ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 ある内気な女の子とチョコ

 

 

ぁ……う……。つ、着いちゃった……。着いちゃった…けど……

 

…どう…しよう……。どうしよう……。

 

 

 

 

…あ…。ど、どうも…。初め…まして…。わ、私…近くの町に住んでいる女の子…です…。『ユノ』と言います…。

 

えっと…その…『バレンタイン』…ってあるじゃないですか…。それで…その…。

 

 

…………実は、私…あの…その…好きな…男の子が…いて……。で、でも…今まで何も伝えれてなくて……。

 

だって…私…そんなに可愛くないし…髪で目を隠しちゃってるし…。イケてる女子グループみたいなキラキラ…無いですし…。

 

 

でも…でも…今年こそはなんとか気持ちを伝えたくて……。勇気を振り絞って…みた…んですけど…。

 

 

…本当は、手作りをしたくて…。だけど…上手く作れなくて……。焦げたものや、ぐちゃぐちゃなものしかできなくて…。でも、お母さんとかに聞くのは恥ずかしくて…。

 

もうそれなら…、美味しい既製品の方が数倍喜ばれるかなって…そう思った次第で…はい…。

 

 

 

 

丁度、私の住んでいる町には『ヘンゼル&グレーテルとお菓子な魔女』っていうお菓子屋さんがあるんです…。

 

そこのお菓子はすっごく美味しくて、私も買って貰えるとすぐに全部食べちゃうぐらい…。私の好きな男の子も、そこのお菓子が大好きだって言ってたし…。

 

だから、そのお店のならいいかなって…。そう思ってたんですけど…。

 

 

 

 

実はこの時期、そのお店って閉まっているんです…。何故かと言うと…、そのお店は支店?みたいなもので、本当のお店は森の中にあるみたいで……。

 

えっと、でも…。その本店?というのもお店じゃなくて、『ダンジョン』らしくて…。『お菓子な家ダンジョン』って呼ばれている場所なんです…。

 

 

そこは『魔女』が営んでいるみたいなんですけれど…。危険性はないからって、私みたいな子供でも訪ねることができて……。美味しいお菓子を売ってくれて…。

 

そしてこの時期は、皆お菓子を買いに来るから…そのダンジョンで沢山作ってるみたいなんです…。だから、町のお店のヘンゼルさんとグレーテルさんもお手伝いに行っているらしくて…。

 

 

 

 

 

ただ、やっぱり…。人気のお菓子屋さんですから…。森の中へと長蛇の列が出来ていて……。パンくずとか小石で目印を作る必要がないほどに……。

 

私もお小遣いをかき集めて家を飛び出したんですけど…到着するまでに結構時間が…。

 

 

…いや…でも…。太陽見る限り、そこそこ時間はかかったみたいなんですけど…私としてはあっという間で…。

 

何買おうか、どんなものが良いのか、どのお菓子だったら気持ちが伝わるかなって…考えてたら…いつの間にか到着してたんです…。

 

 

 

その『お菓子な家ダンジョン』なんですけど…お菓子で出来ているんです。遠くからでも甘い匂いがする、美味しそうな…。

 

でも…それに気づかないぐらいに深く考えちゃってたみたいで…。後ろに並んでいたお姉さんに小突かれちゃってようやく着いたことがわかって…。

 

 

あの…だから…。まだ…なにを買えば良いかって決まってなくて…。ダンジョン内に入っても…何にするか決められなくて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい!出来たてクッキーですよー!」

 

「チョコレート、いろんな形取り揃えてあるからねぇ。ふぇっふぇっ」

 

「今日だけの特別ケーキ、まだまだあるわよぉ」

 

 

売り場はすごい活気です…。魔女の方々や、お手伝いの魔物さんがひっきりなしに動き回っています…。

 

 

……あの魔物さん、なんだろう…。お菓子で出来た箱に入ってる、変な魔物さん…。

 

…ちょっと、羨ましいかも…。私もお菓子の箱に入ってみたい…。楽しそう…。

 

 

 

……はっ…! 違う違う…! 今はそんなことはどうでもよくて…! どのお菓子を買うかを選ばなきゃ…!

 

 

 

 

 

「これくださいな!」

「こっちにもそれを! 10個ほど!」

「このケーキ、ホールで貰えますか?」

 

 

凄いです…。お菓子、飛ぶように売れていきます…。すぐに売り切れるものもあるんですけど、すぐに補充されています…。

 

でも…私、やっぱり何が良いか決めかねていて…。色んな種類があり過ぎて迷っちゃって…。

 

それに、他の方の勢いが激しすぎて、近づけません…。ちょっと、怖い…。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も暫く見ているだけしかできず…。あわあわとしか言えず…。本当にどうしようかと考えていた…その時、呼び込みの声が耳に入ってきました。

 

 

「お菓子作り教室、やってまーす! 皆さんどうですかー!」

 

 

…そんなものが…!! うん…できることなら、手作りお菓子をあげたいし…。ちょっと、どんな感じか見てみるぐらい…。

 

…こっちの道かな…? えっと………あ、あれ…? こ、こっち…? …………。

 

 

 

 

 

…ここ、どこ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうでした…。ここはダンジョン…。ダンジョンって、迷路のようになっているって聞きますし…。

 

い、いえ…!迷っていると言っても、他の方々は時折歩いていますし、そんなに奥深くでもない…はず…。引き返せば、戻れるはず…多分…ぁぅ…。

 

 

 

…それにしても…。どこを見渡しても、お菓子です…。床や壁はクッキーとかビスケットとかの平らなお菓子ですし、あそこの扉は板チョコ…。

 

壁には美味しそうなパイが掛けられていますし…向こうの柱はロールケーキとタルトの組み合わせ…。

 

あっちの階段はウエハースで、手すりはエクレアみたい…。その先に見える像も、多分砂糖細工…。

 

 

 

…!?わ…! 何か降りてきた…! え…?箱の…山…? チョコとかを入れる小さめの箱が、束で重なって…。カップケーキの紙の入れ物も…!?

 

…え…?どうやって束のまま運んで…? 糊とか紐とかでくっついている様子はないのに…。

 

もしかして、魔法…で浮いているの…? …でも、なんか違うような…。なんで…。…!?

 

 

ぴっ…!? 蜂…!? 蛇…!? 鳥…!? へ、変な色の生き物たちが、一番上に入って…!!

 

 

 

きゃっ…! その後から、袋の束を咥えた宝箱が降りてきた…! 勝手に動いてる…! あっ…さっきも見た、お菓子で出来た箱も…! 包装紙のロールが何本も刺さって入ってる…!

 

 

 

…宝箱…? 確か、聞いたことがある気が…。勝手に動く、宝箱型の魔物…『ミミック』っていう…。

 

もしかして、この子達ってミミック…? あ……どっかに行っちゃった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

……そろそろ戻らなきゃ。こっち多分、お菓子作りの教室じゃないし…。…道、どっちだっけ…。

 

 

記憶を頼りに、道を進みます…。けど…どんどんと人気が減って…。

 

歩いている人はおろか、魔女の方も魔物も、さっきのお菓子の箱のミミック?も見えなくなって…。

 

 

どうしよう…本格的に迷っちゃった…? ……! 女の人達の声…!?

 

 

 

 

「おい、本当にこっちなら大丈夫なんだね?」

 

「えぇ…! 誰もいないみたいですし、壁とか扉とかのお菓子、剥がし放題ですぜ!」

「ここのお菓子、高く売れますからねぇ…! 腹いっぱい齧って、盗っていってやりますか!」

 

 

…! 明らかに、悪い人な感じが…!! ど、どうしよう…。この扉が開いた、誰もいない部屋に隠れて…!

 

 

「まずはそこの部屋から漁って見ませんか、姐御」

 

…嘘! こっちに来る…! か、隠れる場所…!!

 

 

 

「そこの子、ここにおいでー…!」

 

へ…?誰の声…? …このおっきい、フレンチクルーラーの中から…? …きゃぁっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…へ…?ここって…? 周りに壁が…。この香りと触り心地…フレンチクルーラー…? ここ、ドーナツの穴の中…?

 

 

 

「…んん? 今、誰かの声が聞こえたような…?」

 

「気のせいじゃないすか? 私にはなんも聞こえなかったっすけど」

 

「それより、どれから頂いてやりましょうか! 菓子盗賊なんてワクワクしますぜ!」

 

 

…! 穴の外から、悪い人達の声が…! どうすれば…

 

 

 

「ちょっと静かにしててね~…」

 

 

…え。 また、さっきの誰かの声…。…あれ…?私の横に、お菓子製の箱…。

 

と、とりあえず言われた通り…口に手で押さえて、耳を澄まします…。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜しかし、でっけぇ菓子ばっか。食いごたえがありそう」

 

「ほんと。あのマシュマロなんか抱えられるぐらい。…お。あの壺って、カヌレじゃねえか?」

 

「へえ…!この黄色の掛け物、レモンチョコか…! ちょいと端っこ折って…。おー、酸っぱ甘くて美味しいねぇ…!」

 

 

部屋内を物色しながらこちらへと近づいてくる悪い人達…! ど、どうしよう…!ここを覗かれちゃったら…!

 

 

 

 

「…お。これ出来たてのパイじゃねえか? 切ってあるし…、貰っちまえ!」

 

「んぐんぐ…。ん~美味い!」

 

 

私の隠れるフレンチクルーラーの前に来て、乗っていたらしいパイを食べる悪い人2人…! これ…机代わりだったんだ…。

 

 

「姐御もどうです? 激ウマですぜ!」

 

と、一人がリーダーの人を呼ぶ…。3人目もこっち来ちゃった…!

 

 

「何のパイ? …あー。いいわ。アタシ、そのパイ嫌いなのよねぇ」

 

「ありゃ。じゃあこれは、私らが…!」

 

 

そう悪い人の一人が笑った、その瞬間―!

 

 

 

カパッ!

 

 

私の横にあったお菓子製の箱が、開いた…! そして、中から…女魔物さんが…飛び出した…!?

 

「それ、私達用のパイなのだけど? 勝手に食べたアンタたちには…おみまいしてやるわ! そーれっ!」

 

 

パァンッッ!!

 

 

…私、見てしまった……!フレンチクルーラーから顔を出して…見てしまった…! 女魔物さんが、どこに隠し持っていたかわからないクリームパイを…思いっきり悪い人の1人に投げつけたのを…!!

 

 

 

 

「ぐもぉっ!?」

 

「「な、なんだ!?!?」」

 

吹っ飛ばされる、パイをぶつけられた悪い人1人。それに驚く悪い人2人。その2人が慌てながらも武器を引き抜こうとした瞬間―。

 

「かっかれー!」

 

「「「おーー!!!」」」

 

 

…!?!? へ、部屋の至る所から…!色んなお菓子から…! 触手とか、蜂とか、女魔物さん達が…!! 

 

マカロンの隙間からとか、ドーナツの穴の中からとか、切ってないバウムクーヘンの中からとか、マシュマロの中からとか…!! クッキーの真ん中のジャムとして隠れていたのも…!

 

 

 

「「「もごっ!? もごぉおお…!」」」

 

あっという間に縛り上げられる悪い人三人衆。そしてどこかへと運ばれて…。 と、私を助けてくれた女魔物さんが、パイを頬張りながら笑いました。

 

「お菓子を盗もうだなんて、食い意地の張った盗賊ね! ま、どこでも私達ミミックが潜んでいるから盗ませはしないけど…寄りにもよって、私達の休憩部屋に入ってくるなんてね~」

 

 

…やっぱり、ミミックだったんだ…。

 

「あ。食べる?美味しいわよこのパイ!」

 

「ぇ…その…。…いただき…ます」

 

 

結局、凄く美味しいパイを一切れご馳走に…。と、そのミミックさんは私に尋ねてくれました。

 

「そういえば、どうしてここに?」

 

「あ……その……迷っちゃって……。お菓子作り教室に行きたかったんですけど…」

 

「そうだったの! じゃあ案内してあげる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…案内してもらい、教室の入り口付近まで来れました。…でも、ダンジョンで迷っている間に今日の分終わってしまったのか…あんまり声が聞こえません…。

 

ミミックさんはもう戻ってしまいましたし…。どうしよう…。うう…。

 

 

少しの間、入口の戸を叩くか迷ってうろうろしてしまいます…。そして、出した答えは…。

 

「…やっぱ…止めよう…」

 

でした。どうせ私が作っても、ここのお菓子より美味しいものは出来ないし…。やっぱり、既製品を買って帰ろう…。

 

そう思って、出口の方向へと足を動かした…そんな時でした。

 

 

「ね。お菓子作り教室に興味があるのかしら?」

 

 

 

へ…? さっきのミミックさんとは違う声に、私は振り向いてしまいます。

 

そこにいたのは…何故かボウルに入っている、ハートのエプロンをつけた小さめのミミックさん…。

 

「さっきからずっと、入るか悩んでたでしょ? 今なら空いているわよ? ほらほら!」

 

「ひゃっ…!」

 

半ば無理やり手を掴まれ、引っ張られ…!

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせー!」

 

私の手を引っ張りながら、勢いよく部屋へと入っていくミミックさん。そこにいたのは…ミミックさんと同じハートのエプロンをつけた悪魔さんと…ヘンゼルさんとグレーテルさん…! そして、魔女…!?

 

「…ぇっ…! あ、あの……う…その…」

 

一斉に見られて、く、口が…開かない…!  …と、魔女の…おば様が、私へと微笑んで…。

 

「あら可愛いお嬢ちゃん。貴方も、愛する人のためのお菓子を作りに来たのかしら?」

 

 

 

「は、はい…! 好きな人に…こ、告白…した…くて… …ぁぅ……」

 

頑張って口にしてみたけど……。声が小っちゃくなっちゃって…。そのままもじもじしていたら、今度はグレーテルさんが…。

 

「町の子、よね。確か…ユノちゃん! いつもお菓子を買ってくれてありがとう! 安心して、その方はステーラおば様。私と兄様の師匠よ。こちらはアストさんで、そのミミックの方はミミンさんと言うの」

 

 

…わ…! 私の事を、知っててくれた…! そう驚いていたら、グレーテルさんが私のところに来て…目の高さを合わせてくれて…!

 

「恋のためのお菓子ならば私にお任せ! 因みに…どの子に告白したいの? お姉さんたちに教えてくれる? 勿論、絶対に内緒にするわ!」

 

ご自身の耳をトントンと叩くグレーテルさん。…恥ずかしいけど…グレーテルさんになら…!

 

 

こしょこしょと…話します…。 するとグレーテルさん、何故か微笑みながらヘンゼルさんのほうを見て、頷き合ってました…。

 

そして、今度は私のほうを見て…にっこりと…!

 

「ふふっ。じゃあ皆で一緒に作りましょう! 最高のチョコを!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チョコをテンパリングする際はゆっくりと溶かして…。はい、ではこっちでちょっと冷やしましょう。そうそう、そのボウルの底を剥がすような混ぜ方で合ってますよ。温度は魔法で測って維持していますからねぇ」

 

…と、付きっきりで優しく教えてくれる魔女のステーラおば様。

 

 

 

「幾つか他の味のチョコも作ってアソートにする? 大丈夫だよ、難しい工程は僕と妹に任せて」

 

「貴方が好きな子の好みは把握していますから! 恋のお菓子職人グレーテルの本領発揮です!」

 

「…なんか、変なスイッチ入ってない?グレーテル…。 やり過ぎないようにね?」

 

「勿論です、ヘンゼル兄様。 最後に愛情を籠めるのはユノちゃんですもの」

 

…と、率先して色んなクリームやジュレとかを作ってくれるヘンゼルさんとグレーテルさん。

 

 

 

「型はどれが良い?やっぱりハート形かな? 色々あるみたいだから、幾つか作ってみる?」

 

「箱と包装紙、持ってきたわよ! シンプルなのから可愛いの。なんでもござれ!」

 

…と、色んなものを用意してくれるアストさんとミミンさん。私も頑張って作って…!!

 

 

 

 

「これで…!」

 

やった…手作りチョコが…!

 

 

「「「「「「完成!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

次の日…。私は『お菓子な家ダンジョン』で作ったチョコを受け取り、森から小走りで帰っていました。

 

家で保存しようと思っていたんですが…ステーラおば様方に託した方が美味しく冷やせると聞き…お願いしたんです…。

 

だから、出来る限りのおめかしして…。髪も、片目だけですけど…出すようにして留めて…。取りに来たんです…。

 

 

 

それにしても…昨日は凄かったです…。ステーラおば様とヘンゼルさんグレーテルさんのお菓子作りの腕…! アストさんの魔法で動くチョコペンたち…! ミミンさんの早くて綺麗な包装…!

 

 

そして、さっき…。ステーラおば様とグレーテルさんが応援して送り出してくれました…! あとは、渡すだけ…!

 

 

 

……渡すだけ…、なんですけども………。

 

 

 

 

うぅ…も、もし受け取ってもらえなかったら…。もし、会えなかったら…。もし、他の子から告白されてたら…。

 

どうしよう…どうしよう…どうしよう……。私のなんて…食べてもらえるかな…。嫌われちゃったら…!

 

 

…やっぱり、渡さない方が良かったり…。だって、怖い……。失敗した時が…怖い…!

 

 

 

……。皆さんには悪いけど…。これは私が食べちゃって……。何もしない方が…。

 

 

 

「あれ? ユノじゃん。なんでここに?」

 

 

 

 

 

 

 

……へ…!? な…なんで…!? なんで…ここ…に…、彼が…!? 私が思いを伝えようとしていた…彼が…!?

 

 

「ひゃ…その…えっと…。 そっちこそ…なんで…??」

 

「俺? 俺はお菓子買いに行ったら、ヘンゼルさんに『お菓子な家ダンジョンから忘れ物をとってきて欲しい』って」

 

…へ、ヘンゼルさん…!? いないと思ったら…!…偶然…なのかな…?  私が何も言い出せずにいると、彼は嬉しそうに笑いました。

 

「ヘンゼルさん忙しくて手が離せないみたいでさ、とってきてくれたらお菓子なんでもタダにしてくれるって!」

 

無邪気な笑顔が…眩しい…! 私なんて、彼に似合わない…。そうしょぼくれていると…彼は私の顔を覗き込んできて…!

 

 

「そういえばユノ、なんかおめかししてるじゃん! すっごく可愛いな!」

 

…ひぁっ…! そ…そんにゃ…こと…言われる…なんて…!

 

 

 

 

 

「でもなんで? 今日なんかお祭りでもあったっけ。 ……あっ」

 

ちょっと考えていた彼は、すぐに頷きました。…気のせいでしょうか…?若干悲しそうな…。

 

「…そっか…! バレンタインデー…だった! 忘れてた…!」

 

と、彼はすっと道を開けてくれました…? そして、いつもの元気な彼とは違う、ちょっと抑えたような一言を…。

 

「多分、誰かに告白するんだろ? だから、そんな綺麗な恰好なんだろ? …頑張って!」

 

 

 

「ぁ…ぅ…その…あの…」

 

貴方です…なんて言い出せず…言い淀んでしまいます…。そんな私を励ますように、彼はちょっと声の調子を上げてくれました…。

 

「早く行きなって! 相手誰か知らないけど、そういうのって急がなきゃいけないんだろ? …良いなぁ、ユノのプレゼント…」

 

「ぇ…」

 

…今、なんて…?

 

 

「んじゃ俺、ダンジョンに行くから! またな!」

 

あっ…行ってしまう…。遠くに…。 でも…私は手を小さく伸ばすことしか…

 

 

 

トンッ

 

 

 

不意に、そう背中を押された気がしました。まるで、最後のチャンスだって言うように…。……っ!

 

 

 

 

 

「ま…待って…!!」

 

「うぉっ!? な、なんだなんだ? ユノがそんな大きい声だしたの、初めて聞いたぞ…」

 

驚いて転びかけてしまう彼…。私は駆けよって、後ろ手で隠していた箱を…!

 

「こ…これ…チョコ…!」

 

「へ…? えっ…! それ、俺に…!? くれるの!?」

 

 

 

目をぱちくりさせながら、彼は箱と私の顔を交互に見てきます…。思わず、ブンブンと首を縦に振ってしまいました…。

 

彼は少しおっかなびっくりながらもガサゴソとリボンを外し、包装紙を捲り、蓋をパカリー。

 

「わぁ! 凄い色んな種類がある! これどうしたの!?」

 

「あ…えっと…。グレーテルさんとか、魔女のおば様とか、ミミンさん達とか…皆に手伝って貰って…作ったの…」

 

「ということは…手作りってこと!? すげえ! えっ食べていい!?」

 

「う…うん…!」

 

 

私が頷いたのを見て、彼はチョコの一つをパクリ。直後、唸りました。

 

 

「~~~!! 美味ぁっ! これ俺、好きなやつ!これも!こっちも! でも全部、ヘンゼルさん達のお店のよりチョコ滑らかで美味しいかも!!」

 

ひょいひょいと、次から次へチョコを口へと運ぶ彼。良かった…! 喜んでくれた…!! …この勢いで…!

 

 

「…あ、あの…。実はそれ…二段箱になっていて…。そこの留め具を外して、下をスライドしてもらうと…」

 

これは、ミミックのミミンさんから考案して貰った方法…。 彼は目を輝かせてくれました…!

 

「マジ!?  これか! こうかな…。開いた! どんなのかな~……あっ…」

 

 

 

…そこに入っているのは…。ハート形の大きめなチョコ…。アストさんやミミンさんの力を借りず、自分で『大好きです』…と書いた…のが…。

 

 

 

 

 

 

 

「…え…。ほんとう…?」

 

彼は目を丸くし、ちょっと上ずったような声…。

 

「ずっと前から…大好きでした…!」

 

私は、顔が真っ赤になるのを感じながら、気持ちを伝えます。でも……答えを聞きたいけど、聞きたくない…。そんなジレンマが、心を捻じってきて…!

 

 

「あー…えっと…」

 

……っ! 彼の漏らした声に、私は恐る恐る顔をあげ…。すると…そこには…私とおんなじぐらい顔が真っ赤になった…彼が…。

 

「実は…俺も…。ユノのことが好きで…」

 

 

 

 

 

……はぇ…? 一瞬よくわからず、ぼーっとしてしまいます…。 あ…どんどん顔が…熱く…!!

 

 

と、彼も同じだったのか…。目をぐるぐるさせて、突然、照れ隠しのように私へ提案してきました…!

 

「っそうだ! このハートチョコ大きいし、一緒に食べない? あ、でも…こういうのって割っちゃいけないのかな…」

 

「ぇ…あ……べ、別に…」

 

「じゃあ…! ちょっとユノ、目ぇつぶって…」

 

私の言葉を遮り気味に、彼はそう頼んできました…。従ってみると…。

 

「あーん…!」

 

へ…!? あ、あーん!? 言われるがままに口を開けると、入って来たのはチョコ…! そして…

 

ほ、ほ(こ、こ)うして…! えいっ!」

 

彼の声と微かな衝撃を感じ、私は目を開けてしまいます…。すると、私の口に入っていたのは…彼に半分齧られたハートチョコ…!

 

「んぐ…もぐ…。これで…割ったってことにはならないはず…!」

 

自分の分をもぐつきながら、目を逸らすように呟く彼…! これって…は…初めての間接キス…!

 

もぐ…。当たり前なのだけど…チョコの、甘い味…!

 

 

 

パシンッ

 

 

ふと、森の中から変な音が聞こえた気がしました。まるでハイタッチするような…。

 

…けど、誰も…いない…。気のせい…?  そんな折、ふと彼は思い出したように手を打ちました。

 

「…あ!そうだ! ヘンゼルさんからの頼まれごとあったんだ! ユノ、ダンジョンに行こう!」

 

すっと、手を伸ばしてくれる彼。私はそれを握り、強く頷きました…!

 

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

少女ユノが振り向いた森の中。実はそこに、数名の人と魔物がいた。その全員が口に手を当てており、ユノと男の子の足音が消えたのを確認してからふううっと息を吐いた。

 

 

「…危なかったですね…!バレてしまうところでした…! でも、魔法で背中を押してあげて良かった…!」

 

最初に口を開いたのは、社長秘書アスト。続けて、ミミン社長。

 

「ホント…! まさかあの男の子、あんなことまでするなんて…! 思わず全員でハイタッチしちゃったわね…!」

 

 

「ふふっ。苺ジャムのように甘酸っぱい告白でしたねぇ。でもヘンゼル、いつの間にあの子を呼んでいたのかしら?」

 

と、笑いながら問うは魔女ステーラ。問われたヘンゼルは頬を掻きながら答えた。

 

「実はグレーテルの発案なんです。アストさんに頼みまして、ワープ魔法で移動して…。後はやってもらった通り、ミミンさんに箱に入れてもらって、皆で音を立てずにこの場所まで、と。 ね、グレーテル」

 

「えぇ! あの男の子がユノちゃんに恋心を抱いていたのは、私も兄様も知ってましたから! ユノちゃんから告白相手を聞いた時、思わず笑みが零れちゃって…!」

 

そう話しながらも、にへりと頬を緩めるグレーテル。恋のお菓子、大成功!とVサインも作った。

 

そう…少女ユノの告白チョコを作った面子は、この告白劇を覗き見していたのである。

 

 

 

 

 

…覗きなぞ少々趣味が悪いと言われるかもしれないが、今回は許してやるべきであろう。

 

お菓子の甘い匂いに皆が惹き寄せられるように、恋の発する甘い香りも、皆を魅了するものなのだから。

 

 

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