ペンダントの一件が終わり、翌日。
今日は学校が休みだ。
橙はとりあえずすることもないため、街に出ていた。
「どーすっかなぁ。来たはいいがする事ねーよ」
考えながら歩いていると、前の方で男の集団が女を囲んでいるのが目にはいった。
「あん?ナンパか?…って千棘じゃねーか」
千棘は無視してやり過ごそうと思っているみたいだが、結構しつこく話しかけられている。
(1人か?何にせよ行くか)
橙は少し足早に千棘の方に向かっていき声をかける。
「よぉ、千棘。待ったか?」
「とき…だ、橙!待ってないわ!」
「ならいいけどよ。…ってかあんたら何か用?」
千棘が乗っかってきたのを確認した橙は、千棘を囲んでいた男達を軽く威圧しながら話しかけた。
「べ、別になんもねえよ!おい、行こうぜ!」
すると、男達は足早に立ち去っていってしまった。
逃げ出した男達を見ながら橙はため息をはいている。
「はぁ…だっせぇ。逃げ出すくらいなら初めからやんなっての」
「と、時藤!ありがとう!」
「ありゃ?もう橙って呼んでくれねぇのか?」
「なっ!?///」
助けてくれた橙にお礼を言った千棘。
橙はニヤニヤしながら茶化すように返した。
「ははっ!冗談だっての!」
「うう~///」
もうこの2人は千棘が橙にからかわれると言った構図が出来上がってしまっているようだ。
千棘は顔を赤くして唸っている。
「ってか1人なのか?」
「い、いや…それはその…」
橙が気になっていた事を聞くと、明らかに動揺しはじめる千棘。
すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
「おーい!買ってきた…げぇっ!?」
「ん?楽?…マジかお前ら?」
飲み物を持って現れた楽を見て、ある1つの答えにたどり着いた橙。
驚き半分、呆れ半分といった顔で2人を交互に見ている。
「そ、そんなわけ!」
「っ!あ、あるに決まったんだろ~!!」
(…ふーん。このうざってぇ視線が原因か…って竜さんもいんじゃねーかよ!?)
千棘が否定をしようとした瞬間に2人の後ろから視線を感じた。
橙が気づかれないようにそっちを見ると、この前世話になった竜が建物の影から顔を出しているのが見えた。
それにより、橙はある程度の事情を察したようで騙されたふりをすることにした。
「…へぇ。そりゃめでてーな」
「サ、サンキュー!そんじゃ俺達はこれで!」
「あっ!ちょっ…ちょっと!」
これ以上聞かれるのを嫌がった楽が千棘の手を引いて走り去ってしまった。
橙は想定内だったようで、ある場所へと歩き出した。
「…行ったな。んじゃ行きますかねぇ」
橙が向かったのはビルとビルの間の薄暗い路地。
路地に入り少し歩くと、後ろから声をかけられた。
「おい、貴様」
(やっぱり釣れたな。この人の視線だけ少し妙だったしなぁ)
「やっぱり来たかよ」
「気づいていたのか」
橙の前に現れたのは、スーツに眼鏡をかけた男…クロードだった。
橙に接触するために追ってきたようだ。
「あん?1人だけ別の視線を向けてりゃ当たり前だろ」
「…ほぉ。貴様、何者だ」
「はぁ?ただの高校生だけど?」
「何を言うか。ただの高校生が私の殺気を受けて平然としてられる訳がなかろう」
「…それもそうか。俺はあんたらみたいな血生臭い生き方はしてねーよ」
「…そうか」
「まぁ、俺があんたに言いたいことは1つだけだ」
「言ってみろ」
「千棘と楽。あの2人に危害を加えるってんなら…捻り潰すぞ」
橙が全力で殺気を飛ばしながら言うと、少し驚いた顔をした後、思案顔になり数秒してから口を開いた。
「…ふむ。君は敵ではないようだな。試すようなことをして悪かった」
「…はぁ。ま、お互い様でしょう。あー、あともう1つ言うことがあります。…本当に千棘が大切なら判断を誤らないようにしてくださいね」
「…肝に銘じておこう」
その言葉を最後にクロードは去っていった。
緊張の糸が切れた橙は深いため息をはく。
「はぁーーーーー。疲れた…」
(楽に向ける視線はあれだったが…あんだけ千棘に優しい視線を向けれてんだ。悪い人じゃねーんだろうな)
「それにしても…喧嘩にならんくて良かったぜ。あの人には多分勝てねぇ。いやー、世界は広いな」
そんな事を言いながら、橙は今度こそ帰路に着いたのだった。
・
街で楽達と遭遇した日の翌々日。
学校に登校すると何やら騒がしい。
取り敢えず中心になって騒いでいる舞子に話を聞くことにした。
「うーっす。なんの騒ぎだ?」
「お!ダイちゃん!聞いてくれよー!それがさ!楽と桐崎さんが付き合うことになったらしくてさ~!」
「ふーん。ほどほどにしとけよな」
(あいつらバレんの早すぎ。事情があるにしてもフォローできねーぞこれじゃあ)
「ありゃ?あんま興味ない感じ?」
「まー、お前らよりかはねぇよ」
そんな事を話していると、楽と千棘が一緒に教室に入ってきた。
教室にいる生徒の視線が2人をとらえる。
そして、待ってましたと言わんばかりに一斉に騒ぎだした。
「おめでとーーー!!!」
「お前ら付き合うことになったんだってな!!」
「末永くお幸せにーーー!!」
「「なっ…なあっ…!!?」」
まさかの事態に楽と千棘は絶句している。
どうやら、一昨日に2人でいるところをクラスの奴に見られていたらしい。
この空気は既にどうにもならないところまできてしまっている。
「ちょちょちょ!待てよみんな!全部誤解なんだってば!!」
「おいおい照れんなって~」
「だから話を聞けって…!これには色々と深い訳が…」
どうにか誤解を解こうと、楽が皆に言い聞かせるように話し出したが途中で言葉が止まり、絶望した表情で窓の外を見ている。
視線を追ってみると、クロードが窓の外に生えている木の枝にのって双眼鏡で様子を伺っていた。
「はぁ…何してんだあの人は…」
(こりゃ終わったな…御愁傷様)
結局、監視されている中で本当の事が言えるはずもなく、誤解は急速に膨らんでいく。
・
そして、翌日。
この日もどうすることもできずに2人は演技を続けていた。
昼休み、楽と千棘は人があまり来ない屋上で、軽い話し合いのようなことをしている。
「…ハァ。これじゃあ…いつまでたっても…」
「まぁでもよ、別に秘密を守れるような親しい友達になら言ってもいいんじゃねぇか?」
2人で抱えるには大きい問題のため、共有できる人が欲しい。
そんな時に屋上に現れたのは…
「んなら立候補していいか?」
「橙!?いつの間に…!」
「時藤…」
橙だった。
2人を心配した橙は、2人の後を追って屋上に向かっていたのだ。
「まぁ、聞かせてみ?」
「…ありがとな。実はーーー」
そうして、2人は橙に事の成り行きを話し始めた。
「ーーーって言う訳なんだ」
話を聞き終わって、第一声。
橙は…
「大変だなぁ、お前ら」
「そうなのよ!」
「もうどうしたらいいか…」
「まぁ…できる限り手助けはするから、上手くやれよ」
「ああ。サンキューな」
「本当に助かるわ…」
2人はしみじみと橙にお礼を言った。
橙は気にするなと言うような感じだが、2人からしたらありがたいことこの上ないのだろう。
「あー。あと、いざと言う時にお前らに自由が与えられなかったら俺に言ってくれ。ヤクザだろうがマフィアだろうがぶっ飛ばす」
この先2人がどうなって行くかはわからないが、心強い味方がいるのは確かだ。