ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 ある商人の護衛の視点

 

 

俺は中々に名の知れた商隊付きの護衛兵をしている。普段は魔物から馬車や商人達を守る仕事をしているのだが、今日の仕事内容はちょっと違う。重い荷物を背に、とある森の中を進んでいた。

 

「お。ここですか?商隊長」

 

急に開けた場所に出たため、俺は後ろにいる壮年の男性に声をかけた。俺と同じ護衛兵数名に囲まれた彼は、自身も背負っていた荷物を降ろし腰を伸ばした。

 

「あぁそうだ。聞いたことはあるか?『菜園ダンジョン』だ」

 

「えぇ勿論。すごいレア植物がごまんと生えている奇跡のダンジョンだと聞いています」

 

「奇跡、じゃないんだがな。まあいい、皆もうひと踏ん張り頑張ってくれ」

 

「了解です。…というか商隊長、俺達に荷物預けてくれればいいのに。最近腰が悪いんでしょう?」

 

俺は商隊長の荷物を見てそう進言する。普通の商人ならば護衛に全ての荷物を持たせ悠々自適に歩くだろう。だが彼は俺達よりも重い荷物を背負って歩いてきたのだ。

 

「そうっすよ商隊長。僕らまだ余裕ありますし、持ちますよ?」

 

同僚の1人も賛成するが、商隊長は首を横に振った。

 

「いや、これは本来俺1人が持ってかなきゃならないものだ。それを無理言ってお前達に一部を持ってもらっているんだ、気にしないでくれ」

 

まあそんな回答が返ってくるのはわかっていた。彼はたった一代で商隊を起こし、ここまで大きくした所謂「立志伝中の人」。

 

そのせいか自分のやれることは自分でやり、人の事を思いやることの出来る人物である。いや、その性格だからこそ成功したのだろう。皆から好かれており、俺もこの人のことを尊敬している。

 

そもそも護衛(俺達)は、彼を心配した他の商隊メンバーから無理やりつけられたもの。本人としては一人で来たかったらしい。

 

「しっかし…やけに人が増えたもんだ」

 

商隊長はダンジョン前の広場を見て溜息をつく。そこにいたのは数組の冒険者達。確かこのダンジョンはギルドに登録されていたはず、彼らはそこで依頼を受けて来たのだろう。

 

「ようし、少し休憩したら中に入るぞ」

 

「「「うーっす!」」」

 

 

 

蔦や茨で編まれたダンジョン入口をくぐり、中に入る。その瞬間、俺達は歓声を挙げてしまった。

 

「おぉっ!! あれ、高級薬花じゃないすか!?」

 

「あっちは一個で金貨10枚はする果物じゃないか!」

 

至る所に生えている高級素材に目を奪われる俺達を余所に、商隊長は持ってきたリストを見ながら奥へと進んでいく。魔物がいるのにも関わらずだ。後ろ髪を引かれた仲間の1人が、彼に恐る恐る伺いを立てた。

 

「しょ、商隊長…?あれ採ってかないんですか?」

 

「今回来た理由は足りなくなった素材の補充だ。必要な分だけ貰っていく。自分で食べたり使ったりする分は採って帰ってもいいが、むやみやたらに乱獲するなよ。絶対にだ」

 

「は、はあ…」

 

商隊長の強めの口調に、俺達は少し萎縮した。彼がここまで言うのも珍しいことだからだ。

 

 

とはいえ、許可は貰った。安全を確保した隙を縫って手近な物から幾つか採り、バッグに詰めていく。

 

「うーん、持ってきた荷物が邪魔で入りにくいなぁ…もっと採りたいのに…」

 

「そういえば商隊長、この荷物どこに…」

 

運ぶんですか? そう聞こうとした俺の言葉は、とある冒険者達の興奮した声に遮られた。

 

 

「おい!こっちの魔力花のほうが確か高く売れるぞ!」

 

「マジかよ!ちくしょう、もうバッグいっぱいだぜ…」

 

「バーカ、安いの捨てていけよ!」

 

彼らはギッチギチに詰まったバッグの中から大量の花や草を取り出し、無造作に投げ捨てた。そして生えている魔力花を根こそぎ千切りとっていく。

 

「チッ…あいつら…!」

 

舌打ちをした商隊長は俺達を待たず、ズンズンと冒険者達に近づいていく。急いで追いかけようとしたその時だった。

 

ブウウウン…!

 

聞こえてきたのは耳障りな羽音。ハッと俺達が見上げた先、大きめの花から出てきたのは赤と緑のカラーリングをした奇妙な蜂達だった。彼らは一直線に冒険者達へと突き進んだ。

 

 

「なんだ…!? ヒッ!蜂!?」

 

「魔物に比べれば大した事ねえ!払い落とせ!」

 

剣や杖を振り回し、対抗する冒険者達。だが蜂はそれを軽やかに躱し、肉薄。そして―。

 

ブスッ

 

「がっ…身体が…痺れ…!」

 

「うそ…状態異常回復魔法が効かない…あ、あ…!」

 

蜂に刺された冒険者達は次々と倒れこむ。ビクンビクンと悶え、声も上げられなくなっていた。商隊長も俺達も唖然として立ち止まっていると…。

 

シュルルルル…!

 

どこからともなく伸びてきたのは長い蔓。痺れる冒険者達をグルグル巻きにすると、ズルズルと引きずり何処かに消えていった。

 

「商隊長…どうしましょう…助けるべきでしたかね…」

 

理解が追いつかない俺は商隊長に指示を求める。すると彼は笑いを堪えながら答えた。

 

「いや、自業自得だ。あれでいい。どうせ死んでも教会で復活するだろ…くくっ」

 

 

 

 

 

 

 

連れ去られた冒険者達を見てから商隊長の機嫌がかなり良い。そんな猟奇的な人だっけと俺達は顔を見合わせ訝しみながらダンジョン奥へと進む。

 

「お、何だあれは」

 

道中、商隊長が何かを見つける。それは幾つか並べられた宝箱。風景に合うよう色が塗られ、蔦が巻き付いている。その全ては蓋が開いており、中には中身が詰まった麻袋が沢山入っていた。

 

「商隊長、看板がありますよ」

 

「どれどれ…『ご自由にどうぞ、ただしおひとり様おひとつまで』か…」

 

「…どう考えてもこれ罠ですよ!触らないようにしましょう!」

 

明らかに怪しい。警戒する俺達だったが、商隊長は気にすることなくひょいっと一つ手に取った。

 

「おぉ!これは凄い!見てみろ!」

 

袋の中に入っていたのは、万能薬草に魔力月光花、マンドラゴラに最高級果物。どれもこれも貴重な植物素材。売れば金貨百枚はくだらない。

 

「お前達も欲しければ貰ってけ」

 

商隊長にそう言われ、俺達も恐る恐る手にする。だが何も起きない。ほっと胸を撫でおろしたその時だった。

 

「おいおい、おっさん。それ大丈夫なのか?」

 

ぬっとあらわれたのは、先程とは別の冒険者パーティ。同じく罠だと思って隠れて様子を見ていたのだろう。

 

「初対面の人をおっさん呼ばわりか。一人ひとつまでだとよ」

 

「へえ…」

 

にやりと笑った冒険者達は、人数分採っていく。と、更に幾つか掴みだした。

 

「おいお前、1人ひとつと書いてあるだろう」

 

「あぁ?知ったこっちゃねえよ。こんな場所に置いてあるんだから幾つとっても良いだろ!」

 

商隊長の言葉にキレる冒険者。と、彼らの内1人。僧侶の女性が震える声で注意した。

 

「だ、駄目ですよ…!守らなきゃ…」

 

「んだよお前さっきからうるせえな…!お前がギャンギャン騒ぐからあの花を根っこごと持って帰るの止めてやったんだろうが! はぁ…もういい、お前クビだ!」

 

彼女に解雇宣告を出し、掴んだ幾つもの袋をバッグに詰め込もうとする冒険者達。と―。

 

ブウウウンッ!!

 

「わぁっ!?宝箱から蜂が!?」

 

又も出てきたのはあの奇妙な蜂。ブスリと刺された冒険者達は倒れ、あっという間に蔦に引きずられ消えていった。

 

「「「えぇ…」」」

 

何事もなかったかのように宝箱内へと戻る蜂を見ながら、俺達と僧侶の子は口をあんぐり。ただ一人、商隊長だけは大爆笑していた。

 

「そうか、『宝箱バチ』のミミックかこれ!ということはさっきの蜂も…良い発想してるな!」

 

 

 

 

 

 

「よし、目的地はここだ。すまないねお嬢さん、ついてきてもらって」

 

「い、いえ…私一人では帰れませんし…。あの、本当に良いんですか?雇ってもらって」

 

「あぁ。君は礼儀正しいからな」

 

パーティを首になった僧侶を連れ、俺達は商隊長の言う目的地に到着した。そこは開けた空間で、蔦で作られた建物が置かれていた。形的に東屋だろう。

 

「ようし、持ってきた荷物をここに置いてくれ」

 

その東屋に、持ってきたものを置いていく。と、僧侶の子が不思議そうに聞いてきた。

 

「これって…?」

 

「肥料に支柱、畑道具とかだよ。しかも全部結構な値段がする高級品」

 

「えっ!? なんで…」

 

「さあ…?」

 

すると、俺達の会話が耳に入ったらしく商隊長は微笑んだ。

 

「お礼だよ。貰った作物分のな。お前達、気づいているか? このダンジョンが何者かによって手入れされていることに」

 

そう言われ、俺達は周りを見渡す。確かに自然にはこの形はできない。だからこそ奇跡と呼ばれているのだろうが…確かに商隊長は『奇跡じゃない』と言っていた。

 

「その何者かって誰なんですか?」

 

「さあな、だが十中八九魔物だろう。俺達人間じゃ育てるのが難しい植物までここには生えている。ならば貰った分のお礼はするのが当然だ」

 

 

 

 

荷物を全部運び終え、よいしょと地面に腰を下ろした商隊長。懐かしむような口調で語りだした。

 

「俺がまだガキの頃、このダンジョンを見つけた。生えている作物を頂いて売ることを繰り返し、俺は商隊を持つまでになった。今の俺があるのはここのおかげなんだ。そして、ここに来るたびお礼を欠かしたことは無い。何も用意が出来ないほど困窮していた時はお礼の手紙を置いていったこともある。魔物が読んでくれたかはわからないがな」

 

商隊長の過去を知り、俺達は驚嘆する。だが一つ、わからないことがあった。

 

「でも、なんでこんな沢山の肥料とかを? 補充リストの素材の値段を合わせても、赤字ですよ」

 

「ここが明るみに出てから、お前達がさっき見たようなマナーの無い連中がこぞって来るようになった。だから、俺が『人間代表』として僅かだが謝罪の品を届けているんだ」

 

と、そこまで言って商隊長は笑い出した。

 

「だが、ここの主もどうやら対策をしてくれたらしい。盗り過ぎた者にのみ罰が下る仕組みでな」

 

 

 

 

ひとしきり笑った商隊長は、立ち上がり伸びをする。

 

「さ、帰るか。必要なものは貰ったしな。お前達もここに来るときは節度と敬意をもっておけよ」

 

彼は荷を背負うと、ダンジョンの奥へ深々と頭を下げた。俺達もそれに倣った。ありがとう。見知らぬ生産者の魔物。有難く頂きます。

 

 

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