無事にプレゼント渡しを終えて、今は皆思い思いに動いている。
橙は、バルコニーで風を浴びながら休憩していた。
するとそこに…
「橙」
「ん?…主役がこんなとこにいていいのか?」
「疲れたからちょっと休憩。隣いいかしら?」
「おう」
千棘がやってきた。
どうやら抜け出してきたようだ。
2人はしばらくの間なんてない話をしていたが、少し話が途切れたのを見計らって千棘が話を切り出した。
「あ、あの…橙に相談…って言うか、その…見てほしい物があるんだけど…いい?」
「もちろん構わんぞ。どうした?」
「ありがとう!これなんだけど…」
そう言って千棘が見せたのは鍵だった。
「鍵?家のとかじゃなさそうだな」
「うん。この前、昔の日記みたいのを見つけて読んでたらこの鍵が出てきたの」
千棘の話を聞いた橙は少し考えた後言った。
「ふむ……あのよ、この際だから言っちまうけど…千棘と楽と小野寺は昔会ってるんじゃねーか?」
「そう…なのかな」
「勘だけどな。そんな気がしてならねーんだよ」
橙の中では前々から可能性として思い当たっていたことだ。
ただの勘だが、偶然で片付けるにはあまりにも共通点が多すぎる。
橙が言うと、色々と思うことがあるのか少し頭を悩ませている千棘。
「そしたら…私の初コイって…」
「まぁ…昔の思い出として大事にしたらいいんじゃねーの?あくまでも1番大事なのは今なんだからよ」
「うん…」
「納得いかねーか?」
「そんなことは…ない…と思う」
どうにも歯切れの悪くなってしまう千棘。
忘れてしまっていたとは言っても、やはり気になってしまうようだ。
「ならよ、もし初コイの相手を思い出したとして、そいつが目の前に現れたら、千棘はそいつのことを好きになんのか?」
「それは絶対にないけど…モヤモヤするのよね」
「まぁ、昔のことをハッキリさせるのも大事だしな。そしたら俺も手伝うからよ、なんか分かったら相談してくれ」
取り敢えず、今悩んでも仕方がないと言うことで一旦は保留。
「うん!ありがとう!」
「いいってことよ。んじゃ先に戻っててくれ。俺はもう少し風に当たってから戻るわ」
「はーい!いつもありがとね!橙!」
「おう。……………もー行ったぞ、楽」
橙は嬉しそうに駆け足で戻っていく千棘を見送ってから、通路の影になっている部分を見ながら言った。
すると…
「気づいてたのか…。悪いな、盗み聞きみたいになっちまって」
「くくっ。あんな話してたら出てこれねーわな」
気まずそうな顔をしながら楽が出てきた。
どうやら、橙達と同じく休憩しようと屋敷をうろついていたら、たまたま2人が話しているところに出くわしてとっさに隠れてしまったようだ。
橙は聞いていたんならと、直球で楽に問いかけた。
「ま、聞いてたんなら話は早ぇな。楽はどう思うよ?」
「俺は…正直、アイツの事も小野寺の事も、偶然で片付けられるような簡単な話じゃねえと思ってる」
「偶然にしちゃ出来すぎてっしな」
「ああ。俺はてっきり、小野寺が約束の子だと思ってたんだけどよ。謎が深まっちまったな…」
楽は楽で、色々と考えていたことがまた振り出しに戻ってしまったらしく、苦笑いをしている。
「まぁ、昔の事を考えるのも大事だけどよぉ…あんまし約束の子に現を抜かしてっと小野寺がどっかいっちまうぞ?」
「うぐっ…それは…確かに…」
実際に、約束の子が誰であったとしても、楽が好きなのは小野寺だ。
橙は約束の子への負い目等で楽に遠回りをしてほしくないのだろう。
だから今回も…これからだってそうだが、背中を押して前に進ませる…と言うよりは、抱えて強制的に進ませると言った、ほぼ通り魔のようなお節介を焼く。
「曖昧な過去より目先の恋愛。小野寺なんて美人で優しい、料理以外はほぼ完璧。…いっそのこと俺が貰っちまうかねぇ」
「はぁっ!?そ、それだけはやめてくれ!橙に勝てる気がしねぇって!」
「ははっ!冗談だ!冗談!俺から見たら小野寺は妹ポジだから安心しろって!」
橙の冗談に本気で焦る楽。
橙はそんな楽を見て、笑いながら背中を叩いている。
「び、びっくりさせんなよぉ…!寿命縮むっつの!」
「ぷっ!やっぱりからかいがいがあるなぁ!楽は!」
(ま、もし俺が何したって小野寺が俺に振り向くことはねーだろうがな。罪な男だぜ…全く)
橙は未だにお互いの好意に気づかない2人を思いながら内心でため息をついた。
その後、話もそこそこに2人は会場に戻っていった。
・
会場に戻ると、楽は集に呼ばれてどこかに行ってしまった。
「うーし。んじゃ、食いますかね」
橙はと言うと、少し休憩して腹が減ったらしく食事を取りに向かう。
ある程度取ってテーブルを探していると、何やらビーハイブの構成員が数人で1つのテーブルを囲んでいる様子が目にはいった。
「ん?なんだ?」
近づいてみると…
「このチビッ子よく食うな…」
「どこに入っていってんだ?」
「…?」
るりが数人に囲まれて食べるところを観察されていた。
構成員達は皆驚いた様子で見ている。
実際にるりの前には皿が山のように積まれていた。
「…んっ。橙君、どこ行ってたの?」
「ちょっと風に当たりにな。ってかよ…それ全部るりが食ったのか?」
「そうよ」
「すげぇな。俺よか食うんじゃねーか?」
話もそこそこに一緒に食べ始めた2人。
初めは興奮気味にフードファイターばりに食べる2人を見ていた構成員達は、時間がたつにつれて見ているだけで胃もたれすると言いながら去っていった。
「ふぃ~。食った食った。にしても…どこに栄養行ってんだぁ?」
橙はいまだに食べ続けているるりを見ながら呟く。
結構失礼なことを言っているが、そう思ってしまうほどに体に反映されていない。
「なんかハムスターみたいで可愛いな」
「ん?」
橙が微笑ましげに眺めていると、るりは食べながら首を傾げている。
「ははっ。美味いか?」
「んっ、んっ」
橙が聞くと、フォークを口に含みながら頷くるり。
なんとなく頭に手を伸ばし優しく撫でると気持ち良さそうに目を細めている。
本当に懐いているペットみたいだ。
「なぁ、るり」
「?」
「今度…るりの誕生日かなんかに飯作ってやろうか?」
「!?」
橙がそんな提案をすると、器用にも食べながら表情を変えている。
普段無表情なだけになかなか新鮮だ。
「この間の調理実習以来少し料理にハマっててよ。食うか?」
「んっ!んっ!」
「せっかく作るんなら誰かに食って貰いてぇしな」
激しく首を縦に振るるりを微笑ましげに見ながら橙はもう一度頭を撫でた。
その後、約束をした2人は、お互いの誕生日を教えあってから別々に会場を回り始めた。
・
パーティーが終盤に差し掛かった頃、橙はトイレに向かうために廊下を歩いていた。
「…にしても広ぇな…あん?」
ふと何かに気づいた橙。
視線の先では…
「楽と…ありゃあ千棘の親父さんか?」
楽と、恐らく千棘の父親であろう人物が何か話をしている。
引き返そうかとも思った橙だったが、挨拶をしていない事と、楽の表情が気にかかりそのまま接触することに。
ある程度まで近づくと会話が耳に届く。
「まさか君たちだけじゃなく、あの子までこの歳で再会する事になるなんてね」
「あの子…?」
「ほら、今日君と一緒に来たあの子だよ。…これも運命なのかねぇ…」
話を聞いた限り、昔の話のようだ。
(あの子ってのは小野寺だよな…んで、君たちってのが楽と千棘…この場合は鶫もか?)
橙が考えを纏めながら2人に寄っていくと、千棘の親父さんがこちらに気が付き声を掛けてきた。
「おや、君は…」
「どうも。千棘のクラスメートの時藤橙です」
「ああ。娘のためにありがとう。…ん?時藤…?」
挨拶を交わすと、何やら考え込むようにして橙を観察している。
橙は特に嫌な視線ではなかった為、黙っていることに。
そして数秒後、何かを思い出したのか千棘の親父さんは口を開いた。
「橙くん、君は…陣さんの子供…いや、お孫さんかな?」
「うん?じいちゃんを知ってるんですか?」
「ギャングのボスなんてやっていると嫌でも情報は入ってくるんだ。…時藤陣、非公式の地下格闘技の大会で10年間無敗のまま引退した伝説の男」
正直、橙は名前くらいは知っているくらいのものだと思っていたようだ。
だが、なんだかんだ裏社会で生きてきただけあって思ったよりも詳しい情報が出てきた。
橙は少し驚いたようにして、改めて言う。
「…そこまで知ってるんですね。はい、僕は時藤陣の孫ですよ」
「ま、まじか…!橙のじいちゃんってそんなにすごい人なのか!?」
驚く楽をよそに、千棘の親父さんは言った。
どうやら、橙の知らないところではた迷惑な思惑が動いているらしい。
「ははっ!納得したよ!クロードが一目置く訳だ!」
「クロードさんがですか?」
「そうだよ。いずれはビーハイブにってさ。どうやら、誠士郎とタッグを組ませたいみたいだ」
「勘弁してくれ…」
橙はため息を吐きながら呟く。
この後、もう少し話をしてから会場に戻りパーティーは終わったのだった。
特に橙の過去を詳しく書くつもりはないです!
橙の強さの秘密は陣にあるくらいに思っててください!
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