橙が千棘と楽から恋人のふりの話を聞いた翌日。
「うーっす」
「おっはよー!時藤!」
「おーす、橙」
教室に着いて取り敢えず挨拶を交わす。
なにやら千棘の機嫌が良いみたいだ。
「なんか良いことでもあったのか?いやに元気じゃねーの」
「聞いてよ!今日、調理実習あるでしょ?」
「そーだな」
「そこで今日こそは友達を作るの!」
「おー、いーじゃねぇか。俺も手伝ぜ」
「本当!?そこのバカもやしと違って頼りになるわ~!」
「けっ…言ってろ」
そうして調理実習の時間。
「課題はケーキか」
「これまた手間の掛かるものを…」
「よ~し!みんながびっくりするような美味しいケーキを作るわよ!」
橙達は上手く班になることに成功し、準備を始めている。
千棘は人一倍意気込んでいる様子だ。
「…つーかよ…なんだお前、そのカッコ」
「し、仕方ないじゃない!クロードが用意したのがこれだったんだから!」
「ははっ。可愛らしいじゃねーの。似合ってんぞ?」
「そ、そうかしら?///」
「おう。…それにしても、楽はエプロン似合いすぎだろ。なんかこう…毎日着けてるっつーの?そんな感じだよな」
「あながち間違ってないんだよな…」
確かに、楽は毎朝組の全員分の朝食を用意しているから間違ってはいない。
そんなこんなで、材料等の準備も終わり調理に入る。
だが、その前に…
「んじゃ、先に1つ聞いとくぞ?お前ら料理できっか?」
「まぁ、俺はそこそこ」
「わ、私は…す、少しなら…」
「オーケーオーケー。楽はできて千棘はできないな」
「うっ…」
「くくっ。んな気にすんなよ?まぁ、俺と楽が教えながらやりゃあちゃんとできんだろ」
肩を落とす千棘を軽く慰めながら調理に取り掛かる。
取り敢えずレシピを見ながら…
「いいか、千棘。料理ってのはな下手なアレンジはいらねぇんだ。基本に忠実にってのが失敗しない方法だったりする」
「ふむふむ…じゃあまずはこの薄力粉?を90グラムね!」
「ちゃんと計れよー」
「もちろんよ!えっと…このくらいかな」
分量は千棘に任せて目を離し他の材料を出していると、バサッという音が聞こえた。
「バサッ?…あちゃー」
「橙…」
「言うな楽よ…根気強く付き合ってやろう」
「…はぁ。仕方ねえか。そしたら橙はあいつを見といてくれ。俺は材料取ってくる」
「りょーかい」
そうして二手に分かれて作業を続けることにした。
橙は薄力粉を全部ぶちまけた千棘に近寄り声をかける。
「千棘。そーゆうのは少しずつ足していって計るんだぞ?だから袋に入れる切り込みも少しでいいんだ」
「そうなの?全部出しちゃった…」
「まぁ失敗はしゃーない。千棘が投げ出さない限りは付き合うからよ」
「時藤…。よしっ!私がんばる!」
そう言って気合いを入れる千棘を横目に橙は楽を探していた。
少し視線を彷徨わせると楽は舞子と話ながら百面相している。
「何してんだ?あいつら…ま、いいか。千棘ー、次いくぞー」
「はーい!…えーっと、次は卵をゆっくりかき混ぜる…ああっ!」
回りを気にせずに作業を続ける。
千棘が卵の入ったボウルをかき混ぜようとしたのだが…
力の入れすぎで卵が宙を舞う。
「おっ…と!千棘…もうちっと優しくな?」
「うっ…はい…」
橙のお陰で床に落ちることはなかったが、千棘は落ち込んでしまっている。
橙はもう一度ボウルを渡した。
「ほれ、もう1回やってみろ」
「こ、こうかしら?」
「んーと…ちょっと失礼」
「え?…ひゃっ!と、時藤!?///」
「いいか?かき混ぜる時はこのくらいの力加減でだな…って聞いてっか?」
「き、聞いてる!けど…ち、近い///」
なんとなくまた同じことの繰り返しになる予感がした橙は千棘の後ろから手を伸ばす。
半ば、無意識での行動だった。
そうなるとどうしても密着する形になるわけで千棘は顔を真っ赤にしながらオロオロしている。
幸い、誰にも見られていなかったようだ。
「うおっ!?わ、悪ぃ!無意識だった!」
「えっと…い、嫌ってわけじゃない…から…///」
「そ、そうか」
自分がしていることに気づいた橙は即座に千棘から離れる。
お互いに顔を赤くして、初々しいカップルのようだ。
そんな時、やっと楽が戻ってきた。
「すまねえ!遅くなった…ってどうしたんだ?」
「いや、なんでもねぇ」
「そ、そうね!なんでもないわね!」
橙に比べていまいち取り繕えていない千棘。
楽は不思議そうに2人を見ていた。
「まあ、いいけどよ。そんなことより材料持ってきたから早く作っちまおうぜ」
「そうだな」
そして、そこから橙と楽の2人で千棘をフォローしながら作業を進めていった。
その途中でフライパンから火があがったりオーブンが爆発しそうになったりとなかなかに壮絶な時間だった。
橙は終始楽しそうにしていたが、楽は疲れすぎて魂が抜け掛かっている。
「うへぇ…つ、疲れた~」
「くくっ。おつかれさん」
「橙は余裕そだよな…」
「まーな。なんか楽しいじゃねーか。こーゆうのもたまにゃ悪くねぇ」
「ま、それもそうか!…って桐崎は?」
「ん?千棘はオーブンとにらめっこしてんぞ」
2人でそんな話をしていると、焼きあがったようだ。
橙と楽は千棘の元へと歩み寄る。
そして、オーブンを開けてケーキを取り出してみると…
「嘘でしょ…」
「真っ黒…」
「ははっ!まぁこんなこともあるわな!」
真っ黒に焦げたケーキが完成していた。
3人ともそれぞれ別の反応をしている。
クラスの連中も若干引き気味で変な空気になっている。
「ううっ…」
すると、ケーキを持っている千棘の目に涙が溜まっていき誰が見ても分かるほどに落ち込んでしまっている。
「ら、楽!愛しの彼女の手料理が食べられるなんてうらやましいな~!」
「はぁ~!?」
「いやー!俺も食べたいけど、やっぱりここは恋人の一条が食べるべきだよな~!」
「ちょっ!おい…」
そんな様子の千棘を見た舞子が率先して楽にケーキを押し付けようとしている。
楽も仕方ないと決心しようとしたところで橙が動いた。
「なに?お前ら食わねぇの?んじゃ俺がもーらい!」
「えっ…あっ!それ…焦げて…」
「ん?まぁ見りゃ分かるぞ」
「それに美味しくないと思うし…」
「はぁ?んなの食ってみなきゃ分からんだろ。それによぉ…一生懸命作ってたじゃねーか」
「それは、そうだけど…」
「そんなら見た目が悪いからって食わないでポイなんてこたぁしねーさ。ってことで…いただきます!」
そう言って橙はケーキを1口。
もう千棘は観念したのか、緊張した様子で橙の反応を待っている。
そして…
「…ちょーうめぇ!!!」
「へ…?」
「いや!だからうめぇって!ほれ、食ってみろよ!」
橙は興奮した様子で千棘にケーキを差し出す。
そして1口…
「えっ!?う、うん!…あむ…っ!?お、美味しい…」
まさかの反応にクラス全体も驚いている。
そして結局、ケーキはクラスの全員が食べた。
クラスの皆が自分のケーキを誉めているのを見ながら千棘は最初こそ戸惑っていたものの、今は嬉しそうにしている。
「これでクラスには馴染めそうか?」
「うん!ありがと!」
「そうか。なら良かった」
こうして調理実習は終わり、千棘の友達大作戦は無事に成功した。
片付けが終わったあと、なぜか楽が倒れていたがまぁそれは良しとしよう。
・
調理実習があった日の夜。
千棘の部屋。
「今日は楽しかったな~!」
千棘はベットに寝転がりながら今日のことを思い出していた。
「ケーキも美味しかったし…ってあれ?あの時………っ!?///」
楽し気にしていたと思ったら、顔が急激に赤くなり始めた。
その原因とは…
「ちょっ!あ、あれって…!か、間接キス!!?///」
千棘がケーキを食べた時、橙は自分のフォークでケーキを差し出してきていた。
今更ながらそれに気がついたのだ。
「うう~///」
千棘が悶絶したのは言うまでもない。
尚、橙は自然な流れすぎて気づいてすらないもよう。
こんなことがあったとさ。
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