その後のドラゴンクエスト7   作:本城淳

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仲間達と共にオルゴデミーラを倒したフィッシュベルの少年、アルス。
その後の彼の人生は?
3DS版を基準にエンディング後の世界を想像してみました。(すれ違い通信によるすれ違い石板など)


その後のアルス達

ザザァ………

クゥ!クゥ!

雲もなく、燦々と朝日の光を浴びて輝く海の上では、海鳥達が餌である魚を求め、あるいは翼の疲れを癒す為に海面や砂浜で羽根を休める。

グランエスタード王国の漁村、フィッシュベルではのどかで日常的な光景である。

「ハァ………」

そして、フィッシュベルの象徴とも言える港の突堤に腰を架け、釣りをしながらため息を吐いている少年の姿もここ最近では日常的な光景になりつつあった。

緑を基調とした色合いの布の服に、中折れした同じく緑色の三角帽を被った黒髪の少年。名をアルス。

もうじき17歳になる少年であるが、年齢のわりには小柄な体格に、人の良さそうな優しげな物腰も相まって、よく言えば温和そうで人当たりがよさそうな、悪く言えば地味な見た目もあって少し頼りなさそうな雰囲気の少年である。

が、この少年、普段着姿だとどこにでもいる少年なのだが、実は世界を恐怖に陥れた魔王、オルゴ・デミーラを倒した世界の救世主だったりする。

 

「ふぁぁぁぁ………」

 

だらしなくアクビしながら眠そうに釣糸を垂らしている姿からは、英雄アルスの面影などまるでない。

知らない観光者が見たならば誰もが漁村の背景に溶け込んでいる田舎の少年にしか見えないだろう。

だが、この冴えない少年、布の服の普段着で持っているのが釣竿と魚籠しかない今の装備でも、このエスタード島にいるとある3人を除いた全員がフル装備で取り囲んでフルボッコにしたとしても、ケロッとしていることだろう。

ダーマ神殿で職業を勇者にしていた場合、下手をしたら職業ボーナスにより受けるダメージよりも自然回復する量の方が大きくなってしまうのではないだろうか?

それくらいまで一般人とはかけ離れた身体能力を持ってしまっているのが今のアルスという少年だ。

 

「アルス。何をぼーっと釣りなんかしてんのよ。あんたってそんなに暇なワケ?」

 

不意に声をかけられてビクッとするアルス。

振り返ると、頬をぷっくりと膨らませた少女が腰に手を当てて立っていた。

栗色のウェーブのかかった髪、生まれつき少し赤みがかった頬、そして勝ち気な性格をそのままにした少しつりがっているパッチリした目。

間違いなく美少女の類いであるこの少女はフィッシュベルの漁業を一手に引き受ける網元、アミットの娘であるマリベルだ。

アルスとは幼馴染みの関係だ。

一見、華奢でわがままなお嬢様といった感じであるマリベルだが、アルスと同様、その見た目に騙されてはいけない。

これでもアルスと共にオルゴ・デミーラを討伐した英雄の一人であり、アルスとある二人を除いた島の……以下略。

 

「何だ……マリベルか……」

 

疲れた表情のアルスが返答する。

 

「何だって何よ。このマリベル様が声をかけてあげたってのに、その態度は何よ。じゃあ誰だったら良かったわけ?アイラ?リーサ?それとも……まさかグレーテ姫じゃないでしょうね?」

 

ここ最近、何故かアルスの知り合いの女性関係に関して深く追及するマリベル。

 

「王族がこんな漁村にホイホイと気軽に来れるわけがないじゃないか………」

 

アイラとはアルス達と共にオルゴ・デミーラと戦ったユバールの民で、神の踊り手としての役目を担っていた仲間だ。グラマラスな女性で、旅の間はみんなのお姉さん的なポジションで活躍していた。

最近発覚したことだが、アイラはアルスの親友だったこの国の王子、キーファの子孫であったことが発覚。

出会った頃からどこか懐かしいとお互いに思っていたのだが、先祖の血が騒いでいたのかも知れない。

世界が平和になった当初こそはキーファの妹でこの国の王女のリーサのお世話役兼グランエスタード城の兵士として働いていたが、キーファの子孫だったことが発覚した現在では準王族としてリーサの姉のような立ち位置で生活している。

だが、旅から旅を繰り返すユバールの民であったアイラ本人は、どこかに腰を落ち着かせるという事もやっと慣れてきたという頃だったのに、突然降った王族の話に困惑気味であるが。

王である前に人の親であるバーンズ王や、お兄ちゃんっ子だったリーサとしては家族として迎え入れたつもりだったのだが、アルス達が旅に出る以前の……世界にエスタード島しか無かった頃と、アルス達の旅によって世界中に大陸が復活した今とでは状況も違うので、そうそう気軽に……とはいかないようだ。

 

「キーファのバカ王子は来てたじゃない……」

「キーファはちょっと特殊だと思うんだけど……」

「アイラだってちょくちょく城を抜け出してはアンタに愚痴をこぼしに来るじゃない?」

 

そう。血は争えないのか、アイラもキーファと同じくちょくちょく城を抜け出しては手土産を持ってアルスやマリベルを訪ねて来る。

キーファと同じくじっとしてられない性分なのだろう。

 

「アイラだってこんな朝じゃフィッシュベルまで来ないよ」

 

瞬間移動呪文(ルーラ)があるのでその気になれば一瞬で世界のどこからでも一瞬で移動できるが、いくらなんでもこんな朝早くから愚痴をこぼしに来るほどアイラも暇ではない……はずだ。

「アイラはともかく、リーサやグレーテはもっとあり得ないよ」

リーサは兄のキーファとは違って元々活発な性格ではなく、食事などやバーンズ王の隣で公務をこなす事以外では基本的に部屋か、部屋のバルコニーで過ごしていることが多い。

フィッシュベルには年に数回訪れるかというところだろうか。

魔王の影響で魔物が現れるようになった以降は前以上にグランエスタードの城下町から外に出ることは少なくなった。

あってもアイラの瞬間移動呪文(ルーラ)を使っての移動だ。

一方で音楽を始めとした芸術大国であるマーディラスの王女、グレーテなどもっとあり得ない。

グレーテは肩書きこそ王女と名乗ってはいるものの、アルス達と出会った頃には既に両親は他界しており、マーディラスの国政を全て担っているという、実質的には女王のような多忙さである。

それこそホイホイとフィッシュベルまで気軽に遊びに来れる立場ではない。

ましてや今のマーディラスは石板世界の過去に訪れたゼッペル時代の魔法大国ではないので、グレーテはルーラを使うことが出来ない。

ゼッペルの子孫である以上、グレーテにもマリベルと同じくらいの魔法の才能はあるかも知れないが。

 

「じゃあ誰だったら良かったのかしら?」

「単純にボーッとしていたところに背後から声をかけられて驚いただけだよ」

「ホントかしら?あやしいわねぇ………」

 

何でマリベルはこんなに僕の交友関係に口を出してくるんだろうと思うアルス。

実のところ、マリベルは昔からアルスに対してほんのりとした淡い気持ちがあったりする。

昔はそれこそただの幼馴染みといった感覚の方が強かったのだが、旅に出てからしばらく経った頃からマリベルの気持ちに変化が出始めた。

グリンフレークでの昼ドラのような出来事や過去の世界に残ったキーファとの別れ、命を失う瞬間に立ち会った事。そして、アルスの周囲には何かと女の影がチラホラし始めた事もマリベルの心境に変化をもたらしたのだろう。

その代表格が先ほど名を挙げた三人である。

旅の仲間で親友キーファの面影を残すアイラ。

キーファの妹で、アルスとキーファ以外の親しい男性がいないリーサ。

そしてマリベルがもっとも警戒しているのがマーディラスのグレーテだ。

魔王討伐の後に各地を巡った際、グレーテは自室にアルスだけ(・・)を招く行動を取った。出てきたアルスは顔を真っ赤にさせていた上にアルスから仄かにグレーテの臭いがついていたことはあれから大分時間が経った今でもマリベルの記憶にこびりついている。

以降、アルスがマーディラスに行く度にマリベルは必ず同行し、グレーテと見えない火花をバチバチと飛ばしあっている始末だ。

マリベルがアルスとの女性関係で怪しいと思っているのはその三人だけではない。

例えば砂漠の国の女王、ネフティスは習わしで来訪者とは侍女を通じてしか会話しないのだが、アルスとだけは直接会話するし、聖風の谷の族長であるセファーナも案外ダークホースかもとか思い始めている。

 

「本当だよ……こうも毎日忙しいんじゃ、気が休まらないって……はぁ」

「確かにそうよね。各地の復興支援だとか、国の行事に呼ばれるとかでオチオチ休めないものね」

「せっかくアミット漁に参加してさ、これから父さんのように立派な漁師になるって思っていたのにさ…」

 

魔王討伐直後のアルスはフィッシュベルの伝統的な大イベント、アミット漁で漁師デビューを果たし、これから漁師に専念して父、ボルガノの後を継ぐと燃えていたアルスだったのだが……。

その年のアミット漁は例年とは違い、各地の港に寄りながら魚を売りつつ色々と仕入れ、フィッシュベル……ひいてはグランエスタードの名産である魚を世界に知ってもらおうという動きがあったのだが……。

魔王が生み出した魔物によって荒らされた侵攻の爪痕は深く……。

 

『アルス。世界の人達がこんなに困ってるんだから、アンタもノンビリ漁なんかしていないで手伝いなさい!元々あんたとバカ王子が始めた事で魔王が復活しちゃったんだから!?』

 

例年のアミット漁と違うところがあるとするならば、特別に今回に限り、マリベルがアミット漁に参加したことだろう。そのマリベルが放った一言がこれである。

付き合いの長いアルスはその言葉を額面通りには受け取らず、真意を探る。マリベルの言葉を意訳して翻訳すると………。

 

『世界の人達がこんなに困ってるね?元々魔王を復活させちゃったのって私達だし……手伝おうよ』

 

アルスはマリベルツンデレ語検定2級といったところだろう。

何故2級かと言えば、更に続いた『あ、あんたがどうしてもって言うなら、あたしだって手伝ってあげないことも無いんだからね!?』と言った意味の意訳をすることが出来なかったからだ。

基本的に女心には疎いアルスでは無理からぬことだろうが。

こうして復興支援という活動の元にメルビンを除くアルス達エデンの戦士達は再集結。

ついでにオルゴ・デミーラ討伐には関係していなかった気になる事の究明にも乗り出したところ、復興は概ね目処がつき、アイラが実はキーファの子孫だった事やメルビンやダーマ神殿の事について色々とわかった事なのだが……それはまた別の機会に語るとしよう。

とにかく、それらについて結果だけを語れば……。

 

・オルゴ・デミーラを倒した時よりも更に強くなってしまった(レベル99にまで達した)

・アルス達の手元には生涯どころか孫の代まで遊んで暮らしていてもお釣りがくるくらいまでの資産が集まってしまった上、他の人が出来ない方法でいつでもいくらでも稼げるようになってしまった

・モンスター職も含めて全ての職を極めてしまった(レベル99まで上がる過程ではそうなるのも必然だろう)

・ガボも含めてリートルードのランキングを総なめしてしまった(レベル99は伊達じゃない!)

・移民の町、モンスターパークの完成

 

である。

もうここまでくると、世界も彼らを無視できない。

その結果、マーディラスのグレーテも真っ青なレベルの殺人的なスケジュール。

・各地の行事にはグランエスタード国を通じて招待されまくる

・迷惑をかける魔物の残党討伐

・ルーラによる要人の護衛や運搬などの怒濤のような頼み事の数々

・思惑たっぷりのお見合い等の縁談やらアルス達を抱き込もうとする懐柔話

・ダーマ神殿による職業の講演やら特技の披露

・各国の兵士の実技指導やらマーディラス大神殿を始めとした魔法指導

・各地の伝承に登場する旅人が時を越えたアルス達の活動だと気付いた一部の人物達による歴史の真相解明(砂漠の国、マーディラス大神殿、聖風の谷、エンゴウのパミラ等が顕著)

ということに引っ張りだこだ。

いっそガボのように『おいら興味ねー』の一言で一蹴したり、メルビンのように天上の神殿に引きこもったりすることが出来ればどれだけ楽か………。

 

「昔のようにこうして釣りをするのが今じゃ一番落ち着くんだよ……」

「そ、そう………悪かったわね………その気持ちはよぉぉぉぉぉぉくわかるわ………」

 

マリベルの目から呑気に釣りしていたと見えていたが、これがアルスの心の均衡を保つ行為だとは思わなかった。

 

「君の両親も原因の1つだけどね……」

 

マリベルの両親であるアミット夫妻。以前からその兆しはあったものの、オルゴ・デミーラ討伐の頃を皮切りに、最近では露骨にアルスをマリベルの婿にしようとする動きが出てきている。

 

「な、何よ!あたしだって迷惑しているんだからね!え、縁談だって上手くいかないし!」

「え?マリベルってモテるのに?」

「っ!あんたねぇ!みんなあんたのせいなんだからね!あんたが常にあたしの近くにいるから、みんな勘違いしちゃって!もし、あたしがいつまでも結婚できなかったらアンタに責任を取ってもらうんだからね!」

 

ツンデレマリベルにしては珍しくやや直球気味の発言だが………

 

「あ、引いてる」

 

肝心のアルスはというと、ピクピクとヒットした釣竿に気を取られていた。

 

「あ、あんたって人は………」

 

あまりのタイミングの悪さに頬をひくつかせるマリベル。

 

「大体、みんな今更なのよ……アルスの事を一番知っているのはあたしなんだし、それにアルスが近くにいたら、他の男なんて目に入るワケ無いじゃない」

 

「何だ……突撃魚か……てい!え?何か言った?」(水面蹴り)

「あ、あんたねぇ………」

 

アルスは水面蹴りを放った。

突撃魚を倒した。

 

12の経験値を獲得した(無駄)

8ゴールドを獲得した

突撃魚は宝箱を落とした。なんと!薬草を手に入れた!

アルスは薬草を袋の中に入れた

 

「薬草は父さんにでもあげよう。いつも思うんだけど、何で海の魔物が宝箱を持ち歩いているんだろうね?不思議だね?……どうしたの?マリベル?」

 

ワナワナと震えるマリベルにやっと気が付くアルス。

 

「し、知らないわよバカ!早く着替えてきなさいよ!今日は一緒にダーマに行く予定でしょ!ふんっ!」

 

カンカンに怒って屋敷に戻っていくマリベル。

 

「え?え?僕、何で怒られたんだろ?マリベルってやっぱりよくわからないよね?」

 

ゴッドハンドを極めてどんなに強くなっても、天地雷鳴師を極めてどんなに頭がよくなっても、スーパースターを極めてどんなにかっこよくなっても、鈍感さというだけは治らない。

ベホマでもザオリクでもキアリーでもキアリクでも、アルスという男の鈍感さは治らない。

アルスが女心を理解するのは、まだ遠そうだ。

 

続く?




アルス
ドラクエ7の主人公。公式設定されている名前ではなかったのだが、説明書等で書かれていた他、小説版や漫画で設定されていた関係からアルスが周知され、『バトルロード』において『少年アルス』の名前が完全に公式化された。
丸顔、小柄な体型、どこにでもいそうな平凡な服装と現在11まで出ているドラクエの主人公の中でもとにかく地味で、本当に主人公なのか疑いたくなるレベル。
優しそうな表情なのだが、彼の地味さがどことなくヘタレっぽく見えてしまう。
付け加えてストーリー上、水の精霊の紋章を描いた腕の痣が度々登場しては活路を開くのだが、戦闘面でそれが活かされた能力などは特になく、前作6の主人公、『レック』のように勇者になる条件が他に比べて早いとか、特別な特技を覚えるとかいうわけでもなく、とにかく地味な主人公。
………が、成長した能力面(特にステータスの数字面)では歴代主人公の中でもトップであり、その中でも体力と力は最強で、特技の『疾風突き』(誰よりも先に動ける戦士職の攻撃特技。反面、少し通常攻撃よりも威力が落ちる)を使用すれば確実にメタルキングをも先制した上で一撃で葬る攻撃力を持つ。
更には爆裂拳(ランダムに4回攻撃を繰り出すバトルマスター、ゴッドハンドの特技)を使えばプラチナキングすらも軽く葬れる程の攻撃力を持つ(もっとも、彼だけに限った話ではなく、ステータスの上限が『かっこよさ』を除いてはない(他は255など)ドラクエ7のキャラ全般に言える事ではあるのだが)。
ここまで確実にメタルを葬れるキャラは稀だろう(他は会心必中を持つ11のカミュ)。
………と、地味地味言ってきたが、ドラクエ7のストーリーが長い上に、やり込み要素が強い、個性は薄いものの自由度の高い育成等、慣れるとその地味さにも愛着が沸いてくるものである。
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