ガンダムビルドダイバーズ REBOOT 作:キラメイオレンジ
ユナの試験期間の終了及びミズキさんとの模擬戦から3日経過した3月最初の土曜日。
極東オープンを翌日に控え、俺とユナは最後の調整の為に廃墟フィールドで模擬戦を繰り広げていた。
夕焼けで朱色に染まるフィールドで、2体のガンプラが飛び、粒子ビームを打ち合う。
「大分動きに無駄が無くなってきたな! けどまだ熱くなり過ぎると視野が狭くなるところがあるぞ! 常に自分を俯瞰しろ!!」
『ハイししょー!! ……ところで“フカン”ってどういう意味ですか!?』
「分からないなら元気よく返事しない!」
倒壊した建物などの多くの遮蔽物を巧く隠れ蓑にしながら右腕のGNサブマシンガンを掃射しつつ、距離を詰めていくブレイジングエクシア。
十八番である近接戦を仕掛ける為、まずは相手に近づく事。
その際には極力相手に姿を晒さず、常に相手の射線を意識する事。
状況に応じて牽制の射撃も行う事。
俺がここまでで教えた事を1つ1つ忠実に守り、ユナはこの短期間で着実に成長していた。
だが、だからこそ――読み易い!
「そこっ!」
俺はブレイジングエクシアが姿を現すより先に、飛び出してくるだろう方向に向けてドッズビームライフルを放つ。
そして次の刹那、読み通り飛び出してきたブレイジングエクシアの左肩をビームが掠めた。
チッ、もう2度ほど角度を右寄りにすべきだったか……!
『ヒャアアア! なんで!?』
「思いがけない攻撃を受けると思考が固まる所も、悪い癖だぞ!」
『わわっ! ゴメンさなさい!!』
姿を現すと同時に飛来したビームに動揺し動きが鈍ったユナを叱咤しつつ、俺はGNセイバーを抜刀し、剣戟戦を仕掛ける。
ブレイジングエクシアも慌ててビームサーベルに光刃を灯し、ゼロクアンタの斬撃を受ける。
「常に予想外のことが起きるのがガンプラバトルだ! だから何が起きても思考だけは絶対に止めるな。最後に生き残るのは、強い奴でも賢い奴でもない。歩みを止めない奴だ!」
『ハイししょー!!』
俺の言葉に相槌を打ちつつ、ユナはまた果敢に攻め込んでくる。
経験値の少なさもあって感情による操作技術のムラっ気が目立つが、こういう闘争心の高さ、挫けなさはやはり素晴らしい。タフな弟子を持てて、ししょーは嬉しいぞ!
「昨日の模擬戦の時に言ったこと、覚えてるか? 両手に別々の武器を持った相手に斬り込む時は――」
『利き手側じゃない方から、攻める!!』
俺の問いかけに応えると同時にブレイジングエクシアはゼロクアンタライザーの左側から迫り、GNビームサーベルを振り上げてGNドッズライフルの銃身を両断。
「やった……!」
「甘い!」
被曝によるダメージ回避の為に咄嗟にライフルを投棄し後退しつつ、後ろ腰からGNビームダガーを抜刀。左手でブレイジングエクシアに向かって投擲する。
『ひゃっ……!』
ゼロクアンタライザーの主武装を潰したことで優勢になったと気が緩んだ
……まあ、わざと避けられる方向に投げたんだけどな?
「メインの武器を1つ潰したくらいで油断するな! 場数を踏んだファイターなら一瞬で切り替えてくるぞ!! 常に相手から意識を外さない“残心”の心構えを忘れるな!」
『すみませんししょー!』
近接戦闘に於いて気を抜くという失態を犯した弟子を少しキツめに叱り飛ばす。
親や教師でもないのにユナみたいな天使の様に可愛い子にキツく当たるのは心が痛くて仕方がない。しかし例えユナから『エラそう』『怖い』『マジムカつく』などと不平不満を抱かれても、それが彼女の成長の糧になるなら構わない! それが指導者の矜持ってやつだ!
「いいかユナ。確かに敵のメイン武装を破壊する事自体は効果的な戦法だ。単純な火力の低下にとどまらず相手に心理的なプレッシャーを与えられる。だが本当に強いファイターは武装や
俺はゼロクアンタライザーを操作して剣戟戦を展開しつつ、ユナに“武器破壊”をした際の心構えを説いた。
『はいっ! ししょーに相手していただきながら気を抜いて本当にごめんなさい! だったら私も、今持ってる最高の手札で勝負します! トランザム!!』
俺の言葉を真正面から受け止め反省してくれたユナは、名誉挽回とばかりに切札であるスーパートランザムを起動。陽が沈みかけ宵闇に支配されつつあった廃墟の中で
『ヤアアアアアアアアつ!!』
「反省しつつもごり押しで攻め込む、か。――思い切りの良い戦術じゃないか!」
精神的な詰めの甘さ、視野の狭さを指摘されてを尚、己のスタイルを貫く姿勢。
素直さの中に秘めた負けん気の強さが実に素晴らしい。本当にファイター向けの
そして何よりも――
『模擬戦を始めて4日、38連敗! 今度こそ勝たせてもらいますからねししょー!!』
例え相手が
「ああ、力の限り掛かってこい! 39個目の黒星をプレゼントしてやるよ!」
そんな愛弟子の熱い気構えを受け止め、俺はゼロクアンタライザーを操作し、ブレイジングエクシアが繰り出す猛攻を捌く。
『ししょー! 前から思ってたんですけど、本当はイノベーターとかなんじゃないですか!? 私の攻撃、まるでどこから来るか分かるみたいに避けちゃいますよね!』
直撃は愚か掠っただけで装甲が抉れそうな、威力だけならメガ粒子法級の拳や蹴りを乱打しながら、ユナは突拍子もない疑問を俺にぶつける。
きっと昨日セカンドシーズンを最後まで見終わった
何とも中学生らしい、安直だが微笑ましい発想にちょっとほっこりする。
「ハハ、面白いこと考えるなユナは! けどこの位の動きでイノベーター扱いしてたら、チャンプ越えは遠いぞ?」
『だって! ししょー前に『スーパートランザムされたら殆ど動きが見えないよ』って言ってたのに全然見切っちゃってるじゃないですか!?』
「見えてないのは本当だよ! ただ“見えなくても捉えること”は出来るってだけの話だ。ユナももうちょっと経験を積めば出来るぞ!」
『本当ですか!? ししょーご自覚がないみたいですけど、結構無茶なこと平然と言う癖がありますよ!? でもそういうスパルタなとこも好きです!』
「不平不満と親愛の言葉をセット販売するのはどうかと思うぞ!?」
激しいラッシュと共に弟子らしく疑問を投げてくるユナに、俺はししょーとして経験に基づく持論を応える。
そう、これは模擬戦であると同時に講義。ユナには疑問に思ったことはどんなことでも即座に尋ねる様に言い聞かせている。
「いいかユナ? 1つ1つの攻撃を単体として考えるんじゃなくて“流れ”として視るんだ。射撃にせよ格闘にせよ、そこに『相手を倒す』っていう
ハイキックに続けて繰り出される後ろ回し蹴り、後退した直後には恐らく拳打によるラッシュを仕掛けるだろう。俺はGNセイバーを突き出して、間合いを詰めようとするブレイジングエクシアを牽制。
制止した所で両肩のライザーウィングを稼働させ、GNマシンガンを掃射。
するとスーパートランザム起動中のブレイジングエクシアは瞬間移動じみた視界から俺の視界から姿を消す。
狙うのは―――――後方上空!
俺は踵を返す動きをさせると同時にトランザムシステムを起動させ、上空に向かい弧を描く様な軌道でGNセイバーを振るう。
「
『キャアアアア!』
振り上げられた対空斬撃を読み通りの位置・タイミングで仕掛けてきたブレイジングエクシアを両断し爆散した。
・・・・・・
「あうぅ~また勝てませんでした……。これで39連敗……ししょー、私少しはつよくなれたんでしょうか?」
「少しどころか見違える様に強くなったと思うぞ? たった4日で動きの無駄は殆どなくなったし、正直ライフルを破壊された時はヒヤっとした。俺が今のユナ位動けるようになるには2年以上かかったんだぞ?」
中2の春にGPDを始めた俺が一端に戦えるようになったのは、高校で模型部に入部して夏の全国大会を迎えた頃だった。
きっと先輩のハートフルボッコなしごきがなかったらもっと遅かっただろう。
如何にGPDと違って修復に割く時間が無くなったとはいえ、本格的な修行を始めて僅か数日で2年の努力を飛び越えられたのだから、立つ瀬がないのは寧ろ俺の方だ。
「ししょーにそんな時期があったなんて、信じられません……」
「だからユナは俺を買いかぶり過ぎなんだって。自慢じゃないがガンプラバトルでの総合的な勝率は2割ちょっとだぞ? 何百回も負けて負けて負け続けて、ようやく多少マシなファイターになれたんだ。たかが39連敗位で挫けるなんて、ちょっと情けないぞ?」
「何百回も……。そういえばししょーは、何時頃からガンプラバトルを始められたんですか? アキラさんは高校生の頃の後輩さんなんですよね?」
何気なく漏らした昔話に、ユナは興味を示し食いついてきた。
「あー、丁度今のユナと同じ年頃だな。ていっても当時はガンプラ製作もバトルも独学だったから全然勝てなくてな~。本格的に技術を仕込まれたのは高校の模型部に入ってからだな」
「ししょーにも師匠がいたんですかやっぱり!? 」
「ああ、うん。作るのが抜群に巧い先輩と、鬼みたいに強い先輩がね。1年生の頃は毎日毎日、泣きながら壊されたガンプラ持って帰ったもんだよ……」
今思えばよく部を辞めなかったもんだと自分を褒めてやりたくなるレベルのスパルタだった。『やめちまえタコ!』って何度言われたか分かったもんじゃない。
――まあ、あの時の苦い経験があればこそ、こうして今、ユナと師弟関係が築けている訳だし、何よりおかげで強くなれた。先輩達には本当に感謝している。
「ししょー! 私、もっともっとししょーの武勇伝お聞きしたいです!」
「あー、それはまた今度な? それより今は反省会だ!」
俺の高校時代に興味を示してきたユナに対し、明日の大会を口実にして話題を打ち切り、お茶を濁す。
――ぶっちゃけ、ユナには可能な限りGPD時代の思い出を秘密にして起きたのが本心だ。
それは【レッド】だとか【紅蓮の志士】みたいな中2病全開なファイターネームを嬉々として名乗り、何かとカッコつけだったイタい過去を隠したいというのもあるし、ユナを介してレッドに未だ冷めぬ慕情を抱くニシカワさんの夢を壊したくないなど様々な理由がある。
しかし1番は、ユナには『俺がGPDを辞めた経緯』を知られたくないというのがある。
独りよがりな考えなのは承知だが、俺はなるべくユナには笑顔で居て欲しい。
こんな俺の、自分ではとっくの昔に割り切った過去を明かして昏い気持ちにさせるのは本意じゃないのだ。
……後で、口も頭も軽い
「話を戻すけどなユナ、キミはここ数日の模擬戦で無駄な動きがなくなった。けどな 無駄のない研ぎ澄まされた動きって言うのは逆説的に言うととても“予測し易い動き”でもあるんだ。的確で無駄のない軌道、常に急所をついてくる攻撃に剥き出しの闘争心。――ハッキリ言ってずぶの素人だった頃の方が予測しにくかった」
「えええっ! それってつまり、弱くなっちゃったんですか私!?」
「違う違う! あくまで戦ってて攻撃が読み易いかどうかって問題だから。多分、明日出場するミドルクラスに出場するダイバーの大半は、君の動きをまともに捉えられないと思う。ただ、俺みたいにある程度場数を踏んだ奴からするとしてみると、ユナの動きは直線的で読み易いんだ。――だから今後は、相手の“虚を突く動き”を意識した方が良い」
自身の成長にイマイチ実感を持てないでいるユナに、俺は次の課題を提示する。
「きょをつく、ですか?」
「要するにフェイントを意識するんだよ。わざと無駄な動きをして相手のタイミングをずらしたり、サーベルで斬撃! と、見せかけて無警戒だった位置から蹴りみたいな。――後は、意図的に隙を作って誘い込むっていうのもある。ユナ、最後の背後に回った攻撃、どうしてしかけようと思った?」
「ええっと、ゼロクアンタの真後ろは廃墟があって、側面からだとGNフィールドを発生できるシールドがあったし、……あの場所が1番、攻撃し易かったからです」
「ん、そうだな。あの位置取りだと背後上空からの襲撃が最適解だ。俺でもあそこを攻める。――そう誘い込む為に、わざと隙を作っておいたんだ」
「っ!! わ、わざとだったんですかアレ!?」
師のセコい企てを聞かされたユナが、驚嘆の声を挙げる。
「バトル漫画なんかだとよく“一部の隙もない構え”って奴あるだろ? けど実際アレって善し悪しなんだよな。だってどこからしかけていいか分からない構えって言うのは逆にどこからしかけられてもおかしくないって事だろう? 全周囲を常に警戒し続けてたら神経が擦り切れる。だから俺は常に1箇所、攻撃を撃ち込みやすい“隙のある構え”を心がけているんだ」
「じゃ、じゃあ、ししょーが今まで見えないって言いながらトランザムした私の攻撃を躱せてたのは……」
「うん。ユナが俺の用意した隙に飛び込んできてくれたから対処できた。例え目で追いきれない速さでも来る場所と凡そのタイミングが分かれば対処できるからね」
100円ショップで売ってる様な安い手品のタネを披露するノリで、俺はスーパートランザム攻略の秘密を明かした。
地形を利用した攻撃場所の限定。
意図的な隙を作り誘い込む軌道の操作。
カウンター攻撃。
1つ1つはある程度場数を踏んだ中級者なら誰でもできる。兵法というのもおこがましい基礎的なテクニックだ。
しかし、それも組み合わせ次第ではユナの様な才能の塊相手でも翻弄する事が出来る。
要は使い方次第なのだ。
「…………スゴい! 戦ってる最中にそこまで色んな事を考えられるなんてやっぱりししょーは超スゴいですよ!!」
「だから凄くないって。寧ろ凄くないからこういうセコい小技ばっかり身に付けたんだよ。ユナなら多分、真っ直ぐなスタイルでも俺を超えられると思う。けど、別に天才肌の子がこういう小技を使っちゃいけない理由もないからね。今後は俺が度重なる敗北の末に会得した技術を少しずつ教えてあげるよ。目指せ、虚実を極めた達人ファイターだ」
「はいっ!!」
天賦の才を持つユナのポテンシャルを伸ばしつつ、凡庸であるが故に培った技術を会得させ、『万能型の天才』を目指す。それが俺のユナに対する指導方針となった。
もしこの方針が上手く行けば、本人が掲げる『打倒クジョウさん』も決して夢物語ではないと思う。
「あっ、それともう1つお聞きしたいんですけどししょー。さっきの模擬戦で仰ってた“かくせーじん”って何ですか?」
「…………あー、アレね? 実はニシカワさんがくれたアイデアで――」
という訳で今回は真っ当な師弟らしくダイチVSユナの模擬戦でした。
荒々しい才能で突っ走るユナと、数えきれない敗北の末に会得した技術で対するダイチ。
因みにGPD時代のダイチの総合戦績は約500戦中130勝370敗という具合で、その内勝ち星の大半は模型部でしごかれ大会レギュラーの座を勝ち取った高1以降だったりします。
中学時代のダイチはとにかく負けっぱなしのクソ雑魚ファイターでした。
但し、メンタルだけはアホみたいに強い。ただそれだけが取り柄。
唐突に出てきた【
久々にニシカワさんが出張ります(笑)