ガンダムビルドダイバーズ REBOOT   作:キラメイオレンジ

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第44話 大会前夜②

――あれはユナの試験が終わった3日前の水曜日の晩。

 

隙あらばお泊りを目論む困った弟子を21時前に送り届け終え自宅に戻った俺は、ニシカワさんがまとめてくれた[ゼロクアンタライザーの現時点の問題点]と題されたレポートに目を通していた。

 

「やっぱり流石だなニシカワさんは、あれだけの模擬戦で俺も気づかなかった問題点とその改善案をこれだけ書き連ねられるなんて」

 

相対したからこそ気づく重心や可動域の微細な問題点、敵視点で見た所感などが非常に分かり易く書かれていた。この分析力、味方だと心強いが敵に回すと厄介だな。

 

その中でも俺にとって特に有益だったのは、現状まだまだ課題の多いオリジナル技術【トランザムモーメント】の合理的運用についてと記載された項目だった。

 

「えーと、[現状、瞬間的なトランザムによる機体制御のブレはガンプラの改良や操縦技術向上による補正だけでは困難。よって対策として特定の“型”を作成する事を推奨]。――要するに技を作れって事か?」

 

GBNに於いてはCランク以上のダイバーは稀にシステム的な補正も受けた完全オリジナルの【必殺技】を会得できるらしい。

 

俺はまだ直接この目で拝んだことはないが、クジョウさんが以前使っていたガンダムAGEⅡマグナムの【EXカリバー】やビルドダイバーズのリクくんの愛機ダブルオースカイメビウスの前身であるダブルオースカイの【ハイパースカイザンバー】などは動画で見た事がある。GPDにはなかったオンラインゲームならではの新要素と言えるだろう。

 

アキラが以前語っていたが、元来“リアルロボットアニメの金字塔”と呼ばれるガンダムシリーズを起源とするGBNに於いて『そんなスーパーロボットみたいな機能』と批判的な意見を持つ者も少なからずいるらしいが、シリーズ最大の異色作であり所謂アナザーガンダムの原点【機動武闘伝Gガンダム】や武者ガンダム・騎士(ナイト)ガンダムが主役の作品に於いては当たり前の様に存在する概念なので、歓迎する層も多い。

 

しかし残念ながらCランクに到達すれば誰もが生み出せるという訳でもなく、例えSランクでも習得していないダイバーは少なくない。そして無論、そもそもCランクに達してすらいない俺には夢のまた夢の話だ。

 

しかしシステム的な補助はなくても、ダイバーの中には度重なる反復練習によってオリジナルの動きを見せる【セルフ必殺技】を持つ脳筋ダイバーもいるらしい。

 

実際GBN内の動画サイト【G-tube】では[セルフ必殺技作ってみた]という題で披露するダイバーもチラホラいるらしい。

 

因みに最近の流行りは“○○の呼吸”と称する斬撃系らしい。……まあ、面白いもんね。うん。

 

話を戻すが、要するにニシカワさんは俺にそうしたセルフ必殺技を編み出し、トランザムモーメントを併用してみてはどうかと提案しているらしい。

 

確かに、理にかなった提案だ。試してみる価値は十二分にある。しかし――

 

「ご丁寧に技名まで考えちゃったのか……。しかも瞬烈戦技(モーメントアーツ)ってなんだよ瞬烈戦技(モーメントアーツ)って。漢字で書いて英語読みって滅茶苦茶中2病風味じゃないか」

 

これは俺の高校時代、GPDプレイヤーの間で流行った通説なのだが『武者や騎士(ナイト)ガンダム使いには中2病患者が多い』という格言がある。

 

ファンタジー色が強い世界観の作品を好む為、漢字で書いて英語読みとか、日常生活ではまず使わない邪王なんたら~的なワードを多用する事への抵抗感がない故だ。

 

しかもニシカワさんのガンプラ観に多大な影響を与えたレッドとか言うアホ(昔の俺)は、当時まだ中2病が治りきっておらず、発言や振る舞いにアイタタタ~な面を抱えていた。

 

――そう。つまり巡り巡って全部俺の所為という事だ! ハハハハ!

 

無論、俺は中2病的な発想の全てを否定している訳じゃない。

 

人の想像力というのは中2病=思春期に育まれるものであるし、ましてガンプラを作り動かすことに魅了されたGBNプレイヤーの大半は、ぶっちゃけ中2病経験者だろう(※ダイチ個人の見解です)。

 

漢字で書いて英語読みのグローバルなネーミング。

邪王滅殺なんたらかんたら、○○の呼吸、大いに結構だ。

 

しかし現実の病気にもアレルギーがある様に、俺の様に1度重度の中2病を患っていた人間の中にはそうした単語に対し一種の拒否反応というか抵抗感を示す者もいるのだ。

 

――まあ、要するに昔の痛々しい自分を思い出し身悶えるだけなんだが。

 

なので俺は翌日の木曜日、掃除当番だったユナが来るのを待つ間、ニシカワさんに提案を受け入れつつ『技名を付けるのはちょっと……』とお断りを入れようとした。だが――

 

「技名は単に恰好をつける為に用いるのではありません! 苦心の末に自ら編み出した技術に名を付けると言うのはそれ即ち、魂を形にする事なんです!! そしてそれは使い手自身の心を昂らせ、敵に威圧感を与える。表面的なステータスでは測れない力があるんです! 貴方ほど実力のあるガンプラファイターがそれを軽んじるとは何事ですか!!」

 

と、かなりガチ気味に怒られた上、その後30分ほど説教を受けてしまった。

 

……これはあくまで俺の私見なのだが、ひょっとするとニシカワさんは、中2病を肯定することで心酔するレッドの中2病っぷりを肯定したいのではないだろうか? 

 

だとしたら余計な事を……!

一体レッドのバカはどれだけ俺の足を引っ張れば気が済むんだ!? 

いや、俺なんだけれども!

 

「……まあ、確かにリアルタイプの機体の使い手が技名を使わないって訳でもないですもんね? Gガンは勿論ですけど、00(ダブルオー)でも『トランザム!』って皆叫ぶし、ガンプラバトルでも伝説的な活躍をした【イオリ・セイ、レイジコンビ】の【ビルドストライク】なんかも必殺技叫んでましたもんね?」

 

「その通りです! 必殺技にリアルもSDも関係ありません! ――ですから技名、キッチリ叫んでくださいね?」

 

「えっ、最早決定事項!?」

 

 

・・・・・

 

 

「――ていう訳なんだよ。ニシカワさんって、割と強引って言うかマイペースだよな? まあ、実際叫んでみると結構楽しくてクセになってんだけど……」

 

「……へー、“師匠”ってばまた私に内緒でカオリお姉ちゃんとお喋りしてたんですか? フーン、へぇ~~~~」

 

「えっ、ちょ……ユナ?」

 

さっきまで赫星刃(かくせいじん)のネーミングに目をキラキラさせていた筈のユナが、何故だか酷く冷え切った眼差しを俺に向けてきた。

 

何だその夫の浮気を咎める奥さんみたいな視線は? 怖いんだけど!?

 

「……ししょーって結構セッソーなしさんですよね? 私が目を離すとドロボーにゃん子を発情させるし、カオリお姉ちゃんともなんだかんだ仲良しだし?」

 

「と、友達が多いのは悪い事じゃないだろ……?」

 

「そうですけど……そうですけど!」

 

何故か急に機嫌が悪くなったユナに対し正論を以て説き伏せようとするが、反論の言葉が思いつかなくなったユナは、俺の腹部に頭突きを叩き込む……いや、これ抱きつかれてる?

 

「ユ、ユナ……?」

 

「……ギュ~~ってしてください」

 

「はい?」

 

「ですから! ぎゅ~~って抱きしめてくださいって言ったんです! じゃないと私、何だか心がザワザワモヤモヤして、明日の大会に集中できません! お願いします!!」

 

「わ、分かった……い、痛かったら言えよ?」

 

何だか脅迫する様な威圧感でおねだりをするユナの要望に応え、俺は彼女の背中に手をまわし、力を入れ過ぎない様に気を遣いながら抱きしめた。

 

――アレ、なんだろう? 何か前にもこうやって機嫌を悪くした女の子を抱きしめた気が?

 

「――んん♡ ……えへへ♡ ししょーのぎゅーって何だかちドキドキするのに落ち着いて不思議です♪」

 

「そ、そうか? 気に入ってくれたならよ、良かったよ……」

 

「おとーさんもおかーさんを怒らせた時とか、よくこうやってギュ~ってして仲直りするんですよ? それでぎゅ~の後は必ず私に『9時までに寝なさい』って言うんですよ。それで朝になるとおかーさんいっつもツヤツヤなんです。何でですかね?」

 

「さ、さあ? ししょーにもよくわからないなー」

 

よ、予期せぬ形でアサヒ家の夫婦の営みの一端に触れてしまった……。

すみませんゴウザブロウさん……。

 

 

・・・・・

 

 

「あっ、お疲れ様ですアカギさん、ユウナちゃん。――って、何をナサレテルンデスカ……?」

 

時間は店の閉店を30分前に控えた19時30分。

 

GBNをログアウトした俺とユナは店の扉の前で閉店作業を始めていたニシカワさんと遭遇。――因みにユナは現在、俺の右腕に抱き着き柔らかな感触を提供しつつ自由を奪っている。うん、言うまでもなく犯罪臭漂う(イリーガルな)絵面だ。

 

ああ待ってニシカワさん!

その右手に持ったスマホ、一先ずしまって!!

 

「……最近は多少信用しても大丈夫かと思った私がバカでした。やっぱり貴方は根っからの幼女性愛者なんですね……?」

 

「いや、だから違いますって! ホラ! ユナ! だから離れなさいって言っただろ!? ししょー捕まってもいいのか!?」

 

「むー、どうしてししょーはカオリお姉ちゃんが居る時だけ私に冷たくするんですか? ……さっきはあんなに力強く抱いてくれたのに……」

 

「だ、だだだ抱いた!? ちょ、ちょっとアカギさん! 少し事務所でお話伺っていいですか? け、警察とユウナちゃんの家に電話しないと……」

 

「やめて! ガチっぽいノリで対応しないで!! ユナもどうして絶妙なタイミングで際どい台詞を言うのかな!?」

 

「事実じゃないですか!」

「そうだけれども!」

「やっぱりそうなんですか!?」

「ああもうっ! 一体どうすりゃいいんだよ!!?」

 

天使のような美少女とクールな美人に挟まれ、俺の苦難の日々は続く!




瞬烈戦技(モーメントアーツ)
天昇騎士(ライザーナイト)との模擬戦の後、ニシカワさんから渡されたレポートの[トランザムモーメントの合理的運用方法]という項目に記載されたゼロクアンタライザーの新しい戦闘技術理論。

・瞬間的なトランザムの起動により粒子消費量の節約とトリッキーな攻撃を目的に考案されたトランザムモーメントではあるが、直線的な起動ならいざ知らず複雑なマニューバの最中などではどうしても機動がブレてしまう。そこで予め一定の(フォーム)を構築し、それをダイバー自身(ダイチ)が身体に覚え込ませる事で、ブレを解消し精度を上げる。――要するにシステムとしての問題点をファイターの技量と根性でカバーするという超脳筋なセルフ必殺技。

・技の基礎として現段階では急加速による機体のブレが最小限で収まる“直進”と“旋回”という単純な軌道を軸に円運動を意識したモーションによる斬撃技【赫星刃(かくせいじん)】や、急加速・急制動による緩急を利用して相手の距離感を狂わせて【ミラージュステップ】の2種類が存在。因みに名付け親はニシカワさん。ダイチ本人は嘗ての中2病時代のやらかしから技名を名付けるのに消極的だったが『外連味=ハッタリを効かせるのも大事』という彼女のゴリ押しに負けた。

・極東オープン前日段階で5つほど型は完成しており、今後も増える模様。そしてこれらの(フォーム)はダイチが密かに考える『トランザムモーメントの極致』=必殺技の会得を見据えたものでもある。

<現段階の型の一例>

(1)赫星刃・炎牙(えんが)
天昇騎士(ライザーナイト)との模擬戦(1戦目)で咄嗟に繰り出した動きを技として完成させたもの。基本的な動きは00セカンドシーズン最終話座ケルディムが披露した“ワンセコンド・トランザム”の斬撃版。

・正面から飛び込んでくる敵に対し、接触するギリギリのタイミングでトランザムを起動させ高速旋回で回避しつつ、背後から両断するカウンター斬撃。攻撃時、3倍化させた出力に加え、旋回運動時の遠心力も加わる為、凄まじい威力を発揮する。しかしタイミングの取り方が非常に難しく。全体的に無駄のない構造のゼロクアンタと、ダイチの経験がなければまず成功しない為、見様見真似による模倣は不可能。

・因みに赫星刃の赫星(かくせい)は覚醒と、炎牙(えんが)の炎は円と懸けてある。

(2)赫星刃・裂空(れっくう)
・上空から迫る敵に放つ対空迎撃版の赫星刃。正面からくる敵には1回転。背後から仕掛けてくる敵には半回転の捻りを加えて放つ。

・技を発動する際の要として相手を誘い込む為に“敵に視線を向けない”事。意図的な隙による誘導と、経験に基づく直観で攻撃を充てる心眼の太刀。無論その難易度は鬼畜レベル。
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