ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 とある女騎士の凌辱

 

「どけ!貴様ら!」

 

ダンジョン入口に(たむろ)っている冒険者を、半ば突き飛ばすように掻き分け中に入る。どいつもこいつも、締まりのない顔を…!

 

ッ…! いけない、いけない…。義憤で興奮しすぎているな…。こういった時は、培った剣技も上手く冴えわたらないものだ。

 

一旦深呼吸を…。ふぅー…はぁー…。よし、改めて目的を確認するとしよう。

 

 

 

 

私はとある国で騎士を務めている者だ。並み居る兵や他の騎士を優に凌ぐほどの技量を持ち、国の誇りが一つとなっている。

 

…自分でそう言うのも面映ゆいが、これは自他共に認めること。幼い時から鍛えられ、努力を重ねてきた甲斐として受け入れさせて貰っている。

 

 

―なに? 女ではないか、だと? あぁ、その通りだ。女騎士で何が悪い。

 

言っておくが…女だてらに武の道を、と嘲笑っていた連中は全て実力で叩きのめした。今や私の名は、並ぶ者のないほどの実力者として周辺諸国にまで知れ渡り、慕ってくれる者も数を増している。

 

 

まあ、だからなんだと言うわけではないが。私は、私の騎士道を貫くまで。清廉潔白に生き、持ちうる技で困っている民を助ける―。それが、私の生き様だ。

 

 

 

 

そんな私が、なぜこのダンジョン…『淫間ダンジョン』に侵入を試みているか? それは勿論、ここを潰すためだ。

 

ここに棲みついているかの魔物、『サキュバス』。奴らは人を食う、恐ろしき悪魔。

 

…ただし、頭から丸かじり、という食べ方ではない。正しくは『絞る』。生物が持つ活力…『精気』というものを抽出するのだ。

 

……そして、その絞り方だが…。…くっ…、あ…あんなことやこ…んなこと…、そんなことをして…快楽、いや淫楽を与え、吸いとる…らしい。

 

なんという…なんという…破廉恥な、淫蕩な魔物だ…! 許されない…許さないぞ…!

 

 

 

この場の存在は噂にこそ聞いていたが、馴染みにしている酒場のマスターからとうとう所在を聞いた。しかも最近、やけに引き込まれる者が増えているらしい。 

 

ならば、もう聞き捨てならない。ここを、潰して見せる…! そう意気込み、やってきたのだ。

 

 

 

―あぁ。見た通り、部隊どころか、パーティーすら組んでいない単独行動だ。元よりこれは、私の独断。それに休日を使った業務外の活動だ。同胞を巻き込むわけにはいかない。

 

 

それに…サキュバスは悪魔族。かなりの力を備えている。下手に足手まといの兵を連れてくるのは危険だ。

 

なに、サキュバスと剣を交えたことは幾度かある。その全てで勝利を収めてもいる。私一人で充分だ。

 

 

あえて自らを鼓舞するために宣言しよう。サキュバスになぞ、絶対負けない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐうっ……!!」

 

「うふふふふ♡ 貴女、とぉーーーっても強いわね♡ け・ど、残念でしたぁ♡」

 

床へと吹き飛ばされ歯を軋ませる私に、サキュバスのボスは愉し気な笑みを投げつけてくる…。くそっ…抜かった…!

 

 

 

…途中までは、上手くいっていた。このダンジョンには媚薬の瘴気が立ち込めているため、いくら対策を施してもそう長くは戦闘出来ないことは織り込み済み。

 

だから、即座に決戦をしかけようとした。洞窟内の風景が、暗いピンクの灯りがつく娼館のように変わったのを皮切りに攻撃。近場にいたサキュバス達数名を打ちのめし、ボスを呼び出したのだ。

 

先に戦ったサキュバスは確かに強かったが、私の敵ではなかった。それぞれ一太刀ずつで全員を沈めることができたのだから。

 

この調子ならば、ボスのサキュバスもそこまでの実力者ではない。私の冴えわたる剣技で片がつく。そう考えていた―。

 

 

それが、甘かった…! 出てきたボス…『オルエ』と名乗るサキュバスは、まさに桁違いの力を秘めていた…!

 

 

 

幾ら立ち向かおうと、ヤツの姿はピンクの靄となり消え、別の場所へと現れる。そのせいで切り付けることはおろか、一掠りすら与えることができない。

 

しかしこちらもただ手をこまねいているわけではない。動きを予測し、フェイントをしかけ、とうとうヤツを捉えた。そして、今まで数多の魔物を屠った必殺の一刀で―、両断した…!

 

 

したはずなのに…!半分になったヤツはまたも消え、その場には真っ二つになったただの木箱が。肝心のヤツは近くの机に腰かけ、「凄いテク()ねぇ♡」と拍手をしてきたのだ。

 

 

 

その後も、決定打はおろか、攪乱されるだけ。そう…攪乱されるだけ。ヤツは…オルエは一切の攻撃をしてこない。ただ、ニヤニヤと様子を窺っているだけなのだ。

 

その様子に苛立ち、私は攻勢を強めた。―だが、それがヤツの狙いだった。

 

 

私の呼吸は自ずと荒くなる。するとその分、周囲に漂う媚薬の瘴気が身を蝕んできたのだ。

 

不味い―! そう思い、退こうとした瞬間。ヤツの尾が鞭のようにしなり、強かに打ってきた。鎧越しだというのにその衝撃は凄まじく、私は床に転がってしまったのである…。

 

 

 

 

 

 

「ふ、ぅぅん…!ここまでの手練れ、久しぶり♡ つい遊び過ぎちゃった♡」

 

軽く伸びをするオルエ。ゆさっと彼女の胸が揺れ、『ぷるんっ♡』『むわっ♡』という音も…音?

 

クッ…ヤツは私を舐めている…。しかし、確かにこれ以上の戦闘続行は危険だ…。悔しいが…撤退をしよう…。

 

これでも私は抜かりが無い。脱出経路の把握と準備は済んでいる。今回は後れを取ったが、次は部隊を率い本格的に…!

 

「剣よ、輝け!」

 

カッッッッ!!

 

眩い閃光を放ち、サキュバス達への目くらましとする。暗いピンクの灯りで満たされた空間が、一瞬で白む。

 

「きゃあっ♡」

 

オルエは、悲鳴?かよくわからなぬ声を上げる。…楽しそうだし、恐らくまともには効いてないだろう。

 

だが、充分だ。逃げる数秒の隙さえ確保できれば。ここが好機、急ぎ脱出を!

 

 

 

すかさず立ち上がり、踵を返す。この部屋の入り口を抜ければ、ひとまず窮地は脱せる。オルエ以外のサキュバスなぞ、恐れるに足りない。あとは、来た道を引き返すだけ…!

 

と、入口まであと数歩の時。背後からオルエの声が聞こえた。

 

「ミミックちゃんたち♡ 手籠めにしちゃってぇ♡」

 

その刹那―。

 

 

 

チクッ

「うっ…!?」

 

首筋に、小さな痛みが。これは…、―っ!

 

「へゅっ…にゃ、にゃんや(なんだ)きょれ(これ)ぇ…!」

 

か…身体が…麻痺して…!! い、いや…それだけじゃなくて…急に火照って…くぅっ…!? 

 

ち、違う…!これ違うぅ…! いつもの…戦いの後の火照りじゃないぃ…!?

 

 

ブウゥウン…

 

 

―っ! この…虫の羽音…! 目を戦慄かせながら周りを見ると、赤と緑の奇妙な蜂…!

 

あ…あれは…!ミミックの『宝箱バチ』ぃ…!? い、入口横の木箱の中に潜んでいたのか…!?

 

で、でも…毒性…こんな弱かったか…? 全く動けなくなって、喋れも出来なくなる麻痺毒だったはず…!

 

だって…これ、一応…動ける…。這うぐらい、だが…。それに…この火照り具合…毒と言うより…媚薬…!? 

 

 

 

「流石ミミンのとこの宝箱バチ♡ いい感じに弛緩させてくれたわねぇ♡ こっちに連れてきちゃって♡」

 

ガブッ

 

―なぁ…っ!? 今度は落ちていた宝箱が動いて…!ミミックだったのか…! 頭から齧られ……ない…?

 

いや、頭から体半分呑み込まれているはいるけど、噛まれない…。咥えられている…! ひゃんっ!ミミックの牙がチクチク刺さって…!舌が首筋をぺろぺろ舐めて…!!

 

 

 

 

 

 

 

ボスンッ

 

「あうっ…!」

 

麻痺した身体のまま、どこかへと連れてこられ、ミミックから吐き出されるように放り投げられた。この感触…ベッド……!?っ…まさか…!!

 

「じゃ♡ 私はこの騎士ちゃんと遊ぶから♡ また何かあったら呼びに来てね♡」

 

手下のサキュバスにそう伝え、オルエはシャアアとカーテンを閉じる。そしてこちらを向き、ペロリと舌なめずり。

 

「うふふふふ…♡ さぁて、お楽しみタ・イ・ム♡」

 

 

 

 

 

 

「くっ…辱めを受けるなら、死んだ方がマシだ! 殺せ!」

 

「あら♡ 『くっ殺』なんて点数高いわねぇ♡ 88点♡」

 

自らもベッドに乗ってきながら、謎の評価をするオルエ。私の顎をクイっとしながら、怪し気に笑う。

 

 

おのれ…麻痺毒は多少消えてきたとはいえ…ヤツの顔面に唾を吐いてやることすらできない…! ―と、オルエのヤツは私の唇をつつぅと撫でてきた。

 

「ぷるぷるな唇を可愛くすぼめちゃって…♡もしかして、キス待ちだったり♡」

 

「…!なわけ…!」

 

「冗談よぉ♡ まあでも…本当に、自分から求めるようにし・た・げ・る♡」

 

 

「ひっ…! っく…!この…サキュバスめが…!人を誑かし、市井(しせい)を脅かす悪魔め…!」

 

ゾワッと背を駆け巡った怖気を耐え、出来うる限りの悪態を吐いてやる。しかし、オルエはカラカラと笑うだけ。

 

 

「人を誑かす、は大当たりね♡ でも、市井を脅かす、というのはハズレよぉ♡」

 

「…なんだと…?」

 

「ここの皆は、ダンジョンに来る人しか襲わないわ♡ 人里に降りて荒らしまくるなんて無粋なこと、したことないわよ♡」

 

「…だが…!」

 

「私達のお宝を狙って、やってきた冒険者を仕留めることの何が悪いのかしら♡ むしろ脅かされているのは私達♡ きゃー乱暴されちゃーう♡」

 

「―!こ、この…!屁理屈を…!」

 

「大丈夫よぉ♡ やってきた冒険者もしっかり帰してあげてるんだから♡ まあ時たまヤリ過ぎて死んじゃうんだけど、復活できるし問題ないでしょ♡」

 

「…帰す…だと…!?」

 

「だってそうしないと、ハマって再度来てもらえないでしょう♡ うふふふふ…♡あの理性と野生の葛藤に悩まされながら、体は逆らえずに悶々とした火照り顔で来る様子…たまらないわぁ♡」

 

――。こいつは…とんでもなく邪悪で、淫奔なサキュバスだ…。く…くぅ…負ける…わけには…!

 

 

 

 

 

 

 

「さて、まずは…それ、良い鎧ね♡」

 

何故か私の鎧を褒めつつ、オルエは枕に手を伸ばす。そして、ポンポンと叩いた。

 

「さあ、出番よぉ触手ミミックちゃん♡」

 

すると、枕の横からニュルゥと触手が。

 

「こんな使い方、サキュバス以外はしないでしょ♡ やっちゃえ♡」

 

オルエの合図と共に、触手ミミックは枕から出て……―ッ!

 

ズルゥッ…

 

わ…私の…! 私の鎧の中に…!?

 

 

 

 

「体を守るはずの硬ぁい鎧が、ミミックのお家に早変わり♡ 『触手鎧』ってやつねぇ♡」

 

クスクスと声を漏らすオルエ。だが、私はそれどころではなっ…ぁんっ! 

 

ひぃぅっ…!! 身体の至る所を…弄られてぇ…! ひぁあっ…!やぁっ…そこは…駄目ぇ…!

 

 

僅かにしか動かない手を必死に動かし、肌をこねくり回す触手を払いのけようとする。が―。

 

「よ…鎧がぁ……!?」

 

触手を掴もうとしても、引っ掻こうとしても、堅い鎧に阻まれてしまう…。まさか…攻撃を防ぐための硬質さが、逆に働くなんてぇ…!!

 

もどかしい…!くぅぅんっ…もどかしい…! 常に共にあると言ってもいい鎧が、こんなに邪魔と思ったことは初めてだ…! やぁっ…やぁああっ…!!!

 

 

 

 

 

 

 

「これぐらいで良いかしら♡ 一旦出てきちゃって~♡」

 

少し経ち、オルエのヤツは鎧から触手ミミックを回収する。出てきたそいつは、すぐさま枕の中に帰っていった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…。こ、この程度か…! 大したこと…ぅんっ…ないな…!」

 

息を必死に整えながら、私は強がる。すると、オルエのヤツは私の鎧を外しながらニヤついた。

 

「口ではそう言っても、カラダは正直ね♡ ぴくんぴくんしちゃって、可愛い♡ 90…いえ、やっぱり93点上げちゃうわ♡」

 

「ハッ…満点はくれないんだな…!」

 

「満点あげたのは今まで2人だけ♡ でも、ほぼ最高のレベルよ♡今まで食べてきた冒険者に点数つけるなら、平均50点が精々だから♡」

 

「…ッ、下種め…!」

 

「下種で結構♡ 強気で腕の立つ女騎士を蕩かしつくせるなんて、極上のフルコースがお粗末に見えるほど美味しーーーいことだもの♡ はい、ばんざーい♡」

 

あっという間に無理やり鎧を全部剥がされ、下に着ていた服だけにされてしまった…。つ、次は何を…。

 

「さぁ…! とうとう出番よ♡ かもーん♡」

 

パンパンと手を鳴らすオルエ。すると―。

 

 

 

 

ズズズズズズ…

 

「は…? ふ…風呂…?」

 

どこからともなくベッド横に滑ってきたのは、真っ白で大きめ、猫足のバスタブ。

 

と、そこから女魔物がひょこりと顔を出した。あ、あれは…上位ミミック…!!?

 

 

「待ちくたびれましたわぁオルエさん。はやく加わりたくてうずうずしてたのですから!」

 

「ふふふ、お待たせ♡ たぁっぷり、舐りつくしてあげましょ♡」

 

そう会話をし、上位ミミックは枕を拾い上げる。そして中の触手ミミックをバスタブの中に…!? い、嫌な予感がする…!

 

「さ、騎士ちゃん♡ 皆で一緒に入りましょ♡」

 

オルエのヤツにひょいと抱え上げられ、私はバスタブへと近づけられる。その中は―。ひぃっ…!?

 

「しょ…触手まみれぇ…!?」

 

「『ミミック触手風呂』よ♡ 頑張って耐えてねぇ♡ ちゃぽん♡」

 

ひっ…まっ…! いや…いや…! ひゃああああああっっっっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ…っいっ……ふぅんっ…っぅう……っあ…おぉっ……」

 

ひ…()ぬかと…おもっひゃ(思った)ぁ……。し…知らにゃい……こんな気持ちひいの…知らにゃい…。

 

にゃ…にゃんとか耐えきれたけどぉ…。もう…もう…これ以上はぁぁ…

 

 

「あらぁ…。もう終わりですかねぇ。ベッドに戻してからずっと、触らなくとも勝手に悶えちゃっていますし…」

 

「いいえ~まだまだ♡ アレ、持ってきて♡」

 

「まぁ…! まだ責められるなんて嬉しいです…!」

 

…耳には、そんな会話が入ってくる。視界の端で、バスタブが消えていく。十数秒後、ズズズ…とやってきたのは…。

 

 

「た…たきゃら()はこ()…?」

 

 

 

大きめの、ベッドより数回り小さいぐらいの宝箱。ただし中はフカフカそうな…。

 

「これはねえ♡ 『箱工房』…私の友達が持っている、箱作りの施設で作ってもらった専用ベッド♡」

 

オルエは説明しながら、私をその中に連れ込む。上位ミミックも一緒に入っているせいで、狭い…。

 

 

カパンッ

 

 

ぇ…?蓋が…閉まったぁ…? すると…オルエが、私の耳元で、全身がゾワゾワしてしまう声で囁いてきた。

 

「真っ暗で見えないと、その分感覚が鋭敏になって、感度が増すのよぉ♡ それに、全員がぺったりと密着している♡ 逃げ場のない私達の責めに、存分にエクスタシー…してねぇ♡」

 

 

…あ…あぁぁ…! い…いや…! もう…無理…! こ、これ以上は…堕ちちゃう…!

 

 

「開始カウントダウーン♡ 3♡」

 

 

「2ぃ」

 

 

「いーち♡」

 

 

や…やだぁ…! た、助けて…! サキュバスにも、ミミックにも勝てないぃ…!

 

 

 

「「ぜろぉ♡」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひゅー…… ひゅー…… ひゅー…… ひゅー…… ひゅー……

 

…………。

 

「どうかしら♡ 呼吸荒いけど…騎士ちゃん、返事できるかしら♡」

 

…………。

 

「完全に折れちゃったみたいねぇ♡ 鎧と剣、預かっておくわ♡ また来たら必ず返したげる♡」

 

…………。

 

 

「じゃ、そろそろ…クチュリ…… い・た・だ・き・まぁす♡♡♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「それで鎧も剣も奪われて、しかも最後に復活魔法陣送りってわけか。まあ…なんだ…災難だったな…」

 

とある国の酒場。カウンターに突っ伏すようにして泥酔している女性に、マスターは言葉を選び慰める。

 

その突っ伏してる女性の正体は、高名な女騎士。高潔な性格と、無双の腕を持つことで名を馳せている存在である。

 

 

普段は淑やかにグラスを傾けている彼女なのだが、珍しく…というか初めてジョッキを数杯空にし酒乱の如く。その理由を聞き出したマスターはポリポリと頭を掻いた。

 

 

「いや…まぁ…。伝えてしまった俺が悪かったんだろうけどさ…。一応言ったぞ? あの『淫間ダンジョン』のボス…サキュバスクイーンは魔王に並ぶほど強いから、ギルドも壊滅不可能認定している場所だって」

 

「…………」

 

その言葉を聞いていないのか、無視しているのか。無言を貫く女騎士。マスターは水を出してあげながら、続けた。

 

「だからよ、犬に噛まれたと思って忘れたほうがいいさ。今日の分は奢りにしてやるから、新しい鎧と剣を誂えに…」

 

「……うるひゃい…」

 

「…う…すまん…。もしかして、奪われた鎧と剣って大切なものだったりするのか…?」

 

ようやく声を発した女騎士にビビりながら、そう問うマスター。しかし女騎士は首を横に振った。

 

「じゃあ良いじゃないか。不慮の事故で壊れたとでも言ってよ。アンタならばタダで良い鎧くれる店もあるだろうし…」

 

「うるひゃいと…言っている…!!」

 

 

バンと机を叩くようにし、立ち上がる女騎士。水を一息に飲み干し、呟いた。

 

「…騎士の命たる存在を奪われたままなんて、我が名折れ…! 取り返して見せる…!」

 

 

 

「いや止めとけって! そうだ、『勇者』って呼ばれてる嬢ちゃんに託すのはどうだ? 魔物特攻持ってるみたいだし、あの子なら多分勝てるだろ!」

 

マスターはそう引き止めるが、女騎士は無視。出口へと向かっていく。と、彼女はぽつりと漏らした。

 

「リベンジを…果たしてみせる…! あのサキュバス…オルエ……『さま』…め…! もう一度…! …くぅんっ…♡」

 

 

フラつきながら、酒場を後にする女騎士。彼女が消えた後、マスターは眉間に手を当て溜息を吐いた。

 

「…ありゃあ、完全に堕とされちまってるな…。言わなきゃよかった…」

 

 

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