ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
我が社の日常:ミミック達の訓練風景
「みーみーっくっ! そーれっ!」
「「「ふぁいおっ! ふぁいおっ! 1、2! 1、2!」」」
会社横にある運動場の一つ。先頭を走る社長の掛け声に合わせ、上位下位問わず、沢山のミミック達が声をあげながら後を追う。描かれたトラックの上を、ぐるんぐるんランニング。
走るって言っても、足でタッタッタッという普通のではない。箱に入って飛び跳ね進んだり、地面を滑るように移動するミミック独特の走法である。
なお、その際全く砂埃を起こさないで走ることができれば一流の証。…そんなこと出来ないって? うん、私もできない。普通出来ない。
出来ているのは社長を始めとした上位ミミック達がほとんど。もしかしたら、数ミリぐらい常に浮いてるのかもしれない。どっかのネコ型なんとかみたいに。
社長達がランニングしている理由は別にダイエットとかではない。れっきとした訓練である。
ご存知であろうが、我が社…『ミミック派遣会社』は名の通りミミックを様々なダンジョンに派遣することを生業としている。
それ故、必ず付きまとう問題があるのだ。それは、『ミミック達の腕前の強化』である。
冒険者殺しとして名高い魔物、ミミック。だが、彼女達も初めから最強なわけではない。当たり前といえば当たり前。
私だって魔法を習得するには色々頑張ったし、それこそ冒険者達だってほとんどの者は鍛錬を重ねて色んな技を習得している。
…まあ中には、生まれつきの力で無双したり、神様から授かった特殊能力でうんたらかんたらという人達もいるけども。
因みに、そういった連中…驕った者達はミミックにとって一番やりやすい相手だったりする。だって、警戒心ないから簡単に宝箱開けるんだもの。
しかも、大体その一回で心折られて引退とかするらしい。挫折を知らないというのも考えものかも。
コホン、閑話休題。ミミック達の話に戻ろう。
それと同じように、ミミック達も慣れていないと沢山の失敗をする。明らかにおかしい場所に身を置いたり、冒険者に噛みつこうとして空振りしたり、間違えて他の魔物を食べてしまったり…。そう言った失敗例をあげれば枚挙にいとまがない。
普通の野良の子だったらそれで良いのかもしれない。だけど、私達はそうはいかない。
なにせ、派遣料金を貰っているのだから。しかもそこそこ高値の。それなのに、非力な子達を送るわけにはいかないのである。
だからこその、クオリティ維持のための訓練。ということで、今回はミミック達の様々な訓練風景をご紹介しよう。
「はーい! 走り込み終わりー! 休憩したらそれぞれ指定の訓練に移ってねー!」
社長の声が聞こえる。そしてどやどやと皆がやってきた。私もお仕事お仕事。
「飲み物用意してありますよー。お好きなのどうぞー!」
食堂から貰ってきていた水やお茶、スポーツドリンクを手渡していく。勿論量が沢山あって運ぶのは大変だけど、専用のカートあるし、補給担当のミミック達がほとんど運んでくれるから楽だったり。
「アスト、お水ちょうだーい!」
と、社長が私の元に。ボトルを手渡してあげると、腰に手を当てコクリコクリと飲み始めた。
「ぷっはっー!冷たーい! そだ、結果はどう?」
「そうですねー。今回は特に遅れていた子もいませんので、予定通りで構わないと思います」
社長の問いに、手にしていた記録用紙をペラペラ捲りつつ答える。こういった役も私の仕事。なお、合格ラインに満たない子には、社長特製の特別なメニューが…。
…そう言うと若干の恐ろしさが漂うが、そもそも引っかかる子はほとんどいない。仮に引っかかっても、皆すぐにクリアして復帰する。
因みにどんな子が該当するかというと…
「よし!じゃ、アストはいつも通りお願い。私は特別メニューの監督に移るわね」
キュポンとボトルを締め、腕をぐるぐる回す社長。そしてぐいっと触手を伸ばし掴んだ先には…。
「ぴっ…!?」
ちょっとふくよかな感じになった上位ミミックが。
「太るのは構わないけど、能力を上手く使えなくなってるのはマズいわよねぇ?」
「ゆ、許して社長ぉ…!」
にっこり笑顔な社長に、震えながら命乞いをする上位ミミック。残念ながら、答えは…。
「だ・ぁ・め♡ てか、貴方食べ過ぎなのよ!この間なんて、寸胴のかぼちゃカレー全部ひとりで食べてたし!私もあれ食べたかったのに!」
少し私怨が入ってるが…。大体はあんな感じに食べ過ぎだらけ過ぎの子達。さっきダイエットじゃないとは言ったけども、ぶっちゃけダイエットである。
「ほら、キリキリ歩く!」
「ひええええええい…」
半ば引きずられるように社長に連れていかれる、ふくよか上位ミミック。太りにくいはずのミミックが太るっていうのは相当なので、特殊メニューを課されるのもむべなるかなと…。
さてと、社長が連行していったところで私も次に移ろう。私は秘書なのでミミック達みたいに鍛える必要はない。時折参加させてもらっているけど、それこそダイエットのため。
だから訓練時に託されている仕事は、各訓練場所の視察及び記録回収、お水配布やちょっとしたお手伝い。まあ言ってしまえば雑用係である。
ということで飲料カートを引きレッツゴー。あ、勿論プロテインも完備だったり。
「位置について…よーいスタート!」
運動場の一角。監督役ミミックの合図と共に、沢山のミミック達が箱から箱へと飛び移っていく。如何に迅速に、的確に箱を変えられるかの訓練である。
ずらっと並べられた大小形様々な箱がぴょこんパカンパタンと開き閉まりをしていく様は、まるで波のよう。速いミミックは、移動する姿すら見えない。
如何に早く、バレずに箱替えを行えるかは案外重要。例えば冒険者から逃げる際に、箱を即座に変えられれば逆に好機となる。
それだけじゃなく、身体を自在に動かす練習ともなる。蓋を開け、飛びかかり、蓋を閉める。その一連の動作は、冒険者を捕まえる際に絶対活用するものだから。
「もっとよ…もっと…もっと集中して…! 箱の模様をよく見て、染み一つすらも真似るのよ…!」
一方、箱泳ぎから少し離れた場所では、下位ミミック『宝箱型』の子達が集まり訓練している。
彼らは他のミミックとは違い、外殻自体が宝箱の見た目。だから、入っている箱を変えることは出来ない。最も、少し大きめの箱に無理やり入るって方法はあるけども。
そんな宝箱型ミミック達は、代わりに特殊な能力を持っている。それは、『表面の模様を変えられる』というもの。
日に制限こそあるが、カメレオンのように自在に変色可能。赤い宝箱にも、青い宝箱にも、金色宝箱にも、木目調にも竜の紋章にも。虹色に輝くことだって。
ただし、それは我が社オリジナルといってもいい。社長が編み出した技で結構訓練しないと使えない技なのだ。
ところで今日の箱は…大きな向日葵が描かれた宝箱。熟練の子達は見事に寸分違わぬ絵を身に浮かべている。種や花びら、端についた絵の具汚れまでくっきり。
因みに新入りの子達も参加しているのだが…。あ…!面白いことになってる…!
あそこの子は、クレヨンで描いたような向日葵になっているし、向こうの子は種部分がメロンパンみたいに。
更に奥の子は、やけにデフォルメされた丸っこい向日葵で、その横の子は…ん…!?
なにあの向日葵…!? やけに芸術的というか…名画というか…とある著名な芸術家の一枚と言うべき素晴らしい色使い…!タイトルはそれこそ『ひまわり』というべき…!
…モデルの箱とは全く違う絵だけど、将来有望な子な気がする…!
あ、そうそう。新入りの子達といえば、丁度あの訓練をやっているとこかな。見に行こう。
「そぅれ! ホップステップジャンピング! アーンド 蓋パカパカ!」
別の運動場。そこで行われているのはジャンピング訓練プラス、蓋開閉訓練。宝箱がぴょこぴょこ跳ね、蓋をパタコンパタコン鳴らしている様子は奇妙ながらもちょっと可愛らしい。
ミミックの攻撃方法は様々だが、その中でも王道なものがある。それが、あれ。『蓋を鳴らして脅しながら、飛び跳ね襲いかかる』技である。
冒険者の方ならトラウマになっている方もいるのではないだろうか。蓋と牙をガキンガキンと打ち鳴らし、食らいつかんと跳ね回る宝箱を。
ここはその練習中。新入りの子たちはまずそれを覚える。それさえ覚えれば、敵対魔物を追い払えるし、冒険者に噛みついてダメージを与えられるから。
そして、その横で平行して行われている訓練がある。全ての訓練の中で、最も重要と言っても過言ではないそれは、『相手を呑み込む』訓練である。
ミミック達曰く、これが最も辛く大変な様子。それもそのはず、自分より大きい相手を小さな箱の中に引きずりこまなければいけないのだ。
普通の魔物ならまず無理な、ミミックだからこその芸当。常に全員に向け行われる訓練であり、今も初心者熟練者入り混じって練習が行われている。
それでも、コツさえつかんでしまえばお茶の子さいさいらしい。どんなコツかって聞いても、「えいやっ!て言う感じ」としか答えられないぐらい感覚の話のようだけど。
食器、鎧、武器、宝箱に大岩…大小さまざまなものが用意されているが、慣れない内はあそこのミミックのように、箱の端にガンガンとぶつけてしまうだけ。
上手な子は…ほら、あそこでやっているように、鎧を装備したマネキンを一瞬で引きずり込んで、蓋を閉じ、全てを脱がした形で吐き出している。あそこまで行けば折り紙付きである。
因みに、時折外した鎧を食べちゃう子もいる。外して吐き出すのが面倒なので、そのまま消化しちゃえという流れで。 …別段問題は無く、身体に異常は全く及ぼさないらしいのだけど…。見ている方は心配で仕方がない。
「おーい、アスト! 丁度いいとこに!」
と、そんな折、どこからかおっきな声で呼ばれる。見ると、運動場の端に作られている人工洞窟の前で手を振る姿が。
「なんですかー?ラティッカさん」
そちらへと赴きながら、声の主の名を呼ぶ。『箱工房』のリーダー、ドワーフのラティッカさん。彼女も訓練の手伝いをしているのだけど…。
「いやそれがよ、洞窟に進ませるこいつが急に故障しちまって…。悪いんだけど、直してる間だけ代わりにやってもらっていいかい?」
頭をポリポリ掻くラティッカさんの背後には、剣を地面に刺し片膝をついた人型ゴーレム数体。しかも冒険者装備をしている。
あれは箱工房謹製の、自動で動き戦うゴーレム。ロボット…いやオートマタと言った方が正しいか。私の魔法とラティッカさん達の技術によって作り上げられた代物である。
なんのために作ったのか。それは、『潜み訓練』の一環として、ミミック達に襲わせるためである。
潜み訓練―。要は実戦に近い訓練である。洞窟内にある宝箱に違和感なく隠れて、相手を仕留める練習のこと。
基本その相手役…冒険者役は監督である上位ミミックが行うのだけど、何分広い洞窟内を回るのは時間がかかる。
それで、作られたのが通称『冒険者オートマタ』。宝箱を感知し、開け、戦闘もできる優れもの。ミミックの動きに点数評価だってつけられる。
…なのだけど、故障が多い。そういう時は仕方ない。私の出番である。
「わかりましたー。では…」
コホンと一つ咳払い。意識を集中させて…と。
「『我が眷属よ、分身よ 冒険者の如く 洞窟を探索せよ』―!」
そう詠唱し、指をパチン。すると、私の前に大きな魔法陣がブオンと現れた。
そこから光と共に現れたのは、手乗りサイズの小悪魔達と、私の姿をした顔の無い分身たち。彼女達は一斉に洞窟へと駆けこんでいった。
これは私の魔法の一つ、召喚魔法&分身魔法。命令を『探索』にしているので、勝手に宝箱を開け、ミミックに襲われ、戦ってくれる。
因みに情報は主である私にフィードバックされるので、各ミミック達がどんな感じに私の使い魔達を倒しているかは手に取るようにわかる。おかげで記録もとりやすい。
オートマタの調子が悪い時は、私がこうやってお手伝いすることもしばしばなのだ。
…ところで、ミミックに食べられると何が見えるか知っているだろうか? んー…なんて言うべきか…。宇宙が見えるというか…4次元空間的雰囲気というか…そんな物が写るのだ。
それを見ると、なんか気が発散していってしまう。いくら熟練の腕の持ち主も、チート能力持ちも、力が抜けたようにへなへなと。そうなってしまえばただご馳走様されるだけ。
ミミックに食べられた人が碌に抵抗できないのには、多分そのせいもあるのだろう。秘書を務めている身だけども、まだまだ謎の多い魔物である。
…なんでそんな話を突然したのかって? それは簡単。先程、呼び出した使い魔達の情報は私にフィードバックするとお伝えしたのを思い出して欲しい。
当然ミミックに食べられた使い魔が、消滅する前に送ってくる情報は、それ。
あぁ…宇宙が…時が見える…。 身体の力が…がががが……。
オートマタもなんとか直り、ラティッカさんに託しその場を後に。他にも各所を周り、気がつけば引いていたカートも空に。一回補充に戻ろっと…おや?
「ひぃ…ひぃ…もうやだ…もう食べ過ぎません…しっかり運動します…」
自らが入った箱を引きずり、這う這うの体で現れたのは…社長に特別メニューを課された上位ミミック。
先程までふっくらしていたその身は、今や完全に引き締まり元々の体型に戻っている。…というかぶっちゃけ、若干やつれ気味&燃え尽き気味。
ご心配はいらない。社長の特別メニューを受けたミミックは皆ああなる。あとは適度なご飯を食べて、お風呂入って、寝れば完全復活するから問題ない。
…え、特別メニューを『皆すぐにクリアする』ではなく、『すぐにクリアしなきゃいけないほど超スパルタ』なんじゃないかって?
ふふっ、ヤダナー。ソンナコトナイデスヨー。