ガンダムビルドダイバーズ REBOOT 作:キラメイオレンジ
「ししょー、このミスターブシドーって怪しい仮面の人、ちょっとだけグラハムさんに似てませんか? もしかすると、双子の兄弟とか!? ロックオンみたいに!」
「ああ、うんどうだろうね? まあ後のお楽しみって事で」
ゴミを見る様な目で見てくるニシカワさんに見送られガンダムベースを後にして早2時間と少し、俺とユナはガンプラ製作を一先ず止め、アキナさんが作ってくれたカレーを食べながら00セカンドシーズンの7話冒頭を見ていた。
ミスターブシドーの正体にマジで気づかないユナ、その純粋さが眩しい。
「わあ! ししょーししょー! アレルヤとマリー、ちゅーしてますちゅー! ふぁ……」
物語は終盤に差し掛かり、ロシアの荒熊の異名を持つ
余程純粋に育ったのだろう。
キスとか恋に興味津々ではあるが恥ずかしいという感情が何とも初々しい。
高2の秋、【鉄血のオルフェンズ】について談義してる時、『やっぱり三日月とアトラってコックピットでヤッたんだよね?』とか乙女心もクソもないことを抜かしていた元カノとはエラい違いだ。
しかしやっぱりあれだよな?
こういうラブロマン的なシーンを女の子と2人きりで観た後って多少気まずさがあるよな?
いや、別にユナを異性として意識してるとかは全然ないけど!
どっちかというと家族で観ていたドラマでベッドシーンがあった父親の心境的な!
「し、心配してましたけど、うまくいって良かったですねアレルヤとマリー。セルゲイさんもいいお父さんで素敵でした。――息子さんとも仲直りできるといいですね」
「……そうだな」
無垢な感想を言うユナに対し、スミルノフ親子の行く末を知る俺は努めて平静を装い同意。
本当、ユナの言う通りになればどれだけ良かったか……。
その後、食器などを片付けてユナのガンプラ作りを再開した俺達は、20時40分頃に区切りの良い所を迎えて作業の手を止めた。
「今日はこの辺にしとくか。ユナも確か、土曜は店の手伝いだったよな?」
「はい、でもさっきお夕飯を貰いに行った時にししょーが私の為にパーツ作ってくれた話したら『だったら早くダイチさんに完成したガンプラをおみせしないとね!』って特別にお休み貰っちゃいました! だから明日は1日、
「それは良かったけど、あんまり俺がやったこと喧伝するのは控えてほしいな。別に大した事でもないし……」
「大した事あります。だから皆にいっぱい自慢します。ししょーがしてくれたことを軽んじるのは、たとえししょーでも許しません!」
と、謎の持論を唱え、俺の要求を却下するユナ。
《ししょーと弟子のお約束条項》に、『反論や不満があればキチンと言う事』と定めた手前、あまり口出ししたくもないが、ニシカワさんをはじめユナの周りの人達に俺がどう思われているのかを考えると胃が痛くなってくる……。
「あっ、でもししょーは確か、明日はお仕事なんですよね?」
「ああ、それも遅番だから仕事が終わるのは夜の8時過ぎになるかな」
「そう、ですか……」
あからさまにガッカリし、肩を落とすユナ。
折角もらったお休み、俺と2人でじっくり作りたかったのか、或いは完成したガンプラをいの1番に俺に見せようと考えてくれたのか。
どの道、ししょー冥利に尽きる話だが、こればっかりは仕方ない。
リアルあってこその
「そんな顔するなって、大丈夫。傍には居てやれないけど、ししょーの心は何時だって一緒だ。――弟子よ。お主にこれを授ける」
俺は芝居がかった口調で事前に用意した2つの
「ししょー、これって?」
1つは、まだ真新しい大学ノート。
ユナが中身を確認すると、そこにはゲート処理や塗装についてなど、俺が持つガンプラの制作に必要な基本的な要点や注意事項などをまとめたものだ。
制作時に傍にいてやれない事態を想定して月曜からコツコツ書き溜めた即席の指南書ではあるが、今日の作業を見た限りユナは(失礼だが)意外と手先が器用だし、集中力もある。
恐らく問題ないだろう。
「俺もなるべくまめにLINEをチェックするから、分からない事があったら連絡してくれ。それとこっちは部屋の鍵な」
そしてもう1つはハロのキーホルダーをつけたこの部屋の合い鍵だ。
ひと通りの道具や塗料などが揃っているこの部屋は狭くて男臭いながら、工作部屋としては一応の機能は果たせる筈だ。
「何時に来てもいいけど、必ずアキナさんの許可を貰った上で、18時には家に帰る事。それからスプレーを使う時はベランダでやるように。他に何か質問はあるか?」
ひと通り言うべき事を言い終えた俺はユナに確認を取るが、彼女はめずらしく感情の起伏のない表情で俺が渡したノートをぎゅっと抱きしめながら、不安そうに尋ねた。
「ししょー……私はどうやったら、ししょーにお返し出来ますか?」
「えっ? いや、別に何もいらないよ? 何だよ突然?」
「だって! 私、ししょーからも貰ってばっかりじゃないですか!! 助けてくれて! 一緒にいてくれて! 教えてくれて! おかーさんに叱られるの庇ってくれて! 一緒にごはん食べてくれて! 今日なんかパーツだけでも嬉しかったのにこんな……! こんな……何もお返しできないなんて……うぅ……」
急に怒った様に声を荒げたと思ったら、俺のしたことに過分すぎる感謝の気持ちをぶつけ、挙句に泣き出してしまったユナ。
クッ、金曜の夜にJCを自宅に引きずり込んで泣かせるとか、またしても社会人としてアウトな失態をしでかしてしまった!
ああっ、やめてニシカワさん! 警察だけは! 警察だけは勘弁してください!
21時の門限も近いし、とにかく早急にユナを宥めなくては!
「ユナ、忘れてるかもしれないけど、最初にこれから一緒にGBNしようって誘ったのは俺の方なんだぞ? ユナはその誘いを受けてくれた。それだけで十分、報いてくれてるよ」
「そんなの! ししょーが言ってくれなきゃ私の方からお願いしてました! 全然報いてないです! 寧ろすごく嬉しかったです!」
クッ、手強い。
この
――仕方ない。少々気恥ずかしいが、俺も腹を括って弟子の気持ちを伝えよう。
「……ユナ、君は俺から色んなものを貰ったと思ってくれたのと同じ様に、俺ももう、君からたくさんの物を貰ったんだ。君を弟子にとったお陰で、何となく気が向いて始めたGBNに本腰を入れて取り組む気になれた。ユナがたくさん送ってくれるメッセージに返信するのも、一緒にこの部屋でご飯を食べたりガンダムを観るのも楽しいし、これからGBNで色んな冒険をするって想像するだけで、ありきたりな日常に張りが出来たんだ。だから、――それだけでもう、十分なんだ」
口に出したきっかけはユナを宥める為だが、この言葉自体は偽らざる俺の本心だ。
要約すると『JCと一緒に過ごす日々に活力を貰った』と割と大人として終わり過ぎている感が尋常じゃないが、知った事か。
もし、この気持ちすら条例違反だというなら、俺は甘んじて逮捕されてやる。
「だから、もしユナが『それでも何か返したい』って言うなら、これからも一緒にいてくれればいいんだ。スグに弟子を泣かす不甲斐ないししょーだけど」
「ううぅ……どうじで……じじょーは! じじょーのごど悪ぐ言うんでずが!? わあああああああああああん!!!」
「更に号泣!? なんでだ!!?」
懸命な説得が及ばず愛弟子を過去最高に泣かせてしまった俺は結局泣きじゃくるユナを手を引っ張って喫茶暁まで送る羽目になった。
店の前でアキナさんに挨拶した際、『おかーさん! ししょーが! ししょーが~~~!!』と嗚咽交じりに抱き着いた際は、最高に犯罪臭い空気になり、何事かと様子を覗きに来たご近所の方に害虫を見る様な冷たい視線を浴びせられた。
尚、何故かアキナさんだけは『まあ!』とちょっとワクワクした感じだったがその真意は不明だ。
フッ、終わったな俺の人生。
・・・・・
家を出る前に入念に部屋の掃除をしてから出かけた土曜日の仕事は、有り体に言って最悪だった。
入社1年目の後輩が気難しいお客様がいる配達先で郵便を誤配してしまい、班長の指示(おしつけ)により救援に向かう羽目になったのだ。
昼休み返上で後輩と一緒に1時間ひたすら頭を下げ続け、解放された後は中断していた後輩の配達を半分受け持ち、郵便局に戻ったのは15時過ぎ。
その後、班長や課長にひと通り報告を済ませた後、即座に午後の配達を言い渡された時は心の中で『ハゲろ!』と思った。
ひと息ついた夕方にカロリーメイトで飢えをしのいでいると、始末書の提出を言い渡された後輩がどう書いたらいいか悩んでいたので、書き方を指南。
『凄い! こんなにスラスラ謝罪の言葉が出るなんて流石先輩!』と褒めてんのか喧嘩売ってんのか分からん後輩に一応『ミスは誰にでもあるから気にするな』と励まして夜間の配達。
因みにその後輩は、先日合コンで出来た同い年の彼女と仕事明けにデートらしい。
うらやま妬ましい。
そしてその結果、俺は退勤するまで全くスマホをチェックする暇がなかった。
「ああクソ! 何が分からない事があったら連絡しろだ……!」
昨晩あれだけ恰好をつけておいて全く実現できていない己の不甲斐なさに苛立ちつつ、ラインをチェック。
意外にも、未読メッセージは2件。それも送られてきたのは17時半の門限直前だった。
俺はホッとしつつページを開くと、そこには――
《完成しました! 私とししょーの愛の結晶です♡》
というメッセージと、ユナが見事に作り上げたエクシアの改修機のフォト画像が1つ。
窓からさす夕日の光で、奇しくもトランザムを発動している様に赤く映ったそのガンプラは、まるで彼女の想いを映した様に見えた。
先程まで全身に纏わりついていた疲労感など一瞬で吹き飛んだ俺はLINEに返信。
ダイチ《愛は愛でも師弟愛の結晶な? おめでとう!!》
ユナ《ししょーのいけず♡》
いけずって何!?
と、速攻で帰ってきた返信にツッコみつつ、俺もまた即座に返信した。
ダイチ《早速明日、そいつと一緒にダイブしよう。お昼を済ませて1時にガンダムベースで待ち合わせで大丈夫か?》
ユナ《OKです♡》
こっちが送信して3秒後という驚異的な速度で返される返信。
何かもう、喋ってるのと変わらんなぁ~と考えていると、また新しいメッセージが。
ユナ《ししょー、きのうはいっぱい泣いてごめんなさい。困らせてばかりのダメダメな弟子ですけど、これからも一緒にいてくれますか?》
どうやらまだ昨晩の事を気にしているらしい。
確かに昨日はニシカワさんや喫茶 暁のご近所さんから害虫認定され、いよいよ逮捕まで秒読み段階状態になったが、――フッ、このひと時を想えばそれも些末事よ。
ダイチ《弟子がししょーを困らせるなんて当然だろ? これからも遠慮せずいっぱい困らせろ。俺にとってそれもGBNをやる楽しみだ》
強がりと本心を半分ずつ混ぜたメッセージを送る。
何だろうこのこみ上げる気持ち?
ユナの為ならどんな艱難辛苦もどんと来いという気持ちになる。
重圧を感じながらも
そんな風に感慨に浸っていると、ユナからまた返信。
《ししょ~~~~~♡♡♡♡♡》
うん、なんだろうこのメッセージ?
なんかやたら乱舞している♡に不吉なものを感じてしまうが、気のせいかな?
オルガ・イツカは団員の幸せを想いながら最終的に全てを失い、前を向きながらも散った。
果たして俺はどうなることやら……。
【ししょーと弟子のお約束条項】
第1条:ししょーの部屋のベッドの下とクローゼットは決して覗かない!(出入りは自由)
第2条:ガンプラは自分の手で作る事!(工具や塗料はししょーが貸してあげる)
第3条:バトルでは誰が相手でも全力で、ハンデを加えてもいいが決して手加減しない事!(長期戦を見越した余力の温存などは別)
第4条:ししょーを絶対視せず、反論や不満があれば遠慮なく口に出す事!
第5条:GBNにかまけて学校の勉強や友達との交流、家の手伝いを疎かにしない事!
第6条:リアルの用事とGBNがかち合ったら、リアルを優先する事!
第7条:公共の場ではなるべくししょーに抱き着かない事!
第8条:ししょーがお巡りさんに連れて行かれそうになったら、『この人は親戚のおにいちゃんなんです』と口裏を合わせる事!
ダイチ『破ったら破門ね』
ユナ『ハイししょー! でも7条だけは撤回したいです!!』
ダイチ『却下』