ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 とある王様と輝夜

 

 

「ミカド様、到着いたしました。ここが噂の『お月見ダンジョン』でございます」

 

「うむ、くるしゅうない」

 

案内の付き人と共に、麻呂(まろ)は馬車から降りる。ほう…魔物共のダンジョンにしては案外手入れされている。

 

 

麻呂は小国ではあるが、日出ずる国として周辺諸国に名を馳せている国の王。だが今は日は出ていない、月輝く夜である。

 

そのような時間にやってきた場所は、とある地にある兎の獣人達によるダンジョン。とはいえ洞窟や巨大建造物ではなく、ちょっとした村のような様子ではあるらしいが。

 

この間の茶会時、配下の者達がここについて噂していたのだ。年にこの時期のみ、開くダンジョンがあると。そこでは美味な餅や団子を食せ、宝探しに成功すれば麗しき佳人に幸運の加護を与えて貰えると。

 

ならば、一度訪ねて見よう。そう考え遠路はるばるここまできたのだ。

 

 

 

 

 

「いらっしゃーい! こちらのお団子はサービスだぴょん!」

 

…開幕面食らった。敷地に足を踏み入れるや否や、ぴょんと跳ねてきたのは快活美女なる兎獣人。とはいっても毛が生えているのは手先足先、耳と尾だけの亜人風味ではある。

 

そんな彼女の手には、紙船に包んだ串団子が。

 

「―! 魔物風情が! この御方をどなたと心得る! 畏れ多くも…」

 

「これ」

 

怒声を放つ付き人を麻呂は窘める。お忍びで来ているのだ、下手に名乗り人を集めても困る。それに、魔物に人間の権力が効くわけがなかろうに。

 

「ぴょん? 誰かわからないけど、喧嘩沙汰は駄目ぴょんよ? もし何か悪さをしたら追い出しちゃうし、復活魔法陣送りにもしちゃうぴょんよ!」

 

「あぁ、心得た。ところで、ここの主に会いたいのだが…」

 

「ぴょ! お姉…ゴホン、カグヤ姫様のことぴょんね! なら『宝探し』に挑戦するぴょん!」

 

こっちこっちー!と飛び跳ね案内をしてくれる兎獣人。ついていくことにしよう。

 

しかし、貰った団子をどうすべきか。食べ物を立って食したことは無いのだが…。まあ、構わんか。どれ一口…。

 

「! ほう! 美味いではないか! 麻呂付きの菓子職人の腕を軽く超えておる!」

 

 

 

 

「美味しいお餅だよー! つきたてほやほや!」

「お団子各種揃ってるよ~。みたらし、あんこ、三色、焼き!」

 

道なりに歩いていると、まるで茶屋通りのような場所に出た。どの店も冒険者や村人、他魔物で盛況。夜だというのに昼間のようである。誰かが零した団子でも狙っているのか、パタタと鳥さえも羽ばたいている。

 

…ふむ。辺りを見回してわかった。いやもっと不可思議になったというべきか。

 

「兎獣人よ」

 

「ぴょん?」

 

前を歩く彼女に声をかけ、麻呂は一つ問うた。

 

「なぜ、そち達兎獣人達は、そんな服を着ているのだ? 確かそれ、『バニー服』というやつであろう。賭場や花街でよく着られている…」

 

どこを見ても、兎獣人達は総じて食い込みが激しいあの服を着ているではないか。兎は性欲が強いと一説に囁かれているが、もしや…。

 

と、訝しむ麻呂に向け、案内の兎獣人ははあああと強い溜息をついた。

 

「またその質問ぴょんね…。これは私達バニーガールの伝統衣装ぴょん! そんな変態な物と一緒にしないで欲しいぴょん! アンタら人間がパクッてそういう扱いにしたんぴょん!」

 

「そ、そうか…。すまなかったすまなかった。そう怒らんでくれ」

 

言われてみれば、確かに和服の腕袖や前合わせなどと組み合わさった和装の出で立ちばかり。伝統着らしさはある。

 

 

全くもうっと頬を餅のようにプクリと膨らませ怒る兎獣人。どうにか機嫌を直してもらえまいか…。

 

「詫びに団子でも奢ってやろう」

 

「ほんとぴょん!?」

 

…随分容易に機嫌治った。宮中の者達もこうだと楽なのだが…。

 

 

 

 

 

 

一軒の茶屋に入り、幾つか品を頼む。ふと空を見上げると、煌々と輝く月で玉兎が餅をついておる。今宵も良き夜だ。

 

カタン カタン

 

と、妙な音が背から聞こえてくる。気になりそちらを振り向くと…。

 

「―! なんと…!?」

 

団子が乗った三方(さんぼう)が飛び跳ねて来たではないか!?

 

 

コトンッ 

 

麻呂の隣に見事着地した三方。だというのに団子や餅の盛りが崩れていない。あな不思議。

 

「兎獣人よ、これは…?」

 

「今更だけど私の名前は『イスタ』っていうぴょん。それはね…出ておいでっぴょん!」

 

イスタがポムポムと手を叩くと、三方がカタカタと小さく揺れる。そして、下に空いている小さな穴から…。

 

「シュルルル…」

 

兎耳をつけた、赤と青の奇妙な蛇が姿を現した。

 

 

 

「なっ…!? ミカド様!お離れを! そいつは『宝箱ヘビ』! 箱に潜み人を襲う、麻痺毒持ちの魔物です!」

 

付き人は慌てた様子で刀に手を持っていく。が、イスタはまあまあとそれを止めた。

 

「大丈夫ぴょんよ。茶屋のお手伝いしてもらっているだけぴょん。ねー?」

「シュルルゥ♪」

 

仲の良い様子の兎と蛇。ふむ…ならば安全やもしれぬ。

 

「蛇よ、そちも団子食べるか?」

「シャ!」

 

おぉ…麻呂の手を噛まないように、慎重に団子を咥え呑み込んでいった。どれ、麻呂も一つ。

 

「ふぅむ…! 餅も団子も美味なり美味なり。 のぅイスタよ、これらを土産に貰うても構わぬか?」

 

「勿論ぴょん! どれくらいいるぴょん?」

 

「そうさな…。とりあえず、この茶屋にある餅やら団子やら全部は。馬車を待たせている、積んでおいてくれ」

 

「ぴょんっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがカグヤ様のお屋敷ですぴょん!」

 

明らかに敬語になったイスタに連れられ、たどり着いたのはダンジョン最奥。そこに構えられていたのは、大きな屋敷であった。…まあ麻呂の屋敷のほうが何十倍もあるのだが。

 

周囲からは高らかに歌う虫の音と、ぺったんぺったんと餅をつく音。どれ、どんなふうに餅をついて…。…!? 宝箱が臼の上で飛び跳ねておる…!?

 

「どうしましたぴょん?」

 

「…はっ。いや、あれは…?」

 

「あぁ、ミミック達ですぴょん。餅つきのお手伝いもして貰っているんですぴょん」

 

…なるほど、菓子職人が出来る技ではない。というか、宝箱の中にいる女魔物も律儀に和風バニーを纏っておるとはな。

 

 

 

 

「カグヤ様! 加護を授かりたいという方がいらっしゃいましたっぴょん!」

 

とある部屋へと案内され、御簾(みす)の仕切りは開かれる。と、そこにいたのは…。

 

「―!!!」

「…!!!」

 

麻呂も、付き人も思わず言葉を失ってしまった。そこに座っていたのは、十二単を纏った絶世の美人。月光に照らされ…否、まるで自身が輝いているかのような…!

 

一体この様相をどう形容すればよいのだろうか。そう、『屋の内は暗き所なく、光満ちたり』とすらいえるほど。人間離れした美しさ…あぁ、そうか。人間ではないのだな。魔物であった。

 

 

 

「遠路はるばる、(わたくし)のダンジョンに来ていただき感謝いたします」

 

恭しい所作で頭を下げるカグヤ。と、顔を少し戻し言葉を続けた。

 

「ですが、幸運の加護の付与には条件があります。このダンジョンに散った5つの宝物、『御石の鉢』、『金銀の玉の枝』、『燃えぬ皮衣』、『龍の首の珠』、『燕の子安貝』。それらをお集めくださいませ」

 

彼女が再度深々と頭を下げると、御簾はスルスルと降りる。その後、イスタからルール説明を受け屋敷から出るまで麻呂達は言葉を話せなかった。それほどまでに、カグヤは美しかった。

 

 

「…いかがいたしましょう、ミカド様」

 

「決まっておるだろう。探す」

 

あの麗しさ、何にも代えがたい。もう一度会えるならば、宝探しなぞ何の苦でもない。そして…魔物だろうが関係ない。あわよくば彼女を我が宮へと…!

 

「一旦本日はお帰りになって、偽物を作るという手段や、人足を集め一斉に捜索をするという方法もございますが…」

 

「ならぬ。彼女の気を損ねるのは目に見えている。それに子供もクリアできる難易度と言っていた。急ぎ見つけようではないか」

 

 

 

 

 

 

 

貰った地図を頼りに、捜索を進める。まず辿り着いたのは大量の岩が転がる岩場。

 

「ここに『御石の鉢』があるようですが…。形もわからぬものをどう探せば…」

 

「そうでもない。麻呂は聞いたことがある。昔、とある覚者が持っていた石鉢がその名であったことを。確か、葉に乗った朝露ほどに小さい光が灯っておると。いくら月が照っているとはいて、夜だ。容易に見つかろうぞ」

 

付き人を置き去りにし、岩場へと昇っていく。と、その頂上に…。

 

「おぉ、あるではないか」

 

呆気なく、僅かに光る小さな石鉢を見つけ拾い上げる。と、その時だった。

 

パカッ

「む…?!」

 

鉢が落ちていた横の岩が開く。箱のように。中から出てきたのは和風バニーを纏った女魔物であった。

 

「せいかーい! それが『御石の鉢』でーす! 持ってっちゃって!」

 

「あ、あぁ…」

 

「さ、次はどこに置こうかなー」

 

唖然とする麻呂を余所に、女魔物は岩の中から御石の鉢を一つ取り出し、器用に飛び跳ね別の岩場へと。直後、息せき切って付き人が追いついてきた。

 

「ご無事ですかミカド様!? あれは上位ミミックにございます! 見つかれば命が無い噂の、ダンジョンに棲む魔物なのです!」

 

そうだったのか。そんな恐ろしい魔物には見えなかったが…。

 

 

 

 

 

次に来たのはススキ生い茂る地。夜風にさらさらと揺れており、まるで稲穂が実った田んぼのようにも見える。

 

「ここは『金銀の玉の枝』ですが…」

 

「うむ、明らかに怪しい箇所があるな」

 

少し離れたところに、月の光をものともしないほどに輝く物が。ススキを分け入りそこへと赴くと…。

 

「おぉ、これはまさしく『金銀の玉の枝』!」

 

「…というより、『金銀の玉の低木』ではないでしょうか…?」

 

そこにあったのは、真珠の実をつけた金銀細工の枝…の集合体。針鼠に見えなくもない。

 

これを折って良いものか、そう躊躇っていると…。

 

カパッ

 

低木が…割れた…!? いや、違う。これは低木ではない。箱だ…! 枝がくっつきすぎてわからなかった。

 

と、開いた箱の中からぬるるんと出てきたのは一本の触手。それを見た付き人は麻呂の前に出た。

 

「お下がりを! これもまたミミックにござります!」

 

警戒する付き人を余所に、触手は自らの箱についた枝に手を伸ばす。内一本をスポンと抜き取ると、スッと差し出してきた。

 

「くれるのか?」

 

「罠かもしれません、僭越ながら私が…」

 

付き人は恐る恐る受け取る。すると触手は何事もなかったかのように低木化し、ススキの茂みの奥へと走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

3番目に辿り着いたのは、大きなかがり火…キャンプファイヤーが焚かれている広場。そこには―。

 

「…ミカド様、あれもミミックに…」

 

「見ればわかる…」

 

かがり火を囲むように、宝箱が踊っている。牙や舌が火に照らされ良く見える。

 

ここは『燃えぬ皮衣』のはずだが、どこに…。

 

「む…?」

 

麻呂達の姿を見止めたのか、ミミックの一体が踊りの輪から抜け、かがり火へと。そしてそのまま…。

 

「火に飛び込んだ…!?」

 

いくら箱とはいえ魔物、火にくべられたら燃え死ぬに決まっておろう。何をしているのだあれは…。

 

ピョーン トスン

 

…!? 火の中から跳躍し飛び出しただと!しかも火はおろか、焦げすらついていない。もしや…。

 

「そこなるミミックよ こちらへ」

 

軽く手招きすると、火から出てきた宝箱は嬉々として寄ってきた。と、直前で停止。くるりと後ろに1回転した。

 

すると、宝箱の周りから薄い衣のような物がフワッと脱げる。付き人がそれを拾い上げた。

 

「ミカド様、これには火を弾くまじないが施されてあるようです」

 

やはり、これが『燃えぬ皮衣』か。ミミックはカパンカパン蓋を打ち鳴らし、近場の小屋へと。少し経ち、新しい皮衣を纏って踊りの輪へと戻っていた。あ、また火の中に。あれ、楽しんでおるのか…。

 

 

 

 

 

さて、『龍の首の珠』を貰いに地図に示された池のほとりへと来たのだが…。

 

「龍、三体おりますね」

 

「あぁ。そのようだな」

 

池を囲むように石造の龍が三体、水を吐いている。そのどれもに、首には手のひら大の宝珠が。

 

「とりあえず、一つ取り外してみるとしよう」

 

手を伸ばし、宝珠を掴んでみる。するとポコンと簡単に外れた。よし、これでこの場は確保…。

 

パカッ

 

…宝珠が開いた。中には『ハズレ』と書かれた紙を咥えた赤と青の蛙が。聞くまでもないが…。

 

「のう、こやつも…」

 

「『宝箱ガエル』でござります。麻痺毒持ちの」

 

 

自ら宝珠を閉じ、チャポンと池の中に落ちる蛙。ということは後は二択。では、こちらをポコンと。

 

ブウウウウ…

 

虫のような羽音を立て、宝珠が勝手に飛び上がる。空中で浮遊し、くす玉のようにパカッと。

 

「『ハズレ』か。残念。 ちなみにこやつは?」

 

「『宝箱バチ』という種でございますね。えぇ、ミミックです」

 

 

 

 

 

 

当たりの宝珠を貰い、その場を後にする。少し見ていたが、蛙達は池の底に沈めてあった追加宝珠を引っ張り上げ、池の真ん中にある蓮の葉の上で次どこに嵌るかのシャッフルを始めていた。

 

さて、残りは一つ。『燕の子安貝』。どこにあるか、地図を確認せずともわかる。

 

 

 

 

「はーい!出来立てのお汁粉だよー!」

「大人気ウサ耳団子! 美味しいよ!」

 

戻って来たるは茶屋通り。先程ここを通った際、極彩色の青と赤をした奇妙な燕を見ていたのだ。あれがそうであろう。それに、燕ならば人の居るところに巣を構えるものである。

 

「巣は…おぉ、あったあった」

 

数多の茶屋の屋根を見上げながら歩いていると、さっそくとある軒下に一つ発見せしめた。だが…

 

「ふむぅ…。届かんなぁ」

 

当然ながら、手では届かない。幸い梯子は立てかけられている。これに登って…。

 

「あ、丁度良いところに! 旦那さん、お餅とお団子、馬車に積み込み終えましたよ!」

 

と、聞こえてきたのは聞き覚えがある声。見ると、ひょっこり顔をのぞかせていたのは先程寄った茶屋の兎獣人。

 

「あ、旦那さん宝探し中ですか? じゃあ全部買ってくれたお礼に教えてあげちゃいます!上の巣は偽物です。ハズレと下矢印が彫られた燕石しか入ってませんよ」

 

「なんと! 下矢印ということはつまり…」

 

視線をおろし、地面付近を見る。そこにあったのは古ぼけた宝箱。気づかなんだ。それを開けて見ると…。

 

「「「チュビッ!」」」

 

何羽もの燕が入っていた。子安貝を咥えて。

 

「その子達『宝箱ツバメ』といって、本来は宝箱の中を巣とする鳥みたいなんですよ。因みに外敵が箱を開けると、瞬時に飛び出して鋭い嘴で切り付ける『ツバメ返し』という技を使うみたいです」

 

なんとまあ。ミミックというのは案外種類が豊富なものだ。とはいえこれで五種の宝は揃った。いざカグヤの元へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉっ!? 早いですぴょんね!」

 

再度ダンジョン最奥の屋敷。イスタは驚き耳をピンと立たせた。

 

「カグヤに合わせてくれたまえ」

 

「勿論ですぴょん。でも今、先に集めた人がカグヤ様に加護を授かっているからちょいと待っててくださいぴょん!」

 

沸き立つ気持ちを押さえつつ、屋敷の一角に腰を下ろし順番を待つ。と、その時だった。

 

ゴスンッ!!

 

「―!? 何事だ!?」

 

謎の落下音に思わず立ち上がる。音が聞こえてきたのはカグヤがいる部屋。駆け付けようと足を踏み出すが―。

 

「大丈夫ですぴょんよ。ちょーっと聞き分けの無い方がお仕置きされただけですからぴょん!」

 

イスタに止められてしまう。訝しみながらも耳を澄ますと、部屋の中ではパタパタズルズルと色んな音が聞こえてくる。少しして、それは収まった。

 

「…片付け終わったみたいぴょんね。お姉ちゃ…じゃないカグヤ様、宝物を集めた方が参りましたぴょん」

 

「入って頂いてくださいな」

 

中から聞こえてきたのはあの秋の虫の音よりも美しきカグヤの声。麻呂達は引き寄せられるように中へと進み行った。

 

 

 

「えぇ、確かに散った宝物です。よく持ってきてくださいました」

 

品を確認し、笑顔を見せてくれるカグヤ。集めた甲斐があったというもの…!

 

…うむ? どこか彼女、先程と違う。着ている十二単が少し乱れているではないか。なにかひと悶着でもあったのだろうか。

 

その隙間から見えるのは…和風バニー服…!僅かに見えるだけだというのになんとも蠱惑的な…。

 

「さ、おふた方ともこちらに来てお手を…」

 

カグヤの声に、ハッと意識がもどる。麻呂とあろうものが下卑た猿のようなことを…。

 

しかし、もし輿入りしてもらえればその美貌をいつでも…。そう思ってしまった麻呂はふらふらと進み寄り、彼女が差し伸べていた手を両手で握りしめた。

 

「カグヤよ、麻呂はミカド。日出ずる国の王である。是非、我が宮へと招かせてくれないか」

 

と、それを聞いたカグヤは目を伏せる。そしてゆっくりと横に首を振った。

 

「申し訳ありませんが、それは出来ぬご相談でございます。私は魔物でございますから」

 

「そのような垣根、何の意味があろうか。いや、ない。麻呂の共に、さあ!」

 

「お止めください…!」

 

あくまで拒否するカグヤ。だがそこまでされると、麻呂にもプライドがある。権力や財力、なんでも使って彼女を我が宮へ…!

 

「そこまでよ。嫌がる女性を無理やり口説くなんて、月に代わってお仕置きよ!」

 

…!? なんだ? どこから声が…。上…?

 

ヒュルルル…ゴスンッ!

「ヴッ!?」

 

落ちてきた何かが頭に激突。激痛が走り、その場に倒れこんでしまう。

 

「ミ、ミカド様ぁああ! おのれ魔物風情が!」

 

付き人の慌て怒る声と共に鯉口を切る音が。と、直後にカグヤのものではない別の声が。

 

「おっとっと、別に殺してないわよ。加減しといたから」

 

「なっ…!? 貴様…上位ミミック! 手が触手に!? しまっ…縛られ…」

 

付き人の悲鳴に、麻呂は痛む頭を押さえながら起き上がる。そこには、触手で雁字搦めにされた付き人と、臼に入ったまま触手を伸ばす少女魔物の姿があった。

 

 

 

「駄目よ、王様。それはクズ野郎、いいえ、お猿さんのすることよ?」

 

付き人を気絶させる片手間で、臼入りの少女は肩を竦める。あの付き人、麻呂の持つ兵の中でも最強格であったのだが…。

 

いや、それよりも臼で圧し潰されたのに軽いたんこぶで済むとはこれ如何に。いやいや、それもどうだっていい。

 

痛みのおかげで目が覚めた。少女の言う通りである。

 

「すまぬカグヤよ。麻呂が悪かった。許してくれ」

 

深々と頭を下げる。すると、カグヤは麻呂の手を優しく取ってくれた。瞬間、朧月のような仄かな光が手全体を包んだ。

 

(わたくし)は貴方様についていくことは出来ませんが、どうかこの加護をお受け取りください。貴方様に、幸運が訪れますように」

 

そう言い微笑むカグヤは、まるで天女のようであった。このまま帰るのは口惜しい…麻呂は思わず詠んでしまった。

 

「…『帰るさの行幸(みゆき)もの憂く思ほえて (そむ)きてとまるかぐや姫ゆゑ』」

 

あぁ、通じぬだろうな。臼の少女はきょとんとしている。いや、通じぬほうがいいのかもしれぬ…。 

 

「ミカド様。 『(むぐら)はふ下にも年は経ぬる身の 何かは玉の(うてな)をも見む』」

 

…!! カグヤが返してくれた…! 今宵幾度目の驚きだろうか。 あぁ、素晴らしきかなカグヤ姫!

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ミカド王達が屋敷を去っていった後。臼に入った少女…ミミン社長は首を捻っていた。

 

「カグヤ姫様、あの王様の最後の変な言葉なんだったんですか? 嬉しさと寂しさが混じった顔して帰っていきましたけど」

 

「ふふっ。あの御方、(わたくし)のせいで帰るのが辛くなったと仰ったのですよ。ですからもう一度、貴方の元にはいけません、お帰りくださいませとお伝えしたのです」

 

「へえー!」

 

感嘆の声を漏らすミミン社長。カグヤ姫はそんな彼女にお礼を述べた。

 

「ミミン社長の落下臼作戦、とても有難いです。どんな方でも一撃で鎮めてくださるとは流石でございますね」

 

「ふふーん! 先程も言った通り、私達ミミックにとって臼は箱のようなものですから!」

 

「心強いですわ。暖かくなった折も、よろしくお願いいたしますわね」

 

「えぇお任せを! イスタ姫様のダンジョンでも力を揮わせていただきますよー!」

 

そう歓談する彼女達を、月は静かに見守っていた。

 

 

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