ガンダムビルドダイバーズ REBOOT   作:キラメイオレンジ

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第27話 英雄の苦悩

ヴァルガに置いて改修したゼロクアンタの試験運用をしていた俺は、思いがけないゴタゴタに巻き込まれた後、更に思いがけない超有名人――№1ダイバーのクジョウ・キョウヤと対面を果たした。

 

そして俺とクジョウさん、そして彼のフォースに所属する白ウィングガンダムのダイバーミズキさんの3人は、お互いの共通の知人であり、込み入った話をする際にも都合がいいという事で、セントラルエリアの一角にひっそりと居を構える【BAR アダムの林檎】を訪れていた。

 

余談だが、俺が誘った際に言っていた『今日の用事』というのは最近、有志連合加盟フォースの若手が独断で集い、悪質ダイバー摘発をお題目に目に余る活動をしているという噂の調査だったらしい。

 

つくづく俺は、厄介事に縁があるようだ。

 

「私のフォースのメンバーがご迷惑をかけてしまった。本当に申し訳ない」

 

「あっ、いえ、そんな……頭をあげてください!」

 

そして俺は今現在、この世界で最も有名なダイバーに頭を下げられていた。

 

しかし恐るべきは最強フォースのチャンプ。

 

謝る所作にも美しさというか、オーラの様なものがあり、誠意を伝えながらもカリスマ性がひしひしと伝わってくる。

 

ロリコング疑惑を懸けられて『違うんです!』とまわりに必死に主張する無様な俺とは月とスッポンの違いだ。正直、恐縮してしまう。

 

「まあまあ、キョウヤちゃんも一旦落ち着いて。ダイくんはデカい見た目で根は小心者だから、いきなり貴方みたいな大物さんが頭を下げられたら困っちゃうわよ」

 

と、バーカウンターから酒を出しながらフォローを入れるマギーさん。

 

いや、全くもってその通りではあるし助かるのだけど、小心者は余計なんだよなぁ。

実際そうだから仕方ないけどさ。

 

「さっ、とりあえずは飲んで飲んで、今日は私のお・ご・り♡ ダイくんにはまたまたゴタゴタに巻き込んじゃったからねー。あっ、ミズキちゃんはミルクでいいかしら?」

 

「あっ、はい。ありがとうございます」

 

しかし気まずい空気が漂う中にあって空気を柔らかくしてくれるコミュ力は流石としか言いようがないな。派手な見た目と対称的に細やかな気遣いに余念がない。

 

「そ、それじゃあお言葉に甘えて」

 

俺達3人はマギーさんと向かい合う形でカウンター席に腰を下ろし、差し出されたラム酒に口を付ける。

 

琥珀色の液体の中で球体にカットされた氷が浮かび、鼻を擽る芳醇な香り、飲んだ時に喉を伝う焼く様な感覚。味わいそのものは現実と差異は感じないが、アルコールを摂取した際特有の浮遊感というか、酩酊感を感じないのには違和感を覚える。

 

「何か、不思議な感じですね。味も香りもラム酒そのものなのに、なんだか味を似せたジュースを飲んでるみたいな……」

 

「流石のGBNも“酔い”を表現するのは難しいみたいなのよね。アルコールの耐性って人それぞれだし、ゲーム内じゃぶっちゃけステータス異常状態ですもの。……まあ、大人のダイバーの中にはこういう“酔えないお酒”に不満を感じてる人も多いんだけどね? ――ダイくんは現実(リアル)だと飲む方なの?」

 

「嗜む程度って感じですね。職場に酒好きの先輩が居て、偶に近場のバーとか居酒屋に飲みに行ったりはするんですけど、銘柄とか全然わからなくて、その先輩や店員任せって感じで適当に。そんなに強くないんで酒より水の方をよく飲むタイプですね」

 

正直、飲み会の空気とか飲酒後のふわっとした浮遊感みたいなのは好きではあるが、仕事柄車やバイクを動かすことも多いし休日前以外はがっつり飲まないから本当に偶にだ。

 

ついでに最近はガンプラの制作やらユナと一緒に夕飯を摂る機会が多いので一層飲む機会がない。――まあ、別に飲まない日が続いても不満はないのだが。

 

「あらそうなの。だったら今度、リアルで私が経営してるお店にも遊びにいらっしゃいな! いっぱいサービスしちゃうわよ♡」

 

「そ、そうデスネ。機会があれば、その内……」

 

マギーさんが経営してる店ってやっぱりアッチ系だよな?

 

普段お世話になってるし、顔を出すのはやぶさかじゃないが……ちょっと心の準備をする時間が欲しい気はする。

 

閑話休題(それはさておき)

 

しばし無言のまま、苦い顔でグラスに口を付けていたクジョウさん(雰囲気が映画の1シーンかってくらいサマになってる)は、そうした俺とマギーさんの会話を聞きフッ、少しだけ表情を和らげた。

 

「あなたのことはマギーさんから聞いていましたよダイチさん。GPD経験者でアキラくんの先輩だってね。こんな形で出会ってしまったのは残念だが――改めて、クジョウ・キョウヤです。よろしく」

 

「あっ、こ、こちらこそです! そ、それと出来ればさん付けは勘弁してくれるとありがたいです。……立場的にもですけど、多分、自分の方が年下だと思うんで……」

 

俺はクジョウさんが差し出した右手を握り、握手を交わす。

 

先程からいちいち所作にカリスマ性が溢れていてこっちは圧倒されっぱなしである。

 

「そうかい? では、ダイチくんで。――――改めて、今日はウチのメンバーが迷惑をかけてしまった。フォースを代表して改めて謝らせてほしい。すまなかった」

 

「あっ、いや、俺の方こそ大人げなかったですし! ていうかそもそも先に喧嘩吹っ掛けたのは俺の方ですから! しかも結局あのビルゴ3兄弟逃がしちゃったんだから寧ろ俺の方こそスンマセンでしたって感じで……」

 

うん。改めて言葉にしてみると今回の一件って大半が俺の責任だよな実際。

 

目に余る暴挙を働いていたとはいえ、年下相手に喧嘩を吹っ掛けた挙句に叩きのめして上から目線で説教とか、お前は何様だという話だ。

 

もっと他にスマートな解決法もあったろう。

 

何より、結果としてお尋ね者の逃亡を幇助してしまったのは心苦しい。

 

――ホント、今日ここにユナが居なくて心から良かったと思う。

 

こんな醜態にみられたらきっと幻滅されただろう。

今日の事は絶対に秘密にしなければ。

 

それはそれとして――

 

「……あの白いデュエルのダイバー、タクトくん、でしたっけ? 彼は今?」

 

「……今はアヴァロンのフォースネストで事情聴取を行っている。我々としては、しばし謹慎という処分を下すつもりだが……やはりそれでは気が済まないかな?」

 

「いやっ、寧ろその逆というかなんというか……あんまり、彼の事をキツく責めないでやってくれませんか? 俺の方はホント、全然気にしてませんから」

 

「っ!」

「あらま」

「ちょっ、アカギさん!? どうしてですか!!?」

 

俺の赦免嘆願が意外だったのか、クジョウさんは無言で驚いた顔をし、マギーさんは小首をかしげ、何故かミズキさんが1番ムキになって詰め寄ってきた。

 

「ちょっ、ミズキさん近い近い顔近い!」

 

お互いの顔が数㎝という距離まで近づくミズキさんを宥めつつ、ついその顔立ちに目が行ってしまう。

 

どこか子供っぽいユナと違い、大人びた雰囲気の子だと思ったがこういうところはやはりまだ十代だな。可愛らしいとも思うが。

 

「あっ、す、すみませんでした! けど、どうしてそんな、あんなに罵倒されたのに……」

 

「……まあ、確かに本音を言えばイラっとはしたし、いくら相手が違反者でもああいう人の尊厳を踏みにじる言い草は良くないとは思うよ?」

 

「だったら……」

 

「けどさ、だからって俺は彼に厳しい罰を与えて欲しいとは思わないし、ましてそれをクジョウさんに要求なんてできないよ。だってそれをしたら、それこそビルゴ3兄弟(アイツら)に向かって『GBN辞めろ』って言った彼と何も変わらないだろ?」

 

「それは……」

 

俺の意見を聞き、理屈は分かっていても心は納得できていないという顔をする。

 

真面目な子だ。だからこそ、フォースの先輩であるタクトくんの言い分に逆らえなかったのだろう。

 

「君みたいな若い子に面と向かって言う事じゃないかもしれないけどさ、十代の若者なんて暴走して当たり前なんだよ。何が正しくて何が悪いか、色々はき違えて間違えて、たくさん失敗したり恥かいたりしながら、自分と世界を知っていくんだ。――俺だって昔は、彼とそんな大差なかったさ」

 

流石にあんな悪辣な態度はとっていなかったとは思うが、俺もGPDに熱中して都内ではそれなりに名の知れたファイターとなった高校時代は、自分が“特別な才能を持った主人公”だと勘違いしていた時期があった。

 

自分の力量に自信を持ち、秘めた才能を過信していた。

 

人に対して誠実でありたいと思いながら、善良に振舞う自分に酔ってもいた。

 

なれば同じ道を通った先人として、多少慮ってやるのが人情だろう。

 

「君は(やさ)しい男なんだなダイチくん。マギーさんが気に入るのもわかるよ」

 

「……付き合いの長い後輩からは『便利でチョロくて都合の良い』って思われてますけどね」

 

「ハハッ、きっとそれは君を信頼して甘えてるという事なんじゃないかな?」

 

俺が某アホ後輩の話をしたら、クジョウさんはここに来て初めて朗らかに笑ってくれた。

 

それまでのデキる大人という雰囲気から一転して、どこか少年の様な無邪気な笑顔。

 

多分、きっとこの表情こそがクジョウさんの素なのだろう。

 

 

・・・・・

 

 

その後、少し打ち解けることが出来た俺とクジョウさんは酒を酌み交わしながらお互いの事を肴にし語り合った。

 

お互いの特に好きなガンダム作品について、現実における仕事の愚痴(どうやらクジョウさんも社会人らしい)、学生時代の思い出に、GBNをはじめた頃の失敗談。

 

 

「――元々、有志連合はたった1度の戦いの為に結成されたものだったんだ」

 

 

そして、話題は自然と有志連合の“現在の在りよう”に移っていった。

 

既に氷だけになったグラスをカラン、と揺らしながらクジョウさんは訥々と語ってくれた。

 

有志連合――そう呼ばれる上位フォースによる合同組織が結成されたのは、今からおよそ3年前、当時GBN内で問題視された不正(チート)ツールを使用する【マスダイバー】問題に端を発したらしい。

 

使用するとガンプラの性能を著しく向上させる一方、GBNのシステムそのものに深刻なバグを齎すそのシステムは実力に伸び悩む中層プレイヤーたちを中心に毒の様に仮想世界を蝕んでいた。

 

無論、運営も見過ごすはずがなく対策を講じようと動いたが、性質(タチ)の悪い事にブレイクデカールにはログなどのデータ上の証拠が一切残らない措置が施されており、システムを普及していた主犯のしっぽがなかなか掴めなかったらしい。

 

日々その数を増やしていくマスダイバーに対する恐怖。

打開策を見いだせない運営への不満。

 

俄かにGBN内の空気が淀んでいた頃、立ち上がったのがクジョウさんだった。

 

元々GBNのβテスターであり、GM(ゲームマスター)とも連絡手段があった彼は運営と交渉し、信頼のおけるダイバーを中心に構成された大規模戦力を以て、ブレイクデカールを配布する主犯が潜伏していた宇宙エリアへの突撃を敢行、結果主犯の捕縛には至らなかったものの、事件は解決。GBN崩壊という最悪の結末は避けられたという英雄譚だ。

 

その後、有志連合は即座に解体され、平穏を取り戻したGBN内で静かに、その存在が忘れ去れる筈だった。

 

しかし、それから程なくして、そんなマスダイバー事件を遥かに超える大事件が発生した。

 

そう、世界初の電子生命体【ELダイバー】の誕生と、それに伴うバグの発生。

 

【サラ】と呼ばれる最初のELダイバーの存在がバグを発生させると判断した運営は、彼女を排除すべきバグと認定し、偏りのある情報をGBN内に広め、大衆の支持を得た。

 

その際、『GBN崩壊というリスクを承知でサラを助けたい』と主張した【ビルドダイバーズ】及びそのアライアンスを実力を以て排除する為に行われたのが今でも語り草となった【第二次有志連合戦】と呼ばれるものだった。

 

「当時、我々には――いや、私には他に選択肢がなかった。僅か12%の成功率に懸けたいというリク君たちの想いに寄り添いたい気持ちがあったが、その為に他の2千万人のダイバーにとっての“世界”を危険に晒すことを看過することも出来なかった。……だから、“僅かな可能性に賭けらるもう1人の私”であるリク君に未来を託した。――我ながら、なんとも情けない話さ」

 

「クジョウさん……」

 

自嘲的な笑みを浮かべながら、自らの不甲斐なさを口にするクジョウさんに対し、俺は何も応えられなかった。

 

一体、彼を知る数千万人のダイバーの中で、その孤独と苦悩を知る人間、寄り添えた人間がどれほどいるのだろう?

 

「その後の結果は、語るまでもないね。リク君たちは見事に自分の望む選択を勝ち取り、その上で“サラ君”と“世界”、その2つを救った。――いや、サラ君だけじゃない。その後続々と誕生した多くのELダイバーたちの未来も、か。まったく、凄い子たちだよ……」

 

ELダイバーがGBN内の齎す悪影響を解決した結果、現在ではGBN内に実に100名を超すELダイバーが確認され、今もその数を増やしている。

 

電子世界で生まれた新たな生命が齎す可能性、それはガンプラにもゲームにも興味を持たない人間も注目し、GBNは真の意味で『もう1つの世界』と認知されるようになった。

 

しかし、そうした大きな発展があれば必然、それに関わる人間が果たすべき仕事も増えてくる。

 

ELダイバーとGBNの共存、それが成されたことで生じた新たな問題。

 

それは運営の深刻な人手不足だった。

 

「考えてみたら当然よねぇ? ただでさえ事件の影響でユーザーが激増したっていうのに、そこに加えて殆ど毎週の様に生まれてくるELダイバーの探索と保護に人員を割かなきゃならないんだもん。GMも『電子生命体の軍事利用』なんてふざけた事を考える政府やのお偉方相手に矢面に立つことも増えたって聞くし、そりゃあ他の違反行為や問題行為への監視も甘くなっちゃうわよ」

 

顔も知らぬ運営陣の苦労を察し、憐憫の言葉を投げるマギーさん。

 

そうなんだよなぁ。

結局人手不足って奴は仕事の内容を問わず1番の問題なのだ。分かる。

 

いくら現場が『手が足りないから人を増やして!』と嘆いても、人件費を可能な限り抑えたい管理職は中々首を縦には振ってくれない。

 

仕方がないので多少無理をしてカバーしているとその内その“無理”が“当たり前”に変節し『なんだ。今の人員でも回せるんじゃないか』などとふざけた事を抜かす。

 

現場の人間からの嘆願という都合の悪い言葉には耳を傾けず、必死の頑張りによる成果をさも自身の采配とうそぶくクソ上司、マジ滅べ。

 

俺も同じ会社員として運営スタッフには同情と感謝を禁じ得ない。

 

閑話休題(それはさておき)

 

要するにELダイバー関連にただでさえカツカツの人員を割かなくては行かなくなった運営は、苦肉の策として有志連合の中心人物という実績と信頼のある一部のSランクダイバーに、不正行動を行ったダイバーに対する逮捕権を与えた。

 

クジョウさんやマギーさん、……そして俄かには信じ難いが一応アキラもその資格を持つらしい。

 

そして、ダイバー同士という、原則として入っても間もないルーキーもチャンプも“対等・公平”とされる世界にあって、この様な『裁く権利を有する者と有さない者』の誕生は新たな歪みを生んでしまった。

 

その1つの結果が件のヴァイス・ユニオン、という訳だ。

 

あまりにも英雄的な、それこそまるで作られた物語の様な戦いの果てに守られた世界と生まれた生命(いのち)。若者ならば誰も憧れを抱いて然るべきものだ。

 

自分達もクジョウさんやリク少年の様になりたい。

 

そう思ってGBNを始めたダイバーも多いだろう。

そしてその動機自体、何も悪い事ではない。

 

しかしどれほど崇高な理念、高い志を持って始めたとしても、必ずしも正しい道を歩めるとは限らない。

 

特に人生経験に乏しい若者は、その情熱故に歩みを止めず、前だけをみて足跡を省みないものだ。

 

ほんの少し脇道にそれてしまい、それでも気にせず歩き続けた結果、理想とはかけ離れた存在になってしまう。

 

そんな悲劇は現実の歴史では勿論、ガンダム世界にも溢れている。

 

極端な例を挙げれば【Zガンダム】における【ティターンズ】、ガンダム00における【アロウズ】なんかが該当する。

 

「最近の若いダイバー……第2次有志連合戦(あの戦い)とその結末を知る者の中には、タクトの様に、有志連合やビルドダイバーズの存在を神聖視する者が多くてね。まるでミッションで遭遇した敵キャラクターを討伐する感覚で、嬉々として初心者狩りを攻撃する事例が後を絶たないんだ。彼らのどこか陶酔した様な表情を見る度に、私は自分のしてきた事が正しかったどうか、問い質さずにはいられなくなる」

 

そうして現状を憂い、その原点となった有志連合の発起人としての責任を感じるクジョウさん。――恐らく、彼は決して今の様な“英雄”として扱われることを望んだわけではなかったのだろう。

 

ただGBNを、かけがえのない仲間と好敵手達がいるこの世界を愛し、守りたいと思ったから、ただ大切な人達と、大切な時間を築いていく為に、戦う事を選んだ。それだけなのだ。

 

だが、世界は彼に英雄であり続ける事を望んだ。

 

そして皮肉、という言い方はどうかと思うが、クジョウさんにはそうした周りの願いに応えられるだけの実力と器があった。

 

『この人が居る限り、GBNは大丈夫だ』

『この人についていけば、自分達は何の憂いなく心穏やかに過ごせる』

 

まるで都合の良い神様じゃないか……。

1人のプレイヤーが背負っていい重圧じゃない。

 

「貴方は何でもしょい込み過ぎよキョウヤちゃん? もしあなたやロンちゃんが有志連合を結成しなかったら、私達はこうしてお酒を酌み交わせなかった。サラちゃんやメイちゃんたちとも、一緒に居られなかった。その事を、忘れないで」

 

そんなクジョウさんに対し、マギーさんは流石の人間力でフォローを入れる。

 

確かに彼女の言う通りだ。例え仮に、有志連合という存在が歪みの起点だったとしても、そもそも彼が動かなければGBNはとうの昔に消滅していた。

 

そうなれば俺がこうしてまたガンプラバトルの世界に戻ってくることもなかったかもしれないし、ユナと出会う事もなかった。

 

そう考えればクジョウさんは俺にとっても恩人なのだ。

 

「――難しいですよね。誰かに正しい道を示すって、俺も最近、つくづくそう思います」

 

「……ダイチくん?」

 

しばし聞き手に徹していた俺は、クジョウさんに向けそんな言葉を送った。

 

2千万にの頂点に君臨するチャンプと、巷でロリコングとか呼ばれつつある最底辺のFランクダイバー。

 

何もかもが正反対な俺とクジョウさんではあるが、1つだけ共感できるものがある。

 

「俺には弟子がいるんですよ。ユナっていう素直で明るくて、ファイターとしてとてつもない素質を持っている子が。どういうわけか俺みたいな半端者を凄く慕ってくれてて、俺もユナの秘めた才能を引き出す手助けをしたい。あの子がいつか、貴方みたいなトップレイヤーを乗り越える姿をみたいって思って師匠役を買って出たんですけ……正直、いつも不安と後悔は抱えてます。もっと上手く教えられたんじゃないかとか、突然泣かれた時はどうしたいいか分からなかったり……それこそ、もしこの子にはもっと相応しい指導者がいるんじゃないかって考える事もあります」

 

「ダイチ君……それは――」

 

「分かってます。そんなのはただ、自分の不甲斐なさに対する言い訳で、本当のところはユナの事を他の誰にも渡したくないって事も。例えどれだけ不甲斐なくても、この広いGBNの世界で俺の事を見つけてくれたあの娘を守り育てたい。信頼に応えたい。だから俺は、俺自身の弱さから逃げない。――クジョウさんみたいに」

 

「……っ!」

 

「けど、それでもお互いに愚痴りたい時はありますよね? そんな時はこうして酒飲みながら色々ぶちまけましょう! 俺は有志連合どころかフォースすら作れてないFランクダイバーですけど、だからこそ気兼ねなく色々愚痴れると思いますし、……力にはなってあげられませんけど、抱えてる苦しみを共感すること位は出来ますから。――よければ、俺と“飲み友達”になってくれませんか?」

 

我ながら、なんと厚顔無恥で図々しいのだと呆れてしまう。

 

GBN内に於いてはなんの実績もないどころか、JCを誑かして犯罪者予備軍と認識されるゴミカスダイバーである俺が、事もあろうに頂点に君臨するチャンプと友人になろうなどと。

 

クジョウさんのシンパが知れば、殺されかねない暴挙だ。

 

しかしそれでも、俺はこの人の力になりたかった。

 

何もできない無力なFランクダイバーであっても、才気などない凡俗な男だとしても、多くのものを背負い、苦しみを内に秘めながらGBNを守り続けるこの人にどんな形であれ支えになりたいと思った。だから――

 

「…………フッ、君は本当に(やさ)しい奴だな“ダイチ”。僕の方こそ、よければ友人になって欲しいよ」

 

そんなの俺の分不相応な申し出に対し、クジョウさんは穏やかな笑みとため口、握手をもって応えてくれた。

 

「マギーさん、今度は俺持ちで全員分同じのをおかわりいただけませんか? 飲み友達に奢りたいんです」

 

「いや、それなら君の分は私が持とう。私も、今日出来た友人に奢りたい気分なんだ」

 

そういって俺達は互いに笑い合い、優しい笑みを受けべるマギーさんが出してくれたグラスを手に取り、互いのグラスをぶつけあった。

 

どうか、この尊敬できる飲み友達の行く末に幸福があらん事を――――!

 

 

 




「慈しい」と書いて「やさしい」と読む。
某国民的大ヒットの鬼退治漫画から引用したフレーズです。

作者的にダイチには、あの漫画の主人公に様に人に寄り添う人で会ってほしいと思っています。



【クジョウ・キョウヤ】
・原作組キャラその2.最早説明不要な完全無欠のGBN最強プレイヤー。

・本作に於いても心技体を兼ね揃えた完全無欠の超人プレイヤーであることには変わりないが、本作に於いては(独自解釈として)、GBN内に於ける顔役、カリスマ、英雄として別格視されたり、自身を過剰に信奉した結果、正義を語り“初心者狩り討伐”などの独断行動をする若手ダイバーの暴走や有志連合所属メンバーをさも“特権階級”として扱う現在のゲーム内の空気に忸怩たる思いを感じている。

・本作では独自設定としてELダイバー保護に伴う運営の人員不足を補う形で旧有志連合内に置いて中心となったメンバーSランクダイバーには、不正を働いたダイバーを取り締まる権限がGMから与えられており便宜上、そうしたダイバーとそれに協力するフォースメンバーを総称して引き続き有志連合と呼称されている。要するに運営公認の自警団。

・キョウヤ自身、その役目を受け入れ真摯に取り組んでいたが、皮肉にも彼のGBNに対する献身は、一部の若手ダイバーから歪んだ崇拝の対象と捉えられてしまい、不正を働いてしまったダイバーを『裁くべき悪』として過激な糾弾をする者達の暴走を招いてしまった。

・彼自身はその事実に心を痛めつつ、誘惑に負けて1度道を踏み外した不正ダイバーやタクト達にも、もっと純粋な気持ちでGBNに向き合ってほしいと考えているがその思いが実を結ぶにはまだ道のりが遠い。

・読者さんによっては偉大なチャンプのキャラ造形に対し、こういう解釈をする事に不快感を覚える人もいるかもしれませんが、作者はこういう『完璧超人の苦悩と孤独』を書いてみたいと思い、書きました。
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