ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№38 『イエティの雪山ダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌


 

 

「はくしゅっ!」

 

私の顔に吹き付けるは凍てつく風。思わずフードを深く被る。会社を出るときも寒めだったとはいえ、ここまでとは…。

 

少し前に訪問したダンジョンから貰った魔獣達の毛、それで作ってもらった防寒着は凄くふかふか。プラス強めの耐寒魔法をかけているおかげで身体は全く寒くはないのだが…。

 

やっぱり顔は出さなきゃいけないためそこは寒い。まつ毛、凍りそう…。

 

 

 

 

私達は今、ギルド登録名称『雪山ダンジョン』というところに来ている。一年中溶けない雪で包まれた極寒の地が一つ、雪山。私の目の前に広がるのも純白な雪景色で、凄く綺麗。

 

…実はここ、本来ならばほぼほぼ雪が降っている。どんな季節でもお構いなしに。

 

 

だけど、今は晴れている。勿論、時折晴れる日はあるらしいが、別に今日はそんな日ではなかった。

 

というか私達が来てすぐは、口も開けず視界も悪いというブリザード状態。私が持っていた社長入り箱の上にも、あっという間に雪がこんもり。

 

 

流石にそれだと商談やダンジョン構造の確認等が面倒であり、依頼主の方々からも頼まれたため…私が、()()()()()()()()

 

 

 

とはいっても、一時的に雪雲を吹き飛ばしただけなのだけど。それでも、雲がかなり厚かったから結構手間取ってしまった…。

 

それに、大魔法を打ったから疲れてしまって…。今は休憩させてもらっているのだ。ダンジョンの玄関である雪洞の入口内に座って。

 

 

 

このダンジョンの構造は、山にふんだんに積もり固まった雪を掘って作られた洞窟方式。内部は縦横無尽に広がっている。

 

時折開いた屋根の隙間から洞窟内に雪が積もってたり、それを利用したのか各所に雪だるまが設置されていたりするここだが、その広さは中々のもの。

 

 

現に私が今いるこの入口も、1人暮らし用の小屋が入るぐらい大きい。…そのせいか、隙間風(もう隙間ではないが…)がビュウビュウ入って来て寒い…。

 

くしゅっ…! うぅ…やっぱりかまくら作ってもらったよかったかな…。

 

 

 

…話を戻そう。それほど大きい入口や内部があるということはどういうことか。簡単なことである。ここに住む魔物は巨体ということ。

 

ではどんな種族なのかと言うと…。

 

 

…え? 私の手元に社長がいない? ご心配なく。彼女なら―。

 

 

 

「えーい!」

ボフッ

 

「ひゃー! やったなこのー!」

ボフッ

 

…少し先で、依頼主の子供達と雪合戦に興じている。

 

 

 

 

 

 

 

勿論社長も防寒対策をしてきた。私と同じくモコモコな服を着て、宝箱にもモコモコをくっつけている、のだが…。

 

「社長、どっち陣営にいるんだろう…」

 

目を凝らしてもわからないその姿に、思わずそう呟いてしまう。だって、社長のモコモコ、白なんだもの。

 

 

あまり考えずに選んでもらったのが仇となってしまった。少し遠いと、周囲の雪、そして依頼主の子供達が纏うモコモコに混じってしまい、どこにいるのかわからない。

 

せめてもうちょっと派手な…それこそ赤とか黄色とかに染めて貰えばよかったかもしれない。社長の髪色と同じピンクとか。

 

 

…いや、本当見えない…!! 精々動いているのがわかるぐらい。雪が日光の反射でキラキラ輝いているから、長く見つめていると目が痛くなるし…。

 

…ま、いいか。魔法で探そう。えーと…あぁ、あれか。なんか一人だけ雪の上を滑走してると思ったら社長だった。

 

 

 

 

 

 

あ。依頼主の子供達がモコモコを纏っているといったが、少々語弊があるかもしれない。

 

正確にはモコモコが生えていると言ったほうが正しい。彼らの毛なのである。

 

全身に白い毛を持つ彼らの正体。それは『イエティ』なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

イエティ…『雪男』とも呼ばれる彼らは雪山に棲む魔物の一種。3m以上もある巨体であり、筋骨隆々。そして全身に白い毛を纏った姿をしている。なお子供は普通に小さい。

 

そんな彼らだが、人間達からは特殊な呼ばれ方をしている。耳にしたことのある方は多いだろう。『UMA』…未確認生物と。

 

 

 

 

あまりにも人間達に姿を見せないから、そんな仇名がついたらしい。…そういえば、前に訪問したダンジョンにいた『ツチノコ』も同じ扱いをされていると聞いた。

 

 

だけど、私達にとっては確かに珍しくはあるものの、別に未確認でも何でもない。獣人の一種のようなものである。普通に言葉話すし。

 

ぶっちゃけ、魔界の市場に普通に来てるの幾度も見ている。お猿さんの顔ロゴが入ったTシャツとかニット帽とかを着こんで。

 

 

全く、人間は見知らぬものをすぐオカルト化して騒ぎ立てる…。それ、悪い癖だと思う。

 

 

というか、生態が大体想像できる彼らイエティに比べれば、ミミックの方がよっぽどUMAな気が…。

 

 

 

 

 

 

まあそんなUMAと呼ばれるイエティたちなのだ。私達に依頼が来た理由も推測できた。

 

そして、大当たり。『好奇心でやってきて、ダンジョンを荒らす冒険者への対策』―。それが依頼内容であった。

 

だけど、一つ問題が。それは…は…は…はくちっ!

 

 

 

 

「おぉー。やっぱ寒いっけか? かまくら作ってやっけなぁ」

 

寒さでくしゃみをした直後、背後からズシンと音が響く。そして、私の顔を上から覗き込んでくる巨躯の影が。

 

外で遊ぶ子供達に負けず劣らずの白くモファモファな毛をしている、大人イエティ。彼は『アペ』さん。依頼主の方である。

 

 

「いんやぁー。雪晴らしてくれて助かった助かった! 最近晴れ間がめっきりでなぁ。おかげで滞っていた作物の収穫も、狩りも進む進む!」

 

満面の笑みを浮かべ、のっそりと出ていくアペさん。と、近くの雪を大きな手で豪快に集め、ぎゅっぎゅっとドーム型に固める。

 

そして無造作にドームの横へ手を突き刺し、ざくざくと雪を掻き出しかまくらを作り上げた。速い…!

 

 

「アストちゃんの大きさなら、これぐらいでよかっぺ。あとは…」

 

するとアペさん、身体の毛をモソモソ。そこからひょいと取り出されたのは、ござとランタン。毛に結びつけていたらしい。

 

それをかまくら内に広げて、完成。すごく手慣れた手つきだった。流石である。

 

 

 

 

「…あっ。中、案外温かいですね…!」

 

「ランタンの熱がすぐ籠っけからなぁ。心地よかんべ」

 

「はい、すごく!」

 

早速中に入らせてもらい、堪能する。これ、かなり良い。ここに炬燵とか持ち込んだら、暖かさと冷たさで書類仕事捗りそう…!

 

「んなら良かったぁ。 んー、ちょいと小腹空いてきたっけな。取ってくっか。アストちゃんも食うけ?」

 

ダンジョンへ戻ろうとしながら、そう聞いてきてくれるアペさん。私は首を傾げた。

 

「なんですか?」

 

「かき氷だぁ」

 

「…いえ、遠慮させてください…」

 

流石に無理です…。

 

 

 

 

 

 

結局暖かなお茶を頂き、まだまだ遊び続けている社長達を見守ることに。

 

と、私が入るかまくらの横に座り、サクサクとお茶漬けのようにかき氷を食べていたアペさんが笑った。

 

「やるもんだなぁ、ミミン社長。うちのガキンチョ共の体力についていけるなんて。子守もしてくれて大助かりだっけぇ」

 

 

そう。実は、晴れ間に作業をする大人イエティたちに代わり、社長がやんちゃ盛りの子達の相手を引き受けたのだ。

 

しかし、かれこれ数時間は遊び続けている。イエティの子達は大丈夫だろうけど、社長に霜焼けができないか心配…。対策魔法はかけてあるとはいえ…。

 

 

ちょっと不安になり、やきもきしてしまう。と、アペさんは思い出したかのように話しかけてきた。

 

「そだ、アストちゃん。さっき悩んでたミミック達の配置方法って思いついたのけ?」

 

―! そうだった…!!!

 

 

 

 

 

 

先程述べた、『一つの問題』。それは、ミミック達をどう配置するかということ。耐寒魔法等の必須オプションもアペさん達は快諾してくださったので、その点は大丈夫なのだが…。

 

勿論シンプルに宝箱に擬態し、開けた冒険者を屠るという方法はある。だけど、それだけだと物足りない気がしているのだ。

 

 

 

ここに来る冒険者はイエティを狩るのが目的と言う輩も多いらしい。道の端や部屋の奥に隠れるミミックだけだと、無視されてしまうこともあるだろう。

 

加えて、ダンジョン洞窟内にも雪が積もっている箇所が多い。そこについたイエティの足跡を追ってくるのが冒険者の手法らしいが、宝箱が跳ねた後とか見つけられたら勘の良い人なら気づいてしまう。

 

そもそもミミックが走った際、雪に埋もれてしまうっていうのもある。地上近くを動くミミックならではの問題である。

 

 

 

 

最悪何も思いつかなかったら、一旦そのシンプル擬態で様子見をしようと考えてはいるし、それだけでもそこそこな戦果は出せるだろうが…なにか搦め手が欲しいところである。

 

 

因みに社長も同じ考えなのだが、やっぱり浮かばずな様子。そして「何も考えず遊べば、いいアイデア降りてくるわよ!」とか言って子供の相手をしているのが現状。

 

 

うーん…やっぱり私もあの雪合戦に参加すべきかなぁ。流石にもう大技を放った疲れは取れてるし、アペさんのおかげで暖まったし。

 

 

と、そんな折だった。

 

 

 

 

「ん? アストちゃん、ミミン社長が呼んでるみたいやど」

 

「え? あ、ほんとですね」

 

アペさんに促され見ると、遠くで手をブンブンふる姿が。イエティの子供達まで。

 

どうやら一緒に遊ぼうというお誘いらしい。丁度そんな気分だったので、かまくらからよいしょと出て、社長達の方に向かった…次の瞬間―!

 

 

 

ボスンッ!

「わぷっっ!?!?」

 

見事なるストレート球、私の顔面直撃。勿論雪玉。…誰が投げてきたなんて、考えなくてもわかる…。

 

「しゃーちょーう…?」

 

「へいへいアスト! もう充分休んだでしょ?雪遊びしましょ!」

 

顔の雪を払うと、子供イエティたちに勝るとも劣らない腕白顔の社長がそこに。雪でテンション上がってる様子。

 

完全に童心に帰っている社長に肩を竦めると、彼女はにんまり笑ってある提案をしてきた。

 

 

「ね。アスト、もう魔法使える?」

 

「? えぇ。大丈夫ですけど…」

 

「なら、アレやってくれない? ほら、雪玉を撃つ…」

 

あぁ。社長のお願い事はわかった。けど、アレはちょっと危険な魔法。良いのだろうか…。

 

「見たい見たーい!」

「食らってみたーい!」

「おねえちゃん、やってやって―!」

 

と、子供イエティは乗り気。まあイエティたちは頑丈と聞くし…。あとは親御さん、代表としてアペさんに許可をもらわ…

 

 

「そーれ!総攻撃ー!」

 

「「「えーい!!」」」

 

ボスッボスッボスッ!

 

「きゃっ冷たっ!? ちょ、ちょっと待っ…!」

 

アペさんの方を向こうとした瞬間、社長の号令によって多数の雪玉が投げつけられる。有無を言わさぬ気らしい…!

 

いや…ちょっ…! 多い多い多い…!これ、私が雪だるまにされる勢い…!! すとっぷ…ストッ…わぷぅっ!!

 

 

息継ぐ暇もなく投げつけられる雪玉に、私の身体は埋まり始める。 すると、アペさんの笑い声が。

 

「アストちゃーん! 盛大に返したれー!」

 

 

…許可は貰った。ならば、お返しだ!

 

 

 

 

 

 

「――――。――――――。」

 

詠唱を開始。すると、異常を察したのか雪玉の投擲は収まる。

 

「さ、皆。来るわよぉ!」

 

社長の言葉にざわつき、嬉しそうに散開する子供イエティたち。お見せしよう。これが私の雪玉魔法!

 

「顕現せよ!『スノウヒュドラ』!」

 

 

 

 

 

詠唱完成の台詞と共に、周囲の雪がゴゴゴゴと揺れる。雪崩?いいや、違う。

 

ズズズと持ち上がる、足元の雪。それは幾本もの巨大な竜の首へと形成され―、高らかに吼えた。

 

「「「「ウオオオオオッッ!」」」」

 

「雪玉、発射ー!」

 

私の号令に合わせ、スノウヒュドラは口を開く。そして…。

 

 

ドドドドドドドドドドドッッッッ!

 

 

弾幕を張る勢いで、何千もの雪玉を撃ち出した。

 

 

 

「すげー! こえー!」

「ひゃっほー!!」

「躱し…きれなーい!」

 

イエティたちはほとんど怖がらず、襲い来る雪玉へと身を晒す。避けたり立ち向かったりするが、数の暴力には勝てず…。

 

「「「ひゃーー!!」」」

 

全員が雪玉群の中に埋め込まれた―、って…。

 

 

 

「まずっ…!」

 

やり過ぎちゃった…!? 慌ててスノウヒュドラを止め、助け出そうとする。が…

 

ボムンッ!ボムンッ!ボムンッ!

 

「おねーちゃん凄ーい!」

「カッコいい!」

「もっともっと!」

 

全く堪えた様子はなく、寧ろ元気いっぱいに雪から出てくる子供イエティたち。良かった…。

 

でも…それもそうか、吹雪の中暮らす種族だもの。これぐらい問題ないのかもしれない。

 

 

じゃあ、ご要望にお応えして続きを…。あれ?

 

「社長は…?」

 

 

 

 

 

 

白毛のイエティたちの中に、社長の姿が無い。見間違えた…ってこともない。

 

もしかして、雪の中に埋もれて出てこれなく…!? 社長に限ってそんなことは…!?

 

いや、落ち着いて…。魔法で位置を探ればいいのだ。えーと…。ん??

 

「真ん前?」

 

 

妙な反応に首を捻りつつ正面を見る。すると、そこには大きな雪玉、がぁ―!

 

「どーん!」

 

「ひゃああっ!?」

 

激突してきたぁ!!

 

 

 

 

軽く吹き飛ばされ、私は柔らかな雪の上にボスンと落ちる。あっ、気持ちいい…!

 

じゃない。やっぱりあれ社長入りの雪玉…。その推測に正解と言うように、私の身体の上に雪玉がモスリと乗ってきた。

 

「やるわねアスト! 全部回避しようと思ったけど、私が雪だるまにされちゃった!」

 

パコンと玉を割り、出てきた社長はケラケラ笑う。全く、雪だるまにされても動けるなんてミミックはほんと…。

 

………………っ!!

 

「「その手があった!」」

 

私と社長の声が同時に口にしたその言葉は、白い雪原に涼やかに響いた。

 

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