ガンダムビルドダイバーズ REBOOT 作:キラメイオレンジ
予てから考えていた事だが、寒さも極まる2月の体育というのは、最早児童虐待案件ではないだろうか?
常時人がいる訳でもないのでエアコンもついておらず、ひたすら肌寒い更衣室で制服のボタンを外す私ことニシカワカスミは、そんな問題定義を脳内で訴えている中、ふと自分に向けられた視線に気づき振り返った。
視線の正体は無論、のぞき見していた男子とか盗撮カメラなんかではない。
ジーっと下着姿の私に熱視線を送るのは、今朝『これからは知的クールを目指すの!』とかクソダサメガネをかけてトンチキな事を言っていた幼馴染のアサヒ・ユウナだ。
「……何、どったの?」
いつもは体育となれば人一倍張り切り、ちゃっちゃと着替えて校庭に1番ノリする元気娘に対し、私は少々わざとらしく不審な目を向けて尋ねると、彼女はアタフタして謝った。
「あっ、ゴメンねじろじろ見たりして! ――ただ、その……カスミちゃんの下着、可愛くてオシャレだなって思って……」
と、恥ずかしそうに答えるユウナの姿に、ソッチの気などまるでない筈の私は一瞬キュンとしてしまった。何アレズルい。
「ええっ、別に普通でしょこんなの……って、まあアンタと比べりゃそりゃね」
否定しかけたところでユウナの下着(所謂1つのお子様下着。シンプルでお安い奴)を見て言わんとしている事、その根底にある気持ちに察しがつき、ニヤっと悪い笑みで尋ねた。
「えぇ~ちょっと何々ユウナさん? もしかするともしかして、下着姿を見せたい男でも出来た~? や~ら~し~♪」
要するにこの娘、色気づいていやがるのだ。
「ち、ちち違うよ全然! わ、わたしはただ、大人な女の子を目指すならいい加減ちゃんとしたのと着けなきゃいけないからって思っただけだから! 自分から見せたいとかエッチなこと、全然思ってないから!」
顔を真っ赤にして全力否定するユウナだが、そもそも言い訳の知的クールとやらを目指す理由からして男絡みなのだから大差ない。
後、何気に“自分から”見せたいとは思っていないという事を、潜在的にラッキースケベ的なアクシデントとか、或いは『相手に無理やり脱がされる形でなら見てもらいたい』的な願望がある証左では? ……というのは流石に邪推かな?
とにかく、この天然幼馴染が急速に乙女になりつつあるのはやはり確かなようだ。
「まあ、確かにユウナもそろそろちゃんとしたやつ買うべきよねぇ……サイズ的にも」
私は恐らく近場の量販店でテキトーに買った3枚セット千円位のお子様下着に包まれたユウナの胸を凝視。
去年の秋位から密かに思っていたが、この子の胸は最近急成長しつつある。今はC以上D未満といった所か?
制服越しだと目立たないが、こうして下着や水着になってみると、(私にはない)確かな膨らみが確認できる。少なくとも平均的な中学一年生女子よりは、ある。
所謂1つのトランジストグラマーという奴だろうか? まあ、この子の場合、お母さんからしてナイスバディだし、今ぐらいからその片鱗があってもおかしくない。
――正直、羨ましい。私の母はペッタンコで姉も空気抵抗が少ないフォルムなので未来がない。ちくしょう。
後、これは私なりの考察というか推察なのだが、男性にとっては服越しからでもひと目でデカいと分かる巨乳爆乳より、こういう『脱がせてみたら結構あった』とかの方がグッとくるもんじゃないかと考えられる。
少なくとも外見上はパットを駆使して盛りに盛り、いざ脱がせてみたら『アレ? なんか……薄くない?』となる
「欲しいんだったら今度一緒に買いに行ってもいいけど、ぶっちゃけいいやつはお値段も結構するよ? アンタ確か、今月は
「あう……。確かに……」
全ての中学生が頭を悩ます金銭問題を前に芽生え始めた乙女心を封じなければならないユウナ。――まあ、ぶっちゃけこの子の場合、下着を欲しがっているという事実をブルジョワな親友ミナトに伝えれば、あのユウナ狂いのガチレズお嬢様は一着ウン万円の下着を何千枚とプレゼントするだろう。
だがそこで私はふといたずら心が疼き、落ち込んだ幼馴染に1つの案を出した。
「そうだユウナ、アンタ来月誕生日でしょ? 折角だから誕生日プレゼントって名目で例のししょーさんに買ってっておねだりしてみたら? 柄や形は本人にお任せで」
「し、ししししょーに選んでもらうの!!?」
「うん、ユウナは懐を気にせずに憧れの大人下着を買える上に最終的に見せたい相手の好みも把握できる。ししょーさんは大人な経済力をアピールしつつ『俺が買ってやった下着を着けてるって事はその中身も俺のモノってことだよな? グヘヘ』って興奮できる。これってまさしくWIN・WINな関係じゃない」
「わ、私のししょーはそんな変態さんじゃないもん!! ……な、中身が俺のモノとかそんな……」
顔を真っ赤にして私の提案を否定しつつも、そのシチュエーションを想像してモジモジするユウナ。様子から察するに、満更でもない様子。
どうやら私の幼馴染は恋愛絡みに関しては若干Mっ
羞恥心と無自覚に秘めた願望の間で身悶える幼馴染(下着姿)を眺めるのは、なかなかに楽しいと思う私は、恐らく
・・・・・
「ししょーにあいたい…………」
時は流れて水曜日の昼休み、机に突っ伏してそう訴えるのユウナの姿を、私は給食のデザートであるみかんの皮を剥きながら眺めていた。
「まだ試験終了までまるまる1週間もあるのにもう根をあげたの? 知的クールはどうした知的クールは」
「だってぇえええええ~~~~!」
私が呆れた口調でそう答えると、ユウナは目に涙を溜めた顔を上げた。泣くほど!?
「ししょーってば、厳しいんだよ! 月曜日に『会いに行くのはガマンしますからいっぱいメッセージ送りますね♡』ってLINEで送ったら『メールは朝と晩の2回だけ!』って言うの! そのメッセージだって『明日は寒いから温かくして寝るんだぞ?』とか、『風邪とかひかないようにな』とかそっけないものばっかりだし! でも心配してくれて凄く嬉しい! いじわるでも優しいししょー大好き!」
「せめて怒るんだか惚気るんだかどっちかにしなよ。――そもそも言い分は全面的にししょーさんが正しいんだし」
試験期間中は勉強に集中してゲームをしない。現実でも会わない。
ユナが夢中のししょーさんが出したその条件を聞いた時、私が率直に思った感想は『やっぱりお姉ちゃん勘違いしてるよ』というものだった。
何故なら、もしも件のししょーさんがカオリ姉が言う様に『
人間、好きな人や手籠めにしたい相手に対して優しくするのは誰でもするが、厳しくはそうそうできない。
ししょーさんがいい歳こいて中学生に欲情する変態かどうかはさておくとして、少なくともユウナの事を大切に思っているのは確かだろう。
――――私にどれだけ口汚く反抗されても一貫して門限だの清い交際だのを説くあのハゲ親父と同じで。
そもそも、このアサヒ・ユウナという子は何でも感覚で動くド天然で、割とアホな子ではあるが、人を見る目は確かだ。
この娘がここまで信頼(心酔)するという事は、少なくとも悪い人ではないのは確かな筈だ。
……性癖はさておき。
「うぅ……頭ではわかってるんだよ? ししょーの言ってることは正しくて、今は勉強がんばらなきゃって。でもね? 会えないって思うと余計にししょーのことばっかり考えちゃうの。ししょーに会いたい。お話したい。一緒にご飯食べたりガンダム観たりしたい。GBNで一緒に遊びたい。腕に抱き着いてすりすりしたい。胸に飛び込んで匂い嗅ぎたいって」
「ちょっと待った。後半ちょっとおかしくない?」
「おかしくないよぉ~フツーだよぉ~」
思った以上に過激なスキンシップをしている幼馴染の無自覚大胆発言を受け、私はカウンター攻撃を受けた様な衝撃を受ける。
一昨日、下着関係でからかった時は羞恥心で顔を真っ赤にしてた癖に、この天然娘、結構エロいアプローチを自然にしている。
思考は初恋にも気付かない
・・・・・
「こんにちはー、これウチの母からのお裾分けでーす!」
時は更にちょっと流れて金曜日の夕方。
私は母方の祖母が送ってくれたリンゴのお裾分けを届けに、歩いて3分程の場所にあるユウナの実家“喫茶 暁”を尋ねた。
「アラ嬉しい♪ ありがとうねカスミちゃん、寒かったでしょう? ホットココア出すからちょっと待っててね?」
「わあっ、アキナさんのホットココア大好き! ありがとうございます」
届け物のリンゴを熊みたいな外見のユナパパに預けた私はアキナさんに促されてカウンターに腰かけ、ホットココアをごちそうになる。
いつもニコニコ笑顔で幸せそうに接客する美貌は、相変わらず自分と同い年の娘がいるとは思えないほど若々しい。……まぁ、実際若いんだけど。
「ふぃー、……ユウナの様子、どうですか? 今日も全然授業に集中できてなかったっぽいですけど」
ココアで暖をとってひと息つき、私は2階の自室で勉強しているであろう幼馴染の様子を尋ねた。
水曜以降、あの子の『ししょー
昨日など、学校にししょーさんと一緒に作ったという
完っ全にヤベー奴である。
「やっぱりそうなの? ウチでも同じ様な感じなのよねぇ。今朝も朝食のトースト4枚しか食べなかったし、夜もダイチさんの事ばっかり頭に浮かんで中々寝付けないみたいなの。心配だわ」
「えっと、睡眠不足はともかく、食欲に関しては十分では?」
確かにあの子はアホみたいによく食べるけど……。
「私も大体の事情は分かってますけど、結構ヤバくないですか? このままじゃ週明けのテスト散々な結果になりますよ?」
勉強に集中する様にと言って距離を置いたししょーさんが原因で全教科赤点とか、目も当てられない結果だ。親としても、見過ごせない事態だろう。
少なくともウチのハゲ……いや、父さんだったらブチ切れ間違いなしだろう。
「本当にそうよ。全く――――それもこれも全部、ダイチさんの所為だわ!」
表情をニッコリ笑顔で、しかしその内側で“ゴゴゴゴゴゴ……”とか擬音が聞こえそうなプレッシャーを放つアキナさん。あっ、これ割とマジで怒ってる奴だわ。
「えっ、そっち!? ダイチさんてししょーさんですよね? 別に悪いことしてなくないですか??」
「いいえ、全部あのデカい体の癖に小心者な堅物男が悪いわ! 人の娘を散々誑かした上で10日も放置プレイとか、とんだサディストね!」
「すみません。ちょっと何言ってるか分かりません」
ご近所なのに文化圏が違い過ぎる!
「…………(フルフル)」
「えっ、『ダイチ君は何も悪くないよ。問題なのは集中できないユウナの方だ』ですって? 酷いわあなた! 実の娘より義理の息子の肩を持つの!?」
妻の某論を見かねた熊パパ……失礼、ユナパパは例によって口を閉じたまま身振り手振りで反論する。
付き合いの長いウチの両親や姉さんはこの“ユナパパ語”が理解できるらしいが、私にはまだ無理だ。
ていうかアキナさん? 今しれっとししょーさんのことを義理の息子って断定してましたよね。何? もうししょーさんの人生って詰んだ感じなの??
「ゴウさんがそんなに女心に理解がないなんて思わなかったわ! あの年頃の子はね、出来るなら好きな人とは四六時中だって一緒に居たいものなのよ! それをテストの成績がどうとか些末事を理由に袖にするなんて! 男なら『学校の成績? んなもん気にするなよ! どうせ3年後は俺の所に永久就職内定なんだからよ!』とか言って責任取るのが男の甲斐性ってものでしょ!?」
「アキナさんアキナさん、それ“男の甲斐性”じゃなくて“鬼畜の所業”って言うと思いますよ? この国では」
お客さんがいないとはいえまだ営業時間中の店内でとんでもない事を口にする友達の母に、私は一応持ち合わせている常識と良識を武器に反論する。
おかしい。
私の中にあった『美人で優しいお姉さん』だったアキナさん像が、物凄い勢いで崩壊していく。
「…………(ブンブン、フルフル)」
「えっ、『何でも自分の経験と価値観で物事を決めるのはキミの悪い癖だよ。ユウナとダイチくんは僕らとは違う』ですって? そんな事わかってます! けどやっぱり自分の娘には幸せになって欲しいじゃないですか! だったら世界一素敵な旦那様に世界一幸せにしてもらった私と、同じ道を進んで欲しいって思うじゃないですか!」
「……!(がばっ!)」
「あなたっ!」
アレ? なんか娘の教育方針で喧嘩してたユナパパとアキナさん、急に惚気話をした上に娘の友達の前で抱き合い始めたよ? 何この超展開? 私は一体、何を見せられているの??
「…………(ボソボソ)」
「ええ、私だって分かっているのよ? 幸せは親や誰かが押し付けるものじゃなくて自分で見つけるものだって……。でも、今のユナってばあんまり昔の私にそっくりだからつい……。ええ、私こそひどいこと言ってごめんなさい。愛してるわゴウさん♡」
うわー、遂には愛を囁きやっちゃったよこの美女と野獣(外見)夫婦。
良かったねーユウナ。なんか来年あたり、妹か弟が生まれそうな勢いだよー。
“カラン♪”
「こんにちはー。ユナ、頑張ってますか?」
完全に私の存在を忘れ盛り上がるアサヒ夫妻だったが、そんな2人の空気は来客を告げる鈴の音によって崩壊する。私達が一切に振り返ると、そこにはユナパパ程ではないが大柄な、何かモサっとした印象の男の人が立っていた。
「ダイチさん!」
「えっ、これが噂のダイチししょー!? えっ、嘘!? どこがカッコイイって言ったのあの子!!? ただデカいだけじゃん!」
「初対面でいきなり酷いこと言うねキミ! 否定できないけど!!」
いけない。仮にも目上の人に対しいきなり失礼極まりない暴言を吐いてしまった。
しかしそれも無理からぬ事だ。
だってこの人、全っ然カッコよくないんだもん!!
背は高いけどスラリとした感じじゃなくてムキっとした感じで厳ついし、その癖顔つきはちょっと頼りないというか、人は良さそうだけど小心者っぽいし、そこはかとなく幸薄そう。
ついでに私服の趣味も歳の割にちょっとおっさん臭い。
一体あの視力2.0娘は、この冴えないお兄さんのどこにあそこまで入れ込んでるの!?
「あの、これ差し入れのつもりで持ってきたんですけど、良かったら皆さんで食べて……ってアキナさん?」
そんなクソダサお兄さん改めししょーさんはこの間TVで特集していた隣町のお高いスイーツ店のロゴが入った紙袋を置くが、にっこり笑顔で“ゴゴゴゴゴ……!”をするアキナさんの気配に気づき、たじろいだ。
怖い。笑顔が怖い!
「ウチの娘をあんな状態にして、よくもぬけぬけと顔を出せましたねダイチさん? 落とし前、つけてもらいますよ♪」
「なんでっ!?」
手土産を持って顔を出したらいきなり笑顔で脅迫されるししょーさん。
ユウナ~、アンタの大事なししょーさん、理不尽に大ピンチだぞ~。
【おまけ】
その頃、ユウナは――
「う~ん……ムニャムニャ……エヘヘ、ししょ~♡ トランザムにはまだはやいですよぉ♡」
連日の寝不足がたたり、勉強中に居眠り中。