ガンダムビルドダイバーズ REBOOT 作:キラメイオレンジ
喫茶暁で多少心臓に悪いイベントを消化し、俺はユナと共にガンダムベースへ来店。
日曜日の午後という事もあり、店内は多くの客で賑わっていた。
「わあ、今日もお客さんいっぱいですねししょー! GBN、2人分空いてると良いんですけど」
「ああ」
店内の様子を見渡しながら、俺は最早天敵と呼べる存在になりつつあるニシカワさんがいない事に安堵する。一昨日あれだけ大騒ぎになったにも関わらず今日も今日とてユナと一緒にご来店してるところを見られて日には今度こそ問答無用で通報されてたろう。
そんな事を考えながら店の奥にある受付カウンターでGBNの使用を申請。
幸いにも丁度2席空いていたので受付をする中、カウンター横の棚に陳列された大きな箱に目が行く。
家庭用GBNセット 価格12万円
それはネット回線さえあれば自宅の机でGBNが楽しめる機器一式だった。
ガンプラをスキャンするという独自のシステムがある為、他のソフトと併用できる規格ではなくあくまで“GBN専用”としてこの強気のお値段。大体性能がそこそこのノートPCと同じ相場だろうか。
安月給のしがない配達員でしかない自分から見てその値段は当然お高い。
が、曲がりなりにも社会人。それも小金を溜め込んでる独身男性の預金残高をもってすれば、手が届かない金額という訳ではない。
これを買えば今日みたいな混雑する日でも確実にダイブできるし、何より俺の事を9割9分犯罪者認定しているニシカワさんと顔を合わせずに済む。
身の安全を考えれば安い出費という見方もある。
「ししょー、家庭用の機器買うんですか?」
「ん~検討中。長期的にゲームをやり込むなら買っておいた方が安上がりだとは思うし……どうかしたかユナ?」
俺の視線から考えている事に気づいたユナに返答していた俺は、不意に彼女が少し寂しそうな顔をしているのに気づいた。
「い、いえ! お金を自由に使える大人でいいな~って、思っただけです。……後。ちょっとだけ……ししょーとこうしてお店まで来れなくなるのがさみしいなって」
キュン!
やだなにこの子! 俺の弟子って可愛い過ぎない!?
暁からたった5分の道を俺と歩く、そんなお出かけと呼べるかどうか分からないささやかな瞬間に幸福を求めてくれるユナを置いて、1人だけ自宅プレイ何てできるわけない!
「……うん、やっぱり今は止めとくよ。それより早速プレイしよう」
「っ! ……はい♪」
元気を取り戻した愛弟子と共にそれぞれ筺体の中に入り、ダイバーギアとガンプラをセット。VRゴーグルを装着し、前方にある2本の操縦桿型コントローラーを握り、俺の意識は仮想空間へとダイブする。
・・・・・
「うーむ、やっぱり座ってコントローラー握ってるって感じがしないよなぁ」
極東ベースのセントラルエリア。
通算3度目のダイブを経験した俺は軽いストレッチをしながら改めてGBNご自慢の【五感フィードバック】のテクノロジーに感心させられていた。
ゴーグルによってもたらされる視覚情報はともかく、周囲のささやき声やこう、言葉で言い表せない空気感に至るまで、本当にそこに居る様にしか思えない。
アクティブユーザー2千万というGBNがここまでの隆盛を極めたのも、ガンプラという今や世界共通のホビーを題材にしている点やELダイバーの誕生という話題性以上に、こうして手軽に異世界を楽しめる部分が大きい気がする。
「し~~しょ~~!」
と、テクノロジーの発展に感心している俺の元に、子犬の様に元気いっぱいの少女が飛びついてくる。
現実の顔や体形を再現しつつ、浮世離れした桜色の髪を結った美少女は何を隠そう俺の弟子。腕に抱きついた時に感じる見た目には分かりづらいがフニっとした感触や、鼻腔をほのかにくすぐる少女の甘い香りまで完璧に再現されている辺り、やはりGBNの技術力は凄まじい。
そしてそんな美少女に抱き着かれた俺に対する視線の冷たさまで再現されている。恐ろしい。
「あー、ユナ? お約束条項にもある様にあんまり人前で抱き着くのはなしで」
「え~それって現実世界だけの話じゃないんですか!? ……こっちではガマンしてる分いっぱいギュって出来ると思ったのに」
いや、そもそも君は現実世界でも割と頻繁に抱き着いてくるでしょ?
このままじゃししょー、現実だけじゃなく
「アラ~仲良しねぇお二人さん? ウェルカムトゥGBN♪」
わちゃわちゃしていた俺達に気さくに声をかける人物が登場。
「マギーさん!」
「ヤッホー2日ぶりねダイちゃん。ユナちゃんも、またGBNで会えて嬉しいわ♪」
「は、はい! あらためてよろしくお願いします!」
身体をクネっとさせながらボディタッチを交えて接するマギーさんに行儀よくお辞儀するユナ。仮に俺が同じ感じにユナに触ると事案っぽくなるのだが、流石コミュ力お化けのお姉系。
……俺もいっそ、
などと考えていると、また新たに見覚えのある奴が声をかけてきた。
「あっ、いたいた! ちーっすロリコング先輩☆ 可愛い後輩のアッキーがわざわざ会いに来て上げましたよ~~ウェイ!」
少し離れた場所から手を振って接近する自称可愛い後輩に俺はドロップキックをぶち込んだ。
「ごへっ!」
派手に吹っ飛び、ちょっとした人だかりを作りながら倒れるアキラ。
五感フィードバックは直接的な痛覚などは反映されないので本人はノーダメなのが残念だ。
更に俺はすかさず倒れたアキラの胸倉を掴み、低めの声で恫喝した。
「オイ、出会い頭にいきなりなんだロリコングって何だロリコングって? 殺されたい? もしかしてお前、俺にぶっ殺してほしいのかな!!?」
「ちょちょちょ! こんな往来で何物騒なこと言ってるんスか!? 日曜の昼は特に人が多いってのに」
「その人が多い場所で、人を破滅に導こうとしてるのは誰だ!? 大体なんだロリコングって! ロリコンなコングだから? 悪意100%な上に絶妙に覚えやすいじゃねえか!! 浸透したらどうする!? あらぬ誤解をかけられるのは現実だけで充分なんだよ!!!』
最悪なニックネームをつけやがった
「ギ、ギブギブ! 痛くなくてもその男くさい顔面をアップにして迫られるのはキツいッス! ――じゃあ、“ししょー”でどうッスか?」
「次、ししょーって言ったら殺す」
俺はマウントを摂ったクソバカ後輩の頭を掴み、握りつぶそう勢いで力を込める。
「あだだだだっ!! さっき以上にガチギレ!? 何故!!?」
「何故もクソもあるかアホタレ! ちょっと舌足らずな“ししょー♡”って呼び方はユナが使うから可愛いんだよ分かるかクソボケ!? お前がそれっぽく言ってむムカつくだけだ! わっかたかコラ!!」
「……うわぁ、半分ジョークのつもりだったけど、この人マジでヤバい領域に片足突っ込んでる……」
俺の怒りの熱弁を聞いて何故だか憐憫とも畏怖とも付かない微妙な表情で視線を逸らすアキラ。一方、周囲のダイバー達はそんな俺達の周囲で『ヤベェ奴来たな……』『ロリコング……ブフォ(笑)』など囁き声やフォトを撮る音が聞こえた。
クソ! やっぱりこっちでも俺は犯罪者予備軍扱いかよ……。
俺は只、可愛い弟子と普通にGBNを楽しみたいだけなのに……!
・・・・・
ひとしきりアキラをしばいた後、俺はアキラと共にミッション受注の為、受付カウンターに出来た行列に並んでいた。
日曜の昼下がりともなればダイブするユーザー数もピークに達する為、流石に時間を費やす。因みにユナとマギーさんにはその間、カフェエリアで待ってもらってる。
「ところで、お前先週一緒にイチャついてたカノジョさんはどうした? もしかしてもうフラれた!? 別れたのか!!?」
先週、ムカつくくらいラブラブ粒子を巻き散らしていたバカップルの片割れがいない事に気づき、俺は可愛くない後輩の不幸に期待し尋ねた。
「何でそんな目を爛々とさせて人の不幸を勘ぐるんスか!? リッちゃんは今日は【アークエンジェルズ】って言う女性オンリーのフォースの
「チッ、何だ残念」
「少しは本心を隠しましょうよ先輩!」
10年近く迷惑をこうむられ続けた後輩に今更何を遠慮しろというか全く……。
しかし、女性オンリーのフォースか……。
名前からするとSEED系作品が好きな女子が集まった感じかな?
あの作品、女性人気は今もトップクラスに高いからなぁ……。
「なぁ、可愛くもなくもない後輩のアキラくん? 良かったら今度、そのアークエンジェルズってフォースの人と合コン……いや、親睦会とかセッティングしてくれないかな? いや、断じてイヤらしい目的とかじゃなくて、俺もGBN始めたばかりで知り合いが多くないから、少しでも交友関係広めたいと言うか……」
「えぇ、……JC嫁侍らせといて更に違う娘狙うとか、先輩どんだけ飢えてるんスか? 言っときますけどアークエンジェルズにJCはいませんよ?」
「人をJCにしか欲情しない変態と前提した上で話を進めるのは止めろ! そもそも何度も言ってるが、俺とユナは至って健全且つ真っ当な師弟関係だ。どこにもいかがわしさも後ろめたさもないと断言できる!」
「いやいやいやいや! 先輩もう半分篭絡されてますよガチで!?
失礼且つ意味不明な戯言を抜かすアキラを行列に並びながら関節技でしばきつつ、俺はやっと順番が回ってきた受付カウンターで目当てのクエストを受注する。
・・・・・
「それでですね! ししょーってば私の質問にこう返してくれたんですよ!『弟子がししょーを困らせるなんて当然だろ? これからも遠慮せずいっぱい困らせろ。俺にとってそれもGBNをやる楽しみだ』って! キャー♡」
「アラ素敵ね~♪ ダイくんったらもうちょっと口下手かと思ったけど、意外と発言が大胆なのね!」
「そうなんですそうなんです! ししょーってばいつも私が言われて1番嬉しい事いってくれるんです!! カッコいいですよね!?」
「お待たせ~。ミッション受注してきたぞ~」
目当てのミッションを受注した俺はカフェで談笑するユナ達と合流。
何やらエラく盛り上がってるようだが……何故か周囲の視線が痛い。
「あっ、おかえりなさいししょー♡ 今、マギーさんにししょーのすばらしさをお話してたんです! エヘヘ♪」
「ええ、た~っぷり聞かせてもらったわよ? ……ウフ♪」
自慢気に胸(一見目立たないが抱き着くと確かな存在感あり)を張るユナと、その隣で含みのある笑みを浮かべるマギーさん。
えっ、もしかして
俺がJCを家にあげた事とか、この一週間にあったアレやコレやとか話した?
そしてこの周囲から来る軽蔑と好奇が混じった視線……周囲に聞かれてた!?
「ユナ、今回は大目に見るけどリアルでの情報をあんまり
「ええ~! ししょーの素晴らしさをたくさんの人に伝えたいのに!」
「それで伝わるのは素晴らしさじゃなくていかがわしさだから!! とにかくダメだからな! ししょー命令!!」
「うぅ、ししょーのいじわる……。――でもそういうちょっと強引な所も男らしい♡」
俺がちょっと横暴気味に命令すると、ユナは一瞬落ち込んだのに、何故か熱っぽい顔でうっとりした。ちゃんと話伝わったかすごく不安……。
というか
「ホラホラ~やっぱり発情してんじゃないっスか! 先輩、一体どんな手を使ったんスか!?」
「お前は黙れ。俺は何にもしていないし、ユナはそんな公衆の面前で色ボケする様な娘じゃない! 俺達は健全な師弟だ!!」
俺はアキラ及び周囲で聞き耳を立てていたギャラリーに主張する様に声を張り上げた。
――尚、そんな俺の切なる願いも虚しく後日GBNの掲示板では【自称健全ダイバー ロリコングについて語るスレ】というのが俺の預かり知らぬところで出来た事を知るのは、まだ未来の話だ。
・・・・・
「ふわぁあ~~! ブレイジングエクシアが大きくなってる!!」
周囲の視線から逃げる様に格納庫へ移動した俺達(というか逃げたいのは主に俺)は、それぞれ待機状態にあるガンプラを見上げる。
自分が作ったガンラプが原寸大の大きさに巨大化して立っているのを眺める。
こうした経験はGBNだからこそを出来る趣であり、3度目となってもやはり心躍るものだ。
因みにデッキにはユナのブレイジングエクシアの外に俺のゼロクアンタガルム、マギーさんのラブファントムとアキラのハイパーフリーダムも待機していた。
「アレがユナちゃんのガンプラっスか? 初心者にしてはかなり良くできてますね」
「だろ? しかも俺はちょっと助言しただけでほぼ独力で作ったんだぜ? 俺の弟子マジ天才じゃね?」
珍しく非常に良い事を言ったアキラに、俺は自慢げにユナの凄さを主張。
するとそこにユナが割って入ってきた。
「もうっ! ししょーがしてくれたのは全然ちょっとじゃないですよ! 私1人じゃ絶対こんな素敵なガンプラにできませんでした! 言ったじゃないですか、この子は――」
「はいはい、俺とユナの(師弟)愛の結晶、だよな? 分かってる分かってる。ちゃんと認知してるって」
「分かってくれてればいいんです。えへへ♪」
全く、1人で作り上げたのは真実なんだからもっと誇ればいいのに、俺の弟子は本当に謙虚と言うかししょー思いだよな。こそばゆいぜ。
「……先輩! 俺、先輩がムショにぶち込まれても絶対に面会に行きますからね! 週1……はメンドくさいから、月1くらいは!」
と、何故かそんな師弟の心温まるやり取りを見ていた筈のアキラは涙を流し、意味不明な事をほざく。
まったく、この麗しい師弟の絆を見て、どうしてそう汚れた発想に至るのか理解に苦しむ。
一方、そんな俺達のやり取りを数歩下がった場所で眺めるマギーさんは『私は貴方達の味方よ?』と温かいまなざしを向けていた。
「ところでししょー、私たちはこれからどんなミッションを受けるんですか?」
原寸大になったブレイジングエクシアの雄姿をたっぷり堪能したユナは、早く操作したいという気持ちからポニーテールを犬のしっぽの様に揺らし尋ねる(可愛い)。
そんな愛弟子に俺はシステムウィンドウを操作して受注したミッションの概要を見せた。
――――
【MISSION:天上人の軌跡】
カテゴリー:連戦ミッション。
勝利条件:敵NPCの殲滅。
敗北条件:参加メンバーの全滅。
プレイ人数:最大4名。
推奨ランク:D
獲得称号:ガンプラマイスター
概要
ガンダム00ファーストシーズンを基にした全5つのステージで現れるNPCを駆逐せよ!
第1~3の各ステージにはそれぞれユニオン・人革連・AEUの量産機が待ち受けており、インターバルエリアを挟み第4ステージには3機のガンダムスローネ。最終第5ステージには30機のGN-Xとラスボスのアルヴァトーレが待ち受けている。
――――
「折角だからユナも知ってる00系のミッションにしてみた」
「わあ♡ ありがとうございますししょー!」
「推奨ランクDっスか? 先輩はともかくユナちゃんにはまだちょっと厳しくないッスか? 連戦って慣れてない子には結構ハードだったりしますよ?」
はしゃぐユナとは反対に、アキラはミッション概要に首を傾げた。
まあ、その反応は概ね正しいとは思う。
何しろユナはまだ今回で2度目のダイブな上、実質的に始めて受ける真っ当なミッションだ。
本来なら手頃なチュートリアルミッションを成功させて操作の基礎と自信をつけさせてあげるべきという考えはよく分かる。しかし――
「どうせやるなら、少しくらい無茶なミッションの方が達成感があるだろ? それにこの娘が自分のポテンシャルを発揮して、俺がサポートに入ればこの程度のミッション、ほどほどってもんだ」
俺はニヤっと口角を上げ、後輩に断言した。
さあ、はじめようか。
俺とユナの本当のGBN。
ここがその
アキラは基本、厚顔無恥を地で行くウザいKYですが、感性は割とまともなので、ダイチとユナがお互いに対し無自覚にヤベェ感情を拗らせてるのを冷静に把握しています。
一方、マギーさんは『愛があれば障害なんて!』というノリでユナを応援する所存。
ロリコングに関する掲示板ネタはやってみたいとは思うけど今まで書いたことがないので難しいかな?
ダイチは基本、GBNで名誉や栄光を攫むよりも、そっち方面で名をあげる予定(爆)