ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№29 『ロック鳥の霊峰ダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌


 

 

「うひゃぁぁぁぁぁぁ…」

 

かなりの上昇負荷に、思わず変な声が出てしまう。地上がぐんぐんと離れていく様子は、圧巻の一言。

 

またも私と社長は空を飛んでいる。正確には掴まれて持ち上げられている。

 

 

以前、ハーピーの方々のダンジョンを訪問した時、降りる際に鳥の足に掴んで貰って降下した。今回は最初から掴んで貰い、目的地へと向かっている最中。

 

ただし、あの時とは違う。ハーピーのハーさんは私の腕をしっかり掴んでいた。しかし今は…私の身体を包み込むかのような、巨大な鳥の足にがっちり掴まれている。

 

 

自分のお腹らへんを見ると、そこには私の顔よりも大きい鳥の爪。光が反射しキラリキラリと輝いているそれは、固い魔獣の皮でも簡単に裂いてしまいそう。

 

勿論、そんな爪がついている足指?は太く、丸太みたい。それが3本。足指はもう一本あるのだが、それはなんと私が跨がれる椅子となってくれている。ジェットコースターの固定ベルトよりも安心。

 

…鷹に捕まったネズミの気持ち、わかった気がする。

 

 

 

 

さて、そんな巨大なる足の持ち主だが…上を見上げてみれば正体はよくわかる。

 

そんじょそこらの魔物よりも数倍大きい、色とりどりの翼を猛々しく羽ばたかせるその姿。爪と同じように尖り曲がった嘴、猛禽特有の鋭い瞳。

 

空の支配者が一角と言っても誰も咎める者はいないだろう、その素晴らしき威容。

 

彼女の正体は『ロック鳥』、超大型の鳥魔物である。

 

 

 

 

ロック鳥…またの名をルフ鳥。ドラゴン巨大種に並ぶほどの巨体を持つ猛禽類。最大級のサイズだと、一度に象を数匹掴みあげることが出来るらしい。怖。

 

今私達を連れていってくれている方はそこまではないが、充分大きい。翼を完全に広げたら、それこそ象数匹並べても足りないだろう。

 

 

そんな彼女が棲むのは、高い山の上。『霊峰ダンジョン』と冒険者ギルドに名前をつけられている。

 

山登りをするとなるとかなり険しく、飛んだとしてもかなり時間がかかる。ということで依頼主自ら運んでくれることに。

 

普段から大きい魔獣とかを仕留め、ご飯とするロック鳥。私達程度朝飯前のご様子。何も掴んでいないかの如く、勢いよく飛んでいっているわけである。

 

 

因みに社長はというと、もう片方の足に…ではなく、咥えられている。小さくて掴みづらかったらしい。食べられちゃわないだろうか…。

 

「わー! 高ーい!!」

 

…無邪気な社長の声聞こえてきた。大丈夫そう。

 

 

 

 

 

 

「クルルルルッ」

 

鳴き声1つ、ロック鳥は着地をする。…うーん、やっぱり名前がないのは説明しづらい。

 

彼らもまた、ワイバーン達と同じく個人名を持たない。当たり前っちゃ当たり前。特にロック鳥は集団で暮らす種ではないからというのもある。

 

ということで、少々悪いけどまたも勝手にお名前をつけさせてもらおう。『ルク』さんということで。

 

 

そんなルクさんが降り立ったここは、だだっ広い霊峰の頂上。とはいっても、岩が結構転がっている。ルクさんサイズだと小石みたいな感じかもしれないけど。

 

端には、食べ終えた獣の骨が山積み。中には私の身体よりぶっといのも。また、別の端にはベッドなのか、たっぷりの葉っぱで作られた鳥の巣。でもその総量、ちょっとした林の分ぐらいあるんじゃないだろうか。

 

 

まるで自分が小人になった気分。そんな妄想とかけ離れた、メルヘンの欠片もない場所だけども。

 

と、そんなことを考えていた時だった。

 

 

「ピヨ、ピヨ!」

「ピヨヨヨ!」

「キュピー!」

 

ボスッと音を立て、寝床から何かが飛び出してくる。私の数回りは大きいそれらは、体格に似合わずよちよちと…!

 

「ひゃ…!」

 

私は思わず口を抑える。歓喜の声が漏れそうになったからである。

 

ずんぐりむっくりとしたその身体は、真っ黄色でふわっふわな羽毛で包まれているため。嘴も爪も丸く、目までくりくりとまんまる。可愛さの塊としか言いようがない。

 

そう、やってきたのはひよこ…もとい、ロック鳥の雛たちである。

 

 

 

先程から『彼女』と呼んでいた通り、ルクさんは母ロック鳥なのだ。威厳すら感じられる親とは対照的に、子はおっきいぬいぐるみみたい。

 

そんな雛たちは私達の姿を見るや否や、怖いもの知らずに一斉に駆け寄ってきた。そして、興味深そうにつんつんとつついてくる。

 

嘴は尖ってないから、全く痛く…あっ、ちょっと痛い…! 大きいから案外力が強い…!

 

思わず横へ避けると、別の雛の嘴がこつん。更に避けると別の子の羽毛がもるん。

 

ハッ…! 今気づいた…! 囲まれている…! しかも巨ひよこ円陣はじわじわと狭まってくる…!あぁ…このままじゃ揉みくちゃに…!

 

 

「よいせっ…! はーい!みんなーおやつよー!」

 

あわや私が黄色に取り込まれかけたその時、社長の声と共にドサッと重い音が。それは、巨大なお肉が置かれた音。

 

「「「「ピヨー!」」」」

 

瞬間、雛たちはこぞってそちらに。巨大羽毛玉の中心はお肉になってしまった。ほっとしたやら、なんか悔しいやら…。社長も、このタイミングで持ってきたお肉出さなくても…。

 

「後で存分に触らせて貰いなさいな。あのモフモフ」

 

うっ…社長に内心見透かされてた…。

 

 

 

 

 

 

「よーい…ドン!」

 

食後、唐突に始まったのは何故かレース大会。腹ごなしらしい。

 

社長の号令に合わせ、おっきい雛たちが簡易トラックをとてとてぐるぐる。時折ジャンプでぽよんぽよん。ひよこレース。

 

なお、別に優勝云々とかは特にない。遊びだから当たり前だが。当然マテリ…クリスタルとかの商品もないのであしからず。

 

 

てか、ずるい…。社長、雛の頭の上に乗っかってる…羨ましい…。

 

私も背中とかに乗りたい。…背中どこだろ。羽毛モフモフでわからない。

 

 

 

「クルルル…」

 

と、私の横で座っていたルクさんが小さく唸る。本来ならば相手を射竦めるほど強い眼を、細ーくして。慈愛の眼である

 

おっと、忘れちゃいけないいけない…依頼で来てるのだ。社長が子守をしている間に、私が依頼内容を聞き出しておかないと…。

 

 

黄色毛玉に後ろ髪を引かれつつも、ようやく意識を改める。とはいえ、私は社長と違って直接はルクさん達の声はわからない。

 

ということで、翻訳魔法の出番。これさえあれば私でも言葉がわかる。詠唱してっと…。

 

 

「―ほんと、凄いもんだねぇ。アタイでも制御しきれないガキンチョ共を、こうも容易く手懐けるって。ハーピーの子らのアドバイス聞いて正解だったよ」

 

突如、誰かの声が聞こえる。しかしその声色は、ルクさんの鳴き声と同じ…。ということは―。

 

「うん? どうしたんだいアストちゃん、そんな呆けた(つら)して。キュートな顔が台無しだよ?もっとスマイルスマイル。 あ、言葉わかんないか!」

 

こっちを見て、肩を竦めるように嘴を軽く動かすルクさん。間違いない、彼女の言葉だ。翻訳は見事成功しているらしい。

 

 

…いや、うん。そんな喋り方だとは思わなかった。もっと厳かな雰囲気かと…。

 

なんだろ、これ…。なんかロックンローラーみたいな話し方…。あ、ロック(調)だけに…?

 

 

 

 

「え、じゃあハーさん達(ハーピー)が私達を推薦してくださったのですか!?」

 

「えぇそう。鳥魔物同士シンパシーが合ってねぇ。ちょくちょく顔合わせてんのよ。冒険者共の愚痴言いあったり、一緒に狩りしたり」

 

ルクさんと話してみると、まさかの事実。そこで繋がっていたとは。鳥のママ友同盟。ということは。

 

「子守オプションをつけるということで?」

 

「そのつもり。抜け羽とか折れた爪とかで代金OKなんだろ? それならたっくさんあるし」

 

ルクさんが嘴でクイっと示した先には、散らばった羽とかが山積み。中には卵の殻とかも。

 

「どうせ下に捨てるもんだから、好きなだけ持って帰っていいからね。 あ、新しいのいるかい?丁度痒かったんだ」

 

そう言いながら、羽繕いをするルクさん。私の目の前にふわさっと一本落ちてきた。

 

綺麗な色をしているそれは、私の羽よりも大きい。そして、鑑識眼に出たお値段も立派。流石。

 

 

 

「ご用命、確かに承りました。 因みに他にもご心配事があったりしますか?」

 

いつものごとく、別の問題が無いか探りを入れる。すると、ルクさんは大きく頷いた。

 

「あるある、バッドな悩みが。 てか子育てだけなら、依頼せずに自分でやってのけるよ」

 

笑いながらそう前置きをし、彼女は教えてくれた。

 

「最近、ちょこちょこ冒険者が侵入してくるようになってね。多分山を登ってきてるんだろうけど、そいつらが羽やら卵やらを盗っていくんだよ。アタイがいない時を狙ってね」

 

これまたハーピーの方々と同じ悩み。なら対処も同じで良さそう。そう思っていると、ルクさんは更に続けた。

 

「それとね…ガキンチョ共が狙われてるんだよ」

 

 

 

 

どういうことか。私が軽く首を捻っていると、それに答えるように社長の声が。

 

「こういうことよ、アスト」

 

振り向くと、社長を頭に乗せた雛がそこに。そのまま社長は、触手を伸ばしある箇所を指し示した。

 

「あれ…剥げちゃってる…!」

 

びっくり。なんと雛の身体の一部が、不自然に剥げてるではないか。というより、毟り取られたような…。

 

「あ…そういうことですか」

 

…理解した。実はロック鳥、雛の毛も高値で取引される。超高級羽毛布団とかに加工されるからだ。それを狙う冒険者もいるのだろう。

 

 

 

「うーん…。でも雛もこの巨体ですから、ミミック達の力なくとも冒険者を倒せる気がしないでも…」

 

ふと、思いついたことを口にしてしまう。すると―。

 

「ヘイ、この子にアタックかましてやんな」

 

はーい!(ピヨー!)

 

ルクさんの合図に雛は助走をつけ、たったったと私に突進してきたではないか。いや、ちょ…!こんな大きいのにぶつかられたら…!

 

モッファァ…

 

「あっ……」

 

至福のぶつかり心地…。じゃない、痛くない。うん…これは冒険者を倒せない…。

 

「ま、そういうことだよ。もうちょい成長すればイケるかもだけど、それまでにまだ何年もかかるしねぇ。ガキンチョ共に怪我させたくないし、頼んだよ」

 

「はひぃ…」

 

モフモフに埋もれた私は、そんな生返事しか返せなかった。

 

 

 

 

 

 

「ところで、おひとつ伺いたいことがあるんですけど」

 

と、社長。ひよこに押しつぶされた私を文字通り下目に、ルクさんへこんな質問をした。

 

「さっき皆にあげたおやつのお肉。毎回あんなふうに加工されて落ちてるんですか?」

 

 

社長の言う通り、さっき雛たちが美味しく食べた巨大肉は、この霊峰の麓に落ちていたもの。皮や細かい骨や内臓がとられ、お肉屋さんに卸せるような形で転がっていたのだ。

 

明らかに怪しいそれに私も社長も警戒してたのだが、ルクさんが持っていこうとしていたため、社長が箱に詰め搬送したというわけである。一応調べてみたけど、毒とか危険物の反応は全く無く、新鮮なお肉だった。

 

 

「あぁそうさ。たまに落ちてるんだ。獲物を狩る手間が省けるから有難く頂戴してるよ」

 

食物連鎖の頂点な余裕か、全く気にする様子はないルクさん。まあ確かに、ロック鳥は頑丈な魔物ではあるけど…。

 

そんな中、社長はちょっと顔を顰める。そして、問いを続けた。

 

(雛たち)に聞いたのですが、それには時折紐みたいなのが巻かれていると?」

 

「そういやそうだね。あれがあると持ち上げやすくて楽なんだ。 …あれ、でも今日は無かったね?」

 

ルクさんは首をくりんと回す。すると社長は、言いにくそうに頬を掻いた。

 

「あー…。多分冒険者達、その紐に隠れてここまで登ってきてますね…。きっと、バレる直前で降りて。さっきの間に色々見せて貰いましたけど、それっぽい痕跡幾つか見つけましたし」

 

 

 

「え…! いやいや、そんなまさか…」

 

目をぎょろんと見開き驚いた様子のルクさん。しかしすぐさま沈黙。少し後、ゆっくり口を開いた。

 

「…被害があったの、確かに大体、肉を取ってきた日だわ…」

 

 

嬉しいプレゼントが一転、まさかの罠。よほど堪えたらしく、ルクさんは羽根を垂れさがらせる。ロック鳥の威厳が一気に失われてしまった。

 

「じゃあなんだい? もうあのお肉はとらない方が良いのかい…?」

 

凄く残念そうに、彼女はそう呟く。…しかし、社長はポスンと胸を叩いた。

 

「いえ、そのためのミミックです!ご安心を! とりあえず色々試してみましょうか! まず、雛たちにはなるたけ抵抗しないようにこんな風に…」

 

 

こそこそと相談を始めるお二方。でも…もう限界…!

 

「あ、あの…流石に息苦しく…!」

 

その間ずっと黄色毛玉の下敷きだった私は床岩をタップし、ようやく解放してもらえたのだった。

 

 

…良い羽毛布団だった…。

 

 

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