ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 とある狩人の狂気

 

 

フッ…良い月だ…。紅く、鈍く輝いている。今宵も素晴らしき夢が見れそうだ。

 

 

 

特別に誂えた狩装束を身に纏い、俺達4人は闇を駆ける。この先にあるのは、『背徳ダンジョン』。とある邪教を信奉する者共が身を寄せ合う場所だ。

 

その邪教の正体? 知らん。興味もない。どうで、隠れて狂気に身をやつしている連中。それはもう、人ではない。獣と同義だ。

 

獣を狩って何が悪い。それにダンジョンなんだ、狩ったところですぐさま復活するだけ。心を痛める必要なぞない。

 

 

…何のために狩りをしているのか? 当然、利のため。金のためだ。それも素晴らしいほどの。

 

奴ら…『邪教団の信徒』共の胸には、『面妖なる結晶』と呼ばれる特殊な結晶が生成される。市場に流せばかなりの高額がつく。

 

それだけじゃない。あの取り出した瞬間…血に濡れ、てらてらと光る琥珀色の結晶…素晴らしい…。アレを見るタめだったラ…俺タチは幾度でモ…!

 

…ハッ! 危ない危ない…意識が飛びかけた。…ここ最近、妙だな。時折、変な気分になる。

 

 

 

まあいい。その結晶だが…可哀そうに、信徒共はその邪教の神とやらに植え付けられているのだろう。そうでもなければ、人の身体に石なぞ出来ない。

 

つまりこの行いは、救いでもある。寧ろ感謝してほしいぐらいだ。俺達が習得した特殊技で内臓を攻撃してやれば、容易くその結晶を吐き出させてやれる。ただし、代償は命だ。

 

 

…む、そうこうしているうちに到着したか。全員、準備は良いな?

 

さあ、始めようか…!『獣狩りの』…違う、『結晶狩りの夜』を!

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を蹴り開け、銃を撃ち鳴らしながら乱入する。すると、辺りにいた信徒共は瞬く間に慌てふためき始めた。

 

「ヒッ…!狩人が来たぞー!」

 

「に…逃げろ! 戦える者は武器を取れ!」

 

 

フン…『狩人』か。良い呼称だ。最初そう呼ばれた時は困惑したものだが、今や心地いい。

 

それに合わせて服装も変えたほどだ。森で動物を狩るチャチな連中が着る粗雑なものではない。これは、夜に紛れ密かに獣を狩る、そのための装束。

 

さて…どの人ならざる獣から狩っていってやろうか…! 

 

そう俺が、舌なめずりした時だった。

 

 

 

 

 

Pu oh ooooh oh oh    Pu oh oh oh oh ooooh

 

 

「!? なんだ…!」

 

突如、辺りに響き渡るおぞましきラッパの音。ぐあ…頭の内側をなぞられるような感覚が…!

 

「! これは…合図だ!」

 

「全員、奥に逃げろ!あとは彼女達に任せるんだ!」

 

俺たちが怯んでいる隙に、信徒共は一斉に逃げ去っていく…!

 

クソッ、追いかけたいが…!駄目だ…この音は…!何かがゴリゴリ削られていく…!

 

 

 

 

「……! はぁ…はぁ…」

 

「止んだ…?」

 

気づけば異音は消え、周囲を静寂が支配する。もはや誰もいなさそうだ。

 

まあいい。一人一人探して仕留めていけばいいだけのこと。俺達に勝てる奴は、そうはいないんだからな。

 

 

 

 

 

 

「…いないな」

 

「どこまで逃げたんだ、あいつら…」

 

しかし数分歩けども、信徒共はおろか、使い魔の一匹すら見つからない。せっかく大量に稼げると思ったんだが…。

 

 

 

「…お? 見ろ、あそこを」

 

と、仲間の一人が先を指差す。そこには、松明灯る路地が。覗き込んでみると…。

 

「おぉ…!宝箱じゃないか…!」

 

安置されていたのは、大きい宝箱。と、その裏には…

 

「ひっ…!」

 

小さな声をあげ、身を潜める女がいた。逃げ遅れか。探した甲斐があった。二つも良いモノが見つかるとは。

 

 

「お、お願い…」

 

と、その女は宝箱をズズッとこちらに押し出してくる。お願い、だと?宝箱をやるから見逃せ、という意味か。

 

フン…駄目だ。追い込んだ二兎の片方を逃がすわけはない。だが、まあ…仕留めるのは後回しにしてやろう。

 

どれ、まずは…宝箱の中身を確かめて見るとするか。

 

「先に失礼するぜ」

 

チッ、がめつい奴め。仲間の1人が先に宝箱に手をかけやがった。まあいい、どうせ折半だ…。

 

肩を竦め、一歩下がる。と、何かが足にカツンと当たった。何だ…?

 

…ッ!?待て…なぜここに…ラッパが落ちている…!?

 

ゾワッと背筋に嫌な予感が走り、宝箱の方へ弾かれたように顔を向けた…その時だった。

 

 

 

ズリュ…!

 

宝箱の両側面から、長い腕が…!? いや触手が…!! そして蓋が勢いよく開き、中から鋭い牙が…!マズい…!離れ…!

 

ガシッ ガブシュッ!

 

「ぎゃああああああっ!」

 

…遅かった…! 俺が叫ぶ前に、宝箱を開けた仲間は触手の腕に掴まれ、ガジガジと呑み込まれていく。

 

何故、こんなところにミミックが…! うおっ…今度は下から出た触手で、人間のような体を作り立ち上がりやがった…!その見た目、同じ製作会社だがゲームが違うだろ…!

 

 

こんな貪欲そうな奴、いくらこっちが複数人とはいえこんな狭い路地では不利だ…! 一旦退け…退け!

 

 

 

 

 

 

 

 

うねんうねんと名状しがたい動きで追いかけてくるミミックは、ラッパを咥え吹き鳴らしながら追いかけてくる。俺達は破裂しそうな頭を抑え、ひたすらに逃げた。

 

「あそこに扉が開いた部屋があるぞ!」

 

「飛び込め!」

 

手近に見つけた部屋に急ぎ駆け込む。扉を無理やり閉じ、鍵を下ろせば…!

 

「ハァ…これで安心か…」

 

追い込まれた気もするが…ようやく一息つけた。さて、どう倒すか…。

 

ミミックは強く、タフだ。上手く立ち回らなければ…。…ん?

 

 

 

「なんだ、この匂い…」

 

「腹減ってくるな…」

 

焦っていてわからなかったが、この部屋にはやけに美味しそうな匂いが立ち込めている。この大元は…。

 

「あっちか…」

 

俺達は誘われるように、ふらふらと部屋の奥へと進んでいく。仄かに灯った何かを目印に。一体何が…。

 

「店、か…?これ…」

 

薄暗めのランプの下には、屋台然とした店。置かれている寸胴からは、湯気が上がっている。そして、その手前にはに簡素なテーブルが幾つか。そこに置かれていたのは…

 

「「「ラーメン…!?」」」

 

 

出来立ての、旨そうなラーメンだ…。変なものが入っている様子はない…。背油も浮いている…。

 

深夜のラーメン…邪教団の連中、こんなものを嗜んでいるとは…。邪悪な奴らだ…。こうも背徳的なことを…容易く行うか。

 

見れば、箸こそ割られているものの、手付かず。俺達の侵入で、慌てて逃げ出したってとこか。

 

 

ぐううううううッ

 

…全員の腹が、鳴ってしまった。こんなもの見せられて、抗えるはずがない。

 

こちとら1人復活魔法陣送りにされたんだ。腹いせに食ってやろう…!!

 

 

 

 

 

全員揃って、席に着く。割りばしを手に、いざ実食…

 

「わー、匂いに釣られてノコノコ来たわね!」

「まるで引き寄せられた虫みたい…」

「ラーメンの魔力って恐ろし…!」

 

なっ…!? ラーメンが…喋った…!? どういうことだ…!?

 

 

 

チャプンッ ギュルッ!

 

瞬間、ラーメンスープの水面が揺れ、麺が…襲い掛かってきた…!!?違う、これは…触手だと…!!しまった…身体に絡みついて…

 

「ぷはっ!へい一丁お待ち!」

「ふうっ!ラーメンのスープを浴びたいって夢、叶っちゃった!」

「ふいー!お行儀すっごく悪いけどねー! 美味し!」

 

そう叫び、ラーメン鉢の中からひょっこり顔を出したのは、上位ミミック…!? こ、こいつら…ラーメンに擬態していただと…!?馬鹿な…全く普通の、美味しそうなラーメンだったぞ…!? 

 

「「「そーれっ!」」」

バシャンッ!

 

唖然としている間に、俺達は屋台の上の寸胴へと投げ入れられ…熱っ!? ね、熱湯…!? も、もしかして…!

 

「さて、豚骨ラーメンは美味しいけれど…人骨ラーメンはどうかしらぁ!?」

 

「「「ひ、ひいいっ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッ…!

 

気づけば、復活魔法陣の上。死んだのか…。確か…ラーメン鉢入り上位ミミックに、思いっきり煮込まれて…。うっ…嫌な夢を…見ていた気分だ…。

 

「…気晴らしに酒でも飲みに行くか…」

 

「「「賛成…」」」

 

 

 

ふらつくまま、全員で街へと出る。どこで休もうか…バル、レストラン、ラーメン屋…ヒッ!

 

「ら、ラーメン…!!!!!」

 

あ、あぁ…! 麺が…! 麺が…! 襲ってくる…!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

狩人達が片付けられ、背徳ダンジョン内には活気が戻る。勿論、功労者であるミミック達にはラーメンが振舞われていた。

 

「うま~い!! さっき入ってたのも飲んだのに、まだスープ飲めちゃう!」

「やっぱ仕事の後の一杯は格別ねー! 何杯でもいけるわ!」

「さっきの狩人煮込んだの、不味かったわねー。狂気を煮出した、って感じ」

 

 

ちゅるちゅると麺とスープを啜る上位ミミック達。と、内一人が素朴な疑問を口にした。

 

「そういえば、狩人達が狙う『面妖なる結晶』って、なんで信徒の皆さんの身体に出来るんだろ?」

 

それに答えたのは、丁度自分のラーメンを完飲完食しきった別の上位ミミックであった。

 

「じゃあ聞いてみる?」

 

「え、誰に?」

 

「神様によ!」

 

 

 

 

「「聞けるの!?」」

 

驚く上位ミミック2人。提案者の上位ミミックは、うん!と頷いた。

 

「えーとね。社長曰く…このダンジョン内にいると、私達の『箱に自在に入れ、物を詰めこめる』っていう能力が『4次元空間』ってのと交差して、そこにいる神様とシンクロして、一時的に交信可能になる…だっけ?」

 

「「…何言ってるのかわからないんだけど…」」

 

「私もー!でも、社長は凄いから、ここに来てすぐに神様と軽くお話したみたい!だからアストちゃんが発狂?仕掛けた時にすぐ助けられたって言ってた!」

 

ケロッとした態度で笑う提案者のミミック。そのまま、彼女は続けた。

 

「アストちゃんにここの神様の文言を身体に刻んで貰ったでしょ? それのおかげで、私達でも上手くやれば交信できるみたいなの!」

 

「「やってやって!」」

 

「いいよー! あ、私の様子がおかしくなったら、触手で顔を思いっきり叩いてね!」

 

 

 

 

 

「まず、ラーメン鉢の中に入りまーす!」

 

そう言い、提案者の上位ミミックは食べ終わったラーメン鉢の中にスポリと入る。そして、自らの手を先程のようにラーメンのように変えた。

 

「そして、スープと具材を入れてもらって…と。お願いしまーす!」

 

「ホントに良いのかい…?熱いぞ? つっても、さっきも同じことやってたんだっけか…」

 

ラーメンを作っていた信徒の1人は、恐る恐る熱々のスープをラーメンミミックに注ぐ。しかし彼女は平然と。具材も乗せられ、美味しそうなラーメンが完成してしまった。

 

 

「うーん…。本当に美味そうだな…。こりゃ狩人が惹きつけられるのもわかるぜ…」

 

「えへへ…! でも、おじさんのスープが美味しいからですよ!」

 

信徒に褒められ、照れるラーメンミミック。それを誤魔化すように、最終工程へと移った。

 

 

「最後に、教典に書かれていた呪文を唱える。えーと…『いあ! いあ! らぁめん ふたぐん! やさいからめまし あぶらすくなめにんにく!  ふたぐん! ふたぐん!』」

 

「…それ、呪文なの?」

「なんか、注文っぽくない…?」

 

困惑する上位ミミック2人。しかし、その直後だった。

 

 

 

 

ふわっ…!

 

突然、ミミック入りのラーメン鉢は宙に浮く。そして、麺…もとい触手を横に垂れ下げながら辺りを飛び始めた。

 

「…! おい…!あれを…!」

 

「あ…あぁ…! あの御姿…『空飛ぶラァメンモンスター』様…!」

 

その様子を見た、周囲の信徒達は、揃いも揃って両膝をつき祈りだす。傍から見ると、もはや何が何だかわからない絵面である。

 

 

 

 

数回辺りを周ると、飛んでいたラーメン鉢は元の場所に着地。中に入っていたミミックもひょっこり顔を出した。が…

 

「あ…あ…全ての深淵は…ラーメンスープと同義…あらゆるモノの混濁により…」

 

明らかに様子がおかしい。待っていた上位ミミック2人は顔を見合わせ…

 

「「えいっ!」」

ベチンッ!

 

顔面触手ビンタを食らわせた。

 

 

 

「あいたっ! ハッ!聞いてきたわよ、結晶の正体!」

 

ダメージで意識を取り戻したラーメンミミック。彼女の口から語られた真相は…

 

「ラーメンの食べ過ぎにより身体に害をなす成分を、神の力で特殊な結晶に変換してるんだって!」

 

 

 

 

「…うーん…?つまり、『結石』的なもの…?」

「…そんな感じかしら…?」

 

再度、困惑の表情を見せる上位ミミック2人。しかし、周囲で耳をそばだたせていた信徒達は違った。

 

「おぉ…!やはり神は私達を守ってくださる…!」

「素晴らしい…!流石、空飛ぶラァメンモンスター様…!」

「毎夜の楽しみの保証を…!ありがとうございます…!」

 

一様に感謝の言葉を口にする信徒達。困惑していた上位ミミック2人は、また顔を見合わせた。

 

「…まあ、皆喜んでるなら…」

「良いのかしらね…?」

 

 

 

 

そんな仲間を余所に、自分が入っていたスープと具材をもぐついていたラーメンミミック。突如彼女は、思い出したようにポンと手を打った。

 

「あ、そうそう!言い忘れてた! 皆を守ったお礼として、私達ミミックにも『毎日一杯、好きな麺を食べても太らない』加護くれたって!」

 

「えっ! ということは…今食べた一杯はノーカンってこと!?」

 

「やった! もう一杯食べましょ! 今度は別の味!」

 

ドッと活気づくミミック達。…しかし、問題があった。

 

彼女達は元から食いしん坊。加護を貰ったことで我慢のタガが外れたらしく、気づけばあれよあれよ杯を重ねていく。

 

 

そんな毎日を続けた、食べ過ぎ太り…事情を聞き駆け付けた怒髪天社長から、神様すらドン引く訓練ダイエットメニューを課されたのは…また別のお話。

 

 

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