ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 ある男冒険者達、ある少女の聖夜

 

 

(さみ)い…」

「な…」

 

「雪、降ってんな…」

「そうだな…」

 

「ホワイトクリス…」

「「「それ以上言うんじゃねえ!」」」

 

1人がボソリと呟いた言葉を遮るように、俺を含めた他の面子は怒鳴り散らす。間違っても、『クリスマス』なんてムカつく単語は使わせねえぞ!

 

 

 

 

日が暮れゆく中、俺達冒険者パーティーは雪中行軍中。どこに向かっているかって?『クリスマスダンジョン』だ。

 

お前らも知ってるだろ?そこの存在。てか、ガキでもちょっと物知りな奴はそこに『サンタクロース』がいるってことは知ってる。手紙とか送るからな。

 

え?なんでそんな場所に潜ろうとしてるか? んなもん一つしかないだろ。プレゼントのオモチャを奪うためだ!

 

 

 

 

今、世間はクリスマスで盛り上がってる。でっけえクリスマスツリーに、イルミネーション、豪勢な飯に、サンタコスの売り子たち。

 

それは…別に良い。案外と気分が良くなるし、美味い。全部が終わった後、食い物が半額セールとかやるのも魅力だ。

 

特に女のサンタコスは、うへへへ…! クソ寒い中、堪えてミニスカやらタイツやらビキニやら着ている連中はまさに絶景だ絶景。

 

 

…だが、そんなんで喜んでいる俺達を一瞬で絶望の淵に叩きこんでくる奴らがいる。

 

…あ゛?聞くんじゃねえよ! わかるだろ!?『カップル』だよ!

 

 

 

ったく…!この時期になるとぉ…!あっちでイチャイチャ、こっちでイチャコラ、そっちでキャッキャ、向こうでウフフ!

 

あ゛ーあ!羨…!じゃねえ、ウザってえ!何がクリスマスじゃあい!!

 

こちとら万年彼女無しじゃあ!!ちくしょおおおおおお!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ハァ…ハァ…ハァ…。取り乱しちまった…。深呼吸…ゲホッ…!雪が喉に…!ゲホッゲホッ…!

 

…あぁそうだよ…!俺達は、クリスマス彼女無し予定なし何にもなしな男冒険者の集いだ。今年も良い相手に巡り合えず、傷を舐めあう予定だった…。

 

…そうだ、俺達が悪いんじゃなく、良い女がこの世に少ないから…!

 

…いや、もういい…。言ってて自分が悲しくなってきた…。

 

 

 

 

話を戻すか。そうやって集まった俺達が意気投合し、クリスマスを糾弾しまくってた。やれ無駄なイベントだの、やれカップルのための聖夜(笑)だの。

 

そして気づけば、怒りの矛先はサンタクロースに向いていた。そもそもあいつがプレゼントを配るから、みんな浮かれちまうんだろうが!

 

俺達もプレゼントを貰えなくなって久しい。なら、その分強奪してやろうと思い立ったというわけだ。要は八つ当たりだな。

 

 

 

『クリスマスダンジョン侵入パーティー』を結成したのがクリスマス数日前ぐらいか?そこから俺達は早かった。

 

出来うる限りのコネを使ってダンジョンの場所を調べ上げたんだ。ダンジョンの存在を知っている者は多いが、場所の詳細はほとんど不明だからな。ガキ共の手紙も、どっかに集められ、場所を知る僅かな配達人だけが届けるみたいだし。

 

馴染みの商人とか、ギルドの上役、裏の連中に揉み手をし、ある程度の場所まで絞ることが出来た。あとはそこを目指すだけ。ハッ、意外と簡単だったぜ。

 

…ただ、聞いた連中が軒並み「侵入するのは止めといたほうが良いぞ」って言ってたが。

 

 

 

 

 

 

 

ふと空を見上げると、いつの間にか雪雲の隙間から月と星が輝き始めた。もう夜だ。…お?

 

「おい、身体を下げろ!」

 

少し離れた先に何かを見つけ、俺は仲間に指示を出す。あれは…デカいログハウス…!

 

「見つけたぞ…!『クリスマスダンジョン』だ!」

 

思わずガッツポーズをしてしまう。と、その時…。

 

 

 

シャンシャンシャン♪ シャンシャンシャン♪

 

軽やかな鈴の音と共に、家の横から何かが飛び上がっていく。双眼鏡で見てみると…サンタクロースだ…!

 

トナカイに引かれたソリに乗った、白い大きな袋を携えたサンタが空へと消えていく。しかも助手なのか、サンタの恰好をした少女と、悪魔族っぽい女も乗っている。

 

サンタでさえ女連れかよ…クソッたれ…! てか、悪魔のサンタって…。『サンタクロース』じゃなくて『()()()クロース』ってか!

 

 

そんなクソみてえなギャグで小さく笑っていると、次々と違うサンタのソリが飛んでいく。おお、丁度いい!

 

聞いていた通りだ。『プレゼント配りの時、サンタは全員出動するから、ダンジョンは空になる』って話…! 

 

 

絶好のチャンス。さあお前ら、行くぞ! プレゼント強奪に!

 

 

 

 

 

 

 

だが当然、家の扉も窓も鍵がかかっている。当たり前か。フッフッフ…なら、ここは『サンタの真似』だ。

 

無理やり屋根に登り、煙突の元に。よし…!煙も出てないし、熱くもない。ここから侵入してやろう。

 

 

縄をかけ、ゆっくりと降りていく。上手く着地でき、中に潜り込むことが出来た。…サンタと泥棒って紙一重だな…。

 

さて、プレゼントの余りものはどこにあるか…!

 

 

 

 

 

 

 

 

早速部屋内を物色してみる。プレゼントは…ない。その代わりに、サンタの服や赤い長靴が置いてある。

 

どうやらここは縫製部屋兼、服置き場ってとこか。色んな大きさのサンタ服が大量に並んでやがる。

 

…こんな数、作る必要あるのか?さっき飛んでったサンタたちは精々が十人とかそこいら。助手らしき連中用があるとしても、絶対それ以上の服があるぞ?

 

しかも、やけに女物が多いな。まさかサンタも俺達と同類…ゴホン、変態なのか。

 

 

まあいい。サンタの作った服ならば、高く売れるだろう。とりあえず数着貰っていくか。そう思い、手を伸ばした時だった。

 

 

ガッ!

 

「痛っ!」

 

突然、脛を蹴られた。誰だ、蹴ったのは…! …ん?

 

視線を落としてみると、そこにあったのはサンタの赤い長靴。あれ、こんな場所にあったかな…。自分からぶつかっただけか。

 

……ッ!! いや、脛にぶつかるのはおかしいだろ!

 

 

そう気づき、俺は反射的に飛び退く。その瞬間だった。

 

ギュルッ!

 

長靴の中から飛び出してきたのは、幾本もの触手。それは俺の後ろにいた仲間の首へと。

 

「ぎゃっ…!」

 

そいつは絞められ悶えるが、触手は一切緩まない。それどころか、他の触手を俺達に差し向けてきた!

 

「に、逃げろ!」

 

仲間を助けている場合じゃねえ…! 俺達は勢いよく部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…来てないな…?」

 

逃げに逃げたからか、あの長靴触手は追ってくる様子はない。なんだったんだ、あれ…。

 

参ったな…。助けに行くべきなんだろうが…。あんまり行きたくねえな…。下手すりゃ、大量にあった他の長靴にも同じの入ってるかもしれねえんだ。

 

せめて、何か金目の物を回収してから様子を見に行きたいモンだが…ん?

 

 

 

少し先に、やけに開けた空間がある。灯りもついているそこに導かれてみると…。

 

「おー…」

「でっけえ…」

 

そこは入口扉から通じるエントランス。吹き抜けになっており、上に上がるための階段もある。その中央には、モミの木そのまま生やしたんじゃねえかってぐらいデカいクリスマスツリー。

 

10m以上はあるぞこれ…。屋根、どうなってんだ…?そもそもこんな広かったか、この(ダンジョン)…?

 

 

そこにつけられている飾りもデカい。近寄って見てみると、一つ一つが俺達が抱えなきゃいけないぐらいだ。

 

へえ、結構良い素材使われてんな。砕いて貰っちまうか。しっかし、形も色々あんなぁ。丸いの、星型の、リボン、雪の結晶…。

 

お、こっちは宝箱型じゃねえか!冒険者には景気の良い形だ!よし、これを砕い…て…

 

 

 

カパァッ…

 

え…?ツリーにぶら下がっていた宝箱型飾りの蓋が…開いた……って!

 

ガキンッ!

 

鋭い牙を打ち鳴らす宝箱。いやこれ、ミミックじゃねえか!!!なんでこんなところに!?

 

間一髪、回避が間に合ってよかった…! マズい、ツリーから離れなければ…!

 

 

カパンッ 

 

「ひっ!? 飾りの中から蛇が!蜂が! あば…ばばばば…」

 

背後で何かが開いた音と、仲間の1人の悲鳴が聞こえる。ハッと見ると、丸い飾りが開き、中から『宝箱ヘビ』やら『宝箱バチ』といったミミック生物が次々と出てきてるじゃねえか。

 

既に毒を受けたらしく、悲鳴をあげた奴は麻痺し倒れている。残りは俺ともう一人だけ…!

 

く、くそ…!もうオモチャなんているか!脱出を…! うわ!入口に陣取られてる…!

 

 

ガブッ!

「ぎゃあ!」

 

なっ…!さっきの宝箱ミミック、ツリーが自発的に外れてきやがった!

 

とうとう、俺だけ…!とりあえず逃げるしか…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

死ぬ気で走り、近くの部屋に閉じこもる。ギリギリセーフ…。

 

はぁ…。何が『ダンジョンは空になる』だ…!ミミックまみれじゃねえか!さっきの長靴触手も、触手ミミックだな…!

 

ったく…プレゼント箱貰ったと思ったら、びっくり箱だった気分だぜ…。とんだクソダンジョンだ…。

 

せめて、何か奪ってやる…。この部屋には何が…。 …!!ここは…!

 

 

 

やったぜ…!ここに来て大当たりだ…!置かれてるのは、幾つものプレゼント箱じゃねえか。カラフルなそれは、部屋中に沢山並べられてやがる。

 

ウキウキ気分で立ち上がり、箱の一つに手をかける。さあ、中身は…! 

 

 

 

…待て。何故ここに、プレゼント箱が置いてあるんだ…!? サンタクロースはもう出立したんだぞ…!

 

忘れ物、かもしれない。だが、サンタクロースが忘れるか…?『あわてんぼう』なら別だろうが…。

 

 

刹那、俺の頭の中に、さっきの自分の言葉が駆け巡る。『プレゼント箱が、びっくり箱』…!

 

まさか、これも…! 思わず後ずさった、その瞬間―。

 

 

パカカッ!!

 

「「「メリー…!くるしみマース!」」」

 

ダジャレと共に、周囲の箱から飛び出してきたのは幾体もの上位ミミック達。サンタ服を着ている…!

 

そ、そうか…!あのサンタ服はこいつら用の…!いやそんなこと、今更どうでもいい…!逃げ…!

 

ギュルッ

「はい確保♪」

 

ぐえっ…もう駄目だこれ…。

 

 

 

 

 

「サンタさんの家に忍び込むなんて、『悪い子』達ねえ」

 

箱に入った上位ミミック達に見下ろされながら、俺は…いや、俺達は正座させられていた。

 

そう、先にミミックに掴まった仲間達も、ここに集められていたのだ。殺されてはいなかったらしい。麻痺させられていた奴も、ほんの微量だったのか、今は回復していた。

 

 

「アンタたちみたいな侵入者、毎年少なからず来るのよねー」

 

やれやれと溜息をつく上位ミミック達。俺は恐る恐る問う。

 

「俺達を…どうする気なんだ…!」

 

すると、上位ミミック達は肩を竦めた。

 

「いつもだったら、『きゅっ』とやって復活魔法陣送りなんだけど…。サンタさんの家でそんなことするのもアレだしねー」

 

「見逃してくれるのか…?」

 

「んなわけないじゃない。しっかり苦しんでもらうわよ、『悪い子』なんだから」

 

「ど、どんな…」

 

「それは…こうするのよ!」

 

瞬間、上位ミミック達は俺達の視界と動きを塞ぐ。ひっ…!な、なんだ…!ポケットとか、バッグとかが漁られて…!

 

うわあ…!どこかに引きずられて…! うわああああああ…!

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ハッ…!?」」」」

 

ここは…教会…? 結局殺されたのか…?

 

いや、装備は全部ある…。ワープさせられたみたいだ。 バッグの中身もしっかり…。

 

「! なんじゃこりゃああああ!」

 

バッグに入っていたはずの回復薬とかが全部消えて、石炭とか、木の棒とか、ジャガイモになってるじゃねえか!

 

ああっ!ポケットからも大量にゴロゴロと…!どうやって入ってたんだこれ!

 

 

 

「そこの、冒険者達よ」

 

困惑している俺達の元に、厳かな声がかけられる。顔を上げると、そこにいたのは教会の神父やシスター達。

 

しかし様子がおかしい。普段は優し気な彼らの表情が、今は軒並み怒りを湛えている。

 

「貴方達は、『サンタクロースのクリスマスダンジョン』に足を踏み入れましたね…?」

 

「え、いや…」

 

思わず誤魔化そうとする。だがそれをさせぬように、神父の一喝が飛んできた。

 

「嘘をつくな! その石炭類が何よりの証拠、『悪い子』の証明! サンタクロース様の家へ忍び込み、荒らそうとしたのでしょう!」

 

「う…」

 

「子供達の夢を壊しかけたその行い、言語道断!貴方達に、冒険者の資格なぞない! ギルドからの特権により、暫くの間、貴方達の『冒険者ライセンス』を剥奪します!」

 

 

「なっ…!そんな勝手な…!」

 

俺は反論しようと試みるが…神父達は有無を言わせなかった。

 

「何が勝手か!これはギルドからの正式な制裁だと心得なさい! 加えて復活魔法陣の使用禁止、及びダンジョン侵入不可の制約魔法も付与します!」

 

神父の言葉と同時に、俺達はシスター達の魔法によって鎖で雁字搦めに…!う、嘘だろ…!!

 

 

罰が…罰が重すぎる…! 嫌だ…!嫌だあぁぁぁぁ…!! サンタさんごめんなさいいい…!

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

【時は同じく、聖なる夜。 ただし場所は変わる。 とある街、とある一軒の家。そこには、1人の少女とその親が住んでいた。視点は、その少女へと】

 

 

 

 

「ほら、早く寝なさい。サンタさん来ないわよ?」

 

「嘘ばっか!サンタさんなんて本当はいないんでしょ!」

 

お母さんに、そう言い返してやる。すると、今度はお父さんが何か言ってきた。

 

「いいやいるぞ? だけど、そんなこと言う悪い子の元には来ないかもな」

 

「フンッ!」

 

そう鼻を鳴らし、部屋に帰ってベッドに入ってやる。別に良いわよ、悪い子で!どうせプレゼントをくれるのは、お母さん達なんだから!

 

 

 

 

 

私は『ポーラ』。とある街の女の子。今日は聖なる夜、『クリスマス』。

 

毎年毎年この日になると、必ずプレゼントを枕元に置いていってくれる人、知ってる?それは、『サンタクロース』。

 

早く寝ないと来てくれないから、今日は私の友達も、いつもは腕白な男の子たちも、皆ベッドに駆け込むのが決まりなの。

 

 

…だけど、本当にそんな人がいるわけないじゃない。大人が私達を騙すために作った架空の存在に決まってる。

 

 

 

 

だって、友達誰もその姿を見たこと無いんだもん。そりゃ、この時期になるとサンタさんの真似をした人は沢山現れる。

 

だからサンタさんが、髭をたっくさん生やした、ふとっちょで、赤い服のお爺さんということは知ってる。

 

けど、そんなの胡散臭い。お爺さんしかいないってとこが特に! 1人で世界中を周れるわけないじゃん!

 

しかも、乙女の部屋に勝手に入ってくる『ふほーしんにゅうしゃ』なんて、信用できない!

 

 

 

 

 

ということで、今年はその正体を暴いて見せる!寝ないで待ってやるんだから!

 

嘘の手紙も書いて、枕元に置いた。近くのお店で売ってる、『100万もするダイヤのネックレス』って!

 

別に欲しくもなんともないけど、それが叶えられないならサンタさんは嘘だし、逆に本当にくれても、欲しい物じゃないからサンタさんは嘘!

 

 

絶対お母さん達に決まってるもん! あ、でも…この間、親戚のふとっちょおじさんとお母さん達、何か話してた。

 

あの人、変装したらサンタさんみたいになりそうだったし…。もしかして、そのふとっちょおじさんがサンタさんの真似して来たり…?

 

だったら、猶更信用できない…! 絶対に起きて、確かめてやる…!

 

まだかな…まだかな…! まだかな…まだ…かな…ま…だ…か…な… ま…だ…

 

 

すやぁ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさか、ここの親御さんから引き入れられるとは思いませんでしたね…)

 

(ね。煙突がないから、どうしようか迷ったけど。なんか、『サンタさんが直々に届けに来て欲しい』って彼ら(親御さん)がお手紙送ってたみたいよ)

 

(え、そうなんですか…? 私達で良かったんでしょうか…?)

 

(サンタさんが大丈夫って言ってたから大丈夫よ。きっと)

 

 

んぅ……?誰の声…? 誰かが、小さな声でぼそぼそ話してるの…? あれぇ…?

 

―はっ! 寝ちゃってた! サンタさんは…!

 

 

バッと飛び起き、目を擦る。と、そこにいたのは―。

 

「「あっ」」

 

「サンタ…さん…?」

 

 

 

 

私が寝ていたベッドの横でしゃがんでいたのは、サンタさんの服を着て、白い袋を持った…お姉さん。お母さんでもお父さんでも、親戚のふとっちょおじさんでもない。

 

だけど…角とか、尻尾とか生えてる…!サンタさん…なの…!?こんななの…!?いや絶対違う!

 

「あー…えーと…」

 

困ったようなサンタ服のお姉さん。私も混乱してきた。

 

知らない人が部屋にいるんだもの…。叫んだ方がいいのかな…。そう考えた時だった。

 

 

 

「ふぉっふぉっふぉ! メリー・クリスマスじゃ!」

 

お姉さんが持っていた袋の中から、誰かがぴょこんと飛び出してくる。それは…プレゼント箱に入った…サンタさん…?

 

確かにサンタさんの服を着て、白いお髭を生やしている。だけど、声は私と同じ女の子の声だし、背も私より小さい…。

 

「社長、なにを…むぐっ」

 

その子はお姉さんの口をぺちりと押さえると、私の横にひょいと登ってきた。

 

「起こしてすまなかったのう。ポーラちゃんや」

 

「え、なんで私の名前を…!?」

 

「そりゃ勿論、私…ゴホン、ワシがサンタさんだからじゃよ! あっちのは『クランプス』と言ってな、ワシの付き人をしてる魔物じゃ」

 

サンタさんが指さすと、お姉さんは「がおーっ」と鳴きながら手を爪みたいに尖らせた。

 

 

たしか、クランプスって…悪い子にお仕置きするっていう怖い顔した魔物…!…でも、怖いというか美人な感じだけど…!ミニスカだし…!

 

「夜起きてる子は、食べちゃうぞォ…!」

 

きゃっ…!怖い…!!!  思わず私が布団に身体を埋めると、サンタさんはふぉっふぉっと笑った。

 

「クランプスや、この子はお仕置きしなくて良いぞ」

 

「がぅー…。わかりました、サンタさん」

 

 

大人しくなるお姉さん。私はおずおずと質問した。

 

「ほ、本当にサンタさんなんですか…?」

 

「そうじゃよ。 …あぁ!有名なのは、ワシの師匠じゃ。子供達は沢山いるからの、皆で手分けして配っておるんじゃよ」

 

「な…なにか本物のサンタさんってわかるものとか…」

 

「うーん…そうじゃのう…」

 

私のお願いに、頭を捻るサンタさん。数秒後、ポンと手を打った。

 

「そうじゃ、ワシの身体の柔らかさはどうじゃ?」

 

 

 

 

「サンタは煙突から来るって知っておるかの?」

 

「は、はい…」

 

それは、私も知っている。友達から聞いたのだ。サンタさんは煙突を始めとした狭い場所を通り、部屋の中に入ってくるって。

 

と、サンタさんは自身のお腹をポンと叩いた。

 

「ワシは師匠みたいに太ってないからの、あまり必要ない技じゃが…。サンタは皆、煙突をするりと降りられる技を持っているんじゃ。ポーラちゃん、手で輪っかを作ってくれるかの?」

 

「こ、こうですか…?」

 

言われるがまま、私は両手で輪を作る。でもこれ、腕ぐらいしか通らない…。

 

「よいせっと!」

ニュルンッ

 

「きゃっ!」

 

ウソ…!サンタさんが頭から入ってきて…身体の半分まで輪の中に…!?

 

「これで信用して貰えたかの?」

 

私はコクコクと頷くしかなかった。こんなの、サンタさん以外じゃできないはず…!

 

 

 

 

 

 

 

「さて、プレゼントを渡すかの」

 

身体を戻したサンタさんは、お姉さんの方を見る。私は思い出して、慌てて枕元の手紙を差し出した。

 

「あ…あの…お手紙が…」

 

「ほう! どれどれ…わっ…!」

 

中を見て、絶句するサンタさん。だけど、すぐに笑みを浮かべた。

 

「…ふぉっふぉっふぉっ! ふむ…なら、これじゃの」

 

サンタさんが合図を出すと、お姉さんが小さめの箱を手渡してくれた。ちょっと重め…。何だろう…

 

「開けても良いですか…?」

 

「構わんぞい」

 

サンタさんの頷きを見るや否や、私がビリビリと破っていく。中から出てきたのは…

 

「オルゴール…!!」

 

 

 

 

手紙に書いたのは、ダイヤのネックレス。だけど入っていたのは、綺麗なオルゴール。

 

普通なら、ハズレ。だけど…これって…もしかして…!

 

 

私はゆっくりと、ネジを回す。すると、聞こえてきたのは…遠く離れたとこに住んでる、お婆ちゃんが良く歌ってくれた子守歌…!

 

これ…そう…!これこそが…!

 

 

 

「えーと…お願いを果たせなくてすまんのう」

 

申し訳なさそうなサンタさん。だけど私は、首を横にブンブンと振った。

 

「いえ…!これが良かったんです…!これが一番、欲しかったんです! ありがとうサンタさん!」

 

 

 

 

 

「ほっ…。良かった良かった。さて、ワシらは次の子供のとこに行くかの。クランプスや」

 

「はい、サンタさん」

 

お姉さんが指を動かすと、私の部屋の窓が勝手に開く。そこから、袋を背負いサンタさん入りの箱を抱えたお姉さんは飛び出していった。

 

 

私は追いかけるように顔を外に出す。すると―。

 

 

シャンシャンシャン♪ シャンシャンシャン♪

 

オルゴールの音のように心地いい鈴が鳴り響き、空の彼方にトナカイに引かれたソリが走っていくところだった。

 

サンタさん…! 本当にいたんだ…!

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ふうーっ! 危なかったわね…!」

「えぇ…! すみませんサンタさん、時間をかけてしまって…」

 

ソリに乗り込み、息を深く吐くは先程のサンタとクランプス。もとい、ミミン社長と秘書アスト。

 

ソリの手綱を握っていた本物のサンタクロースは、楽しそうに笑った。

 

「ほっほっほっ! 問題ないぞい。どうじゃったかの?」

 

 

「それが…女の子が起きてきちゃって…社長の機転でなんとか誤魔化せました…」

 

「持っててよかったわ、白いつけ髭! アストもよく無茶振りに応えてくれたわね」

 

「やけっぱちでしたけどね…。ほんと、何とかなってよかった…」

 

くたりとへたり込む秘書アスト。サンタクロースは彼女達を労った。

 

 

「ほっほっ!2人共有難うのう。コーラでも飲むと良いぞい。…あの子の元には、ワシが行っても『イメージ通りに着こんだ偽物』とか言われていたじゃろうしなぁ」

 

「だから私達に任されたんですね!」

 

髭を剥がしながら納得するミミン社長。サンタクロースはにっこり頷いた。

 

「そういうことじゃ。さて、まだ夜は長い。気張っていくぞい」

 

「「おー!」」

 

サンタ、そしてミミン社長と秘書アストを乗せたソリは、軽快に夜空を駆けていくのであった。

 

 

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