ガンダムビルドダイバーズ REBOOT 作:キラメイオレンジ
大学在学中にプログラマーとしてバイトしていた大手のゲーム会社にそのまま就職して2年。
鬼の様な無茶ぶりをするが実力は評価してくれる上司に引き立てられ、アクティブユーザー二千万人を優に超す世界的人気ゲーム運営の中心スタッフに抜擢された。
所謂1つのエリート・勝ち組と世間から評価される私。
しかしてその実態は、『休日? 何それおいしいの?』でお馴染みのブラック企業を支える歯車。通称社畜であった。
他人様が休日を満喫している中で日がな1日会社のデスクにかじりついた末、特盛牛丼の入った袋を片手に職場近くに借りた2LDKのマンションへと向かう帰路は特に侘しい。
そんな私の心を癒すのは、使う暇がないので増えていく一方の貯金残高と、3カ月前から一緒に暮らすことになったちょっと変わった同居人の存在だ。
『ただいまー』とドアを開けると『おかえり! 今日もお仕事お疲れ様!』と出迎えてくれるだけで、心に溜まった淀みの半分は浄化される。
因みに残りの半分は晩酌のビールで完全浄化だ。
しかしその日、いつも真っ先に飛び出してくれる小さな家族は迎えに来てくれなかった。
「帰ったわよ【ルベル】~? どうしたの~~?」
久し振りに自分で廊下の灯りをつけ、寝室とは別の“工作室兼ダイブ室”として用意した同居人の部屋の扉を開けた。
もしかすると“アッチの世界”で遊んでいて、それが時間を忘れる程楽しいのかもしれない。
だとしたらそれは、喜ぶべき事だろう。
彼――【ルベル】は、私が運営に携わるゲームGBN内で生まれた通称ELダイバーと呼ばれる電子生命体だ。
私がまだバイトを始める以前に発見され始めたその存在は当初、私の上司達の胃を大いに痛めつけたらしい。
ザマァ(笑)
そして最終的にプレイヤーすら巻き込んだ大騒動の末に事態は沈静化し、彼らとの共存が成されて数年。
ゲーム内の不正パッチ流通の内定調査の為に1ダイバーを装ってゲーム内を調査していた私は、彼と出会った。
『人間如きが、僕に触れるな!!』
当時の彼は、今よりもずっと人間を憎んでいて、同時に恐れていた。
有無も言わせず拒まれた初対面。
私は幾度となく彼の元を訪れ、しつこく絡み、まずは自分の事を語りまくった。
上司として人として、尊敬はしているが同じくらい『ハゲろ!』と呪っている上司の事。
女だてらにガンプラに熱中し、模型部の男子共と毎日GPDに興じていた事。
普段は人一倍まわりに気を遣い、貧乏くじばかり引くお人好しな癖に、バトルでは速攻トランザムで突っ込んで暴れ回る…………アホな元カレの事。
最初は『失せろ!』『消えろ!』しか言わなかった彼も、徐々に話の内容に対して『やはり人間はバカなんだな?』『フッ、これだから人間は』などと小馬鹿にしたコメントをする様になり、やがて同胞と私にだけは、心を開いてくれるようになった。
『アオイ、僕に名前を付けてくれ。僕は、キミがくれた名前でこの世界を生きてみたい』
そう言ってくれた時には思わず抱きしめちゃったっけ、あの時の赤面した顔、可愛かったな~♪
そうして信頼を示してくれた彼に私は赤を意味するルベルと名付けた。
それが彼の赤面が印象的だったからか、はたまた偶に思い出す元カレの苗字からとったものなのかは、深く考えないようにしている。
「ルベル~~? って、何だ
軽くノックをした後に返事を待たずにドアを開け、照明を点けると、そこには私が彼の為に作ったコッチの世界の身体でもあるガンダムエピオンの改修機【エピオンルベール】が、GBN筺体が設置された机の上でポツンと立っていた。
当然ガンプラには表情も何もあったものじゃないが、その雰囲気から私は彼が落ち込んでいるという事を暗に察した。
「どうしたの~ルベル? 電気も付けずに1人でポツンとして、そんなしょげてたら色男が台無しだよ? って、私が作ったんだけど(笑)」
「アオイ……お出迎えをせずに、ごめんなさい」
わざとバカっぽい感じで声をかけた私に対し、ルベルは申し訳なさそうに頭を下げた。
うーむ、事情は分からないけど重傷かなこりゃ?
「あー、私まずシャワー浴びてくるから、悪いけどリビングのエアコンと加湿器を点けといてくれる? ――――それとも、偶には一緒にお風呂に入る?」
「ブッ……!!」
悪戯っぽく行った私の発言にルベルは噴きだしそうになり(無論、エピオンにそんな機構はないが)、太陽炉も積んでないのに全身を真っ赤にした。トランザムかな?
「と、年頃の乙女が何を言っているんだはしたない!! は、破廉恥だ!」
「アハハ、冗談冗談! ……けどさルベル? 言っておくけど私は世間一般的に“お年頃”ではないし、生娘的な意味で言えば“乙女”でも……」
「そういう生々しい話はしなくていい! いいから早くシャワーを浴びて!」
「1人で?」
「1人で!」
私が下ネタ交じりにからかうと、先程までとは打って変わって元気よく反応してくれたので安心した。
いやぁ~、こういうウブな所が本当に可愛くって仕方がない。
なんて彼を庇う事に愉しみを覚えている私はSっ気のあるショタコンなのだろうか?
・・・・・
「ぷはああっ! この一杯の為に生きてるぅううううう!」
シャワーを浴びて、夕飯の特盛牛丼をぺろりと平らげた私は、活力の源であるビールを飲み干し、お決まりの台詞を口にする。
「アオイ、何時も言っているが君の食事は栄養に偏りがある。もう少し各種栄養バランスに気を遣わないと健康を害する可能性も――」
「あー、あー、聞こえない聞こえな~~~い! ――――で? 私の健康に気を遣ってくれる可愛い可愛いルベルちゃんは、一体なんで落ち込んでたのかな?」
軽く酔っ払ったダメな酔っぱらいの体を装い(半分その通りだけど)。私は先程の落ち込んだ原因について尋ねた。
こうして対して酔えないアルコールを摂取した状態で話を聞けば、もしも彼が後々『聞かなかった事にしてほしい』と思ったことも『酔ってて覚えてな~~い♪』で丸く収められる。まあ、大人の処世術というやつだ。
「…………今日、バトルで負けた。人間の……ダイバーに……」
「ん? それだけ?」
「それだけとは何だ! この僕が! あの世界で生まれたELダイバーの僕が! アオイという最高のビルダーが作ったガンプラを使って後れを取ったんだぞ!? 僕を倒していいダイバーは……【リク】だけなのに……」
と、いかんいかん!
思いの外、普通の理由で落ち込んでいた事に拍子抜けして、彼の心境を軽んじてしまった。
それにしても、相変わらず拗らせてるなぁこの子。
「ねぇルベル? 何回も言っているけど、GBNで遊んでいたらどんな強いダイバーだって負けるのは当たり前の事よ? 最早『コイツ大規模イベントとか出禁にした方がよくね?』とか運営が本気で検討するチャンピオンだって、キミの大好きなリクくんだって例外じゃない。それにELダイバーだからってバトルで優位なんて事もないしね」
何の敗北も挫折もない人生など、スパイスの効いていないカレーと同じだ。
試行錯誤と迷走・暴走を繰り返し、いくつも|苦い体験【スパイス】を加えて始めて人生は味わい深くなるのだ。
ただの1度の敗北も知らず、ただただ勝利の栄光だけを味わいたいなら、俺TUEEE!の小説でも書いてろという話である。
「それでも……僕は、悔しいんだ……! あんな奴に負けるなんて……あんな……Fランクなんかに……!!」
私の言葉は一応飲み込みつつ、それでも割り切れない気持ちを吐露するルベル。
うーむ、確かに自慢ではないが私のビルダーとしての腕はそこそこ以上だ。
ルベルだってまだ経験不足で詰めが甘いところはあるけど、ダイバーとしての資質は並々ならないものがある。
それがFランクダイバーに、ねえ?
「ねぇルベル、これから一緒に反省会しよっか? 私にそのバトルのログデータ見せてよ」
「っ! だ、ダメだそれは! ア、アオイに……負けた姿なんて、見られたくない……」
ありゃダメだったか。
最近仕事が特に忙しくて中々ルベルと遊んであげられないから、久し振りにこの子のプレイを見たかったんだけど……。
ていうかこの子、私がいない間はずっとダイブしているみたいだけど、GBNの中でどんな仲間と何をしてるかとか、全然話してくれないんだよね。
まあ、お年頃の男の子の中には、親に友達と遊んでいる所を見られたくないって子もいるらしいし、こういうのも子離れの前兆って考えると寂しいが受け入れるべきなのだろう。
でも、ならせめて……。
「分かった。ルベルがいいって言うまでデータは観ないし、運営の特権で調べたりもしない。――その代わりって言ったらあれだけどさルベル? 2人で一緒に新しいガンプラ、作らない?」
「新しい、ガンプラ?」
「そう、やっぱりガンプラは自分が作ったもので戦うのが1番だし、最初と違って今のあなたにはこの世界で動ける身体がある。だから2人で考えて、図面を引いて、一緒に最高のガンプラを作ろう! どうかな?」
この子がGBNの世界で何と戦い、何を思っているかはわからないけど、勝ちたいと思う相手や、成したいと思う事があるなら応援してあげたい。
そしてこの子が、世界で色んなことを学び成長する手助けができるなら、こんなに嬉しい事は他にない。
「――――やりたい! 僕も、アオイと一緒に、最高のガンプラを、作りたい!」
「じゃあ決まりね♪ って、言っても私今殆ど休みがないからあんまり時間作れないんだけど、取り敢えずどんな機体にするか詰めていこうか」
快く私の提案を受け入れてくれたルベルは、本当に嬉しそうな声ではしゃぎ、エピオンの身体で私の周りを飛び回った。
こうして私、【アマツカ・ソウ】――ダイバーネーム【アオイ】の日曜日は終わり、明日もまた普通に忙しい業務が待ち受ける。
ハゲろ
アオイは運営に内緒で秘密裏にルベルを保護しています。
人間への憎悪を秘めた彼の存在が知られれば、彼自身やサラ達に対する上層部の対応が悪い方向に進むかと危惧したから。
しかし現在、ルベルがシステム改竄などの悪事に手を染めている事は知りません。
ルベルもアオイを困らせるのは本意ではないので、彼女の前では人間への憎悪は既にないと嘘を吐き、GBNでは友人や兄弟と楽しく過ごしていると偽っています。