あっという間に時間がすぎ、夜になった。
生徒は全員で旅館の近くの森のような場所に来ている。
「よーし、全員注目!これより恒例の肝試し大会を開始する!」
先生が音頭をとり、進める…のではなく、後の事は生徒に任せて先生達は先生達で一杯やるらしい。
なんともまぁ適当だ。
「う~…肝試しかぁ…」
「暗いの苦手だもんな。千棘はあんまし無理すんなよ?」
「1人きりじゃないから大丈夫だとは思うんだけどね…」
橙が千棘とそんな話をしているとペア決めのくじ引きが始まった。
まずは女子からだ。
「ん?…始まったみたい!行ってくるわね!」
「おー。いってらー」
(本当に大丈夫かねぇ?俺が一緒になれりゃいいんだが…)
そんな事を考えて頭を悩ませていると、るりが不自然に小野寺の引いた番号を連呼し始めた。
「へ~。小咲は12番だったんだ~。小咲は~12番~」
「…る、るりちゃんはじゅ…10番なんだ~」
やらされているのかは分からないが、小野寺もるりの番号を不自然な音量で言い始めた。
橙は呆れ気味にるりと小野寺の奇行を眺めていた。
(露骨すぎんだろ…まぁ、楽はラッキーくらいにしか思ってないだろーがな)
実際に楽は…
(なんかよく分からねーけど、番号ゲット!12番だな!)
なんて思っている。
鈍感すぎるのも考えものだ。
そして、女子が全員引き終わり男子の番。
数人が引き終わって次は楽だ。
「ふぅ~。…よしっ!」
深呼吸をして気合いをいれた楽は箱に手を突っ込んで引き抜いた。
結果は…
「……じゅ、12…!」
見事に狙っていた番号を引いて見せた。
小野寺は興奮してるりをめちゃめちゃに揺さぶっている。
「ほぉ~。これぞ愛の力ってか?」
「ホントに引いちゃうとわね~!」
橙ほ集と少しはなれたところでニヤニヤしながら成り行きを見守っていた。
そして、次ぎは橙の番だ。
「んじゃ行ってくる」
「行ってら~!ちなみに…桐崎さんが8番で誠士郎ちゃんが14番だよ~ん!」
「ん、サンキュ」
いつ調べたのかは分からないが集から情報をもらいクジを引きに向かう。
「次の人ー」
「はいはいっと……おっ、14か」
橙が引いたのは14番。
鶫とペアだ。
橙がクジを引くのを固唾を飲んで見つめていた3人は…
「っ!やった…じゃない!ク、クジで決まったのなら仕方ないな!」
「鶫さん嫌なの?なら私が変わってあげる。ほら、早く、ほら」
「だ、だめです!宮本様!橙の友人として私が責任を持って一緒に行きます!」
「無理しなくていいのよ?…ってかちょうだい」
もはや取り繕えていないが、鶫は嬉しそうだ。
そこにるりが突っかかりに行っている。
千棘は…
「ううっ…あんなこと言った手前何も言えない…」
少し離れたところで肩を落としながら鶫とるりのやり取りを眺めていた。
そんな時千棘のすぐ近くの茂みから何やら話し声が聞こえてきた。
「…ねぇ、どうする?」
「困ったなぁ…代役なんていないし…」
「ん?……あれ、どうしたの?」
「わ!桐崎さん。…実はーーー」
話を聞いた千棘は…
・
肝試しが始まり、番号順にスタートしていく。
橙は自分達の番まで時間があるため、ペアの鶫と話をしていた。
「鶫、よろしくな」
「あ、ああ!こちらこそよろしく頼む!」
「おう。鶫は怖いの大丈夫なのか?」
「む…得意ではないな」
「そうか…怖かったら抱きついていいからな?」
「なぁっ!?///な、なななにを…!」
「くくっ。その間俺は胸の感触を楽しんでるからよ」
「…っ!///き、貴様と言う奴は!」
「ぷっ…!冗談だっつーの!」
「ううっ…///」
橙が鶫をいじって遊んでいると、集が近寄ってきた。
「おーい!ダイちゃーん!」
「ん?どした?」
「桐崎さん見てない?さっきから探してるんだけど見当たらないんだよね…」
「あん?千棘が…?」
「お嬢がどうかしたのか?」
どうやら千棘がいなくなってしまったようで探しているらしい。
「あー、桐崎さんならさっき森のなかに入ってくのみたよ?オバケのかっこして」
そんな時、近くにいた他の生徒が脅かす役として森にはいった千棘を見たと話してくれた。
それを聞いた橙は、最悪の事態に思い当たり即座に行動を起こす。
「オバケの?なんでまた…」
「ちっ…悪ぃ、鶫。一緒に行けそうにねぇわ。今度埋め合わせすっから」
「ふっ…ああ。楽しみにしているからな」
「おう。行ってくる」
意味が分からないといった集をよそに、ある程度の事態を把握した鶫は橙のしようとしていることを理解し送り出すことに。
本当であれば自分が1番に飛び出して行きたいだろう。
だが、この暗がりだ…橙のお荷物になるわけにはいかない。
それに…
「橙になら安心してお嬢を任せられる…頼んだぞ、橙」
鶫は走り去っていく橙の背中に向かって呟いた。
・
橙は森のなかをひたすら走っていた。
「はっ…はっ…!安達の話だとこの辺なんだが…」
そんなに広くない森だが、如何せん暗すぎる。
「くそっ…早く見つけてやらねぇと…!」
橙は1人で泣いている千棘の姿を頭に浮かべながら足を止めずに走る。
一方、千棘は…
「ううっ…ぐすっ…どうすればいいのよ…」
なんとか気を紛らわそうと色々とやっていたが、結局手に着かず、いよいよ限界が近づいていた。
足が震えて歩くこともできず、明かりは月の光だけ。
どんどん涙が溢れてくる。
こんな時に思い浮かべるのは…橙の顔。
だが、期待すればするほど、時間がたつのが怖くなってくる。
「橙ぃ…」
千棘は最後の勇気を振り絞って自分が今出せる精一杯の声量で橙のことを呼ぶ。
その声に反応したように近くの茂みが音を立てる。
「…っ!……風…か」
慌てて振り返る千棘。
顔には少しの期待が込められていた。
だが、その分期待が外れた時の絶望感は大きいもので…
(もう…一生このままなのかな…)
思考が一気に暗闇に飲み込まれるような感覚。
すべての感情が下を向く…
と思ったその時。
「お前の声…しっかり届いたぜ。千棘」
「だ…ぃ…?」
「おう。俺だ」
橙が千棘の前に現れた。
千棘は放心したように橙の名前を呼び、顔を上げる。
そして、橙の姿を確認した瞬間、感極まったように橙の胸に飛び込んだ。
「うっ…ううっ…橙ぃぃぃぃぃ!」
「おーよしよし。怖かったな」
橙は落ち着かせるように優しく頭をなでた。
それにより千棘は安心したためか、弱音が漏れてくる。
「怖かったよぉ…もうずっとこのまま1人だと思った…」
「そりゃあり得ねぇな」
「…なんで?」
「んなもん俺がお前を見つけるからに決まってんだろ」
「ホントに…?」
「ああ。お前がどこにいたって必ず見つけてやる。だから…もう泣くな」
「うんっ…!」
橙はそれが当たり前かのように言って、千棘の涙を指で拭う。
千棘は堪らなく嬉しそうに笑った。
信じる理由なんて『橙だから』で充分なのだ。
「皆心配してるから早く戻るか」
「そうね!ありがとう!橙!」
「ははっ。やっぱり千棘は笑った顔が1番似合うな」
「っ!/// きゅ、急に恥ずかしいこと言わないでよっ!///」
「悪い悪い。ほれ、行くぞ」
顔を赤くしている千棘をよそに、橙は手を取り歩き出す。
繋がれた手は皆のところに戻るまで離れることはなかった。
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