橙と千棘が転校してきてから1週間がたった。
学校には馴染めているが、楽のペンダントの捜索は未だに難航している。
「ふぅ。ちと遅くなっちまったな」
橙は委員会の説明を受けていて遅くなり、後から合流することになっていた。
今は説明が終わり、廊下を歩いている。
「ん?おー、小野寺。何してんだ?」
「あっ、時藤くん。えっと、委員が早く終わったから一条君の探し物手伝おうかと思って」
橙が校庭に向かって歩いていると、前の方に小野寺を発見して声をかけた。
どうやら、ペンダント探しを手伝ってくれるみたいだ。
「そりゃ助かるな。俺も行くから一緒に行こーぜ」
「うん。行こ!」
そうして、2人で楽達の所に向かい歩いていると、千棘の声が聞こえる。
何やら揉めている様子だ。
「なーにやってんだ?あの2人は」
「ど、どうしたのかな…?」
少し足早になり、向かっていく。
そして次はハッキリと聞こえた。
「どーせ昔好きだった子に貰った物とかなんでしょーけど!あーやだやだ。昔の事ズルズル引きずって女々しいったら無いわ!!」
千棘の非難の声が響いている。
ハッキリと物を言えるのは美徳であるが、いきすぎると相手を傷つけてしまう。
現に楽の顔には少し怒りの感情が見える。
さらには、橙の隣にいる小野寺も痛々しげな表情で2人を見つめている。
だが、千棘は止まらなかった。
「どーせその相手だってあんたにそんなもんあげた事なんて忘れてるにきまってんのに!ホンットダサ!!バッカみたい!!」
(ちっ…こりゃよろしくねぇな)
橙が止めに入ろうと踏み出す頃にはもう遅く、楽の怒号が響いた。
「うるっせぇな!!!!」
(くそっ…遅かったか)
「だったらもう探さなくていいからどっか行けよ!!!」
今のこの最悪な状況を後押しするように雨が降り始める。
「………分かった…」
楽の言葉を受けた千棘はこちらに振り向くことはせずに立ち去ってしまった。
橙は立ち尽くしている楽に近づいていき声をかける。
「楽」
「橙…俺…」
「それ以上は言うな。誰にだって大切なもんはある。千棘もそれは分かってるはずだ。ただ、上手く噛み合わなかっただけの事だ」
「そう…なのかな」
「ああ。それより探そうぜ。大事なもんなんだろ?今日は小野寺も手伝ってくれるみたいだしよ」
そうして、橙達は3人でペンダント探しを再開した。
結局この日も見つからなかった。
・
翌日の朝。
橙はいつもより少し早く学校に向かっている。
「んーと…おっ、やっぱりいたな」
学校に到着した橙は、楽がペンダントを失くしたであろう場所に出向いている。
目の前には1人でペンダントを探している千棘の姿があった。
「おーおー。随分と働き者じゃねぇの」
「と、時藤…!な、なによ!説教でもしに来たの?」
「まぁ、説教の1つでもしてやりたいところだが…千棘も分かってんだろ?」
「それは…」
「例えば…お前がいっつもつけてるそのリボンとかよぉ。大事なもんだろ?失くして見つかりませんーで諦められんのか?」
橙がそう言うと、千棘は少しうつむきながら首を横に振る。
「ま、そーゆうこった」
千棘も悪気があってあんなことをした訳ではないだろうし、橙はこれ以上追求するつもりもない。
だが、千棘は少し気にしてしまっている様子で浮かない顔をしている。
「いつまでもしけた面してんじゃねーよ。美人が台無しだせ?」
「う、うるさい!」
「くくっ。まぁ探そうぜ?手伝うからよ」
「…うん!ありがと!」
元気が出たようでなによりだ。
そして、2人で探しはじめて30分後。
もうそろそろ切り上げようと思っていると…
「あーーー!!!」
「おっ?あったのか?」
「うん!あった!ほら!」
そう言って千棘が見せてきたのは鍵穴のついた大きめのペンダントだった。
「これでひと安心だな。んじゃ楽が登校してきたら返すか」
「ううん。放課後に返すわ」
「ん?…りょーかい」
少し不思議に思った橙だが、千棘に任せるようで了承した。
そして放課後。
橙は楽と一緒に校庭に向かって歩いていた。
「悪いな、橙。毎日付き合わせちまって」
「んな事気にすんなって。困ったときはお互い様だからよ。俺に何かあったときに助けてくれりゃそれでいいさ」
(まぁ、もう見つかってんだけどなぁ)
「ああ!その時は任せてくれ!」
そうして歩いていると…
「一条君!時藤君!」
「小野寺?」
「どうしたんだ?」
「あの…桐崎さんが来て欲しいって…」
橙達は少し嫌そうな顔をしている楽の背中を押して千棘が待つ場所へと向かった。
着いたのは校舎の裏側。
「ここだよ」
「なんだってんだよ…こんなところに呼び出して」
「まぁまぁ、いいじゃねーかよ。…ん?あれ千棘じゃねぇか?」
橙が指差す方を見てみると、少しはなれたところで千棘が何やら構えている。
「…なにやってんだ、アイツ」
楽が不思議そうな顔で眺めていると、千棘が何かを楽の顔に向かって投降した。
それは物凄いスピードでまっすぐに飛んでくる。
「…っと」
「おわっ!!?」
楽は驚いて尻餅をついたが、投げられたなにかは橙が手を付き出してキャッチしたようだ。
「ほれ。楽、手出せ」
「お、おう…これ!俺の!」
「な、なんか鍵穴に入ってるよ?」
小野寺が鍵穴を指差して言う。
見てみると、折りたたまれた紙が出てきた。
「紙だな。楽、見てみろよ」
「ああ。…英語…読めねぇ」
「あん?ちと貸してみろ」
紙には英語で何かが書かれていて、楽は読めないようなので橙が受け取った。
書いてある事を読んでみると…
「ぶふっ!」
「だ、橙!?」
「時藤くん!?」
「だ、大丈夫だ!」
(あんにゃろー!思わず笑っちまったじゃねーかよ!ほんっとに素直じゃねーなぁ)
「んんっ!読むぞ…『あんたがあまりにも鈍くさいから私が代わりに見つけておいてあげたわ!感謝しなさいよね!それと…ごめん』だってよ」
「そっ…か。はぁ…本当にかわいくねーなあ」
楽は橙と同じことを思ったようで、ため息をついている。
だが、少し嬉しそうだ。
「まったくだ」
「…それに、あいつの言ってる事ももっともなんだよなぁ…オレもいいかげんこんな約束忘れちまった方がいいのかなぁ…」
(このアホは…)
橙が口を開こうとすると、意外にも小野寺が口を開いた。
「そっ…そんな事ないよ…!」
「っ!?」
「一条君…誰かと約束したんでしょ?たとえそれが10年前の子供の約束だとしても…その人にとっては大切かもしれないよ…?」
楽は驚いたようにして話を聞いている。
橙は楽のもっているペンダントの事を少ししか知らないが、今の小野寺の話で大体察することができていた。
(へぇ…昔の約束で楽自身が相手の事を覚えてないか。でも肌身はなさず持ってるってことは…そー言うこった)
橙が考え事をしていると、小野寺は感情的になって自然と言葉にしてしまっていたらしく、顔を赤くしてあたふたし始めた。
楽もなんとも言えない表情をしている。
橙はそんな2人に向かって口を開いた。
「小野寺の言う通だな。たとえ相手が忘れちまってても、自分が大事だと思うなら、誰になんと言われようと、自分だけはその約束を忘れちゃいけねぇ」
橙がまっすぐに楽に向かって言うと、楽は数秒考えた後にスッキリした顔で言った。
「…小野寺も橙もありがとな。なんか元気出たわ。そうだよな…もし今後、その子に会えても会えなくてもオレにとって大事な約束なのは変わんねぇ。大事に持っとくよ」
こうして、ペンダント探しは終わり解散となった。
楽は足早に帰って行き、橙も帰路に着こうと思ったが、少し感じた違和感を確かめるべく先程の場所へと戻った。
すると…
「ハァ……また、聞けなかったな…私のバカ…」
小野寺が手に持った何かを見ながら呟いていた。
橙はゆっくりと近づいていき後ろから声をかける。
「なーにが聞けなかったんだ?」
「ひゃあぁっ!!?」
案の定驚いた小野寺は手に持っていた物を落としてしまう。
それは、鍵だった。
「…へぇ」
「こ、これはっ、その…」
「小野寺が約束の子なのか?」
「…分からないの。だから聞きたいんだけど…なんか聞けなくって」
橙は単刀直入に聞くが、小野寺自身も答えが出せていないようだった。
これ以上は聞くのも悪いと思い、話を終わらせて橙は歩き出す。
「そっか…まぁ、頑張れよ?応援してっからよ」
「う、うん!ありが…えっ?応援?」
普通に手を振ろうと思ったが小野寺だったが、気になる単語を見つけて疑問を投げ掛ける。
橙は振り返りながらなんともなしに言った。
「ん?そーだぞ。好きなんだろ?楽の事」
「ええぇっ!!?な、なんで分かったの!!?」
「いや、見てりゃ分かる。だから頑張れってこと。そんじゃ俺は帰るな」
「えっ?…う、うん!バイバイ!」
そうして、2人とも帰路に着いた。
小野寺が家に帰ったあと、宮本に連絡したのは言うまでもないだろう。
・
小野寺が家に帰ったあと、宮本との電話で…
「ね、ねえ…るりちゃん!わ、私って分かりやすい…?」
『なに言ってんのよ小咲………だだ漏れよ』
「やっぱりぃぃぃ!!!」
こんなことがあったそうな。
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