげで雨がっぱすらも彼女の身体に張り付いてエロい感じに…!俺の心はウキウキに。ウキウキダンジョンだ。

 

おっと平常心平常心。顔がにやけているのバレたら手ひどく引っぱたかれてしまう。俺は誤魔化すように召喚士に慰めの言葉をかけた。

 

「まあほら、泥はカエルが拭ってくれたから良いじゃないか」

 

「良くないわよ! もう帰る…」

 

「カエルなだけに?   ちょ、わかった悪かったから詠唱始めないでくれ!」

 

 

 

 

「リーダー、召喚士。時間だ」

「来ました…!」

 

と、見張りをしていた剣士と魔法使いの声が飛ぶ。俺と召喚士は急いで立ち上がりその場を離れた。このダンジョンの葉の陰は雨宿りに最適だが、気をつけなければいけないことがある。

 

ドシャァッ!

 

俺達が居た位置に、何かが押しつぶさんと落ちてくる。ここの巨大ナメクジがとる奇襲戦法である。だが警戒していればなんていうことは…。

 

「あれっ? カタツムリじゃない」

 

落ちてきたのはナメクジじゃなく何故かカタツムリ。俺達は眉を潜める。似てるから同じ戦法をとってものもおかしくはないけど…。

 

「ナメクジだったら粘液採れたかもしれないが、カタツムリだと面倒だ。リーダー、ここは…」

 

「あぁ。無視するか」

 

奇襲後で隙が出ているナメクジならまだしも、硬い殻持ちのカタツムリは倒すのが手間。俺達は回れ右して目的地であるダンジョン奥の城へと走った。

 

「なんかあのカタツムリ、殻がおかしいような…?」

 

ただ一人魔法使いだけは首を捻り続けていたが。

 

 

 

 

 

 

「ふいぃ…!やっと到着したわね」

 

襲ってくるカエルたちから逃げ続け、どうにかこうにか城の中へ。バレないようにゆっくり進み、ようやく目的の薬草が生える植物エリアにたどり着いた。

 

「ちょうど警備のカエル達はいないな」

「チャンスです…!」

「カエルに食べられかけた分、貰っていくわよ…!」

 

歩いている最中とは違いやる気満々の仲間達。我先にと駆けていく。あの薬草たちが黄金の山のようにみえているのかもしれない。

 

「そういえばここのダンジョンの主って元人間って噂よね」

「あのカエルの王さまですよね。かなりのイケメンらしいです」

「お伽噺なら愛する者のキスで呪いが解けるというのが相場だがな」

 

花や草木をひとつひとつもぎ取りながら談笑する3人。もはやここがダンジョンの奥地だということを忘れている様子である。俺も一つ乗っかった。

 

「じゃあお前達の誰かがキスしてやればいいんじゃないか?」

 

「「「……」」」

 

一斉に黙りこくった。皆嫌ということらしい。普段カエルとかに食われているくせに。

 

 

 

 

 

「ん? なんだこの宝箱?」

 

そんな中、剣士が何かを発見する。俺達も横から覗いてみると、そこにあったのは謎の宝箱。とりあえず開けてみることに。

 

「空ですね…。あれ、中に何か…?」

 

魔法使いはしゃがみ込み、箱の中を覗き込む。その瞬間―。

 

ベタァッ

「きゃあっ!?」

 

可愛らしい声をあげ、飛び退く魔法使い。何事かと思えば、彼女の顔に赤と青の毒々しい感じな小さおカエルがついていた。…いや普通サイズなんだけど、外のカエルを見てくるとどうも…。

 

「ほら落ち着いて、とってあげるから」

 

俺は手を伸ばしカエルを掴もうとする。と…。

 

「待って!触っちゃ駄目!」

 

突然召喚士が俺を抱き止める。一体何ごとなのかと問おうとした時だった。

 

「あばば…あばばばばばば…」

 

魔法使いはふらつき、バシャンと床に倒れる。見ると、顔が完全に真っ青になって泡を吹いているではないか。

 

「あの色、宝箱に生息し飛び出して攻撃…。間違いないわ!あれはミミックの一種『宝箱ガエル』! 回復魔法無効の強力な毒を分泌するヤバい奴よ!」

 

「くっ…!」

 

急ぎ剣士が剣を振るが、カエルはぴょんとジャンプし回避。宝箱の中へ。すると…

 

「ケロケロ」

「ケロケロ」

「ケロケロ」

 

更に何匹も現れたではないか。俺達は回れ右、ダッシュで逃げた。魔法使い、ごめん…。 が―。

 

 

 

ドスンッ ベシャッ ベシャッ

 

部屋を出る前に立ちふさがったのは騒ぎを聞きつけやってきたここの守護兵。大きなカエル、大きなカタツムリ、大きなナメク…

 

「む? カタツムリが二匹?」

 

剣士がハタと気づく。普通ならばカエルとカタツムリとナメクジがセットなのだけど、今回はカエルと二匹のカタツムリのセット。

 

でも、都合がいい。奇襲の心配がないということだ。こっちには秘策がある。

 

「召喚士、頼んだぞ!」

 

「任せて!」

 

俺の呼びかけに召喚士は詠唱を開始する。そして、ポーズを決めて召喚した。

 

「ジャイアントスネーク、召・喚!」

 

「シュルルルル…!」

 

呼び出されたのは巨大な蛇。牛程度ならば丸呑みできるほどに大きい。だが別に戦ってもらうために呼び出したのではないのだ。

 

「「「「―!」」」」

 

カエル、カタツムリ達、ヘビは見つめ合いビタリと動きを止める。これぞ三竦み(いやこの状況だと4竦みか?)。これでもう襲い掛かられる心配はない。

 

しかしそれだけでは足りない。カタツムリたちの身体が出口を塞いでいるのだ。だけどそれも問題ない!

 

「剣士、ほいっと!」

 

俺は背負っていたバッグから抱えるサイズの袋を取り出し剣士へと投げ渡す。そして自分の分としてもう一つ取り出し…。

 

「「そーれ!」」

バサァッ!

 

袋の中身をカタツムリたちへぶちまける。すると、彼らの身体はどろどろに溶け始めた。そう、これは塩。カタツムリたちはみるみると縮み、入口までの道は開かれた。

 

これで良し。ナメクジ枠が弱ったことで、召喚した蛇がカエルを倒すだろう。あとは魔法使いを回収して帰るだけ。死んでなきゃいいけど…そう思いながら彼女の元へ戻ろうとした、その時だった。

 

ゴロンッ

 

「「「へっ…?」」」

 

謎の異音に俺達は振り向く。なんと、一匹のカタツムリの背から殻が転がり落ちているではないか。唖然とする俺達を余所にその殻はゴロゴロと蛇の方へと向かい…。

 

ギュイッッ!!

「シャァッ…!?」

 

一瞬にして蛇を絞め殺した。そう、()()()()()のだ。…なんで殻の隙間から幾本もの触手が…!?

 

ゴロロロロロッ!

 

「こっち来たぁ!?」

 

蛇を仕留めるや否や、方向転換しこちらへと向かってくる巨大なカタツムリの殻。逃げる暇すらなく、俺達はボウリングのピンのように吹っ飛ばされた。特に俺は…。

 

バクンッ

 

カエルの口の中にストライク。野球の意味の。駄目だこれ、逃げ出せない。諦めて復活魔法陣に還るしか…。

 

でも…あの殻、なんだったんだ…? いや外れたんだから殻じゃない。殻に擬態した何か…。

 

「擬態…。ミミック…!?」

 

いやまさか、あの殻の中身はミミックだったのか!? そういえば見覚えある触手な気がする。もしかして、カタツムリのはずが片方はナメクジだったということか…?

 

ならさっき奇襲をしかけてきたカタツムリも理解できる。あれもナメクジだったのだろう。酷い、殻の有無が誤魔化されたらどっちがどっちかなんてわかるわけないじゃないか…。あ、呑み込まれ…。

 

ゴクリ ケプッ

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

冒険者を全て食べたカエルはケロケロと一鳴き。小さくなったカタツムリとナメクジを咥え近くの水辺へと。

 

巨大殻入りミミックもその横にピタリと止まり、ナメクジ達が回復するのを待つ。むくむくと元の大きさに戻ったのを確認し、ミミックはナメクジの背にペタリと張り付いた。

 

かくしてカエル、カタツムリ、そして本当はナメクジの擬態カタツムリは警備へと戻っていった。

 

 

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