ガンダムビルドダイバーズ REBOOT   作:キラメイオレンジ

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今回も週一投稿。

なかなか大会を始められず心苦しい限りですがなにとぞご容赦を(汗)


第49話 再会する(あか)と黒

俺と彼――クロミネ・シュウジがこれ迄に顔を会わせた数は3回。

 

その中で会話をした時間は合わせても1時間に満たないだろう。

 

にも拘わらず、俺の記憶の中で彼と言う存在は鮮烈なまでに残っている。

 

それは、彼の持つ苛烈で暴力的な言動や立ち振る舞い、それでいて他者を引き付ける優秀さとカリスマ性を持つが故、というのもあるだろう。

 

類稀な才能と、そんな天から与えられた力を持って他者を見下し、踏みにじる事に喜びを見出す人間性。――有り体に言って、俺は彼と言う人間に対し『決して相容れない存在』であると出会ったスグに確信した。

 

しかし一方で、彼のその暴力的で冒涜的な振舞の内に秘めた感情――『踏みにじる他に人と繋がる術を知らない孤独』に対し、何処か共感(シンパシー)を抱いた。

 

何をやってもどんくさく不器用な俺は、その愚鈍さ故に苦しんでいる誰かに手を伸ばす事でしか、自己肯定の術を知らなかった。

 

弱ってるいる人間や悲しんでいる人間に寄り添い、その人を笑顔に出来た時、自分が少しだけ真っ当な人間になれたと思えた。

 

力がある故に、他者と繋がれない彼と、力がない故に他者と繋がる事でしか自身を肯定できない俺。

 

彼が俺をどう思っているのかは知らないが(恐らく、取るに足らないカスだと思っているだろうが)少なくとも俺は彼の振る舞いを否定しつつも、憎みきれず、嫌悪しきれない。

 

そんな複雑な感情を抱いていた。

そして、ほんの僅かばかりだが、“負い目”も……。

 

 

・・・・・

 

 

――オイ、あそこにいるの【カタストロフ】の【暴君(タイラント)】じゃねえか?

――うわっ! ホントだ。アイツもこの大会出るのか……イヤだなぁ。

――ていうか何? なんかデカい人が絡まれてない?

――シッ! 見るな見るな! 関わらないようにするのが1番だよ!

 

 

「クク、どうしたバカ面? あまりにも劇的な再会に言葉が出ないか? それとも……まさかとは思うが、俺に対して“悪い事をした”なんて引け目を感じたりしてんのか?」

 

「…………」

 

「……ハッ! まさかと思ったがマジかよ!? “テメェをボコボコに殴り飛ばした奴”と6年ぶりに顔を会わせて申し訳ないと思う? クハハハッ!!」

 

 

「――――ハッ?」

 

 

プツン! という存在しない何かが切れた音と共にユナの顔つきが可愛らしい子犬から狼のそれに豹変する。ストップ! ユナ、ハウス!

 

「アキラ、ユナ抑えて」

「ラジャーっス!」

「えっ、ちょっ! 話してくださいアキラさん! ししょーも酷い! 私猛犬じゃないですよ!?」

 

猛烈に嫌な予感がした俺は視線をクロミネに向けたまま、アキラにユナの拘束を要請。

 

フゥ、一旦深呼吸し、意思を強く持って瞳に力を込める。

毅然とした意志で相対さなければ、この男に呑まれる。

 

「――心苦しさは確かに感じているよ。けど、だからって君に詫びようと思う程へりくだるつもりはない。そして別段、あの時の事を恨む気持ちもない」

 

「ハン、そうかよ。なら俺がお前に言う事も同じだ。過去なんざどうでもいい! テメーがまたこうして俺の前に現れた。それだけで十分だ」

 

「……俺の事、前もって知ってる風な口ぶりだな?」

 

「ああ、ちぃと耳聡い下僕がいてね。――クク、復帰早々随分と活躍してるみてぇじゃねえか? 初心者狩りとっちめて、あのクソウゼェ世話焼きオカマとヴァルガでデート、挙句の果てに粋がったクソガキ共を成敗? GBNを満喫してるじゃねえか」

 

えっ、何コイツちょっと怖っ!

 

体格以外割とモブなダイバールックの俺に一目で気づいたことに対し感じた疑問を尋ねたら、俺がGBNにログインして以来の仔細を知られてて軽く悪寒を覚えた。

 

ヴァイス・ユニオンの一件は確かに話題になったが、クジョウさんが気を利かせて俺の存在は口外しないでいてくれたし、マギーさんとヴァルガに行った事なんて事件とすら呼べない出来事だ。

 

周囲に取り巻きを従えている点からしてフォースを束ねているのは容易に察せるが、彼はもしや、かなりこの世界で力を持っているのか?

 

「周りの彼らは君のフォースメンバー?」

 

「ああ、俺の為に動き、俺の為に死ぬ。そういう生き方をテメェで選んだ使い勝手の良い道具(カス)どもだ! クク、とんだドMどもだよなぁ? キモいったらありゃしねぇ」

 

「……君こそそういう物言いは相変わらずなんだな」

 

「クク、そういうテメェもな。自分の事じゃ火付きが悪い癖に、見ず知らずだろうが他人が侮辱されればスグにそういう目を向ける。――イイねぇ。そういう所、相変わらず最高に愛しい(気に入らねぇ)ぜ……!」

 

「気が合わないのはお互い様だろ? お互い顔を突き合わせても不快になる事がわかってるなら、距離を取るのも大人の処世術だと思うんだけどな……」

 

6年ぶりに顔を合わせて早々、依然と変わらぬ悪態を吐く彼に、俺は辟易とした気持ちで応える。彼との会話は初対面以来基本的にこんな形だ。

 

クロミネ・シュウジの俺は言う事、やる事、考え方。

その全てを徹底的に侮辱し、否定する。嬉々とした邪悪な笑顔を浮かべながら。

 

それは1から10まで、悪意に塗れたものなのは間違いないのだろうが、一方で俺を否定している時の彼には憎悪や怒りと言った負の感情が感じられず、寧ろ親しい友人に向ける様な好意的な意思が感じ取れる。

 

有り体に言って、それが非常に不気味で怖かった。

 

もしやこれはアレか? 好きな女の子に意地悪しちゃう男子小学生的な……気持ち悪っ!

 

「ハッ、なんで俺がテメェごときの指図を受けなきゃならねえ? 生憎と俺は俺に傅く下僕共より、俺に盾突く不快な(カス)を嬲るのが好きなんだよ! だからテメェは、今後も末永く、俺に罵られ続けりゃいいんだよ……♡」

 

ゾワゾワゾワ――!

 

気持ち悪い!

再会早々申し訳ないけど、コイツちょっと気持ち悪い!!

 

何だ今の『少女漫画で1番人気でそうな俺様キャラの上から目線の告白』的な罵倒は!?

 

クロミネ(この男)は一体、俺に何を求めてるんだ!?

 

「……あー、俺、もう行くね? 他に挨拶しときたい人がいるから……」

 

以前、仕事(配達)先で対面したゲイバーのマスターに胸元を触られ『ねぇ、お休みって何時? 今度一緒にお出かけしない?』と口説かれた時に似た悪寒を感じ、俺は速やかにこの場から離脱を試みる。

 

「オイ、待てよ! 折角俺が直々に挨拶に来てやったんだ。もう少し、良いだろ?」

 

が、俺の【にげる】コマンドはキャンセルされた! ボス戦か!?

 

――ヒュッ!

 

俺が本格的にクロミネに対し恐怖を覚え始めた矢先、一陣の風が駆け抜けた。

 

春風の様に爽やかで、ほのかに甘いその香り、一瞬目に映る桜色の髪――ってユナ!?

 

「私のししょーに…………いつまでもしつこく絡まないでください!!」

 

「あん? “ゴキュ!”――ボフォ!?」

 

「あっ……!」

「えっ?」

「んなっ……!?」

 

刹那、その場に居た俺達当事者並びに遠巻きに眺めていた見物人の思考が停止した。

 

鉄砲玉の様に飛び出したユナの跳び蹴りが――クロミネの顔面にヒットし、彼をダウンさせたのだ。

 

さんざっぱら強者ムーブをしまくり、たくさんの取り巻きを引き連れた。

周りの人々の反応を見るに相当に名前(恐らく悪名)が知れ渡っている男を。

 

――思いっきり蹴り飛ばしおった!

 

「ユゥウウウウウナァアアアアアアアア!! 何やってんだぁああああああ!?」

 

台無しだよ! 凶悪極まるライバルキャラ登場ってノリだったのに色々台無しだよ!?

 

ていうか、えっ? GBN内なら痛みはない筈だけど、大丈夫かクロミネ!?

 

「……てぇな」

 

あっ、起き上がった。

 

ゲーム内の事だから鼻血とか痕とか残ってないし、案の定大したことなさそうだけど、なんかもう『別に全然平気ですけど何か?』って体裁整えてる感じが何だか痛ましいよ!

 

ギャグ描写NGのシリアスキャラが急にコメディパートに巻き込まれたみたいな雰囲気で、なんだかいたたまれないんだけれども……!

 

「あ、あの……だ、大丈夫か? お、俺の弟子が申し訳ない……」

 

まだ半分混乱状態だが、取り敢えず弟子がしでかした不祥事を詫びるのも兼ねて彼の身を案じる。気まずくて仕方ないけれども!

 

「あぁ? そこの弾丸娘、テメェが飼ってるとかいうガキか? ハン、なかなか粋の良いじゃねぇか――よっ!!」

 

「うおっ……‼」

 

するとクロミネは、クールを装いながらも内心ちょっとキレていたのか、俺の顔面に向かって思い切り拳を放ってきた。――が、彼の拳は俺に直撃する直前、側面から放たれたユナの回し蹴りによって軌道が逸れて空を切った。

 

ミズキさんとの模擬戦での武器のポンポイント破壊といい、この()の動体視力はどうなってんだ!?

 

「もう1度言います。これ以上私のししょーに絡まないでください。触らないでください。関わらないでください。――ししょー(この人)は、あなたみたいなランボー者が近づいていい人じゃありません!」

 

ぶっとんだ状況を脳で処理しきれず戸惑う俺の前で、クロミネという360度どの角度から見てもヤヴァそうな男に対し、精悍な顔つきで啖呵を切る美少女。――イケメンか!

 

「……ユーナ」

「っ! ハイししょ“バシン!”あたっ! なにすりゅんですか!?」

 

明らかにししょー()より男前の弟子の雄姿にちょっとキュン♡ってきてしまう自分をちょっと情けなく思いつつ、取り敢えずユナをデコピンし、正気に戻す。

 

「何するもくそも、初対面の人の顔面に蹴りを入れるんじゃありません! 相手が見るからにチンピラ100%な上にここがGBNだからよかったものの、リアルでやったら事件だぞ!!」

 

「オイ、何気に人を蹴り入れてもセーフな人に淹れてんじゃねぇカスゴリラ?」

 

「あっ、ゴメン! つい本音が……!」

 

ああ、ダメだ! ユナの行動がぶっ飛びすぎててちょっと冷静でいられなくなってる俺も! ああああ! クロミネの後ろにいる取り巻きのフォースメンバーもメッチャ睨んでる!

 

「テメェこのクソゴリラ!! 俺達の暴君(タイラント)に何失礼ブッこいてくれてんだ!? 殺すぞ!!」

「そっちのガキも誰の顔面に蹴りいれたか分かってんのかオラ!?」

 

まだ試合が始まってもいないのに一触即発の大ピンチってどういうことさ!?

 

「――オイ、ご主人様の獲物横取りしてんじゃねえぞカスども。殺すぞ?」

 

そんな一触即発の空気を諫めたのは、他でもないクロミネだった。

 

頭に血が上っていた取り巻き達はたちまち血の気が引いた表情で下がった。

 

「……クク、顔面に攻撃貰うなんざ久し振りだな。ご主人様を侮辱されて理性ぶっ飛んで即攻撃とは、随分とまあ躾の行き届いた犬っころ飼ってるじゃねえか?」

 

「この子は弟子だ! 犬扱いすんな!!」

 

「…………(ポッ)」

 

「えっ? ちょっ、否定しようユナ!? なんでちょっとまんざらでもなさそうな顔してるの!? それこそさっきみたいに飛び掛かるくらい怒っていいとこだよ!?」

 

可愛い弟子を飼い犬扱いされて反論する俺と対称的に、何故かユナ本人は『それはそれで……』みたいな顔でモジモジする。止めて! お願いだからこれ以上、道を踏み外さないで!!

 

「ユナっつたか? 半端に懐くだけの駄犬ならアカギから引っぺがすつもりだったが気に入ったぜ。いずれ師弟仲良くボロ雑巾にしてやるから、遊び甲斐がある程度に腕磨いとけや」

 

一方、犬扱いをしたクロミネはと言うと、そんなユナの事を一目置いた様な物言いで評価する。

 

俺に対してもそうなのだがどうもこの男、暴言を吐きながらでないと人を褒められないらしい……。新手のツンデレか?

 

「べー、だ! 気安く私に命令しないでください! この“トゲトゲライオン”!」

 

一方、そんなクロミネの挑発に対し、ユナは舌を出し“アッカンベー”の仕草で返答(可愛い!)し、“ドウボウにゃんこ(ミズキさん)”に続き、これまた個性的なあだ名をつける。

 

「クク、本当に面白い犬ガキ拾ったじゃねえか? まあ、それはそれとしてアカギ、今日はテメェの腕がどのくらい鈍ったか、或いは上がったな、じっくり観察させて網羅うぜ? せめて最低、剣聖だとか注目されてるカビくせぇ骨董品野郎に遅れはとるんじゃねぇぞ?」

 

「伝説級の相手に勝つ事が最低限って、相変わらず俺を過剰評価し過ぎだ。――まあ、勿論やるからには勝つ気100%だけどな。例え相手が剣聖だろうと、キミだろうと――クジョウさんだろうと」

 

「ハッ、とりあえず闘志だけは昔のままで安心したぜ。本当にテメェは俺の宿敵に相応しい男(最高に気に入らねえクソ野郎)だよ!」

 

最後にそう言い残し、取り巻きと共に去って行ったクロミネ。

何と言うか……言いたい事だけ好き勝手言って帰って行ったという感じだ。

マイペースというか、なんというか……。

 

「ししょー!!」

「おわっ!! こ、今度はどうしたユナ!? ていうか顔が近い!」

 

ホッと一息ついたのも束の間、今度はユナが凄まじい剣幕で詰め寄ってきた。

怒っている……とは少し違う様子だが、迫力が尋常ではない。

 

「さっきあのトゲトゲライオンに殴られたって言ってましたけど、大丈夫ですか!? お怪我とかしてませんよね!?」

 

「あ、ああ、そのことか。大丈夫だよユナ。殴られたって言ってももう6年前の事だし、怪我なんてとっくの昔に治ってるさ。――それにあの件は、俺にも悪かったところがある」

 

あの見るからにバイオレンスな男に現実でボコボコにされたのではと心配するユナに、俺は簡単に事情を簡単に説明した。

 

あれは高校3年生の6月半ば、だったかな? 土砂降りの雨が印象的だった。

 

当時、家庭の事情で一足早くGPDを引退しなければならなかった俺が家に帰る途中で待ち構えていた彼に『大会なんざクソどうでもいい。今すぐ俺と戦え!』と勝負を申し込んできた。

 

しかし当時はGPD全国大会の地区予選を数日後に控えた時期。

 

1度でもバトルをすれば修復に時間を要するバトルなど言語道断だ。

 

何より当時の俺は、『もうGPDが出来ない』という悔しさから目を背ける為に、極力模型部やガンプラから距離を置いていた。――そうしなければ、家族や友人に対し八つ当たりじみた感情をぶつけてしまいかねなかった。

 

そうした事情や心情を説き『キミとは戦わない。最後の全国大会に専念した方が良い』と答えると、クロミネは俺の胸倉を掴み激昂した。

 

『2度も頂点(てっぺん)取った大会なんざ、今更どうだっていいんだよ! 今の俺にとって1番重要なのは、テメェと全力でぶつかり合って、ぶっ壊し合う事だ!! 部の連中? 学校の名誉? 知った事かよ! いいから戦え!!』

 

そう言って強引にバトルを強要するクロミネに対し、当時のガキだった俺も意固地になり『大会に出たくても出れない俺に、よくそんな勝手なことを言えるな!』と憤りをぶつけ、頑として断った。

 

それからはもう、記憶も曖昧だ。

 

一体彼が俺のどこに惹かれて宿敵の様に扱うのかは当時も今も理解し難いが、そんな俺の態度にキレたクロミネは、往来で俺の事を何度も何度も殴りつけてきた。

 

当時、家計を支える為になんとしても就職をする必要があった俺は、まかり間違っても暴力事件など起こすわけにもいかず、さりとて理不尽な暴力に訴えるクロミネに屈するの事も嫌だったので彼が殴り飛ばす度に何度も立ち上がり『俺は戦わない!』と言い続けた。

 

結果、周囲に居た誰かの通報によって駆け付けた警察官によりクロミネは拘束され、ずぶ濡れになりながら殴られ続けた俺は、怪我と熱で3日程入院した。

 

その間、資産家らしいクロミネの父親の代理人ががウチの両親に示談金と称し目玉の飛び出る金額がかかれた小切手を持参して現れるが『テメェの息子をボコった野郎の施しなんざ受けるか!』とその場で親父が破り捨てたり、ブチきれたアキラとユキムラが月宮高校に殴り込みに行こうとしてソウが止めたりと色々あったらしいが、俺はほぼ寝込んでいたので仔細は分からない。

 

そしてその後、人づてに聞いた情報で、その後クロミネの暴力事件が公になり、全国優勝2連覇の月宮学園はその年の大会を欠場することになった事。

 

学校、そして家の名に傷をつけたとしてクロミネ自身が学校を退学処分を受け、勘当された話を聞き、俺の胸に後悔と罪悪感が残った。

 

「俺の怪我はそれから1週間もせず治ったけど、クロミネの人生は、その時の事件をきっかけに大きく変わった。――まあ、俺は俺でボコられた訳だから責任を感じるって程でもないど、やっぱり少し、引け目は感じてるんだよな……って、ユナ? 泣いてんの?」

 

過去の自分のガキっぽさで1人の人間の人生に影を遺した。

出来る物ならユナにだけは一生隠し通したい過去だった。

しかし彼女はそんな俺に対し軽蔑の視線を向けず、代わりに大粒の涙を流してくれていた。

 

「なんでって……ししょーが自分の為に泣いてくれないからですよ! なんでししょーがそんなに苦しそうな顔するんですか!? どうしてししょーはそうやって、あんな酷い人の為に心を痛めるんですか!? 初めて会った私やドロボーにゃんこの為なら、あんなに怒れるのに! どうして自分の為には怒れないんですか!!?」

 

ともすると先程クロミネに向かた敵意よりも強い感情を込めて俺の態度を糾弾し、胸に飛び込んだなくユナ。

 

俺なんぞのつまらない過去でこの()を泣かせる事だけはしたくないと思っていたのに、本当に不甲斐ない師匠だ。

 

俺は大泣きするユナの頭を撫で、涙と共に彼女の感情がある程度落ち着くのを待ってから、諭した。

 

「ユナ。俺は別に仏でもなきゃ聖人でもない。嫌な事があったら普通に泣いたり怒ったりするし、場合によっては誰かに八つ当たりしたり嫉妬したりもする。そんなどこにでもいる俗っぽい大人だよ。ただ、俺の周りには何時だって、今のユナみたいに俺より先に俺の為に泣いたり怒ったりしてくれる人が居た。だから泣かずにいられるんだ。――ありがとうな」

 

周囲に人達の中には偶に俺の事を聖人の様に扱う人もいるが、それは単に俺が人の縁に恵まれているだけの話だ。

 

スケベで適当だが曲がった事は嫌いな親父に誰よりも家族想いな母さん、生意気だが慕ってくれる弟。

 

部長の身でありながら最後の大会を目前に退部し、心の弱さから距離を置いた俺と今でも友人関係を続けてくれる模型部の仲間達――そして、ユナ。

 

何の才能もない至って凡庸な俺ではあるが、唯一、“人の縁”に関してだけは誰よりも恵まれているという自負がある。

 

「うぅ……ししょー、それでも私、悔しいです。あんな人がししょーの心と体に理不尽に傷をつけたのが、許せません! その癖に、まるで自分が心の奥でししょーと通じ合ってるみたいな態度を取るのも、なんだかムカムカします! 私の中の“嫌いな人ランキング”でドロボーにゃんこを追い抜いて1位の座に君臨です!」

 

「あ~、クロミネが偶に見せる馴れ馴れしさは俺もよく分からなくて正直、若干気持ち悪いと思ってるよ……。けどなユナ? 例えどういう事情があろうと、怪我をしないゲームだろうと、喧嘩はダメだ。というか初手顔面跳び蹴りはアウトだから。確かに俺達は戦う為にこの世界にログインしたけど、それは“ムカつく奴をやっつけたいから”じゃなくて、楽しむ為、自分自身を磨く為なんだ。――だから、俺とクロミネにあった事とか、因縁は忘れて、もっと純粋にバトルを楽しもう? それに俺は、怒ったり泣いたりしているユナより、笑ってるユナが好きだぞ?」

 

俺はユナが好きだというギュっと抱きしめる感じの抱擁で彼女の心を宥め、その上で私怨によるリアルファイトを窘めた。

 

幾ら俺の為にしてくれた行動でも……否、原因が俺であるからこそ、ユナにそんな暴力的な性格にならないで欲しい。

 

「……うぅ、ししょーの弟子たらしぃ」

 

そんな俺の訴えが届いたのか、ユナは顔を赤くしながら、まだ『完全に納得しませんけど』という主張を視線でしつつ、俺の言葉を受け入れてくれた。

 

一時はどうなるかと思ったが、なんとか収まって良かった……ん? そういえば――

 

「そういえばユナ、アキラはどこ行ったんだ?」

 

今の今まで完っ全に忘れていたが、キレそうになっていたユナの拘束を命じていたアホ後輩の姿が見えない事に気づいた。

 

「あー、えーと……あそこです……」

 

バツが悪そうにユナが指差した先に目を向けると、そこには陥没した地面でうつぶせに倒れるアキラの遺体があった。……いや、死んではいないけれども。

 

「え、えへへへ……頭に血が上って、力任せに羽交い絞め解いた後、割と強めに叩いちゃいました……ごめんなさい」

 

「さっきも思ったけどさユナ? もしかしてキミ、ダイバー同士の喧嘩なら地味に最強なんじゃないか?」

 

基本的にガンプラバトルに主幹を置いたGBNの世界に於いて、ダイバー同士の殴り合いはダメージもなければ意味もない。何なら殴られた方が講義申請すれば殴った方がペナルティを受けるものだ(申請しなければ問題にはならない)。

 

とはいえ、ガンプラはあくまでダイバーが動かす性質上、そうしたダイバーファイトの実力は必然的にファイターとして実力を示すステータスにもなる。

 

シンプルな2つの操縦桿(コントローラー)とは別に頭部のゴーグルを通じて脳からの反応を直接読み取り動きに反応させるダイバールックは、現実での体格や身体能力を抜きにした“純粋な反応速度と戦闘センス”をストレートに反映される。

 

つまりユナはガンプラの出来を度外視した単純な格闘センスに於いては既にあのクロミネと互角に渡り合える域に達しているのだ。

 

――つくづく、とんでもない娘を弟子にしてしまったものだ。

 

「アッく~ん? 生きてる~~?」

「うぅ、俺はもうダメっすリエちゃん……ロリコングの弟子は、見た目可愛くてもゴリラだったッス……ああ、でもリエちゃんがチューしてくれたら、奇跡的に復活しそうッス……」

「ん、分かった♡」

 

一方、そんな才能の化け物であるユナにぶっ飛ばされたアキラは、災難に乗じて彼女のリエさんに甘え、公衆の面前でチュッチュし始めた。

 

全然心配してなかったが、取り敢えず元気そうなのが分かり、俺は(バカップルのいちゃいちゃを少し羨ましそうに眺める)ユナの頭の上にポン、と手を乗せた。

 

「ダメだぞユナ? 幸い相手がアキラ(アレ)だったからいいけど、次から気を付けろよ?」

 

「はーい♡」

 

「ちょっと先輩!? 別に気にしてませんけどクロミネ蹴った時に比べて随分俺の扱い雑じゃないッスか!? 偶には可愛い後輩を労ってくださいッスよ!」

 

嫌だよ。だって別に可愛くねぇんだもん!

 

 

 

――おい、さっきの見たか? ヤバいなあのピンク髪の子、あの月の暴君相手に互角に殴り合ってたぞ?

 

――ああ、確かにヤバい。ていうかヤバいくらい可愛い。強くて可憐な天才美少女ダイバーとか、勧誘目的に来た上位フォースの連中が目を付けそうだな。ていうかうちのフォースに入って欲しい。『お兄ちゃん♡』とか呼んでほしい。

 

――俺はどっちかっていうと『ご主人様♡』かな? なんかワンコっぽいし

 

――ヤバいって意味じゃ寧ろ近くにいるゴリラっぽい奴のがヤバくないか? 暴君と対等に会話したと思ったらガチギレしてたピンク髪ちゃんをあっさり宥めて、絵面の犯罪臭がヤバい。

 

――俺知ってる! 最近セントラルエリアで中学生位の美少女侍らせてヘラヘラしてる変態野郎だよアイツ! ホラ、例の【サークラ王子】の異名を持つアキラも近くにいるし!

 

――ああ、アレが噂のロリコングか? この間、例のヴァイス・ユニオン解体に貢献した【聖女】ミズキちゃんもナンパしてたって噂の!

 

――ええっ!? あのアヴァロンの巨乳美少女JCを!? クソが! 月の暴君以上の犯罪者じゃねえか!

 

――ああ、クズだな。

 

――カスだわ。

 

――死ねばいいのに……。

 




どんどんどんどん社会的に悪名を重ねていくダイチ。

『暴君の異名を持つクロミネと旧知』
『クソウザい事で有名なアキラの先輩』
『最近人気急上昇中のヴァイス・ユニオン壊滅に貢献した聖女ことミズキを狙っている(実際は狙われている)』

方向性はどうあれ有名な友人知人の効果もあり、着実にロリコングの汚名は広まりつつあります。
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