ガンダムビルドダイバーズ REBOOT 作:キラメイオレンジ
火曜日の遅番を滞りなく終えて迎えた水曜日。
休日の日課である早朝トレーニングと部屋の掃除を済ませた俺は、開店直後のガンダムベースに訪れていた。
仕事柄、平日休める事が多いのは俺の仕事の数少ないメリットだ。
ここの様な土日は混み合うお店も半貸し切り状態で買い物を楽しめるし、区役所や銀行の様に、平日の夕方前までしかやっていない所に用事がある場合も大いに助かる。
俺が今日、ここに来た目的はゼロクアンタ改修の為に必要なパーツを作成する為だが、その為には些かポイントが足りない。
なのでまずはGBNにダイブして手頃なミッションをいくつかこなし、元手を確保する必要があった。
平日の午前中からゲーム三昧とか、なかなかに贅沢な休日の過ごし方である。
・・・・・
「――ふぅ。何とか軍資金は稼げたな」
3時間ほどダイブして比較的短時間で終わるミッションを4つ程こなした俺はその成功報酬及び、ミッション中のバトルゾーンで攻撃を仕掛けてきたダイバーを返り討ちにしたフリーバトルポイントという名の臨時収入を経て現実へと帰還した。
……どうでもいいが、待ち伏せプレイをしていた奴は平日の午前中なんて最も獲物を見つけにくい時間帯にずーっと待機していたのだろうか?
ヴァルガでヒャッハープレイをしているモヒカン共といい、楽しみ方の特殊さが甚だ理解し難い。
まあ、楽しみ方は人それぞれだから否定はしないが。
俺はGBNの筺体から離れると一旦店を出て近場のそば屋で手早く昼食を済ませつつ、スマホの未読メッセージやネットニュースなどを軽くチェック。
その中に[VRゲームの新たな可能性! プレイ中のダイバーの体感時間を加速させる新技術が現在開発中]という記事に惹かれて詳細を読んでみた。
何でも現在、大手のVRゲームメーカーでは仮想世界にダイブ中、プレイヤーの思考を加速させることで現実での1時間を1日や1週間に感じさせる技術らしい。
これが実装されれば仕事などで限られた時間しか遊べないプレイヤーも、より濃密な時間を体感できる。
昔読んだライトノベルに同じ様な設定の作品があったが、これはなかなか革新的な技術だ
しかし現時点ではまだプロジェクトが始まったばかりなので、実装は早くて5年から10年先。特に思考加速という未知の技術が脳に齎す影響については入念な検証が必要とのことらしい。
凄い時代が来たものだ。などと感心しつつ小休止を終えた俺はガンダムベースに戻り、いよいよ本日の主目的であるオリジナルパーツの作成に移る。
「すみません。パーツ成型機を使いたいですけ……あっ」
「あっ、はい大丈夫ですよ……っ! ――ど、どうぞ……」
「ど、どうも……」
店内の工作スペースに入れば、もはや俺の天敵と呼べる存在になったニシカワさんが居た。
お互いに遭遇してしまった事に対し何とも言えない感情をあからさまに顔に出しつつ、一応は大人同士なので言葉にはせず、気まずさを胸にしまい、店員とお客として接した。
正直、このイヤな緊張感の中で作成するのは気が重いが仕方ない。
俺はダイバーギアをパーツ成型機に繋ぎ、<オリジナルパーツ作成>の項目を選択。
既存のガンプラのパーツ欄から目当てのパーツに近いものを選択し、その上で細かい部分を調整していく。
ブレイジングエクシアのパーツ作成の経験もあり、パーツのデザイングは滞りなく進んだ。
今回、俺が作りたいのは新しいゼロクアンタの主武装である剣と銃に、着脱可能なオプションブースター。そして本体の背面パーツだ。
この間のヴァルガで稼いだ分の残りと今日の稼ぎを消費し、データを入力。
程なくして出来上がったほんのり温かみの残った白いランナーを手に取り、イメージとの齟齬がないか確認した上で、一旦仮組をしてみる。
まずは本体の要であるバックパック。
これはクアンタの背面にあった規格に調整した
結果、クアンタをベースにしつつ全身の00ライザーに近いシルエットになったが、ここで1つ予期せぬ問題が発生。
「肩アーマー、右肩用じゃアームに干渉するし、左肩のじゃ少し物足りないな……。【シアクアンタ】のデータをベースに追加で作るか」
仮り組み段階で気づけた問題に対応する為、俺は再びパーツ成型機を利用。
今度はオリジナルではなく、十数年前に世界で活躍した【2代目レディ・カワグチ】こと【キジマ・シア】が使っていた【シアクアンタ】のデータから肩アームを選択しパーツを成形した。
おかげで蓄えたポイントはほぼスカンピン状態だが、おかげで肩アーマーと翼部ユニットのバランスがイメージ通りになった。
次いで腕部に関してだが、苦労して作ったので名残惜しさを抱きつつもオリジナルで作ったGNガントレットをオミットし、通常のクアンタのものに戻した。
これはオーライザーの両翼ユニットで両面にGNフィールドを発生させる事が可能になったという点もあるが、腕周りのギミックを減らすことで軽くしたい意図もあった。
何かを足した分は引く。
所謂一つの“引き算カスタマイズ”というやつだ。
何事も、足せば良いというものではない。
以上の工程で上半身の改修を完了し、続いて下半身のカスタムに移るが、こちらは基本的に既に用意したパーツによるお手軽ミキシング。
両脚をクアンタのものからセブンソード/Gの入れ替え、サイドとリアのスカートも00ガンダムにして終了。元々が同系統の機体なので調整なしでも違和感はない。
それは言い換えるとこの改修そのものに性能を向上させる部分は全くないという事でもある訳だが、俺の目当ては“拡張性の向上”にある。
セブンソードの膝のアーマーには【GNカタール】を懸架する為のハードポイントが存在する。
俺は背面のジョイントとそこにカタールと形状を近くしたオリジナルパーツ【スラスター搭載GNコンデンサー】を搭載した。
これは機動力の向上より、粒子量の節約に主眼を置いた追加装備だ。
戦闘エリアまでの移動や射撃戦時はこちらの方から粒子を供給し、使い切った場合や格闘戦に移る際などは
一見地味なオプションパーツだがトランザムシステムと併用する事で汎用性が増す。
戦闘序盤にトランザムを用いた急接近で奇襲や大型砲撃をぶち込んだ後の近接戦。
ビルディングに於いては往々にして軽視されがちだが、エネルギー量が豊富にあれば、少し手持ち火器を変えるだけで戦術の幅がぐっと広がるのだ。
「フフ、名前はそうだな【ゼロクアンタライザー】ってとこかな? 俺の、俺による、俺の為のクアンタ。――なかなかカッコイイじゃねえか……!」
武装を残してひとまず組み上がったゼロクアンタの(一応の)完成形を改めて見つめ、俺はしばし、悦に浸る。
自分のガンプラをカッコイイと思う。
当たり前の話ではあるが、それはとてもとても大事だ。
何故ならガンプラは設定こそ人型兵器に違いないが、その本質はあくまで
カッコよくない玩具で遊んでは楽しめない。楽しめなければ、全力は出せない。
故に、ガンプラにとってカッコよさもまた性能の1つなのだ。
「後は装備だけ……と、その前にパーツの塗装だったな」
俺は仮り組みしたゼロクアンタのオリジナルパーツを外し、エアブラシで塗装処理を行う。
そして乾くのを待つ間、最後に残ったオリジナル武装の作成に移った。
とはいっても、コイツの武装は至ってシンプルに2つだけなのだが。
1つは第1形態で試験的に搭載し、連射性と本体強度に課題があったGNドッズライフルの改良型である【GNドッズライフルⅡ】。
形状を通常のドッズライフルに寄せつつ、GNコンデンサーを正式に搭載したことで連射性を改善し、左手で運用する事を想定しサイドグリップまわりを改修(原型機は左手で使用時サイドグリップを展開できない為)。
更に最大の問題点であったトランザム使用時の自壊対策として、銃身内部に真鍮線=金属パーツを仕込む事で補強。
これはガンプラバトル黎明期に活躍し、世界チャンピオンの座に輝いた事もある伝説的なビルダー【イオリ・セイ】の愛機【ビルドストライクガンダム】にも導入された事もある技術だ。……なかなか神経を使う作業なのが難点だが。
目標の耐久値を確保できているかは実際に試してみないと分からない所ではあるが、やはり低燃費高威力が見込めるドッズライフルはどうしても装備に欲しい。
何より、もしゼロクアンタライザーが俺の想定通りの性能を発揮できたなら、巧くすれば必殺技に相当する切札を手に入れられる可能性もあるのだ。
ライフルの作成及び塗装をすれば最後は近接用の剣の制作だ。
俺はここに来て、第1形態や
刀身は【GNソードⅤ】などと同じクリアグリーンの素材を日本刀風にし、一方で柄の部分は軍刀をイメージしたナックルガードのある形状を作成。
歴代のGNソードと比較するとビーム発射機構がなく、日本刀の特性として正面以外の衝撃には脆いという難点はある反面、軽量で取り回しの良い【GNセイバー】が完成。
塗装が乾いた本体パーツを再度組み上げた後、ライフルを左手に握らせ、刀を左腰のサイドスカートに懸架させた事で、ゼロクアンタライザーは一応の完成を果たした。
「くう~、武器を持つと改めてカッコイイなお前!!」
まだスミ入れなどの細かい作業は残したままだが、頭の中で思い描いた機体が現実になった事で、俺の心に高揚感が満ちた。
ここが店内の工作スペースであるという事を忘れ、俺はゼロクアンタにポーズを付けたり『バシューン! バシューン!』などと口でビーム発射擬音を表現したりなど結構イタい事をしてしまった。
「完成したんですね」
「おっわビックリしたあああっ!」
そんな俺を現実に戻してくれたのは、いつの間にか背後に立っていたニシカワさんの一言だった。
いかん。ただでさえロリコンの変態と誤解されているのに、この上でいい歳こいてガンプラを手に『ウィーン、ガシャン!』とか口ずさんでいる醜態を観られたとあってはいよいよ頭おかしい人認定されてしまう!
などと警戒する俺であったが、意外や意外、ニシカワさんの視線にはそういった嫌悪感などはみられない。というかそもそもに彼女の意識は俺ではなく俺が作り上げたゼロクアンタライザーに向けられていた。
「シングルドライブにしたクアンタにオーライザーの翼……機体のフォルム自体は凄くまとまっていると思いますけど、随分出力やギミックを抑えたカスタマイズですね? 完成度の要素を抜きにした単純な性能は通常のクアンタより低くなっているようにすら見えます」
しばし観察した後、ニシカワさんは俺のゼロクアンタライザーに対し、実に忌憚のない。それでいて的確な考察を述べてくれた。
少し観察しただけでここまで性能を推察できるなんて、どうやら彼女はやはり相当に腕の立つビルダーのようだ。
「そうですね。確かにこいつはツインドライブとソードビットっていう最大の特徴を引き抜いた上にこれと言って特徴もない装備を付けた。言ってみたらクアンタのデチューン機なのは間違いありません。さしずめ、量産型クアンタって所ですかね? そこは俺自身も認めるところです」
当たり前の話だが、カスタマイズの目的とは“機体の強化”にある。
ベース機になった機体に新たな装備やシステムを組み込み、攻撃力や機動性の増強を図ったり戦術の幅を広げる。
リク少年のダブルオースカイなどはまさにその模範解答と言えるだろう。
対してこのゼロクアンタは文字通り00クアンタから
「ハハ、アホな駄改造に見えますかねやっぱり?」
自嘲気味に笑って俺が尋ねると、ニシカワさんは依然その視線をゼロクアンタに固定し、首を横に振った。
「――いえ、確かに一見ドッズライフル位しか強みを感じさせない機体に見えますけど、その分、機体重量の軽さと燃費は恐ろしく良い……。このガンプラ、もしかすると“トランザムの運用に主眼を置いた機体”なんじゃないですか?」
「――っ!!」
キラーン、とメガネを輝かせながら確信を持って俺に尋ねるニシカワさん。
本当に鋭いなこの人、俺の戦闘を直接見た訳でもないだろうに、ガンプラを少し観察しただけで見抜くなんて上位ランカーでもそういない。
こういう観察眼に秀でたタイプって敵に回すと厄介なんだよな……。
特に俺みたいなセンスじゃなく策や小技を要するタイプだと余計に。
そういう意味でもどうやらニシカワさんは俺にとって天敵らしい。
とはいえ、基本的に俺の事をクズと認識しているニシカワさんにガンプラの出来を評価されるのは正直嬉しい。
「それにしても、この機体セッティング……アカギさん、あなたもしかして――【トランザムマイスター】の異名を持つレッド様のファンだったりしますか?」
「………………はい?」
とか思っていたら、思わぬ人の口から思わぬ異名が出て来て、俺は一瞬、思考停止状態に陥った。
えっ、ちょっと待って?
なんでこの人、俺が高校時代使ってたイタいファイターネーム知ってるの??
なんでレッド“様”とか敬称をつけてるの???
なんかもう、またロクでもない展開になる予感しかしないんですけど!?
【ゼロクアンタライザーの機体像について】
ゼロクアンタライザーは作者が実際に制作したガンプラをベースにしています。
本当は写真をアップ出来たら良いのですがやり方が分からないので、文章で紹介します。
分かりづらかったらごめんなさい(汗)
頭部・胸部・フロントスカート・腕部:ダブルオークアンタ。
バックパック・肩のアーム:ダブルオーダイバーの物を流用。太陽炉を着けず、オーライザーの翼の一部を削り、直接肩アームに接続(サブマシンガンと00ダイバーのアームが絶妙にマッチします)。
肩アーマー:シアクアンタの物を流用。
脚部・サイト&リアスカート:セブンソード/Gの物を流用。
脚部のスラスター付き外付けコンデンサー:GNカタールの刃パーツを外し改造。
背部スラスター:ダブルオーダイバーエースの大型バックパックの中心にダブルオーライザー(GNコンデンサー型)の大型粒子タンクユニットを接続し作成。
GNドッズライフルⅡとGNセイバーは作中で語った通りの形状です。
ゼロクアンタライザーの詳細設定に関しては次回以降!