ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 ある侍冒険者の鬼退治

 

「え…っさ…ほ…ぃさ…! こ…れで…!上陸ぅ…!!」

 

掛け声を響かせながら、乗ってきた小舟は岩転がる砂浜にザザザッと乗り上げる。ふっ、やっと『鬼ヶ島ダンジョン』に到着だな。

 

「おい…! はぁ…はぁ…雇い主さんよぉ…! アンタも漕いでくれたら嬉しかったんすけどぉ…!」

 

と、決めている私の背で、連れてきたお供の1人が愚痴る。…アンタ、だと?

 

「無礼者。私のことはMr.ピーチと呼べと言っただろう。我が一族に伝わる【鬼退治】の英雄の名でもあるのだぞ?」

 

「へいへい…」

 

む。適当な返事を…ならば、脅しをかけてやろう。

 

「そんな態度をしていると、この一族秘伝『貴美(きび)団子』はやらぬぞ?」

 

「…いや、要らねっすわ…」

 

!? なんだと! 一つ食べれば私のように麗しの美貌を獲得できる、この団子を…?! 正気か!?

 

 

 

 

 

私はとある一族の出だ。今は冒険者として研鑽を積む身である。

 

しかし、私には仇敵とも言うべき魔物がいる。それは、『鬼』だ。

 

 

我が祖の一人、『タロウ・ピーチ』。彼は鬼を倒すことで英雄と呼ばれるに至った。

 

以来、我が一族は鬼狩りを目標としている。…最も、誰もまともに成し遂げられてはいないが…。

 

 

ふっ、しかし私は…『コジロウ・ピーチ』は違う。そんな一族の面汚しになる気はない。

 

この自慢の長刀を用いた剣術は正に比類なし。自惚れではない。飛ぶ燕を落としてみせたことすらある。…一度だけだが…。 

 

そして…我が髪と顔を見よ! この艷やかなキューティクル。麗しの肌。端麗なる顔立ち…!

 

正に二枚目と言うに相応しい!日輪の如き素晴らしさだ!

 

それもこれも、『貴美団子』を欠かさず食べているから……

 

 

コホン、いや失礼。少々宣伝のようになってしまった。では…いざ鬼退治!

 

 

 

 

 

 

 

身を潜めながら進み、とある地点に到着。そこには、中に入るための門の一つが。

 

「ピーチの旦那。やっぱり閉まってますぜ」

 

「しかもかなり強固になってますね…」

 

「どうすんすか、あーと…Mr.ピーチ」

 

連れてきたお供3人が、次々と聞いてくる。全く、私の供をするなら自分で考えて貰いたいものだな。

 

 

 

しかし…確かにこれは面倒そうだ。この間来た際は少し飛べる供を雇ったから、反対側から開けられた。

 

だが、今回飛べる面子はいない。それに…、僅かに開いた扉の隙間から見える鎖は雁字搦め。この様子だと反対側に飛んでも簡単には開けられないだろう。

 

ふむ…。幸い、見張り鬼はいない様子…。ならば―。

 

 

「どうします? 面倒ですけど、横の岩壁を乗り越えて…」

 

「いや、必要ない」

 

次策を提案するお供をそう止め、スラリと長刀を抜く。それを、上段で構え―。

 

「【一桃流(いっとうりゅう)】奥義―、『斬鉄』!」

 

 

カッッッッ! カキンッ…

 

 

「「「おぉ…! 鍵が切れた…!」」」

 

ふ…またつまらぬものを切ってしまった…。お供達の賛美の声が実に心地よい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首尾よく内部へと侵入する。すると、島の外観とは全く違った景色が広がりだす。

 

この鬼ヶ島は尖りに尖った岩に囲まれ、ど真ん中に鬼の顔を削りつけたかのような巨大岩山が存在する。その恐ろしき威容が故に、近づく冒険者は少ない。

 

 

しかし中に入ると、町のような賑わいようを見せる。我が一族が住む地域となんら遜色ないほどに。鬼の癖に、生意気千万。

 

さて、今日はどう襲い、金目の物と鬼の素材を奪ってみせようか。

 

 

 

おっと、その前に…。私は近場に身を潜め、ついてきた三人の方へ向き直り口を開いた。

 

「事前に話していた通りだ。お前達に『コードネーム』をつけさせて貰おう」

 

「あぁ…んなこと言ってましたねぇ…。で、なんです?」

 

そう問い返してくるお供が1人。私はそいつに命名をしてやる。

 

「お前は、『Mr.ドッグ』と名乗れ」

 

 

「…なんで犬なんですかい?」

 

「これは我が先祖であり英雄のタロウ・ピーチがお供につれていた者のコードネームだ。要はあやかろうというわけだな」

 

「はぁ…まあいいですがよ…」

 

ぶつくさ気味だが、了承するドッグ。なら次は隣だ。

 

 

「よし、ならそっちのお前は『Mr.モンキー』だ」

 

「えー…猿ですかぁ…」

 

 

またも不満気味。少々無礼だが…まあいい。残るは、さっき私をアンタ呼ばわりしていたこいつか。

 

「そっちのお前は…『Mr.…」

 

ふと、言葉を止める。そのまま名付けるのも、合っていない…。ならば…。

 

「『Mr.チキン』としよう」

 

 

 

「いやなんで(にわとり)なんすか!? 他二人は犬と猿って大きい括りなのに…!」

 

思いきり不満を吐いてくるMr.チキン。説明がいるらしい。仕方ない―。

 

 

「ピーチ・タロウのお供の名はそれぞれ犬・猿・雉だった。愚弄するのか」

 

「そういうつもりじゃ…。…いや、じゃあ雉なんじゃないすかね!?」

 

「お前は飛べないのだろう。なら、鶏が適切なはずだと考えたのだ」

 

「確かに飛ぶ魔法は使えませんけども…!…チキンだと別の意味に聞こえるんすよ…」

 

「それはお前の心の内を映しているからだ。私のお供に名乗りを上げたのならば、もっと胸を張るがいい」

 

ごねるMr.チキンにそう返してやる。そして、改めて三人を見やった。

 

 

 

「さて、全員アレはしっかり持っているのだろうな?」

 

「「「勿論」」」

 

私の言葉に応えながら、お供達はバッグを漁る。そして取り出したるは…大きめの袋。取り出した衝撃で、中からジャリジャリと小さい物同士がぶつかる音が聞こえてくる。

 

袋の中身、それは『煎り豆』。ふっ、ただの豆ではない。『鬼特攻』が付与された専用の豆なのだ。

 

 

 

 

 

 

『セツブン』という古い行事を聞いたことがあるだろうか。端的に語るとするなら、『煎った豆を、鬼にぶつけ追い払う』という代物だ。

 

その際、投げる豆には特殊な力を籠めると聞く。なんでも、呪力が籠った『緋苛犠(ひいらぎ)』という木の葉、深淵に棲む『異和嗣(いわし)』という魚の首が用いられるらしいのだが…。

 

それにより豆には、鬼を苦しめる呪術がかかる。一発当たれば、針を突き刺されたかのような痛みが走るという。

 

ふっ…これが市場に流れるようになってから、この島に侵入する冒険者の数は増している様子。それも当然、これさえあれば鬼は恐れるに足りぬ。

 

 

私の獲物を獲られてしまうのは少々不快だが…。これのおかげで戦いやすくなったのは事実。

 

相手は私でも手こずる鬼が山ほどなのだ。故に、有難く使わせて貰っている。そうしたほうが、宝の奪取も楽になるのだからな。

 

 

 

 

 

ところで…凡夫たちはただこれを手で投げているようだが、それでは効果が薄い。これは結局のところ豆。そう遠くには投げられない。それに投げつける動きの間にも鬼は迫ってくる。

 

 

そこで私は、あるものを開発させた。それがこの『豆連続射出弩』なのだ。ふふ…これに、私は命名した。

 

撃ち出された豆は、針のような魔の痛みを以て、幾多の悪鬼を負戦に追いやる―。 そう!『魔針玩(ましんがん)那悪負(なあふ)』とな!

 

ふふぅ…! 指定通りの良い色だ…。青を基調とし、橙と白のカラーリング…。美しい…!私のセンスに狂いはないな…!

 

 

 

 

 

 

お供全員に魔針玩を手渡し、使い方を説明。そして豆をザラザラと装填していく。不足した時用の交換弾倉もしっかり用意しておかねばな…。

 

 

と、少し余裕が出来たからか、お供達が豆を詰めながら談笑を始めた。

 

「お前ら、どうやって誘われたんだ?」

 

「え? どういうことです…?」

 

「あー…。あい…ごほん、Mr.ピーチの開口一番の台詞の事か?」

 

「そうそう! ピーチの旦那、変わってんなって思ってよ! 『お前も豆を投げないか?』って!」

 

「あ。それなら俺もおんなじこと言われましたよ。皆に言って回ってましたけど、ほとんどの人に『投げない』って断られてましたね…」

 

「ん? 俺は『お前も鬼を倒さないか?』って聞かれたけどな…」

 

 

 

…あぁ。確かにそう言った。Mr.モンキーに『それじゃあ何したいかわからない』と説かれ、それ以降はMr.チキンにかけたような台詞へと変えた。

 

ふっ。だが個人的には、初めのが気に入っている。誘い文句としては良い部類…名台詞だと自負もしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔針玩に豆を装填し、準備完了。茂みの中を気づかれぬように移動していく。

 

どれ、手始めに…どの鬼を狙うとするか…。 む…?

 

 

「ターッチ! 次、お前が鬼ー!」

 

「あー!やられたー! もう…。じゃあ…『貴様アアア!!逃げるなアア!!! 責任から逃げるなアア!』」

 

 

 

…なんなのだろうか。あれは…。子供の鬼が、鬼ごっこで遊んでいるようではあるが…。

 

追いかけ役となった子鬼が、絶叫しながら他の子鬼を追いかけている…。もしかして、鬼ごっこではないのか? なら、なにごっこなのだろうか…。

 

 

 

そう私が訝しんでいると、隣がガサリと揺れる。のっしのっしと出ていったのは…!? Mr.ドッグ…!?

 

 

 

 

「おい…!何を考えているのだMr.ドッグ! 早く戻れ!」

 

子鬼達にバレないよう、小声で叱る。しかし、Mr.ドッグはヘッと笑うばかり。

 

 

「あんなガキの鬼なら俺でもやれるぜ。旦那は引っ込んでな。俺は安全に素材を手に入れたいんだよ」

 

 

「だめだ、よせ…!! お前では…!」

 

そう伸ばした手を、私はピタリと止める。待てよ…? 

 

確かに子鬼にはそこまでの力はない。Mr.ドッグの言う通り、彼一人で充分だろう。それに、周囲に大人鬼がいる様子はない。

 

更に、私達も近場に控えているのだ。何かあれば手助けに入ればいいだけのこと。Mr.ドッグのお手並み拝見といこうか。

 

 

…彼の台詞、死亡フラグに聞こえたのが気がかりではあるのだが…。

 

 

 

 

 

 

「きゃー!逃げろー! ―痛っ。…?…!ひっ…!」

 

「へっへぇ…!捕まえたぜぇ!」

 

 

ほう。Mr.ドッグ、上手く子鬼にぶつかり、捕らえたな。

 

子鬼の角は柔らかめで、良い妙薬の材料となる。高価値なので、できれば大量に欲しいが…。

 

「動くなァ!ガキどもォ! 一人でも逃げたらこいつをぶっ殺すぞォ!」

 

おぉ…!良き気迫だ。悪役然としている。見事見事。

 

「テメエらの角を差し出せば、命は勘弁してやる。なに、また生えるんだろ? 早く並べオラァ!」

 

ふ。決まったな。後は角を切るだけだ。私達も手伝うと―

 

 

…む? 何か、おかしい…。子鬼達が、何か話し合っている…?

 

 

「アレ持ってるの誰…!?」

「僕…! やるよ…! お姉ちゃん、お願いします…!」

 

微かに、そんな会話が聞こえてくる。と、直後―。

 

 

 

「やああああああっ!!」

 

子鬼の一人が棍棒を振りかぶり、Mr.ドッグに突撃していった。

 

 

 

 

 

 

「ん―? 効かねぇなあ」

 

そして、それを容易く受けるMr.ドッグ。子鬼の棍棒は棘が丸く、鉄製でもない玩具のようなもの。効かないのも当たり前。

 

「へっ。ガキが。焼いて食っちまおうか?」

 

嘲笑うようにオーソドックスな冗談を口にするMr.ドッグ。―と、それに返すように、女魔物の声が響いた。

 

 

「あら!それ、良いわね! アンタをシメた後、サイコロステーキにでもしてやろうかしら!」

 

 

カパパパパパッッ!!

 

 

 

 

 

…は!?!? 子鬼が持っていた棍棒の棘が…一斉に蓋のように開いただと…!?

 

刹那―! そこから幾本もの触手が!!それは怒涛の勢いで伸び―。

 

「は…!? ぐえぇッ……」

 

 

み、Mr.ドッグぅっっー!!

 

 

 

 

 

 

い、一体何が…!?一瞬で、Mr.ドッグが負け犬に…! …言ってる場合か!

 

 

混乱する私達を余所に、触手棍棒からポンッと身体を出した魔物が…!な…あれは…!上位ミミックだと…!?

 

「ひっ…! う、撃てぇ!!」

「え!え、えーい!」

 

!? 待て、Mr.チキン!Mr.モンキー! 今、豆を撃っても…!

 

 

タタタタタタタッッ!!

 

 

 

 

動転した2人のお供は、上位ミミックに向け魔針玩を放つ。鬼特攻の豆は勢いよく放たれるが…。

 

「ん? よいしょっ!」

 

ガガガッ…!

 

 

「な…! あいつ…ドッグのヤツを…盾に…!?」

 

驚くMr.チキン。上位ミミックは子鬼の棍棒から半身を出したまま、絞めたMr.ドッグを軽々と持ち上げ…子鬼を守る盾としたのだ…!

 

「撃つのを止めろ!豆は鬼への特攻しかない…! これでは私達の居場所をバラしただけに等しい。Mr.ドッグは残念だが…この場を離れて別の鬼を狙うとしよう!」

 

私はお供2人を無理やり引っ張り、急ぎ撤退する。 しかし何故、上位ミミックがあのような場所に…!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

島の外に逃げようとするのは愚策。私達はあえて、鬼の町の方へと向かった。その策が幸いしたのか、先のミミックが追いかけてくる様子はない。

 

「…2人共、気分は落ち着いたか? 豆は補充したな? ならば、次はあの酔いどれ鬼達が標的だ」

 

お供2人を宥め、新たなる目標を指し示す。茶屋らしき店で、酔っぱらっている連中だ。

 

 

先程は妙な乱入者に焦ってしまったが…。私が慢心していたからでもあろう。次はそうはいかない。

 

開幕から魔針玩を使い、一気に片をつけるしよう! 行くぞ…いち、にの…さんッ!

 

 

 

「撃てーっ!」

「「おおーっ!!」」

 

タタタタタタッッッッッ!!!

 

 

「!? 痛てててて!?」

「な、なんだ!? 襲撃!?」

「ぐああっ!? 痛くてたまらねえ!! 建物の中に逃げろ…!」

 

 

鳩が豆鉄砲を食らったような反応を示し、酔いどれ鬼達は驚き慌て悲鳴をあげる。まあ実際に鬼に豆鉄砲を食らわせているのだがな!

 

これなら楽勝に違いない。さっさと距離を詰めて、角を頂いていこう。 ……ん?

 

 

「た、頼んだ…!」

ドスンッ カランカランッ

 

 

 

鬼が隠れた茶屋の中から投げ捨てられてきたのは…。宝箱と、枡&巨大な朱盃。これを渡すから、見逃せということなのだろうか。

 

ふっ…残念ながら、そうはいかないな。鬼を倒し、宝も貰う。それが『鬼退治』なのだから。

 

 

お供2人に手で指示し、意気揚々と茶屋へと向かおうとする。 ――その時だった。

 

 

 

パカッ! ギュルッ!

 

 

―!? なん…だと…!? 宝箱の蓋が勝手に開き、牙が…!? 枡から触手が伸び、大杯(おおさかづき)を構えた…!?

 

まさか…!いや間違いない…! これは…!!

 

「「「また、ミミック!!!?」」」

 

 

 

私達が叫んだのと同時に、二体のミミックは地を駆け迫りくる。お供2人だけではなく、私も慌て、魔針玩を乱射するが…。

 

 

ガポポポポポ…

 

…! 宝箱型のミミック、食べている…! 自身に当たった豆を、そのままもぐもぐ食べている…!?

 

 

カカカカカッ!

 

―! 触手型のミミック、弾いている…! 持ち上げた大杯を、盾にしている…! 結局のところ、豆の弾だから…!

 

 

 

そんな状況把握で限界なほどの余裕しかなく、あっという間に接近を許してしまう。そしてまずは―。

 

「ぎゃあっ…」

 

Mr.モンキーが、宝箱型ミミックに食べられてしまった…! Mr.チキンは…!

 

 

「ひいいいいっ!!」

 

…な…。既に私を置いて、逃げている…! やはりチキン(臆病者)ではないか…!

 

 

シュッ!

 

と、私の横を何かが掠める。それは、触手型ミミックが手にしていた大杯。まるでフリスビーの如く飛んでいき…。

 

 

ガッ!

「あだっ!」

 

Mr.チキンの頭にナイスヒット。すると―。

 

 

「シャアアア!」

「ひっ!蛇…!? あば…ばばばばば…」

 

 

…なんと…。大杯の高台部分―、あの下の出っ張り部分から蛇が出てきた…。あれは『宝箱ヘビ』…。ミミックの一種だ…。

 

 

…ここはいつの間に、『鬼ヶ島』から『ミミックヶ島』に変わったのだ…? ―ぐえっ…!?

 

し、しまった…! 余所見していたら…触手型に巻き付かれ…! くっ…刀を…抜けない…!

 

 

 

 

「痛てて…やってくれたなぁこのヤロウ…!」

 

「うわ…豆が散乱していて、まきびしみたいになってやがる…」

 

「手間増やしやがって…! ミミックちゃん達が踏み潰してくれるから、片付けはかなり楽だけどよぉ…!」

 

 

と、ぞろぞろと鬼達が出てくる。全員、怒り心頭。おのれ…!刀さえ抜ければ…!

 

 

「で、どうするこいつ?」

 

「見たとこ、今回の連中の親玉みてえだし…。とりあえずオンラム様に引き渡すか」

 

「そうすっか。ミミックちゃん、運んでもらっていいか?」

 

 

鬼の頼みに呼応するように、私を縛る触手型ミミックが動き出す…。どこに…どこに連れていく気なのだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、こいつがそうなんだ。刀、ながっ」

 

荒縄で縛り直された私は、この島の主の前に放り出される。しかし…よもやよもや、だ。

 

まさか、島の鬼の頭領が…こんなに麗しき乙女だったとは…! 多少、素行は悪そうだが…それもまた、良し…!

 

まさに私の細君になるに相応しい…!鬼だとしても構わない…是非、求婚をしたい…!

 

 

「う~ん、別にタイプじゃないな~。 え?彼ピ候補ちゃうん? 侵入者? じゃあ問答無用でぶっ飛ばして良いじゃん」

 

……な…ぁ…。…今日一番の…ダメージが…胸に……。おのれ…鬼…。人をどこまで弄べば気が済むのだ…!

 

 

 

 

「あーし、社長から派遣して貰ったポルターガイストたちお手製の竹輪食べたいし。ちゃっちゃっと片付けちゃお」

 

そう言い、立ち上がる女鬼頭領。横に置いていた巨大棍棒を軽々構えた。

 

 

―ここでやられるわけには…いかぬのだ…! 私は必死に姿勢を正し、名乗りを上げた。

 

「我が名は『コジロウ・ピーチ』! かの鬼退治の英雄『タロウ・ピーチ』の子孫なり! 美しき頭領よ! そちらの名はなんという!」

 

 

「え!!美しいだって! きゃー!なんか嬉し! …なんとかピーチ? …あー!すんごい前に、悪党鬼の集団を潰してくれた有難い冒険者っしょ? 習ったし!」

 

記憶の手繰り寄せに成功し、嬉しそうにポンと手を打つ頭領。そして、名乗り返してくれた。

 

「あ。名前? あーしは『オンラム』っていうの!」

 

「ほう…! 見た目と同じく可憐な名だ…!」

 

「えー!この褒め上手ー!」

 

にやにやと顔をほころばす頭領…もといオンラム嬢。これならば…!イチかバチか…!

 

 

「オンラム嬢よ! 一つ頼みを聞いてくれまいか…?」

 

「ん? とりあえず聞いたげる」

 

「私と、結婚…じゃない。決闘を…! 其方に『一騎討ち』を申し込ませてほしいのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

取り巻きの鬼は反対したが、オンラム嬢は即座に了承してくれた。仕合場は、この屋敷の庭。

 

 

条件は『各々武器一つを使った真剣勝負』。褒賞は、『負けた方が勝った方のいう事をなんでも一つ聞く』というもの。

 

ふふ…! 美しき姿とはいえ、オンラム嬢は少々軽忽(けいこつ)と見える。私の申し出なぞ無視し、棍棒を振り下ろせばそれで終わりだったというのに。

 

どうで私は殺されるだけの身。なのに、私に百利あってオンラム嬢に一利なしの条件まで受け入れた。ふふふ…上手くいけば、生きて帰ることはおろか、彼女を娶ることすら可能やもしれぬ…!

 

 

 

 

一足先に庭へ立ち、スラリと長刀を抜く。たとえ手強き鬼とはいえ、一対一の状況かつ、武器が限定されていれば恐れる必要はない。 我が妙技で、切り伏せて魅せよう!

 

 

「うぇいうぇい♪ あーしと戦いたいだなんて、アンタ、ヤサ男に見えて覚悟あんじゃん!」

 

一方のオンラム嬢は、自身の身の丈もある巨大棍棒をクルクル振り回しながら出てくる。む…?もう片手には巨大瓢箪?

 

武器にする気か? …いや、少し端に降ろした。武器として使う気はないらしい。では―。

 

 

「「いざ尋常に―、勝負!」」

 

 

 

 

 

 

 

長期戦になれば、体力の多い鬼の方が有利。速攻で決めるが得策。

 

刀に、力を籠める―。精神を、集中させる―。まさに、全集中。 …と、耳にオンラム嬢の声が聞こえてきた。

 

 

「さーて、どうしよっかな~。この間社長にぶつけたヤツが最強の技なんだけど、あれ使うと怒られっし…。じゃあ、こっちで!」

 

 

……? なんだ…? オンラム嬢が、棍棒を大きく振りかぶって…?

 

 

「―この剛撃は、あまねく魔性を反し、あらゆる勇猛を除き去る狼の遠吠えの如く、空を駆ける! 行くよ~ぉ!『反魔(はんま)勇除狼(ゆうじろう)』!」

 

 

宣言と同時に、彼女は棍棒を勢いよく振り―!  刹那、私は見てしまった。彼女の…オンラム嬢の背に…(オーガ)のような貌が浮かんでいたのを…!

 

 

 

ゴッッッッッッッッッッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

直後、眼前に迫るは極大の衝撃波!!? 馬鹿な…!?棍棒を盛大に振り回しただけで、これほどの…!ひいっ…!!!

 

 

反射的に目を瞑り、尻餅をついてしまう。数秒後、背後で大きな激突音が。

 

 

「ヤッベ…!まーたやっちゃった…!」

 

 

目を微かに開けると、しどろもどろになっているオンラム嬢。私がゆっくり首を後ろに向けると…。その先にあったのは、島の中央に聳える巨大岩山。

 

そこには…目新しい抉れが…!? ま…まさか…!あの山に描かれた鬼の顔…!あれはオンラム嬢がつけた痕だというのか…!?

 

か、勝てない…! 化物だ…!

 

 

「勝負あり!」

 

 

…! な、何故…決着の知らせが…? 心が読まれ…?

 

「挑戦者ジロウ・ピーチの武器破損により、決着とします!」

 

は…? …あぁっ!!! 我が愛刀が…!!数cmの刃元を残して…先が全部消滅している!!

 

今の衝撃波にもってかれたのかぁ…。うぅ…我が愛刀…『物干し丸』ぅ…!

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~い!終わり終わり! もうちょい楽しませてくれると思ったんだけど…ちょっち残念かなぁ」

 

グイっと伸びをするオンラム嬢。―その隙を、私は見逃さなかった。

 

 

私に待つの殺される未来のみ…! ならば、やれることを全てやってやろう…!

 

 

即座に懐に手を入れ、あるものを引き出す。それは、小型の魔針玩。もしもの時のため、隠し持っていたのだ。

 

勿論、鬼特攻の豆を装填済み。 これでオンラム嬢を弱らせ、その立派な金の角を切り取ってみせよう…!

 

卑怯? 知った事か! 勝てば官軍だ! 勝てばよかろうなのだ!

 

 

 

ジャキンと構え、狙いを定める。気づいた周りの鬼が急ぎ止めに入ろうとするが、もう遅い。食らえ…鬼は外!

 

 

 

タタタタタッッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃっ…! あー…びっくりしたぁ…。忠告通り、傍に置いててよかったぁ…」

 

「でしょう? ああいう奴は、絶対最後になりふり構わず何か仕掛けてくるのよ。プライドが高い、嫌な男の典型ね」

 

 

……え……?  オンラム嬢に、豆が一発も当たっていない…? というより、全部防がれた…。

 

 

何に…? 触手に…。それは、オンラム嬢が少し端に降ろした巨大瓢箪から…。って、また…!

 

「上位ミミックぅ…!?」

 

今度は、瓢箪の口から半身を覗かせている…! 何体いるのだ…!?

 

 

 

 

 

 

「決闘しかけておいて、負けたら不意打ちって…ほんと酷いわねアンタ…」

「サイテー!」

 

上位ミミックとオンラム嬢が、私に罵声を浴びせてくる…。く、くぅ…おのれ…!

 

…いやしかし、今はなんとかして逃げないと…!! どこかに逃げ道は…!

 

 

「判断が遅い!」

ギュルッ!

 

ぐぁあああ…! 死ぬ…ミミックに絞め殺される…!

 

「ただ復活魔法陣送りなんて、生ぬるいわねぇ。ちょっとお仕置きしたげる!」

 

うぁ…! 引っ張られぇ…!! 

 

「【箱の呼吸】…えーと、何の型にしよう…。…まあいいわ!『吸移込深(すいこみ)』!」

 

な、なぁぁ…!? ひょ、瓢箪に…吸い込まれぇぇえ…!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

ひっ…、ここは…どこなのだ…? 暗い…動けない…!

 

「瓢箪の中よ。この中でじっくり溶けて、お酒になりなさいな」

 

…!上位ミミックの声…! どこに…!? 酒になるってなんなのだ…!? あ、あ…!体が溶けてる気がする…!!

 

「じゃ、さよなら~」

 

ま、待ってくれ…! 瓢箪の口、明らかに私の手ぐらいしか入らない大きさだったのに、どうやって私をいれたのだ…!?

 

い、いやそれよりも…待ってくれ…! 出ていかないでくれ…! キュポンと蓋を閉めないでくれ…!

 

 

た、助けてくれ…!!  く…暗いよ、狭いよ、怖いよぉおお!!!!

 

 

 

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