ガンダムビルドダイバーズ REBOOT 作:キラメイオレンジ
仕事の都合上、早朝7時には職場に到着しなければならない俺の朝は、休日でもそこそこ早い。
6時に起床して部屋着からトレーニングウェアに着替えて洗面と歯磨きを済ませた後、ゴミ袋を片手に玄関を出る。
2月下旬の身の凍る寒さに震えつつゴミ捨て場に袋を投げ、その足で10分ほどジョギングしつつ24時間営業のスポーツジムに到着。
適度の暖房が効き、それでいて貸し切り状態の施設内で1時間半ほど筋トレと有酸素運動を行った後、ストレットを済ませ8時に帰宅。
シャワーで汗を流した後に、トーストと昨日ユナが来て食わずじまいだった総菜(唐揚げとコロッケ)という些か重い朝食を摂りながらTVを付けた。
『次のニュースです。他県に住むネットを通じて知り合った少女を家に招き入れ、4日間に渡り住まわせていたとして、28歳の会社員男性が逮捕されました』
「うわぁ、またこの手のニュースかよ……世の中終わってるな」
上着で顔を覆いながら顔を隠しながら警察に連行される男性の映像を見ながら、俺は男に対する軽蔑と、世に横行する未成年が巻き込まれる性犯罪の増加に危機感を覚えた。
全く……いい歳こいて恥ずかしくないの?
無垢な少女を言葉巧みに誑かし、手籠めにするなど大人として、人として下劣極まる最低の行為だ! 鬼畜の所業だ!
道徳心溢れる至極真っ当な大人である俺はそんな事を考えつつ〈ししょー、夕方楽しみにしてます♡〉とLINEでメッセージを送ってきた俺に〈ちゃんと学校の勉強にも集中しろよ?〉と返信。
ほら、どこをどう見てもちゃんとした大人!!
・・・・・
朝食後に一服した後に部屋の掃除や洗濯などの家事をひと通り済ませれば、午前中などあっという間に過ぎていく。
実家暮らしではなんだかんだ母親に頼っていたが、1人暮らしは自由気ままな分こうした事に時間と労力を割く代償が伴う。まあ、自分で望んだ事なので不満はない。
朝食が重かったので昼はバナナと牛乳で手早く済ませ、俺は12時半に商店街にあるガンダムベースへと到着した。
「すみません。GBNやりたいんですけど…………あっ」
「はーい、そうしましたらまずダイバーギアの提示とご利用予定時間を決めて……ってあっ!」
店内の奥にあるGBN使用スペースで受付をしようとすると、そこには先日、ユナに抱き着かれた俺を通報しようとした20歳前後位の女性がいた。
「あ、あの時のロリコン……」
「違うから! 誤解だから!! スマホ片手に距離取らないで! 通報しないで!!」
その後、俺は10分ほど掛けて自分の無罪を必死に説明し、女性――【ニシカワ】さんは、怪訝な顔をしつつも一応納得してくれた。
因みにこの人、住まいも近くユナの事は幼い頃から知っているらしい。
『一応お話は信じますけど、もしユウナちゃんに変なことしたら許しませんからね?』
と、釘を刺されつつ受付を済ませた俺は、GBNに2度目のインをした。
・・・・・
日本のダイバーが最初にダイブする極東ベースのセントラルターミナルには、既に待ち合わせした人物が待っていた。
「すみませんお呼びだてしたのに遅れてしまって! 少しトラブルがあって!!」
「いいわよいいわよ。まだ3分過ぎじゃない。けどトラブルって大丈夫なの?」
「あっ、はい。取り敢えず執行猶予は勝ち取ったので……」
ハハッ、乾いた笑い声をあげつつ、俺は顔を上げ改めてマギーさんに挨拶をした。
彼女(敢えてそう呼ぶ)とは初日のダイブ以降フレンド登録を済ませ、ユナと正式にコンビを組んだことなどはメッセージのやり取りで伝えてある。
そして今日、ユナとの約束に先立ってマギーさんと待ち合わせしたのは情報交換と、ちょっとした頼みごとの為だった。
「今更ですけど、平日の昼間にお呼びして大丈夫でしたか?」
「全然問題ないわよ。私、リアルじゃバーを経営してるから仕事は夜からなの♪ この時間帯にダイブしてる人は大体そんな感じの人が多いわね」
「あっ、そうなんですか」
バーを経営……つまりはそういう客層があつまるお店の方ってことか。
何だか物凄くしっくり来る。
「さっ、立ち話もなんだから一旦カフェエリアにでも行きましょ? こっちの世界で飲むお茶も悪くないわよ?」
と、ウィンクしながらターミナルを案内するマギーさんの後に続き、外の町を一望できるカフェテリアスペースに腰かけた。
店内には他に利用者もおらず、いるのはNPCの店員のみ。
込み入った話をするには格好の状況だ。
「まずは例のエピオンに乗っていたELダイバーの件なんだけど、ごめんなさい。知り合いの伝手でGMに直接報告はしたのだけれど、まだ何の進展もないみたいなのよ」
「そんな、まだ4日じゃないですか。そもそもマギーさんが謝ることじゃないですよ」
マギーさんは事件の被害者である俺に律義に頭を下げてくる。
見た目とキャラは強烈だけど、本当に気遣いができる出来た大人だ。
「ただ、不幸中の幸いって言ったらあれだけど、あれ以降、チュートリアルミッションに偽装したクリエイトミッション――通称【トラップミッション】による被害は報告されなくなったわ。多分、予期せぬ形で事件が発覚したから慎重になったんじゃないかしら? 暫くは犯人達もおとなしくしてると思う」
「まあ、俺としてはユナが巻き込まれなくなったってだけで僥倖ですよ」
申し訳なさそうにするマギーさんへのフォローも半分あるが、残り半分は俺の本心だ。
システムに介入する技術を持つ者による初心者狩りだとか、それを餌に上位ランカーを誘い込んで倒そうと目論む自称ELダイバーだとか、ハッキリ言ってフォースすら結成出来ない新人Fランクダイバーの手に余る案件だ。
当面の間とはいえ、ユナに危害が及ぶ心配がなくなっただけで充分である。
「そう言ってくれると救われるわ。それにしても……フフ、この間は乗り気じゃなかったのにダイ君ったらすっかりユナちゃんに夢中じゃない?」
「……まあ、あの娘と会わなきゃ、ここまでこのゲームに入れ込まなかったのは確かですね」
生活の中で生じた余暇に、ちょっと童心に帰って遊ぶ。
俺にとって当初のGBNとは、そんな気楽さをもって始めたものだ。
しかし今、ユナという逸材を守り育てたいというモチベーションが、そのままゲームやガンプラに対する情熱に繋がっているのは、紛れもない事実だ。
「フフ、まあ何でアレGBNを楽しむ人が増えるのは私にとっても僥倖よ。それで、今日は私に相談したいことがあるって聞いたけど、何かしら?」
「ああ、それなんですけどねマギーさん。――――短時間でポイント荒稼ぎする方法って何かありませんか?」
・・・・・
『くたばれマギィイイイイイイイ!!!』
『ヒャッハー! オカマは消滅だぁああああああああ!!!』
『積年の恨みぃいいいいいいい!!』
『ホホホ、相変わらずやんちゃな坊や達ね! 全員まとめて相手してあげるから、かかってらっしゃい!』
――――どうしてこうなった!?
灰色の空と廃墟の街並の中、『お前はもう死んでいる』でお馴染みの某世紀末マンガでしか見た事のないモヒカン&棘付き肩パッドに身を包んだダイバー達が、鎌を振るうオカマとその連れである俺に襲い掛かってくる。
あまりにもベタでコテコテな、一種の様式美すら感じる状況を俺は呆然と眺めていた。
「あ、あのマギーさん、これって普通の採取ミッションじゃありませんでしたっけ?」
「ええそうよ! このディメンションの最果てに咲くお花を摘んで帰るだけの簡単なお仕事! ただし、全面がフリーバトルエリアであるこの【ヴァルガ】で無事に生き残れたらね♪」
「全面フリーバトルのディメンション!?」
どうりでバトル受諾申請もしてないのに次々に流れ弾が飛んでくるワケだ!
俺は回避運動をしながら折を見て反撃して取り囲む敵の数を減らしつつ、マギーさんの発言を思わず聞き返してしまった。
マギーさんによるとこの場所は【ハードコアディメンション・ヴァルガ】といい、元々ランクやフォース制度などに縛られず、ひたすらバトルに興じたいというヘビーユーザーご用達のスポットだそうだ。
ひとたび足を踏み入れれば、そこはビームとミサイルが飛び交い、悲鳴と狂喜が木霊する“運営公認”の無法地帯。
真っ当なプレイスタイルに馴染めない社会不適合ダイバーが辿り着く弱肉強食が全てのフィールドは同時に、日夜殺し合いに明け暮れる戦闘狂の巣窟であり、より高みを目指すダイバーにとっては格好の修行スポットでもあるという。
「にしたって入って3分で50機以上に包囲されるとかどう考えても普通じゃないでしょ!? 全員明らかにマギーさんを狙ってますよ」
『フフ♪ モテモテでしょ私って? ここには初心者狩りとか不正ツールの使用とか外でお痛をした子達も結構いてね。ちょ~っとキツめにお仕置きしてあげたお礼参りに来てくれたみたい。まあ、平たく言えば皆私のファンってとこかしら♡』
「そりゃまた、おモテになられて羨ましいですね!!」
人気者のマギーさんの連れという事で八方から飛び交う攻撃を避けては迎撃しし、コックピットのメインディスプレイの端に表示される保有ポイントはどんどん加算されていく。
成程、ミッションそのものの獲得ポイントが低いので受注の際は首を傾げたが、確かにこれは、生き延びさえすればどんどんポイントが貯まっていく!
ついでに、鈍った腕を鍛えなおすには絶好の場所という事か。
最初は面食らったが、そう考えるとここは実に楽しい場所だ!
「中々素敵なデートコースですね!」
「でしょう? たっぷり楽しみましょう!」
互いに期待を背中合わせにしてマギーさんにお礼を言い、俺は改めてこのステージを楽しむことにした。
『チィ! マギーの奴、相変わらずバカ強ぇえ! こうなりゃあの連れのFランクだけでも仕留めてやれ!!』
『おうっ!!』
包囲してなお刃が立たない
前回の初ダイブ時は操作性を優先して必要最低限の装備だったが、今回は本格的なバトルを想定して十分な装備を整えている。
コンセプトはズバリ『高水準なシンプル・イズ・ベスト』。
バックパックは左肩に可動アームがある通常のクアンタのものに戻し、肩アーマーも原型機と同じにした。
ぶっちゃけ本体は両腕のGNガントレットを除けばただの00クアンタだ。
しかし今回は武装編成の変更に注力し、左肩にはGNドライブとソードビットを懸架した物から、GN-XⅣが肩に装備するGNフィールド発生機構があるシールドに変更。
右手にはGNソードVに代わり、00の2期最終決戦で活躍した【アリオスガンダムGNHW/M】が装備していた手持ち式の【GNキャノン】を装備。
可動式アームで保持したGNシールドのフィールで敵の攻撃を防ぎつつ、高威力のキャノンで迎撃するというシンプルな戦法を主体とする機体だ。
無論、00クアンタ由来の優れた可動域と運動性は健在なので機動力も高い。
ぬるい攻撃は回避し、そうでないものは防ぎ、強力な一撃で仕留める。
GNキャノンは性質上、一撃毎にチャージに若干の時間が掛かるので一気に複数を仕留めるという事は出来ないが、破壊力は申し分ないので狙い撃てば大概の敵は1撃で仕留められる。
焦らず、絶えず周囲の状況を把握しながら1機ずつ確実に仕留めていく。
一見すると地味で華がなく、ルーチンワークじみた戦術だが実際やってみるとコレも中々楽しい。1つの事をコツコツやるというのもまた、ゲームの楽しみ方の1つだろう。
何より、絶え間なく迫りくる敵の動きを読み、向けられる殺気を肌で感じ取りながら互いを狩り合うこの環境は、GPDに近い感覚を思い起こさせる。
一瞬でも気を抜けば
敵を1機撃ち落とす度に感じる高揚感。
久しく味わっていなかった、他では味わえない悦びが、此処にはあった。
成程、華やかな世界に背を向け、このディメンションに入り浸る者達の気持ちが分かる気がする!
ああ、きっと俺は今、とても悪い顔をして笑っているのだろう。
可愛い弟子にはとても見せられない。教育によろしくない顔で。
だが、今しばらくは、師としてではなく1人のファイターとして……。
この
【ゼロクアンタガルム】
ダイチが初ダイブでの経験を踏まえ、本格的なバトルを想定して改修したゼロクアンタの第2形態。
名前の由来は右手に大型銃器、左肩にシールドという構成が00の外伝に登場する【ガルムガンダム】に似ている事と『ユナを守る番犬』という意味合いもある。
最初に戦ったビルゴのキャノンの砲撃とディフェンサーの防御というシンプルな装備構成に感銘した事が改修アイディアのきっかけとなっている。
クアンタ特有の運動性で戦場を駆け、GNフィールドを展開して敵の攻撃を防ぎつつ、GNキャノンで仕留める。
装備1つ1つの水準を上げつつ、数を絞る事で『選択肢を狭め、判断を早くする』という意図もある。
ダイチは本機を単独での運用は元より、格闘機を使いたいというユナとの連携を視野に入れており、ある種の支援機として見ている。
【装備】
GNキャノン
・アリオスガンダムGNHW/Mから流用した手持ち式のキャノン。
・連射性は低いが威力抜群の主砲を中心に、牽制やミサイルの迎撃に使えるGNバルカンを副砲として搭載している。
GNシールド
・左肩のアームに搭載。GN-XⅣのアームを改造。可動性の高いアームに搭載しているのでキャノンを両手で持ちつつ、前面や後方からの攻撃を防ぐことが可能。
GNガントレット
GNビームサーベル/ダガー
・第1形態から引き続き搭載。接近戦を挑まれた際に使用。