朝のホームルームの前。
どうやら転校生が来るらしいく、教室が少し騒がしい。
「え?今日転校生が来るの?」
「らしーよ。なんか突然決まった事らしくてさ」
「へぇ。俺が言うのもなんだが、このクラス転校生多くね?」
「ははっ。確かに」
そんなことを橙達が話していると、先生が転校生を連れて来たようだ。
「よーしお前ら。突然だが、今日は転校生を紹介するぞー。入って鶫さん」
「はい」
先生が教室の外に声をかけると、1人の生徒が入ってきた。
「初めまして。鶫 誠士郎と申します。どうぞよろしく」
鶫が自己紹介を済ますと、クラスの女子連中が絶叫した。
それもそのはず、鶫と名乗った生徒は整った顔立ちをした中性的な見た目をしているからだ。
そんな中で、違和感を覚える者が1人と、一目見て『女』だと気がついた者が1人いた。
「へぇ。とんでもねぇのが来やがったな」
(少し、クロードさんに雰囲気が似てる…か?こいつもヒットマン…)
気がついた橙は、男か女かと言うことよりも鶫が相当な使い手だと言うことに興味を示していた。
歓声冷めやらぬ中、空いている席に座るように先生からの指示が出て、鶫が動き出す。
すると急に千棘が立ち上がり…
「つぐみ…!?」
「お嬢…!」
(やっぱりか。クロードさんの手回しで間違いねぇな)
鶫の名前を呼んだと思ったら、鶫が千棘に抱きついた。
それにより、またもや女子連中の絶叫が響く。
まぁ、見る人からしたら楽の前に現れたライバルのように映ることだろう。
取り敢えず、ホームルームのため収まったものの、話題は鶫の事で持ちきりだった。
その後の休み時間。
「…しっかし。なんであいつあんなカッコしてんだろーなぁ」
「同感。そーゆう趣味なのかねぇ」
「は?今言ってたろ?制服無かったんだってよ」
「あ?ああそーじゃなくて…」
「楽、あいつ女だぞ」
「はい?なに言ってんだよ。男子の制服着てんじゃねーかよ」
橙は楽と集と一緒に話をしていた。
どうやら集は既に気がついているみたいだ。
全く信じていない楽にちゃんと説明をしようとすると、千棘に呼ばれて行ってしまった。
「完全に男だと思ってやがんな」
「まーまー!そっちの方が面白そうだしいーじゃん!」
「くくっ。それもそーだな」
橙は集とそんな話をしながら、千棘と鶫の元へ向かった楽に視線を向ける。
(…何か企んでやがんな)
「…はぁ」
「あり?どーしたの?ダイちゃん?」
「いや、なんでもねぇ」
(ちゃんと忠告したんだがな…あいつの独断だったら嬉しいぜ)
楽に笑顔を向ける鶫を見ながら橙は深くため息をついたのだった。
・
昼休み。
鶫の千棘へのスキンシップはとどまることはなく続いている。
流石の千棘もたじたじだ。
「…あーもう!私ちょっとトイレ行ってくる…!付いてこないでよね!!」
「ごゆっくり………一条さん」
「ん?」
「少し聞いても宜しいですか…?」
「あ、ああ」
「では、ここでは何ですので…付いてきてください」
「は?お、おい!」
千棘は教室から出ていったのを確認した鶫は楽を連れて教室から出ていった。
「動いたな…」
橙はこれから起こるであろう事を考えて席を立ち、楽達の後を追った。
場所は移って屋上。
橙は扉の外で待機している。
話を聞いていると…
(まぁ…疑ってるっつーか、認めたくねぇんだな)
そんなことを考えていると、急に鶫から殺気が溢れだした。
「…ちっ。しゃーねぇ」
橙は舌打ちをしながら扉を開き走り出した。
一方で楽と鶫は…
「お嬢のためなら死んだっていい?」
「おう!当然その覚悟だ…!!」
楽は誤魔化すために取り敢えず鶫からの質問を強気で肯定していた。
すると次の瞬間、鶫は袖から銃を取り出しすごい勢いで楽に詰め寄った。
「…そうですか。安心しました…では、死んでください」
「…ってどええ!!?ちょっ…ちょっと待って…くっ………あれ?」
楽は対応できるはずもなく、やがてくるであろう衝撃に目をつぶったが衝撃はこなかった。
おかしいと思い目を開けると…
「よぉ。随分なご挨拶じゃねぇか…転校生のお嬢さん」
「貴様は…」
「だ、橙!」
橙がすんでのところで鶫の手首を掴み動きを封じていた。
「ほう…貴様がクロード様が言っていた時藤橙か」
「やっぱりあの人が差し向けたのか。おい、これは指示されての行動か?」
「いいや違う。私がこの男をお嬢に相応しくないと判断したまでだ」
「そりゃあ良かった…んじゃ存分に後悔してもらおうか」
「…っ!?ぐうっ!!は、離せ!」
この一連の行動が鶫の独断の行動としった橙は、内心でホッとしたと同時に体から怒気が溢れ出す。
掴んでいる手を強く握ると、鶫は顔を歪めて逃げ出した。
「俺のダチに手ぇ出したんだ。ちょっと痛い目にあってもらうぜ」
「くそっ…!」
後ろに飛び退いた鶫の手首にはくっきりと跡がついていた。
痺れた手を抑えていると、すぐ上から声がかかる。
「よそ見してる暇があんのか?」
「なぁっ!?くっ…」
鶫は避けることを諦め目を閉じる。
そして、橙が鶫目掛けて拳を振り下ろそうとした次の瞬間、千棘が屋上の扉を勢い良く開き声をあげた。
「橙!!!やめてっ!!!」
「……わーったよ。これで勘弁してやる…よっと!」
「ううっ…い、痛い…」
ギリギリの所で拳をとめた橙は、未だに目をつぶっている鶫にデコピンをした。
今回の件は千棘をたてて水に流す事にしたみたいだ。
「橙、つぐみ…ごめんね!私、こうなるかもって思ってたの…」
「お嬢…」
「…はぁ。俺こそすまなかった。千棘が止めてくんなかったらお前の大切なダチを傷つけるところだった」
「ううん…橙が本気で殴るわけないのは分かってたから!」
「ふっ。そーかい」
鶫は2人の話を聞きながら申し訳なさそうに縮こまっている。
そんな鶫に橙は声をかける。
「おい、鶫。2人で話がしたい。放課後時間作れるか?」
「…分かった」
「ちょっと!喧嘩とかしないでよね!?」
「大丈夫だ。んじゃ俺は戻るな」
「お、俺も戻る!」
橙はそう言って背中越に手を上げて歩いていってしまった。
今まで放心していた楽も橙を追いかけて屋上を後にした。
「もう!つぐみ!反省しなさいよ?」
「は、はい!」
「さ、私たちも戻るわよ!」
「お、お嬢!お待ちください!」
こうして、少し遅れて千棘たちも教室に戻った。
・
放課後。
場所は先程と同じ屋上。
「来たか」
「…話とはなんだ。先程の続きでもするのか」
「くくっ。そりゃ魅力的な提案だが、俺とお前が全力でやりあったらこの学校がなくなっちまうと思うぜ?それに…千棘が喧嘩すんなって言ってたからな」
「…それもそうか」
橙は楽しそうに、鶫はホッとした様子だ。
そうして本題にはいる。
「まぁ、簡単な話だ。お前が楽を認めないってのは別に構わねぇ…けど、千棘が悲しむようなやり方はすんな」
「貴様…」
「分かってるぜ?千棘を思っての行動だってのはよ」
「そんなもの当たり前だ!」
「だがよ、それを千棘が望んだのか?」
「それは…!」
「いいか?そーゆうのは一定の域を越えちまうとただの押し付けになる。本当に大切ならそこを間違えちゃいけねぇ」
「なら…なら!私はどうすればいい!?このやり方しか知らんのだ!」
橙は穏やかな様子で話しているが、鶫が話を聞かずにまた楽に牙を剥くようなら実力行使するつもりでいる。
いかに千棘の関係者といえ、そこは譲れないラインだった。
「そんなもんこれから知っていきゃあいい。丁度いいじゃねーか。せっかく学校に通うんだからよ。千棘だって必死に普通の日常に溶け込もうと頑張ってるじゃねーか。それをお前が壊してどうするよ?」
「だが私は…お嬢を守らねば…」
「心配ねぇさ。千棘は誰かに守られなきゃ生きていけないような柔なヤツじゃ決してねぇよ。俺たちはどっしり構えて見守ってやるくらいでいいんだ。そんで、どうしようもない時は俺たちで支えてやりゃあいい」
「…っ」
「だから、まずは千棘の隣で普通に高校生として過ごしてみろよ。普通ってのも案外良いもんだぜ?」
「普通…か。だが私には友人と呼べるような者は1人も…」
どうやらいい方向に転んでくれたようだ。
やっと橙は肩の力を抜き、ふざけたように言った。
「おー!そりゃ丁度いい!ここに友達募集中の不良生徒がいるぜ!」
「…ふふっ。不思議な男だな、貴様は」
「んだよ、普通に笑えるじゃねーか。あんな張り付けたような笑顔じゃなくてそっちのが100倍ましだぞ。せっかく綺麗な顔してんだから」
「なぁっ!?///な、何を言っている!///」
「いやな、クロードさんの直属の部下?だろ?どんな冷徹人間かと思ってたけど…普通の女の子で安心したっつーんだよ」
「お、女っ…か、帰る!」
「おー。また明日なー」
こうして、争い事が起こることもなく無事に話しは終わった。
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