ガンダムビルドダイバーズ REBOOT   作:キラメイオレンジ

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第30話 ニシカワ家の人々

アキナさんに説教を受けつつ何とか許しを得た俺は現在、少し遠回りをする形で店に居たユナの友人であるカスミさんを家まで送り届ける事になった。だが……

 

「…………」

「…………」

 

き、気まずい……。

 

成り行きで引き受けた事たが、冷静に考えると初対面のJCとこうして肩を並べて歩くと言うのはかなり気まずい。

 

何しろ実年齢が10歳以上離れている上に異性同士。共通の話題など天気の話が精々だ。そして迂闊に『今日は寒いねー』とか言ったら短く『そうですね』と返されて即座に会話終了。より気まずい空気になるのは火を見るよりも明らかだ。

 

俺と彼女の間には現在、2月末の北風より冷え切った空気が漂っていた。

 

「…………」

 

居心地の悪さを感じているのはカスミさんも同様らしく、先程からチラチラと俺の方に視線を向けつつ無言で歩いている。

 

友人の師を語る俺を胡散臭いと思い警戒しているのだろうか? 

店内では随分とズケズケ酷いこと言ってたけど……。

 

しかし改めてカスミさんの顔をチラ見すると、やはり何故か既視感を覚える。

 

それが一体どこの誰を思い出すのかは、喉元まで出かかって出せない状態だが、何故だか妙な苦手意識を覚えてしまうのもこの気まずの原因の1つだろう。

 

(じー……)

 

――ってアレ? よく見るとカスミさん、俺をチラ見と言うか、俺の右手にばかり視線を向けていないか? 否、より正確に言えば、右手に持っているユナへの差し入れの為に買ったお高い洋菓子店のこじゃれた紙袋に、だ。

 

成程、どうやらこの子は俺に対して気まずいという意識どころかそもそも存在そのものが眼中に入ってなかったらしい。別にいいけどさ……。

 

試しに俺が紙袋を軽く左右に動かしてみるとカスミさんの目もまたそれに連動して動いた。

 

俺は多少の名残惜しさを感じつつ、紙袋をカスミさんの前に差し出した。

 

「あの、これプリンなんだけど、よかったら……」

 

「えっ!? いいんですかいただいちゃって!? そんな~悪いですよー……ありがとうございます! いやぁ~流石はユウナのししょーさん!」

 

と、一応遠慮する姿勢を見せながらも即座に紙袋を受け取りいい顔で感謝の言葉を口にするカスミさん。

 

一見まともそうな()だが、なかなかどうしてイイ性格をしているらしい。……なんか、ちょっとだけ元カノ(アイツ)を思い出すな……。

 

そしてそれはそれとして、確認したい事ができた。

 

「……ユナは俺の事、学校で話したりするのかな?」

 

カスミさんが最後に何げなく零した一言が、俺の中ですごく引っ掛かる。

 

一応、ユナには俺の話はあまり他の人にしないでくれと釘は刺しているし、悪意を持ってそれを反故する子じゃないと信頼はしている。……してはいるが、何しろ彼女は筋金入りのド天然にして激情型の人間だ。

 

本人が意図せず、俺に関する話を周囲言いふらしている可能性は否定できないのだ。

 

「あー、誰彼構わず言いふらしたりはしてませんよ? ただ私、ミナト以外じゃ一応1番仲が良い友達ですからちょこちょこお話は……ああ、でも悪口とかは全然言ってませんよ? 寧ろほめ過ぎと言うかもりもりに盛っているというか……」

 

「……それはそれで思うところはあるんだよなぁ」

 

慕ってくれるのは勿論うれしいが、ユナの抱く俺の人物像が現実の俺とどんどん乖離しつつあり、それが周囲に広がりつつある事には一抹の不安を覚えずにはいられない。

 

「……もう1個聞きたいんだけど、あの子って昔からああなのか?」

 

「んー根っこの部分はそうですけど、最近は色々パワーアップしてる気はしますね色々。後、最近クラスの男子からは意識され始めてますね。『最近のアサヒ、何か色気出てきてエロいよな』って」

 

「なんだとぉおおおおおお!?」

「きゃああ! 突然の咆哮!?」

 

聞き捨てなさすぎる一言を聞き、俺はカスミさんに詰め寄り仔細を問い質す。

 

「エロいってなんだエロいって!? あんな天使の様な子に穢れた視線を向けるなんてやっぱり男子中学生は性欲の権化だな畜生が!! 確かにユナは凄く凄く可愛いけど! 同年代なら恋に落ちるのは当然の事だけど! エロいとか言ってんじゃねえ殺すぞ!! カスミさん。申し訳ないがそんなこと抜くした奴の住所教えてくれないかな? 師匠としてちょっと、話をつけにいかなくては!」

 

「きゅ、急に人が変わったみたいなキモさを発揮してませんか!? 顔はしょっぱいけどまともだと思ってたのに!」

 

「顔の事はほっといてくれ! 後、俺は至って普通だから!」

 

「自分の異常さにすら気づいてないとか、それ筋金入りのサイコ野郎じゃないですか!」

 

「違う! ちょっとだけ弟子に関して心配性なだけだ!!」

 

「ヒィイ! 目がヤバい! というか顔が近いです! ストップストップ!!」

 

何故だか急に俺の事を異常者扱いして怯えるカスミさんに構わず、俺はぐいぐいと距離を詰め、ユナにエロい感情を抱くオスザル共の連絡先を迫る。

 

ドサッ……!

 

「…………何を、しているん、です、か……?」

 

そんな俺を正気に戻したのは、鞄が地面に落ちる音と、感情を完全凍結させた声音で尋ねるニシカワさんの声だった。

 

「あっ、お姉ちゃんおかえりー」

「お姉ちゃんっ!!?」

 

ここに来て衝撃の事実が発覚!

先程まで感じていたカスミさんに対する既視感の正体はこれだったのか! 何故気付かなかった俺!?

 

「ユ、ユウナちゃんだけに飽き足らず……よりによってカスミにまで……こ、この……ケダモノ……!」

 

……うん、ここで1度今置かれている状況を整理しよう。

 

① 時間帯は20時近く、場所はニシカワさん宅の前(いつの間にかついていた)。

② ユナがクラスの男共にエロい目で見られていると聞き、カスミさんに詰め寄る俺。

③ 絶妙なタイミングで現れた俺の事をロリコンだと勘違いしているニシカワさん(姉)。

 

あっ、マジで詰んだわコレ……ってあきらめてどうする!?

 

「ち、違うんですニシカワさん! お、俺はただ妹さんを送り届けただけで……」

 

何とか誤解を解こうとニシカワさん(姉)に近づこうとするが、俺が1歩踏み出した瞬間、彼女は更に夜道で露出狂と遭遇したかのような悲鳴を上げた。

 

最早俺は、そのレベルの変態なのか!?

 

「近づかないで変態っ!!! 中学生専門なのかと思ったら私も対象なんですか!? ケダモノ! 鬼畜!! いやああああああっ! 助けてレッド様ぁああああああ!!」

 

「お願いだから俺の話を聞いて! それからレッド(アイツ)の事は言い加減忘れて!!」

 

「なんで貴方にそんなこと言われなくちゃいけないんですか!?」

 

本人だからだよ!!

何で俺はケダモノ扱いされながら助けを求められてるんだ? 斬新過ぎるだろこの状況!

というか悲鳴を上げたいのはこっち!

 

週末で在宅率も高い夜の住宅街で姉妹を相手にあれこれ問答するデカい男とか、絵面が最悪過ぎる。一刻もは早く、事態を収拾してこの場を離脱しなければ……!

 

ドサッ!

 

「き、貴様……! ウチの娘たちに何をしている!!」

 

と、意気込んだ矢先、更に事態は最悪の方向に推移した。

 

先程のニシカワさん同様、鞄を落とした音に振り返ってみると、そこにはスーツ姿に身を包んだバーコード頭が印象的なメガネの中年男性がわなわなと震えながら立っていた。

 

うん、最早確認するまでもないだろう。ニシカワ姉妹のお父さんの登場だ。

 

「お、お父さん! あれがこの間話した最近アサヒさん()のユウナちゃんをつけ狙う変態よ! 今度はカスミが!!」

 

「ああ、カオリ! お前はスグに家の中に入って警察に通報をしなさい! あの子は……カスミは、私の命に懸けて守る!!」

 

「お、お父さん……!」

 

2人の娘たちを前に漢気を発揮し、変態(オレ)に向かって拳を振り上げながら突進するニシカワ父。

 

185㎝の巨躯を誇る俺を前に一切臆することなく、愛する者を守る為に立ち向かうその気概は同じ男として尊敬に値する。

 

だがマズい。

この状況は“色んな意味で”マズい!

 

数瞬の間に考えうる限りのパターンを想像し、俺は最善の選択として――

 

“ゴスッ!”

 

「ボフォ!」

 

ニシカワ父の拳を受ける事を選んだ。

 

 

・・・・・

 

 

「「「この度は本当に、早とちりをして申し訳ありませんでした!!」」」

 

30分後。

 

俺はニシカワさん宅のリビングでニシカワさん並びにそのご両親のお三方から頭を下げられていた。

 

あの後、カスミさんの説明と家から出てきたニシカワ母(多分、ご家族の中で最も常識人)が場を仕切ってくれた為、俺の無罪は無事立証された。

 

……どうやらニシカワ姉妹は姉のカオリさんは父親似、妹のカスミさんは母親似の性格らしい。まともに話を聞いてくれる人が居て本っっっ当に良かった……!!

 

尚、娘を守る為に日頃の運動不足を省みず渾身の拳を放った結果、腰を痛めてしまったニシカワ父は現在ソファの上でうつぶせになりながら、カスミさんに湿布を貼って貰っている状態だ。なんだか心苦しい。

 

「あいたたたたたっ! カ、カスミ、もっと優しく貼ってくれ……」

 

「なーに言ってんのよこれでも十分優しいでしょ? まったく……何で殴られたアカギさんより、殴ったお父さんの方がボロボロなのよ? カッコ悪いんだから……」

 

などと腰痛に苦しむ父親に悪態を吐くカスミさんだが、その声はどこか嬉しそうで、表情にも心なしか朗らかだ。我が身を省みず自分を助けようとしてくれた父親の雄姿に、きっと思うところがあったのだろう。家族愛って素晴らしい。

 

「アカギさんは大丈夫なんですか? よければ車を出して夜間診療の病院までお送りしますけど……」

 

「ああ、もう全然大丈夫ですから気にしないでください!」

 

一方、俺は先程派手に鼻血が噴出した為、鼻の穴にはティッシュを詰め込んでいる。

カッコ悪い。

 

「い、いやですが流石にそのまま何もなかった事にすると言うのは……あいたたたっ! わ、私が手を出してしまった事は事実ですし、その上怪我まで……せめて治療費だけでも」

 

「いや、本当に大丈夫ですって! ほら、見ての通り僕、頑丈なんで! ニシカワさんはどうか俺の事なんか気にしないで、ご自分の療養に集中してください! それじゃあ!」

 

殴ってしまった事を気に病むお父さんの謝罪を半ば押し切る形で遮り、俺はお宅を後にする。

 

そもそもの話、ニシカワさんやお父さんが勘違いしたのは俺がカスミさんに(ユナをエロい目で見る男子の事で)詰め寄ったのにも原因がある。自分だけ被害者面をするのは憚って当然だろう。

 

とはいえ……。

 

「ふぉおおお……痛い、痛いよぉ! 娘を想う父親の拳、マジで痛い!」

 

虚勢を張って平気なフリをして見せたが、やっぱり顔面パンチは結構痛い!

 

筋トレ趣味で無駄に鍛えてはいるが、殴り合いの喧嘩など殆どやったこともないなんちゃってマッチョの俺はこういう生身の痛みに耐性がないのだ!

 

「……やっぱり痛いんじゃないんですか? どうしてあんな見栄張ったんですか?」

 

「ふぇ?」

 

そんな、ニシカワ邸の玄関で項垂れる俺に呆れた口調で声をかけてきたのは、カスミさんだった。くっ、ユナの友達にこんな醜態みられるとは不覚!

 

「ど、どうしたのかなカスミさん? あっ、さっき聞いた男子生徒の住所教えてくれるとか?」

 

「いえ、それは何だか事件に発展しそうなんでダメなんですけど、もう1個だけお礼が言いたくて。――さっきは、お父さんのパンチを“わざと受けてくれて”ありがとうございます」

 

「…………えっと、何の事かな?」

 

「いや、ごまかさなくていいですよ。あんな運動不足中年のヘロヘロパンチ、私でも避けられますって。――けどあの時、ししょーさんの後ろには電柱があったから、あのまま避けたらお父さん、電柱殴って指や手が骨折してたかもしれない。だから避けなかったんですよね?」

 

俺の渾身のすっとぼけ演技をあっさり見破り、核心を突くカスミさん。

 

お姉さんも1発で俺のゼロクアンタライザーの特性を見抜いたし、この姉妹地味に観察眼は侮れないな……。

 

「……お父さんには内緒でお願いね。ただでさえ気に病んでるみたいだから。――あっ、それとユナにも絶対内緒でお願い。あの子の場合、こんなしょーもない鼻血でもめっちゃ心配しそうだから」

 

観念した俺は苦笑いをしつつ、人差し指を鼻にあてた。

 

カスミさんはなんとも言えない表情で俺の顔を捉え、『ハァ』と何だか気の毒なものを見る様な視線を向け溜息を零した。

 

「ししょーさんって、もうちょっと顔と運が良ければモテそうなのに、残念ですね」

 

「悪かったな顔も運もしょっぱくて!! 何? キミ俺のこと嫌いなの!?」

 

真正面から堂々と、ストレートに人の容姿と運という、個人の努力ではいかんともし難い部分のダメ出しをするカスミさん。

 

的を射た批判程、人を傷つけるものだ。

 

「あっ、違うんですよ!? 今のはどっちかっていうと褒めていったと言うか、何でそこまでいい人貫けるのかな~って感心してて」

 

「フォローどうも。けど、俺はキミが言うほど人が好いわけじゃないよ。ただ今回の件は俺にも原因があったってだけの話で」

 

「……損な性格してますね」

 

「そうでもないさ」

 

俺はよく周囲から『優しい』『人が好い』『チョロい』などと評されるが、俺自身としてはあまりその自覚はない。

 

寧ろどちらかというと保守的な小心者であり、自分に対する自信のなさからせめて誠実であろうと心がけているだけの“偽善者”というのが自己分析だ。

 

自分の事があまり好きになれないから、せめて性格だけは良く振舞って周囲から嫌われたくない。そんなつまらない男なのだ。

 

「お父さんには本当に気にしないでって言っておいて、それと試験勉強頑張ってな? じゃあ」

 

これ以上ここでカスミさんと話していると感づかれそうなので、俺はニシカワ邸を離れようとすると、カスミさんは声を張り上げた。

 

「あっ、最後に1つだけ! ししょーさん、確かに性格以外はいいとこ全然見つかりませんけど! 世の中その性格を重要視する女の子って結構いますから! きっと見つかりますよ! ししょーさんみたいに顔も運もイマイチで夢中になってくれるマニアックな女の子!」

 

「だから励ますかディスるかどっちかにして! やっぱりキミ、俺のこと嫌いだろ!?」

 

「いえっ! どっちかというと“どちらでもない”です!」

 

それ、異性からの評価としては寧ろ嫌いより低い奴だから!!

 

うう、何か父親に肉体的にダメージを負わせられたのに続き、その娘さんから精神的に傷つけられた気分だ……。

 

――しかし、こんな俺でも良い“マニアックな女の子”か。

 

俺の脳裏に浮かんだのは、俺……というか“レッド(昔の俺)”に対して異性としての好意を抱いてくれたニシカワさんとユキムラ、それに元カノ(アイツ)の顔だ。

 

…………うん、確かに変わり者ばっかだな。

俺としてはどちらかというと普通の感性の女性と付き合いたいのだが……。

 

人生とは、ままならないものだ。

 

 




【ニシカワ・カスミ】
・ユナとは幼稚園に入る前からの付き合いの幼馴染であり、ダイチの天敵であるニシカワ・カオリの7つ下の妹。13歳。中1。平均よりやや裕福な家庭で家族4人で暮らしている。

・勉強しなくても学年20位は余裕の地頭と、姉と同様整た容姿(本人曰くフツーに可愛い)ではあるが、姉やアサヒ一家など周囲の変人濃度の高さから自分の事を良くも悪くも平凡な女の子と捉え、本人はその事に不満はない(但し、遺伝的にフラットな胸部については若干コンプレックスあり。少し前まで互角だったユナと差が出来始めてからは余計に)。

・生真面目だが思い込みが激しい姉とは逆に、勉強も人生も程々に力を抜いて取り組むが物事を俯瞰して捉える冷静さを持ち、常識と良識を失う事は少ない(本作では希少)。

・ユナの親友であるミナともかなり親しい友人関係だが、明らかにユナに対して『友情を超えた想い』を抱いているミナと、仲良くなった相手にはトコトン一途なユナの関係の深さを理解し、敢えて『親友一歩手前の友人』という距離感を保っている。

・中学入学時からサッカー部に所属するイケメンのアズマくんに片思いし、夏祭り→文化祭→ハロウィンと各イベントで順調にフラグを立て、クリスマスに告白をして晴れて交際となった。現在交際3カ月。勝ち組。

・ユナが『優しくて強くて、すっごいカッコイイ』と絶賛し、姉が『いい歳して女子中学生にイヤらしい視線を向ける最低最悪のロリコン』と酷評するダイチに対しては評価を聞いていた段階から『結構苦労してそうな多分普通に良い人』と推察しており、それほど悪感情を抱いてはいなかったが、実物が予想以上にしょぼい容姿だったのと、並外れた間の悪さ(運のなさ)と目撃し評価を下方修正した。ただ、彼がユナの事を本気で大事に思っている点だけは信頼しており、ユナの気持ちを陰ながら応援している。――表立って応援するとミナが怖いので、あくまで陰ながら。

・ガンプラ及びガンダムに関する知識はまさしく『まったく興味がない女子』のそれであり、ガンプラの事を『ロボットのおもちゃ』と呼称するレベル。ゲームより恋やスイーツにご執心な模様。
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