ガンダムビルドダイバーズ REBOOT   作:キラメイオレンジ

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今回は後々ダイチの前に立ちふさがるライバルキャラのお話です



幕間5 月の暴君(タイラント)

“彼”にとって物心ついた時から、世界は酷くつまらなく、味気のないものだった。

 

両親から受け継いだ類稀な才能と、優れた容姿とカリスマ性、豊かな富と教育環境。

 

凡そ人が望む全てを持って生まれた彼はそれ故に孤独であり、感動と無縁の人生を歩んできた。

 

同年代の人間が努力し、力を合わせて成し遂げる事も1人で容易くこなせるが故に、達成感も誰かと感動を分かち合う喜びも分からず、何の色彩もない灰色の世界を生きてきた。

 

逆に無能な周囲に対する苛立ちと、他者と繋がらなければ生きていけない惰弱な“絆”という概念に対する嫌悪感だけ募った。

 

世界は弱者に優しく、強者に冷たくできている。

 

何故ならこの世界の基盤を作る者達の大半は無能で愚鈍な弱者であるから。

 

その真理に至った小学生高学年の頃は、本気で世界に落胆し、自殺すら考えた。

 

それをしなかったのは彼の中に『こんなくだらない世界に殺されるのは癪である』という自尊心があったからに過ぎない。

 

もし“彼”が自らの才能に対し使命感を持ち、他者を慮る感性を正しく育めていたなら、選択する分野が政治であれ、医療であれ、エンターテインメントであれ、既存の仕組みを覆す革新(イノベーション)を起こし、社会に大きな発展をもたらしただろう。

 

しかし彼はそれを選ばなかった。

 

何故自分に優しくない世界の為に自分が尽くさなければならないのか?

 

何故、特別な人間である自分が、愚鈍な凡人の為に、消費されけかればならないのか?

 

そう、世界に向けて問いかけた後、彼の情熱は、自身を苦しめた世界――そこに住まう人間への復讐へと向けられるようになった。

 

中学1年生の頃は、ひたすら喧嘩に明け暮れた。

 

同じエリート校に通う空手部の主将、行きずりのチンピラ、教師――とにかく気に入らないと思った連中を片っ端から殴り倒し、彼らの自尊心を砕き、屈服させた。

 

彼自身も何度か重傷を負い入院をしたが、相手の骨や心を砕くのは中々に快感で、ぶちのめした連中の血みどろの顔は思い出すだけで笑顔が零れた。

 

しかし悲しいかな、暴力は犯罪。

ましてエリート校に通う名家の跡取りである彼には、明らかに“合わない趣味”だった。

 

1度喧嘩をする度に、いちいち家の人間を使って揉み消すのは手間であったし、何より親兄弟すら他と等しく愚鈍と見下していた彼にとって、家の力を借りるのは癪だったので、彼は“現実での喧嘩”を止めた。

 

中学2年生の頃は、ひたすらに女を抱いた。

 

元々神がかった美貌とカリスマ性を持ち、名家の出である彼の周囲には、黙っていても多くの女が寄ってきた。

 

そうして寄ってきた学校内の女子たちを、彼は目についた端から見境なく抱き、心身ともに手籠めにした。

 

女を抱くのは快感だったし、何より同じ人間でありながらまるで犬の様に傅く彼女達の姿を見下ろすのは、快感だった。

 

徹底的に自分に惚れさせ、捨てると脅して泣いて縋らせるのが最高に楽しかったし、他の男と付き合っている女を虜にして、相手の男を絶望させるなどという戯れにも興じた。

 

しかし、それも1年足らずで飽きてきた。

 

喧嘩と違って完全に冷めた訳ではないが、ただ従順な女たちを貪るだけではお物足りない。

 

彼の心には芽生えたのは、そんな暴力に対する渇望だった。

 

そして中学3年生の折、彼はGPDと出会った。

 

それまでの人生でガンプラは愚か、ガンダムを始めとしたアニメーションに興味を示してこなかった彼が惹かれたのは、『自分で作ったガンプラを壊し合う』というシステムだった。

 

ビルダー達が情熱と時間を注いで作り上げたガンプラは、言ってみれば『彼らの魂の分身』と同義であり、それらを壊すと言うのは、合法的に『他者の心を壊し、踏みにじる行為』であると考えたからだ。

 

そうして関心をもったが最後、彼は家の財力を使って世界最高のガンプラビルダーを指南役として呼び寄せ、制作に必要な環境を構築。

 

ベースとなるガンプラ選択の為、1カ月ほど学校に通わず歴代ガンダム作品を網羅して自分の魂――“暴力性の化身”に足るガンプラ作りに没頭した。

 

そして1年後、彼――【クロミネ・シュウジ】はGPDに於いては全国大会常連の名門【月宮工業】に入学し、1年生にして部長の座を奪い取った。

 

彼はその持ち前のカリスマ性と圧倒的な実力で女性部員を全員手籠めにし、男子部員から嫌悪感を抱かれつつ、カリスマとして崇拝されていった。

 

そして迎えた夏の全国大会。

 

クロミネ・シュウジは作り上げた自身の暴力性の化身こと【ガンダムヴァイオレント】で、危うげなく勝ち進める中、ある1人のプレイヤーに興味を持った。

 

きっかけは東京予選に於いては、月宮に次ぐ実力を持つ目された星ヶ丘高校が【陽成高校】という無名校に敗れたという部員からの報告だった。

 

思わぬ伏兵が現れたと思い、陽成高校のそれまでの対戦記録を取り寄せたシュウジは、チームの要となった1年生――アカギ・ダイチが目に留まり、彼に関して更なる調査を部員(下僕)に命じた。

 

アカギ・ダイチ。ダイバーネーム【レッド】。16歳。使用ガンプラはガンダムアストレアの改修機【アストライアー】。

 

下町で定食屋を営む両親の長男として生まれ、家族構成は両親と6つ下の弟。

 

昔から体格に恵まれてはいたが知能も運動神経も並以下。

 

性格は劣等感に塗れた小心者で、生真面目なお人好し。

 

自身が他人より“愚鈍で劣っている”と自覚している為、何事においても常人の何倍も努力し、学校の成績は上の中。

 

劣等生であるが故に、自分より優れた者に対する尊敬の念を以て接し、力無き者を寄り添い鼓舞する懐の広い性格から、周囲からは時に良い様に使われながらも、信頼を得てきた。

 

但し、高校1年時点で彼女ナシ。童貞。失恋経験5回。

 

GPDに於いてはセンスの凡庸さを弛まぬ研鑽と、入念な分析で補う技巧派。

 

何よりも敗北によるリスクの高いGPDに於いて『どれだけ傷ついても、1%の勝機に全てを懸ける』というある種の狂気的ともいえるスタイルで格上を相手に勝利を奪い取ってきた。

 

クロミネ・シュウジにとってアカギ・ダイチは、知れば知る程に愚鈍で、無様なつまらない人間だと思わせる一方で、惹きつけてやまない者を感じた。

 

やがて地区予選は準々決勝へと駒を進め、月宮と陽成はお互い後1回勝ち上がれば直接対決となった。

 

――取るに足らない木偶である筈なのに、気になって仕方のないアカギ・ダイチ。

――直接この手で叩き潰せば、或いはその理由が分かるか?

 

そんな淡い期待を抱き当然の様に勝ち上がったシュウジだったが、待っていたのは陽成の準々決勝敗退の報せだった。彼の願いは、叶わなかったのだ。

 

 

・・・・・

 

 

「おい、そこの木偶の坊。1つ聞かせろ」

 

数日後、クロミネ・シュウジは下校途中のアカギ・ダイチを待ち伏せし、声をかけた。

 

直接試合で相まみえる事が叶わなかった彼は、なんと自ら足を運んだ。

これは他人の事をすべからく見下す彼の人間性を考えれば異常な行動だった。

 

「キミは、もしかして月宮工業の、クロミネくん?」

 

「ああ。準決勝でテメーの機体を粉々にする予定だった男だ。なのにおめおめ、あんな半端な連中に負けやがって……。しかもなんであの負けザマは? 何故、頭はカスだが格闘戦では全国屈指と呼ばれるヤマシタを相手に馬鹿正直に正面からぶつかった? テメーの観察眼があれば、もっと幾らでもやりようがあっただろう!? 大した才能もねえクセに、相手の土俵で戦ったのはどういう了見だ!?」

 

純粋に力不足で敗れたなら『所詮そこまでの奴』と見切りを付けられた。

 

しかしアカギ・ダイチは、こともあろうに全国クラスのパワーファイターを相手に正面から近接戦を挑み、結果、彼のアストライアーは深刻なダメージを受けて敗北した。

 

「…………確かに、身の程知らずにバカな選択をしたと思うよ。1年生の俺を信じてレギュラーにしてくれた先輩たちには本当に申し訳ないと思ってる。けど、俺は――」

 

「『腕の治療の為に引退しなきゃならねぇヤマシタに、悔いの残らない試合をして欲しかった』とでも言うのか? バカか! クズが!! なんでテメェが奴の事情を慮る? 知ったこっちゃねえだろうが敵の事なんざ! その挙句に敗退? 無様にも程があるだろうが!! もう戦えねえヤマシタ(クズ)の為にそんな事をして何になる!?」

 

ここに来る以前に調べた相手校の情報から推察した敗因を言い当て、その上で侮辱した。

 

するとダイチの表情は一転し、静かにその瞳を怒りに燃やした。

 

「――――オイ、訂正しろ。ヤマシタさんはクズなんかじゃない。尊敬すべき先輩ファイターだ。俺はあの人と戦えた事を誇りに思ってるし、先輩たちには心苦しいけど、選択を悔いてなんかない。だからあの人を……俺たちの戦いを、侮辱するな」

 

「…………っ!!」

 

その瞬間、クロミネ・シュウジは生まれて初めて、他者に気圧された。

 

それまで、どこにでもいる凡庸なデカブツだと思っていたアカギ・ダイチの発した怒気に、彼は一瞬であれ、圧倒されたのだ。

 

「……何でだ? 何でテメーはそこまで敵の為に怒れる? 俺達はお互いに、自分(テメー)が心血注いで作ったガンプラを壊し合う敵同士なんだぞ!!? 憎み合いこそすれ、思いやる理由なんざどこにもねえだろうがよ!!」

 

らしくもなく心を乱されたクロミネは、まるで恐怖心から吠える犬の様な怒声でダイチに質問を投げかけて。

 

するとダイチは、今度は怒りではなく、哀しそうな表情を向けて、答えた。

 

「本気でそう思ってるのか? ――だとしたら、キミは……哀しい奴だな」

 

「っ! なん……だと……?」

 

哀しい奴だと? この俺が、憐れまれてる? こんな凡俗なカスに??

 

投げかけられた言葉の意味が理解できず困惑するクロミネに、ダイチはまるで悪さをした小さな子供に言い聞かせる様に、説いた。

 

「確かに、GPDの本質は戦いだ。けどだからこそ、相手への感謝や敬意を持たなくちゃいけないって俺は思う。俺はガンプラが好きだ。作るのも、戦わせるのも、大好きだ。――だけど、例えどれだけ凄いガンプラが作れても、どれだけ操縦が巧くても、1人じゃバトルは出来ないんだよ。――――じゃあ、俺は行くよ。決勝戦、頑張ってな」

 

「っ! 待て!!」

 

そう言って立ち去ろうとするダイチが呆然と立ち尽くす自分を横切り立ち去ろうとした瞬間、我に返ったクロミネは慌てて引き留めた。

 

「……最後に1つだけ聞かせろ。なんでテメーは、そこまで他人に(やさ)しくなれる? 自分で生きるだけでも手一杯の愚図の癖に、何故他の奴らの為に心を割く?」

 

その問いにダイチは、どこか自嘲的な笑みを受かべ答えた。

 

「……別に俺はそこまで慈しくなんてないよ。ただ、君の言う通り昔からどんくさくて要領の悪い愚図だったから、せめて最低限、人を思いやる心だけは持ち続けよう。周りや世界に対して誠実に生きようって思ってるだけだよ」

 

「…………そうか」

「ああ、そうさ。――じゃあ」

 

そう言って、ダイチは今度こそその場を去り、クロミネだけが残った。

 

それから彼はしばしその場で立ち尽くし、そして――狂った様に、笑い出した。

 

「……そうか……そういうことか……フフ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! 納得できたぜ! 質問に答えてくれてありがとよアカギィ!! アハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

生まれてこの方、1度とて感じた事のなかった悦びが胸の内からこみ上げ、腹の底から笑った。嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

 

「やっと分かったぜ。なんでテメーみたいな奴にここまで執着しちまったのか! なんでテメーと戦えなかったのが残念だったのか! アカギィ……テメーは俺と“同じ”なんだ!」

 

まるでずっと解けないでいたパズルが完成した様な、満足感。

そして、ずっと探していた存在に巡り合えたかの様な、“吐き気の催す愛しさ”が心に溢れた。

 

「誰よりも優れて生まれた俺は、他人を見下し踏みにじる事で存在理由(アイデンティティ)を証明した。誰よりも劣って生まれてきたテメーは、他人を慈しくし、寄り添う事で愚図な自分の存在価値を得ようとしている。向いてる方向が真逆なだけで、立ってる場所は同じなんだよ!」

 

クロミネの中に生まれて初めて芽生えた感情の正体。

それは“他人に対する強い共感(シンパシー)”だった。

 

正反対の境遇で生まれ、正反対の生き方をしているアカギ・ダイチという少年の秘めた本質――自身で己の価値を確立できず、他人との関係性によって相対的に自分がどういに人間なのか証明する。

 

踏みにじる自分と、思いやるダイチ。

 

だがその中身は、等しく空白。

 

俺が見下すことでしか他人と関係性を築けねえ様に、お前も手を指し伸ばす事でしか他人と繋がれねえ。

 

――孤独だよなぁ? 虚しいよなぁ?

――けど安心しろ。お前には俺が要る。俺にお前がいる様に!

 

「気に入らねぇ……まったくもって! 最っ高に愛しい(気に入らねぇ)奴だよお前は!! 俺の前に現れてくれてありがとうよ!!」

 

俺はお前を否定し続ける。

その愚鈍で凡庸な能力も、醜い容姿も、他人に傅く卑屈な人間性も何もかも!

だからお前も、俺を否定し続けろ! 立ちはだかり続けろ!

 

ガンプラをぶつけ合おう。互いの魂の分身を傷つけ合い、壊し合おう!

 

そうして、クロミネ・シュウジは、人生の中で初めて誰かと繋がりあう事に対する尊さを知った。

 

 

・・・・・

 

 

そしてそれから8年後――彼はGBNに於いて、【月の暴君】として君臨していた。

 

フォースランキング6位【カタストロフ】の盟主――【暴君(タイラント)】の異名を持つダイバー【シュウ】として。

 

しかし、地位・財産・力――凡そダイバーが望む全てを手にして尚、彼の心は満たさない。

 

今も左手にはGBN内で手に入る最高級の美酒が注がれたグラスを、右手にはリアルでも肉体関係にある極上の美女ダイバーの胸を鷲掴みにしながら、その心は乾ききっていた。

 

「くだらねぇ……つまらねぇ……何もかもが。面白くねえ……」

 

まるで、8年前にアカギ・ダイチと出会う以前の様に……。

 

「フフ、悪名名高い【月の暴君】。どんな男かと楽しみにして来てみれば、まるで生きる屍じゃないか?」

 

そんな彼の元に、1人の赤い髪の少年が姿を現した。

 

本来、フォースのメンバーないしその許可を得た者でなければセキュリティにより決して入る事の叶わないこの居城にだ。

 

運営以外でそんな芸当が可能な存在と言えば――

 

「……EL(エル)ダイバーか?」

 

「ご明察。僕の名前はルベル。単刀直入に行くよ暴君(タイラント)。――僕と一緒に、この世界に混沌を齎さないかい? きっとそうして燻っているよりは、楽しいよ?」

 

「…………フン、悪かねぇ。話を続けろ」

 

折しもそれは、ダイチがGBNに初ダイブする前日の邂逅であった。

 




という訳で過去編……的な物語の前編でした。
昔からダイチは男女問わずヤベー奴に好かれる星の下に生まれたようです(爆)

【フォース・カタストロフ】
・宇宙ディメンションに浮かぶ月面。そのクレータ―の1つに築いた宮殿型のフォースネストを拠点にするワールドランク6位の最上位フォース。リーダーは【月の暴君】の異名を持つSSランクダイバーのシュウ。

・構成メンバーは『絶対の存在であるシュウに、忠誠を誓う下僕』であり、シュウに利用され、消費される事を本懐と感じている。人材の採用不採用はシュウが全権を握っており、彼にとって使えるか使えないかが基準。女性メンバーは半数は、シュウの“お手付き”である。

・フォースバトルトーナメントに於いては常にアヴァロンや第七機甲師団に劣らぬ実力を見せつける。だがフォースメンバーのマナーは最悪の一言であり、これまで違反行為こそしていないが、他所のフォースに対する暴言や冒涜的な振舞いを行っては喧嘩を売り、返り討ちにするという暴挙を繰り返している。あらゆる点で模範的な№1フォースであるアヴァロンと正反対といえるGBN内の“悪役(ヒール)”と言える存在。

・当然ながら周囲からの評判は最悪の一言であり、『関わりたくないフォースランキング』では不動の1位。……因みにこの王座は数か月後に結成される某『ロリコンのゴリラがリーダーを務めるバカと変態しかいないフォース』に奪われる。

・一方、彼らに踏みにじられたダイバーの中にはシュウの実力やカリスマ性に惹かれ、彼の支持者になる人間も一定数おり、時にスパイとして利用されることもある。
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